(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料電池(10)の隣り合うセル(10a)の間に配置され、前記隣り合うセルの一方から他方へ流れる電流を測定する電流測定部(2a)が形成された板状部材(2)と、
前記隣り合うセルの一方から他方に向けて前記電流測定部を通過する電流を検出する電流検出手段(3、4)とを備え、
前記電流測定部は、前記板状部材のうち前記隣り合うセルの一方に対向する一面に形成された第1電極(211)と、前記板状部材のうち前記隣り合うセルの他方に対向する他面に形成された第2電極(212)と、前記板状部材の内部に形成され、前記第1、第2電極と電気的に接続された抵抗体(221、222、223)と、前記板状部材の内部に前記抵抗体と離間して形成された第1、第2信号線(231、232)とを有し、
前記第1信号線は、前記抵抗体を介して前記第1、第2電極の一方から他方へ電流が流れる電流経路とは別の配線を構成する信号線用の第1接続部材(252a)によって、前記第1電極と接続され、
前記第2信号線は、前記電流経路とは別の配線を構成する信号線用の第2接続部材(254a)によって、前記第2電極と接続され、
前記電流検出手段は、前記第1信号線と前記第2信号線の電位差と、前記電流経路の抵抗値とに基づいて、前記電流経路を流れる電流を検出することを特徴とする電流測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
まず、
図1に示す本実施形態の電流測定装置を適用した燃料電池システムについて説明する。この燃料電池システムは、電気自動車の一種である、いわゆる燃料電池車両に適用されており、車両走行用電動モータ等の電気負荷に電力を供給するものである。
【0018】
図1に示すように、燃料電池システムは、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池10を備えている。燃料電池10は、図示しない車両走行用電動モータ、二次電池、車両用各種補機類等の電気負荷に供給される電気エネルギを出力するもので、本実施形態では、固体高分子電解質型燃料電池を採用している。
【0019】
より具体的には、燃料電池10は、基本単位となる燃料電池セル10a(以下、単にセル10aと記載する。)が複数個、電気的に直列に接続されて構成されたものである。各セル10aでは、以下に示すように、水素と酸素とを電気化学反応させて、電気エネルギを出力する。
【0020】
(負極側)H
2→2H
++2e
−
(正極側)2H
++1/2O
2+2e
−→H
2O
この燃料電池10は、図示しないDC−DCコンバータを介して二次電池に電気的に接続されている。DC−DCコンバータは、燃料電池10から二次電池あるいは二次電池から燃料電池10への電力の流れを制御するもので、電圧の大きさに関わらず双方向に電力のやり取りが可能となっている。
【0021】
さらに、燃料電池10から出力される電気エネルギは、燃料電池10の各セル10aから出力される電圧を検出するセルモニタ11、および、燃料電池10全体として出力される電流を検出する電流センサ12によって計測される。なお、セルモニタ11および電流センサ12の検出信号は、後述する制御装置50に入力されている。
【0022】
また、燃料電池10の空気極(正極)側には、酸化剤ガスである空気(酸素)を燃料電池10に供給するための空気供給配管20a、並びに、燃料電池10にて電気化学反応を終えた余剰空気および空気極で生成された生成水を燃料電池10から外気へ排出するための空気排出配管20bが接続されている。
【0023】
空気供給配管20aの最上流部には、大気中から吸入した空気を燃料電池10に圧送するための空気ポンプ21が設けられ、空気排出配管20bには、燃料電池10内の空気の圧力を調整するための空気調圧弁23が設けられている。
【0024】
さらに、空気供給配管20aおよび空気排出配管20bには、空気調圧弁23から流出した空気の有する湿度(水蒸気)を空気ポンプ21から圧送された空気へ移動させるための加湿器22が設けられている。この加湿器22は、燃料電池10へ供給される空気を加湿する機能を果たす。
【0025】
燃料電池10の水素極(負極)側には、燃料ガスである水素を燃料電池10に供給するための水素供給配管30a、水素極側に溜まった生成水を微量な水素とともに燃料電池10から外気へ排出するための水素排出配管30bが接続されている。さらに、水素供給配管30aおよび水素排出配管30bは、水素循環配管30cを介して接続されている。
【0026】
水素供給配管30aの最上流部には、高圧水素が充填された高圧水素タンク31が設けられ、水素供給配管30aにおける高圧水素タンク31と燃料電池10との間には、燃料電池10に供給される水素の圧力を調整する水素調圧弁32が設けられている。
【0027】
水素排出配管30bには、生成水を微量な水素とともに外気へ排出するために所定の時間間隔で開閉する電磁弁34が設けられている。なお、上述の電気化学反応では、水素極側において生成水は発生しないものの、水素極側には、酸素極側から各セル10aの電解質膜を透過した生成水が溜まるおそれがある。そこで、本実施形態では、水素排出配管30bおよび電磁弁34を設けている。
【0028】
水素循環配管30cは、水素供給配管30aの水素調圧弁32下流側と水素排出配管30bの電磁弁34上流側とを接続するように設けられている。これにより、燃料電池10から流出した未反応の水素を、燃料電池10に循環させて再供給している。また、水素循環配管30cには、水素流路30内で水素を循環させるための水素ポンプ33が配置されている。
【0029】
ところで、燃料電池10は発電効率を確保するために運転中一定温度(例えば80℃程度)に維持する必要がある。このため、燃料電池10には、燃料電池10を冷却するための冷却水回路40が接続されている。この冷却水回路40には、燃料電池10に冷却水(熱媒体)を循環させるウォータポンプ41、電動ファン42を備えたラジエータ(放熱器)43が設けられている。
【0030】
さらに、冷却水回路40には、冷却水を、ラジエータ43を迂回するように流すバイパス流路44が設けられている。冷却水回路40とバイパス流路44との合流点には、バイパス流路44に流れる冷却水流量を調整するための流路切替弁45が設けられている。この流路切替弁45の弁開度が調整されることによって、冷却水回路40の冷却能力が調整される。
【0031】
また、冷却水回路40の燃料電池10の出口側近傍には、燃料電池10から流出した冷却水の温度を検出する温度検出手段としての温度センサ46が設けられている。この温度センサ46により冷却水温度を検出することで、燃料電池10の温度を間接的に検出することができる。なお、この温度センサ46の検出信号も、制御装置50に入力される。
【0032】
制御装置50は、入力信号に基づいて、燃料電池システムを構成する各種電気式アクチュエータの作動を制御するもので、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。
【0033】
具体的には、制御装置50の入力側には、上述のセルモニタ11、電流センサ12および温度センサ46の検出信号等の他に、後述する電流測定装置の電流検出回路3から出力される電流信号が入力される。一方、出力側には、上述の空気ポンプ21、空気調圧弁23、水素調圧弁32、水素ポンプ33、電磁弁34、ウォータポンプ41、流路切替弁45等の各種電気式アクチュエータが接続されている。
【0034】
次に、本実施形態の電流測定装置の詳細について説明する。
【0035】
図2に示すように、電流測定装置1は、燃料電池10の内部を流れる電流を測定するための測定板2および電流検出回路3を備えている。
【0036】
測定板2は、燃料電池10の隣り合うセル10aの間に配置されるものである。測定板2は、複数の電流測定部2aが一体に形成された板状部材である。電流測定部2aは、セル10aのうち電流測定部2aに対向する領域の電流を測定するものであり、後述するように、隣り合うセル10aの一方から他方へ流れる電流を測定する。複数の電流測定部2aは、測定板2の面方向にマトリックス状に配置されている。これにより、測定板2を隣り合うセル10aの間に配置したとき、複数の電流測定部2aがセル10aの面方向に複数配置されるので、本実施形態の電流測定装置1では、セル10aの面内における電流密度分布を測定することができる。
【0037】
ここで、
図3、4を用いて、測定板2における1つの電流測定部2aの構造について説明する。
図3は、1つの電流測定部2aの断面図であり、
図4は、1つの電流測定部2aの分解斜視図である。
図4では、
図3中の絶縁層を省略している。
【0038】
図3、4に示すように、測定板2は、導体層が絶縁層を介して複数積層された多層基板で構成されている。本実施形態では、多層基板は導体層を3層有する3層基板である。
【0039】
電流測定部2aは、多層基板の両面の導体層(外層)で構成された第1電極211および第2電極212と、多層基板の内部の導体層(内層)で構成された抵抗体221と、多層基板の内部の導体層(内層)で構成された第1信号線231および第2信号線232とを有している。第1電極211は、多層基板のうち隣り合うセル10aの一方に対向する一面に形成されている。第2電極212は、多層基板のうち隣り合うセル10aの他方に対向する他面に形成されている。抵抗体221は、所定の抵抗値を有するように、所定の平面パターン形状とされている。抵抗体221は、多層基板の内部に形成された抵抗体用の第1、第2接続部材によって、第1電極211と第2電極212の両方に接続されている。これにより、第1、第2電極211、212の一方から抵抗体221を介して第1、第2電極211、212の他方へ電流が流れる電流経路Pa1が形成されている。第1信号線231は、その電流経路Pa1とは別の配線を構成する信号線用の第1接続部材によって第1電極211と接続されている。第2信号線232は、その電流経路Paとは別の配線を構成する信号線用の第2接続部材によって第2電極212と接続されている。
【0040】
より具体的には、本実施形態の測定板2は、第1基板201と第2基板202の2枚のプリント基板が接合されたものである。
【0041】
第1基板201は、両面に導体パターン(導体層)が形成された両面基板(2層基板)である。第1基板201は、その一面に導体パターンで構成された第1電極211が形成されており、第1基板201の一面の反対側の他面に導体パターンで構成された抵抗体221と第1信号線231と第2信号線232とが互いに離間して形成されている。第1信号線231と第2信号線232は、第1基板201の他面において、抵抗体221を挟んだ両側に配置されている。抵抗体221の一端側部分は、第1基板201に形成された抵抗体用スルーホール251を介して、第1電極211と電気的に接続されている。第1信号線231は、第1基板201に形成された第1信号線用スルーホール252を介して、第1電極211と電気的に接続されている。
【0042】
第2基板202は、片面に導体パターン(導体層)が形成された片面基板(1層基板)である。第2基板202は、一面に導体パターンで構成された第2電極212が形成されており、第2基板202の一面の反対側の他面に接着剤からなる接着層203が形成されている。第2基板202の接着層203側と第1基板201の抵抗体221側とが対向した状態で、第1、第2基板201、202が接着により接合されている。このように接合された状態のとき、抵抗体221の一端側部分とは反対側の他端側部分が、第2基板202に形成された抵抗体用スルーホール253を介して、第2電極212と電気的に接続されている。第2信号線232は、第2基板202に形成された第2信号線用スルーホール254を介して、第2電極212と電気的に接続されている。
【0043】
第1、第2基板201、202が絶縁層を構成している。第1、第2基板201、202は、どちらも、リジッド基板であり、例えば、一般的なガラスエポキシ基板が用いられる。第1電極211、第2電極212、抵抗体221、第1信号線231、第2信号線232は、銅箔等の薄膜状の導電体が用いられる。抵抗体用スルーホール251、253、第1信号線用スルーホール252、第2信号線用スルーホール254の内周面には、めっきにより導体層251a、252a、253a、254aが形成されている。抵抗体用スルーホール251、253内の導体層251a、253aが、それぞれ、抵抗用の第1接続部材、第2接続部材を構成している。また、第1信号線用スルーホール252内の導体層252a、第2信号線用スルーホール254内の導体層254aが、それぞれ、信号線用の第1、第2接続部材を構成している。
【0044】
本実施形態では、抵抗体221の一端側部分と第1電極211は、複数(
図4では4つ)の抵抗体用スルーホール251で接続されており、抵抗体221の他端側部分と第2電極212も、複数(
図4では4つ)の抵抗体用スルーホール253で接続されている。
【0045】
また、第1信号線231と第2信号線232は、第1電極211と第2電極212の電位差を測定板2の外部に取り出すための信号線である。第1信号線231と第2信号線232は、外部配線を介して、電圧センサ4と電気的に接続されている。
【0046】
電圧センサ4は、それぞれの電流測定部2aにおける第1電極211と第2電極212の電位差を検出して、検出信号を電流検出回路3に出力する電位差検出手段である。
【0047】
電流検出回路3は、電圧センサ4で検出した電位差と、第1電極211と第2電極212の間の電流経路Pa1の抵抗値とを用いて演算処理することにより、セル10aの各電流測定部2aに対応する部位あたりの隣り合うセル10aの一方から他方へ流れる電流の大きさ(電流値)を検出する演算手段である。第1電極211と第2電極212の間の電流経路Paの抵抗値は、予め測定され、電流検出回路3に記憶されている。電流検出回路3は、検出した電流値を制御装置50へ出力する。したがって、本実施形態では、電圧センサ4と電流検出回路3が、隣り合うセル10aの一方から他方に向けて電流測定部2aを通過する電流の大きさを検出する電流検出手段を構成している。なお、電流検出回路3に電位差を検出する機能を持たせてもよい。この場合、電流検出回路3が電流を検出する電流検出手段を構成する。
【0048】
次に、本実施形態の電流測定装置1による電流測定方法について説明する。燃料電池10に水素および空気が供給されることで、燃料電池10での発電が開始される。発電により生じた電流は、測定板2を挟んで隣り合うセル10aの一方から他方へ、測定板2を介して流れる。測定板2の各電流測定部2aでは、
図4に示す電流経路Pa1を電流が流れる。すなわち、第1電極211→抵抗体用スルーホール251→抵抗体221→抵抗体用スルーホール253→第2電極212の順に電流が流れる。
【0049】
このとき、第1電極211と第2電極212の間の電流経路Pa1が所定の抵抗値(R
1)を有するために、電流経路Pa1を電流(電流値I
1)が流れることで、第1電極211と第2電極212の間に電位差ΔV(ΔV=R
1×I
1)が生じる。
【0050】
そこで、この電位差ΔVを、第1、第2信号線231、232によって取り出し、電圧センサ4によって検出する。そして、電流検出回路3は、電圧センサ4が検出した電位差を電流経路Pa1の抵抗値で除する演算処理を行うことで、各電流測定部2aを通過した電流の大きさ(電流値)を算出することができる。
【0051】
さらに、制御装置50では、電流検出回路3によって得た各電流測定部2aの電流値に基づいて、各セル10aの面内における電流分布を検出する。そして、制御装置50は、検出された電流分布に基づいて燃料電池10の発電状態を推定し、空気供給量および供給圧、水素供給圧、冷却水循環量の制御等を行う。これにより、燃料電池システムの効率および信頼性を向上させている。
【0052】
なお、上述の燃料電池10の発電状態は、各セル10aの交流インピーダンスの変化に基づいて推定することができる。ここで、本実施形態における交流インピーダンスの測定方法について簡単に説明すると、まず、二次電池、DC−DCコンバータ等を用いて所定電流の交流を燃料電池10に印加する。燃料電池10に交流を印加している際に、セルモニタ11と電流検出回路3から入力された電流分布を測定する。そして、セルモニタ11で測定した電圧値の変化と電流検出回路3から入力された電流分布の変化に基づいて、演算により各セル10aの交流インピーダンスを測定することができる。
【0053】
ここで、本実施形態の電流測定装置1と
図5に示す比較例1の電流測定装置とを比較する。比較例1は、電流測定部の構造が本実施形態と異なるものであり、上記発明が解決しようとする課題の欄で説明した従来技術の電流測定部に相当するものである。
【0054】
図5に示すように、比較例1の電流測定部2aは、抵抗体として第1抵抗体222と第2抵抗体223とを有している。第1抵抗体222と第2抵抗体223は、多層基板の内部で、各層の積層方向で異なる位置に配置された導体層で構成されている。第1抵抗体222と第2抵抗体223は、それらの間の絶縁層に形成された抵抗体用スルーホール255によって接続されている。したがって、比較例1の電流測定部2aでは、第1電極211→抵抗体用スルーホール251→第1抵抗体222→抵抗体用スルーホール255→第2抵抗体223→抵抗体用スルーホール253→第2電極212の順に、電流経路Pa2を電流が流れる。なお、比較例1の第1抵抗体222と抵抗体用スルーホール255と第2抵抗体223の抵抗値の合計は、本実施形態の抵抗体221の抵抗値と同じである。すなわち、比較例1の第1電極211と第2電極212の間の電流経路Pa2の抵抗値は、本実施形態の第1電極211と第2電極212の間の電流経路Pa1の抵抗値と同じである。
【0055】
そして、比較例1の電流測定部2aでは、第1信号線231は、第1抵抗体222に直に接続されており、抵抗体用スルーホール251を介して、第1電極211と電気的に接続されている。第2信号線232は、第2抵抗体223に直に接続されており、抵抗体用スルーホール253を介して、第2電極212と電気的に接続されている。換言すると、第1信号線231と第2信号線232は、それぞれ、第1電極211と第2電極212の間の電流経路Pa2の途中に接続されている。このため、電流経路Pa2に電流が流れることで、第1電極211と第1信号線231との間に電圧降下が生じるとともに、第2信号線232と第2電極212との間に電圧降下が生じる。この結果、第1、第2信号線231、232の間の電位差は、第1、第2電極211、212の間の電位差よりも小さい。
【0056】
これに対して、本実施形態では、第1信号線231は、電流経路Pa1を構成する抵抗体用スルーホール251とは別の第1信号線用スルーホール252によって、第1電極211と接続されている。このため、第1信号線用スルーホール252は電流経路Pa1を構成しておらず、電流が流れないので、第1電極211と第1信号線231との間に電圧降下が生じず、第1信号線231の電位と第1電極211の電位は等しくなる。同様に、第2信号線232は、電流経路Pa1を構成する抵抗体用スルーホール253とは別の第2信号線用スルーホール254によって、第2電極212と接続されているので、第2信号線232の電位と第2電極212の電位は等しくなる。このため、第1、第2信号線231、232の間の電位差は、第1、第2電極211、212の間の電位差と等しくなる。したがって、本実施形態の方が比較例1と比較して、第1、第2信号線231、232の間の電位差が大きくなる。
【0057】
ここで、第1、第2信号線231、232が取り出す電位差の電磁ノイズによる変動幅が同じとき、取り出す電位差の絶対値が大きいほど、第1、第2信号線231、232の間の電位差の絶対値に対する電位差の変動幅の比率が小さくなる。したがって、本実施形態によれば、比較例1の電流測定装置と比較して、第1、第2信号線231、232が電磁ノイズの影響を受けたときの第1、第2信号線231、232が検出する電位差の変動幅の比率を小さくでき、電流の検出値の変動を低減できる。
【0058】
例えば、比較例1において、第1、第2電極211、212間を流れる電流の大きさが1Aであり、第1、第2信号線231、232の間の電位差が10mVであって、電磁ノイズによる電位差の変動幅が1mVのとき、電流の検出値の変動幅は0.1Aとなる。これに対して、本実施形態では、第1、第2電極211、212間を流れる電流の大きさが1Aであり、第1、第2信号線231、232の間の電位差が20mVであって、電磁ノイズによる電位差の変動幅が1mVのとき、電流の検出値の変動幅は0.05Aとなる。
【0059】
このように、本実施形態によれば、比較例1と比較して、電流の検出精度を向上できる。
【0060】
なお、本発明者は、本実施形態の測定板2について評価試験を行った結果、第1電極211から第2電極212に電流を印加すると、電流の増加に伴って第1、第2信号線231、232間の電位差が線形に増大し、流れる電流の大きさをセンシングできることを確認している。
【0061】
(第2実施形態)
本実施形態は、第1実施形態の電流測定部2aの構造を変更したものであり、以下では、変更点を説明する。
【0062】
図6に示すように、本実施形態の電流測定部2aは、上記した比較例1と同様に、4つの導体層を有する4層基板で構成されている。電流測定部2aは、抵抗体として第1抵抗体222と第2抵抗体223とを有している。第1抵抗体222および第2抵抗体223は、4層基板の内部の2つの導体層によって構成されている。すなわち、第1抵抗体222と第2抵抗体223は、4層基板の内部で各層の積層方向で異なる位置に配置された導体層で構成されている。第1抵抗体222と第2抵抗体223の間には、図示しない絶縁層が介在している。第1抵抗体222と第2抵抗体223は、その間の絶縁層に形成された抵抗体用スルーホール255によって接続されている。
【0063】
したがって、本実施形態の電流測定部2aでは、上記した比較例1と同様に、第1電極211→抵抗体用スルーホール251→第1抵抗体222→抵抗体用スルーホール255→第2抵抗体223→抵抗体用スルーホール253→第2電極212の順に、電流経路Pa2を電流が流れる。
【0064】
ところで、上述のセル10aの交流インピーダンスを測定するときや、セル10aにおいて過渡的に電流が変動したときでは、交流電流が測定板2の内部の抵抗体を流れる。この場合、第1、第2信号線231、232が、抵抗体から相互インダクタンスの影響を受けてしまう。すなわち、抵抗体を流れる電流によって磁場(磁界)が発生する。抵抗体を流れる電流が変動すると、電流によって生じる磁場も変動し、磁場が変動することで第1、第2信号線231,232に生じる誘導起電力が変動する。この結果、第1、第2信号線231、232が取り出す電位が変動してしまう。
【0065】
そこで、本実施形態では、第1抵抗体222と第2抵抗体223は、同じ平面パターン形状を有しており、第1抵抗体222における電流流れ方向と第2抵抗体223における電流流れ方向とが平行かつ反対方向となるように、対向配置されている。これにより、第1抵抗体222と第2抵抗体223を流れる電流によって発生する磁場の向きが、互いに反対方向となり、互いに弱め合うように作用する。
【0066】
また、本実施形態では、第1信号線231と第2信号線232が、各層の積層方向で異なる位置にある導体層によって構成されている。第1信号線231は、第1抵抗体222と積層方向で同じ位置にある導体層によって構成されている。第2信号線232は、第2抵抗体223と積層方向で同じ位置にある導体層によって構成されている。
【0067】
そして、第1信号線231と第2信号線232は、第1、第2電極211、212の中心位置を基準として積層方向で対称な形である。すなわち、第1信号線231と第2信号線232は、同じ平面パターン形状を有するとともに、各層の積層方向で対向配置されている。これにより、第1、第2抵抗体222、223を交流電流が流れる場合において、第1信号線231と第2信号線232が、それぞれ、第1、第2抵抗体222、223から受ける磁場の影響を等しくできる。このとき、第1、第2抵抗体222、223を流れる電流によって生じる磁場は逆向きの関係である。この結果、第1信号線231と第2信号線232が受ける磁場の影響を打ち消すように作用させることができる。
【0068】
このようにして、本実施形態では、第1、第2信号線231、232が、抵抗体から受ける相互インダクタンスの影響を低減している。
【0069】
なお、本実施形態では、第1信号線231を、積層方向で第1抵抗体222と同じ位置に配置したが、異なる位置に配置してもよい。同様に、第2信号線232を、積層方向で第2抵抗体223と異なる位置に配置してもよい。これにより、第1、第2抵抗体222、223と第1、第2信号線231、232のレイアウトの自由度が高くなる。
【0070】
また、本実施形態では、第1信号線231と第1電極211は、複数(
図6では4つ)の第1信号線用スルーホール252で接続されている。同様に、第2信号線232と第2電極212も、複数(
図6では4つ)の第2信号線用スルーホール254で接続されている。
【0071】
ここで、第1、第2電極211、212の面内を流れる電流に偏りがある場合、電極における信号線との接続箇所が1カ所だと、電極面内の電位のばらつきの影響を受けてしまう。これに対して、本実施形態のように、信号線を電極における複数箇所と接続することで、接続箇所が1カ所のときと比較して、電位のばらつきの影響を低減できる。なお、第1実施形態においても、本実施形態と同様に、第1電極211における第1信号線231との接続箇所を複数とするとともに、第2電極212における第2信号線232との接続箇所を複数とすることが好ましい。
【0072】
なお、上記した本実施形態の測定板2は、第1実施形態の測定板2の製造に用いられる第2基板202を両面基板に変更することで製造される。このとき用いられる第1基板201の他面には、第1抵抗体222と第1信号線231とが形成されており、第2基板202の他面には、第2抵抗体223と第2信号線232とが形成されている。そして、第1基板201の他面と第2基板202の他面とを向かい合わせた状態で、接着層を介して第1、第2基板201、202を接合することで、本実施形態の測定板2が製造される。このため、第1抵抗体222と第2抵抗体223の間の絶縁層は、接着層によって構成される。
【0073】
(第3実施形態)
本実施形態は、第1実施形態の電流測定部2aの構造の一部を変更したものであり、以下では、変更点を説明する。
図7に示すように、本実施形態の測定板2は、第1基板201と第2基板202の2枚の両面プリント基板が接合されたものである。
【0074】
第1基板201は、両面に導体パターン(導体層)が形成された両面基板(2層基板)である。第1基板201は、その一面に第1電極211が形成されており、第1基板201の一面の反対側の他面に第1信号線231と抵抗体221用の導体パターン221aとが互いに離間して形成されている。抵抗体221用の導体パターン221aは、第1基板201に形成された抵抗体用スルーホール251を介して、第1電極211と電気的に接続されている。第1信号線231は、第1基板201に形成された第1信号線用スルーホール252を介して、第1電極211と電気的に接続されている。
【0075】
第2基板202は、両面に導体パターン(導体層)が形成された両面基板(2層基板)である。第2基板202は、一面に第2電極212が形成されており、第2基板202の一面の反対側の他面に抵抗体221用の導体パターン221bと第2信号線232とが互いに離間して形成されている。抵抗体221用の導体パターン221bは、第2基板202に形成された抵抗体用スルーホール253を介して、第2電極212と電気的に接続されている。第2信号線232は、第2基板202に形成された第2信号線用スルーホール254を介して、第2電極212と電気的に接続されている。
【0076】
そして、第1基板201と第2基板202は、第1基板201に形成された抵抗体221用の導体パターン221aと第2基板202に形成された抵抗体用の導体パターン221bとが対向した状態で重なっており、加圧によって2つの抵抗体221用の導体パターン221a、221b同士が接合されている。本実施形態では、接合された2つの抵抗体221用の導体パターン221a、221bによって、1つの抵抗体221が構成されている。なお、第1信号線231と第2基板202との間や、第2信号線232と第1基板201との間には、空間が形成されている。
【0077】
このように、本実施形態では、2枚の両面基板201、202を重ね合わせるとともに、2つの抵抗体221用の導体パターン221a、221b同士を接合することで、擬似的に導体層を3層有する3層基板としている。これにより、本実施形態によれば、第1実施形態のように、両面基板と片面基板を接着層で接着することで測定板を製造する場合と比較して、接着層を省略でき、測定板の製造方法を簡略化できる。
【0078】
なお、本実施形態の第1、第2基板201、202は、第1実施形態と同様に、ガラスエポキシ基板等のリジッド基板であるが、第1、第2基板201、202として、フレキシブル基板を使用してもよい。
【0079】
(第4実施形態)
本実施形態は、第3実施形態の電流測定部2aの構造の一部を変更したものであり、以下では、変更点を説明する。
【0080】
図8に示すように、本実施形態では、第1基板201の他面(
図8では下面)に第1信号線231用の導体パターン231aが形成されている。この第1信号線231用の導体パターン231aは、第1基板201に形成された第1信号線用スルーホール252を介して、第1電極211と電気的に接続されている。
【0081】
また、第2基板202の他面(
図8では上面)に第2信号線232用の導体パターン232bが形成されている。この第2信号線232用の導体パターン232bは、第2基板202に形成された第2信号線用スルーホール254を介して、第2電極212と電気的に接続されている。
【0082】
そして、第1基板201と第2基板202を、抵抗体221用の導体パターン221a、221b同士が対向するように重ね合わせたときに、第2基板202の他面のうち第1信号線231用の導体パターン231aと対向する領域に、第1信号線231用の導体パターン231bが形成されている。また、第1基板201の他面のうち第2信号線232用の導体パターン232bと対向する領域に、第2信号線232用の導体パターン232aが形成されている。
【0083】
2つの第1信号線231用の導体パターン231a、231bは加圧によって接合されており、接合された2つの導体パターン231a、231bによって第1信号線231が構成されている。同様に、2つの第2信号線232用の導体パターン232a、232bは加圧によって接合されており、接合された2つの導体パターン232a、232bによって第2信号線232が構成されている。
【0084】
さらに、第1基板201の他面のうち第1、第2信号線用の導体パターン231a、232aや抵抗体用の導体パターン221aが形成されていない領域に、第1、第2信号線231、232や抵抗体221と電気的に独立した厚さ調整用の導体パターン241aが形成されている。同様に、第2基板202のうち第1、第2信号線用の導体パターン231b、232bや抵抗体用の導体パターン221bが形成されていない領域であって、第1基板201の厚さ調整用の導体パターン241aと対向する領域に、第1、第2信号線231、232や抵抗体221と電気的に独立した厚さ調整用の導体パターン241bが形成されている。厚さ調整用の導体パターン241a、241bは、第1、第2電極211、212の表面を平面に保つために、測定板2の厚さを調整する調整部材である。
【0085】
ところで、第3実施形態のように、2枚の両面基板201、202を重ね合わせたときに、内側に存在する導体層の積層数が異なったり、導体層が存在しない領域があったりすると、外側に存在する第1、第2電極211、212の表面に凹凸が生じてしまう。
【0086】
これに対して、本実施形態では、抵抗体221と同様に、第1、第2信号線231、232を、2層の導体層で構成している。さらに、第1、第2基板201、202を重ね合わせたときに内側となる第1、第2基板201、202の他面に、抵抗体221と同様に、2層の導体層で構成された厚さ調整用の導体パターン241a、241bを形成している。
【0087】
これにより、電流測定部2aにおける第1、第2電極211、212に垂直な方向での厚さを均一にでき、第1、第2電極211、212の表面に生じる凹凸を減らすことができる。このため、測定板2を隣り合うセル10aの間に挟みこんだときに、第1、第2電極211、212におけるセル10aとの接触面積を大きくでき、精度よく電流を測定することができる。
【0088】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、下記のように、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0089】
(1)上記各実施形態では、第1、第2信号線231、232と第1、第2電極211、212とを接続する接続部材(配線)として、スルーホール252、254内の導体層252a、254aを採用したが、他の層間接続部材を採用してもよい。また、第1、第2信号線231、232と第1、第2電極211、212とを接続する接続部材は、スルーホール252、254内の導体層252a、254aと多層基板内部の導体パターンとによって構成されていてもよい。
【0090】
(2)上記各実施形態では、複数の電流測定部2aが、測定板2の面方向にマトリックス状に配置されていたが、他の配置であってもよい。例えば、セル10aの面内における空気入口部付近や水素入口部付近等の特定の領域に対応させて、測定板2の一部分のみに1つもしくは複数の電流測定部2aを配置してもよい。
【0091】
(3)上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。