(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記楕円形状特定ステップでは、輪郭強度の線積分の定数倍から楕円の弧長を引いたものを前記評価関数として利用し、前記楕円形状の初期値として、前記羽口の外側を囲う楕円形状を設定し、勾配法により前記極大値を与える楕円形状を特定する最適化処理を実行する、請求項1に記載の高炉羽口状態観察方法。
前記楕円形状特定ステップでは、前記熱放射輝度画像を画像水平方向及び画像垂直方向にそれぞれ微分することで2種類の微分画像が生成され、当該2種類の微分画像をそれぞれ2乗した後に足し合わせることで輪郭強度画像が生成され、当該輪郭強度画像に基づいて前記楕円形状が特定される、請求項1又は2に記載の高炉羽口状態観察方法。
前記楕円形状特定ステップでは、前記微分画像の生成に先立ち、前記熱放射輝度画像に対して2次元ガウスフィルタ処理を施し、当該2次元ガウスフィルタ処理後の前記熱放射輝度画像を利用して、前記微分画像が生成される、請求項3に記載の高炉羽口状態観察方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0027】
(高炉内で進行している反応の概略)
まず、
図1を参照しながら、本発明の実施形態で着目する高炉について、簡単に説明する。
図1は、本発明の実施形態で着目する高炉について説明するための説明図である。
【0028】
図1に示したように、高炉は、円筒の徳利形状を有する竪型炉の一種であり、炉の頭頂部(炉頂部)から供給される原料と、炉の下方に設けられた羽口から供給される熱風により生成される還元性ガスとが反応する反応装置として機能する。
【0029】
炉頂部から供給される原料としては、主に、鉄鉱石や焼結鉱等の鉄酸化物、コークス、石灰石等がある。鉄鉱石は、高炉における反応で生成される銑鉄の鉄源となるものであり、コークスは、鉄鉱石の還元剤及び原料を溶解するための熱源として機能するだけでなく、高炉内の通気性を保持する役割を有している。また、石灰石は、鉄鉱石の脈石成分と反応して低溶融点を持ち流動性のよいスラグを生成するために添加される媒溶剤として機能する。
【0030】
高炉の内部では、
図1に示したように、鉄鉱石(及び石灰石)からなる層と、コークスからなる層とが交互に積層されている。これらの原料は、
図1に示したような積層状態を維持しつつ、炉の下方へと移動していく。
【0031】
また、
図1に示した羽口からは、熱風及びコークスの補完還元剤として機能する微粉炭が供給される。羽口近傍のレースウェイと呼ばれる領域において、供給された熱風により微粉炭やコークスが燃焼によりガス化して、一酸化炭素や水素等からなる高温の還元性ガスが生成される。この高温の還元性ガスは、炉内を移動する上昇気流となって炉頂部へと吹き昇っていく。この還元性ガスにより炉内の鉄鉱石は還元されていき(間接還元)、更に、還元性ガスが有する熱によって固体から液体へと変化する。液体となった鉄分は、コークス層内を滴下しながらコークスの炭素によって更に還元され(直接還元)、炭素を5%程度含む溶銑となる。
【0032】
図1に示した融着帯では、半溶融状態にある鉄分の間に固体コークスがスリット状に存在している部分であり、主にこの融着帯において、上述のような鉄分の相変化が生じている。
【0033】
このように、高炉という反応装置では、固体、液体、気体が共存して反応が進行している。安定的な操業を行うためには、高炉内で進行している還元反応を予測することが重要である。以下で説明する本発明の実施形態では、高炉内の状況を把握する際の指標として、「生鉱落ち」という現象が発生したか否か、及び、「微粉炭膨張」という現象が発生したか否か、という少なくとも2つの指標に着目する。
【0034】
「生鉱落ち」とは、未溶融の鉱石が落下する現象であり、このような現象が発生するということは、高炉内の熱量が不足していることを意味する。そのため、生鉱落ちが発生した場合には、コークス量を増加するなどといった、炉内の熱量を増加させるための処置が必要となる。
【0035】
「微粉炭膨張」とは、羽口を撮像した撮像画像において、通常ノズル先端の画像1/3程度を占めている未燃焼微粉炭の像が急拡大する現象である。このような現象の発生は、レースウェイの形状が好ましい形状から変化していることを示唆するものであるため、レースウェイの形状を良好な状態にするための処置が必要となる。
【0036】
(高炉羽口状態観察装置について)
まず、
図2を参照しながら、本発明の実施形態に係る高炉羽口状態観察装置10について、詳細に説明する。
【0037】
本実施形態に係る高炉羽口状態観察装置10は、
図2に示したように、撮像装置100及び演算処理装置200を備える。
【0038】
<撮像装置について>
撮像装置100は、羽口の熱放射輝度の分布状況を撮像して、熱放射輝度画像を生成する装置である。撮像装置100は、レンズ等の各種光学素子と、CCD(Charge Coupled Device)、又は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子と、を有している。ここで、本実施形態に係る撮像装置100は、静止画像を生成可能なものであってもよく、動画像を生成可能なものであってもよい。また、本実施形態に係る撮像装置100は、モノクロ画像を撮像可能なものであってもよいし、カラー画像を撮像可能なものであってもよい。なお、カラー画像を撮像可能な撮像装置を利用する場合には、1チャンネルの輝度画像を生成すればよい。すなわち、輝度画像の生成手段としては、RGB成分のうちR,G,Bのいずれかの成分だけを利用しても良いし、RGB色空間からYCbCr色空間への変換を行い、Y成分のみを利用しても良い。
【0039】
撮像装置100は、後述する演算処理装置200により制御されており、所定のフレームレート毎に、演算処理装置200から撮像のためのトリガ信号が出力される。撮像装置100は、演算処理装置200から出力されたトリガ信号に応じて、羽口からの熱放射を撮像し、生成した熱放射輝度画像を演算処理装置200に出力する。
【0040】
図3は、本実施形態に係る撮像装置100の設置状態を説明するための説明図であり、
図4は、本実施形態に係る熱放射輝度画像の例を示した説明図である。高炉は、耐熱レンガによって覆われているが、
図3に示したように、羽口近傍には、PCランスによって微粉炭が供給されるとともに、1200℃程度の熱風が供給されている。羽口から約1mの範囲にはレースウェイが形成されており、このレースウェイでは、微粉炭やコークス等の燃焼により、2000℃以上の高温となっている。
【0041】
本実施形態に係る撮像装置100は、羽口の状態を観察するための観察窓に設置されており、羽口近傍のレースウェイからの熱放射を撮像して熱放射輝度画像とする。羽口は、通常、円形状であるが、撮像装置100は、羽口を斜め上から見下ろすように撮像するため、撮像される熱放射輝度画像の羽口形状は、
図4左上に示したように、略楕円形状となる。
【0042】
撮像装置100は、高炉の操業状態が良好と判断されている際に、予め撮像視野やピント等が調整されており、適切な撮像処理が行われるようになっている。高炉羽口の状態が良好である場合には、
図4右上に示したように、視野の中にPCランスの先端部が写りこむとともに、PCランスの先端から供給される微粉炭が、視野の1/3程を占有することとなる。また、PCランス及び微粉炭以外の領域は、レースウェイの温度に起因する熱放射が写りこむこととなる。
【0043】
生鉱落ちが発生した際には、
図4左下に模式的に示したように落下した鉱石が写りこむこととなるため、視野全体が一時的に暗くなって、熱放射輝度が低下する。また、微粉炭膨張が発生した場合には、
図4右下に模式的に示したように、微粉炭の占める領域が視野の右下から左上に向かって急激に膨張し、その後
図4右上に示したような状態へと回復するという、特徴的なパターンが観測される。
【0044】
以上、
図4を参照しながら、本実施形態に係る熱放射輝度画像の例について、具体的に説明した。
【0045】
<演算処理装置の全体構成について>
続いて、再び
図2に戻って、本実施形態に係る演算処理装置200の全体構成について説明する。
【0046】
本実施形態に係る演算処理装置200は、撮像装置100により撮像された熱放射輝度画像に対して画像処理を実施して、後述する明部分布情報を生成する。また、演算処理装置200は、生成した明部分布情報に基づいて、羽口の状態(すなわち、生鉱落ちや微粉炭膨張の発生)を判断することも可能である。
【0047】
この演算処理装置200は、
図2に示したように、撮像制御部201と、画像処理部203と、表示制御部205と、記憶部207と、を主に備える。
【0048】
撮像制御部201は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。撮像制御部201は、本実施形態に係る撮像装置100による羽口の撮像制御を実施する。より詳細には、撮像制御部201は、羽口の熱放射輝度画像の撮像を開始する場合に、撮像装置100に対して撮像を開始させるための制御信号を送出する。
【0049】
画像処理部203は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。画像処理部203は、撮像装置100から取得した熱放射輝度画像の撮像データに対して、以下で説明するような画像処理を行い、後述する明部分布情報を生成する。また、画像処理部203は、生成した明部分布情報に基づいて、生鉱落ちや微粉炭膨張等が発生したか否かを判断する。画像処理部203は、生成した明部分布情報や、生鉱落ちや微粉炭膨張等の判断結果に関する情報を、表示制御部205に伝送する。
【0050】
なお、この画像処理部203については、以下で改めて詳細に説明する。
【0051】
表示制御部205は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置等により実現される。表示制御部205は、画像処理部203から伝送された、明部分布情報や、生鉱落ち/微粉炭膨張の判断結果を、演算処理装置200が備えるディスプレイ等の出力装置や演算処理装置200の外部に設けられた出力装置等に表示する際の表示制御を行う。これにより、高炉羽口状態観察装置10の利用者は、明部分布情報や高炉羽口の状態に関する情報を、その場で把握することが可能となる。
【0052】
記憶部207は、例えば本実施形態に係る演算処理装置200が備えるRAMやストレージ装置等により実現される。記憶部207には、本実施形態に係る演算処理装置200が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベースやプログラム等が、適宜記録される。この記憶部207は、撮像制御部201、画像処理部203、表示制御部205等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
【0053】
[画像処理部について]
続いて、
図5〜
図18を参照しながら、本実施形態に係る演算処理装置200が備える画像処理部203について、詳細に説明する。
図5は、本実施形態に係る高炉羽口状態観察装置が備える演算処理装置の画像処理部の構成について示したブロック図であり、
図6は、本実施形態に係る演算処理装置の画像処理部が有する楕円形状特定部の構成について示したブロック図である。
図7A〜
図10は、本実施形態に係る楕円形状特定処理を説明するための説明図である。
図11は、本実施形態に係る画像変換部について説明するための説明図であり、
図12は、本実施形態に係る二値化画像について説明するための説明図である。
図13〜
図15は、本実施形態に係る明部分布情報について説明するための説明図である。
図16は、本実施形態に係る特徴量算出部について説明するための説明図であり、
図17は、本実施形態に係る軌跡情報について説明するための説明図であり、
図18は、本実施形態に係る高炉羽口状態の判断方法について説明するための説明図である。
【0054】
本実施形態に係る演算処理装置200は、
図5に示したように、楕円形状特定部211と、画像変換部213と、指標算出部215と、を主に備える。また、指標算出部215は、
図5に示したように、二値化画像生成部217と、明部分布情報生成部219と、特徴量算出部221と、軌跡情報生成部223と、状態判断部225と、を有している。
【0055】
○楕円形状特定部211
楕円形状特定部211は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。楕円形状特定部211は、撮像装置100により取得されたそれぞれの熱放射輝度画像における羽口の輪郭形状に楕円形状をあてはめ、輪郭形状に適合する楕円形状を特定する。
【0056】
この楕円形状特定部211は、
図6に示したように、飽和処理部231と、輪郭抽出部233と、形状算出部235と、を有している。
【0057】
飽和処理部231は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。飽和処理部231は、撮像装置100によって生成された熱放射輝度画像に対して、
図7Aに示すような飽和処理又は
図7Bに示すような二値化処理を実施して、熱放射輝度画像の輝度値の勾配が一定となるようにする。
【0058】
生成された熱放射輝度画像をそのまま後段の画像処理に利用する際、高炉内で「生鉱落ち」が発生していた場合には、熱放射輝度画像において輝度値の勾配が小さくなり、輪郭が不明確になってしまうことが多い。以下で説明するように、楕円形状特定部211による楕円形状の特定処理では熱放射輝度画像に対して微分処理を施すが、輝度値の勾配が小さい場合には、微分値が小さくなり処理が正しく行われない可能性がある。そこで、飽和処理部231は、熱放射輝度画像に対して、以下で説明するような飽和処理又は二値化処理を施して、後段の微分処理による出力値が安定するようにする。
【0059】
図7Aは、飽和処理部231が飽和処理を実施する場合における、入力輝度値と出力輝度値との関係を模式的に示したグラフ図である。
図7Aに示したような飽和処理の場合、飽和処理部231は、処理対象とする熱放射輝度画像の画素値(すなわち、入力輝度値)を参照し、着目している画素の輝度値が輝度値Th未満である場合には、入力輝度値に比例する出力輝度値を、着目している画素の輝度値として対応付ける。また、着目している画素の輝度値が輝度値Th以上である場合には、飽和処理部231は、出力輝度値の値を、入力輝度値の大きさによらず、ある一定の値(以下、飽和値ともいう。)に対応付ける。この飽和値は、熱放射輝度画像において、羽口ではない部分(例えば、
図4に模式的に示した熱放射輝度画像のうち、撮像視野の端部等)の輝度値よりも大きい値に設定し、羽口部分の輪郭が明確にわかるようにする。その結果、熱放射輝度画像において、高炉内の空間を撮像している領域が例えば白抜きで表わされるようになり、羽口部分の輪郭が明確化される。
【0060】
図7Bは、飽和処理部231が二値化処理を実施する場合における、入力輝度値と出力輝度値との関係を模式的に示したグラフ図である。
図7Bに示したような二値化処理の場合、飽和処理部231は、処理対象とする熱放射輝度画像の画素値を参照し、着目している画素の輝度値が輝度値Th未満である場合には出力輝度値の値をゼロとする。また、着目している画素の輝度値が輝度値Th以上である場合には、飽和処理部231は、出力輝度値の値を、入力輝度値の大きさによらず、ある一定の飽和値となるようにする。
【0061】
飽和処理部231は、熱放射輝度画像に対して上記のような飽和処理又は二値化処理を実施すると、得られた処理後の熱放射輝度画像のデータを、後述する輪郭抽出部233に出力する。
【0062】
輪郭抽出部233は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。輪郭抽出部233は、飽和処理部231から出力された熱放射輝度画像を利用して、かかる熱放射輝度画像の中から羽口の輪郭を抽出し、輪郭部分の強度(画像輝度値)が強調された輪郭強度画像を生成する。
【0063】
より詳細には、輪郭抽出部233は、熱放射輝度画像を画像水平方向及び画像垂直方向にそれぞれ微分することで2種類の微分画像を生成し、得られた2種類の微分画像をそれぞれ2乗した後に足し合わせることで、羽口の輪郭部分について強度が大きくなる輪郭強度画像を生成する。ここで、かかる微分画像の生成に先立ち、輪郭抽出部233は、熱放射輝度画像に対して2次元ガウスフィルタ処理を施して、輪郭をぼかすことが好ましい。これにより、輪郭線を太線化することが可能となり、後述する形状算出部235における輪郭に対応する楕円形状の探索処理を、より容易なものとすることができる。
【0064】
以下、
図8を参照しながら、輪郭抽出部233における輪郭抽出処理について、具体的に説明する。
【0065】
いま、
図8左端に示したような熱放射輝度画像が、飽和処理部231から出力されたものとする。ここで、熱放射輝度画像の画像垂直方向を便宜的にX軸方向とし、画像水平方向を便宜的にY軸方向とする。輪郭抽出部233は、かかる熱放射輝度画像に対して、まず、ガウスフィルタ(カーネル関数として、exp{−(x
2+y
2)/σ
2}で表わされる2次元ガウス関数を用いたフィルタ)を作用させて、輪郭ぼかし処理を実施する。これにより、
図8中に示したように、熱放射輝度画像を全体にわたってぼかすことが可能となり、羽口形状の外形に対応する輪郭線を太くすることができる。
【0066】
ここで、2次元ガウス関数の広がりを規定するパラメータ(換言すれば、太線化後の輪郭線の太さを示すパラメータ)σは、後述する形状算出部235における最適化計算が機能するとともに、太くなった輪郭線が画像からはみ出さない程度となるような値に設定される。かかる値は特に限定されるものではなく、後述する最適化計算に求める精度や、熱放射輝度画像の画像サイズ等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、σ=10pixel程度の値に設定することができる。
【0067】
次に、輪郭抽出部233は、フィルタ処理後の熱放射輝度画像に対してX方向の微分処理を施して、X方向の微分画像を生成するとともに、フィルタ処理後の熱放射輝度画像に対してY方向の微分処理を施して、Y方向の微分画像を生成する。これにより、
図8に示したように、1つの熱放射輝度画像から2種類の微分画像が生成されることとなる。なお、
図8に示した微分画像では、輝度値=0となる部分を灰色で表示するとともに、輝度値>0となる部分を白色で表示し、輝度値<0となる部分を黒色で表示している。かかる微分画像により、フィルタ処理後の熱放射輝度画像におけるX方向のエッジ部分とY方向のエッジ部分とが検出されることとなる。
【0068】
続いて、輪郭抽出部233は、2種類の微分画像のそれぞれを2乗した上で足し合わせ、輪郭強度画像とする。これにより、
図8右端に示したように、羽口形状の輪郭線に対応する画素の強度が強調された、輪郭強度画像が生成されることとなる。なお、
図8では、輪郭線に対応する画素の輝度値が1となり、輪郭線以外の画素の輝度値が0となるように正規化したものを示している。
【0069】
輪郭抽出部233は、このようにして生成された輪郭強度画像を、形状算出部235に出力する。
【0070】
形状算出部235は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。形状算出部235は、輪郭抽出部233により生成された輪郭強度画像を利用して、羽口の輪郭形状にあてはめられた楕円形状を表わす楕円パラメータを算出する。
【0071】
より詳細には、形状算出部235は、輪郭強度画像で表わされる輪郭線に最も当てはまるような楕円形状の楕円パラメータ(楕円中心位置、楕円長軸及び楕円短軸の大きさ)を探索する。かかる探索では、
図9左図に模式的に示したように、羽口形状の外側を囲む楕円を初期値である初期楕円とした上で、徐々に楕円を縮めていく。その後、楕円が輪郭強度画像で表わされる輪郭線に接したときに、かかる探索処理は終了する。
【0072】
このような探索処理を実現するために、形状算出部235は、着目する輪郭強度画像について、あてはめる楕円形状の弧上に位置する輪郭強度の線積分を含む、以下の式101で表わされる評価関数Eを規定する。そして、形状算出部235は、「評価関数Eの極大値を与える楕円形状を探索する」という最適化問題を勾配法で求解し、得られた解に対応する楕円形状を、羽口の輪郭形状に適合する楕円形状とする。
【0074】
ここで、上記式101において、積分記号は楕円パラメータによって定まる楕円の弧上の線積分であり、
E:極大値を求める評価関数
I
e:あてはめる楕円形状の弧上に位置する輪郭強度(輝度値)の総和
K:楕円形状を縮める向きの力と輪郭線への引力のバランスを決める定数
である。
【0075】
上記式101の右辺第1項は、楕円の弧に沿った輪郭強度画像の輝度の総和を定数倍したものであり、右辺第1項の値が大きくなるということは、楕円弧が輪郭と一致していることを示す。右辺第2項は、−1を線積分していることから楕円の弧長の符号をマイナスにしたものであり、第2項の値が大きくなる、すなわち第2項の絶対値が小さくなることは、楕円が縮むことに対応する。定数Kは、楕円形状の弧長と、輪郭強度画像の輝度値とに依存するため、過去の操業データ等を利用した事前の検証により、実験的に定めることが好ましい。具体的な定数Kの値は、特に限定するものではないが、K=20と設定することができる。
【0076】
ここで、輪郭線に対する楕円形状のフィッティングという目的からは、上記式101の右辺第1項だけでも良いように思われるかもしれない。しかしながら、最適化問題の初期値として、
図9左図に示したような大きめの楕円を設定するため、上記式101の右辺第1項のみで規定される線積分の値を目的関数とした場合、
図9右図に模式的に示したように、初期値近傍での目的関数の勾配が小さくなったり、時にはゼロとなったりする。その結果、右辺第1項のみを目的関数とした場合、勾配法では極大値探索を開始することができない。そこで、本実施形態では、楕円が縮む向きに勾配法の駆動力を与える目的で、上記式101の右辺第2項を加える。これにより、
図10に模式的に示したように、初期値近傍でも目的関数(すなわち、評価関数E)の勾配が大きくなり、勾配法による極大値探索を行うことが可能となる。
【0077】
また、最適化問題を解くにあたっては、十分に小さい楕円から開始して、徐々に楕円を大きくしていく方向(
図9右図において、グラフ左端から探索を開始する方向)も考えられる。しかしながら、
図4や
図8左図に示したように、本実施形態に係る羽口の輪郭形状は、2つの領域に分裂しているため、最適化問題を求解した結果、
図9左図に示したような別の局所解が得られてしまう場合も考えられる。従って、本実施形態では、過去の実績データから確実に羽口の輪郭形状の外側となるような楕円パラメータから探索を開始し、楕円を縮めていきながら最初の局所解を求めるという方針を採用する。
【0078】
なお、最適化問題の解法として利用される勾配法の詳細については特に限定されるものではなく、例えば非特許文献「最適化の手法」(茨木俊秀、福島雅夫著、共立出版、109ページ)に記載されているような、公知のものを用いることができる。
【0079】
形状算出部235は、上記のような手法により、評価関数Eの極大値を与える楕円形状を特定し、特定した楕円形状の中心位置(X
C,Y
C)と、楕円長軸の大きさ2aと、楕円短軸の大きさ2bと、を算出する。形状算出部235は、それぞれの輪郭強度画像について、上記のような楕円パラメータ(中心位置、楕円直軸及び楕円短軸の大きさ)を算出すると、得られた楕円パラメータを、後述する画像変換部213へと出力する。
【0080】
ここで、形状算出部235は、上記手法に利用する羽口形状の外側を囲む楕円(初期楕円)を、過去の操業データを利用した事前の検証によって決定する固定値として、記憶部207等に格納しておく。その上で、形状算出部235は、(A)最初のフレームとして取得した熱放射輝度画像に対して最初に最適化問題を解く場合の最適化初期値、及び、(B)最適化問題における最適化処理が収束せずに失敗し、
図9に示した「求めたい解」に対応する楕円形状を求められなかった場合における次回の最適化処理の初期値を、予め規定した固定値(すなわち、予め規定した楕円形状)に設定する。
【0081】
また、形状算出部235は、上記(A)及び(B)以外の最適化処理時には、前回の最適化処理の解である楕円形状の長軸方向長さ及び短軸方向長さを定数倍拡大したもの(例えば、1.05〜1.10倍したもの)を、初期値とする。これにより、極大値を与える楕円形状の探索回数を減らすことができ、楕円形状を算出する際の演算負荷を削減することができる。
【0082】
以上、
図6〜
図10を参照しながら、本実施形態に係る画像処理部203が備える楕円形状特定部211の構成について、詳細に説明した。
【0083】
○画像変換部213
再び
図5に戻って、本実施形態に係る画像処理部203が備える画像変換部213について説明する。
画像変換部213は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。画像変換部213は、楕円形状特定部211が特定した楕円形状の楕円パラメータを用いて、それぞれの輪郭形状が中心位置一定かつ半径一定の正規化円となるように、それぞれの熱放射輝度画像に対して幾何学変換を実施して、正規化画像を生成する。その後、画像変換部213は、生成した正規化画像に対して、極座標変換を実施する。以下、画像変換部213が実施する画像変換処理について、詳細に説明する。
【0084】
図11に模式的に示したように、画像変換部213は、まず、楕円形状特定部211が特定した楕円パラメータを利用して、熱放射輝度画像に対して幾何学変換処理を実施する。これにより、羽口の輪郭である楕円形状が真円へと正規化される。
【0085】
より詳細には、画像変換部213は、予め画像処理部203の演算パラメータとして記憶部207等に格納されている正規化円の中心位置(X
C’,Y
C’)及び正規化円の半径Rを取得する。続いて、画像変換部213は、楕円形状特定部211が特定した楕円形状の中心位置(X
C,Y
C)が正規化円の中心位置(X
C’,Y
C’)となるように、着目している熱放射輝度画像を平行移動させる。
【0086】
続いて、画像変換部213は、
図11に示したように、長軸に対応するX軸を(R/a)倍に縮小又は拡大するとともに、短軸に対応するY軸を(R/b)に縮小又は拡大して、半径Rの正規化円とする。これにより、画像変換部213は、熱放射輝度画像から正規化画像を生成することができる。
【0087】
ここで、楕円形状を円に正規化する際の幾何学変換は、公知のものを使用することが可能であり、例えば、アフィン変換を利用すればよい。
【0088】
続いて、画像変換部213は、
図11に示したように、生成した正規化画像に対して極座標変換を実施する。正規化円の中心位置が算出されることで、正規化画像を構成する各画素の位置を極座標(r,θ)で表すことができる。画像変換部213は、算出した中心位置を基準とし、動径rの範囲及び偏角θの範囲を、それぞれ0≦r≦R、0°≦θ<360°として、極座標変換を実施する。極座標変換を行うことによって、正規化画像は、
図11に示したような帯状の画像となる。
【0089】
ここで、
図11に示したような帯状画像において、動径方向rに対して平行な辺の長さは、正規化円の半径Rに対応しており、偏角方向θに対して平行な辺の長さは、正規化円の円周に対応している。また、偏角方向θに対して平行な辺のうち、一方は、正規化円の中心に対応しており、もう一方は、正規化円の外周に対応している。
【0090】
画像変換部213は、極座標変換により生成した帯状画像に対応するデータを、指標算出部215の二値化画像生成部217へと出力する。
【0091】
○指標算出部215
再び
図5に戻って、本実施形態に係る画像処理部203が備える指標算出部215について説明する。
本実施形態に係る指標算出部215は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。指標算出部215は、画像変換部213により生成された極座標変換後の正規化画像に対して所定の画像処理を行うことで、羽口内の状態を表わす指標を算出する。以下では、
図12〜
図18を参照しながら、かかる指標算出部215が有する各処理部の機能について、詳細に説明する。
【0092】
○二値化画像生成部217
二値化画像生成部217は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。二値化画像生成部217は、極座標変換後の正規化画像である帯状画像を二値化して、二値化画像を生成する。より詳細には、二値化画像生成部217は、帯状画像を構成する各画素の画素値(輝度値)と、二値化閾値との大小比較を行うことで帯状画像を二値化し、二値化画像を生成する。
【0093】
ここで、二値化画像生成部217が二値化処理の際に利用する二値化閾値は、固定の閾値ではなく、熱放射輝度画像(ひいては、二値化画像)に含まれる最高輝度に応じて変動する閾値とする。熱放射輝度画像において、ある程度以上の輝度値を有しており、かつ、輝度の分布が一様である場合には、羽口近傍の温度(レースウェイ温度)の高低によらず、高炉羽口の状態は良好であると判断できるからである。具体的には、二値化画像生成部217は、二値化閾値として、(a)予め設定された輝度閾値と、(b)最高輝度値に予め設定された係数を乗じたもの、のうち、何れか大きい値となるものを、二値化閾値として使用する。輝度閾値や係数は、高炉に固有の特性や操業状況等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、明らかに通常操業では燃焼部分としてあり得ない低い温度に対応する低い輝度値を輝度閾値として設定する。このように二値化閾値を設定することで、通常操業時では最高輝度、すなわちレースウェイ温度の変動について正規化した二値画像が得られるとともに、生鉱落ちによる視野閉塞等といった異常状態を、二値画像がすべて0という条件で検知することができる。
【0094】
二値化画像生成部217は、このような二値化閾値を利用して帯状画像を二値化することで、例えば
図12に示したような二値化画像を生成する。二値化画像において、二値化閾値以上の輝度値を有していた画素は、画素値が1である部分(以降、明部とも称する。)となり、二値化閾値未満の輝度値を有していた画素は、画素値が0である部分(以降、暗部とも称する。)となる。
【0095】
二値化画像生成部217は、生成した二値化画像に対応するデータを、後述する明部分布情報生成部219に出力する。
【0096】
○明部分布情報生成部219
明部分布情報生成部219は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。明部分布情報生成部219は、生成された二値化画像を利用して、当該二値化画像に存在する明部の正規化円の径方向での分布を示す明部分布情報を生成する。
【0097】
より詳細には、明部分布情報生成部219は、二値化画像におけるそれぞれの径方向位置rについて、同一の径方向位置を有し、かつ、相異なる偏角位置を有する複数の画素に対応する画素値を積算して、得られた積算値を該当する径方向位置における明部分布情報の要素とする。このような画素値の積算処理は、二値化画像を
図12に示した破線矢印の方向に投影することに対応している。また、明部分布情報生成部219が利用する画像は二値化された画像であるため、画素値の積算結果は、着目している径方向位置において明部に対応する画素の個数を表していることとなる。このような処理を、動径方向rの各位置(0≦r≦R)に対して実施することで、明部分布情報生成部219は、
図13に示したような明部分布情報を生成することができる。なお、明部分布情報としては投影値(Σθ)に限定されず、動径方向rの関数である重みW(r)を乗じたW(r)Σθを、明部分布情報としても良い。重みW(r)としては、例えばW(r)=rとすれば、径方向位置に比例した重みを掛けた分布情報となる。
【0098】
図4に示したように、微粉炭膨張時には画像の外周部のみに明部が残るが、生鉱落ちの場合には画像の外周部及び内周部が暗くなるという特徴があり、各動径位置rにおける投影値(Σθ)に違いがみられる。
【0099】
明部分布情報を構成する各要素を動径位置毎にプロットすると、
図13に示したようなグラフ図を生成することができるが、このようなグラフ図は、それぞれの動径位置において、明部に対応する画素が何個存在したかを表すグラフとなる。従って、偏角方向θについて例えば1°刻みで極座標変換が行われている場合には、生成される明部分布情報は、半径rの位置において二値化閾値以上の輝度値を有する明部が何度分存在したかを表す情報となる。
【0100】
明部分布情報生成部219は、このような明部分布情報の生成処理を、撮像された熱放射輝度画像毎に実施する。また、明部分布情報生成部219は、生成した各時刻tにおける明部分布情報を時刻順に配列させることで、明部分布情報の時系列推移を示した時系列推移情報を生成することができる。具体的には、明部分布情報生成部219は、ある時刻tにおける熱放射輝度画像に対応する二値化画像を取得すると、取得した二値化画像に基づいて明部分布情報を生成し、生成した明部分布情報を記憶部207等に設けられたメモリ領域に順次格納していくことで、上記のような時系列推移情報を生成することができる。
【0101】
本実施形態に係る演算処理装置200は、このようにして生成された時系列推移情報を、
図14に示したような3次元グラフとして表してもよいし、
図15に示したように、投影値の大きさに応じて色の濃淡が変化するような2次元グラフ(濃淡図)として表してもよい。
【0102】
ここで、
図15に示した濃淡図では、投影値の大きさが大きいほど白く表示される。また、
図15には、高炉羽口の状態が、(a)良好、(b)やや良好、(c)生鉱落ち、(d)微粉炭膨張、の各状態における濃淡図をあわせて示している。
【0103】
図15(a)に示した良好状態では、羽口の外周に近づくほど明部の割合が多くなっており、かつ、時間が経過した場合であっても帯状画像に占める明部の割合が一様になっている。また、
図15(b)に示したやや良好の状態では、明部の割合は少ないものの、時間が経過した場合であっても帯状画像に占める明部の割合は一様になっている。
【0104】
また、
図15(c)は、60秒〜80秒において生鉱落ちが発生した場合の時系列推移情報である。
図15(c)から明らかなように、生鉱落ちが発生した時点では、半径方向のほぼ全域が暗くなっている。一方、
図15(d)は、10秒〜30秒において微粉炭膨張が発生した場合の時系列推移情報である。
図15(d)から明らかなように、微粉炭膨張が発生すると、暗部が羽口の周囲に向かって増加し、その後、明部が羽口の中心すなわち動径方向の小さい位置に向かって増加していくような、特定の挙動を示している。
【0105】
明部分布情報生成部219は、以上説明したような方法で明部分布情報や、時系列推移情報を生成すると、生成したこれらの情報を、後述する特徴量算出部221に出力する。また、明部分布情報生成部219は、生成したこれらの情報を表示制御部205に出力して、表示画面に表示させてもよい。
【0106】
なお、以上の説明では、生成される熱放射輝度画像毎に以上説明したような処理が実施される場合について説明したが、熱放射輝度画像、又は、当該熱放射輝度画像に基づいて生成される情報の少なくとも何れかを、所定の時定数で平滑化して用いてもよい。すなわち、熱放射輝度画像や二値化画像や帯状画像等を、予め設定された時定数を持つ指数平滑化や移動平均により平滑化して利用してもよく、平滑化されていない画像を用いて生成される明部分布情報や時系列推移情報を、予め設定された時定数を持つ指数平滑化や移動平均により平滑化してもよい。この平滑化の時定数は、観察すべき現象の継続時間の1/10程度に設定すればよい。例えば、微粉炭膨張は10秒程度継続する現象であるため、時定数を1秒程度とする。
【0107】
○特徴量算出部221
特徴量算出部221は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。特徴量算出部221は、明部分布情報生成部219により生成された明部分布情報を利用して、ある時刻における明部分布情報を特徴づける特徴量を算出する。
【0108】
より詳細には、特徴量算出部221は、各時間の明部分布情報について、所定の径方向範囲に含まれる要素の個数を特徴づける要素数特徴量と、要素の最大値を与える径方向位置を示した径方向位置特徴量と、を少なくとも算出する。具体的には、特徴量算出部221は、
図16に例示したように、要素数特徴量として指定範囲内での明部平均画素数mを算出するとともに、径方向位置特徴量として、投影値が最大となる半径である最高画素半径nを算出する。ここで、
図16における指定範囲は、
図15の濃淡図において濃淡が変化している範囲を選べばよい。
【0109】
ここで、明部平均画素数mは、明部分布情報にどれくらい明部が含まれているか(換言すれば、どれくらい暗部が含まれているか)を示す特徴量であり、最高画素半径nは、明部が二値化画像の動径方向のどの部分に多く残っているのかを示す特徴量である。
【0110】
なお、以下では、要素数特徴量として、指定範囲内での明部平均画素数mを算出する場合を例にとって説明を行うが、明部平均画素数mの代わりに指定範囲内での最大画素数や画素数の中間値や最頻値等を算出しても良いし、明部平均画素数mに加えて最大画素数や画素数の中間値や最頻値等を算出しても良い。
【0111】
特徴量算出部221は、各時間の明部分布情報について明部平均画素数m及び最高画素半径nを算出すると、算出したこれらの特徴量を、軌跡情報生成部223に出力する。
【0112】
○軌跡情報生成部223
軌跡情報生成部223は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。軌跡情報生成部223は、特徴量算出部221により算出された特徴量を利用して、当該特徴量を用いて規定される特徴量座標系を設定する。その後、軌跡情報生成部223は、複数の異なる時刻における明部分布情報に対応する特徴量の組み合わせで特定される特徴量座標系での点の、時間推移に伴う軌跡を示した軌跡情報を生成する。
【0113】
図17には、軌跡情報生成部223によって生成される軌跡情報の一例を示している。特徴量算出部221によって算出される特徴量の組み合わせ(m,n)は、明部が二値化画像のどのあたりに存在しているかを示すものであり、ある時刻における羽口近傍の状態を表す代表点であると言える。従って、点(m,n)の時間推移を軌跡として表すことで、羽口近傍の状態変化を容易に把握することが可能となる。
【0114】
ここで、高炉羽口の状態が良好である場合には、(m,n)で表される点の軌跡は、m−n平面の右上に集中しており、高炉羽口の状態がやや良好である場合には、(m,n)で表される点の軌跡は、m−n平面の中央部分からやや左下の領域にかけて集中する。一方で、生鉱落ちが発生した場合には、(m,n)で表される点の軌跡は、m−n平面のほぼ中央部分から原点付近まで推移しており、微粉炭膨張が発生した場合には、(m,n)で表される点の軌跡は、m−n平面中を水平方向に移動する。
【0115】
このように、算出された特徴量に基づいて軌跡情報を生成すると、生鉱落ちや微粉炭膨張が発生した場合には、これらの現象に特徴的な軌跡が描かれることがわかる。
【0116】
軌跡情報生成部223は、以上説明したような軌跡情報を生成すると、生成した軌跡情報を、後述する状態判断部225に出力する。また、軌跡情報生成部223は、生成した軌跡情報を表示制御部205に出力して、表示画面に表示させてもよい。
【0117】
○状態判断部225
状態判断部225は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。状態判断部225は、軌跡情報生成部223が生成した軌跡情報に基づいて、高炉羽口の状態を判断する。より詳細には、状態判断部225は、軌跡が存在する領域に着目することで、高炉羽口において、生鉱落ちや微粉炭膨張が発生したか否かを判断する。
【0118】
先だって説明したように、高炉羽口の状態が良好な場合と、生鉱落ちや微粉炭膨張が発生した場合とでは、軌跡情報の推移に大きな違いが存在する。そこで、状態判断部225は、
図18に例示したように、特徴量座標系(m−n平面)を複数の領域に区分し、それぞれの領域に羽口の状態を表すラベルを予め付与しておき、状態を表す点がどの領域に存在するかに基づいて、羽口の状態を判断する。
【0119】
図18に示した例では、m−n平面が4個の領域に区分されており、時刻tにおいて、右上の領域に点(m,n)が存在していた場合を図示している。この場合には、状態判断部225は、時刻tにおける点(m、n)が、「良好」とラベルづけされた領域にあることから、燃焼状態は良好であると羽口の状態を判断することとなる。
【0120】
なお、
図18のような領域の分類は、過去の操業状態における点(m,n)の軌跡を分類することで行えばよく、点(m,n)の軌跡を分類する方法については、公知のあらゆる方法を用いることが可能である。
【0121】
状態判断部225は、以上説明したような方法で高炉羽口の状態を判断すると、判断結果を示す情報を、表示制御部205に出力する。これにより、高炉羽口状態観察装置10のユーザは、高炉羽口の状態に関する判断結果を、その場で把握することが可能となる。
【0122】
なお、
図18では、m−n平面を4個の領域に区分する場合について図示しているが、区分する領域の個数は
図14に示した例に限定されるわけではなく、4個未満であってもよく、4個以上であってもよい。
【0123】
また、以上の説明では、m−n平面を人が予め分割しラベルを付与することで高炉羽口の状態を判別する場合について説明したが、高炉羽口の状態を判断する方法は上記例に限定されるわけではない。例えば、過去の特徴量m、n及び当該画像データに基づく検定員による官能検査結果を教師データとした学習処理により、ニューラルネットやサポートベクターマシン(SVM)等の判別器を生成し、かかる判別器を特徴量m−n空間での状態判断に利用してもよい。
【0124】
以上、本実施形態に係る演算処理装置200が有する画像処理部203の構成について、詳細に説明した。
【0125】
以上、本実施形態に係る演算処理装置200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0126】
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0127】
このように、本実施形態に係る高炉羽口状態観察装置10では、楕円形状特定部211により高速かつ高精度な楕円形状のあてはめ処理が実施され、画像変換部213により、高精度な楕円形状のあてはめ結果を利用して羽口に対応する輪郭形状の正規化を含む画像変換処理が実施されるため、正規化の精度が向上する。その結果、本実施形態に係る高炉羽口状態観察装置10では、羽口内の状態を表わす指標の算出精度を向上させることが可能となる。これにより、本実施形態に係る高炉羽口状態観察装置10は、陽炎による高炉羽口画像の揺らぎに依らずに、高炉羽口近傍の状態をより精度良く観察することが可能となる。
【0128】
また、本実施形態に係る高炉羽口状態観察装置10では、生鉱落ち及び微粉炭膨張という2つの状態のそれぞれを、互いに独立して定量的に判断することできる。生鉱落ち及び微粉炭膨張が発生した状態では、高炉羽口の状態が良好である場合に比べて、特徴的な明部分布情報や軌跡情報が観測されるため、これらの現象の発生を、官能検査に頼らずに容易に判断することが可能となる。また、本実施形態に係る高炉羽口状態観察装置10では、処理に利用する特徴量の個数が二つであるため、m−n平面上の軌跡により容易に可視化することが可能である。
【0129】
(高炉羽口状態観察方法について)
次に、
図19及び
図20を参照しながら、本発明の実施形態に係る高炉羽口状態観察装置で実施される高炉羽口状態観察方法の流れの一例について、簡単に説明する。
図19は、本実施形態に係る高炉羽口状態観察方法の流れの一例を示した流れ図であり、
図20は、本実施形態に係る楕円形状特定方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0130】
<高炉羽口状態観察方法の全体的な流れ>
本実施形態に係る高炉羽口状態観察装置10の撮像装置100は、演算処理装置200における撮像制御部201の制御のもとで羽口を撮像して、熱放射輝度画像を生成し(ステップS101)、生成した熱放射輝度画像を演算処理装置200に出力する。
【0131】
高炉羽口状態観察装置10の演算処理装置200が備える画像処理部203は、撮像装置100から出力された熱放射輝度画像を取得すると、取得した熱放射輝度画像のデータを、楕円形状特定部211に伝送する。楕円形状特定部211は、伝送された熱放射輝度画像を利用して、羽口の輪郭形状に適合する楕円形状を特定する(ステップS103)。楕円形状特定部211は、特定した楕円形状の楕円パラメータを表わした情報を、画像変換部213に伝送する。
【0132】
画像変換部213は、楕円形状特定部211によって特定された楕円形状を利用して、熱放射輝度画像に対して幾何学変換を行い、正規化画像を生成する(ステップS105)。引き続き、画像変換部213は、生成した正規化画像に対して極座標変換を実施して(ステップS107)、極座標変換後の正規化画像(帯状画像)を、指標算出部215が有する二値化画像生成部217に出力する。
【0133】
二値化画像生成部217は、極座標変換後の正規化画像(すなわち、帯状画像)を二値化閾値に基づいて二値化して二値化画像を生成し(ステップS109)、生成した二値化画像を明部分布情報生成部219に出力する。
【0134】
明部分布情報生成部219は、二値化画像生成部217から出力された二値化画像に基づいて明部分布情報を生成し(ステップS111)、生成した明部分布情報を特徴量算出部221へと出力する。
【0135】
特徴量算出部221は、明部分布情報生成部219から出力された明部分布情報を参照して、要素数特徴量及び径方向位置特徴量(例えば、明部平均画素数m及び最高画素半径n)を算出する(ステップS113)。その後、特徴量算出部221は、算出したこれら特徴量を、軌跡情報生成部223に出力する。
【0136】
軌跡情報生成部223は、特徴量算出部221により算出された特徴量に基づいて、特徴量座標系に算出された特徴量の組み合わせで規定される点を対応づけ、時間推移に応じた特徴量の変化を示した軌跡情報を生成する(ステップS115)。その後、軌跡情報生成部223は、生成した軌跡情報を、状態判断部225に出力する。
【0137】
状態判断部225は、軌跡情報生成部223により生成された軌跡情報の時間推移に基づいて、高炉羽口の状態を判断する(ステップS117)。
【0138】
以上、
図19を参照しながら、本実施形態に係る高炉羽口状態観察方法の全体的な流れの一例について、簡単に説明した。
【0139】
<楕円形状特定方法の流れ>
続いて、
図20を参照しながら、楕円形状特定部211で実施される楕円形状特定方法の流れの一例を簡単に説明する。
【0140】
楕円形状特定部211が有する飽和処理部231は、撮像装置100から出力された熱放射輝度画像を取得すると、取得した熱放射輝度画像に対して、飽和処理又は二値化処理を実施する(ステップS121)。その後、飽和処理部231は、得られた飽和処理後の熱放射輝度画像を、輪郭抽出部233へと出力する。
【0141】
輪郭抽出部233は、飽和処理部231から出力された、飽和処理後の熱放射輝度画像の羽口形状の輪郭を
図8に示した方法により抽出して、輪郭強度画像を生成する(ステップS123)。その後、輪郭抽出部233は、生成した輪郭強度画像を形状算出部235に出力する。
【0142】
形状算出部235は、輪郭抽出部233から輪郭強度画像を取得すると、実施する楕円形状のあてはめ処理に用いる楕円形状のパラメータの初期値を設定する(ステップS125)。より詳細には、実施する楕円形状のあてはめ処理がn=1回目の処理である場合、又は、n=N回目の処理であり、かつ、n=N−1回目のあてはめ処理が失敗している場合には、形状算出部235は、演算処理部203にシステムパラメータとして登録されているシステム初期値を、楕円形状のパラメータの初期値として設定する。一方、n=N回目の処理であり、かつ、n=N−1回目のあてはめ処理が成功している場合には、n=N−1回目のあてはめ処理により算出された楕円形状に基づき予め設定されたパラメータを、楕円形状のパラメータの初期値として設定する。
【0143】
次に、形状算出部235は、設定した楕円形状のパラメータを、楕円が縮まる方向へと変化させながら、「上記式101で規定される評価関数Eの極大値を与える楕円形状パラメータを特定する」という最適化問題の解を求めるという楕円形状のあてはめ処理を、勾配法を用いて実施する(ステップS127)。
【0144】
この際、形状算出部235は、かかる最適化計算が収束して、楕円形状のあてはめ処理が成功したか否かを判断する(ステップS129)。楕円形状のあてはめ処理が成功した場合には、形状算出部235は、特定した楕円形状のパラメータを出力しつつ、次回以降の楕円形状のパラメータ初期値を、特定した楕円形状のパラメータを利用して設定する(ステップS131)。一方、楕円形状のあてはめ処理が収束せずに失敗した場合には、形容算出部235は、楕円形状のパラメータとしてシステム初期値を設定し(ステップS133)、ステップS127における楕円形状のあてはめ処理を再度実施する。
【0145】
楕円形状特定部211が備える各処理部により上記のような処理が行われることで、熱放射輝度画像の羽口の輪郭に対応する楕円形状が特定されることとなる。
【0146】
以上、
図19及び
図20を参照しながら、本発明の実施形態に係る高炉羽口状態観察装置で実施される高炉羽口状態観察方法の流れの一例について、簡単に説明した。
【0147】
(ハードウェア構成について)
次に、
図21を参照しながら、本発明の実施形態に係る演算処理装置200のハードウェア構成について、詳細に説明する。
図21は、本発明の実施形態に係る演算処理装置200のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0148】
演算処理装置200は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、演算処理装置200は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0149】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、演算処理装置200内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0150】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0151】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、演算処理装置200の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。演算処理装置200のユーザは、この入力装置909を操作することにより、演算処理装置200に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0152】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、演算処理装置200が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、演算処理装置200が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0153】
ストレージ装置913は、演算処理装置200の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0154】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、演算処理装置200に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0155】
接続ポート917は、機器を演算処理装置200に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、演算処理装置200は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0156】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0157】
以上、本発明の実施形態に係る演算処理装置200の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【実施例】
【0158】
以下では、実験例を示しながら、本発明の実施形態に係る高炉羽口状態観察方法及び高炉羽口状態観察装置について、具体的に説明する。なお、以下に示す実験例は、本発明の実施形態に係る高炉羽口状態観察方法及び高炉羽口状態観察装置のあくまでも一例であって、本発明に係る高炉羽口状態観察方法及び高炉羽口状態観察装置が下記の例に限定されるものではない。
【0159】
以下では、幅(X方向)480画素×高さ(Y方向)360画素の3600フレームの動画像を熱放射輝度画像として用いて、上記で説明したような方法に則して楕円形状のあてはめ処理を実施した。ここで、飽和処理部231では、飽和閾値30とした飽和処理を実施するとともに、輪郭抽出部233で用いられるガウスフィルタのパラメータσ=7に設定した。また、形状算出部235で利用される式101の評価関数Eにおいて、最適化係数K=20に設定するとともに、あてはめ処理成功時における次のフレームでの初期値の拡大率を1.05とした。
【0160】
ここで、画像変換部213により生成される正規化円の半径は、処理に用いる画像フレームの大きさ等を考慮して、170画素とした。
【0161】
以下では、上記のようなパラメータが設定された楕円形状特定部211及び画像変換部213により生成された正規化円に着目し、
図22Aに示した正規化円のX軸正方向側の輪郭位置である点AのX座標のヒストグラムを算出した。なお、熱放射輝度画像の中心X座標=480÷2=240であるため、画像変換部213では、点Cの座標が(X,Y)=(240,180)となるように画像変換が実施され、点AのX座標の目標は、240+170=410となる。
【0162】
得られた結果を、
図22Bに示した。
図22Bにおいて、「入力画像まま」とは、本発明の実施形態に係る楕円形状の特定処理を実施せずに、上記特許文献1に開示されている方法に従い、事前に得られた固定した楕円を羽口画像に当てはめ、その結果得られた楕円から正規化円を生成した場合における点AのX座標のばらつき度合いを示したものである。また、
図22Bにおいて、「楕円形状特定」とは、本発明の実施形態に係る楕円形状の特定処理を実施した上で正規化円を生成した場合における点AのX座標のばらつき度合いを示したものである。
【0163】
図22Bから明らかなように、本発明の実施形態に係る楕円形状の特定処理を実施しなかった場合には、点Aの座標のばらつきは大きく、また、画素座標も、目標値である410画素とは大きく異なるものであった。一方、本発明の実施形態に係る楕円形状の特定処理を実施した場合には、点Aの画素座標は、目標値である410画素近傍を中心とした、極めて狭い範囲に収まっており、陽炎に起因する画像のばらつきが抑制されたことを示している。
【0164】
次に、目視による観察により微粉炭膨張が発生したと判断された動画像5個と、生鉱落ちが発生したと判断された動画像5個の計10ケースについて、本発明の実施形態に係る楕円形状の特定処理を含む観察方法と、本発明の実施形態に係る楕円形状の特定処理を実施しない特許文献1に開示の観察方法と、を利用して、高炉内の状態の判断を行った。なお、以下の処理では、明部平均画素数及び最高画素半径で規定される特徴量空間において、明部平均画素数≦100、かつ、最高画素半径≧108である領域を、微粉炭膨張が発生していると判断される領域とした。
【0165】
以下では、特許文献1に開示の観察方法を従来例として、得られた結果を、以下の表1及び
図23Aに示すとともに、本発明の実施形態に係る観察方法を本発明例として、得られた結果を、以下の表2及び
図23Bに示した。
図23A及び
図23Bにおいて、グラフ中の斜線で表わした領域が、上記の微粉炭膨張が発生していると判断される領域に該当する。
【0166】
【表1】
【0167】
【表2】
【0168】
表1、表2、
図23A及び
図23Bから明らかなように、特許文献1に開示の観察方法に基づく従来例では、5ケースの微粉炭膨張の動画像のうち2ケースは生鉱落ちと判断されたが、本発明例では、5ケースの微粉炭膨張の動画像の全てが微粉炭膨張と判断された。
【0169】
このように、本発明の実施形態に係る高炉羽口状態観察方法を用いることで、陽炎による高炉羽口画像の揺らぎに依らずに、高炉羽口近傍の状態をより精度良く観察することが可能となることが明らかとなった。
【0170】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。