(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350131
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及びその劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20180625BHJP
B60C 11/02 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
B60C19/00 G
B60C11/02 A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-177802(P2014-177802)
(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公開番号】特開2016-49928(P2016-49928A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 光志
【審査官】
岩本 昌大
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00,1/00,11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に複数層のベルト層が埋設された空気入りタイヤにおいて、
前記複数層のベルト層のうち最外周側に位置する最外ベルト層と前記トレッド部の外表面との間のゴム中に、酸化反応により色調が変化する酸化還元指示体を含む劣化判定部材を埋設したことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記劣化判定部材が前記トレッド部のタイヤ幅方向外側端からトレッド幅の1/4の領域内に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記劣化判定部材が前記最外ベルト層からタイヤ径方向外側に10mm以内の領域に配置されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記劣化判定部材が前記酸化還元指示体と該酸化還元指示体を覆う被覆層とからなり、該被覆層が隣接するゴムよりも通気度の低いゴム又は熱可塑性エラストマーから構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記被覆層の厚さを異ならせることで変色速度を異なせた複数の前記劣化判定部材を併用したことを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記劣化判定部材が変色後の発色が異なる2種類以上の酸化還元指示体を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の空気入りタイヤのトレッド部を研削して除去し、前記劣化判定部材を露出させ、その色調の変化を見ることでタイヤの劣化度合を判定することを特徴とする空気入りタイヤの劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、更生タイヤとして再使用することを想定した空気入りタイヤ及びその劣化判定方法に関し、更に詳しくは、より精度よく劣化の進行具合を把握することを可能にした空気入りタイヤ及びその劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレッド部の残溝が寿命に達した空気入りタイヤのトレッド面を切削、バフ掛けし、その残されたタイヤ本体からなる台タイヤに新しいトレッドを貼り付けることにより、更生タイヤとして再使用する場合がある。このような場合には、台タイヤの劣化の進行具合を把握することは極めて重要である。
【0003】
特許文献1では、タイヤ内に充填された空気が時間の経過と共にインナーライナー層を少しずつ透過することが、空気入りタイヤを劣化させる主な原因であることに着目し、空気透過量に応じて変色する酸化還元指示体をタイヤ内周面に取り付け、この酸化還元指示体の色調の変化を空気入りタイヤの劣化の指標とすることを提案している。
【0004】
しかしながら、この方法では、タイヤ構成部材自体の劣化度合を直接的に精度よく判定することはできず、劣化度合を間接的にしか把握することができないという問題がある。特に、酸化還元指示体がタイヤ内周面に取り付けられてタイヤ内に充填された空気に常に晒されるため、実際よりも劣化度合が悪く判定される傾向にあり、精度のよい判定が困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010‐179824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、更生タイヤとして再使用することを想定した空気入りタイヤにおける劣化の進行具合を、より精度よく把握することを可能にした空気入りタイヤ及びその劣化判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、トレッド部に複数層のベルト層が埋設された空気入りタイヤにおいて、前記複数層のベルト層のうち最外周側に位置する最外ベルト層と前記トレッド部の外表面との間のゴム中に、酸化反応により色調が変化する酸化還元指示体を含む劣化判定部材を埋設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、最外ベルト層とトレッド部の外表面との間に劣化判定部材を設けたので、トレッド部を切削、バフ掛けした後に台タイヤとして残存するベルト層に近い部位の劣化度合を精度よく判定することが可能になる。また、この部位に劣化判定部材が埋設されているので、更生タイヤ製造工程におけるトレッド部の切削、バフ掛け作業時に劣化判定部材が露出し、これを目視することで簡単に劣化判定を行うことが可能になる。
【0009】
本発明では、劣化判定部材がトレッド部のタイヤ幅方向外側端からトレッド幅の1/4の領域内に配置されたが好ましい。これにより、タイヤ内において温度上昇が大きく酸化劣化量も大きい傾向にあるベルトエッジ近傍の劣化度合を確実に判定することができる。尚、タイヤ幅方向外側端とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で該タイヤを平面に対して垂直に置き正規荷重を加えたときの平面との接触面におけるタイヤ幅方向の端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”である。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”である。
【0010】
本発明では、劣化判定部材が最外ベルト層からタイヤ径方向外側に10mm以内の領域に配置されたことが好ましい。これにより、実際に劣化度合を判定したいベルト近傍の劣化度合を確実に判定することができる。
【0011】
本発明では、劣化判定部材が酸化還元指示体と酸化還元指示体を覆う被覆層とからなり、被覆層が隣接するゴムよりも通気度の低いゴム又は熱可塑性エラストマーから構成されることが好ましい。これにより、酸化還元指示体を透過する空気の量を調整して、劣化判定部材の変色速度を遅くすることができるので、タイヤ使用前の製造・保管時の変色を抑制したり、タイヤに応じて閾値を設定することが可能になる。
【0012】
このとき、被覆層の厚さを異ならせることで変色速度を異なせた複数の劣化判定部材を併用した仕様にすることもできる。これにより、劣化度合を段階的に判定することが可能になる。
【0013】
本発明では、劣化判定部材が変色後の発色が異なる2種類以上の酸化還元指示体を含む仕様にすることもできる。これにより、劣化度合を段階的に判定することが可能になる。
【0014】
上述の空気入りタイヤの劣化判定方法では、トレッド部を研削して除去し、劣化判定部材を露出させ、その色調の変化を見ることでタイヤの劣化度合を容易に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
【
図2】
図1の劣化判定部材を拡大して示す説明図である。
【
図3】本発明の劣化指示体の一例を模式的に示す説明図である。
【
図4】本発明の劣化指示体の別の例を模式的に示す説明図である。
【
図5】本発明の劣化指示体の別の例を模式的に示す説明図である。
【
図6】本発明の空気入りタイヤのトレッド部を除去した状態を示す子午線断面図で ある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1において、符号CLはタイヤ赤道を表わす。本発明の空気入りタイヤTは、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3から構成される。左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6の中腹でカーカス層4の折り返された端部は終端している。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では4層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。
【0018】
本発明は、このような一般的な空気入りタイヤに適用されるが、その断面構造は上述の基本構造に限定されるものではない。
【0019】
本発明の空気入りタイヤでは、複数層のベルト層7のうち、最外周側に位置する最外ベルト層7oよりもタイヤ径方向外側のゴム層、即ち、最外ベルト層7oとトレッド部1の外表面との間のゴム中に、劣化判定部材8が埋設されている。この劣化判定部材8は、例えば、
図2に拡大して示すように、酸化反応により色調が変化する酸化還元指示体9と、この酸化還元指示体9を被覆する被覆層10とからなる。
図1の例では、劣化判定部材8は、タイヤ幅方向の3箇所(タイヤ赤道CL上の陸部下と左右のタイヤ幅方向最外側の陸部下)に設けられている。
【0020】
酸化還元指示体9は、例えば、酸化体と還元体とで色調の異なる呈色指示薬(酸化還元指示薬)を含有させたゴムや、酸化還元指示薬を含浸させた紙、布、繊維等である。酸化還元指示薬として固体を用いる場合は、その酸化還元指示薬自体を酸化還元指示体9として直接用いてもよい。劣化指示部材8が周囲のゴムと性質が大幅に異なるとタイヤ自体の性能に影響が出るため、酸化還元指示体9としては好ましくは酸化還元指示薬を含有させたゴムを用いるとよい。このとき、酸化還元指示薬の色調の変化が明瞭になるように、酸化還元指示薬を含有させるゴムは白色ゴムにするとよい。この場合、酸化劣化が進行すると白色の劣化指示部材8(酸化還元指示体9)が酸化還元指示薬の酸化体の色に発色することになる。
【0021】
酸化還元指示薬の種類は特に限定されないが、周囲のゴム(主に黒色)と変色後の酸化還元指示薬の色調(酸化体の色調)が異なり、視認性が優れるものを用いるとよい。例えば、インジゴカルミン(還元体色:無色/酸化体色:青色)、インジゴテトラスルホン酸(還元体色:無色/酸化体色:青色)、メチレンブルー(還元体色:無色/酸化体色:青色)、ジフェニルアミン(還元体色:無色/酸化体色:すみれ色)、ジフェニルベンジジン(還元体色:無色/酸化体色:すみれ色)、ジフェニルアミンスルホン酸(還元体色:無色/酸化体色:赤紫色)、フェノサフラニン(還元体色:無色/酸化体色:赤色)などを例示することができる。尚、酸化還元指示薬は、必要に応じて、対応する還元剤を作用させて無色の還元体にした状態で酸化還元指示体9に用いる。
【0022】
被覆層10は、例えばゴム又は熱可塑性エラストマーから構成される。被覆層10は、必ずしも設ける必要は無いが、後述のように酸化還元指示体9の変色の進行速度を遅らせる目的で用いることができる。
【0023】
空気入りタイヤでは、タイヤ内に充填された空気が時間の経過と共に空気入りタイヤ自体を透過するため、特に空気入りタイヤを構成するゴム等が徐々に酸化劣化するが、本発明の劣化判定部材8は、最外ベルト層7oとトレッド部1の外表面との間のゴム中に埋設されるので、上述のように空気入りタイヤを透過する空気を、周囲のゴムと同程度受けることになる。そのため、劣化判定部材8の変色は、そのまま周囲のゴムの劣化度合を反映することになる。従って、本発明では、従来のようにタイヤ内周面に劣化判定部材8を配置する場合よりも精度よく且つ直接的に空気入りタイヤの劣化度合を判定することができる。また、劣化判定部材8が埋設される最外ベルト層7oとトレッド部1の外表面との間のゴムは、更生タイヤ製造工程のトレッド部の切削、バフ掛け作業時に除去されるので、更生タイヤ製造中に劣化判定部材8が露出することになり、これを目視することで簡単に劣化判定を行うことが可能になる。
【0024】
劣化判定部材8の配置箇所は特に限定されず、最外ベルト層7oとトレッド部1の外表面との間の少なくとも一部に設けられていればよい。例えば、タイヤ幅方向の配置については、幅方向の1箇所のみに配置したり、
図1のように複数個所に配置してもよい。更に、タイヤ幅方向の全面に設けるようにしてもよい。タイヤ周方向の配置については、タイヤ周方向全周に亘って環状に配置したり、断続的に配置したり、周方向の所定の箇所のみに設けてもよい。但し、劣化判定部材8は周囲のゴムと性質が異なる傾向にあり、埋設量が多くなるほどタイヤ自体の性能に影響が出るので、タイヤ幅方向の配置については陸部に対応させて部分的に例えば1〜5箇所程度にするとよい。周方向の配置については、幅方向の配置と同様に局所的に設けても良いが、タイヤの全周に亘る均一性も考慮して、等間隔で断続的に配置したり、全周に亘って連続的に設けても良い。尚、劣化判定部材8を幅方向及び/又は周方向の所定の箇所に局所的に配置する場合は、更生タイヤ製造工程のトレッド部の切削、バフ掛け作業時に劣化判定部材8の位置を容易に確認できるように、台タイヤとして残存する部分に劣化判定部材8の埋設箇所を示す印を付けてもよい。
【0025】
劣化判定部材8の幅方向の配置について、更に、劣化判定部材8がトレッド部1のタイヤ幅方向外側端Eからトレッド幅TDW(タイヤ幅方向両側のタイヤ幅方向外側端E間の距離)の1/4の領域A内に配置されるようにすることが好ましい。この領域Aは、タイヤ内において温度上昇が大きく酸化劣化量も大きい傾向にあるベルトエッジ近傍を含むので、劣化度合や台タイヤとして残存する部位の耐久性判断に適しており、より効果的に劣化判断をおこなうことが可能になる。尚、タイヤ幅方向に非対称な劣化(片側劣化)が生じる場合もあるため、タイヤ幅方向両側の領域Aにそれぞれ劣化判定部材8を配置することがより有効である。
【0026】
劣化判定部材8は、最外ベルト層7oとトレッド部1の外表面との間の中でも、特に最外ベルト層7oからタイヤ径方向外側に10mm以内の領域Bに配置することが好ましい。このような領域Bに劣化判定部材8を配置することで、ベルト層7に近い部分、即ち、台タイヤとして実際に残存する部分の近傍の劣化度合を確実に判定することが可能になる。尚、
図1に例示する空気入りタイヤのように、最外ベルト層7oの幅が最も小さい場合、その延長線から10mm以内を領域Bとする。
【0027】
図2のように劣化判定部材8が被覆層10を有する場合、被覆層10を構成するゴム又は熱可塑性エラストマーの通気度を被覆層10に隣接するゴム(周囲のゴム)の通気度よりも低くすると、実際に酸化により変色する酸化還元指示体9に到達する空気の量を減少することができる。酸化還元指示体9の種類や、タイヤの構造(特に、インナーライナー層の材料や厚さ等)によっては、空気入りタイヤの劣化の進行よりも早く酸化還元指示体9の変色が完了してしまう虞があるため、上述のように被覆層10により酸化還元指示体9に到達する空気の量を調節することで、酸化還元指示体9の変色の進行速度を遅くし、適切な劣化判定を可能にすることができる。特に、空気入りタイヤの製造時(特に加硫工程)等に、酸化還元指示体9が先に酸化してしまい、空気入りタイヤの劣化度合を適切に判定できなくなることを防止することができる。また、被覆層10の材料や厚さによって酸化還元指示体9の変色の進行速度を適宜遅らせることができるので、空気入りタイヤに応じた閾値を容易に設定することが可能になる。
【0028】
変色速度の異なる複数の劣化判定部材8を併用することで、劣化度合を段階的に判定することも可能になる。例えば、
図3に示すように、3個の劣化判定部材8a,8b,8cを一箇所に設け、劣化判定部材8aの変色速度を最も早く、劣化判定部材8bの変色速度を2番目に早く、劣化判定部材8cの変色速度を最も遅くすると、酸化の度合(劣化度合)により、劣化判定部材8a,劣化判定部材8b,劣化判定部材8cの順で変色が完了することになる(
図3の劣化レベル1〜3を参照)。このような各劣化判定部材8a,8b,8cの変色の有無を確認することで劣化度合を段階的に判定することが可能になる。
【0029】
このように変色速度を異ならせる場合、例えば、
図4に例示するように、劣化判定部材8a,8b,8cを構成する酸化還元指示体9a,9b,9cの種類を変えることで変色速度を異ならせることができる。尚、
図4の例では、各劣化判定部材8a,8b,8cがそれぞれ酸化還元指示体9a,9b,9cと被覆層10a,10b,10cとで構成されているが、各劣化判定部材8a,8b,8cを酸化還元指示体9a,9b,9cのみから構成し、劣化判定部材8a,8b,8c全体を1つの被覆層10で覆うようにしてもよい。
【0030】
或いは、
図5に示すように、各劣化判定部材8a,8b,8cを構成する酸化還元指示体9a,9b,9cの種類は共通にして被覆層10a,10b,10cの厚さを異ならせることで変色速度を異ならせてもよい。即ち、
図5の例では、劣化判定部材8aの被覆層10aが最も薄く、劣化判定部材8bの被覆層10bが2番目に薄く、劣化判定部材8cの被覆層10cが最も厚くなっている。被覆層10が厚いほど酸化還元指示体9に空気が到達し難くなるため、
図3の場合と同様に、劣化判定部材8a,劣化判定部材8b,劣化判定部材8cの順で変色が完了することになる。
【0031】
このとき、酸化還元指示体9の変色後の色(酸化体の色)が同じであると、
図3に示すように、変色した部分の大きさによって劣化度合を判定することになるが、例えば、変色後の発色(酸化体の色)が異なる複数種類の酸化還元指示体9を用いると、色の違いによってより明確に劣化度合を段階的に判定することが可能になる。即ち、例えば上述の
図3の例において、酸化還元指示体9aの酸化体の色が「青色」、酸化還元指示体9bの酸化体の色が「赤色」、酸化還元指示体9cの酸化体の色が「すみれ色」であるようにすると、「青色」のみが現れたときの劣化レベル、「赤色」も現れたときの劣化レベル、更に「すみれ色」が現れたときの劣化レベルの3段階の評価を明確に行うことが可能になる。
【0032】
本発明の空気入りタイヤの劣化判定を行う場合、まず、トレッド部1の最外ベルト層7oよりタイヤ径方向外側のゴムを研削して除去する。これにより、
図4に例示するように、劣化判定部材8を外部に露出する。そして、この露出した劣化判定部材8の色を見ることでタイヤの劣化度合を判定する。トレッド部1の研削は、使用済みタイヤを更生タイヤとして再利用する場合に必須の工程であるので、更生タイヤ製造工程中に簡単に劣化度合を判定し、再利用可能な台タイヤを確実に選別することが可能になる。
【実施例】
【0033】
表1に示す劣化判定部材A〜Cを含み、劣化レベルを3段階(劣化レベル1〜3)で判定可能な劣化判定部材を作製した。具体的には、劣化判定部材Aが赤色に変色したときを劣化レベル1、劣化判定部材Bがすみれ色に変色したときを劣化レベル2、劣化判定部材Cが青色に変色したときを劣化レベル3とした。尚、劣化レベル1から劣化レベル3に向かって劣化が進行していることを意味する。
【0034】
そして、タイヤサイズが275/70R22.5で、
図1に示す断面構造を有し、上述の劣化判定部材を備え、且つ、インナーライナー層の厚さが異なるタイヤA(インナーライナー厚さ:1.5mm)、タイヤB(インナーライナー厚さ:2.0mm)、タイヤC(インナーライナー厚さ:2.5mm)をそれぞれ作製した。この際、劣化判定部材の配置、劣化判定部材の被覆層の有無を表2のように異ならせて比較例1、実施例1〜2とした。
【0035】
これらタイヤA〜Cをそれぞれリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付け、空気圧900kPaを充填し、トラックに装着し、20万kmを走行し、トレッド部を全摩耗させ、全摩耗したタイヤにバフ処理を施し、劣化判定部材を目視で確認し、各タイヤの劣化レベルを判定した。この判定結果は表2に併せて示した。
【0036】
その一方で、全摩耗した各タイヤからベルトゴムを抽出し、その破断伸びをJIS K6251に準拠して測定し、新品時のベルトゴムの破断伸びの値を100とする指数値を求めた。この指数値をタイヤA〜Cの実際の劣化度合を示す劣化指数として表2に併記した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表2から明らかなように、実施例1〜2は比較例1に対して、実際の劣化度合(劣化指数)と相関性の高い劣化判定を行うことができた。具体的には、比較例1では、劣化判定部材がタイヤ内周面に配置されたため、劣化判定部材の酸化がより進行し、タイヤA〜Cの判定結果がいずれも「劣化レベル3」となった。一方、実施例1は、劣化判定部材がタイヤ内に埋設されたため、タイヤを透過する空気を周囲のゴムと同程度に受けることとなり、実際の劣化度合(劣化指数)に対応して、タイヤAの判定結果が「劣化レベル3」、タイヤBの判定結果が「劣化レベル2」、タイヤCの判定結果が「劣化レベル1」となった。尚、劣化判定部材がタイヤ内に埋設されたものの、劣化判定部材が被覆層を有さない実施例2では、実際の劣化度合(劣化指数)に対応して、タイヤCよりもタイヤA,Bの判定結果が悪い傾向は現れたが、劣化判定部材の変色が早く進行したため、タイヤAの判定結果とタイヤBの判定結果とが同じになった。
【符号の説明】
【0040】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
7o 最外ベルト層
8 劣化判定部材
9 酸化還元指示体
10 被覆層
CL タイヤ赤道