(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
含フッ素アクリル酸エステル(a)が、一般式(1)において、Rfが炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基であり、Xが水素以外の原子又は基である、α位が置換されたカルボン酸エステルである、請求項2に記載のコーティング組成物。
含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、n=2である式(2)で表わされる化合物(b−1−1)及びn=1である式(2)で表わされる化合物(b−1−2)をそれぞれ含む混合物を用いて得られる共重合体である、請求項5に記載のコーティング組成物。
含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、40mol%〜95mol%の化合物(b−1−1)及び5mol%〜60mol%の化合物(b−1−2)をそれぞれ含む混合物を用いて得られる共重合体である、請求項6に記載のコーティング組成物。
高軟化点モノマーが、該高軟化点モノマーからなるホモポリマーのガラス転移点又は融点が100℃以上となるモノマーである、請求項4〜9のいずれかに記載のコーティング組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、各種金属基材に対して、溶剤浸漬、水中浸漬、拭き取り、摩耗及び高温高湿等に関する耐久性に優れた良好な防水及び防湿性能を有する皮膜を形成できる、保存安定性に優れたコーティング組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、第一の単量体としてフルオロアルキル基を有し、α位に置換基を有することのあるアクリル酸エステルを、さらに第二の単量体として、(1)分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するリン酸エステルを含む単量体、及び(2)分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するアセトアセトキシ基を含む単量体の少なくとも一つを用い、これらをラジカル重合して得られる含フッ素ポリマーは、保存安定性に優れ、かつ、特に、アルミニウムに対する密着性に優れており、塗布後の耐久性が良好であることを見出した。さらに、本発明者らは、上記のように含フッ素ポリマーにリン酸基及びアセトアセトキシ基の少なくとも一つを付与した骨格が、アルコキシシラン基を同様に付与した場合と比較して、より効果的に金属基材に対しての密着性を発現することを見出した。さらにジエステル構造を有するモノマーをポリマー骨格に含めることにより、その密着性を向上させることを見出した。そのため、これらの知見を基に本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の耐久型 防水・防湿コーティング組成物、及び耐久型 防水・防湿性皮膜の形成方法を提供するものである。
項1.
(I)含フッ素ポリマーであって、
(a)カルボキシル基に対して直接又は2価の有機基を介してエステル結合したフルオロアルキル基又はフルオロポリエーテル基を有し、α位に置換基を有することのある含フッ素アクリル酸エステル;
並びに
(b−1)分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するリン酸エステル
、及び/又は
(b−2)分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するアセトアセトキシエステル
を含む単量体成分をラジカル重合して得られる共重合体である含フッ素ポリマー
及び
(II)フッ素系溶剤
を含有することを特徴とするコーティング組成物。
項2. 含フッ素アクリル酸エステル(a)が、下記一般式(1):
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基であり、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、−CH
2CH
2N(R
1)SO
2−基(但し、R
1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH
2CH(OY
1)CH
2−基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基である。)、又は−(CH
2)
nSO
2−基(nは1〜10)であり、Rfは炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、又は分子量400〜5,000のフルオロポリエーテル基である。)で表される化合物である、上記項1に記載のコーティング組成物。
項3. 含フッ素アクリル酸エステル(a)が、一般式(1)において、Rfが炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基であり、Xが水素以外の原子又は基である、α位が置換されたカルボン酸エステルである、上記項2に記載のコーティング組成物。
項4. 含フッ素ポリマーが、更に、単量体成分として、
(c)高軟化点モノマー
を用いて得られる共重合体である、上記項1〜3のいずれかに記載のコーティング組成物。
項5.含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、下記一般式(2)で表わされる少なくとも一種の化合物を用いて得られる共重合体である、上記項1〜4のいずれかに記載のコーティング組成物
【0010】
【化2】
【0011】
(式中、R
2はラジカル重合性不飽和結合を含む基であり、複数存在する場合は、それぞれが同一であってもよいし、異なっていてもよく、nは0、1又は2である。)。
項6. 含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、n=2である式(2)で表わされる化合物(b−1−1)及びn=1である式(2)で表わされる化合物(b−1−2)をそれぞれ含む混合物を用いて得られる共重合体である、上記項5に記載のコーティング組成物。
項7. 含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、40mol%〜95mol%の化合物(b−1−1)及び5mol%〜60mol%の化合物(b−1−2)をそれぞれ含む混合物を用いて得られる共重合体である、上記項6に記載のコーティング組成物。
項8. 含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、少なくとも上記一般式(2)で表わされる化合物であって、R
2がメタクリロイルオキシアルキル基である化合物を用いて得られる共重合体である、上記項5又は6に記載のコーティング組成物。
項9. 含フッ素ポリマーが、アセトアセトキシエステル(b−2)として、下記一般式(3)で表わされる少なくとも一種の化合物を用いて得られる共重合体である、上記項1〜8のいずれかに記載のコーティング組成物
【0012】
【化3】
【0013】
(式中、Zは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、−CH
2CH
2N(R
1)SO
2−基(但し、R
1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH
2CH(OY
1)CH
2−基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基である。)、又は−(CH
2)
nSO
2−基(nは1〜10)であり、
R
3は、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、かつ
R
4はラジカル重合性不飽和結合を含む基である。)。
項10. 高軟化点モノマーが、該高軟化点モノマーからなるホモポリマーのガラス転移点又は融点が100℃以上となるモノマーである、上記項4〜9のいずれかに記載のコーティング組成物。
項11. 含フッ素ポリマーが架橋構造を有するものである、上記項1〜10のいずれかに記載のコーティング組成物。
項12. 含フッ素ポリマーが、下記一般式(4):
【0014】
【化4】
【0015】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、−CH
2CH
2N(R
1)SO
2−基(但し、R
1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH
2CH(OY
1)CH
2−基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基である。)、又は−(CH
2)
nSO
2-(nは1〜10)である。Rfは炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、又は分子量400〜5,000のフルオロポリエーテル基である。R
2’はラジカル重合性不飽和結合を含む基に由来する3価の基であり、複数存在する場合は、それぞれが同一であってもよいし、異なっていてもよい。R
5は、H又はCH
3であり、R
6は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。j、k、及びmはそれぞれ1以上の整数、lは0又は1以上の整数であって、j、k、l及びmの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。なお、j、k、l、及びmをそれぞれ付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される構造部分を有するものである、上記項1に記載のコーティング組成物。
項13. 含フッ素ポリマーが、下記一般式(5):
【0016】
【化5】
【0017】
(式中、j、k、及びmはそれぞれ1以上の整数、lは0又は1以上の整数であって、j、k、l及びmの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。なお、j、k、l、及びmをそれぞれ付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される構造部分を有するものである、上記項1に記載のコーティング組成物。
項14. 含フッ素ポリマーが、下記一般式(6):
【0018】
【化6】
【0019】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Y及びZは、同一又は異なって、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、−CH
2CH
2N(R
1)SO
2−基(但し、R
1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH
2CH(OY
1)CH
2−基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基である。)、又は−(CH
2)
nSO
2−基(nは1〜10)である。Rfは炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、又は分子量400〜5,000のフルオロポリエーテル基である。R
2’はラジカル重合性不飽和結合を含む基に由来する3価の基であり、複数存在する場合は、それぞれが同一であってもよいし、異なっていてもよい。R
3は、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基である。R
4’は、ラジカル重合性不飽和結合を含む基である。R
5は、H又はCH
3であり、R
6は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。j、m及びnはそれぞれ1以上の整数、k及びlは0又は1以上の整数であって、j、k、l、m及びnの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。なお、j、k、l、m及びnをそれぞれ付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される構造部分を有するものである、上記項1に記載のコーティング組成物。
項15. 含フッ素ポリマーが、下記一般式(7):
【0020】
【化7】
【0021】
(式中、j、m及びnはそれぞれ1以上の整数、k及びlは0又は1以上の整数であって、j、k、l、m及びnの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。なお、j、k、l、m及びnをそれぞれ付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される構造部分を有するものである、上記項1に記載のコーティング組成物。
項16. フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロエーテルである、上記項1〜15のいずれかに記載のコーティング組成物。
項17. 更に、パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物を含有する、上記項1〜16のいずれかに記載のコーティング組成物。
項18. パーフルオロポリエーテル骨格を有する化合物の含有量が、含フッ素ポリマー100重量部に対して1〜20重量部である、上記項17に記載のコーティング組成物。
項19. 固形分濃度が0.2〜10重量%である、上記項1〜18のいずれかに記載の電子部品のコネクタ用コーティング組成物。
項20. 被処理物が電子部品である、上記項1〜19のいずれかに記載のコーティング組成物。
項21. 上記項1〜20のいずれかに記載のコーティング組成物に被処理物を接触させる工程を含む、耐久型防水・防湿性皮膜の形成方法。
項22. 被処理物が電子部品である、上記項21に記載の耐久型防水・防湿性皮膜の形成方法。
項23. 上記項1〜19のいずれかに記載のコーティング組成物によって防水・防湿性皮膜が形成された電子部品のコネクタ。
項24. 下記一般式(4):
【0022】
【化8】
【0023】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、−CH
2CH
2N(R
1)SO
2−基(但し、R
1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH
2CH(OY
1)CH
2−基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基である。)、又は−(CH
2)
nSO
2−基(nは1〜10)である。Rfは炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、又は分子量400〜5,000のフルオロポリエーテル基である。R
2’はラジカル重合性不飽和結合を含む基に由来する3価の基であり、複数存在する場合は、それぞれが同一であってもよいし、異なっていてもよい。R
5は、H又はCH
3であり、R
6は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。j、k、及びmはそれぞれ1以上の整数、lは0又は1以上の整数であって、j、k、l及びmの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。なお、j、k、l、及びmをそれぞれ付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される含フッ素ポリマー。
項25. 含フッ素ポリマーであって、
(a)カルボキシル基に対して直接又は2価の有機基を介してエステル結合したフルオロアルキル基又はフルオロポリエーテル基を有し、α位に置換基を有することのある含フッ素アクリル酸エステル;及び
(b−2)分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するアセトアセトキシエステル
を含む単量体成分をラジカル重合して得られる共重合体である含フッ素ポリマー。
項26. 下記一般式(6):
【0024】
【化9】
【0025】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Y及びZは、同一又は異なって、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、−CH
2CH
2N(R
1)SO
2−基(但し、R
1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH
2CH(OY
1)CH
2−基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基である。)、又は−(CH
2)
nSO
2−基(nは1〜10)である。Rfは炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、又は分子量400〜5,000のフルオロポリエーテル基である。R
2’はラジカル重合性不飽和結合を含む基に由来する3価の基であり、複数存在する場合は、それぞれが同一であってもよいし、異なっていてもよい。R
3は、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基である。R
4’は、ラジカル重合性不飽和結合を含む基である。R
5は、H又はCH
3であり、R
6は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。j及びmはそれぞれ1以上の整数、k、l及びnは0又は1以上の整数であって、j、k、l、m及びnの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。なお、j、k、l、m及びnをそれぞれ付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される含フッ素ポリマー。
項27. 上記項1〜15のいずれかに記載される含フッ素ポリマーの製造方法であって、
(a)カルボキシル基に対して直接又は2価の有機基を介してエステル結合したフルオロアルキル基又はフルオロポリエーテル基を有し、α位に置換基を有することのある含フッ素アクリル酸エステルと
(b)分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するリン酸エステルを含む単量体成分をラジカル重合する工程を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、防水・防湿性コーティング組成物において、(i)使用前の保存安定性を向上でき、かつ(ii) 使用後に形成される被膜に、溶剤浸漬、水中浸漬、拭き取り、摩耗及び高温高湿等を経ても持続しうる、防水性及び防湿性;並びに耐候性、塩水性及び硫化水素ガスに対する防腐蝕性を付与できる。
【0027】
さらに、パーフルオロポリエーテル化合物を配合した場合には、含フッ素ポリマーから形成される皮膜のすべり性が向上し、耐摩耗性が大きく向上する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のコーティング組成物について具体的に説明する。
【0030】
含フッ素ポリマー
本発明のコーティング組成物に配合する含フッ素ポリマーは、カルボキシル基に対して直接又は2価の有機基を介してエステル結合したフルオロアルキル基又はフルオロポリエーテル基を有し、α位に置換基を有することのあるアクリル酸エステル(以下、「含フッ素アクリル酸エステル」ということがある)を第一の単量体成分とし、さらに、分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するリン酸エステルを含む単量体成分、および分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するアセトアセトキシエステルを含む単量体成分の少なくとも1つを第二の単量体成分として、これらを共重合して得られる共重合体である。
【0031】
以下、本発明の含フッ素ポリマーを得るための各成分について、説明する。
【0032】
(i)単量体成分
(1)含フッ素アクリル酸エステル(a)
本発明組成物で用いるフッ素系ポリマーの製造に用いる単量体成分のうちで、含フッ素アクリル酸エステル(a)は、α位に置換基を有することのあるアクリル酸に対して、フルオロアルキル基又はフルオロポリエーテル基が直接又は2価の有機基を介してエステル結合したものである。
【0033】
上記した含フッ素アクリル酸エステル(a)の好ましい具体例としては、下記一般式(1):
【0035】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基であり、Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、−CH
2CH
2N(R
1)SO
2−基(但し、R
1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH
2CH(OY
1)CH
2−基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基である。)、又は−(CH
2)
nSO
2−基(nは1〜10)であり、Rfは炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、又は分子量400〜10,000のフルオロポリエーテル基である。)で表されるアクリル酸エステルを例示できる。
【0036】
なお、上記において、炭化水素基は、環状又は非環状のいずれであってもよく、また直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0037】
上記一般式(1)において、フルオロアルキル基は少なくとも一個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基であり、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基も包含するものである。また、フルオロポリエーテル基は少なくとも一個の水素原子がフッ素原子で置換されたポリエーテル基であり、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたパーフルオロポリエーテル基も包含するものである。
【0038】
上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステルでは、後述するフッ素系有機溶媒、特に、ハイドロフルオロエーテルに対する溶解性が良好である点で、Rfが炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基であることが好ましく、特に、炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。尚、Rfが炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である場合には、形成される皮膜の防水性をより向上させるために、上記一般式(1)において、Xで表されるα位の置換基が水素原子以外の基又は原子であるα位置換アクリル酸エステルであることが好ましい。
特に、α位の置換基Xが、メチル基、塩素原子又はフッ素原子である場合には、低価格の原料を用いて、良好な防水性を有する皮膜を形成できる。特に、α位の置換基Xがメチル基である場合には、電子部品に対する腐食作用が小さい点で好ましい。
【0039】
上記した一般式(1)で表されるアクリル酸エステルの具体例は、次の通りである。
【0043】
上記したフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0044】
また、Rf基がフルオロポリエーテル基の場合、フルオロポリエーテル基の分子量は400〜10,000であり、パーフルオロポリエーテル基が好ましい。特に炭素数が6〜8のパーフルオロポリエーテル基が好ましい。具体例を以下に挙げる。
【0046】
上記したパーフルオロポリエーテル基含有アクリル酸エステルは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0047】
(2)分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するリン酸エステル(b−1)
本発明で用いるリン酸エステル(b−1)は、下記一般式(2)
【0049】
で表されるものである。上記一般式(2)において、R
2は、ラジカル重合性不飽和結合を含む基であり、複数存在する場合は、それぞれが同一であってもよいし、異なっていてもよく、nは0、1又は2である。
【0050】
上記したリン酸エステル(b−1)を単量体成分として含むことによって、リン酸基を側鎖に含む含フッ素ポリマーが形成され、このリン酸基が金属基材、特にアルミニウムに対する密着性の向上に寄与する。
【0051】
リン酸エステル(b−1)としては、具体的には、下記式で表される化合物を例示できる。
【0053】
(式中、n
1は4又は5であり、n
2は5又は6である。)
上記したリン酸エステル(b−1)は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0054】
本発明の含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、n=2である式(2)で表わされる化合物(b−1−1)及びn=1である式(2)で表わされる化合物(b−1−2)をそれぞれ含む混合物を用いて得られる共重合体であると、より金属基材(特にアルミニウム)との密着性に優れた含フッ素ポリマーが得られるため、好ましい。
【0055】
化合物(b−1−2)はラジカル重合性不飽和結合を含む基R
2を二つ有する。このため、化合物(b−1−2)を用いて得られる本発明の共重合体は、架橋構造を有する。よって、化合物(b−1−2)を用いて得られる本発明の共重合体は高分子量成分を含む。そのことが、コーティング薄膜と金属基材との密着性向上に寄与していると考えられる。
【0056】
上記において、含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、40〜95mol%(好ましくは60〜75mol%)の化合物(b−1−1)及び5〜60mol%(このましくは25〜45mol%)の化合物(b−1−2)をそれぞれ含む混合物を用いて得られる共重合体であれば、金属基材(特にアルミニウム)との密着性の点で好ましい。
【0057】
本発明の含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、少なくとも上記一般式(2)で表わされる化合物であって、R
2がメタクリロイルオキシエチル基である化合物を用いて得られる共重合体であれば、より金属基材(特にアルミニウム)との密着性に優れた含フッ素ポリマーが得られるため、好ましい。
【0058】
(3)分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有するアセトアセトキシエステル(b−2)
本発明で用いるアセトアセトキシエステル(b−2)は、下記一般式(3)
【0060】
で表されるものである。上記一般式(3)において、Zは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、−CH
2CH
2N(R
1)SO
2−基(但し、R
1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH
2CH(OY
1)CH
2−基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基である。)、又は−(CH
2)
nSO
2−基(nは1〜10)である。
また、R
3は、酸素原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基である。
また、R
4はラジカル重合性不飽和結合を含む基である。
【0061】
なお、上記において、炭化水素基は、環状又は非環状のいずれであってもよく、また直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0062】
アセトアセトキシエステル(b−2)としては、具体的には、下記式で表される2−アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)を代表として、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、N−(2−アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N−(2−アセトアセトキシエチル)メタクリルアミド、アセト酢酸ビニル、アセト酢酸アリルなどが挙げられる。アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートおよびアセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレートなどを例示できる。
【0064】
上記したアセトアセトキシエステル(b−2)を単量体成分として含むことによって、アセトアセトキシ基を側鎖に含む含フッ素ポリマーが形成され、このアセトアセトキシ基が金属基材、特に銅に対する密着性の向上に寄与する。
【0065】
本発明の含フッ素ポリマーは、リン酸エステル(b−1)又はアセトアセトキシエステル(b−2)を含む混合物を用いて得られる共重合体であってもよいし、リン酸エステル(b−1)及びアセトアセトキシエステル(b−2)を含む混合物を用いて得られる共重合体であってもよい。リン酸エステル(b−1)を含む混合物を用いて得られる共重合体であればアルミニウムに対する密着性が向上する傾向があり、アセトアセトキシエステル(b−2)を含む混合物を用いて得られる共重合体であれば銅に対する密着性が向上する傾向があるので、いずれを用いるかは、どの金属基材に対する密着性が求められるのかに応じて適宜決定することができる。
【0066】
本発明の含フッ素ポリマーは、ポリマー骨格中に架橋構造を有しているものであれば、ポリマー鎖間の一部で架橋し、高分子量体が生成することで、金属基材に対する密着性が向上する傾向がある。したがって、リン酸エステル(b−1)及びアセトアセトキシエステル(b−2)のいずれかを含む混合物を用いて得られる共重合体であっても、架橋構造を有しているものであればより金属基材に対する密着性が向上する傾向があるため、好ましい。
【0067】
特に、本発明の含フッ素ポリマーが、リン酸エステル(b−1)として、n=2である式(2)で表わされる化合物(b−1−1)及びn=1である式(2)で表わされる化合物(b−1−2)をそれぞれ含み、かつ、アセトアセトキシエステル(b−2)を含む混合物を用いて得られる共重合体であると、複数種の金属基材(例えば、単一元素からなる金属シリコン、アルミニウム、銅及び複数元素からなるステンレス鋼(SUS)など)に対する密着性が非常に優れた含フッ素ポリマーが得られるため、好ましい。
【0068】
(iii)含フッ素ポリマーの製造方法
本発明の含フッ素ポリマーは、含フッ素アクリル酸エステル(a)とリン酸エステル(b−1)を必須成分として含む単量体成分をラジカル重合させることによって得ることができる。
【0069】
リン酸エステル(b−1)の使用量は、単量体成分として用いる含フッ素アクリル酸エステル(a)100重量部に対して、0.1〜20重量部程度とすることが好ましい。
【0070】
含フッ素アクリル酸エステル(a)とリン酸エステル(b−1)に加えて、必要に応じて、単量体成分として、高軟化点モノマーを用いることができる。該高軟化点モノマーは、該高軟化点モノマーからなるホモポリマーのガラス転移点又は融点が100℃以上、好ましくは120℃以上のモノマーである。この場合、ガラス転移点が存在するポリマーについてはガラス転移点が100℃以上であることが必要であり、ガラス転移点が存在しないポリマーについては、融点が100℃以上であることが必要である。
【0071】
なお、ガラス転移点と融点は、それぞれJIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」で規定される補外ガラス転移終了温度(T
eg)、及び融解ピーク温度(T
pm)とする。
【0072】
この様な条件を満足する高軟化点モノマーを、上記した含フッ素アクリル酸エステル(a)及びリン酸エステル(b−1)と共に単量体成分として用いることによって、得られる含フッ素ポリマーから形成される皮膜は、優れた防水・防湿性能を有するものとなる。更に、含フッ素ポリマーから形成される皮膜は、硬度が向上して、耐摩耗性などの耐久性が良好となる。
【0073】
特に、高軟化点モノマーを単量体成分として用いて得られる含フッ素ポリマーから形成される皮膜は、被処理物表面に付着した水滴の除去性能を示す指標となる動的撥水性が非常に良好である。このため、プリント基板などの被処理物表面に水が付着した場合にも、水切れが良く、水による故障発生の可能性を大きく低減することができる。尚、動的撥水性については、後述する実施例に記載した水の転落角によって評価することができる。
【0074】
上記した高軟化点モノマーの使用量は、含フッ素アクリル酸エステル(a)100重量部に対して、1〜30重量部程度とすることが好ましく、1〜20重量部程度とすることがより好ましい。
【0075】
高軟化点モノマーとしては、特に、下記一般式(8)
【0077】
(式中、R
5は、H又はCH
3であり、R
6は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。)で表される(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。一般式(8)において、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基の具体例としては、イソボルニル、ボルニル、フェンシル(以上はいずれもC
10H
17、炭素原子/水素原子=0.58)、アダマンチル(C
10H
15、炭素原子/水素原子=0.66)、ノルボルニル(C
7H
12、炭素原子/水素原子=0.58)などの架橋炭化水素環を有する基が挙げられる。これらの架橋炭化水素環は、カルボキシル基に直接結合してもよく、或いは、炭素数1〜5の直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基を介して、カルボキシル基に結合していてもよい。これらの架橋炭化水素環には、更に、水酸基やアルキル基(炭素数、例えば1〜5)が置換していても良い。
【0078】
本発明で使用できる高軟化点モノマーの具体例としては、上記した一般式(8)で表される(メタ)アクリル酸エステルの他に、メチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等を挙げることができる。
【0079】
一般式(8)で表される(メタ)アクリル酸エステルとしては、イソボルニル基を有する(メタ)アクリレート、ノルボルニル基を有する(メタ)アクリレート、アダマンチル基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの内で、ノルボルニル基を有する(メタ)アクリレートとしては、3-メチル-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート、ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、1,3,3-トリメチル-ノルボルニル(メタ)アクリレート、ミルタニルメチル(メタ)アクリレート、イソピノカンファニル(メタ)アクリレート、2-{[5-(1’,1’,1’-トリフルオロ-2’-トリフルオロメチル-2’-ヒドロキシ)プロピル]ノルボルニル }(メタ)アクリレート等を例示でき、アダマンチル基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル-α-トリフルオロメチル(メタ)アクリレート等を例示できる。
【0080】
本発明では、含フッ素ポリマーを得るための単量体成分として、更に、必要に応じて、その他の単量体も用いることができる。その他の単量体は、含フッ素ポリマーを得るために用いる単量体成分の総量を基準として、20重量%程度以下であればよく、10重量%以下であることが好ましい。
【0081】
なお、本発明の含フッ素ポリマーは、さらに単量体成分としてアルコキシシラン基を含有するモノマーを用いて得られる場合、そのモノマーの使用量は、リン酸エステル(b−1)100重量部に対して、1〜100重量部程度とすることが好ましく、50〜90重量部程度とすることがより好ましい。本発明のように含フッ素ポリマーにリン酸基を付与した場合、同様にアルコキシシラン基を導入した場合よりも効果的に金属基材との密着性を改善できる。さらに、リン酸基はアルコキシシラン基と異なり加水分解を受けにくい。上記の含フッ素ポリマー上では、アルコキシシラン基のリン酸基に対する割合が比較的低くなっている。このような含フッ素ポリマーには、アルコキシシラン基の割合がより高いものと比べて、金属基材との密着性により優れ、かつ保存安定性により優れている傾向が認められる。
【0082】
その他の単量体としては、含フッ素アクリル酸エステルと共重合可能な単量体であればよく、得られる含フッ素ポリマーの性能に悪影響を及ぼさない限り、広範囲に選択可能である。例えば、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、アリルエステル化合物、不飽和基含有エーテル化合物、マレイミド化合物、(メタ)アクリル酸エステル、アクロレイン、メタクロレイン、環化重合可能な単量体、N−ビニル化合物などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0083】
重合方法については特に限定はないが、フッ素系溶剤中で溶液重合を行うことが好ましい。この方法によれば、形成される含フッ素ポリマーがフッ素系溶剤に対して溶解性が良好であることから、沈殿物が形成されることなく、円滑にラジカル重合反応を進行させることができる。
【0084】
ただし、リン酸エステル(b−1)の溶解性の点で、アルコールとの混合溶媒とすることが好ましい。この際に使用するアルコールとしては、特に限定されないが、使用するフッ素系溶剤と相溶性が高く、なおかつリン酸エステル(b−1)と相溶性が良好であり、かつ、生成したポリマーに対して比較的溶解性があるものが好ましい。例えば、イソプロピルアルコール及びエタノール等が挙げられる。混合比は、特に限定されないが、通常、重量比が、フッ素系溶剤:アルコール=9.5:0.5〜7.5:2.5、より好ましくは9:1〜8:2となる範囲内で適宜設定すればよい。
【0085】
フッ素系溶剤としては、分子中にフッ素原子を有し、形成される含フッ素ポリマーの溶解性が良好な溶媒であれば、炭化水素化合物、アルコール、エーテル等のいずれであってもよく、また、脂肪族及び芳香族のいずれであってもよい。例えば、塩素化フッ素化炭化水素(特に、炭素数2〜5)、特にHCFC]225(ジクロロペンタフルオロプロパン)(AK−225(旭硝子社製))、HCFC141b(ジクロロフルオロエタン)、CFC316(2,2,3,3−テトラクロロヘキサフルオロブタン,)、バートレルXF(化学式 C
5H
2F
10)(デュポン社製)、AC−6000(化学名トリデカフルオロオクタン)(旭硝子製)、ヘキサフルオロ−m−キシレン、ペンタフルオロプロパノール、フッ素系エーテル等を用いることができる。
【0086】
本発明では、特に、フッ素系溶剤として、ハイドロフルオロエーテルを用いることが好ましい。ハイドロフルオロエーテルは各種の材料に対する化学的浸食性が低い溶剤であり、溶剤による悪影響を排除することが強く要求される電子部品に対するコーティング組成物の溶媒として、特に適した溶媒である。さらに、ハイドロフルオロエーテルは、速乾性、低環境汚染性、不燃性、低毒性などの優れた性能を有する理想的な溶剤である。
【0087】
本発明では、ハイドロフルオロエーテルとしては下記一般式(9)
【0089】
[式中、nは1〜6の数、Xは1〜6の数である。]
で示される化合物が好ましい。この様なハイドロフルオロエーテルとしては、例えば、米国3M社のノベックHFE7100(化学式C
4F
9OCH
3)(沸点61℃),7200(化学式C
4F
9OC
2H
5)(沸点76℃),7300(化学式C
6F
13OCH
3)(沸点98℃)などを用いることができる。速乾性が要求される場合はHFE7100を、高濃度ポリマーのコーティング剤を刷毛塗りする際には溶剤の揮発性を制御するためにHFE7300を使用することがある。HFE7200は適度の揮発性を有しており、最も汎用的に利用できる。
【0090】
本発明では、特に、一般式(1)において、Rfが炭素数4〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基であるフルオロアルキル基含有α位置換アクリル酸エステルと高軟化点モノマーに基づく構成単位を有するポリマーを必須の単量体成分として得られる含フッ素ポリマーをハイドロフルオロエーテルに溶解したコーティング組成物が好ましい。この様な含フッ素ポリマーは、ハイドロフルオロエーテルに対する溶解性が良好であって、形成される皮膜は、優れた防水性と防湿性を有する皮膜となり、さらに、環境適合性の観点からも好適な物質である。
【0091】
特に、最終的に目的とするコーティング組成物の溶媒としてハイドロフルオロエーテルを用いる場合には、重合反応時の溶媒としても同様のハイドロフルオロエーテルを用いることによって、含フッ素ポリマーの分離工程などを省略して効率よくコーティング組成物を得ることができる。
【0092】
フッ素系溶剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0093】
含フッ素アクリル酸エステル(a)をフッ素系溶剤中でラジカル重合させる場合には、例えば、該含フッ素アクリル酸エステルを溶媒に溶解させ、得られた溶液を攪拌しながら重合開始剤を添加することによって、重合反応を進行させることができる。
【0094】
重合開始剤としては、公知のラジカル重合反応用の重合開始剤であれば特に限定なく使用できる。例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体などを用いることができる。これらの重合開始剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0095】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、通常、単量体成分として用いる含フッ素アクリル酸エステル(a)100重量部に対して、0.01〜10重量部程度とすることが好ましく、0.1〜1重量部程度とすることがより好ましい。
【0096】
フッ素系溶剤中における含フッ素アクリル酸エステル(a)の濃度については特に限定的ではないが、通常、10〜50重量%程度とすることが好ましく、20〜40重量%程度とすることがより好ましい。
【0097】
重合温度、重合時間などの重合条件は、単量体成分の種類、その使用量、重合開始剤の種類、その使用量などに応じて適宜調整すればよいが、通常、50〜100℃程度の温度で4〜10時間の重合反応を行えばよい。
【0098】
上記した方法で得られる含フッ素ポリマーの重量平均分子量は、3,000〜500,000程度、好ましくは5,000〜300,000程度である。含フッ素ポリマーの重量平均分子量は、溶出溶媒としてHCFC225(AK−225(旭硝子社製))/ヘキサフルオロイソプロパノール(=90/10重量)混合溶媒を用いたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により求めたものである(標準ポリメチルメタクリレート換算)。
【0099】
上記した方法で得られる含フッ素ポリマーは、含フッ素アクリル酸エステル(a)とリン酸エステル(b−1)に基づく構成単位を有する共重合体である。また、高軟化点モノマーを用いた場合には、高軟化点モノマーに基づく構造単位を含むものとなる。
【0100】
これらの内で、例えば、高軟化点モノマーとして、上記式(8)で表される(メタ)アクリル酸エステルを用いて得られた共重合体は、下記一般式(4)で表される構造部分を有する共重合体となる。この共重合体によれば、耐久性に優れ、防水・防湿性能が良好であって、更に、撥水性に優れ水切れが良好な被膜を形成できる。
【0102】
上記一般式(4)において、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基である。Yは、直接結合、酸素原子若しくは硫黄原子を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基、−CH
2CH
2N(R
1)SO
2−基(但し、R
1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH
2CH(OY
1)CH
2−基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基である。)、又は−(CH
2)
nSO
2−基(nは1〜10)である。Rfは、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、又は分子量400〜10,000のフルオロポリエーテル基である。R
2’はラジカル重合性不飽和結合を含む基に由来する3価の基であり、複数存在する場合は、それぞれが同一であってもよいし、異なっていてもよい。R
5は、H又はCH
3であり、R
6は、炭素数4〜20で水素原子に対する炭素原子の比率が0.58以上の飽和アルキル基を有する基である。j、k、及びmはそれぞれ1以上の整数、lは0又は1以上の整数であって、j、k、l及びmの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。なお、j、k、l、及びmをそれぞれ付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0103】
なお、上記において、炭化水素基は、環状又は非環状のいずれであってもよく、また直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0104】
本発明の含フッ素ポリマーの一例として、下記一般式(5)で表わされるポリマーが挙げられる。
【0106】
(式中、j、k、及びmはそれぞれ1以上の整数、lは0又は1以上の整数であって、j、k、l及びmの合計は、重量平均分子量が3,000〜500,000となる数値である。なお、j、k、l、及びmをそれぞれ付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)で表される構造部分を有するものである
本発明では、分子中に水酸基を有するモノマー[例えば、(メタ)アクリル酸 2−ヒドロキシエチル]を含フッ素モノマーと共重合させたのち、ポリマー中の水酸基にオルトリン酸、ポリリン酸又は五酸化リンのようなリン酸化剤を反応させ、ポリマー中にリン酸エステル部位を導入しても良い。
【0107】
コーティング組成物
本発明のコーティング組成物は、上記した方法で得られる含フッ素ポリマーをフッ素系溶剤に溶解したものである。
【0108】
上記した方法で得られる含フッ素ポリマーは、フルオロアルキル基又はフルオロポリエーテル基を含むことによって、良好な撥水性能を有するものとなり、該ポリマーから形成される皮膜は、良好な防水性能を示す。
【0109】
更に、本発明の含フッ素ポリマーは、側鎖に存在するリン酸基によって、各種の金属基材、特にアルミニウムに対して良好な密着性を有するものとなり、形成される皮膜は耐久性及び防水・防湿性能が良好となる。
【0110】
したがって、本発明のコーティング組成物は、溶媒浸漬、水中浸漬、拭き取り、摩耗及び高温高湿等の各種耐久性、並びに防水性及び防湿性が求められる用途に用いることができる。
【0111】
更に、単量体成分として高軟化点モノマーを用いた場合には、含フッ素ポリマーにより形成される皮膜の動的撥水性が向上して、水切れが良好になる。
【0112】
本発明のコーティング組成物では、フッ素系溶剤を用いることによって、上記した含フッ素ポリマーを安定に溶解することができ、沈殿などの生じ難い安定性の良好なコーティング組成物とすることができる。
【0113】
用いるフッ素系溶剤は、(iii)含フッ素ポリマーの製造方法において説明した重合溶媒で使用されるフッ素系溶剤と同じである。
【0114】
本発明のコーティング組成物では、該組成物中における含フッ素ポリマーの濃度は、固形分濃度として0.01〜30重量%程度であることが好ましく、0.1〜20重量%程度であることがより好ましい。特に、処理対象物が電子部品のコネクタなどの場合には、固形分濃度を0.2〜10重量%、好ましくは0.2〜5重量%、より好ましくは0.2〜2重量%程度とすることによって、通電性を阻害することなく、耐摩耗性が良好で優れた防水及び防湿性能を有する皮膜を形成できる。
【0115】
本発明のコーティング組成物は、上記した方法に従いフッ素系溶剤中にてラジカル重合反応を行った後、必要に応じて、ポリマーの濃度を調整した後、そのままコーティング用組成物として用いてもよく、或いは、ラジカル重合反応を行った後、含フッ素ポリマーを分離した後、フッ素系溶剤に溶解してコーティング組成物としてもよい。本発明では、特に、主な溶媒としてハイドロフルオロエーテルを用いて重合反応を行った後、必要に応じて、ハイドロフルオロエーテルを用いてポリマー濃度を調整してコーティング組成物とすることによって、効率よく目的とするコーティング組成物を得ることができる。
【0116】
本発明のコーティング組成物には、更に、必要に応じて、パーフルオロポリエーテル(PFPE)骨格を有する化合物(以下、「PFPE化合物」ということがある)を配合することができる。PFPE化合物を配合することによって、PFPE化合物が潤滑剤の役割を果たし、含フッ素ポリマーから形成される皮膜のすべり性が向上することで、耐摩耗性が大きく向上する。
【0117】
本発明では、PFPE化合物としては、具体的には、国際公開第97/07155号、特表2008−534696号公報、国際公開第2013/146110号、特開2010−217915号公報、特開2013−117012号公報、特開2002−348370号公報、特開2012−72272号公報、特開2003−238577号公報、特開2000−143991号公報、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121985号、国際公開第2013/121986号及び国際公開第2014/069592号等に記載されている化合物が挙げられる。 また、PFPE化合物としては、表面処理剤として使用できるものを利用してもよい。市販の表面処理剤としては、KY−130(信越化学工業社製)、KY−164(信越化学工業社製)、KY−178(信越化学工業社製)、KY−185(信越化学工業社製)、オプツールDSX(ダイキン工業社製)、オプツールAES−4E(ダイキン工業社製)、DC2634(ダウ・コーニング社製)が例示される。
【0118】
本発明のコーティング組成物では、PFPE化合物を配合する場合には、PFPE化合物の配合量は、耐摩耗性向上の効果を十分に奏するためには、該組成物に含まれる含フッ素ポリマー100重量部に対して1〜20重量部程度とすることが好ましい。
【0119】
本発明のコーティング組成物の適用対象については特に限定はなく、プラスチック、金属、セラミックス等の各種の基材に対して、溶剤浸漬、水中浸漬、拭き取り、摩耗及び高温高湿等の各種耐久性が良好で優れた防水及び防湿性能を有する皮膜を形成できる。特に、コネクタ、筐体、プリント基板、半導体などを含む電子部品を処理対象とする場合には、本発明のコーティング組成物を用いることによって、化学的浸食性の低い溶剤を利用して、耐久性に優れた防水、防湿性皮膜を形成できるので、電子部品の性能を阻害することなく、良好な防水、防湿性能を付与することが可能となる。
【0120】
本発明のコーティング組成物による処理方法については、特に限定はなく、本発明のコーティング組成物を処理対象物に接触させればよい。通常は、本発明のコーティング組成物中に被処理物を浸漬した後、湿度20〜70%程度以上の大気中で乾燥すればよい。その他、本発明のコーティング組成物を処理対象物に刷毛塗り、スプレー、スピンコート、ディスペンサー等の方法で接触させる方法なども適用できる。
【0121】
処理時の温度については特に限定はなく、通常は、室温で処理を行えばよい。処理時間についても特に限定はないが、例えば、浸漬法の場合には、1秒〜24時間程度の浸漬時間とすればよい。
【0122】
尚、より高い耐久性を有する皮膜を形成するためには、本発明のコーティング組成物による処理に先だって、基材表面の汚染物質を取り除くために、基材をアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、ハイドロフルオロエーテルなどの溶剤もしくはそれらの混合溶媒などで洗浄した後、乾燥することが好ましい。更に、上記の洗浄に加えて、酸(塩酸、硝酸、フッ化水素など)、UVオゾンなどの化学的洗浄、サンドブラスト、ガラスビーズ、プラズマなどの物理的洗浄で金属表面に形成される酸化膜を除去することも耐久性向上に有用である。
【実施例】
【0123】
以下、製造例及び実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0124】
製造例1 Rf(C6)メタクリレート/iBMA/PPME=100/14.27/1.17(重量比)重合体
枝付試験管に、C
6F
13CH
2CH
2OCOC(CH
3)=CH
2(以下、Rf(C6)
メタクリレート)18.52g、メタクリル酸イソボルニル(以下、iBMAと略することがある)2.720g、メタクリロイルオキシエチルフォスフェート(東邦化学工業製、以下、PPMEと略することがある)0.2209g、及びパーフルオロブチルエチルエーテル(C
4F
9OC
2H
5:以下、「HFE7200」と略記することがある)/IPA(=9/1重量比)混合溶剤80gを仕込み、10分間窒素バージし、70℃に加熱した。これにAIBN 0.1161gを投入し、6時間反応した。PPME中のモノエステル(b−1)、ジエステル(b−2)含量は、それぞれ67、33mol%であることを
31P−NMRによる測定で確認した。
【0125】
室温に冷却した後、反応溶液を一部アルミカップ上に取り出し、110℃にて1 時間常圧にて乾固させることで、重合溶液中のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。その後、重合溶液を所定量のHFE7200で希釈することで、後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。
【0126】
溶出液としてフッ素系溶剤[HCFC225(AK−225(旭硝子社製);以下同じ。)/ヘキサフルオロイソプロパノール=90/10(重量)溶出液としてフッ素系溶剤[HCFC225/ヘキサフルオロイソプロパノール=90/10(重量)]を使用したGPCで分子量を測定した結果、重量平均分子量は116,000であった。
【0127】
製造例2 Rf(C6)メタクリレート/iBMA/PPME=100/14.27/2.34(重量比)重合体
PRMEの量を0.4228gに置き換える以外は製造例1と同じ方法で含フッ素ポリマーを合成し、重合後のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。その後、樹脂固形分濃度を算出した溶液をHFE7200で希釈することで、後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は113,800であった。
【0128】
製造例3 (Rf(C6)メタクリレート/iBMA/AAEM=100/14.62/
2.34(重量比)重合体
Rf(C6)メタクリレート3.920g、iBMA0.571g、AAEM0.09300gを使用して、製造例1と同じ方法で含フッ素ポリマーを合成し、重合後のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。その後、樹脂固形分濃度を算出した溶液をHFE7200で希釈することで、後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は113,000であった。
【0129】
製造例4 (Rf(C6)メタクリレート/iBMA/PPME/AAEM=100/9.71/2.29/2.29(重量比)重合体
Rf(C6)メタクリレート9.625g、iBMA0.9350g、PPME 0.2200g、AAEM0.2200gを使用して、製造例1と同じ方法で含フッ素ポリマーを合成し、重合後のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。その後、樹脂固形分濃度を算出した溶液をHFE7200で希釈することで、後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は114,000であった。
【0130】
参考製造例1 Rf(C6)メタクリレート/iBMA/PPME=100/14.49/0(重量比)重合体
PPME含量をゼロとし、重合溶剤をHFE7200単独に置き換える以外は製造例1と同じ方法で含フッ素ポリマーを合成し、重合後のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。その後、樹脂固形分濃度を算出した溶液をHFE7200で希釈することで、後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調製した。得られたポリマーの重量平均分子量は115,000であった。
【0131】
参考製造例2 Rf(C6)メタクリレート/iBMA/TMSMA=100/14.49/2.373(重量比)重合体
PPMEをメタクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル(以下、「TMSMA」と略記することがある)に、また重合溶剤をHFE7200/IPA(=9/1重量比)混合溶剤からHFE7200単独に置き換える以外は製造例1と同じ方法で含フッ素ポリマーを合成し、重合後のポリマーの樹脂固形分濃度を算出した。
その後、樹脂固形分濃度を算出した溶液をHFE7200で希釈することで、後述する実施例で用いる所定の濃度の溶液を調整した。得られたポリマーの重量平均分子量は118,800であった。
【0132】
実施例1〜4及び参考例1〜4
シリコン(Si)、Al、Cu、SUS304(Fe/Ni/Cr合金)テストピースのいずれかを被処理物として用い、アセトン中で30分間超音波洗浄を行い、次いで、HFE7200に浸漬した後、乾燥することによって、前処理を行った。
【0133】
上記した方法で前処理を行った被処理物を、製造例1、2及び参考製造例1、2で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液(樹脂固形分濃度0.5重量%)に浸漬した後、大気中(20℃、湿度30%)で一昼夜放置して、試験片を作製した。
【0134】
これらの各試験片について、対n−ヘキサデカン(HD)接触角の初期値を測定した結果、62〜65°であった。次に各試験片を室温(25℃)で洗浄溶剤HFE7200単独またはHFE7200/IPA(9/1重量比)混合溶剤に浸漬し、超音波洗浄器にて、2時間超音波を照射した。洗浄溶剤を新しい物に交換した後、さらに2時間超音波を照射した。また、超音波洗浄器の水温が上昇することを避けるために、超音波洗浄器の水を1時間おきに室温の水に交換した。その後、大気中に引き上げて1分間放置し、対HD接触角を測定することで、洗浄溶剤に対する浸漬耐久性を評価した。実験は3回行った。超音波洗浄後の対HD接触角の平均値、最低値、最高値を
図1及び表1(洗浄溶媒HFE7200単独洗浄)、並びに
図2及び表2(洗浄溶媒HFE7200/IPA(=9/1重量比)洗浄)に示す。これらの結果は、超音波洗浄後のHD接触角が初期値に近いほど、金属基材上にフッ素系ポリマーの膜が残っていることを示す。フッ素系ポリマーで処理する前の各種金属基材の対HD接触角は5°以下であった。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
以上の結果から明らかなように、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリロイルオキシエチルフォスフェートを共重合して得られた含フッ素ポリマーをハイドロフルオロエーテルに溶解した、製造例1、2のコーティング剤は、アルミニウム、SUS304に対して溶剤浸漬耐久性に優れた皮膜を形成できることがわかった。以上の結果は、製造例1、2の含フッ素ポリマー中に導入されたリン酸基がアルミニウム、SUS304に特異的な密着性を有することを示している。一方、参考製造例2の含フッ素ポリマー中に導入されたメトキシ基は、シリコン基剤上の自然酸化膜に特異的な密着性を有することを示している。また、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル、メタクリル酸イソボルニル、アセトアセトキシメチルメタクリレートを共重合して得られた含フッ素ポリマーをハイドロフルオロエーテルに溶解した、製造例3のコーティング剤は参考製造例1および2と比較して銅基板に密着性を示すことが明らかとなった。また、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリロイルオキシエチルフォスフェート、アセトアセトキシメチルメタクリレートを共重合して得られた含フッ素ポリマーをハイドロフルオロエーテルに溶解した、製造例4のコーティング剤はアルミニウム、SUS304だけでなく、シリコン基板、銅基板にも密着性を示すことがわかった(実施例6)。
【0138】
製造例1、2及び参考製造例2で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液(樹脂固形分濃度0.5重量%)を50℃で3ヶ月保存後、洗浄溶媒HFE7200/IPA(=9/1重量比)で溶剤浸漬耐久性試験を行った。その結果、製造例1、2のアルミニウム、SUS304に対する対HD接触角はほとんど変化しなかったが、参考製造例2のシリコン基剤に対する対HD接触角は50℃保存前が約60°であったのに対し、保存後は約40°まで低下した。以上の結果より、コーティング剤中でのリン酸基の保存安定性が優れていることが示唆された。
【0139】
実施例5及び参考例5〜6
製造例2で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液と、参考製造例1、2で得られた各含フッ素ポリマーのHFE7200溶液を用いて、以下の方法で防湿性と防錆性を評価した。結果を表3に示す。
【0140】
*防湿性の評価方法
防湿性は透湿度(カップ法、JIS Z0208)により評価した。透湿度(g/m
2・day)は、防湿膜を透過する水蒸気量で定義され、この値が小さいほど防湿性が良好である。
【0141】
試験方法としては、支持シートとして、建材用透湿防水シート(JIS A6111・2004適合品)を円(直径70mm)の形状に切り出したものを使用し、各含フッ素ポリマーの5重量%HFE7200溶液を調製し、スピンコート法により、透湿防水シート上に製膜(膜厚 約100nm)して、透湿度を測定した。支持シートのみの透過度は約4000g/m
2・dayであった。
【0142】
*防錆性の評価方法
防錆性は、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)により、以下の条件にて評価した。
【0143】
試験片の角度:鉛直軸に対し20±5°
塩濃度:5重量%、pH6.5〜7.2
噴霧温度:60±1℃
基板としては、JIS C1100P バフ研磨加工、サイズ2.0×15×60mmの銅基板(日本テストパネル工業製)を用い、各含フッ素ポリマーの2%HFE7200溶液に1回浸漬することにより製膜した(膜厚 約100nm)。塩水噴霧後、96時間後の外観を、◎(全く変化なし)、○、△、×、××(ひどく変色=未処理)の五段階で評価した。
【0144】
【表3】
【0145】
以上の結果から明らかなように、製造例2で得られたコーティング剤は、参考製造例1、2で得られるコーティング剤よりも防湿性及び防錆性に優れた皮膜を形成できることがわかった。
【0146】
尚、防湿性が良好な理由については明確ではないが、重合点を二つ持つリン酸エステル化合物(b−2)がポリマー分子内に架橋構造を生じさせていることが一因として寄与しているものと推定される。
【0147】
実施例6〜12及び比較例7〜13
市販スマートフォン(サムスン電子製Galaxy S(登録商標) II)を充電後にその電源を切り、micro USB部位が上向きになるように垂直に立てた。micro USBのレセプタクルのプラグ嵌合口内部に、各種濃度(0.1、0.2、0.5、1、2、5、10重量%)に調整した製造例2のコーティング剤、又は参考製造例2のコーティング剤をスポイトで満たした後、ただちにmicro USBの開口部が下に向くようにスマートフォンを回転させて、コーティング剤を排出することにより、プラグ嵌合口内部をコーティング処理した。処理後、温度25℃、湿度60%の環境で1時間放置した後、以下の試験を実施した。
【0148】
・初期評価
電極(5極)の接触抵抗を測定することにより、初期の導通性の程度を評価した。5極共に接触抵抗が50mΩ未満の場合、導通性あり(○)とし、1極でも50mΩ以上であれば、導通不良(×)とした。次に、micro USBが上向きになるように垂直に立て、スポイトで水道水をプラグ嵌合口内部に満たした後、ただちにmicro USBを下向きにし、1cmの高さから机の上に落とすことにより、水道水を排出した。プラグ嵌合口内部に残留した水の弾き方(撥水性)を以下の基準で目視判定した。撥水性が高いほど、プラグ嵌合口内部に残留する水滴が少なくなり、電極の電界腐蝕が起こりにくいことを意味する。
◎:非常に良く弾く(接触角110°程度)
○:良く弾く(接触角100°程度)
△:弾く(接触角90°程度)
×:(接触角50〜80°程度)
××:(接触角50°以下)
【0149】
・挿抜試験
防水加工したmicro USBにプラグを10,000回抜き差しした後、接触抵抗を測定した。次に、初期と同様に撥水性を評価した。次にスマートフォンの電源をオンにし、micro USBが上向きになるように垂直に立て、スポイトで水道水をプラグ嵌合口内部に満たした後、水が入ったままの状態で10分間放置した。micro USBを下向きにし、1cmの高さから机の上に落とすことにより、水道水を排出した。実体顕微鏡(倍率30倍)でUSB電極の変色の程度を以下の5段階で観察することにより、電界腐食の有無を判定した。
◎:全く変色しない
○:わずかに変色
△:やや変色
×:変色
××:ひどく変色
以上の試験結果を下記表4に示す。
【0150】
【表4】
【0151】
以上の結果から明らかなように、製造例2のコーティング剤を用いた場合には、参考製造例2のコーティング剤を用いた場合と比較して、撥水性及び電界腐食について良好な結果が得られた。特に、製造例2のコーティング剤は、コーティング剤の固形分濃度が0.2〜2重量%の範囲において、初期の導通性が確保され、挿抜試験後の撥水性が良好で、電界腐蝕が起こりにくかった。