(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態における固体酸化物形燃料電池セル10の構造を示した図であり、断面図示されている。固体酸化物形燃料電池は固体電解質型燃料電池とも呼ばれる燃料電池であり、
図1に示す固体酸化物形燃料電池セル10(以下、単に電池セル10と呼ぶ)は、複数積層されることにより不図示の燃料電池スタックを構成する。そして、燃料電池スタックにおいて電池セル10相互間には集電体12がそれぞれ介装されている。すなわち、電池セル10は、燃料電池スタックにおける発電の最小単位となっている。なお、
図1は、電池セル10に押し当てられる集電体12を電池セル10から離した分解図として表示されている。また、1つの電池セル10を挟む一対の集電体12のうち、カソード側をカソード側集電体12aと呼び、アノード側をアノード側集電体12bと呼ぶ。但し、両者を区別しないときは単に集電体12と呼ぶものとする。
【0017】
図1に示すように、電池セル10は、電解質層16とカソード層18と中間層22と第1アノード層24と複合アノード層26とを備えており、カソード層18、中間層22、電解質層16、第1アノード層24、複合アノード層26の順に積層されている。そのため、電池セル10は、それらを積層する積層方向を厚み方向DR1とした平板形状を成している。すなわち、電池セル10は平板型固体酸化物形燃料電池セルである。なお、各層16、18、22、24、26の厚み方向はそれぞれ、電池セル10の厚み方向DR1と同じである。また、電池セル10の厚み方向DR1をセル厚み方向DR1と呼ぶ。
【0018】
電解質層16は、固体酸化物形燃料電池に用いられる周知の固体電解質層である。電解質層16は、燃料ガスが透過するのを防ぐ緻密層である。また、電解質層16は、酸素イオン(O
2−)を透過させ、電気的な絶縁性を有している。電解質層16は、例えばジルコニウム系酸化物を主成分として構成されている。そのジルコニウム系酸化物としては、Y
2O
3、Sc
2O
3、Gd
2O
3、Sm
2O
3、Yb
2O
3、Nd
2O
3等の希土類酸化物を1種または2種以上含む安定化ジルコニア等を例示することができる。
【0019】
具体的に、電解質層16は平板形状を成している。そして、電解質層16は、一方面16aとその一方面16aに対する反対側に設けられた他方面16bとを有している。すなわち、電解質層16において一方面16aおよび他方面16bは互いに表裏関係にある。電解質層16は、カソード層18の一方面181側に積層されている。
【0020】
中間層22は、電解質層16に対しその電解質層16の一方面16a側に積層され、その一方面16aに接合されている。この中間層22は、電解質層16の一方面16aとカソード層18の一方面181との間に介装されている。中間層22は、例えばセリウム系酸化物を主成分として構成されている。そのセリウム系酸化物としては、Gd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca、Dr、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素がドープされたセリア系固溶体などを例示することができる。
【0021】
そして、中間層22は、酸素イオンを透過させる酸素イオン伝導性を有している。また、中間層22は、カソード層18の元素拡散を抑制し、それにより電解質層16とカソード層18との反応を防止するための反応防止層として機能する。
【0022】
カソード層18は、中間層22に対し電解質層16側とは反対側に接合されている。すなわち、カソード層18は、電解質層16に対しその電解質層16の一方面16a側に、中間層22を介して積層されている。このカソード層18は、固体酸化物形燃料電池に用いられる周知の空気極電極層であるので、導電性を有する多数の微細な金属酸化物粒子が焼結することによって構成された多孔質層となっている。そのため、カソード層18は、ガス拡散性を有し、電子伝導性および酸素イオン伝導性も有している。そして、カソード層18は、酸素ガスを酸素イオン化する反応場を形成する。カソード層18は、例えばランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)またはランタンストロンチウムコバルタイトフェライト(LSCF)等で構成されている。
【0023】
カソード層18は、中間層22に接合されている一方面181とは反対側に他方面182を有している。そのカソード層18の他方面182にはカソード側集電体12aが押し当てられ積層されている。これにより、カソード層18はカソード側集電体12aに電気的に接続され、カソード層18とカソード側集電体12aとの間に、酸化ガスとしての空気が他方面182に沿って流通する酸化ガス流路40が形成されている。カソード層18には、その酸化ガス流路40から酸化ガスが供給される。
【0024】
また、複合アノード層26の表面としての後述の基準部表面304にはアノード側集電体12bが押し当てられ積層されている。これにより、基準部表面304はアノード側集電体12bに電気的に接続され、複合アノード層26とアノード側集電体12bとの間に、燃料ガスが基準部表面304に沿って流通する燃料ガス流路42が形成されている。第1アノード層24および複合アノード層26には、その燃料ガス流路42から燃料ガスが供給される。なお、酸化ガスは酸化剤ガスとも呼ばれる。
【0025】
第1アノード層24は、電解質層16に対しその電解質層16の他方面16b側に積層され、その他方面16bに接合されている。すなわち、第1アノード層24は、電解質層16に対しカソード層18側とは反対側に積層されている。
【0026】
第1アノード層24は、固体酸化物形燃料電池に用いられる周知の燃料極電極層であり、多孔質層となっている。そのため、第1アノード層24は、電子伝導性、酸素イオン伝導性、およびガス拡散性を有している。そして、第1アノード層24は、酸素イオンと燃料ガスとが反応する反応場を形成する。
【0027】
第1アノード層24は、一般的には金属触媒と電解質層16の材料とから構成されていることが望ましい。その金属触媒と電解質層16の材料との構成比率は、電池セル10の電極反応抵抗、電解質層16との接合性、電池セル10に必要とされる強度等から決定されている。例えば、本実施形態の第1アノード層24はNi−YSZ等で構成されている。YSZとは、イットリア安定化ジルコニアを略した表記である。
【0028】
第1アノード層24は、電池セル10の中で最も厚い層として構成されている。すなわち、第1アノード層24は、電池セル10を構成する他の層16、18、22、26の何れと比較しても厚い。更に言えば、第1アノード層24は、電池セル10の中で第1アノード層24を除いた他の層16、18、22、26の合計厚みよりも厚く構成されている。例えば、第1アノード層24の厚みは200μm以上となっている。そのため、第1アノード層24は、電池セル10の支持体(言い換えれば、支持基盤)として十分な機械的強度および耐久性を備えている。なお、第1アノード層24の多孔質は、「NiO→Ni」の還元反応および造孔剤の作用によって生じたものである。例えばその還元反応は電池セル10の焼成後に行われる。
【0029】
複合アノード層26は、第1アノード層24に対しカソード層18側とは反対側に積層され、第1アノード層24に接合されている。そして、複合アノード層26は、第2アノード層28と第3アノード層30とから構成されている。
【0030】
また、複合アノード層26は、セル厚み方向DR1において、カソード層18側とは反対側の最外層を構成している。従って、第1アノード層24と複合アノード層26とを相互に比較すると、電池セル10の中で第1アノード層24は内側に配置され、複合アノード層26は外側に配置されているので、第1アノード層24を内側アノード層と呼び、複合アノード層26を外側アノード層と呼んでもよい。
【0031】
第2アノード層28は、焼成時に発生する電池セル10の反りを抑え電池セル10自体の強度を向上させる補強層となっている。第2アノード層28は、第2アノード層28と同時に焼成される第1アノード層24を挟んだ反対側の最外層と同じ主成分で構成されている。なぜなら、電池セル10の反りを抑える観点から、第2アノード層28の材料としては、電池セル作製時(例えば1400℃程度にまで加熱される焼成時)に上記反対側の最外層と収縮率を近くする必要があるからである。
【0032】
本実施形態では、後述するように、第2アノード層28は、第1アノード層24、および電解質層16と同時に焼成され、上記反対側の最外層は電解質層16であるので、例えば、電解質層16と同じようにジルコニウム系酸化物を主成分として構成されている。そのため、第2アノード層28および電解質層16は、第1アノード層24と比較した焼成時の収縮率の大小傾向が互いに同じ傾向になるように構成されている。その収縮率の大小傾向が互いに同じ傾向であることとは、第1アノード層24の収縮率と比較して、第2アノード層28および電解質層16の一方の収縮率が大きければ他方の収縮率も大きく、一方の収縮率が小さければ他方の収縮率も小さいということである。
【0033】
具体的に、本実施形態の電池セル10では、第2アノード層28および電解質層16は何れも、焼成時の収縮率が第1アノード層24よりも小さい。なお、主成分とは、一要素を構成する複数種類の構成材料のうち質量割合が最も大きい構成材料のことである。また、収縮率は、「収縮率=(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ」で算出される。
【0034】
また、第2アノード層28には、
図1および
図2に示すように、複数の貫通孔281と、複数の周縁部切欠き282とが形成されている。
図2は
図1のII−II断面図である。燃料ガス流路42の燃料ガスは貫通孔281内および周縁部切欠き282内を通って第1アノード層24へ拡散するので、第2アノード層28自体はガス拡散性を有する必要がなく、例えば緻密層となっている。貫通孔281は全て円形状の孔になっており、同じ大きさで第2アノード層28の全体に均等に分布している。そして、貫通孔281および周縁部切欠き282は、第1アノード層24と第3アノード層30とを電気的につなぐため且つ第3アノード層30から第1アノード層24へと燃料ガスを透過させるために、全体として十分な面積を有している。
【0035】
上記のように燃料ガスは貫通孔281内および周縁部切欠き282内を通って第1アノード層24へ供給され、第2アノード層28内で貫通孔281および周縁部切欠き282が占める割合が大きいほど、多くの燃料ガスが供給可能となる。従って、第2アノード層は、第1アノード層24への燃料ガス供給量を調節する機能を有している。
【0036】
複合アノード層26は、セル厚み方向DR1から見ると、正方形形状または長方形形状(要するに、矩形形状)を成しており、第2アノード層28の複数の周縁部切欠き282は、第2アノード層28の四辺である周縁部分28aに間隔を空け並んで形成されている。具体的に、周縁部切欠き282は、貫通孔281を2つに分断した一方と同じ形状を成している。
【0037】
第3アノード層30は、平板状の基準部301と、複数の凸部302と、複数の切欠き内凸部303とから構成されている。これらの部位301、302、303は相互に異なる材料で構成されていても差し支えないが、本実施形態の第3アノード層30では何れも同一材料で構成されている。
【0038】
そして、第3アノード層30は、第1アノード層24と同様に、金属触媒と電解質層16の材料とから構成されていることが望ましい。更に言えば、第3アノード層30はアノード側集電体12bに電気的に接触させられるので集電性を考慮して、第3アノード層30における金属触媒と電解質層16の材料との構成比率が、第3アノード層30の電気伝導率(電子導電率または導電率とも言う)を第1アノード層24よりも高くするように決定されてもよい。
【0039】
また、第3アノード層30の電気伝導率が第1アノード層24よりも高くなるのであれば、第3アノード層30は、第1アノード層24と異なる材料で構成されていても良いが、焼成時および電池セル10の発電時において第1アノード層24および第3アノード層30の線膨張係数は、第2アノード層28に対して、電池セル10の割れを生じない程度に近い値になっている必要がある。
【0040】
具体的に、本実施形態の第3アノード層30は、例えばNi−YSZまたはNi−GDCであって殆どニッケル(Ni)で構成され、多孔質層となっている。そのため、第3アノード層30は電子伝導性およびガス拡散性を有し、第2アノード層よりも高い熱伝導性と高い導電性とを有している。言い換えれば、第3アノード層30の電気伝導率および熱伝導率は、第2アノード層に比して高い。なお、第3アノード層30の多孔質は、「NiO→Ni」の還元反応および造孔剤の作用によって生じたものである。また、GDCとは、ガドリニウムドープセリア(例えば、Gd
1-XCe
XO
2-δ)を略した表記である。
【0041】
第3アノード層30の基準部301は、
図1に示すように、第1アノード層24に対し第2アノード層28を介して積層されている。基準部301は、第1アノード層24側とは反対側に基準部表面304を有しており、この基準部表面304は複合アノード層26の表面にもなっている。基準部表面304には、アノード側集電体12bが押し当てられることにより電気的に接続される。すなわち、基準部301は、電池セル10のアノード側の最外層を構成しており、アノード側集電体12bに対する電気的接触性を向上させるために設けられている。基準部301は、電池セル10におけるアノード側の集電性を低下させないような厚みであればよく、例えばその厚みは10〜20μmで十分である。
【0042】
第3アノード層30の凸部302は、
図1および
図2に示すように円柱形状を成しており、基準部301から第1アノード層24側に突き出している。そして、凸部302は、第2アノード層28の貫通孔281を通って第1アノード層24の複合アノード層26側の一方面241に接続されている。すなわち、複数の凸部302はそれぞれ、第2アノード層28の貫通孔281毎に挿入されている。詳細には、凸部302は、第2アノード層28の貫通孔281内を満たすように形成され、凸部302の外径は貫通孔281の内径と同じになっている。
【0043】
また、
図2に示すように、複数の貫通孔281は、後述のガス流通方向DR3に千鳥状に配置されている。要するに、各貫通孔281は、ガス流通方向DR3において互い違いに配置されており、各凸部302も同様に配置されている。また、複数の貫通孔281は、セル厚み方向DR1から見て、第2アノード層28の総面積のうちで20%から80%の面積を占めている。
【0044】
第3アノード層30の切欠き内凸部303は、基準部301(
図1参照)の周縁部分に設けられ、基準部301から第1アノード層24側に突き出している。切欠き内凸部303は、第2アノード層28の周縁部切欠き282内を通って第1アノード層24に接続されている。すなわち、複数の切欠き内凸部303はそれぞれ、第2アノード層28の周縁部切欠き282毎に挿入されている。具体的には、切欠き内凸部303は、第2アノード層28の周縁部切欠き282内を満たすように形成されている。
【0045】
詳細には、複合アノード層26は、
図2に示すように、矩形形状の四辺を構成する4つの側端26aを有している。そして、複合アノード層26の側端26aのそれぞれでは、切欠き内凸部303と第2アノード層28とが側端26aの長手方向に沿って交互に並んで設けられている。
【0046】
このように周縁部切欠き282と切欠き内凸部303とが形成されているので、
図1および
図2から判るように、第1アノード層24の一方面241は、その一方面241の周縁241aに、第2アノード層28に接合している部分と第3アノード層30の切欠き内凸部303に接合している部分とを備えている。そして、その第2アノード層28に接合している部分と切欠き内凸部303に接合している部分とは、上記一方面241の周縁241aに沿って交互に並んで配置されている。
【0047】
図1に示す集電体12は、積層された電池セル10同士の間に介装されている。集電体12は例えばステンレスなどの金属で構成され、集電体12の表面には、例えば、酸化ガスによる酸化を防ぐためや、ステンレスからのクロムの飛散を防止させるためのコーティングが施されている。
【0048】
集電体12は、燃料電池スタックにおいて集電体12を挟む一方の電池セル10に供給される酸化ガスと、他方の電池セル10に供給される燃料ガスとを分離する役割を果たす。それと共に、集電体12は、上記一方の電池セル10が有するカソード層18と、上記他方の電池セル10が有する複合アノード層26とを電気的に接続する役割も果たす。
【0049】
図1に示すように、カソード側集電体12aは複数の集電体凸部121を備えており、その集電体凸部121はカソード層18側へ向かって突き出ている。また、カソード側集電体12aの集電体凸部121は、セル厚み方向DR1に直交する凸部並び方向DR2に一定間隔を空けて並んでおり、その凸部並び方向DR2およびセル厚み方向DR1のそれぞれに直交するガス流通方向DR3(
図2参照)に延びるように形成されている。
【0050】
カソード側集電体12aの集電体凸部121は一定間隔を空けて並んでいるので、その集電体凸部121同士の間には集電体凹部122が形成されている。この集電体凹部122とカソード層18とに囲まれた空間が酸化ガス流路40となっているので、酸化ガス流路40はガス流通方向DR3(
図2参照)へ延びるように形成され、酸化ガスはガス流通方向DR3へ流れる。そして、複数の酸化ガス流路40は、凸部並び方向DR2にカソード側集電体12aの集電体凸部121を挟んで並ぶように形成されている。すなわち、凸部並び方向DR2は酸化ガス流路40の並び方向でもある。
【0051】
また、カソード側集電体12aの集電体凸部121はその先端面を、カソード層18に接触する接触面123として備えている。そして、集電体凸部121の接触面123はカソード層18の他方面182に押し当てられ、これにより、カソード側集電体12aがカソード層18に電気的に接続されている。
【0052】
アノード側集電体12bも上記のカソード側集電体12aと同様に構成されている。すなわち、アノード側集電体12bは、複合アノード層26側へ向かって突き出ている複数の集電体凸部121を備え、その集電体凸部121も凸部並び方向DR2に一定間隔を空けて並び且つガス流通方向DR3に延びるように形成されている。そして、アノード側集電体12bの集電体凸部121同士の間には集電体凹部122が形成されている。そのため、アノード側集電体12bの集電体凹部122と複合アノード層26とに囲まれた空間が燃料ガス流路42となっている。
【0053】
また、アノード側集電体12bの集電体凸部121の接触面123は複合アノード層26の基準部表面304に押し当てられ、これにより、アノード側集電体12bが第3アノード層30を介して第1アノード層24に電気的に接続されている。
【0054】
次に、電池セル10の製造方法について、
図3および
図4のフローチャートを用いて説明する。
図3は、電解質層16用のグリーンシート、第1アノード層24用のグリーンシート、および第2アノード層28用のグリーンシートをそれぞれ製造する製造工程を示したフローチャートである。電解質層16用のグリーンシートと第1アノード層24用のグリーンシートと第2アノード層28用のグリーンシートとは別々に製造され材料が異なるが、フローチャートとしては共通している。
【0055】
図3に示すように、先ずステップS101では、グリーンシートの材料を用意する。例えば、第1アノード層24用のグリーンシートを作製するのであれば、その材料は、有機溶媒または水に、酸化ニッケル(NiO)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、気孔形成用の造孔剤、バインダー、および可塑剤などを混入したものである。
【0056】
続くステップS102では、ステップS101にて用意したグリーンシートの材料を混合撹拌し、その後、ステップS103では、ドクターブレード法などによって、そのグリーンシートの材料をシート状に成形する。
【0057】
続くステップS104では、成形後のグリーンシートの材料を乾燥させ固化させる。これにより、グリーンシートを得ることができる。なお、グリーンシートとは、金属・無機・有機の微粒子が高分子等の結合剤で保持されたシート状のものであり、グリーンシートの厚みは例えば数μm〜数百μm程度である。
【0058】
グリーンシートが完成すれば、次に
図4に示す製造工程へ移る。
図4は、
図3の工程に続いて電池セル10を製造する製造工程を示したフローチャートである。
図4に示すように、先ずステップS201では、電解質層16用のグリーンシート、第1アノード層24用のグリーンシート、および第2アノード層28用のグリーンシートを用意する。この電解質層16用のグリーンシートおよび第2アノード層28用のグリーンシートはその主成分が互いに同じになるように構成されており、これにより、焼成時における両方のグリーンシートの収縮率は互いに同程度となっている。
【0059】
続くステップS202では、電解質層16用のグリーンシートを所定の外形に成形し、これにより、外形成形後の電解質層形成シート161(
図5参照)を得る。同様に、第1アノード層24用のグリーンシートおよび第2アノード層28用のグリーンシートも所定の外形に成形し、これにより、外形成形後の第1アノード層形成シート242および第2アノード層形成シート283(
図5参照)を得る。このとき、第2アノード層28には貫通孔281および周縁部切欠き282を形成する必要があるので、第2アノード層形成シートには孔加工を施し、貫通孔281および周縁部切欠き282を予め成形しておく。
【0060】
続くステップS203では、
図5に示すように、電解質層形成シート161と第1アノード層形成シート242と第2アノード層形成シート283とを積層する。このとき、第1アノード層24の厚みは他の層よりも格段に大きいので、第1アノード層形成シート242を複数枚重ねて、必要な第1アノード層24の厚みが焼成後に得られるようにする。
図5は、電解質層形成シート161と第1アノード層形成シート242と第2アノード層形成シート283とが積層された状態を模式的に示す斜視図である。
【0061】
図4のステップS203では、
図5に示すように各シート161、242、283を積層してから、そのシート161、242、283を圧着する。これにより、各シート161、242、283が一体となった圧着済シート50が、
図6に示すように得られる。
図6は、ステップS203で得られる圧着済シート50を示した断面図である。
【0062】
続く
図4のステップS204では、スクリーン印刷により、第2アノード層形成シート283の貫通孔281内を埋めるように第3アノード層30の凸部302の材料を形成すると共に、周縁部切欠き282内を埋めるように切欠き内凸部303の材料を形成する。要するに、凸部302および切欠き内凸部303の材料305を圧着済シート50に印刷する。これにより、
図6の圧着済シート50は
図7にようになる。
図7は、圧着済シート50に、凸部302および切欠き内凸部303の材料305が印刷された状態を示した断面図である。なお、ステップS204では、凸部302および切欠き内凸部303の材料305を印刷した後、必要に応じて乾燥させる。
【0063】
続く
図4のステップS205では、スクリーン印刷により、圧着済シート50に対し第2アノード層形成シート283上に基準部301の材料306を形成する。要するに、基準部301の材料306を圧着済シート50に印刷する。これにより、
図8に示すように第3アノード層30の材料305、306がシート状に形成され、
図7の圧着済シート50は
図8にようになる。従って、ステップS204およびS205は、第3アノード層30の材料305、306をシート状に形成する第3アノード層形成工程となっている。
【0064】
なお、ステップS205では、基準部301の材料306を印刷した後、必要に応じて乾燥させる。また、
図8は、凸部302および切欠き内凸部303の材料305が印刷された圧着済シート50に更に基準部301の材料306が印刷された状態を示した断面図である。
【0065】
続く
図4のステップS206では、
図8に示す第3アノード層30の材料305、306が印刷された圧着済シート50を加熱し、それにより、その圧着済シート50の脱脂を行う。
【0066】
続く
図4のステップS207では、その
図8に示す圧着済シート50を更に加熱し、それにより、電解質層形成シート161、第1アノード層形成シート242、第2アノード層形成シート283、および第3アノード層30の材料305、306を、積層された状態で一体に同時焼成する。これにより、電解質層16、第1アノード層24、第2アノード層28、および第3アノード層30から成る焼成セル基板52(
図9参照)が焼成される。このときステップS207では、その焼成セル基板52の構成から判るように、電解質層16が、第1アノード層24に対する第2アノード層28側とは反対側の最外層として焼成される。このステップS207は、電解質層16と第1アノード層24と第2アノード層28と第3アノード層30とを同時に焼成する焼成工程となっている。
【0067】
続く
図4のステップS208では、
図9に示すように、ステップS207で製作した焼成セル基板52の電解質層16側に中間層22の材料221をスクリーン印刷により形成する。要するに、中間層22の材料221を焼成セル基板52に印刷する。その中間層22の材料221は、例えばセリウム系酸化物および溶媒などから構成されている。
図9は、焼成セル基板52に中間層22の材料221が印刷された状態を示した断面図である。
【0068】
続く
図4のステップS209では、上記印刷後の焼成セル基板52を加熱し、それにより、中間層22の材料221を焼成セル基板52に焼き付ける。すなわち、中間層22を焼成する。
【0069】
続く
図4のステップS210では、
図10に示すように、中間層22が焼き付けられた焼成セル基板52の中間層22側にカソード層18の材料183をスクリーン印刷により形成する。要するに、中間層22が焼き付けられた焼成セル基板52にカソード層18の材料183を印刷する。
図10は、中間層22が焼き付けられた焼成セル基板52にカソード層18の材料183が印刷された状態を示した断面図である。
【0070】
続く
図4のステップS211では、上記印刷後の焼成セル基板52を加熱し、それにより、カソード層18の材料183を焼成セル基板52に焼き付ける。すなわち、カソード層18を焼成する。
【0071】
上述したように、本実施形態によれば、電解質層16および第2アノード層28は、第1アノード層24と比較した焼成時の収縮率の大小傾向が互いに同じ傾向になるように構成されている。そのため、焼成時において第2アノード層28の収縮が、第1アノード層24と電解質層16との間の収縮率差に起因した電池セル10の反りを抑えるように作用する。従って、第2アノード層28が無い構成と比較して、電池セル10の焼成による反りを抑えることが可能である。
【0072】
そして、第3アノード層30の基準部301は、第1アノード層24に対し第2アノード層28を介して積層されており、第3アノード層30は凸部302において第1アノード層24に接続され、第3アノード層30の電気伝導率は第2アノード層28よりも高い。従って、第2アノード層28が電池セル10の燃料極(アノード)内に埋設されることになり、アノード側における集電性が第2アノード層28に起因して損なわれることを回避することが可能である。
【0073】
また、本実施形態によれば、第3アノード層30の電気伝導率は第1アノード層24よりも高くされてもよく、そのようにされたとすれば、電池セル10のアノード側における集電性を向上させることが可能である。
【0074】
また、本実施形態によれば、第2アノード層28の複数の周縁部切欠き282は、第2アノード層28の周縁部分28aに間隔を空け並んで形成されている。そして、第3アノード層30の切欠き内凸部303は、基準部301から突き出し、第2アノード層28の周縁部切欠き282内を通って第1アノード層24に接続されている。詳細に言えば、矩形形状を成す複合アノード層26の4つの側端26aのそれぞれでは、第3アノード層30の切欠き内凸部303と第2アノード層28とが側端26aの長手方向に沿って交互に並んで設けられている。従って、その周縁部切欠き282および切欠き内凸部303がなく第2アノード層28が複合アノード層26の側端26aの全長にわたって連続的に第1アノード層24の一方面241の周縁241aに接触している構成と比較して、電池セル10の焼成による反りを抑えることが可能である。このことは実験的に確認されている。
【0075】
また、本実施形態によれば、
図2に示すように、第2アノード層28の複数の貫通孔281は千鳥状に配置されているので、貫通孔281が直列に配置される構成と比較して、貫通孔281を大きくして集電性を確保しつつ、貫通孔281同士の間隔を大きくとることが容易である。
【0076】
また、本実施形態によれば、第2アノード層28に形成された複数の貫通孔281は、セル厚み方向DR1から見て、第2アノード層28の総面積のうちで20%から80%の面積を占めている。従って、電池セル10の焼成による反りを抑えることと、アノード側における集電性およびガス拡散性を確保することとを両立し易くなる。例えば、貫通孔281の面積が第2アノード層28の総面積のうちで20%を下回ると、第3アノード層30の電気抵抗およびガス拡散抵抗が大きくなることに起因して電池セル10の出力が低下する。その一方で、貫通孔281の面積が第2アノード層28の総面積のうちで80%を上回ると、第2アノード層28の強度低下に起因して、電池セル10の反りを十分に抑えることができなくなる。
【0077】
また、本実施形態によれば、電解質層16および第2アノード層28はそれぞれジルコニウム系酸化物を主成分として含有し、
図4のステップS207では、電解質層16が、第1アノード層24に対する第2アノード層28側とは反対側の最外層として焼成される。そのため、第2アノード層28の収縮率が上記反対側の最外層の収縮率に非常に近くなり、第2アノード層28によって電池セル10の反りを効果的に防止することが可能である。
【0078】
また、本実施形態によれば、
図4のステップS207では、電解質層16と第1アノード層24と第2アノード層28と共に第3アノード層30も同時に焼成される。従って、電解質層16等の焼成後に第3アノード層30を別工程で焼成する場合と比較して、電池セル10の製造工程全体を短縮することが可能である。
【0079】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明し、第1実施形態と同一または均等な部分については省略または簡略化して説明する。後述の第3実施形態でも同様である。
【0080】
図11は、本実施形態の複合アノード層26を示した断面図であって、
図2に相当する図である。
図11に示すように、本実施形態の電池セル10では、第2アノード層28の貫通孔281および周縁部切欠き282の形状が第1実施形態と異なっている。同様に、第3アノード層30の凸部302および切欠き内凸部303の形状も第1実施形態と異なっている。
【0081】
具体的には、複数の貫通孔281は全て矩形形状の孔、詳細には正方形形状の孔になっている。そして、その正方形形状の2つの対角線のうち一方の対角線は凸部並び方向DR2と平行になっており、他方の対角線はガス流通方向DR3と平行になっている。そして、周縁部切欠き282は、正方形形状の貫通孔281を2つに分断した一方と同じ形状を成している。
【0082】
本実施形態でも、前述の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。
【0084】
図12は、本実施形態の複合アノード層26を示した断面図であって、
図2に相当する図である。
図12に示すように、本実施形態の電池セル10では、第2アノード層28の貫通孔281および周縁部切欠き282の形状が第1実施形態と異なっている。同様に、第3アノード層30の凸部302および切欠き内凸部303の形状も第1実施形態と異なっている。
【0085】
具体的には、複数の貫通孔281は全て正六角形形状の孔になっている。そして、その正六角形形状が有する6辺のうちの2辺が凸部並び方向DR2と平行になっている。そして、周縁部切欠き282は、正方形形状の貫通孔281を2つに分断した一方と同じ形状を成している。
【0086】
本実施形態でも、前述の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0087】
(他の実施形態)
(1)上述の各実施形態において、第1アノード層24は例えばNi−YSZで構成されているが、他の材料、例えばNi−GDCで構成されていても差し支えない。
【0088】
(2)上述の各実施形態において、第2アノード層28は、グリーンシートが型抜きされて形成されるが、グリーンシートを使用せずに、スクリーン印刷などで形成されても差し支えない。その場合には、例えば、電解質層形成シート161、第1アノード層形成シート242、および、印刷された第2アノード層28の材料が同時に焼成され、その焼成後に、第3アノード層30の材料305、306が印刷され焼成される。また、そのときの凸部302および切欠き内凸部303の材料305の印刷は、第2アノード層28の材料の印刷に対する逆パターン印刷とされてもよい。
【0089】
(3)上述の各実施形態において、
図4のステップS201では、電解質層16用のグリーンシートと第2アノード層28用のグリーンシートとはそれぞれ別個に用意されるが、電解質層16用のグリーンシートが第2アノード層28用としても流用され、電解質層16用と第2アノード層28用とが同じグリーンシートとされることも考え得る。
【0090】
(4)上述の各実施形態において、
図4の製造工程では、中間層22は第1アノード層24の焼成後に印刷され焼成されるが、
図4のステップS201で、中間層22用のグリーンシートも用意され、ステップS207で、中間層22が、電解質層16、第1アノード層24、および第2アノード層28と同時に一体焼成されても差し支えない。
【0091】
そのように中間層22が第2アノード層28等と同時に一体焼成される場合には、焼成セル基板52は中間層22を含むものになる。すなわち、
図4のステップS207では、中間層22が、第1アノード層24に対する第2アノード層28側とは反対側の最外層として、電解質層16と第1アノード層24と第2アノード層28と同時に一体焼成される。
【0092】
そして、中間層22が第2アノード層28等と同時に一体焼成される場合には、電池セル10の反り抑制の観点から、第2アノード層28用のグリーンシートの主成分は、電解質層16用のグリーンシートの主成分と同じでもよいが、中間層22用のグリーンシートの主成分と同じにされること、すなわちセリウム系酸化物にされることが好ましい。そうなると、焼成後の第2アノード層28の主成分もセリウム系酸化物になり、この場合でも、第2アノード層28および中間層22は何れも、焼成時の収縮率が第1アノード層24よりも小さくなる。すなわち、第2アノード層28および中間層22は、第1アノード層24と比較した焼成時の収縮率の大小傾向が互いに同じ傾向になるように構成されていることとなる。
【0093】
このように第2アノード層28の主成分がセリウム系酸化物にされると、第2アノード層28の収縮率が、上記反対側の最外層の収縮率すなわち中間層22の収縮率に非常に近くなり、第2アノード層28によって電池セル10の反りを効果的に防止することが可能である。
【0094】
なお、第2アノード層28の材料として、ジルコニウム系酸化物およびセリウム系酸化物以外の材料が選択されても差し支えないが、第1アノード層24または第3アノード層30と反応してしまう材料が選択されることは望ましくない。また、中間層22用と第2アノード層28用とが同じグリーンシートとされることも考え得る。
【0095】
(5)上述の各実施形態において、電解質層16、中間層22、および第2アノード層28の焼成時の収縮率は何れも、第1アノード層24に比して小さいが、逆に、第1アノード層24に比して大きくても差し支えない。
【0096】
(6)上述の各実施形態において、
図4のステップS207では、第3アノード層30は、電解質層16、第1アノード層24、および第2アノード層28と同時に焼成されるが、電解質層16、第1アノード層24、および第2アノード層28の焼成後に、後から印刷され焼成されても差し支えない。
【0097】
(7)上述の各実施形態において、第3アノード層30の基準部301および凸部302はスクリーン印刷により形成されるが、スクリーン印刷以外の他の方法によって形成されても差し支えない。
【0098】
(8)上述の各実施形態において、
図1には、カソード側集電体12aの接触面123がカソード層18の他方面182に直接接触するように図示されているが、カソード層18とカソード側集電体12aとの間の電気的接触性を向上させるコンタクト層がその他方面182上に形成され、カソード側集電体12aはそのコンタクト層を介してカソード層18に電気的に接続されていても差し支えない。
【0099】
(9)上述の各実施形態において、電解質層16は例えばジルコニウム系酸化物で構成されているが、他の材料、例えばGDCで構成されていることも考え得る。
【0100】
(10)上述の各実施形態において、第2アノード層28の貫通孔281は全て同じ大きさで、第2アノード層28の全体に均等に分布しているが、全て同じ大きさである必要はなく、第2アノード層28内で何れかの方向に偏って分布していることも考え得る。
【0101】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。