(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350008
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】少なくともインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物のエッチング液およびエッチング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20180625BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20180625BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
H01L21/308 C
H01L29/78 627C
H01L29/78 618B
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-127431(P2014-127431)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2016-6839(P2016-6839A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀範
(72)【発明者】
【氏名】夕部 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】茂田 麻里
【審査官】
長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特許第6044337(JP,B2)
【文献】
特開2013−004958(JP,A)
【文献】
特開2012−257187(JP,A)
【文献】
特開2012−129346(JP,A)
【文献】
特表2007−510309(JP,A)
【文献】
特表2013−515855(JP,A)
【文献】
特開2007−317856(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0308826(US,A1)
【文献】
特開2006−077241(JP,A)
【文献】
特開2013−091820(JP,A)
【文献】
特開2002−164332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/203−21/205、21/306−21/3063、
21/308−21/31、21/336、
21/363−21/365、21/465−21/469、
21/86、29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物をエッチングするためのエッチング液であって、硫酸またはその塩、およびカルボン酸(ただしシュウ酸を除く)またはその塩を含み、pH値が1以下であるエッチング液。
【請求項2】
カルボン酸(ただしシュウ酸を除く)またはその塩が、酢酸、グリコール酸、乳酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸からなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
硫酸またはその塩の濃度が0.5〜20質量%、カルボン酸またはその塩の濃度が0.1〜15質量%であることを特徴とする請求項1に記載のエッチング液。
【請求項4】
さらにpH調整剤を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のエッチング液。
【請求項5】
pH調整剤が、メタンスルホン酸およびアミド硫酸からなる群より選ばれる1種以上である請求項4に記載のエッチング液。
【請求項6】
さらにポリスルホン酸化合物を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のエッチング液。
【請求項7】
ポリスルホン酸化合物が、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項6に記載のエッチング液。
【請求項8】
酸化物が、膜厚1〜1000nmの薄膜である請求項1〜7のいずれか1項に記載のエッチング液。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のエッチング液を用いることを特徴とする少なくともインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物のエッチング方法。
【請求項10】
酸化物が、膜厚1〜1000nmの薄膜である請求項9に記載のエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)やエレクトロルミネッセンスディスプレイ(LED)等の表示デバイスに使用される少なくともインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物をエッチングするためのエッチング液およびそのエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイまたはエレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示デバイスの半導体層としてはアモルファスシリコンまたは低温ポリシリコンが広く用いられるが、ディスプレイの大画面化、高精細化、低消費電力化等を背景に各種の酸化物半導体材料の開発がなされている。
【0003】
酸化物半導体材料は、主にインジウム、ガリウム、亜鉛および錫等から構成され、インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物(IGZO)、インジウム・ガリウム酸化物(IGO)、インジウム・錫・亜鉛酸化物(ITZO)、インジウム・ガリウム・亜鉛・錫酸化物(IGZTO)、インジウム・ガリウム・亜鉛・シリコン酸化物(IGZSO)、ガリウム・亜鉛酸化物(GZO)、亜鉛・錫酸化物(ZTO)等、種々の組成が検討されている。
【0004】
これらの少なくともインジウムおよびガリウムを含む酸化物は、スパッタ法などの成膜プロセスを用いてガラス等の基板上に形成される。次いで、レジスト等をマスクとして用いて、基板上に形成された酸化物をエッチングすることで電極パタ−ンが形成される。このエッチング工程には湿式(ウェット)と乾式(ドライ)があるが、ウェットではエッチング液が使用される。
【0005】
少なくともインジウムおよびガリウムを含む酸化物は、酸に可溶であることが一般に知られている。これらの酸化物を用いて液晶ディスプレイ等の表示デバイスの半導体層を形成する際には、以下に示した性能がエッチング液に求められる。
(1)酸化物がエッチング液に溶解した時に析出物が発生しないこと。
(2)酸化物がエッチング液に溶解した際、エッチングレートの低下が小さいこと。
(3)好適なエッチングレートを有すること。
(4)エッチング残渣が少ないこと。
(5)配線材料等の部材を腐食しないこと。
【0006】
酸化物のエッチングにともなってエッチング液中の酸化物の濃度は増加するが、エッチングレートに対して酸化物の溶解の影響が小さい安定した液であることは、エッチング液一定量あたりの酸化物のエッチング量を増やすことができることを意味し、半導体層のエッチングを行う上で工業生産において極めて重要である。
【0007】
また、エッチングレートは10〜1000nm/minが望ましい。より好ましくは20〜200nm/min、さらに好ましくは50〜100nm/minである。エッチングレートが10〜1000nm/minであるとき、生産効率を維持することができ、かつ安定的にエッチング操作を行うことができる。
【0008】
エッチング後に導電性を持つエッチング残渣がある場合には電極間のリーク電流発生の原因となるため好ましくない。また、導電性を持たないエッチング残渣が存在すると、次の工程で、配線不良、ボイドの発生、密着性不良等を起こす原因になり得る。
【0009】
配線材料としては、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)およびチタン(Ti)等が挙げられるが、酸化物のエッチング時にエッチング液がこれらの配線材料に接触する可能性が考えられるため、エッチング液は配線材料に対する腐食性が低いことが望ましい。具体的には3nm/min以下のエッチングレートが望ましい。より好ましくは2nm/min以下、特に1nm/min以下がより好ましい。
【0010】
シュウ酸を含有するエッチング液を用いてインジウム酸化物を主成分とする透明導電膜をエッチングすると、エッチングの進行に伴い、シュウ酸とインジウムとの塩が固形物として析出してくるという問題がある。この析出物の出現は、一般的なシュウ酸を含有するエッチング液ではインジウムの可溶濃度が200ppm程度であるため、インジウムがそれ以上存在すると過剰分がシュウ酸と塩を形成して析出物として現れるためであると考えられる。1μmよりも小さなパーティクルですら問題となる電子部品の製造工程において、このような固形物の析出は致命的である。また、この析出物がエッチング液の循環用に設けられたフィルターに詰まり、その交換コストが高額になるおそれもある。そのため、たとえエッチング液としての性能が十分に残っていても、この塩が析出してくる前に液を交換せねばならず、結果的にエッチング液の使用期間が短いものとなってしまっている。
【0011】
特許文献1(国際公開第2008/32728号)では、インジウム・錫酸化物膜(ITO膜)のエッチングにおいて(a)シュウ酸、(b)ナフタレンスルホン酸縮合物又はその塩、(c)塩酸、硫酸、水溶性アミンおよびこれらの塩のうちの少なくとも1種、並びに、(d)水を含有する組成物でエッチングすることによって、残渣の発生がなく、さらにシュウ酸とインジウムの塩の析出を抑制することが可能であると記載されている。
【0012】
特許文献2(特開2010−45253号公報)では、シュウ酸と、アルカリ性化合物(ただし、トリエタノールアミンを除く)とを含む、透明導電膜用エッチング液を用いることにより、ITO膜またはIZO膜などの透明導電膜のエッチング工程において、エッチング液中のインジウムが高濃度であっても、シュウ酸インジウムの結晶析出を効果的に防止することができると記載されている。
【0013】
シュウ酸を含有しないエッチング液として、特許文献3(特開2009−218513号公報)では、硫酸と炭素数が12以上の炭化水素基を有するアニオン性界面活性剤等を主成分とし、アモルファスインジウム酸化物(ITO)系膜をエッチングすることにより、良好な残渣除去能力を発揮し、さらにインジウム溶解能が高く、固形物の析出を抑制するため液寿命が長いとされている。
【0014】
特許文献4(特開2006−77241号公報)では、主酸化剤として硫酸を用い、補助酸化剤として燐酸、硝酸、酢酸等を配合したITO膜またはIZO膜などの酸化インジウム系透明導電膜用のエッチング液が開示されている。
【0015】
特許文献5(特開2000−8184号公報)では、硫酸、硝酸およびバッファー(酢酸、リン酸、シュウ酸、蟻酸およびクエン酸など)を含有するエッチング液を用いて、銀系薄膜とインジウム酸化物を主成分とする透明酸化物薄膜とを積層して構成される多層導電膜をエッチングするエッチング方法が開示されている。
【0016】
特許文献6(特開2008−41695号公報)では、酢酸、クエン酸、塩酸又は過塩素酸のいずれか一種を含むエッチング液を用いて、インジウムと、ガリウムまたは亜鉛から選ばれる少なくとも1つとを含むアモルファス酸化物層をエッチングする工程を含むことを特徴とする酸化物のエッチング方法が開示されている。
【0017】
特許文献7(特開2007−317856号公報)では、クエン酸、アコニット酸等の有機酸およびそのアンモニウム塩からなる群より選択される1種または2種以上の化合物を含む水溶液からなるエッチング液を用いて、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜をエッチングすることにより、残渣の発生がなく、適度なエッチングレートを有し、亜鉛の溶解に対してエッチング性能が安定していると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2008/32728号
【特許文献2】特開2010−45253号公報
【特許文献3】特開2009−218513号公報
【特許文献4】特開2006−77241号公報
【特許文献5】特開2000−8184号公報
【特許文献6】特開2008−41695号公報
【特許文献7】特開2007−317856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1および特許文献2に開示されたいずれのエッチング液においてもインジウム濃度がより高濃度になると析出物が発生し、エッチングレートが低下するおそれがある。さらに、透明導電膜が亜鉛を含む場合、透明導電膜溶解時にシュウ酸亜鉛が析出するおそれがある。
特許文献3では、インジウムがエッチング液に溶解した時のエッチングレートについては開示がなく、この組成ではエッチングレートの低下が懸念される。
特許文献4では、エッチング液による酸化インジウム等の溶解能およびインジウムがエッチング液に溶解した時のエッチング性能についての記載はなく、薬液寿命についても言及していない。
特許文献5のエッチング液では、バッファーは硝酸の揮発を抑制するために配合されており、特許文献5では、エッチング液による酸化インジウム等の溶解能およびインジウムがエッチング液に溶解した時のエッチング性能については記載されておらず、薬液寿命についても明記されていない。
また、特許文献1乃至5はいずれもITO膜またはIZO膜などの酸化インジウム系透明導電膜に用いるエッチング液に関するものであり、IGO膜、IGZO膜またはIGZSO膜などのインジウムおよびガリウムを含む酸化物に対するエッチング性能については全く検討されていない。
特許文献6は、ITO層と、IZOまたはIGZOなどの酸化物層を含む構造体のエッチング方法に関するものであるが、酢酸またはクエン酸単独では実用上十分なエッチングレートは得られていない。さらに、酸化物の溶解能およびインジウムなどがエッチング液に溶解した時のエッチングレートについて記載されておらず、薬液寿命についても言及していない。
特許文献7は、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜にエッチング液を用いることができると記載しているが、実施例において具体的に検討されているのはガリウム亜鉛酸化物(GZO)のみであり、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜がインジウムを含む場合、このエッチング液では実用上十分なエッチングレートは得られない。
このような状況下、インジウムおよびガリウムを含む酸化物、特にインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物のエッチングにおいて好適なエッチングレートを有し、析出物の発生がなく、配線材料への腐食性が小さく、酸化物の溶解に対してエッチングレートの変化が小さく、さらに薬液寿命の長いエッチング液の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、少なくともインジウムおよびガリウム、特に、少なくともインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物をエッチングするためのエッチング液であって、硫酸またはその塩、およびカルボン酸(ただしシュウ酸を除く)またはその塩を含むエッチング液である。本発明の要旨は下記のとおりである。
1.少なくともインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物をエッチングするためのエッチング液であって、硫酸またはその塩、およびカルボン酸(ただしシュウ酸を除く)またはその塩を含むエッチング液。
2.カルボン酸(ただしシュウ酸を除く)またはその塩が、酢酸、グリコール酸、乳酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸からなる群より選ばれる1種以上である第1項に記載のエッチング液。
3.硫酸またはその塩の濃度が0.5〜20質量%、カルボン酸またはその塩の濃度が0.1〜15質量%である第1項に記載のエッチング液。
4.さらにpH調整剤を含む第1項〜第3項のいずれか1項に記載のエッチング液。
5.pH調整剤が、メタンスルホン酸およびアミド硫酸からなる群より選ばれる1種以上である第4項に記載のエッチング液。
6.pH値が1以下である第1項〜第5項のいずれか1項に記載のエッチング液。
7.さらにポリスルホン酸化合物を含む第1項〜第6項のいずれか1項に記載のエッチング液。
8.ポリスルホン酸化合物が、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩からなる群より選ばれる1種以上である第7項に記載のエッチング液。
9.酸化物が、膜厚1〜1000nm(10〜10000Å)の薄膜である第1項〜第8項のいずれか1項に記載のエッチング液。
10.第1項〜第8項のいずれか1項に記載のエッチング液を用いることを特徴とする少なくともインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物のエッチング方法。
11.酸化物が、膜厚1〜1000nm(10〜10000Å)の薄膜である第10項に記載のエッチング方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のエッチング液を用いることにより、好適なエッチングレートを有し、析出物の発生がなく、残渣除去性が良好であり、配線材料への腐食性も小さく、さらに酸化物の溶解に対してエッチングレートの変化が小さいため、好適なエッチング操作を長期間、安定的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のエッチング液を用いてエッチングすることができる少なくともインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物は、インジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物であれば特に制限されることはなく、インジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコン以外の元素を1種以上含んでいても構わない。例えば、インジウム・ガリウム・亜鉛・シリコンおよび酸素からなる酸化物(IGZSO)、インジウム・ガリウム・亜鉛・シリコン・錫および酸素からなる酸化物(IGZSTO)などが好ましく挙げられる。これらの中でもIGZSOであることが特に好ましい。本発明のエッチング液を用いてエッチングすることができる少なくともインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物におけるインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンの元素比は特に制限されないが、通常、In/(In+Ga+Zn+Si)の原子比が0.2〜0.8、Ga/(In+Ga+Zn+Si)の原子比が0.05〜0.6、Zn/(In+Ga+Zn+Si)の原子比が0.05〜0.6、Si/(In+Ga+Zn+Si)の原子比が0.01〜0.2の範囲である。また、酸化物がアモルファス構造であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明のエッチング液は、硫酸またはその塩、およびカルボン酸(ただしシュウ酸を除く)またはその塩を含む。
本発明のエッチング液に含まれる硫酸またはその塩としては、硫酸イオンを供給できるものであれば特に制限はない。例えば、硫酸、発煙硫酸、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウムなどが好ましいが、より好ましくは硫酸が良い。また、硫酸またはその塩の濃度が硫酸(H
2SO
4の分子量;98.08)換算濃度で、0.5質量%以上が好ましく、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。また、20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは9質量%以下である。中でも、0.5〜20質量%が好ましく、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは3〜9質量%である。0.5〜20質量%である時、良好なエッチングレートが得られる。
【0024】
本発明のエッチング液に含まれるカルボン酸(ただしシュウ酸を除く)またはその塩としては、カルボン酸イオン(ただしシュウ酸イオンを除く)を供給できるものであれば特に制限はない。例えば炭素数1〜18の脂肪族カルボン酸、炭素数6〜10の芳香族カルボン酸のほか、炭素数1〜10のアミノ酸などが好ましく挙げられる。
炭素数1〜18の脂肪族カルボン酸またはその塩としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、ジグリコール酸、ピルビン酸、マロン酸、酪酸、ヒドロキシ酪酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、吉草酸、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、カプロン酸、アジピン酸、クエン酸、プロパントリカルボン酸、trans−アコニット酸、エナント酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸またはその塩などが好ましい。
炭素数6〜10の芳香族カルボン酸およびその塩としては、安息香酸、サリチル酸、マンデル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸またはその塩などが好ましい。
また、炭素数1〜10のアミノ酸としては、カルバミン酸、アラニン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、サルコシン、セリン、グルタミン、グルタミン酸、4−アミノ酪酸、イミノジ酪酸、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、ニトリロ三酢酸またはその塩などが好ましい。
さらに好ましいカルボン酸またはその塩としては、酢酸、グリコール酸、乳酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸またはその塩であり、特に好ましくは酢酸、リンゴ酸、クエン酸である。これらを単独でまたは複数を組み合わせて用いることができる。
カルボン酸(ただしシュウ酸を除く)またはその塩の濃度はカルボン酸換算濃度で、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。また、15質量%以下が好ましく、より好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。中でも、0.1〜15質量%が好ましく、より好ましくは1〜12質量%、さらに好ましくは1.0〜12.0質量%、さらに好ましくは3〜10質量%、さらに好ましくは3.0〜10.0質量%である。0.1〜15質量%である時、酸化物が溶解した際のエッチングレートの低下を小さく抑えることができる。
【0025】
本発明のエッチング液は、pH調整を行うため、必要に応じてpH調整剤を含有することができる。pH調整剤はエッチング性能に影響を及ぼさないものであれば特に制限はない。硫酸またはその塩、カルボン酸(ただしシュウ酸を除く)またはその塩を用いて調整することも可能であるが、さらにメタンスルホン酸、アミド硫酸などを用いることもできる。
本発明のエッチング液のpH値は、好ましくは1以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0〜0.5である。pH値が1を上回る領域では、実用上十分なエッチングレートが得られないおそれがある。
【0026】
本発明のエッチング液は、必要に応じてポリスルホン酸化合物を含有することができる。ポリスルホン酸化合物は、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが好ましい。ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物はデモールN(花王株式会社)、ラベリンFP(第一工業製薬株式会社)、ポリティN100K(ライオン株式会社)等の商品名で市販されている。
【0027】
ポリスルホン酸化合物の濃度は、0.0001〜10質量%の範囲が好ましい。この濃度範囲である時、エッチング液は良好な残渣除去効果を示す。ポリスルホン酸化合物の濃度は、より好ましくは0.001質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上である。また、3質量%以下がより好ましく、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0028】
本発明のエッチング液は、上記した成分のほか、エッチング液に通常用いられる各種添加剤をエッチング液の効果を害しない範囲で含むことができる。例えば、溶媒やpH緩衝剤などを用いることができる。
溶媒としては、蒸留、イオン交換処理、フイルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオン、有機不純物およびパーティクル粒子などが除去された水が好ましく、特に純水、超純水が好ましい。
【0029】
本発明のエッチング方法では、少なくともインジウムおよびガリウムを含む酸化物、特にインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物をエッチング対象物とする。本発明のエッチング方法は、本発明のエッチング液、すなわち硫酸またはその塩、およびシュウ酸を除くカルボン酸またはその塩を含むエッチング液とエッチング対象物とを接触させる工程を有するものである。本発明のエッチング方法により、連続的にエッチング操作を実施した際にも、残渣または析出物の発生を防止できる。また、エッチングレートの変化が小さいため、長期間、安定的にエッチング操作を行うことができる。
本発明のエッチング方法によってエッチングすることができるエッチング対象物は、その形状に制限は無いが、フラットパネルディスプレイの半導体材料として用いる場合には、薄膜であることが好ましい。例えば酸化ケイ素等の絶縁膜上に、インジウムとガリウムと亜鉛とシリコンおよび酸素からなる酸化物の薄膜を形成し、その上にレジストを塗布し、所望のパターンマスクを露光転写し、現像して所望のレジストパターンを形成したものをエッチング対象物とする。エッチング対象物が薄膜である場合、その膜厚は1〜1000nm(10〜10000Å)の範囲にあることが好ましい。より好ましくは5〜500nm(50〜5000Å)であり、特に好ましくは10〜300nm(100〜3000Å)である。またエッチング対象物は、組成の異なる二つ以上の酸化物の薄膜からなる積層構造物であっても良い。その場合、組成の異なる二つ以上の酸化物の薄膜からなる積層構造物を一括でエッチングすることができる。
【0030】
エッチング対象物とエッチング液との接触温度(すなわち、エッチング対象物と接触する時のエッチング液の温度)は、10℃以上が好ましく、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。また、接触温度は、70℃以下が好ましく、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。特に10〜70℃の温度が好ましく、15〜60℃がより好ましく、20〜50℃が特に好ましい。10〜70℃の温度範囲の時、良好なエッチングレートが得られる。さらに上記温度範囲でのエッチング操作は装置の腐食を抑制することができる。エッチング液の温度を高くすることで、エッチングレートは上昇するが、水の蒸発等によるエッチング液の組成変化が大きくなることなども考慮した上で、適宜最適な処理温度を決定すればよい。
【0031】
エッチング対象物にエッチング液を接触させる方法には特に制限はなく、例えばエッチング液を滴下(枚葉スピン処理)またはスプレーなどの形式により対象物に接触させる方法や、対象物をエッチング液に浸漬させる方法など、通常のウェットエッチング方法を採用することができる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例と比較例によりその実施形態と効果について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
1.エッチングレートの測定
ガラス基板上にインジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)および酸素(O)の元素比(原子比)が1:1:1:4であるIGZO膜を膜厚50nm(500Å)でスパッタ法により形成し、その後、表1および表2に示したエッチング液を用いてエッチングした。エッチングは、上記基板を35℃に保ったエッチング液に静置浸漬する方法で行った。エッチング前後の膜厚を光学式薄膜特性測定装置n&k Analyzer 1280(n&k Technology Inc.製)により測定し、その膜厚差をエッチング時間で除することによりエッチングレートを算出した。評価結果を以下の基準で表記した。
A:エッチングレート50nm/min〜100nm/min
B:エッチングレート20〜49nm/minまたは101〜200nm/min
C:エッチングレート10〜19nm/minまたは201〜1000nm/min
D:エッチングレート9nm/min以下または1001nm/min以上
なお、ここでの合格はA、BおよびCである。
【0034】
2.酸化物溶解時の析出物の確認
表1および表2に示したエッチング液に豊島製作所製のIGZO粉末(原子比としてIn:Ga:Zn:O=1:1:1:4)を0.5%(5000ppm)溶解し、析出物の有無を目視にて確認した。評価結果を以下の基準で示した。合格はAである。
A:析出物なし
B:析出物あり
【0035】
3.酸化物溶解後のエッチングレート変化の測定
ガラス基板上にインジウム、ガリウム、亜鉛および酸素の元素比(原子比)が1:1:1:4であるIGZO膜を膜厚50nm(500Å)でスパッタ法により形成し、表1および表2に示したエッチング液にIGZO粉末を所定量溶解した液を用いて、上記と同様の方法でエッチングレートを測定し、エッチングレートの変化量を算出した。評価結果を以下の基準で表記した。
A:エッチングレート変化量5nm/min以下
B:エッチングレート変化量5nm/min超〜10nm/min以下
C:エッチングレート変化量10nm/min超
なお、ここでの合格はAおよびBである。
【0036】
4.残渣除去性の評価
ガラス基板上にインジウム、ガリウム、亜鉛および酸素の元素比(原子比)が1:1:1:4であるIGZO膜を膜厚50nm(500Å)でスパッタ法により形成し、さらにフォトリソグラフィによりレジストパターンを形成した基板を、表1および表2に示したエッチング液を用いてエッチングした。エッチングは、35℃においてシャワー方式で実施した。エッチング時間はエッチングに要する時間(ジャストエッチング時間)の2.0倍の時間(100%オーバーエッチング条件)とした。なお、ジャストエッチング時間はIGZO膜の膜厚を「1.エッチングレートの測定」で測定したエッチングレートで除することにより算出した(後述する参考例1の場合、ジャストエッチング時間=IGZOの膜厚50[nm]/エッチングレート81[nm/min]=0.617[min]=37秒となり、したがって100%オーバーエッチング条件での処理時間は37秒×2.0=74秒となる)。エッチング後の基板は、水で洗浄し、窒素ガスを吹き付け乾燥させた後、走査型電子顕微鏡(「S5000H型(型番)」;日立製)で残渣の観察を行い、結果を以下の基準で表記した。
A:残渣なし
B:ごくわずかに残渣あり
C:多数の残渣あり
なお、ここでの合格はAおよびBである。
【0037】
5.配線材料のエッチングレートの測定(腐食性)
ガラス基板上にスパッタ法により成膜したCu/Ti積層膜、Al/Ti積層膜、Mo単層膜およびTi単層膜を用いて、表1および表2に示したエッチング液によるCu、Al、Mo、Tiのエッチングレートの測定を実施した。エッチングは、上記基板を35℃に保ったエッチング液に浸漬する方法で行った。エッチング前後の膜厚は蛍光X線分析装置SEA1200VX(Seiko Instruments Inc.製)を用いて測定し、その膜厚差をエッチング時間で除することによりエッチングレートを算出した。評価結果を以下の基準で表記した。
A:エッチングレート1nm/min未満
B:エッチングレート1nm/min〜2nm/min未満
C:エッチングレート2nm/min〜3nm/min未満
D:エッチングレート3nm/min以上
なお、ここでの合格はA、BおよびCである。
【0038】
参考例1
容量100mlのポリプロピレン容器に46%硫酸(和光純薬工業株式会社製)を10.87gおよび純水73gを投入した。さらに31%クエン酸水溶液(扶桑化学工業株式会社製)16.13gを加えた。これを攪拌して各成分をよく混合し、エッチング液を調製した。得られたエッチング液の硫酸の配合量は5質量%であり、クエン酸の配合量は5質量%であった。また、pHは0.3であった。
得られたエッチング液を用いて上記の評価を実施し、得られた結果を表1に示す。
【0039】
参考例2、3
参考例1において、エッチング液の組成を表1に示される組成とした以外は、参考例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いて上記の評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0040】
参考例4〜13
参考例1において、カルボン酸の種類と配合量を表1に示される通りとした以外は、参考例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いて上記の評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0041】
参考例14
参考例1において、ポリスルホン酸化合物としてラベリンFP(第一工業製薬株式会社製)を表1に示される配合量として添加した以外は、参考例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いて上記の評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0042】
参考例15、16
参考例1において、pH調整剤としてメタンスルホン酸(和光純薬工業株式会社製)またはアミド硫酸(和光純薬工業株式会社製)を表1に示される配合量として添加した以外は、参考例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いて上記の評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0043】
参考例17
参考例1において、評価に用いる基板を、ガラス基板上にインジウム(In)およびガリウム(Ga)の元素比(原子比)が95:5であるIGO膜を膜厚50nm(500Å)でスパッタ法により形成することで作製した以外は、参考例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いて上記の評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0044】
実施例1
参考例1において、評価に用いる基板を、ガラス基板上にインジウム、ガリウム、亜鉛、シリコンの元素比(原子比)が38:38:19:5であるインジウム・ガリウム・亜鉛・シリコン酸化物(IGZSO)膜を膜厚50nm(500Å)でスパッタ法により形成することで作製した以外は、参考例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いて上記の評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0045】
比較例1〜18
参考例1において、エッチング液の組成を表2に示される組成とした以外は、参考例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いて上記の評価を実施した。得られた結果を表2に示す。
【0046】
上記参考例1〜17および実施例1の結果から、本発明のエッチング液は、少なくともインジウムおよびガリウムを含む酸化物を好適なエッチングレートでエッチングでき、析出物の発生もなく、酸化物の溶解に対してエッチングレートの変化が小さいエッチングが可能であることが分かった。さらに、残渣除去性も良好であり、配線材料への腐食性も小さく、工業生産で使用されるエッチング液として優れた性能を有することが分かる。また、実施例1の結果から、本発明のエッチング液が、インジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物に対しても好適なエッチングレートでエッチングでき、析出物の発生もなく、酸化物の溶解に対してエッチングレートの変化が小さく、残渣除去性も良好であり、配線材料への腐食性も小さく、工業生産で使用されるエッチング液として優れた性能を有していることが分かった。
一方、硫酸またはその塩を含有しない比較例2,6,8,9,12〜15ではIGZO溶解能が低く(酸化物を0.5%(5000ppm)まで溶解することができず)、エッチングレートの変化量を評価できなかった。さらに、比較例2,8,13,15では初期のエッチングレートも遅かった。また、比較例1,3,4,5,10,11ではIGZO粉末を溶解した後のエッチングレート変化量が大きかった。また、硫酸またはその塩の代わりに硝酸または塩酸を含有する比較例4,7ではエッチングレート変化量は比較的小さかったが、配線材料への腐食性が大きくなる傾向が認められた。また、カルボン酸またはその塩を含有しない比較例1およびシュウ酸を含有する比較例16ではエッチング後に多数の残渣が確認された。また、シュウ酸を含有する比較例16〜18では、酸化物を0.03%(300ppm)または0.15%(1500ppm)溶解した後に白色の析出物が発生した。これらの比較例の結果から、硫酸またはその塩を含有しないエッチング液では、インジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物に対しても、好適なエッチングレートおよびその変化量、残渣除去性ならびに配線材料の腐食性の点で所望の性能を得ることは難しいと考えられる。
【0047】
【表1】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のエッチング液は、少なくともインジウムおよびガリウムを含む酸化物、特にインジウム、ガリウム、亜鉛およびシリコンを含む酸化物を好適なエッチングレートでエッチングでき、析出物の発生もなく、残渣除去性も良好であり、配線材料への腐食性も小さく、酸化物の溶解に対してエッチングレートの変化が小さいことから従来のエッチング液よりも長い薬液寿命が期待できるため、薬液の使用量低減が可能であり、コスト面、環境面ともにメリットの高いものである。