(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0016】
本発明の一態様に係る炭化珪素半導体装置は、
〔1〕炭化珪素半導体層100と、炭化珪素半導体層100とオーミック接触した電極層101と、を備える。炭化珪素半導体装置は、電極層101において、炭化珪素半導体層100と電極層101との界面から300nm以内の界面領域IRに、炭素クラスタ1を含有する。界面領域IRのうち炭素クラスタ1が占める面積の比率が、10%以上40%以下である。
【0017】
上記の炭化珪素半導体装置は、電極層101においてSiCから遊離したCを、層状の凝集体としてではなく、Cクラスタ1として含有する。さらに電極層101の厚さ方向断面において、SiC半導体層100と電極層101との界面から300nm以内の界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率が、10%以上40%以下である。
【0018】
ここで「炭素(C)クラスタ」とは、概ね10個以上の炭素原子からなる集合体であり、電極層101の厚さ方向断面においてアスペクト比(長径÷短径)が1以上5以下であるものを意味している。
【0019】
Cクラスタ1が占める面積の比率は、Cクラスタ1が電極層101中にどの程度拡散しているかを表す指標と捉えることができる。本発明者の研究によれば、同面積の比率が10%未満になると、Cクラスタ1の拡散が不十分となり、Cクラスタ1がSiC半導体層100と電極層101との界面において層状の凝集体となって偏析し、それによりSiC半導体層100と電極層101とのオーミック接触が阻害されることとなる。また同面積の比率が40%を超えると、電極層101内に抵抗成分であるCクラスタ1が過剰に分散した状態となり、電極層101の電気抵抗が増加することとなる。それゆえ上記の炭化珪素半導体装置では、界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率を、10%以上40%以下に規制している。
【0020】
ここで「炭素クラスタが占める面積の比率」は、次の(a)〜(d)の手順に従って求めるものとする。
【0021】
(a)先ず炭化珪素半導体装置から測定用のサンプル(観察個所)を採取する。この際、サンプルの採取個所は任意であるが、平面視における電極層101の中心部、および当該中心部を挟んで相対する両端部の3点を少なくとも含む、5点程度を選択してサンプルを採取することが望ましい。ここで「平面視」とは電極層101の主面をその法線方向から見た視野を意味している。
【0022】
(b)サンプルの採取にはマイクロサンプリング(登録商標)法が好適である。すなわちFIB(Focused Ion Beam)装置によって、サンプルとなるべき部分の周囲を加工し、当該部分にプローブを接着し、さらに当該部分の底部を切断してサンプルを得る。続いてプローブごとサンプルを摘出し、FIBによってプローブを切り離した後、さらにFIBによってサンプルを薄片化する。
【0023】
(c)次に採取されたサンプルにおいて、電極層101とSiC半導体層100との界面をSTEM(Scanning Transmission Electron Microscope)で撮像して、HAADF(High−Angle Annular Dark−Field)像を得る。このときSTEMの観察倍率は、たとえば100000倍〜1000000倍程度である。
【0024】
(d)HAADF像において、電極層101に含まれ、電極層101とSiC半導体層100との界面から300nm以内の界面領域IRついて各ピクセル(pixel)の輝度を抽出し、抽出された輝度ごとにpixel数を計数する。こうして得られた輝度を、輝度の最大値を100とする相対値に換算して度数分布(たとえば
図5を参照)を得る。この度数分布において中間値(輝度の相対値が50となる値)以下の輝度を有するpixelを炭素に由来のものと定義し、下記式(I):
(面積の比率)=(界面領域IRに含まれる炭素由来のpixel数)÷(界面領域IRに含まれる全pixel数)・・・(I)
によって、「炭素クラスタが占める面積の比率」を算出することができる。このとき、前述のように複数のサンプルを採取している場合は、それらの算術平均値を採用することが望ましい。なお電極層101の厚さが300nmに満たない場合は、電極層101全体を界面領域IRとみなすものとする。
【0025】
また本発明の他の態様に係る炭化珪素半導体装置は、
〔2〕炭化珪素半導体層100と、炭化珪素半導体層100とオーミック接触した電極層101と、を備える。電極層101は、第1の厚さT1を有する第1の領域R1と、第1の厚さT1よりも薄い第2の厚さT2を有する第2の領域R2と、を含む。炭化珪素半導体装置は、第2の領域R2に炭素クラスタ1を含有する。
【0026】
上記の第1の領域R1および第2の領域R2は、パルス状のレーザを照射することによって、SiC半導体層100と電極層101とをオーミック接触させた場合に形成される。すなわちパルスレーザによるレーザアニールでは、パルス間隔に依存して加熱ムラが生じ、それにより第1の厚さT1を有する第1の領域R1と第2の厚さT2を有する第2の領域R2とが、たとえばレーザの走査方向に沿って交互に形成される。上記のように、厚さの薄い第2の領域R2においてもCクラスタ1が生成されるようにレーザが照射されていれば、SiC半導体層100と電極層101とのオーミック接触が確保され、接触抵抗は低く良好なものとなる。
【0027】
〔3〕炭素クラスタ1のサイズは、10nm以上100nm以下が好ましい。Cクラスタ1のサイズが10nm未満になると、層状の凝集体が形成されやすくなるからである。また電極層101上には、ダイボンディング用電極層102が形成される場合があるが、Cクラスタ1のサイズが100nmを超えるとCクラスタ1が電極層101の表面近傍まで拡散したときに、電極層101とダイボンディング用電極層102との密着性に影響を与えることも考えられる。よって炭素クラスタ1のサイズは100nm以下が好ましい。
【0028】
ここで「炭素クラスタのサイズ」とは、上記HAADF像(電極層101の厚さ方向断面)における、Cクラスタの定方向径(いわゆる「Feret径」)を意味している。
【0029】
〔4〕電極層101は、ニッケル(Ni)を含むことが好ましい。これにより電極層101の電気抵抗を低減することができるからである。
【0030】
〔5〕電極層101は、シリコン(Si)をさらに含み、ニッケルおよびシリコンの原子数の総和のうち、ニッケルの原子数が占める割合は、68原子数%以上75原子数%以下であることが好ましい。
【0031】
電極層101がSiを含むことにより、Cクラスタ1が電極層101の表層まで拡散することを抑制することができる。さらに上記の組成比でNiとSiとを含むことにより、電極層101の電気抵抗をいっそう低減することができる。
【0032】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0033】
〔炭化珪素半導体装置〕
図1は、本実施形態に係る炭化珪素(SiC)半導体装置1000の構成の一例を示す模式的な断面図である。SiC半導体装置1000は、プレーナ構造を有する縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。SiC半導体装置1000は、第1の主面P1と第1の主面P1の反対側に位置する第2の主面P2とを有するSiC半導体層100を備えている。SiC半導体層100は、単結晶層11とエピタキシャル層12とを含む。単結晶層11は、たとえば4H型の結晶多形を有するSiCからなる。単結晶層11およびエピタキシャル層12は、たとえばn型の導電型を有する。
【0034】
エピタキシャル層12は、単結晶層11上にエピタキシャル成長させられた半導体層であり、各種不純物領域(ボディ領域13、n+領域14、コンタクト領域18)を有している。エピタキシャル層12上にはゲート絶縁膜15、ゲート電極17、ソース電極16および表面側パッド電極19が形成されている。
【0035】
第2の主面P2には、SiC半導体層100とオーミック接触させられた電極層101(オーミック電極)と、電極層101上に形成されたダイボンディング用電極層102とが形成されている。SiC半導体装置1000において電極層101およびダイボンディング用電極層102は、ドレイン電極として機能している。ダイボンディング用電極層102は、たとえばチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、Ni、金(Au)等から構成される。
【0036】
図2は、SiC半導体層100と電極層101との界面の構成の一例を示す模式的な部分断面図である。SiC半導体層100と電極層101とはレーザアニールによってオーミック接触させられている。そのため電極層101には、第1の厚さT1を有する第1の領域R1と、第1の厚さT1よりも薄い第2の厚さT2を有する第2の領域R2とが形成されている。レーザのパルス間隔に依存して加熱ムラが生じるからである。このとき第1の領域R1と第2の領域R2とは、たとえばレーザの走査方向に沿って交互に形成されており、第1の領域R1および第2の領域R2は、それぞれCクラスタ1を含有している。このように厚さの薄い第2の領域R2においてもCクラスタ1が生成されるようにレーザが照射されていれば、SiC半導体層100と電極層101とのオーミック接触が確保される。
【0037】
ここで第1の厚さT1は、たとえば300nm以上である。また第1の厚さT1は、たとえば第2の厚さT2の1.2倍以上であり、好ましくは1.5倍以上であり、特に好ましくは2.0倍以上である。
【0038】
また別の見方をすれば、SiC半導体装置1000は、電極層101においてSiC半導体層100と電極層101との界面から300nm以内の界面領域IRに、Cクラスタ1を含有している。SiC半導体装置1000において、界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率は、10%以上40%以下である。
【0039】
このようにCクラスタ1が占める面積の比率を規定することにより、SiCから遊離した炭素がクラスタとなって適度に分散した状態となり、電極層101とSiC半導体層100とのオーミック接触が確保される。
【0040】
図3は、たとえばCクラスタ1が占める面積の比率が10%未満である場合の電極界面の様子を示す模式的な断面図である。Cクラスタ1が占める面積の比率が10%未満であると、小さなCクラスタが凝集して炭素層10となり、SiC半導体層100と電極層101とのオーミック接触を阻害することとなる。他方、Cクラスタ1が占める面積の比率が40%を超えると、電極層101全体にCクラスタ1が分布するようになり、電極層101の電気抵抗が増加する。Cクラスタ1が占める面積の比率は、より好ましくは10%以上30%以下であり、特に好ましくは10%以上20%以下である。
【0041】
界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率は、たとえばレーザアニール時のレーザ照射強度によって制御することができる。ただし前述のとおり、諸条件の違いによりエネルギーの吸収状況が変化することから、一概にその条件を決定することは適当ではない。したがって、たとえば1.0J/cm
2〜3.0J/cm
2程度の範囲内でレーザ照射強度を変化させながら、Cクラスタ1が占める面積の比率を測定し、その値が10%以上40%以下となり得る条件を探索する等の態様が望ましい。その際レーザの波長は、たとえばYAGレーザあるいはYVO
4レーザの第3高調波(波長355nm)のように、SiCのバンドギャップに対応する波長(波長386nm以下)とすることが望ましい。またレーザのパルス幅は、たとえば10ns以上10μs以下の範囲で適宜調整すればよい。
【0042】
ここで本明細書における「レーザ照射強度」とは、レーザ出力がピーク値の1/e倍(「e」はネイピア数を示す。)の値となるまでの範囲をレーザの照射範囲と定義し、その照射範囲の中にレーザのエネルギーが100%含まれるものと仮定した際のエネルギー密度を示すものとする。
【0043】
Cクラスタのサイズは、10nm以上100nm以下が好ましい。サイズが10nm以上であるCクラスタは層状となり難いことから、Cクラスタのサイズが10nm以上となるようにアニールを行うことにより、電極層101とSiC半導体層100とのオーミック接触がいっそう確実なものとなる。
【0044】
他方、Cクラスタのサイズが100nmを超えると、このCクラスタが電極層101の表層まで拡散した場合に、この上に形成されるダイボンディング用電極層102と電極層101との密着性に影響を与えることも考えらえる。よってCクラスタのサイズは100nm以下が好ましい。Cクラスタのサイズは、より好ましくは30nm以上であり、特に好ましくは50nm以上である。
【0045】
〔電極層〕
電極層101は、たとえばスパッタリング法あるいは真空蒸着法等によって形成され得る。電極層101の厚さは、たとえば50〜1000nm程度である。
【0046】
電極層101を構成する元素としては、たとえばNi、Ti、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)等を例示することができる。電極層101は、これらのうちNiを含むことが好ましい。これにより電気抵抗を低減することができるからである。電極層101は、単一の元素から構成されていてもよいし、複数の元素から構成されていてもよい。たとえば電極層101は、NiおよびSiから構成されていてもよい。電極層101がSiを含むことにより、Cクラスタが電極層101全体に拡散することを抑制し、電気抵抗を低減することができる。電極層101において、NiおよびSiは混合物の状態でもよいし、ニッケルシリサイド(Ni
2Si)のような金属間化合物を形成していてもよい。
【0047】
電極層101がNiおよびSiを含む場合、Niの原子数は、NiおよびSiの原子数の総和のうち68原子数%以上75原子数%以下を占めることが好ましい。Niの占める割合が68原子数%未満であると、電気抵抗が高くなる傾向にあり、同割合が75原子数%を超えるとSi量が不足してCクラスタの拡散を適度に抑制できない場合もあるからである。NiおよびSiの原子数の総和のうちNiの占める割合は、より好ましくは69原子数%以上74原子数%以下であり、特に好ましくは70原子数%以上73原子数%以下である。こうした原子数濃度は、たとえばエネルギー分散型X線分析法(EDX:Energy Dispersive X−ray spectrometry)、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)等によって測定することができる。なお電極層101は、形成時に不可避的に混入する不純物を含んでいても構わない。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0049】
〔SiC半導体装置の作製〕
以下のようにしてSiC半導体装置(MOSFET)を作製し、界面領域IRのうちCクラスタが占める面積の比率と、電極層におけるCクラスタの拡散状態とを確認した。ここでは試料1および試料2が実施例に相当し、試料3および試料4が比較例に相当する。
【0050】
〔試料1〕
n型の導電型を有し、さらに第1の主面P1と、第1の主面P1の反対側に位置する第2の主面P2とを有するSiC半導体層100を準備した。第1の主面P1側に素子構造を形成した後、スパッタリング法によって、NiとSiとを含む電極層101を第2の主面P2上に形成した。このとき電極層101の厚さは230nmとし、NiとSiとの原子比はNi:Si=72:28となるように調整した。
【0051】
次にレーザアニールによって電極層101とSiC半導体層100とをオーミック接触させた。このときレーザ照射強度は1.8J/cm
2とした。さらに電極層101上に、スパッタリング法によって、ダイボンディング用電極層102としてTi層とNi層とAu層とを積層した。こうして試料1に係るMOSFETを得た。
【0052】
前述の方法に従ってSTEM用サンプルを採取し、
図4に示すHAADF像を得た。さらに同視野においてSi、NiおよびCの各元素のマッピングを行った。結果を
図6(Si)、
図7(Ni)および
図8(C)にそれぞれ示す。
図4ならびに
図6〜
図8より、試料1では界面領域IRにCクラスタ1が存在していることが分かる。
【0053】
次に
図4において、各pixelの輝度を抽出し、抽出された輝度ごとにpixel数を計数することにより
図5に示す度数分布を得、前述の方法に従って界面領域IRのうちCクラスタが占める面積の比率を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
〔試料2〕
電極層101の厚さを800nmとし、レーザ照射強度を1.9J/cm
2とすることを除いては、試料1と同様にして試料2を得た。
【0056】
前述の方法に従ってSTEM用サンプルを採取し、
図9に示すHAADF像を得た。さらに同視野においてSi、NiおよびCの各元素のマッピングを行った。結果を
図11(Si)、
図12(Ni)および
図13(C)にそれぞれ示す。
図9ならびに
図11〜
図13より、試料2でも界面領域IRにCクラスタ1が存在していることが分かる。
【0057】
次に
図9において、各pixelの輝度を抽出し、抽出された輝度ごとにpixel数を計数することにより
図10に示す度数分布を得、前述の方法に従って界面領域IRのうちCクラスタが占める面積の比率を算出した。結果を表1に示す。
【0058】
〔試料3〕
電極層101の厚さを500nmとし、レーザ照射強度を2.0J/cm
2とし、さらにダイボンディング用電極層102としてTi層とNi層とAl層とを積層することを除いては、試料1と同様にして試料3を得た。
【0059】
前述の方法に従ってSTEM用サンプルを採取し、
図14に示すHAADF像を得た。さらに同視野においてAl、SiおよびCの各元素のマッピングを行った。結果を
図16(Al)、
図17(Si)および
図18(C)にそれぞれ示す。
図14ならびに
図16〜
図18より、試料3でも界面領域IRにCクラスタ1が存在していることが分かる。
【0060】
次に
図14において、各pixelの輝度を抽出し、抽出された輝度ごとにpixel数を計数することにより
図15に示す度数分布を得、前述の方法に従って界面領域IRのうちCクラスタが占める面積の比率を算出した。結果を表1に示す。
【0061】
〔試料4〕
電極層101の厚さを600nmとし、レーザ照射強度を2.1J/cm
2とすることを除いては、試料1と同様にして試料4を得た。
【0062】
前述の方法に従ってSTEM用サンプルを採取し、
図19に示すHAADF像を得た。さらに同視野においてSi、NiおよびCの各元素のマッピングを行った。結果を
図21(Si)、
図22(Ni)および
図23(C)にそれぞれ示す。
図19ならびに
図21〜23より、試料4では電極層101全体に小さなCクラスタが拡散していることが分かる。
【0063】
次に
図19において、各pixelの輝度を抽出し、抽出された輝度ごとにpixel数を計数することにより
図20に示す度数分布を得、前述の方法に従って界面領域IRのうちCクラスタが占める面積の比率を算出した。結果を表1に示す。
【0064】
〔結果と考察〕
図4(試料1)、
図9(試料2)、
図14(試料3)および
図19(試料4)より、レーザ照射強度が高くなるほど、電極層101においてCクラスタ1の拡散度合が大きくなっていることが分かる。
【0065】
図4(試料1)では界面近傍においてCクラスタ1が凝集しつつあり、これよりもCクラスタの拡散が抑えられると、炭素層が形成されてオーミック接触が阻害される可能性がある。表1より、試料1において界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率は16.5%である。よって同面積の比率は10%以上を要し、好ましくは16%以上である。
【0066】
図9(試料2)では10〜100nm程度のCクラスタ1が生成されている。また
図9においてCクラスタ1は、SiC半導体層100と電極層101との界面から適度に離れ、かつ電極層101全体に広がらない程度に拡散している。よって試料2では、良好なオーミック接触が得られるとともに、電極層101の抵抗増加も抑えられていると考えられる。表1に示すとおり、試料2において界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率は29.1%(10%以上40%以下)である。
【0067】
また
図9(試料2)では、レーザアニールによって、第1の厚さT1を有する第1の領域R1と、第1の厚さT1よりも薄い第2の厚さT2を有する第2の領域R2とが形成されており、第2の領域R2にCクラスタ1が含まれていることが確認できる。
【0068】
図14(試料3)では、Cクラスタ1が電極層101全体に分布し始めており、電極層101における電気抵抗の増加が懸念される。表1より、試料3において界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率は42.6%である。
【0069】
また試料3では、サイズが100nmを超えるCクラスタが生成されており、電極層101とダイボンディング用電極層102との密着性の低下も懸念される。よってCクラスタのサイズは、好ましくは100nm以下である。
【0070】
図19(試料4)では、Cクラスタのサイズ自体は小さいものの、Cクラスタが電極層101全体に拡散しており、電気抵抗の増加が強く懸念される。表1より、試料4において界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率は、試料3よりもさらに増加して76.8%となっている。よって、試料3および4の結果を考慮すると、界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率は40%以下とすべきである。
【0071】
以上のとおり、SiC半導体層100と、SiC半導体層100とオーミック接触した電極層101とを備え、電極層101においてSiC半導体層100と電極層101との界面から300nm以内の界面領域IRにCクラスタ1を含有し、さらに界面領域IRのうちCクラスタ1が占める面積の比率が10%以上40%以下である、炭化珪素半導体装置では、SiC半導体層100とオーミック電極(電極層101)との接触抵抗が低いと考えられる。
【0072】
今回MOSFETを例示しながら本実施形態を説明したが、本実施形態はこれに限定されず、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、SBD(Schottky Barrier Diode)等の炭化珪素半導体装置に広く適用され得る。また炭化珪素半導体装置はプレーナ構造のみならず、トレンチ構造を有するものであっても構わない。
【0073】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態および実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。