特許第6350157号(P6350157)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350157
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】内用液剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/485 20060101AFI20180625BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20180625BHJP
   A61P 11/14 20060101ALN20180625BHJP
【FI】
   A61K31/485
   A61K47/46
   A61K47/14
   A61K47/08
   A61K9/08
   !A61P11/14
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-187460(P2014-187460)
(22)【出願日】2014年9月16日
(65)【公開番号】特開2015-91779(P2015-91779A)
(43)【公開日】2015年5月14日
【審査請求日】2017年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-206551(P2013-206551)
(32)【優先日】2013年10月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻井幸市朗
(72)【発明者】
【氏名】本間芳子
【審査官】 原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−97856(JP,A)
【文献】 特開2001−151677(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/148794(WO,A1)
【文献】 アストミン(R)シロップ0.25%,2006年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/485
A61K 9/08
A61K 47/08
A61K 47/14
A61K 47/46
A61P 11/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ジメモルファン及び/又はその塩、並びに
b)キンカンフレーバー、ユズフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、ハネーフレーバー、グレープフレーバー、コクトウフレーバー、キャラメルフレーバー、シソフレーバー、ペリラアルデヒド及び酢酸シトロネリルの群から選ばれる香料又は香気成分の少なくとも1種を含有することを特徴とする内用液剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメモルファンを含有する内用液剤に関し、医薬品の分野に応用できるものである。
【背景技術】
【0002】
ジメモルファンはモルヒナン骨格を有する鎮咳薬で、強力な鎮咳作用を有している。中枢性の依存性がない非麻薬性の薬剤であり、上気道炎、急性気管支炎、肺炎に対して用いられており、一般用医薬品の咳止めシロップ剤としても使用されている。
【0003】
内用液剤は固形剤と比較して飲み込みやすく、小児や高齢者など嚥下の機能が低い人や咳などの症状がある人にとって服用しやすいという利点がある。しかし、ジメモルファンは非常に強い刺激性の苦味を有し、液剤にした場合、服用性が低下する。そこで、甘味剤の使用などにより、苦味を低減させて飲みやすくする必要がある。
【0004】
これまでもモルヒナン骨格を有する苦味薬物の風味を改善する方法が開発されてきた。例えば、ステビアの使用により、ジヒドロコデインリン酸塩の苦味を改善した感冒用組成物ができること(特許文献1参照)、糖アルコール及び/又はトレハロース、並びにスクラロースを一緒に配合することにより、ジメモルファンリン酸塩の苦味を改善した内用液剤(特許文献2参照)が報告されている。
【0005】
しかし、これら公知の方法で苦味の抑制効果は認められるものの、ジメモルファンの刺激的な苦味を抑制するには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−52849号公報
【特許文献2】WO2011/148794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ジメモルファンの刺激性の非常に強い苦味を抑制し、服用が容易な内用液剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ジメモルファンを配合した内用液剤において、特定の香料を添加したところ、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
さらに、本発明者らは、上記課題を解決すべく香気成分について鋭意検討した結果、ペリラアルデヒド又は酢酸シトロネリルが、ジメモルファンの特有の苦味を抑制できる成分であることを見出した。
【0010】
即ち本発明は、
a)ジメモルファン及び/又はその塩、並びに
b)キンカンフレーバー、ユズフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、ハネーフレーバー、グレープフレーバー、コクトウフレーバー、キャラメルフレーバー、シソフレーバー、ペリラアルデヒド及び酢酸シトロネリルの群から選ばれる香料又は香気成分の少なくとも1種を含有することを特徴とする内用液剤、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ジメモルファン由来の刺激性の非常に強い苦味が大幅に抑制され、服用が容易な内用液剤を提供することが可能となった。本発明により、強力な鎮咳作用を有するジメモルファン配合液剤を飲みやすい製剤として提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、ジメモルファンの塩とは、塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩など内用液剤として許容可能な塩が挙げられるが、もっとも好ましいのはリン酸塩である。本発明の内用液剤中におけるジメモルファン及び/又はその塩の含有量は、0.025〜0.25w/v%である。
【0013】
本発明において、キンカンフレーバーとは、キンカン独特の風味を有するものを意味し、天然品、半合成品、合成品のいずれのフレーバーであってもよく、一般にキンカンフレーバー又はキンカンエッセンスとして入手することができる。また、キンカン果汁、回収フレーバー、キンカンオイル、キンカン抽出物であってもよい。
【0014】
本発明において、ユズフレーバーとは、ユズ独特の風味を有するものを意味し、天然品、半合成品、合成品のいずれのフレーバーであってもよく、一般にユズフレーバー又はユズエッセンスとして入手することができる。また、ユズ果汁、回収フレーバー、ユズオイル、ユズ抽出物であってもよい。
【0015】
本発明において、オレンジフレーバーとは、オレンジ独特の風味を有するものを意味し、天然品、半合成品、合成品のいずれのフレーバーであってもよく、一般にオレンジフレーバー又はオレンジエッセンスとして入手することができる。また、オレンジ果汁、回収フレーバー、オレンジオイル、オレンジ抽出物であってもよい。
【0016】
本発明において、グレープフルーツフレーバーとは、グレープフルーツ独特の風味を有するものを意味し、天然品、半合成品、合成品のいずれのフレーバーであってもよく、一般にグレープフルーツフレーバー又はグレープフルーツエッセンスとして入手することができる。また、グレープフルーツ果汁、回収フレーバー、グレープフルーツオイル、グレープフルーツ抽出物であってもよい。
【0017】
本発明において、ハネーフレーバーとは、ハチミツ独特の風味を有するものを意味し、天然品、半合成品、合成品のいずれのフレーバーであってもよく、一般にハネーフレーバー又はハネーエッセンスとして入手することができる。また、ハネー抽出物であってもよい。
【0018】
本発明において、グレープフレーバーとは、グレープ独特の風味を有するものを意味し、天然品、半合成品、合成品のいずれのフレーバーであってもよく、一般にグレープフレーバー又はグレープエッセンスとして入手することができる。また、グレープ果汁、回収フレーバー、グレープ抽出物であってもよい。
【0019】
本発明において、コクトウフレーバーとは、黒糖独特の風味を有するものを意味し、天然品、半合成品、合成品のいずれのフレーバーであってもよく、一般にコクトウフレーバー又はコクトウエッセンスとして入手することができる。
【0020】
本発明において、キャラメルフレーバーとは、キャラメル独特の風味を有するものを意味し、天然品、半合成品、合成品のいずれのフレーバーであってもよく、一般にキャラメルフレーバー又はキャラメルエッセンスとして入手することができる。
【0021】
本発明において、シソフレーバーとは、シソ独特の風味を有するものを意味し、天然品、半合成品、合成品のいずれのフレーバーであってもよく、一般にシソフレーバー又はシソエッセンスとして入手することができる。また、回収フレーバー、シソ抽出物であってもよい。
【0022】
本発明のキンカンフレーバー、ユズフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、ハネーフレーバー、グレープフレーバー、コクトウフレーバー、キャラメルフレーバー、及びシソフレーバーの群から選ばれる香料のうち、本発明の効果の点から好ましいのはキンカンフレーバー、ユズフレーバー、コクトウフレーバー、キャラメルフレーバーであり、最も好ましいのはキンカンフレーバー、ユズフレーバーである。
【0023】
本発明の内用液剤中におけるキンカンフレーバー、ユズフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、ハネーフレーバー、グレープフレーバー、コクトウフレーバー、キャラメルフレーバー又はシソフレーバーの含有量は、0.05〜0.2w/v%が好ましい。
【0024】
本発明の香気成分であるペリラアルデヒドは、ユズの主要成分であるが、シソの香りを有する成分として公知のものである。公知の方法により合成、抽出、精製等することにより得ることができる。また市販品を使用してもよい。本発明の内用液剤中におけるペリラアルデヒドの含有量は、本発明のジメモルファン及び/又はその塩1質量部に対して0.0001質量部以上が好ましい。
【0025】
本発明の香気成分である酢酸シトロネリルは、キンカンの主要成分である。公知の方法により合成、抽出、精製等することにより得ることができる。また市販品を使用してもよい。本発明の内用液剤中における酢酸シトロネリルの含有量は、本発明のジメモルファン及び/又はその塩1質量部に対して0.0001質量部以上が好ましい。
【0026】
本発明の内用液剤のpHは、2.5〜7.0の範囲、好ましくは3.0〜6.0の範囲であるpHを上記範囲に保つためには、必要に応じてpH調節剤を配合することができる。このpH調節剤としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、乳酸、コハク酸、アスコルビン酸、酢酸などの有機酸およびそれらの塩類、塩酸、リン酸などの無機酸およびそれらの塩類などが挙げられる。これらのpH調節剤は一種又は二種以上使用できる。
【0027】
また、本発明の内用液剤には、本発明の効果を損なわない質的、量的範囲で、上記以外の成分、例えばジメモルファン以外の鎮咳剤、去痰剤、解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、甘味剤、保存剤、着色剤、pH調節剤、溶解補助剤、抗酸化剤、香料、溶剤などの内用液剤に一般に使用される成分を配合することができる。
【0028】
本発明に関わる内用液剤は常法により調製でき、その方法は特に制限されないが、通常、各成分を規定量以下の精製水にて混合し、規定量に容量調整し、必要に応じてろ過、殺菌処理をすることで得られる。
【0029】
本発明の内用液剤は、例えばシロップ剤を含む内用液剤等の医薬品に適用できる。
【0030】
次に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0032】
(1)内用液剤の製造:
表1および表2に示す内用液剤を製造した。下記成分を適量の精製水に溶解した後、クエン酸およびクエン酸ナトリウムでpHを4.5に調整し、更に精製水を加えて100mLとした。これらをガラス瓶に充填してキャップを施し、内用液剤(実施例1〜7、比較例1〜6)を得た。
【0033】
試験例1:官能評価
実施例1〜7及び比較例1〜6の内用液剤を専門パネル3名により、下記の表3の評価項目及び評価基準にて風味を評価し、結果を表1および表2に示した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
表1〜2に示した通り、キンカンフレーバー、ユズフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、ハネーフレーバー、グレープフレーバーを添加した実施例1〜7の液剤は、他のフレーバーを添加した比較例1〜6と比較して、苦味の抑制効果が大きいという結果であった。特に、キンカンフレーバー、ユズフレーバーは、ジメモルファン由来の苦味抑制効果が高かった。
【0038】
(2)内用液剤の製造:
表4、表5に示す内用液剤を製造した。下記成分を適量の精製水に溶解した後、クエン酸およびクエン酸ナトリウムでpHを4.5に調整し、更に精製水を加えて100mLとした。これらをガラス瓶に充填してキャップを施し、内用液剤(実施例8〜17、比較例7)を得た。
【0039】
官能評価:試験例1と同様の方法により実施例8〜17及び比較例7の内用液剤の風味を評価し、結果を表4、表5に示した。
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示した通り、ペリラアルデヒド又は酢酸シトロネリルは、ジメモルファン由来の苦味を抑制した。
【0042】
【表5】
【0043】
表5に示した通り、コウトウフレーバー又はキャラメルフレーバーを添加した液剤は、ジメモルファン由来の苦味を抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、ジメモルファンを含有する内用液剤の刺激性の苦味を低減することが可能となったため、商品性の高いジメモルファン含有液剤を提供することが可能となった。