(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350189
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/00 20060101AFI20180625BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20180625BHJP
C21C 5/28 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
C21C7/00 J
C21C1/02 L
C21C5/28 C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-205733(P2014-205733)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-74942(P2016-74942A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100172269
【弁理士】
【氏名又は名称】▲徳▼永 英男
(72)【発明者】
【氏名】原田 俊哉
【審査官】
河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/003123(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/003127(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0247856(US,A1)
【文献】
特開2014−105915(JP,A)
【文献】
特開昭59−016921(JP,A)
【文献】
特開昭49−126529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00
C21C 1/02
C21C 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元炉の排ガス経路を兼ねる傾動式スラグ供給装置で、溶融状態のスラグを連続的又は間欠的に還元炉に装入し、上記スラグを還元する還元処理において、傾動式スラグ供給装置の底部面に凝固して付着するスラグの付着量の増加を抑制する方法であって、
傾動式スラグ供給装置内の溶融状態のスラグを還元炉に装入し終え、次に、新たな溶融状態のスラグを傾動式スラグ供給装置に投入するまでの間に、傾動式スラグ供給装置を所要の傾斜角度で傾斜させて保持して、スラグの融点を超える温度の溶銑を装入し、該溶銑を、そのまま、傾動式スラグ供給装置を通して還元炉へ装入する
ことを特徴とする傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【請求項2】
前記傾斜角度が、傾動式スラグ供給装置の底部面と水平面がなす角度で、水平面より上方に10°以上の角度であることを特徴とする請求項1に記載の傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【請求項3】
還元炉の排ガス経路を兼ねる傾動式スラグ供給装置で、溶融状態のスラグを連続的又は間欠的に還元炉に装入し、上記スラグを還元する還元処理において、傾動式スラグ供給装置の底部面に凝固して付着するスラグの付着量の増加を抑制する方法であって、
傾動式スラグ供給装置内の溶融状態のスラグを還元炉に装入し終え、次に、新たな溶融状態のスラグを傾動式スラグ供給装置に投入するまでの間に、傾動式スラグ供給装置に、スラグの融点を超える温度の溶銑を装入し、該溶銑が還元炉へ流出しない範囲の搖動角度で、傾動式スラグ供給装置を搖動する
ことを特徴とする傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【請求項4】
前記搖動角度が、傾斜式スラグ供給装置の底部面と水平面がなす角度で、水平面より下方に15°〜10°の範囲の角度であることを特徴とする請求項3に記載の傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【請求項5】
前記溶銑の温度が1400℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【請求項6】
前記溶融状態のスラグが、溶融状態の製鋼スラグであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の傾動式スラグ供給装置の付着スラグ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾動式スラグ供給装置の底部面にスラグが凝固して付着して成長するのを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の製鋼工程で大量に発生する製鋼スラグは、Fe、Mn等の金属成分、及び、P等を含むが、CaOを多量に含むことに起因する膨張・崩壊性のため、路盤材、骨材等への利用が制限されていた。しかし、近年、資源のリサイクルが積極的に推進されており、製鋼スラグから有価物を回収する方法が、これまで数多く提案されている(特許文献1〜9、非特許文献1、参照)。
【0003】
しかし、従来の有価物回収方法は、溶融状態の製鋼スラグを所定量毎に処理(即ち、バッチ処理)するので処理効率が低く、また、リサイクル資源を得るまで複数の工程が必要で実用的でなく、結局、リサイクルコストが上昇するという難点を抱えている。
【0004】
そこで、溶融状態の製鋼スラグを、還元炉に直接装入して処理する還元処理方法が提案されている(特許文献10〜12、参照)。
【0005】
例えば、特許文献10には、スラグ鍋から還元炉の開口部に連続的にスラグを装入する還元処理方法が提案されている。しかし、この還元処理方法では、スラグ表面とスラグ鍋底部に凝固スラグ層が形成され、処理できるスラグ量が著しく減少する。
【0006】
特許文献11と12の還元処理方法においては、スラグ供給容器内のスラグ表面の凝固を防止できるが、スラグ供給容器の底面にはスラグが付着し、漸次、堆積する。スラグ供給容器の底面にスラグが付着して堆積すると、容器のスラグ収容量が減少するし、また、付着堆積したスラグを除去する必要があるので、スラグの還元処理効率は、当然に低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭52−033897号公報
【特許文献2】特開昭53−054196号公報
【特許文献3】特開昭55−100912号公報
【特許文献4】特開平07−223857号公報
【特許文献5】特開平08−198647号公報
【特許文献6】特表2003−520899号公報
【特許文献7】特開2004−331449号公報
【特許文献8】特開2009−132544号公報
【特許文献9】オーストラリア特許AU−B−20553/95号明細書
【特許文献10】特表2006−528732号公報
【特許文献11】特許第5522320号公報
【特許文献12】特許第5541423号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Scandinavian Journal of Metallurgy 2003;32:p.7-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、溶融状態の製鋼スラグを、還元炉に直接装入して処理する還元処理方法は、製鋼スラグを還元炉に供給するスラグ供給装置の底部面にスラグが凝固して付着堆積し、還元処理効率が低下するという課題を抱えている。
【0010】
即ち、スラグ供給装置を連続的又は間欠的に傾動して、溶融状態の製鋼スラグを還元炉に直接装入する場合、スラグ供給装置の底部面に製鋼スラグが凝固して付着堆積し、スラグ供給装置の総重量が増大して制限重量に達し、又は、該装置のスラグ収容量が減少して制限収容量に達して、スラグ供給装置の交換を余儀なくされる場合がある。
【0011】
スラグ供給装置の交換は、当然に、還元炉の稼働率を著しく低下させるので、スラグ供給装置の交換頻度を低減するか、又は、ゼロにして、スラグ供給装置の交換をできるだけ回避する必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、傾動式スラグ供給装置の底部面において、スラグの凝固付着量の増加を抑制して、又は、スラグの凝固付着量を低減して、還元炉への溶融状態のスラグ(以下「溶融スラグ」ということがある。)、特に、溶融状態の製鋼スラグの直接装入を安定化し、還元炉の安定稼働を確保することを課題とし、該課題を解決するスラグ付着抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決する手法について鋭意検討した。その結果、傾動式スラグ供給装置が空の時、該装置に溶銑を装入し、溶銑の熱で、傾動式スラグ供給装置の底部面に凝固して付着したスラグ(以下「付着スラグ」ということがある。)の表層を溶融し、溶銑とともに還元炉に流出させれば、傾動式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの量の増加を極力抑制できることを見いだした。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0015】
(1)還元炉の排ガス経路を兼ねる傾動式スラグ供給装置で、溶融状態のスラグを連続的又は間欠的に還元炉に装入し、上記スラグを還元する還元処理において、傾動式スラグ供給装置の底部面に凝固して付着するスラグの付着量の増加を抑制する方法であって、
傾動式スラグ供給装置内の溶融状態のスラグを還元炉に装入し終え、次に、新たな溶融状態のスラグを傾動式スラグ供給装置に投入するまでの間に、傾動式スラグ供給装置を所要の傾斜角度で傾斜させて保持して、スラグの融点を超える温度の溶銑を装入し、該溶銑を、そのまま、傾動式スラグ供給装置を通して還元炉へ装入する
ことを特徴とする傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【0016】
(2)前記傾斜角度が、傾動式スラグ供給装置の底部面と水平面がなす角度で、水平面より上方に10°以上の角度であることを特徴とする前記(1)に記載の傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【0017】
(3)還元炉の排ガス経路を兼ねる傾動式スラグ供給装置で、溶融状態のスラグを連続的又は間欠的に還元炉に装入し、上記スラグを還元する還元処理において、傾動式スラグ供給装置の底部面に凝固して付着するスラグの付着量の増加を抑制する方法であって、
傾動式スラグ供給装置内の溶融状態のスラグを還元炉に装入し終え、次に、新たな溶融状態のスラグを傾動式スラグ供給装置に投入するまでの間に、傾動式スラグ供給装置に、スラグの融点を超える温度の溶銑を装入し、該溶銑が還元炉へ流出しない範囲の搖動角度で、傾動式スラグ供給装置を搖動する
ことを特徴とする傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【0018】
(4)前記搖動角度が、傾斜式スラグ供給装置の底部面と水平面がなす角度で、水平面より下方に15°〜10°の角度であることを特徴とする前記(3)に記載の傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【0019】
(5)前記溶銑の温度が1400℃以上であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法。
【0020】
(6)前記溶融状態のスラグが、溶融状態の製鋼スラグであることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の傾動式スラグ供給装置の付着スラグ抑制方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、熱伝導率の小さい付着スラグでも溶融して還元炉に流出させ、傾動式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの量の増加を抑制する、又は、付着スラグの量を低減することができるので、還元炉への溶融スラグの直接装入を安定化し、還元炉の安定稼働を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】傾動式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの成長を抑制する態様を示す図である。
【
図2】溶融スラグの装入回数と、溶融スラグの装入量及び付着量の関係を示す図である。
【
図3】傾動式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの成長を抑制する別の態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の傾動式スラグ供給装置のスラグ付着抑制方法(以下「本発明方法」ということがある。)は、還元炉の排ガス経路を兼ねる傾動式スラグ供給装置で、溶融状態のスラグを連続的又は間欠的に還元炉に装入し、上記スラグを還元する還元処理において、傾動式スラグ供給装置の底部面に凝固して付着するスラグの付着量の増加を抑制する方法であって、
傾動式スラグ供給装置内の溶融状態のスラグを還元炉に装入し終え、次に、新たな溶融状態のスラグを傾動式スラグ供給装置に投入するまでの間、傾動式スラグ供給装置を所要の傾斜角度で傾斜させて保持して、スラグの融点を超える温度の溶銑を装入し、該溶銑を、そのまま、傾動式スラグ供給装置を通して還元炉へ装入する
ことを特徴とする。
【0024】
また、本発明方法は、還元炉の排ガス経路を兼ねる傾動式スラグ供給装置で、溶融状態のスラグを連続的又は間欠的に還元炉に装入し、上記スラグを還元する還元処理において、傾動式スラグ供給装置の底部面に凝固して付着するスラグの付着量の増加を抑制する方法であって、
傾動式スラグ供給装置内の溶融状態のスラグを還元炉に装入し終え、次に、新たな溶融状態のスラグを傾動式スラグ供給装置に投入するまでの間、傾動式スラグ供給装置に、スラグの融点を超える温度の溶銑を装入し、該溶銑が還元炉へ流出しない範囲の搖動角度で、傾動式スラグ供給装置を搖動する
ことを特徴とする。
【0025】
以下、本発明方法について図面に基づいて説明する。
【0026】
図1に、傾動式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの成長を抑制する態様を示す。
【0027】
還元炉1は、炉底1d、側壁1aと1b、及び、上蓋1cで構成され、上蓋1cを貫通して電極2を備え、上蓋1cの右上には、装入管4を介し還元炉1と一体的に配置されている傾動式スラグ供給装置7が供給する溶融スラグの装入口3を備えている。還元炉1は、通常、密閉構造の直流型又は交流型の固定式電気炉で、約1450℃の溶銑5と、溶銑5の上の約1550℃の還元処理を受けた溶融スラグ6を収容している。
【0028】
還元炉1の側壁1a又は1bには、溶融スラグ6を出滓する出滓孔(図示なし)と、溶銑5を出銑する出銑孔(図示なし)が設けられている。
【0029】
装入口3のところで、還元炉1と、装入管4を介し一体的に連結されていて、還元炉1の排ガスの排出経路である傾動式スラグ供給装置7は、スラグ鍋(図示なし)が供給する溶融スラグを、一時、貯留・保持し、その後、還元炉1に、流量を制御しつつ、装入口4を通し、溶銑5上の溶融スラグ6の層に、連続的又は間欠的に、かつ、静的に流し込む装置である。
【0030】
傾動式スラグ供給装置7は、水冷耐火物壁製の底部9、上部9b、及び、側部8で構成されていて、側部8に対向する面に、溶融スラグが流出する開口8aと、溶融スラグを装入口3に導く導入管4を備え、上部9bに、傾動式スラグ供給装置7内のガスを排気する排気口13、スラグ鍋(図示なし)が溶融スラグを投入する投入口14(投入口を閉塞する蓋は、図示なし)、及び、傾動式スラグ供給装置7内に酸素含有ガスを吹き込む酸素含有ガス吹込みランス10を備えている。
【0031】
酸素含有ガス吹込みランス10から、傾動式スラグ供給装置7内に酸素含有ガスを吹き込んで、還元炉1から傾動式スラグ供給装置7内に侵入する排ガスの可燃成分を燃焼させて、雰囲気温度を高温に保持し、溶融スラグを保温する。酸素含有吹込みランス10は、上部9及び/又は側部8に1本又は複数本備えてもよい。
【0032】
傾動式スラグ供給装置7は、開口8aに近接する側部8に、雰囲気温度を測定する測温点(図示なし)を備え、また、傾動式スラグ供給装置7の下部には、該装置の重量を随時測定することが可能な秤量機(図示なし)が配置されている。
【0033】
傾動式スラグ供給装置7には、傾動装置(図示なし)が配備されている。傾動装置で、傾動式スラグ供給装置7を、傾動軸(図示なし)を中心に傾動させて、投入口14から投入される溶融スラグを、還元炉1内に、装入口4を経て装入する。
【0034】
本発明方法は、傾動式スラグ供給装置7内の溶融状態のスラグを連続的又は間欠的に、かつ、静的に還元炉1に装入し終え、次に、新たな溶融状態のスラグを傾動式スラグ供給装置7に投入するまでの間に、即ち、傾動式スラグ供給装置7が空状態の間であって傾動式スラグ供給装置7を傾斜させて保持している間に、溶銑鍋11から投入口14を通じて溶銑5’を装入し、該溶銑を、そのまま、傾動式スラグ供給装置7を通して還元炉1へ供給することを特徴とする。
【0035】
還元処理を施す溶融スラグは、製鋼スラグに限られない。有価成分を含有するスラグであればよく、また、数種のスラグを混合したスラグでもよい。
【0036】
傾動式スラグ供給装置7が溶融スラグを還元炉1に装入し終えた空状態において、該装置7の底部面9aには、
図1に示すように、溶融スラグが凝固した所要厚の付着スラグ12が付着している。付着スラグは、傾動式スラグ供給装置の底部面を保護する機能を有するが、溶融スラグの装入を繰り返している間に、溶融スラグが凝固・堆積して厚さを増す。
【0037】
傾動式スラグ供給装置の底部面における付着スラグの厚さが増すと、傾動式スラグ供給装置の総重量が増大し、又は、該装置のスラグ収容量が減少する。傾動式スラグ供給装置の総重量の増大及び/又はスラグ収容量の減少は、傾動式スラグ供給装置の交換に繋がるので、付着スラグの厚さを、常に、所要厚以下に抑制する必要がある。
【0038】
本発明方法においては、
図1に示すように、傾動式スラグ供給装置7を所要の傾斜角度θ1(底部面9aと水平面のなす角度)で傾斜させ、該装置に、溶銑鍋11から、スラグの融点を超える温度の溶銑5’を、所定量、投入口14を通して投入すれば、溶銑5’の保有熱で付着スラグ12の表層が溶融し、溶銑5’とともに還元炉1に流出する。
【0039】
熱伝導率の小さい溶融スラグが凝固した付着スラグでも、溶銑の保有熱で溶融するので、傾動式スラグ供給装置の底部面における付着スラグの厚さを低減することができる。
【0040】
図2に、本発明方法を用いた場合における、溶融スラグの装入回数と、溶融スラグの装入量及び付着量の関係を示す。スラグ装入回数の増加に伴い、スラグ供給装置の底部面におけるスラグの付着量が増大することが解る。例えば、スラグ装入回数5回で、略30tに達している。
【0041】
ここで、本発明方法を適用し、スラグ供給装置内に溶銑を通過させたところ、スラグ付着量が約8t低減された。これは、付着スラグが溶流したことを意味する。
【0042】
傾動式スラグ供給装置の傾斜角度θ1は、該装置の底部面が水平面から10°以上の角度とする。好ましくは15°以上である。傾斜角度θ1は、傾斜式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの付着態様を考慮して、溶銑が、付着スラグと充分に接触し、かつ、安定的に還元炉に流出できる角度の範囲内で適宜設定する。なお、傾斜角度θ1の上限は、傾動式スラグ供給装置の傾斜角度の限界、又は、溶銑鍋から投入口を通じて溶銑を投入できる限界になるが、実際上30°以下が想定される。
【0043】
溶融スラグを還元炉に装入し終え、次に、新たな溶融スラグを傾動式スラグ供給装置に投入するまでの間、傾斜式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの態様を考慮して設定した傾斜角度θ1で、傾動式スラグ供給装置を傾斜させて保持し、スラグの融点を超える温度の溶銑を装入する。
【0044】
溶銑の保有熱で付着スラグの表層が溶融し、溶融して生成した溶融スラグは浮上して、銑鉄とともに、還元炉内に、装入口を経て流出するので、付着スラグの厚さを低減することができる。傾斜角度θ1で保持した傾動式スラグ供給装置に装入する銑鉄の量は、傾斜式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの厚さ、及び、該底部面の保護に必要なスラグ層の厚さを考慮して適宜設定する。
【0045】
このとき、傾動式スラグ供給装置の雰囲気温度が低下し、付着スラグ層の表層の温度が低下しないように、事前に酸素含有ガス吹込みノズル(
図1「10」参照)から酸素含有ガスを吹き込み、還元炉で発生し、上記装置内に侵入した排ガスの可燃成分(CO、H
2)を燃焼させてもよい。
【0046】
溶銑のスラグの融点を超える温度は、スラグの融点がスラグの成分組成に依るので特定の温度に限定できないが、例えば、溶融スラグが、成分組成が略定まっている製鋼スラグの場合、略1200℃であるので、1200℃を超える温度である。しかし、溶銑が、付着スラグに接触し、還元炉に流入するまでの温度低下があるので、この低下分を考慮すると、傾動式スラグ供給装置に装入する溶銑の温度は1400℃以上が好ましい。
【0047】
図3に、傾動式スラグ供給装置の底部面のスラグ付着の成長を抑制する別の態様を示す。図中、
図1に示す還元炉及び傾動式スラグ供給装置を構成する部材と同じ部材には、
図1中の符号と同じ符号を付した。
【0048】
図3に示す本発明方法の別の態様においては、傾動式スラグ供給装置内の溶融スラグを還元炉に装入し終え、次に、新たな溶融スラグを傾動式スラグ供給装置に投入するまでの間、底部面9aに付着スラグ12が厚く成長した傾動式スラグ供給装置7に、スラグの融点を超える温度の溶銑5’を投入口14から所要量投入し、溶銑5’が還元炉へ流出しない範囲の搖動角度θ2(底部面9aが水平面となす角度)で、傾動式スラグ供給装置を搖動する。
【0049】
傾動式スラグ供給装置の搖動角θ2は、溶銑が還元炉へ流出しない範囲の角度であればよく、傾斜式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの付着態様と装入溶銑量を考慮して適宜設定するが、傾動式スラグ供給装置の底部面が水平面となす角度は、−15°〜−10°(−:水平面より下方の角度)の範囲の角度が好ましい。
【0050】
溶銑の保有熱で付着スラグの表層が溶融し、溶融して生成した溶融スラグは浮上して、銑鉄とともに、還元炉内に装入口を経て流出するので、付着スラグの厚さが低減する。傾動式スラグ供給装置に投入する銑鉄の量は、傾斜式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの厚さ、及び、該底部面の保護に必要なスラグ層の厚さを考慮して適宜設定する。
【0051】
このとき、傾動式スラグ供給装置の雰囲気温度が低下して、付着スラグの表層の温度が低下しないように、事前に酸素含有ガス吹込みノズル(
図3中「10」参照)から酸素含有ガスを吹き込み、還元炉で発生し、該装置内に侵入した排ガスの可燃成分(CO、H
2)を燃焼させてもよい。溶銑のスラグの融点を超える温度は、前述したように、1400℃以上が好ましい。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0053】
(実施例)
まず、実施例で用いた還元炉と傾動式スラグ供給装置について説明する。
【0054】
(I)還元炉
還元炉は、投入電力30MWの固定密閉式還元炉で、炉内溶銑量:100〜150t、炉内スラグ量:40〜70tである。溶銑全量(150t)の交換は、1回/10hで行った。
【0055】
(II)傾動式スラグ供給装置
傾動式スラグ供給装置は、スラグ収容量が60tで、底部面の傾動角が、水平面を基準面として−15〜+20°である(+:基準面より上方、−;基準面より下方)。還元炉と一体的に連結していて、排ガス流路を兼ねる。酸素含有ガス吹込みが、製鋼スラグが流出する開口に近接する上部又は側部に1本又は複数本設置されている。
【0056】
また、開口に近接する側部には、装置内の雰囲気温度を測定する熱電対が設置されている。さらに、傾動式スラグ供給装置の下部には、該装置の重量を随時測定することが可能である。
【0057】
(III)溶銑による付着スラグの溶解
(III-1)10時間に1回、還元炉の溶銑を全量入れ替えるために、還元炉内の溶銑を全量排出した。その後、傾動式スラグ供給装置を、底部面が水平面から上方に10°以上となるまで傾動させて、スラグの投入口の蓋を開け、1400℃以上の溶銑を100t装入した。
【0058】
傾斜式スラグ供給装置は、樋の役割を果たし、溶銑は、直接、該装置の底部面に沿って還元炉へ流出した。この時、底部面に付着した付着スラグ層の表層は、1400℃以上の溶銑に直接接するので、上記表層を効率的に溶融することができる。傾動式スラグ供給装置の重量は、溶銑装入前の重量に比較し8t低下していた。
【0059】
(III-2)10時間に1回、還元炉の溶銑を全量入れ替えるために、還元炉内の溶銑を全量排出した。その後、付着スラグの溶融効率を上げるため、一度、1400℃以上の溶銑50tを傾動式スラグ供給装置に投入し、投入口の蓋を閉めてから、底部面が水平面となす角が−15°〜−10°の間で、上記装置を搖動させて、溶銑を還元炉に流出させた。この操作を2回繰り返してから、傾動式スラグ供給装置の重量を測定したところ、10t低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、熱伝導率の小さい付着スラグでも溶融して還元炉に流出させ、傾動式スラグ供給装置の底部面の付着スラグの量の増加を抑制する、又は、付着スラグの量を低減することができるので、還元炉への溶融スラグの直接装入を安定化し、還元炉の安定稼働を確保することができる。よって、本発明は、鉄鋼産業及びスラグ利用産業において利用可能性が高いものである。
【符号の説明】
【0061】
1 還元炉
1a、1b 側壁
1c 上蓋
1d 炉底
2 電極
3 装入口
4 導入管
5、5’ 溶銑
6 溶融スラグ
7 傾動式スラグ供給装置
8 側部
8a 開口
9 底部
9a 底部面
9b 上部
10 酸素含有ガス吹込みランス
11 溶銑鍋
12 付着スラグ
13 排気口
14 投入口
θ1 傾斜角
θ2 搖動角