(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面に溶融金属膜が付着され、連続的に上方に導出される金属帯の両面にガスを吹き付けて、前記溶融金属膜の膜厚を調節するステップを含む溶融金属めっき金属帯の製造方法において、
前記金属帯の幅方向の全体に対して噴射される第1の噴射ガスの前記金属帯への衝突位置よりも上流側における前記溶融金属膜の膜厚の変動を検出するステップと、
前記第1の噴射ガスの前記金属帯への衝突位置よりも上流側で、前記金属帯の少なくともエッジ部に対して、周期的に発生する前記溶融金属膜の膜厚変動の周波数に合わせて、第2の噴射ガスをパルス噴射するステップと、
を含む、溶融金属めっき金属帯の製造方法。
前記溶融金属の種類及び前記金属帯の搬送速度の少なくとも一つに基づいてあらかじめ決定される噴射圧で、前記第2の噴射ガスを噴射する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶融金属めっき金属帯の製造方法。
【背景技術】
【0002】
溶融金属めっき鋼帯の製造工程においては、連続搬送される鋼帯を溶融金属浴中に浸漬した後、溶融金属浴から鋼帯を導出するとともにガスワイピング装置にて溶融金属膜を所定の目付量に制御するようになっている。ガスワイピング装置は、溶融金属浴中から導出された鋼帯に付着している余剰の溶融金属を掻き取って膜厚を調整する機能を有している。このガスワイピングによって鋼帯の表裏から掻き取られた溶融金属の一部は、鋼帯から引きちぎれ、液滴状となって周囲に飛散する。この液滴はスプラッシュとも言われる。スプラッシュは、鋼帯に付着することにより疵を生じさせ、また、ワイピングノズルを詰まらせるなど操業に悪影響を与え得る。鋼帯に疵が発生するとめっき鋼帯の歩留まりの悪化につながる。また、ノズル詰まりは操業者によるノズル清掃といった作業負荷を増すことにつながる。
【0003】
ところで、昨今、溶融金属めっき金属板の一態様である溶融亜鉛めっき鋼板は、例えば自動車用の防錆鋼板として使用されるなど重要な品種として位置づけられている。そのため、めっき処理工程においても鋼帯の搬送速度を上昇させ、溶融亜鉛めっき鋼帯の生産効率を向上することによって生産コストを削減し、溶融亜鉛めっき鋼板の競争力の強化を図っている。
【0004】
一般的に搬送速度を高速化すると、鋼帯により持ち上げられる液膜量が増加する。そのため、高速化しても目付量が一定となるように、ワイピングノズルと鋼帯との距離の近接化や、ワイピングガス供給量の増大により、鋼帯表面へのワイピングガスの衝突圧を増やす必要がある。しかしながら、ワイピングガスの衝突圧の上昇はスプラッシュ発生量の増大につながるおそれがある。
【0005】
これに対して、特許文献1には、めっき鋼板の両端部におけるめっき層の過剰の付着を防ぐために、鋼板から外れているワイピングノズルの対向部に、ワイピングノズルから吹き付けられるガス流に乱れを発生させないようにする技術が開示されている。具体的に、特許文献1には、ワイピングノズルより上で、かつ、平行に補助ノズルを設置し、下方向に、かつ、鋼板中央部に向けて角度を設けてガスを吹き付け、鋼板端部における過剰の溶融金属めっき層を除去する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、高速搬送時においてもスプラッシュの発生を低減するために、ワイピングノズルの下方の鋼帯エッジより内側に補助ノズルを設け、補助ノズルから鋼帯面にガスを噴射する技術が開示されている。具体的に、特許文献2には、ガス噴射方向が鋼帯幅方向のセンターから鋼帯エッジに向かって、下向きでかつ鋼帯面に近づくように、鋼帯進行方向及び鋼帯面と所定角度を有するように補助ノズルを設けることが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、スプラッシュの発生を支障の無い程度に抑止しながらラインの高速化を達成するために、ガスワイピングノズルの上流側直前に、鋼帯の表裏両面の両エッジ部に対向して、エッジワイピングノズルを配設したエッジワイピング装置が開示されている。特許文献3に記載のエッジワイピングノズルは、鋼帯の進行方向に対して旋回自在かつ幅方向に移動可能になっており、ガスワイピングに先立って鋼帯の両エッジ部の過剰めっき金属の厚みを、スプラッシュ発生を防止できる値以下にする。
【0008】
また、特許文献4には、スプラッシュによるワイピングノズル詰まりを防止するために、ワイピングノズル下部の金属板エッジ付近に、金属板に付着した溶融めっき液に働く外力を金属板の幅中心部に向かう方向に変える方向変換手段を設けたガスワイピング装置が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
<<1.第1の実施の形態>>
<1−1.ガスワイピング装置の構成例>
まず、本発明の第1の実施の形態にかかる溶融金属めっき金属帯の製造方法を実施するために使用可能なガスワイピング装置について詳細に説明する。
図1及び
図2は、本実施形態にかかるガスワイピング装置10の構成例を概略的に示す模式図である。
図1は、鋼帯1の片方の面側から見たガスワイピング装置10の概略図であり、
図2は、鋼帯1の側方側から見たガスワイピング装置10の概略図である。ガスワイピング装置10は、主ワイピングノズル20と、膜厚変動計測部40と、補助ワイピングノズル30と、図示しない制御部とを備えている。本実施形態にかかるガスワイピング装置10は、溶融金属めっき鋼帯の製造ラインに設置されるものである。直前に行われる、鋼帯の表面に溶融金属を付着させる工程を経て、ガスワイピング装置10に鋼帯1が投入される。
【0024】
溶融金属の種類は、Feの融点より充分低い温度で溶融状態にあれば、特に制限は無いが、実用的には、例えば、Zn,Al,Sn,Pbの単体またはこれらの合金が例示される。あるいはこれらの金属又は合金に、例えばSi,P等の非金属元素、Ca,Mg,Sr等の典型金属元素、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu等の遷移金属元素を含有するものも含まれる。本実施形態では、スプラッシュの発生が特に問題となり得る溶融亜鉛めっき鋼帯の製造ラインに設置されるガスワイピング装置10を例に採って説明する。
【0025】
鋼帯1の表面に溶融亜鉛を付着させる方式は特に制限されない。例えば、鋼帯1を溶融亜鉛浴に浸漬した後に鉛直方向に引き上げる方式、電磁力により浮遊させた溶融亜鉛中に鋼帯1を通過させる方式、さらには、鋼帯1を水平方向に搬送しながらその上下から溶融亜鉛を供給する方式等があげられる。いずれにおいても、鋼帯1が溶融亜鉛と接触する部分では、溶融亜鉛がある程度溜まった状態にある。本実施形態では、鋼帯1を溶融亜鉛浴8に浸漬した後に鉛直方向に引き上げる例を示している。
【0026】
(1−1−1.主ワイピングノズル)
主ワイピングノズル20は、第1の噴射ガスを鋼帯1の幅方向の全体に対して噴射して、主に溶融金属膜Zの膜厚d0を制御するものである(以下、かかる制御を「主ワイピング」あるいは「主ワイピング制御」といい、第1の噴射ガスを「主ワイピングガス」ともいう。)。主ワイピングノズル20は、鋼帯1の片面あたり一つ備えられる。主ワイピングノズル20の形状については既存技術のものでよく、特に制限されない。高速搬送時のスプラッシュの抑制や薄目付化を達成するには、一般に、主ワイピングガスは水平方向に向けて噴射される。ただし、主ワイピングガスは水平面に対して下方に向けて噴射されてもよく、この場合、水平面に対する主ワイピングガスの噴射方向の成す角度が40°以下であることが好適である。より好ましくは30°以下である。
【0027】
図3及び
図4は、主ワイピング制御によって鋼帯1に付着した溶融亜鉛が掻き取られる様子を示している。鋼帯1に付着して持ち上げられた溶融亜鉛は、主ワイピングによって余剰分が流下液膜Z’として掻き落とされる。このとき、主ワイピングノズル20の下方の鋼帯1の表面に付着した溶融亜鉛膜Zの膜厚d0にばらつきが発生し、鋼帯1の表面には溶融亜鉛膜Zの表面波が形成される。膜厚d0のばらつきを有し、表面波が形成された溶融亜鉛膜Zにおいて、厚膜部5は周期的に発生する。
【0028】
このとき鋼帯1のエッジ部において発生するスプラッシュSは、発生の指標として、非特許文献1に記載の無次元数のウェーバ数Weによりある程度の予測が可能である。例えば、ウェーバ数Weは、主ワイピングガスの密度ρ
gas、主ワイピングガスの流速U
gas、溶融亜鉛の表面張力σl、溶融亜鉛膜Zの膜厚d0により、以下の式(1)で表すことができる。
【0030】
ウェーバ数Weが大きいほどスプラッシュSの発生が助長されるため、かかる式(1)から分かるように、
図3及び
図4に示した厚膜部5では、膜厚d0が大きいことから、スプラッシュSが発生しやすくなる。
【0031】
(1−1−2.膜厚変動計測部)
膜厚変動計測部40は、主ワイピングガスの鋼帯1への衝突位置の上流側で、溶融亜鉛膜Zの膜厚d0の変動を検出するために用いられる。本実施形態にかかるガスワイピング装置10では、第1のレーザー変位計41a及び第2のレーザー変位計41bにより膜厚変動計測部40が構成されている。第1のレーザー変位計41aは、主ワイピングガスの鋼帯1への衝突位置の上流側、すなわち、主ワイピングノズル20の下方側において、鋼帯1の両面における鋼帯1の幅方向の両側にそれぞれ設けられる。
【0032】
一方、第2のレーザー変位計41bは、主ワイピングガスの鋼帯1への衝突位置の下流側、すなわち、主ワイピングノズル20の上方側において、鋼帯1の両面における鋼帯1の幅方向の両側にそれぞれ設けられる。第1及び第2のレーザー変位計41a,41bから出射するレーザーは、鋼帯1の表面に対して垂直方向に入射する(
図7を参照。)。したがって、第1及び第2のレーザー変位計41a,41bにより、それぞれの計測位置での溶融亜鉛膜Zの表面までの最短距離を計測する。第1及び第2のレーザー変位計41a,41bの計測値は制御部に入力される。
【0033】
図5に示すように、第1のレーザー変位計41aにより計測される距離L
aの値は、余剰の溶融亜鉛が掻き取られる前の溶融亜鉛膜Zの表面までの距離を示す。第2のレーザー変位計41bにより計測される距離L
bの値は、余剰の溶融亜鉛が掻き取られた後の溶融亜鉛膜Zの表面までの距離を示す。第1及び第2のレーザー変位計41a,41bにおける距離の基準位置と鋼帯1との距離は互いに同一になるように設けられている。したがって、本実施形態にかかるガスワイピング装置10では、第2のレーザー変位計41bにより計測される距離L
b−1(L
b−2)から、第1のレーザー変位計41aにより計測される距離L
a−1(L
a−2)を減算した差分が、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsを表すこととなる。主ワイピングガスの鋼帯1への衝突位置の前後における距離の差分を求めることにより、鋼帯1が振動した場合であっても、溶融亜鉛膜Zの表面の位置のブレを排除して、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsを検出することができる((L
b−1−L
a−1)=(L
b−2−L
a−2))。
【0034】
第1及び第2のレーザー変位計41a,41bによる距離の計測位置は、鋼帯1のエッジ部の溶融亜鉛膜Zの膜厚d0の変動を検出できる位置であればよい。例えば、鋼帯1の幅方向における第1及び第2のレーザー変位計41a,41bの計測位置を、鋼帯1のエッジから10〜30mmの範囲内とすることが好ましく、15〜25mmの範囲内とすることがより好ましい。
【0035】
また、鋼帯1の搬送方向における第1及び第2のレーザー変位計41a,41bの計測位置を、それぞれ主ワイピングガスの衝突位置から20〜30mmの範囲内とすることが好ましい。すなわち、鋼帯1の搬送方向における第1のレーザー変位計41aの計測位置を、主ワイピングガスの衝突位置から下方側に20〜30mmの範囲内とすることが好ましい。より好ましくは、補助ワイピングノズル30から噴射される第2の噴射ガスの鋼帯1への衝突範囲内に第1のレーザー変位計41aの計測位置を位置させるとよい。かかる位置で第1のレーザー変位計41aにより距離の計測を行うことにより、補助ワイピングノズル30から噴射される第2の噴射ガスが吹き付けられた状態での溶融亜鉛膜Zの膜厚d0の変動を計測することができる。
【0036】
また、鋼帯1の搬送方向における第2のレーザー変位計41bの計測位置を、主ワイピングガスの衝突位置から上方側に20〜30mmの範囲内とすることが好ましい。かかる位置で第2のレーザー変位計41bによる距離の計測を行うことにより、鋼帯1の振動により鋼帯1の位置がずれる場合であっても、第1及び第2のレーザー変位計41a,41bそれぞれの計測位置での鋼帯1の位置のずれを小さくすることができる。したがって、第1及び第2のレーザー変位計41a,41bを用いた余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsの検出を、精度よく行うことができる。
【0037】
(1−1−3.補助ワイピングノズル)
補助ワイピングノズル30は、主ワイピングガスの鋼帯1への衝突位置よりも上流側で、鋼帯1の少なくともエッジ部に対して第2の噴射ガスを噴射可能なノズルである。補助ワイピングノズル30は、鋼帯1の両面における、鋼帯1の幅方向の外側にそれぞれ設けられ、鋼帯1のエッジ部の外側からエッジ部に向けて第2の噴射ガスを噴射する。かかるパルスワイピング制御は、鋼帯1のエッジ部に付着した溶融亜鉛膜Zの厚膜部5の膜厚d0を小さくして、エッジ部の溶融亜鉛膜Zの膜厚d0を平均化するための制御となっている。
【0038】
かかる補助ワイピングノズル30には、コンプレッサ等の高圧ガス供給装置が接続されており、制御部によって第2の噴射ガスを間欠噴射する制御が行われる(以下、かかる制御を「パルスワイピング」あるいは「パルスワイピング制御」といい、第2の噴射ガスを「パルスワイピングガス」ともいう。)。パルスワイピングガスの噴射圧は、溶融金属の種類や鋼帯の搬送速度によって異なる値とすることができる。適切な噴射圧は、あらかじめ実機によるシミュレーションを行って設定することができ、例えば、100〜250kPaとすることができる。
【0039】
図6及び
図7は、補助ワイピングノズル30から噴射されるパルスワイピングガスの噴射方向を示している。
図6に示すように、パルスワイピングガスの鋼帯1への衝突位置は、鋼帯1のエッジから0〜30mmの範囲内とすることが好ましく、5〜15mmの範囲内とすることがより好ましい。かかる衝突位置となるようにパルスワイピングガスを噴射することにより、ガスを鋼帯1の背面側に巻き込むことなく、鋼帯1のエッジ部にパルスワイピングガスを吹き付けることができる。
【0040】
また、鋼帯1の搬送方向における、主ワイピングガスの衝突位置と、パルスワイピングガスの衝突位置との距離L1を、10〜50mmの範囲内とすることが好ましく、10〜30mmの範囲内とすることがより好ましい。かかる位置に対してパルスワイピングガスを吹き付けることにより、主ワイピングガスと重ならないようにパルスワイピングガスを吹き付けて、溶融亜鉛膜Zの膜厚d0を効果的に平均化することができる。
【0041】
また、鋼帯1のエッジから、補助ワイピングノズル30のガス噴射口までの距離L2を、10〜30mmの範囲内とすることが好ましく、10〜20mmの範囲内とすることがより好ましい。かかる位置からパルスワイピングガスを噴射することにより、効果的にパルスワイピングを行いつつ、鋼帯1が振動した際に補助ワイピングノズル30が鋼帯1に接触することを防ぐことができる。
【0042】
また、補助ワイピングノズル30から噴射されるパルスワイピングガスは、水平方向に対して角度θ分下方に向けて噴射される。角度θは、例えば、0〜45°の範囲内の値とすることが好ましく、10〜30°の範囲内の値とすることがより好ましい。かかる角度θでパルスワイピングガスを噴射することにより、パルスワイピングにより吹き飛ばされる溶融亜鉛が主ワイピングノズル20側に向かって飛散することを防ぐことができる。
【0043】
また、
図7に示すように、補助ワイピングノズル30から噴射されるパルスワイピングガスは、鋼帯1の表面に対して角度αの方向から噴射される。角度αは、5〜30°の範囲内の値とすることが好ましく、10〜20°の範囲内の値とすることがより好ましい。かかる角度αでパルスワイピングガスを噴射することにより、パルスワイピングによって、鋼帯1のエッジ部に付着した溶融亜鉛膜Zの厚膜部5の膜厚d0を効率的に小さくすることができる。
【0044】
(1−1−4.制御部)
制御部は、補助ワイピングノズル30からガスを間欠噴射させるパルスワイピング制御を実行する。
図8は、本実施形態にかかるガスワイピング装置10の制御部50の構成を機能的に表したブロック図である。制御部50は、マイクロコンピュータを中心に構成されたものであって、膜厚変動演算部52と、パルス噴射制御部54とを備えている。具体的に、これらの各部は、例えば、マイクロコンピュータによるプログラムの実行により実現される機能部とすることができる。また、制御部50は図示しない記憶素子を備えている。かかる制御部50には、第1及び第2のレーザー変位計41a,41bの計測値が入力される。
【0045】
膜厚変動演算部52は、第1及び第2のレーザー変位計41a,41bの計測値L
a,L
bの入力を受け、主ワイピングガスが吹き付けられる直前の溶融亜鉛膜Zの膜厚d0の変動を演算する。具体的に、膜厚変動演算部52は、第2のレーザー変位計41bの計測値L
bから第1のレーザー変位計41aの計測値L
aを引いて余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsを算出する。膜厚変動演算部52は、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsの算出を継続的に行い、厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsX、膜厚dsの変動周波数F、現時点における膜厚dsの平均値ds_aveをそれぞれ算出する。このとき、第1及び第2のレーザー変位計41a,41bから入力される計測値から、ノイズを除去する処理を実行してもよい。
【0046】
パルス噴射制御部54は、膜厚変動演算部52で算出された膜厚dsの変動周波数Fに合わせて、補助ワイピングノズル30からガスを間欠噴射させる制御を行う。具体的に、パルス噴射制御部54は、算出された変動周波数Fでガスをパルス噴射させつつ、パルスワイピングガスの噴射タイミングをずらしながら、溶融亜鉛膜Zの膜厚d0が平均化されるように調整する。かかる制御を行うことにより、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsを小さく抑えるとともに平均化することができる。したがって、主ワイピングガスが鋼帯1に吹き付けられたときに、鋼帯1のエッジ部で発生するスプラッシュを低減することができる。
【0047】
なお、上述した膜厚変動演算部52及びパルス噴射制御部54による演算処理は、鋼帯1の両面における、鋼帯1の幅方向の両エッジ部ごとに実行されるようになっている。すなわち、本実施形態にかかるガスワイピング装置10の例では、四箇所のエッジ部ごとに上記の演算処理が行われる。
【0048】
<1−2.溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法の例>
ここまで、本実施形態にかかるガスワイピング装置10の構成例について説明した。次に、かかるガスワイピング装置10によるガスワイピング処理工程を含む溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法について説明する。本実施形態にかかる溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法において、鋼帯1の表面に溶融亜鉛を付着させて鉛直方向に搬送する工程や、鋼帯1に対して主ワイピングガスを吹き付けて余剰の溶融亜鉛を掻き取る工程については、既存技術の方法により実施することができる。したがって、以下の説明においては、補助ワイピングノズル30からガスを間欠噴射させるパルスワイピング制御について説明する。
【0049】
図9は、本実施形態にかかるパルスワイピング制御処理を示すフローチャートである。かかる制御処理は、鋼帯1の両面のそれぞれのエッジ部ごとに実行されるが、以下、一箇所のエッジ部に対するパルスワイピング制御処理について説明する。
【0050】
まず、制御部50は、ステップS10において、第1及び第2のレーザー変位計41a,41bの計測値を取得する。次いで、制御部50は、ステップS20において、第2のレーザー変位計41bの計測値L
bから第1のレーザー変位計41aの計測値L
aを引いて、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsを算出し、記憶する。次いで、制御部50は、ステップS30において、所定期間内に算出された膜厚dsのデータを基に、厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsX、膜厚dsの変動周波数F、膜厚dsの平均値ds_aveを算出する。このとき、所定の閾値以上の計測値を除いたり、データ群の最大値を除く等のノイズ除去の処理を行うようにしてもよい。
【0051】
次いで、制御部50は、ステップS40において、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsの平均値ds_aveに対する厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsXの比が、あらかじめ設定した閾値以上であるか否かを判別する。かかるステップS40は、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsのばらつきが大きいか否かを判別するための処理である。閾値は、例えば1.1とすることができるが、閾値はスプラッシュの発生状況に応じて適宜設定することができる。余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsの平均値ds_aveに対する厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsXの比が閾値未満である場合には(S40:No)、制御部50は、現在のパルスワイピング制御の状態を変更する必要が無いと判断し、ステップS50に進む。この場合、制御部50は、ステップS50においてパルスワイピング制御を現状維持とした後、ステップS10に戻る。
【0052】
具体的に、ステップS50では、現在、パルスワイピングが実施されていないのであれば停止状態が維持され、パルスワイピングが実施されているのであれば、現在の噴射タイミングのままガスの間欠噴射が継続される。つまり、主ワイピングガスの衝突位置の上流側で溶融亜鉛膜Zsの膜厚d0の変動幅がはじめから小さい場合には、パルスワイピング制御は実行されない。
【0053】
一方、ステップS40において、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsの平均値ds_aveに対する厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsXの比が閾値以上の場合には(S40:Yes)、制御部50は、パルスワイピング制御を継続する必要があると判断し、ステップS60に進む。ステップS60において、制御部50は、すでにパルスワイピング制御が実行中であるか否かを判別する。パルスワイピング制御が実行されていない場合には(S60:No)、制御部50は、ステップS70に進み、パルスワイピング制御を開始する。具体的に、制御部50は、ステップS30で算出した膜厚dsの変動周波数Fに合わせて、補助ワイピングノズル30からガスを間欠噴射し始める。このとき、パルスワイピング制御開始時の噴射タイミングは、余剰の亜鉛溶融膜Zsの厚膜部5の位置に必ずしも一致していなくてよい。パルスワイピング制御を開始した後は、ステップS10に戻る。
【0054】
一方、ステップS60において、パルスワイピング制御がすでに実行されている場合には(S60:Yes)、制御部50は、ステップS80に進み、パルスワイピングガスの噴射タイミングを調整する。かかるステップS80は、パルスワイピングガスの噴射タイミングが厚膜部5の位置に合うように、噴射タイミングをずらす処理を行うものである。具体的に、制御部50は、膜厚dsの変動周波数Fに合わせてパルス噴射されているパルスワイピングガスの噴射タイミングを所定時間早めるか、あるいは、遅らせる。
【0055】
好ましくは、今回の演算周期で算出された厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsX(n)と、前回の演算周期で算出された厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsX(n−1)とを比較し、膜厚dsXが小さくなる方向に噴射タイミングをずらすようにするとよい。ずらす時間の間隔は、例えば、10msとすることができる。ステップS80における噴射タイミングの調整は、ステップS40において、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsの平均値ds_aveに対する厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsXの比が閾値未満となるまで繰り返される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態にかかる溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法は、主ワイピングガスの衝突位置の上流側で、鋼帯1の両面のそれぞれのエッジ部に対して、膜厚dsの変動周波数Fと同一の周波数でパルスワイピングガスが吹き付けられる。その際に、噴射タイミングを調整しながらパルスワイピングガスが吹き付けられる。その結果、主ワイピングガスの噴射位置において、鋼帯1のエッジ部に付着した余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsを平均化して、厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsXを小さくすることができる。したがって、主ワイピングノズル20により主ワイピングガスを吹き付けた場合に、鋼帯1のエッジ部から発生するスプラッシュを低減することができる。そのため、搬送速度の高速化が可能になって、溶融亜鉛めっき鋼帯の歩留まりを維持しつつ、生産効率を高めることができる。
【0057】
<<2.第2の実施の形態>>
次に、本発明の第2の実施の形態にかかる溶融金属めっき金属帯の製造方法について説明する。本実施形態にかかる溶融金属めっき金属帯の製造方法は、パルスワイピングガスの噴射圧を調節しながらパルスワイピング制御を実行する点において、第1の実施の形態とは異なっている。以下、本実施形態にかかる溶融金属めっき金属帯の製造方法において実行されるパルスワイピング制御について説明する。なお、以下の説明において、ガスワイピング装置の構成については、
図1及び
図2を参照して説明を行う。
【0058】
<2−1.制御部>
図10は、本実施形態にかかるガスワイピング装置10の制御部50Aの構成を機能的に表したブロック図である。制御部50Aは、マイクロコンピュータを中心に構成されたものであって、膜厚変動演算部52と、パルス噴射制御部54と、噴射圧制御部56とを備えている。具体的に、これらの各部は、例えば、マイクロコンピュータによるプログラムの実行により実現される機能部とすることができる。このうち、膜厚変動演算部52及びパルス噴射制御部54は、第1の実施の形態にかかる制御部50の膜厚変動演算部52及びパルス噴射制御部54と同一の構成とすることができる。
【0059】
噴射圧制御部56は、補助ワイピングノズル30から噴射するパルスワイピングガスの噴射圧の制御を行う。かかる噴射圧の制御は、パルス噴射制御部54により、噴射タイミングを調整しながら厚膜部5に対してパルスワイピングガスを吹き付けたにもかかわらず、溶融亜鉛膜Zの膜厚d0が低減あるいは平均化されない場合に実行される。具体的に、ガスワイピング開始時に、噴射圧制御部56は、パルスワイピングガスの噴射圧を、相対的に小さい値に設定された初期噴射圧に設定する。その後、パルス噴射制御部54により、溶融亜鉛膜Zの膜厚d0の変動周波数F分、噴射タイミングをずらしたにもかかわらず膜厚d0が低減あるいは平均化されない場合に、噴射圧制御部56は、噴射圧を所定の大きさ分増大する。噴射圧は、例えば、補助ワイピングノズル30に高圧ガスを供給するコンプレッサの出力を調整することによって制御される。
【0060】
噴射圧制御部56は、溶融亜鉛膜Zの膜厚d0が低減あるいは平均化されるまで、噴射圧の増大を繰り返す。かかる制御を行うことにより、溶融亜鉛の粘度や鋼帯1の搬送速度が異なる場合であっても、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsを小さく抑えるとともに平均化することが可能な最適な噴射圧で、パルスワイピングガスを噴射させることができる。したがって、あらかじめ噴射圧を求めることを要せずに、様々な溶融亜鉛に対応して、鋼帯1のエッジ部で発生するスプラッシュを低減することができ、汎用性を持たせることができる。
【0061】
なお、噴射圧制御部56による演算処理も、鋼帯1の両面における、鋼帯1の幅方向の両エッジ部ごとに実行される。すなわち、本実施形態にかかるガスワイピング装置10の例では、四箇所のエッジ部ごとに上記の演算処理が行われる。
【0062】
<2−2.溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法の例>
次に、本実施形態にかかるガスワイピング装置10によるガスワイピング処理工程を含む溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法について説明する。本実施形態においても、第1の実施の形態と同様に、パルスワイピング制御処理について説明する。
図11は、本実施形態にかかるパルスワイピング制御処理を示すフローチャートである。かかる制御処理は、鋼帯1の両面のそれぞれのエッジ部ごとに実行されるが、以下、一箇所のエッジ部に対するパルスワイピング制御処理について説明する。
【0063】
制御部50Aは、第1の実施の形態にかかるパルスワイピング制御処理のステップS10〜ステップS70と同様の手順に沿って、ステップS110〜ステップS170の各処理を実行する。本実施形態では、ステップS160において、パルスワイピング制御がすでに実行されている場合には(S160:Yes)、制御部50Aは、ステップS180に進み、噴射タイミングの調整が、膜厚dsの変動周波数Fの一周期分に渡って終了したか否かを判別する。かかる判別は、例えば、噴射タイミングの調整回数を示すカウンタ値が閾値に到達しているか否かにより行うことができる。あるいは、かかる判別は、噴射タイミングをずらした幅が、膜厚dsの変動周期に到達しているか否かによって判定してもよい。
【0064】
噴射タイミングの調整が一周期分に渡って終了していない場合には(S180:No)、制御部50Aは、ステップS190に進み、第1の実施の形態にかかるステップS80と同様にして、パルスワイピングガスの噴射タイミングを調整する。このとき、制御部50Aは、噴射タイミングを調整した回数のカウンタを1増やす。噴射タイミングの調整が一周期分に渡って終了するまで繰り返される間に、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsの平均値ds_aveに対する厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsXの比が閾値未満となれば、パルスワイピングガスの噴射圧は現在の圧力で維持されることになる。
【0065】
一方、ステップS180において、噴射タイミングの調整が一周期分に渡って終了していた場合には(S180:Yes)、制御部50Aは、ステップS200に進み、噴射タイミングの調整回数を示すカウンタ値をリセットするとともに噴射圧を調整する。かかるステップS200は、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsが平均化されて厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsXが低減されるように、噴射圧を徐々に上昇させる処理を行うものである。具体的に、制御部50Aは、パルスワイピングガスの噴射圧を、相対的に小さい値の初期噴射圧から段階的に増大させる。
【0066】
噴射圧を、小さい値から段階的に増大させることにより、パルスワイピングガスの噴射圧が大きすぎることによって、パルスワイピングガスの衝突位置の溶融亜鉛膜Zの膜厚d0が小さくなって表面波が形成されることを防ぐことができる。増大させる噴射圧の幅は、例えば、20kPaとすることができる。ステップS200における噴射圧の調整は、ステップS140において、余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsの平均値ds_aveに対する厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsXの比が閾値未満となるまで繰り返される。
【0067】
以上説明したように、本実施形態にかかる溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法は、主ワイピングガスの衝突位置の上流側で、鋼帯1の両面のそれぞれのエッジ部に対して、膜厚dsの変動周波数Fと同一の周波数でパルスワイピングガスが吹き付けられる。その際に、噴射タイミングを調整しつつ、さらに噴射圧を調整しながら、パルスワイピングガスが吹き付けられる。その結果、主ワイピングガスの噴射位置において、鋼帯1のエッジ部に付着した余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsを平均化して、厚膜部5における余剰の溶融亜鉛膜Zsの膜厚dsXを小さくすることができる。したがって、主ワイピングノズル20により主ワイピングガスを吹き付けた場合に、鋼帯1のエッジ部から発生するスプラッシュを低減することができる。そのため、搬送速度の高速化が可能になって、溶融亜鉛めっき鋼帯の歩留まりを維持しつつ、生産効率を高めることができる。また、本実施形態にかかるガスワイピング装置10は、噴射圧を調整することができるため、溶融亜鉛の粘度や、鋼帯1の搬送速度にかかわらず使用することができ、汎用性に優れたものとなる。
【実施例】
【0068】
次に、本実施形態の溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法の実施例について説明する。
【0069】
(1)パルスワイピングによる膜厚への影響確認
まず、鋼帯1を水に浸漬した後に鉛直方向に引き上げつつ、第1の実施の形態にかかるガスワイピング装置10の補助ワイピングノズル30によりパルスワイピングガスを吹き付けながら、水の膜厚変動を観測した。鋼帯1に対するパルスワイピングガスの衝突位置は、水面から400mmの高さとした。また、鋼帯1の搬送速度は30m/分、60m/分とし、それぞれについて、パルスワイピングガスのパルス周期を10Hz、パルスワイピングガスの噴射圧を200kPa、一回当たりの噴射期間を10msとした。
図12に膜厚の観測結果を示す。
【0070】
図12に示すように、水中から引き上げられる鋼帯1に対して、パルスワイピングガスを吹き付けることによって、鋼帯1の搬送速度にかかわらずパルスワイピングガスの衝突位置の膜厚を小さくできることが分かった。なお、今回のパルスワイピングガスの噴射圧及び噴射時間の条件では、水の膜厚が100〜200μm小さくなっていた。
【0071】
(2)溶融亜鉛膜の膜厚の変動周波数
次に、第1の実施の形態にかかるガスワイピング装置10のうち、補助ワイピングノズル30を使用せずに主ワイピングを行い、主ワイピングノズル20の下方側での溶融亜鉛膜Zの膜厚変動を観察した。鋼帯1の搬送速度は150m/分、180m/分とした。また、搬送速度150m/分のときの主ワイピングガスの噴射圧は50kPaとし、搬送速度180m/分のときの主ワイピングガスの噴射圧は70kPaとした。使用した鋼帯1の幅は400mmであった。
【0072】
それぞれの条件で主ワイピングを行い、観測された厚膜部の発生間隔を
図13及び
図14に示す。
図13に示すように、鋼帯1の搬送速度が150m/分の場合の厚膜部5の発生周波数(膜厚の変動周波数)は、約15Hzであった。また、
図14に示すように、鋼帯1の搬送速度が180m/分の場合の厚膜部5の発生周波数(膜厚の変動周波数)は、約19Hzであった。かかる観測実験により、主ワイピングによって発生する流下液膜により、厚膜部5が所定の周波数で発生することが分かった。
【0073】
(3)ウェーバ数Weによるスプラッシュ疵の低減効果
次に、パルスワイピングによるスプラッシュ疵の抑制効果を、上述した式(1)に示すウェーバ数Weを用いて評価した。このとき、鋼帯1に付着して持ち上げられる溶融亜鉛膜Zの膜厚d0を、非特許文献2を参考にして、以下の式(2)を用いて算出した。
【0074】
【数2】
【0075】
鋼帯1に付着して持ち上げられる溶融亜鉛膜Zの膜厚d0を平均膜厚としたときに、上記式(2)における膜厚d0を算出する際の膜厚係数TはT≒3.7×10
−4であった。具体的に、搬送速度が180m/分のときの持ち上げ膜厚d0を631μm、搬送速度が190m/分のときの持ち上げ膜厚d0を648μm、搬送速度が200m/分のときの持ち上げ膜厚d0を665μm、搬送速度が210m/分のときの持ち上げ膜厚d0を682μmとして、膜厚係数Tを算出した。また、
図13及び
図14に示したように、膜厚d0は周期的に変動していることから、厚膜部の膜厚を平均膜厚の120%とし、薄膜部の膜厚を平均膜厚の80%とした。さらに、パルスワイピングの実施時においては、膜厚平均化の効果として、平均膜厚に均一化されるものと仮定した。
【0076】
上記仮定のもとに算出したウェーバ数Weを
図15に示す。現状において、パルスワイピングを実施しない条件下で、鋼帯1の搬送速度が180m/分を超えるとスプラッシュ疵が増加することを踏まえ、
図15に示すように、搬送速度が180m/分の条件下で、パルスワイピングを実施しないときの厚膜部のウェーバ数We=66.5を、スプラッシュ疵発生の有無の閾値とする。式(1)による計算上では、パルスワイピングを実施することにより、搬送速度が200m/分以下のすべての条件下で、ウェーバ数Weを閾値以下とすることができる。すなわち、パルスワイピングを実施することにより、鋼帯1の搬送速度を、計算上、180m/分から200m/分に上昇させても、スプラッシュ疵の発生を抑えることができることが分かった。
【0077】
(4)実施例
次に、第1の実施の形態にかかるガスワイピング装置10を用いて、溶融亜鉛浴から鉛直方向に引き上げられる幅1,000mmの鋼帯1に対して主ワイピングを行うにあたり、パルスワイピングの実施の有無によるスプラッシュ疵の発生状況を比較した。パルスワイピングは、第1の実施の形態で説明したフローチャートに従って実行した。以下の実施例及び比較例において、主ワイピングを実施する際の噴射圧は50kPa、主ワイピングガスの衝突位置からパルスワイピングガスの衝突位置までの距離は10mm、補助ワイピングノズル30のガス噴射口から鋼帯1のエッジまでの距離は10mmとした。また、パルスワイピングを実施する際の噴射方向が水平方向に対して成す角度θは15°、鋼帯1の表面に対して成す角度αは15°とした。
【0078】
(実施例1〜6)
実施例1〜6では、鋼帯1の搬送速度を150m/分とした。この場合、第1及び第2のレーザー変位計41a,41bの計測値に基づき求められた厚膜部の発生周期は15Hzであった。したがって、実施例1〜6では、パルスワイピングガスの噴射周期を15Hzとしてパルスワイピングを行うとともに、主ワイピングを実施した。実施例1〜6は、パルスワイピングガスの噴射圧を、50〜300kPaまで50kPa間隔に設定して、それぞれパルスワイピングを行った。
【0079】
(実施例7)
実施例7では、鋼帯1の搬送速度を180m/分とした。この場合、第1及び第2のレーザー変位計41a,41bの計測値に基づき求められた厚膜部の発生周期は19Hzであった。したがって、実施例7では、パルスワイピングガスの噴射圧を200kPa、噴射周期を19Hzとしてパルスワイピングを行いながら、主ワイピングを実施した。
【0080】
(比較例1)
比較例1では、鋼帯1の搬送速度を150m/分とし、パルスワイピングを行わずに、主ワイピングを実施した。
【0081】
実施例1〜8及び比較例1によるスプラッシュ疵の発生状況の評価結果を表1に示す。スプラッシュ疵の発生状況の評価は以下のように行った。
◎:鋼帯1000m当たりのスプラッシュ疵が2個未満
○:鋼帯1000m当たりのスプラッシュ疵が2個以上5個未満
△:鋼帯1000m当たりのスプラッシュ疵が5個以上10個未満
×:鋼帯1000m当たりのスプラッシュ疵が10個以上
【0082】
【表1】
【0083】
表1から分かるように、比較例1では、スプラッシュ疵が10個以上発生しているのに対して、実施例1〜6では、同一の搬送速度で、噴射圧を50〜300kPaとしてパルスワイピングを実施したことにより、スプラッシュ疵の発生が低減した。この実施例の条件下では、噴射圧が150〜200kPaとすることが特に有効である。また、搬送速度を上昇させた実施例7においても、搬送速度を高めたにもかかわらず、スプラッシュ疵の発生を効果的に低減することができた。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0085】
例えば、上記の実施形態においては、パルスワイピングガスを鋼帯1のエッジ部のみに吹き付ける例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。補助ワイピングノズル30を、鋼帯1の幅方向の中央部にも配置して、鋼帯1の中央部にもパルスワイピングガスを吹き付けるように構成することもできる。このように構成することによって、鋼帯1の幅方向の全体に渡って溶融亜鉛膜Zの膜厚d0が平均化され、鋼帯1全体からのスプラッシュの発生を低減することができるとともに、最終的に形成される溶融亜鉛膜Zの膜厚d0を均一にすることができる。