(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プラズマ加熱中において、ストッパー受けより下方にある可動式ストッパーを前進位置とし、ストッパー受けより上方にある可動式ストッパーを後退位置とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ加熱装置の使用方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
プラズマ加熱装置のトーチが溶融金属に浸漬するトラブルは、停電時のほか、トーチ駆動制御系の異常によっても発生し得る。特許文献3に記載の方法では、停電時もトーチ駆動制御系異常時も、トーチが溶融金属へ浸漬することを防ぐことは困難である。特許文献4に記載の方法では、停電時には対応できるものの、トーチ駆動制御系の異常には対応できない。また特許文献4に記載の方法では、着火時においてトーチと溶融金属の間のギャップが小さい場合、トーチが溶融金属に浸漬しないようにするためには、駆動系からカウンターウェイトへの切り替えを非常に短い時間で実施する必要がある。更に、カウンターウェイトはトーチ構成部分以上の重量が必要となるため、基礎部分に大きな負荷がかかり、基礎部分の劣化や、構造補強等の設備投資額が増大する課題もある。
【0010】
タンディッシュ内の溶融金属をプラズマ加熱する場合、タンディッシュ内の溶融金属面高さは、操業状態による変動や、タンディッシュ形状の個体差(耐火物施工など)によっても変化するため、溶融金属面の位置は一定ではない。特許文献5に記載の装置においては、ストッパー位置によって定まるプラズマトーチ下限位置は固定であるため、溶融金属面高さが一定ではない状況では、溶融金属面高さが高くなった場合にストッパーによってトーチが溶融金属へ浸漬することを防ぐことができない。
【0011】
本発明は、プラズマ加熱時の溶融金属面高さが一定ではない操業条件において、停電時のほか、トーチ駆動制御系の異常があったとしても、トーチが溶融金属へ浸漬することを防止できるプラズマ加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)連続鋳造中の溶融金属をプラズマ加熱するプラズマ加熱装置であって、プラズマ加熱用のトーチは昇降可能であり、トーチの昇降と共に移動するストッパー受けを有し、
前記ストッパー受けの移動範囲内にトーチ落下防止用のストッパーをn個(n≧2)配置し、当該n個のストッパーのうちの少なくともn−1個は可動式ストッパーであり、可動式ストッパーは前進位置と後退位置の間で位置変更可能であり、ストッパーが前進位置にあるときはストッパー受けはストッパーに阻まれてストッパーよりも下方に移動することができず、ストッパーが後退位置にあるときはストッパーはストッパー受けの移動を妨げないことを特徴とするプラズマ加熱装置。
(2)プラズマ加熱中の溶融金属面とトーチ先端との間の距離をT
gとし、上からi番目とi−1番目のストッパー間の距離をP
i-1(i=2〜n)としたとき、下記(1)式を満足することを特徴とする上記(1)に記載のプラズマ加熱装置。
20mm≦P
i-1≦T
g/cosθ (1)
ただし、θはトーチ昇降経路と鉛直方向との間の角度である。
(3)上からi番目のストッパーとストッパー受けとの間隔をD
iとし、ストッパー受けがストッパーよりも上方にあるときにD
iを正の値とし、距離D
iについて所定の閾値C
Tを予め定め、
トーチを下降動作させるに際し、前記距離D
iがC
Tよりも小さくなったらi番目のストッパーを後退動作させ、トーチを上昇動作させるに際し、前記距離D
iがC
Tよりも大きくなったらi番目のストッパーを前進動作させることを特徴とする上記(1)に記載のプラズマ加熱装置。
(4)前記所定の閾値C
Tを10〜30mmとすることを特徴とする上記(3)に記載のプラズマ加熱装置。
(5)プラズマ加熱中の溶融金属面とトーチ先端との間の距離をT
gとし、上からi番目とi−1番目のストッパー間の距離をP
i-1(i=2〜n)としたとき、下記(2)式を満足することを特徴とする上記(3)又は(4)に記載のプラズマ加熱装置。
20mm≦(P
i-1+C
T)≦T
g/cosθ (2)
ただし、θはトーチ昇降経路と鉛直方向との間の角度である。
(6)プラズマ加熱中のトーチ先端位置として、定常加熱時のトーチ先端位置を用いてT
gを定めることを特徴とする上記(2)又は(5)に記載のプラズマ加熱装置。
(7)プラズマ加熱中のトーチ先端位置として、着火時のトーチ先端位置を用いてT
gを定めることを特徴とする上記(2)又は(5)に記載のプラズマ加熱装置。
(8)プラズマ加熱中において、ストッパー受けより下方にある可動式ストッパーを前進位置とし、ストッパー受けより上方にある可動式ストッパーを後退位置とすることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のプラズマ加熱装置の使用方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプラズマ加熱装置は、トーチの昇降と共に移動するストッパー受けと、トーチ落下防止用のストッパーをn個(n≧2)配置し、少なくともn−1個は可動式ストッパーであり、可動式ストッパーは前進位置と後退位置の間で位置変更可能であり、プラズマ加熱中において、ストッパー受けより下方にある可動式ストッパーを前進位置とし、ストッパー受けより上方にある可動式ストッパーを後退位置とすることにより、タンディッシュ内の溶融金属面の位置が最低溶融金属面よりも高い場合であっても、トーチ駆動制御系の異常が発生してトーチが下降したとき、トーチが溶融金属に浸漬するトラブルを防止することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、連続鋳造中の溶融金属をプラズマ加熱するプラズマ加熱装置であって、プラズマ加熱用のトーチは昇降可能としている。トーチの昇降機構については種々の機構を用いることができる。特許文献3、5に記載のように、トーチを装着した移動体をワイヤでつり下げて昇降する機構、特許文献4に記載のように、モーターでジャッキネジを回転させてトーチのトラベリング移動体を移動させる機構、その他、どのような方法を採用してもよい。以下、トーチの昇降機構の駆動装置として電動シリンダを用いた場合を例にとって説明する(
図1)。
【0016】
電動シリンダ3は、その内部に進退アーム4を備えている。電動モーター1の回転がギアボックス2を経由して電動シリンダ3に伝えられ、進退アーム4が電動シリンダ3の一端から進出し、あるいは電動シリンダ3に退入する。プラズマ加熱装置の固定フレーム6には昇降アーム7が昇降可能に設置されている。昇降アーム7の上端が電動シリンダ3の進退アーム4先端と接続される。昇降アーム7の下端にはプラズマ加熱用のトーチ12が接続される。また、本発明のストッパー受け8も、この昇降アーム7に接続すると好ましい。
【0017】
電動シリンダ3の進退アーム4の進出と退入によって昇降アーム7が下降・上昇し、それに伴ってプラズマ加熱用のトーチ12が下降・上昇する。トーチ12とストッパー受け8がともに昇降アーム7に接続されるので、ストッパー受け8はトーチ12の昇降と共に移動することとなる。
【0018】
トーチ12を昇降させる昇降経路14は、鉛直としても良く、あるいは鉛直から傾いた経路としても良い。
図2に示すように、昇降経路14と鉛直方向との間の角度をθと置く。昇降経路14が鉛直であればθ=0°となる。
【0019】
プラズマ加熱を行わない待機状態では、
図1(a)に示すように、トーチ12を上昇させて待機している。プラズマ加熱を行うに際してトーチを下降し、
図1(b)に示すように、トーチ12の先端をタンディッシュ内溶融金属面13の近傍の所定の位置に配置する。
【0020】
前述のとおり、タンディッシュ内の溶融金属面高さは、操業状態による変動や、タンディッシュ形状の個体差(耐火物施工など)によっても変化するため、溶融金属面の位置は一定ではない。通常の操業範囲内で、想定される最も低い溶融金属面を「最低溶融金属面」と呼ぶ。ただし、所定のチャージ処理中におけるプラズマ加熱中の溶融金属面の位置については、取鍋からの溶融金属注入量をタンディッシュからの溶融金属流出流に合致させるよう、取鍋スライディングノズル開度を制御しているので、溶融金属面の位置が一定に保持される。
【0021】
プラズマ加熱開始に際しては、トーチを待機位置から下降させ、溶融金属面とトーチ先端との間の距離が所定のT
gとなるように調整を行う(
図1(b))。プラズマ加熱を行っている際に溶融金属面が変動した場合にも、溶融金属面の変動に対応してトーチ先端位置を調整する。例えば、プラズマ加熱開始時にタンディッシュ内の溶融金属面位置を実測し、溶融金属面とトーチ先端との間の距離が所定のT
gとなるように調整を行う。同時にタンディッシュ及び溶融金属重量を計測し、プラズマ加熱中においては、計測した重量の変化から溶融金属面位置の変動を推定し、トーチ先端位置を調整することができる。
【0022】
本発明は、プラズマ加熱時の溶融金属面高さが一定ではない操業条件において、トーチが溶融金属へ浸漬することを防止するものである。
【0023】
本発明は、前述のとおりトーチの昇降と共に移動するストッパー受け8を有するとともに、ストッパー受け8の移動範囲内にトーチ落下防止用のストッパー9をn個(n≧2)配置している。当該n個のストッパー9のうちの少なくともn−1個は可動式ストッパー9aであり、残りの1個は固定式ストッパー9bとすることができる。n個のストッパーのうち、最下端に位置するストッパー9を固定式ストッパー9bとする。
図1、2の例ではストッパーの個数n=2であり、2個とも可動式ストッパーである。
図3〜5の例ではストッパーの個数n=3であり、上段と中段が可動式ストッパー9a、下段が固定式ストッパー9bの例である。可動式ストッパー9aは前進位置21と後退位置22の間で位置変更可能であり、ストッパーが前進位置21にあるときはストッパー受け8はストッパーに阻まれてストッパーよりも下方に移動することができず、ストッパーが後退位置22にあるときはストッパーはストッパー受けの移動を妨げない。
【0024】
ストッパー受け8はトーチ12の昇降とともに移動する。溶融金属面の位置が、想定される最も低い最低溶融金属面である場合に、プラズマ加熱時のトーチ位置は最も低い位置となる。ストッパーのうち最下段に配置する固定式ストッパーは、タンディッシュ内溶融金属面位置が最低溶融金属面である場合に、プラズマ加熱時においてストッパー受け位置よりも低い位置となるように配置される。そのため、プラズマ加熱時の溶融金属面が通常の範囲内でいずれの高さであっても、ストッパー受けが固定式ストッパーに阻まれて所定の位置に配置できない、という事態には至らない。
【0025】
タンディッシュ内の溶融金属面の位置が最低溶融金属面よりも高い場合、プラズマ加熱時においてストッパー受けの位置は最下段のストッパーの位置よりも高い位置となる。このままでは、トーチ駆動制御系の異常が発生してトーチが下降したとき、ストッパー受けが最下段のストッパー位置に至るまで下降を止めることができないので、トーチ先端が溶融金属に浸漬する懸念が生じる。
【0026】
本発明は前述のとおり、n個のストッパーのうちの少なくともn−1個は可動式ストッパーであり、可動式ストッパーは固定式ストッパーよりも上方に配置されている。n個のストッパーすべてを可動式ストッパーとしても良い。タンディッシュ内の溶融金属面の位置が最低溶融金属面よりも高い場合であって、プラズマ加熱時においてストッパー受けの位置よりも下方に位置することとなった可動式ストッパーについては、ストッパーを前進位置とする。プラズマ加熱時においてストッパー受けの位置よりも上方に位置する可動式ストッパーについては、ストッパーを後退位置とする。トーチ駆動制御系の異常が発生してトーチが下降したとき、ストッパー受けは、ストッパーが前進位置にある可動式ストッパーのうちで最も高い位置にある可動式ストッパーの位置で阻まれ、それよりも下方に移動することができない。即ち、本発明において、タンディッシュ内の溶融金属面の位置が最低溶融金属面よりも高い場合であっても、トーチ駆動制御系の異常が発生してトーチが下降したとき、トーチが溶融金属に浸漬するトラブルを防止することが可能になる。
【0027】
隣接するストッパー間の距離Pが短いほど、トーチ駆動制御系の異常が発生したときのトーチ異常下降量を少なくすることができるので好ましい。ストッパーの個数nについては、タンディッシュ内の溶融金属面位置として最も高い位置と最も低い位置とを想定し、両者の位置差L
Dと、隣接するストッパー間の距離Pと、トーチ昇降経路と鉛直方向との間の角度θとから以下のように算出することができる。
n−1=L
D/(P・cosθ) (3)
【0028】
プラズマ加熱中の溶融金属面とトーチ先端との間の距離をT
gとする。また、上からi番目とi−1番目のストッパー間の距離をP
i-1(i=2〜n)とする。
【0029】
プラズマ加熱中に制御系異常でトーチが異常下降した際、本発明ではストッパー受けよりも下方にある最も近いストッパーにストッパー受けが接触することにより、異常下降が停止する。プラズマ加熱中の溶融金属面とトーチ先端との間は距離T
gであるから、異常下降量の鉛直成分がT
g以下であれば、トーチが溶融金属に浸漬する懸念を払拭できる。そして、異常下降量の上限は、隣接するストッパー間の距離P
i-1からP
i-1・cosθと計算できるので、P
i-1≦T
g/cosθであればトーチは溶融金属に浸漬しない。また、隣接するストッパー間の距離P
i-1の下限は、トーチ停止精度の影響により、20mm以上にすることが望ましい。即ち、下記(1)式を満たすこととすると好ましい。
20mm≦P
i-1≦T
g/cosθ (1)
【0030】
具体的に
図3に基づいて説明する。以下、上からi番目のストッパーとストッパー受けとの間隔をD
iとし、ストッパー受けがストッパーよりも上方にあるときにD
iを正の値とする。
図3(a)では、ストッパー受け8が上段の可動式ストッパー9a1よりも高い位置にありD
1が正の値であり、上段の可動式ストッパー9a1を含めてすべての可動式ストッパーが前進位置にある。この状態でプラズマ加熱中にトーチ異常下降が生じた場合、ストッパー受け8が距離D
1だけ移動して上段のストッパー9a1に接触して異常下降が終了する。
図3(b)では、ストッパー受け8がちょうど上段の可動式ストッパー9a1の位置にあり、上段の可動式ストッパー9a1を含めてすべての可動式ストッパーが前進位置にある。この状態でプラズマ加熱中にトーチ異常下降が生じた場合、すでにストッパー受け8は上段のストッパー9a1にほぼ接触状態にあるので、実際には下降しない。
図3(c)では、ストッパー受け8がちょうど上段の可動式ストッパー9a1の位置にあり、上段の可動式ストッパー9a1は後退位置、中段の可動式ストッパー9a2は前進位置にある。上段と中段のストッパー間の距離P
1であるから、D
2=P
1であり、この状態でプラズマ加熱中にトーチ異常下降が生じた場合、ストッパー受け8が距離D
2=P
1だけ移動して中段のストッパー9a2に接触して異常下降が終了する。隣接するストッパー間の距離P
i-1が上記(1)式を満たしていれば、トーチの異常下降による垂直方向下降量がT
gを超えることはない。
【0031】
移動式ストッパーの前進・後退動作については、制御系が正常に作動しているのであれば、自動的に行うこととすると好ましい。ここで、さらに、距離D
iについて所定の閾値C
Tを予め定める。本発明で好ましくは、i=1〜n−1番目の各移動式ストッパーについて、距離D
iがC
Tよりも小さいかマイナスであればストッパー位置を後退位置とし、距離D
iがC
Tよりも大きければストッパー位置を前進位置とする。具体的には、トーチを下降動作させるに際し、距離D
iがC
Tよりも小さくなったらi番目のストッパーを後退動作させ、トーチを上昇動作させるに際し、前記距離D
iがC
Tよりも大きくなったらi番目のストッパーを前進動作させる。
図4(a)では、1番目のストッパー9a1との距離D
1がC
Tより大きいので1番目のストッパー9a1は前進位置21にある。トーチを下降動作させ、下降中の
図4(b)の位置で距離D
1がC
Tに等しくなり、1番目のストッパー9a1が後退動作する。
図4(c)の状態でトーチ先端と溶融金属面の距離が目標であるT
gとなり、下降動作が完了する。このとき、1番目のストッパー9a1は後退位置22にあり、D
2>C
Tであるから2番目のストッパー9a2は前進位置21のままである。これにより、トーチの上昇・下降動作が完了してプラズマ加熱を開始するに際し、ストッパー受けよりも下方にあってストッパー受けとの距離がC
T以上であるストッパーは前進位置に配置されることとなる。制御異常が発生した際には、前進位置にあるストッパーのうちで一番高い位置にあるストッパーにおいてストッパー受けの下降が阻まれる。
【0032】
閾値C
Tの値は小さいほど好ましいが、あまりに小さくすると、トーチ下降時にストッパーが後退するより先にストッパー受けが当該ストッパーに衝突する可能性が生じる。閾値C
Tを10〜30mmとすることにより、このような問題なく制御を行うことができる。
【0033】
以上の制御を行うと、前進位置にあるストッパーのうちの最上段がi番目であるとしたとき、ストッパー受けとストッパーとの距離の最大値は、(P
i-1+C
T)となる。従って、この状態で制御異常が発生してトーチが異常下降し、i番目のストッパーで下降が阻止されるとすると、異常発生から下降終了までのトーチの下降量が
(P
i-1+C
T)・cosθ
となる。プラズマ加熱中に制御異常が発生したとして、溶融金属面とトーチ先端との間の距離はT
gであるから、
(P
i-1+C
T)≦T
g/cosθ
を満たすことにより、トーチの溶融金属浸漬を免れることができる。また、前述のとおり、P
i-1の下限は20mm以上にすることが望ましい。従って、下記(2)式を満足することにより、トーチの溶融金属への浸漬を防止することができる。
20mm≦(P
i-1+C
T)≦T
g/cosθ (2)
【0034】
具体的に
図5に基づいて説明する。
図5(a)(b)のいずれも、プラズマ加熱中であり、トーチ先端と溶融金属面との距離はT
gである。
図5(a)では、ストッパー受け8が上段の可動式ストッパー9a1よりも高い位置にありD
1が正の値でC
Tよりも大きく、上段の可動式ストッパー9a1を含めてすべての可動式ストッパーが前進位置21にある。D
1<T
g/cosθである。この状態でプラズマ加熱中にトーチ異常下降が生じた場合、ストッパー受け8が距離D
1だけ移動して上段のストッパー9a1に接触して異常下降が終了する。
図5(b)では、D
1がC
Tよりもわずかに小さく、上段の可動式ストッパー9a1は後退位置22、中段の可動式ストッパー9a2は前進位置21にある。上段と中段のストッパー間の距離P
1であるから、D
2=P
1+C
Tであり、この状態でプラズマ加熱中にトーチ異常下降が生じた場合、ストッパー受け8が距離D
2=P
1+C
Tだけ移動して中段のストッパー9a2に接触して異常下降が終了する。隣接するストッパー間の距離P
i-1が上記(2)式を満たしていれば、トーチの異常下降による垂直方向下降量がT
gを超えることはない。
【0035】
定常加熱時と着火時では、プラズマ加熱中の溶融金属面とトーチ先端との間の距離T
gが異なる場合がある。一般に着火時の方が、定常加熱時よりもT
gが小さくなる。そこで、両者を区別する場合には、定常加熱時をT
g1、着火時をT
g2と呼ぶこととする。
【0036】
上記(1)式、(2)式におけるT
gとして、着火時のT
g2を用いることとすれば、着火時、定常加熱時のいずれのタイミングで制御異常が発生したとしても、トーチの溶融金属浸漬を免れるので好ましい。ただし、着火時のT
g2は100mm程度と小さいので、(2)式で定めるP
i-1が小さな値となり、ストッパーの個数nを多く設置する必要が生じる。
【0037】
一方、上記(1)式、(2)式におけるT
gとして、定常加熱時のT
g1を用いることとすれば、定常加熱時のT
g1は330mm程度と大きいので、(2)式で定めるP
i-1として大きな値を用いることが可能となり、ストッパーの個数nを少ない数とすることができる。ただし、着火のタイミングで発生する制御異常には対応できないこととなる。
【0038】
トーチを下降動作させるに際し、距離D
iがC
Tよりも小さくなったらi番目のストッパーを後退動作させる上記制御方法は、あくまで制御系が正常に機能している際における動作である。制御異常に伴ってトーチが下降する際には、当然ながら距離D
iがC
Tよりも小さくなってもi番目のストッパーを後退動作させない。制御系の正常・異常を判別する方法として例えば、トーチの位置指令と位置実績の対比で判断する方法を用いることができる。トーチの位置制御に際しては、トーチ位置の現在値を計測する位置計測器を具備し、一方で制御系はトーチ位置指令値を有し、位置計測器による位置実績が位置指令値に一致するように先進・後退制御を行う。この場合、トーチの位置指令と位置実績が一致していれば制御は正常であると判断できるので、トーチを下降動作させるに際し、距離D
iがC
Tよりも小さくなったらi番目のストッパーを後退動作させる。一方、トーチの位置指令と位置実績が不一致であれば、位置実績は位置指令に従っていないこととなり、制御異常が想定されるので、この場合は距離D
iがC
Tよりも小さくなってもi番目のストッパーを後退動作させない。
【実施例】
【0039】
湾曲型スラブ連鋳機に付設されているプラズマ加熱装置に本発明のストッパーを設置した(
図1、
図3〜5)。電動モーター1の回転がギアボックス2を経由して電動シリンダ3に伝えられ、進退アーム4が電動シリンダ3の一端から進出し、あるいは電動シリンダ3に退入する。プラズマ加熱装置の固定フレーム6には昇降アーム7が昇降可能に設置されている。昇降アーム7の上端が電動シリンダ3の進退アーム4先端と接続される。昇降アーム7の下端にはプラズマ加熱用のトーチ12が接続される。ストッパー受け8も昇降アーム7に接続している。ストッパー受け8はトーチ12の昇降と共に移動する。
【0040】
本実施例では、内容を簡素化するため、
図4、5に示すように、n=3個のストッパーを有し、可動式ストッパーは上段(i=1)と中段(i=2)の2つとし、下段(i=3)を固定式ストッパーとした。可動式ストッパーはどちらもエアーシリンダによる可動式である。なお、前述したように、ストッパーの設置個数はタンディッシュ溶融金属面高さの変動幅により決定できる。従って、必要があれば3段以上とする配置を採用できることはいうまでもない。また、その際、最下段は固定式でも可動式でも構わない。
【0041】
本発明者らは、本発明の効果を確認するために試験的に制御異常に起因するトーチ落下を発生させる疑似試験を行った。
【0042】
トーチの昇降経路14が鉛直方向からθが15°の傾きをもったプラズマトーチにおいて、トーチと溶融金属間のギャップT
gが100mmの場合を想定し、
図4、5に示すように上段と中段と下段の3個(=n)のストッパーのストッパー間距離P
i-1(i=2、3)について、下記表1に示す水準1、2,3を満たすような条件で行った。
【0043】
【表1】
【0044】
なお、制御正常時における各ストッパーの作動判断は、トーチ下降時においてはi番目(i=1、2)の可動式ストッパー9aiとストッパー受け8の距離D
iがC
T=10mm以下になった場合にストッパー9aiが後退し、トーチ上昇時においては、ストッパー9aiとストッパー受け8の距離D
iがC
T=10mm以上になった場合に、ストッパー9aiが前進するように行った(
図4参照)。制御異常に起因するトーチ落下に際しては、制御系は制御異常と判断し、トーチ落下時にストッパー9aiとストッパー受け8の距離D
iがC
T=10mm以下になってもストッパー9aiは後退しない。
【0045】
前記(2)式に、θ=15°、T
g=100mm、C
T=10mmを代入すると、
T
g/cosθ=103.5mm
となる。
【0046】
その結果、表1の水準1のように本発明を満足する条件とした場合、すなわち、
20mm≦(P
i-1+10)≦103.5mm(i=2、3)
の範囲を満たすピッチとして、ストッパー本数を可能な限り少なくして設備費を安くする、及び、故障発生率を下げるなどの目的を勘案して、本発明者らがピッチP
i-1=80mmで実施した場合、制御異常に起因するトーチ落下に際してトーチはストッパーに干渉し、ストッパーによって溶鋼浸漬前に物理的にトーチ落下を停止できることを確認した。
【0047】
一方、水準2のように、P
i-1<20mmで本発明を満足しない条件とした場合、すなわち、P
i-1<20mmの場合、制御正常時におけるトーチ下降時に連続してストッパーが後退し、トーチの下降動作を妨げてしまい、溶融金属面追従制御が不可能となった。また、シリンダロッド間をこのように狭くできるエアーシリンダは設備的にも選定が難しいという理由もある。
【0048】
さらに、水準3のように、T
g/cosθ<(P
i-1+C
T)で本発明を満足しない条件とした場合、すなわち、103.5mm<(P
i-1+C
T)の場合、上段ストッパーが後退し、中段ストッパー9a2とストッパー受け8の距離D
2が103.5mmを超えるようなケースにおいて、プラズマ加熱中にトーチ落下が発生した際は、ストッパー受けが中段ストッパーに干渉する前にトーチがタンディッシュ溶融金属面に浸漬する結果となった。
【0049】
次に、
図3に示す装置を用い、プラズマ加熱中において、ストッパー受けより下方にある可動式ストッパーを前進位置とし、ストッパー受けより上方にある可動式ストッパーを後退位置とする制御を行った。この場合、ストッパー配置ピッチは、それぞれ(P
1、P
2、P
3・・・)がT
g/cosθよりも小さい設定でないと、落下時にトーチが溶融金属面へ浸漬してしまうことになる。ストッパーが3段の場合の模式図を示す。
図3において、(a)〜(e)のいずれも、溶融金属面とトーチ先端との距離がT
gとなっている。(a)から(e)へ順次溶融金属面が低下している状況を示している。
図3(a)はストッパー受け8と上段ストッパー9a1との距離がD
1である。溶融金属面13が低下し、
図3(b)のようにストッパー受け8が上段ストッパーPa1直上に位置する場合に、上段ストッパー9a1を後退させる(
図3(c))。このとき、上段ストッパー9a1と中段ストッパー9a2との距離P
2について、P
2がT
g/cosθより小さければ、ここでトーチの落下が発生しても、トーチが溶融金属面に浸漬する前にストッパー受け8が中段ストッパーに接触してトーチの溶鋼浸漬を防ぐことができる。
【0050】
図3(d)、(e)は溶融金属面13がさらに低下した状況である。
図3(d)ではストッパー受け8が中段ストッパー9a2直上に位置する場合に、中段ストッパー9a2を後退させる(
図3(e))。このとき、中段ストッパー9a2と下段ストッパー9b3との距離P
3について、P
3がT
g/cosθより小さければ、ここでトーチの落下が発生しても、トーチが溶融金属面に浸漬する前にストッパー受け8が下段ストッパー9b3に接触してトーチの溶鋼浸漬を防ぐことができる。
【0051】
上記のような事例においては、隣接するストッパー間のピッチに関しては、20mm≦P
i-1≦T
g/cosθの中で、設備面でのメリットが見込めるピッチを選定すれば良い。
【0052】
本発明によるトーチ落下時のトーチ浸漬防止装置を通常操業時のプラズマ加熱装置に使用した結果、トーチ落下時のトーチ浸漬による損傷、並びに交換に要するロス時間を解消することができた。