(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ユーロピウムを賦活してなるアルカリ土類金属チオガレート系硫化物蛍光体の製造方法であって、原料を混合する工程において、ガリウム源に酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物及び/又は混合物を使用することを特徴とする硫化物蛍光体の製造方法。
酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物及び/又は混合物中に含まれる窒化ガリウムの量が、0.1重量%〜95.0重量%の範囲である請求項1記載の硫化物蛍光体の製造方法。
前記硫化物蛍光体中のユーロピウムの量が前記硫化物蛍光体1molに対し0.005mol〜0.10molの範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の硫化物蛍光体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の硫化物蛍光体の製造方法について説明する。
本発明の硫化物蛍光体の製造方法は、ユーロピウムを賦活してなるアルカリ土類金属チオガレート系硫化物蛍光体の製造方法であって、原料を混合する工程において、ガリウム源に酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物及び/又は混合物を使用することを特徴とする。
【0020】
アルカリ土類金属チオガレート系硫化物蛍光体は、硫化物蛍光体の結晶母材が一般式AGa
2S
4[ただし、Aはアルカリ土類金属(Ca、Sr又はBa)]で表されるアルカリ土類金属チオガレートであり、上記結晶母材を、ユーロピウムで賦活してなる蛍光体である。
アルカリ土類金属としてはCa、Srが好ましい。
化学式CaGa
2S
4で表されるカルシウムチオガレートは、青色励起光(波長450〜470nm)の照射により黄色(極大波長550〜560nm)に、化学式SrGa
2S
4で表されるストロンチウムチオガレートの場合は、青色励起光(波長450〜470nm)の照射により緑色(極大波長530〜540nm)にそれぞれ発光する蛍光体となる。
また、アルカリ土類金属としてCa、Srの両方を含む場合は、CaとSrのモル比を調整することで発光強度を低下させることなく、蛍光体の極大波長をシフトさせることができ、所望の極大波長とすることができる。
【0021】
ユーロピウムは、一般式AGa
2S
4で表される結晶母材中のAの原子の一部を置換して添加され、硫化物蛍光体中のユーロピウムの量は硫化物蛍光体1molに対し0.005mol〜0.10molの範囲であることが望ましい。より望ましくは0.03〜0.05molである。
なお、ここでいう硫化物蛍光体1molとは、ユーロピウムを賦活したあとの硫化物蛍光体全体のmol数を意味する。具体的には、一般式AGa
2S
4で表される結晶母材をユーロピウムで賦活してなる硫化物蛍光体の一般式は、一般A
1−xEu
xGa
2S
4で表され、この硫化物蛍光体1molに含まれるユーロピウムの量はxmolとなる。
ユーロピウムの量が少なすぎると充分な発光強度を達成することができず、また多すぎても発光強度は飽和する一方で、濃度消光による発光強度の低下等が生じる。
【0022】
アルカリ土類金属チオガレート系硫化物蛍光体には、ユーロピウム以外の共賦活剤をさらに含んでもよい。共賦活剤としては、特に限定されないが、ユーロピウム以外の希土類元素の化合物又はイオンが挙げられる。上記ユーロピウム以外の希土類元素の例としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等からなる群から選択される少なくとも1種以上の元素が挙げられる。また、上記希土類元素の化合物としては、上記元素の炭酸塩、酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0023】
本発明の硫化物蛍光体の製造方法では、原料を混合する工程において、ガリウム源に酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物及び/又は混合物を使用する。
本発明の硫化物蛍光体の製造方法では、酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物及び/又は混合物中に含まれる窒化ガリウムの量が、0.1重量%〜95.0重量%の範囲であることが望ましい。
【0024】
酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物(固溶体ともいう)は、酸化ガリウム(Ga
2O
3)の酸素サイトの一部が窒素に置換された結晶であり、酸化ガリウムの粉末を、窒素ガスとアンモニアガスとの混合ガスを用い、気流中で焼成することによって得られる。
混合ガス中のアンモニアガスの濃度を10〜70vol%とすることが望ましく、焼成温度は1000〜1400℃、焼成時間は1〜10時間とすることが望ましい。
【0025】
ガリウム源が酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物の場合、酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物に含まれる窒化ガリウムの量は、粉末X線回折パターンから全パターンフィッティング法(WPPF法)により算出される。
そして、粉末X線回折パターンから全パターンフィッティング法により算出される酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物中の窒化ガリウムの量が0.1重量%〜95.0重量%の範囲であることが望ましく、9.0重量%〜30.0重量%の範囲であることがより望ましい。
粉末X線回折パターンは、粉末X線回折装置(株式会社 リガク製、試料水平型強力X線回折装置 RINT−TTRIII)により、下記条件で測定することで得られる。
・ターゲット:Cu管球
・測定範囲(2θ):60°〜90°
・ステップ幅:0.02°
・計数時間:1.0 sec.
そして、全パターンフィッティング法による定量は、上記測定法により得られた粉末X線回折パターンを、粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェア(JADE Version 7.0、Materials Data. Inc.社製)で解析することにより行うことができる。
【0026】
酸化ガリウムと窒化ガリウムの混合物は、酸化ガリウムの粒子と窒化ガリウムの粒子を単に混合した混合物である。
ガリウム源が酸化ガリウムと窒化ガリウムの混合物の場合の混合物中の窒化ガリウムの量は、0.1重量%〜95.0重量%の範囲であることが望ましい。混合物中の窒化ガリウムの量は混合時の重量比で定まる。
【0027】
なお、ガリウム源が酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物及び酸化ガリウムと窒化ガリウムの混合物の併用である場合、粉末X線回折パターンから全パターンフィッティング法(WPPF法)により混晶物中の窒化ガリウムの量を算出し、次に酸化ガリウムと窒化ガリウムの仕込み量から混合物中の窒化ガリウムの量を算出して、それぞれ算出された窒化ガリウムの量に混晶物と混合物の割合を乗じて、ガリウム源全体に含まれる窒化ガリウムの量を決定すればよい。
【0028】
ユーロピウム源としては、特に限定されず、例えば炭酸ユーロピウム、酸化ユーロピウム、塩化ユーロピウム、硫酸ユーロピウム、硝酸ユーロピウム、酢酸ユーロピウムなどが挙げられる。
【0029】
アルカリ土類金属源としてのカルシウム化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、ハロゲン化カルシウム(塩化カルシウム等)、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属源としてのストロンチウム化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸ストロンチウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、ハロゲン化ストロンチウム(塩化ストロンチウム等)、硫酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、リン酸水素ストロンチウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属源としてのバリウム化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸バリウム、酸化バリウム、水酸化バリウム、ハロゲン化バリウム(塩化バリウム等)、硫酸バリウム、硝酸バリウム、リン酸水素バリウム等が挙げられる。
【0030】
原料を混合する工程においては、これらのガリウム源、ユーロピウム源及びアルカリ土類金属源を所定のモル比で混合する。この工程においては、さらに上述したユーロピウム以外の共賦活剤、分散剤、フラックス成分等が添加されていてもよい。
ガリウム源、アルカリ土類金属源、ユーロピウム源の混合比は、ガリウム:アルカリ土類金属=2:1程度のモル比になるようにすることが望ましく、ガリウム:ユーロピウム=2:0.005〜0.10程度のモル比になるようにすることが望ましい。
【0031】
これらの混合物には、水を加えて、さらにアルミナボール等の粉砕媒体を混合して湿式粉砕(言い換えると湿式法による混合)を行うことが望ましい。
粉砕媒体の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、アルミナボール、ジルコニアボール、窒化珪素ボール、窒化炭素ボール、ガラスビーズ、ナイロン被覆鉄芯ボール等が挙げられ、直径10mm以下のものが主に使用される。なかでもアルミナボールが好ましい。
【0032】
粉砕は、公知の粉砕装置により行うことができ、その種類は特に限定されるものではないが、粉砕を効率良く行なうためには粉砕媒体撹拌型粉砕機を備えた反応容器を用いるのが好ましい。ここで、粉砕媒体撹拌型粉砕機とは、粉砕容器内に粉砕媒体を投入し、被粉砕物とともに、粉砕容器を揺動、回転(自転又は公転)させて撹拌するか、粉砕媒体を撹拌部で直接撹拌して、粉砕を行う粉砕機をいう。粉砕媒体撹拌型粉砕機の例としては、特に限定されないが、遊星ミル、ビーズミル、及び振動ミルからなる群から選択されるいずれか1種であるのが好ましい。なかでも、自転、公転を伴う遊星ミルが特に好ましい。
【0033】
粉砕後、粉砕媒体を分離し、乾燥工程を行うことが望ましい。
乾燥は、通常用いられる任意の乾燥機を用いて、110〜150℃で1〜48時間程度行うことが望ましい。
【0034】
乾燥により得られた固体は、粉砕、分級により平均粒子径60μm以下の粉末とすることが望ましい。
粉砕は上述した粉砕媒体撹拌型粉砕機により行うことができる。
続いて、硫黄含有ガス雰囲気下で焼成を行い、ユーロピウム賦活アルカリ土類金属チオガレートを生成させる。硫黄源としては硫化水素ガス、硫化水素ガス又は二硫化炭素と不活性ガスとの混合ガス等を用いることができる。なお、不活性ガスとしては、窒素ガス又はアルゴンガスを用いることができる。混合ガスを用いる場合、硫化水素ガス、二硫化炭素などの硫黄化合物の濃度は10体積%以上が望ましい。
焼成条件は、700〜900℃で2〜12時間程度とすることが望ましい。
焼成装置としては、マッフル炉、管状炉等の任意の焼成炉を用いて行うことができる。
【0035】
焼成により得られた固体は、粉砕により平均粒子径10〜60μm程度の粉末として、分級を行うことにより、最終製造物である硫化物蛍光体とすることが望ましい。
【0036】
上記工程により、ユーロピウムを賦活してなるアルカリ土類金属チオガレート系硫化物蛍光体を製造することができる。
この硫化物蛍光体は発光強度の温度特性に優れるので室内外の一般照明等の照明用や液晶デイスプレイのバックライト用の光源等に用いられるLED用蛍光体として好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げる。ただし本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
酸化ガリウムの粉末をアルミナボートに入れて、合成石英製の管状炉で、窒素ガスとアンモニアガスとの混合ガスを用い、混合ガス中のアンモニアガス濃度を50vol.%とした気流中で1100℃、3時間焼成することによって酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物を製造した。
上記混晶物から、所定量をサンプリングしてガリウム源として酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物を準備した。
実施例1で準備した混晶物中の酸化ガリウムの量は91.0重量%、窒化ガリウムの量は9.0重量%であった。
酸化ガリウム及び窒化ガリウムの量は、粉末X線回折パターンから全パターンフィッティング法により算出した。
全パターンフィッテング法の装置及び条件は、上述のとおりである。
表1には、準備したガリウム源の形態及び酸化ガリウムと窒化ガリウムの割合を示した。
原料として炭酸カルシウム、酸化ユーロピウム、及び、上記酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物を秤量し、秤量した上記原料を混合した混合物に純水を加えて、φ1.5mmのアルミナボールを粉砕メディアに用いて、遊星型ボールミルによる湿式法で180分間混合した。
混合比率は、Ca、Ga、Euのモル組成比が(Ca:Ga:Eu=0.9556:2:0.0444)となるように調整した。
【0038】
次いで、アルミナボールと原料混合物のスラリーを分離し、得られたスラリーを設定温度130℃の乾燥機に入れて、一晩乾燥させた。
【0039】
得られた固体を乳鉢と乳棒で40μm以下に粉砕及び分級し、更に、これら混合物をアルミナボートに入れて、合成石英製の管状炉で800℃、8時間、硫化水素ガス雰囲気中で焼成した。硫化水素ガスは純度99.9%品を用い、管状炉中に200mL/分で注入した。
【0040】
次いで、得られた固体を乳鉢と乳棒で40μm以下に粉砕及び分級し、硫化物蛍光体を作製した。得られた硫化物蛍光体は、化学式CaGa
2S
4で表されるカルシウムチオガレートをユーロピウムで賦活してなり、化学式Ca
0.9556Eu
0.0444Ga
2S
4で表される硫化物蛍光体である。硫化物蛍光体中のユーロピウムの量は硫化物蛍光体1molに対し0.0444molである。
【0041】
(実施例2、3)
実施例1で製造した酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物から、別途所定量のサンプリングを行い、酸化ガリウムと窒化ガリウムの割合が異なる混晶物を準備した。
なお、実施例1で製造した酸化ガリウムと窒化ガリウムの混晶物中には、酸化ガリウムと窒化ガリウムの割合が異なる混晶物が混ざっているので、サンプリングごとに酸化ガリウムと窒化ガリウムの割合は異なる。
そのほかは、実施例1と同様にして硫化物蛍光体を作製した。
混晶物中の酸化ガリウムと窒化ガリウムの割合は表1に示した。
【0042】
(実施例4、5)
ガリウム源として酸化ガリウムと窒化ガリウムの混合物を準備して使用したほかは、実施例1と同様にして硫化物蛍光体を作製した。
混合物中の酸化ガリウムと窒化ガリウムの割合は表1に示した。
【0043】
(比較例1)
ガリウム源として酸化ガリウムのみを準備して使用したほかは、実施例1と同様にして硫化物蛍光体を作製した。
【0044】
【表1】
【0045】
(温度特性)
作製した実施例1〜5及び比較例1の硫化物蛍光体を、それぞれ試料ホルダーに充填し、試料ホルダーに充填した蛍光体を分光蛍光光度計外の暗所に設置した冷却加熱ステージ上に固定し、30℃/minの昇温速度で、同一サンプル(蛍光体)を室温〜153℃まで昇温しながら所定の温度毎にスペクトル測定を実施した。
具体的には、試料ホルダーに充填した蛍光体を、56℃、82℃、102℃、153℃の各測定温度で、粉末温度の安定化を意図に5分間温度を保持するプログラム(工程)を導入し、その保持終了直前にスペクトル測定を実行した。
各温度でのスペクトル測定は、分光蛍光光度計(日本分光株式会社製、FP−6500)外の暗所に設置した冷却加熱ステージ上の測定試料に、青色LEDからの青色光(波長470nm)を照射し、その反射光を光ファイバーにて、分光蛍光光度計付属の蛍光積分球ユニット(日本分光株式会社製、ISF−513型)に導入することで行った。なお、青色LEDは測定時のみ点灯させた。
表2及び
図1に、実施例1〜5及び比較例1で作製した硫化物蛍光体の温度特性の評価結果を示す。粉末温度25℃で測定した発光強度を100%として、56℃〜153℃の粉末温度でそれぞれ測定した際の発光強度と比較し、相対強度(%)として示した。
【0046】
【表2】
【0047】
(発光特性)
実施例1、2及び比較例1で得られた硫化物蛍光体について、分光蛍光光度計を用いて、励起波長を450nmとし、発光スペクトルを測定した。
表3に、実施例1、2及び比較例1の硫化物蛍光体の極大波長とフォトルミネッセンス(Photo Luminescence)相対強度を示す。
フォトルミネッセンス相対強度は、比較例1での発光強度を100%とした際の相対強度である。また、
図2に、実施例1、2及び比較例1で作製した硫化物蛍光体の発光スペクトルを示す。なお、実施例3〜5の硫化物蛍光体の極大波長も558〜559nmであった。
【0048】
【表3】
【0049】
表2及び
図1に示されるように、本実施例の硫化物蛍光体は、比較例1に対して、56℃〜153℃の粉末温度下での相対強度が大きく、発光強度の温度特性を改善させることができた。
また、ガリウム源が混晶物又は混合物であるかを問わず、ガリウム源に窒化ガリウムの結晶相を含んだ原料を使用すれば、同様の温度特性の改善効果が得られた。
【0050】
また、表3及び
図2に示されるように、実施例2の硫化物蛍光体は、比較例1に対して、フォトルミネッセンス相対強度を9%向上させることができた。実施例1の硫化物蛍光体も、フォトルミネッセンス相対強度を2%程度向上させることができた。