(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350014
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】中空型針状体の製造方法、及び中空型針状体
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20180625BHJP
B81C 99/00 20100101ALI20180625BHJP
【FI】
A61M37/00 505
A61M37/00 510
B81C99/00
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-129110(P2014-129110)
(22)【出願日】2014年6月24日
(65)【公開番号】特開2016-7311(P2016-7311A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2017年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】住田 知也
(72)【発明者】
【氏名】旭井 亮一
【審査官】
杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−021678(JP,A)
【文献】
特開2011−156370(JP,A)
【文献】
特開2009−096992(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/123538(WO,A1)
【文献】
特開2013−165975(JP,A)
【文献】
特開2009−254876(JP,A)
【文献】
特開2013−153959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
B81B 1/00− 7/04
B81C 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面に形成された針状部と、該針状部及び前記基板をともに貫通する貫通孔とを備える中空型針状体の構造体を作製する工程と、
前記針状部の少なくとも先端部を薬剤に浸漬させる工程と、
前記基板の他方の面側から、前記貫通孔を通じて前記薬剤を吸引することで前記貫通孔に前記薬剤を充填する工程と、
前記貫通孔に充填された薬剤を凍結乾燥する工程と、を備え、
前記貫通孔は、前記針状部の先端部側から前記基板側に向けて、貫通孔上部と、前記貫通孔上部に連通し前記貫通孔上部より径の小さい貫通孔下部とからなることを特徴とする中空型針状体の製造方法。
【請求項2】
前記針状部の先端部を薬剤に浸漬させる工程の前に、前記針状部における貫通孔の周縁部表面であって前記薬剤に接触する部分に撥水処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の中空型針状体の製造方法。
【請求項3】
前記貫通孔を、レーザー加工、ドライエッチング、マイクロドリルのいずれかの方法で形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の中空型針状体の製造方法。
【請求項4】
前記針状部を、研削加工、切削加工、ドライエッチングのいずれかの方法で形成することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の中空型針状体の製造方法。
【請求項5】
前記基板及び前記針状部を、単結晶シリコンから作製することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の中空型針状体の製造方法。
【請求項6】
基板の一方の面に形成された針状部と、該針状部及び前記基板をともに貫通する貫通孔とを備え、
前記貫通孔は、針状部の先端部側から基板側に向けて、貫通孔上部と、前記貫通孔上部に連通し前記貫通孔上部より径の小さい貫通孔下部とからなり、
前記貫通孔上部に、凍結乾燥した薬剤が充填されていることを特徴とする中空型針状体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状部内部に凍結乾燥薬剤が充填された中空型針状体に関する。
【背景技術】
【0002】
人体に痛みを与えることなく簡便に薬剤などの送達物を投与することが出来る方法として、皮膚上から送達物を浸透させ体内に投与する経皮吸収法がある。例えば、μmオーダーの微細な針を用いて皮膚を穿刺し、皮膚内に薬剤を投与する方法が採用され、そのとき、微細な針状部を有する針状体が使用される。(特許文献1参照)。
このときに用いる針状体の微細な針状部の形状は、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮下に薬液を浸透させるための十分な長さを有していることが好ましく、針状部の直径は数μmから数百μm(具体的には、例えば、1μm〜300μm程度)、針状部の長さは、具体的には数十μmから数百μm(具体的には、例えば、10μm〜1000μm程度)のものが望ましい。
【0003】
一般的に針状体を形成する工程では、サンドブラスト、レーザー加工、及びマイクロドリルなどによって針状体や貫通孔を形成する工程が用いられている。また切削加工を用いて原版を作成し、該原版から複製版を形成し、該複製版を用いた転写加工成形を行うことも提案されている(特許文献2参照)。
また、針状体を構成する材料としては、仮に針状体の一部が体内に残留する場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが望ましく、このような材料としてはポリ乳酸、ヒアルロン酸等の生体適合材料が提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
針状体は形状的に中空型と中実型に大別される。中空型は既存の注射針を小型化したもので、それと同様の薬液が貫通孔を通じて体内に注入される機能をもつ。中実型は、薬剤が微細針表面に塗られる塗布型と、薬物含有の微細針が皮膚中の体液で溶解し、薬物が皮膚内で放出される溶解型に分類され、乾燥薬剤と針が一体となっている。なお塗布型の中実針状体では、例えば浸漬によるコーティング方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0005】
一方、医薬品として広く利用されている酵素、抗体、ペプチド等のタンパク質は、製造工程及び保存期間中に生理活性が損なわれないことが重要である。特に高分子であるタンパク質を水溶液とした場合、生理活性が長期間維持できない問題があるため、乾燥状態で保存されている。
乾燥方法としては、噴霧乾燥、凍結乾燥等などがある。噴霧乾燥法は、液体を微細な霧状にし、これを熱風中に噴出させ、瞬間的に粉状の乾燥物を得る方法である。この手法は連続生産性・大量生産性に長けており、製品ロスも少ないためコストを安価にする事が出来るものの、製造時に薬剤が熱風中にさらされるため、品質が劣るとされている。
【0006】
これに対し、凍結乾燥法は、溶液(薬液)を一度凍結させ、減圧下水分を昇華させて乾燥物を得る方法である。この方法は製品に熱が加わらないため、品質劣化が少ないことが特徴である。しかし、凍結・乾燥工程にコスト・時間がかかるため、一般的に、高価な医薬品などを長期保存する場合に、凍結乾燥法が採用されている。凍結乾燥法では、凍結された薬物の氷の昇華によって乾燥が進むため、乾燥による薬剤分子の構造変化がなく、薬物の活性を保持したまま乾燥することができると考えられている。
【0007】
タンパク質の多くは熱によって失活しやすい性質を有するが、凍結乾燥法では、熱をかけずにタンパク質を安定化することができるため、薬剤としての医薬物質を高安定性、高信頼性に収容するために、薬液から水等の揮発性物質を取り除く処理である凍結乾燥が好適に用いられている。
以上のことを鑑み、用いられている固形注射剤は、例えば、使用する際に生理食塩水などで溶解又は懸濁して用いられる。そのため、注射製剤として、シリンジ自体を凍結乾燥の容器として使用すれば、凍結乾燥した薬剤を移し替える必要がなく好都合であることが知られている(特許文献5参照)。
【0008】
凍結乾燥製剤は、使用時に水溶液として溶解して用いる場合、タンパク質製剤を必要な濃度に調整した水溶液をその都度に調製しなければならないという煩雑さの問題がある。このような理由から、一般に、タンパク質やペプチドなどの高分子の医薬品を凍結乾燥する際に安定化剤として糖類が添加されている。例えば、タンパク質を類含有水溶液または糖類含有緩衝液で安定化させる技術が公開されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4427691号公報
【特許文献2】特許第5285943号公報
【特許文献3】特許第5267910号公報
【特許文献4】特許第5049268号公報
【特許文献5】特開2008−67982号公報
【特許文献6】特許第5401446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、液体薬剤を使用する中空型針状体においては、注入する薬液を格納するチャンバーに多量の薬液が必要である。一方、塗布型中実針状体においては、ある一定以上の乾燥薬剤を固定化するのには制限があること、固定化量を上げると針状体先端にマッチ棒の様に試薬が固まり、先端が丸みを帯びた状態となり先端の鋭角度が失われることがあるため、塗布量に制限がある。溶解型中実針状体においては、穿刺された針の高さ(体内に差し込まれた長さ)でのみ経皮中で溶け出すので、これもまた薬剤の経皮吸収量には課題が残されている。
そこで、本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、注入する溶液を格納する大きなチャンバーが不要で且つ中実型針状体に比べて注入する薬剤の制限が緩和した中空型針状体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決するために、本発明の一態様である中空型針状体の製造方法は、基板の一方の面に形成された針状部と、該針状部及び前記基板をともに貫通する貫通孔とを備える中空型針状体の構造体を作製する工程と、前記針状部の少なくとも先端部を薬剤に浸漬させる工程と、前記基板の他方の面側から、前記貫通孔を通じて前記薬剤を吸引することで前記貫通孔に前記薬剤を充填する工程と、前記貫通孔に充填された薬剤を凍結乾燥する工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様である中空型針状体は、基板の一方の面に形成された針状部と、該針状部及び前記基板をともに貫通する貫通孔とを備え、前記貫通孔は、針状体の先端部側から基板側に向けて、貫通孔上部と、前記貫通孔上部に連通し前記貫通孔上部より径の小さい貫通孔下部とからなり、前記貫通孔上部に、凍結乾燥した薬剤が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、針状部の内部に夾雑物が入り込むことがなく、内部に凍結乾燥された薬剤(薬液)が充填された中空型針状体を、針状部の一部を薬剤(薬液)へ浸漬して吸引という簡便で安価な方法により得ることが可能となる。これによって、注入する溶液を格納する大きなチャンバーが不要で且つ中実型針状体に比べて注入する薬剤の制限が緩和した中空型針状体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る中空型針状体の製造方法の一例を示す断面図であり、(a)は、中空型針状体の構造体を示し、(b)は、針状部に撥水処理をした状態を示し、(c)は、薬剤を貫通孔に吸引する状態を示し、(d)は、製造された中空型針状体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について
図1を参照して説明する。
まず、
図1(a)に示すように、貫通孔11が設けられた針状部12および基板13からなる中空型針状体14を作製する。貫通孔11は、針状部12および基板13を共に貫通する。
ここで、後の工程で貫通孔11内に薬剤20を充填する際に、基板13における針状部12の形成面(一方の面)とは反対側の面(他方の面)側から薬剤20が漏れ出さない、若しくは漏れにくくするため、貫通孔11は、針状部12から基板13に向けて、貫通孔上部15と、貫通孔上部15に連通し貫通孔上部15より径の小さい貫通孔下部16とから構成することが望ましい。
【0016】
また、中空型針状体14の構造体を構成する材料としては、例えば単結晶シリコンを好適に用いることができる。その場合には、例えば貫通孔11はレーザー加工、ドライエッチング、マイクロドリルのいずれかの方法を好適に用いることが可能である。
さらに、針状部12の形成には、研削加工、切削加工、ドライエッチングのいずれかの方法を好適に用いることができる。
もちろん、上記の作製方法については特に制限されることはなく、中空型針状体の作製方法としては各種の公知の手法を用いて良く、機械加工もしくは半導体製造に用いられる微細加工等も用いることができる。
【0017】
次に、
図1(b)に示したように、針状部12の貫通孔11周縁部表面が薬剤20に対して親水性の場合には、周縁部表面のうち少なくとも薬剤20と接触する可能のある箇所に対して撥水処理を行うことにより、撥水処理層17を形成する。これは、薬剤20が貫通孔11周縁部表面に付着することにより中空型針状体の皮膚への穿刺性や薬剤20の体内への送達性が低下することを防ぐためである。
【0018】
ここで、撥水処理としては、プラズマ処理による超撥水化、フッ素系表面改質剤による超撥水化、化学吸着法による超撥水化、ゾル‐ゲル法による超撥水化、フッ素系グラフト共重合体・フッ素系樹脂微粒子添加電着塗装による超撥水処理、シランカップリング剤による撥水化、アクリルシリコーン/シリカ複合膜による超撥水化、化学吸着単分子膜による撥水化、イオンビーム改質による超撥水化などの技術や、飽和フルオロアルキル基、アルキルシリル基、フルオロアシル基、長鎖アルキル基などの官能基をもつ化学物質をコーティングする等の技術があり種々の試料に対応して適宜選択され用いることができる。
【0019】
次に、
図1(c)に示したように、ホルダー18を介してポンプ19に接続された中空型針状体14の針状部12の先端部を液状の薬剤20に浸漬させ、ポンプ19を用いて貫通孔11の基板側開口部から吸引を行うことにより、貫通孔11内部に薬剤20を吸引して充填する。即ち、基板13の他方の面側を負圧にすることで、針状部12の先端側の開口から貫通孔11内に薬剤を吸引する。
【0020】
次に、
図1(d)に示したように、貫通孔11内部に薬剤20が充填された中空型針状体14に対し凍結乾燥処理を施すことにより、貫通孔11内部の薬剤(薬液)を凍結凍乾燥する。これによって、凍結乾燥された薬剤21が貫通孔11内部に設けられた中空型針状体22が得られる。
以上のようにして製造された中空型針状体22は、針状体の内部に夾雑物が入り込むことがなく、内部に凍結乾燥された薬剤(薬液)が充填された中空型針状体となる。そして、本実施形態の中空型針状体は、凍結乾燥により薬剤を乾燥させているため、長期間安定した保存が可能である。
【0021】
また、薬剤(薬液)を針状部に形成した貫通孔に注入し凍結乾燥品を得ることで、中空型針状体22の使用時において、体液から染み出た溶液が貫通孔内に固定化された薬剤を溶かすことによって徐放性を持たせることで出来る。このとき、穿刺した針状部12の深さ以上の貫通孔11部分に充填されている薬剤部分も順次、経時的に溶けることで、塗布型とは異なり、薬剤の経皮吸収量を増やす事が可能となる。即ち、使用する薬剤に応じて、貫通孔上部15の深さを調整したり、その貫通孔上部15への薬剤20の吸引量を調整すればよい。
【実施例】
【0022】
以下、
図1を用いて本発明の中空型針状体の実施例について説明する。
図1(a)に示すような、中空型針状体14の構造体を製造した。
まず、厚さ1500μmの単結晶シリコンウェハを用いてエキシマレーザーにより貫通孔11を形成した。貫通孔11は、針状部先端部側から、直径100μmで深さ800μmの貫通孔上部15、および直径20μmで深さ700μmの貫通孔下部16からなる。
さらに、研削加工により高さ1100μmの針状部12を加工した。また、同じく研削加工により外形が1辺10cmの正方形からなる厚さ400μmの基板13を形成することで中空型針状体14を作製した。
【0023】
次に、
図1(b)に示したように、フッ素系表面改質剤を用いて針状部12の貫通孔11周縁部表面(先端部側)に撥水処理を施すことにより、針状部12に撥水処理層17を形成した。
次に、
図1(c)に示したように、基板の他方の面側にホルダー18を介してポンプ19に接続した状態で、中空型針状体14の針状部12の先端部を薬剤20に浸漬させて接触させ、ポンプ19を用いて貫通孔11に対し吸引を行うことにより、貫通孔11内部に薬剤20を充填した。
ここで、液状の薬剤20としてはワクチン製剤Aに安定化剤としてスクロースを添加したものを用いた。
【0024】
次に、
図1(d)に示したように、中空型針状体14を、針状部12を上向きにした状態で液体窒素を使用した凍結乾燥機にセットして乾燥させた。これによって、貫通孔11内の液状の薬剤を凍結乾燥した。なおこのとき、貫通孔11の下端開口部をシールなどによって閉塞した状態で凍結乾燥することが好ましい。
ここで、凍結後の乾燥は、1.0×10
−2Torrの減圧下で行った。液体窒素で凍結した後に、−40℃から5℃まで、3時間ごとに5℃ずつ温度を上昇させた後、5℃から25℃まで、3時間ごとに10℃ずつ温度を上昇させて常温に戻した。
以上により、凍結乾燥された薬剤21が貫通孔11内部に設けられた中空型針状体22が得られた。
【符号の説明】
【0025】
11 貫通孔
12 針状部
13 基板
14、22 中空型針状体
15 貫通孔上部
16 貫通孔下部
17 撥水処理層
18 ホルダー
19 ポンプ
20 薬剤
21 凍結乾燥された薬剤