特許第6350190号(P6350190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6350190ガラス物品の製造装置及びガラス物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350190
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造装置及びガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/04 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   C03B17/04 A
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-205749(P2014-205749)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-74555(P2016-74555A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】北川 良弘
(72)【発明者】
【氏名】西尾 孝二
(72)【発明者】
【氏名】室園 龍三
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 実開平07−034972(JP,U)
【文献】 特公平07−029796(JP,B2)
【文献】 特開2002−321934(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/132939(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 9/00−17/06
C03B 7/00− 7/22
C03B 19/00−19/10
C03B 21/00−40/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状又は棒状ガラスを下方向に牽引する縦引き装置と、前記管状又は棒状ガラスの移送方向を横方向に案内する案内装置と、横方向に案内された前記管状又は棒状ガラスを所定の長さに切断する切断装置とを備えるガラス物品の製造装置であって、
前記縦引き装置の下流側に前記管状又は棒状ガラスの粗切を行う粗切装置を備え、
前記粗切装置の下流側且つ前記案内装置の上流側に、前記粗切装置と協働し、横方向の第1経路及び下方向の第2経路の何れかに前記管状又は棒状ガラスの先端の移送方向を切り替える切替装置を備えることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス物品の製造装置において、
前記案内装置の下流側且つ前記切断装置の上流側に、前記管状又は棒状ガラスを前記横方向の第1経路に牽引する横引き装置を備えることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラス物品の製造装置において、
前記切替装置は、退避位置と切替位置の間を移動する切替部材を備えており、前記切替部材が退避位置にある時は前記管状又は棒状ガラスと接触せず、前記切替部材が切替位置に移動した時は前記管状又は棒状ガラスの先端の移送方向を前記下方向の第2経路から前記横方向の第1経路へ切り替え可能となるように構成されていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載のガラス物品の製造装置において、
前記切替部材は、拡開形状の凹溝形状をなしており、前記切替位置に移動することにより前記管状又は棒状ガラスの先端を凹溝内で溝方向に沿って移動させて、前記管状又は棒状ガラスを前記案内装置へ誘導可能なように構成されていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のガラス物品の製造装置において、
前記切替部材は、前記粗切装置が前記管状又は棒状ガラスの上流側と下流側を切断分離した後、上流側の前記管状又は棒状ガラスの先端の通過前に前記切替位置に移動するように構成されていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか1項に記載のガラス物品の製造装置において、
前記切替装置は、前記管状又は棒状ガラスの移送を前記下方向の第2経路から前記横方向の第1経路への切替完了後に前記切替部材が前記退避位置に退避するように構成されていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項7】
請求項3〜6の何れか1項に記載のガラス物品の製造装置において、
前記管状又は棒状ガラスの前記横方向の第1経路への移送中断時に、前記粗切装置は、前記管状又は棒状ガラスの上流側と下流側を切断分離し、前記切替部材は、前記退避位置での退避状態を維持し上流側の前記管状又は棒状ガラスの先端を前記案内装置に誘導しないように構成されていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項8】
請求項3〜7の何れか1項に記載のガラス物品の製造装置において、
前記管状又は棒状ガラスの前記下方向の第2経路から前記横方向の第1経路への切替完了を判定する判定手段を備えてなり、前記切替装置は、前記判定手段により切り替えが完了したとみなす旨の判定に基づいて、前記切替部材が前記退避位置に退避するように構成されていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載のガラス物品の製造装置において、
前記縦引き装置の上方に溶融窯が設置されており、前記溶融窯の底部から引き出されたガラスが前記縦引き装置にて縮径及び伸長されて管状又は棒状に成形されることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載のガラス物品の製造装置において、
前記切替装置の下方には、前記管状又は棒状ガラスを回収又は廃棄するための回収装置が設けられていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載のガラス物品の製造装置を用いて管状又は棒状のガラス物品を製造することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス管やガラス棒等のガラス物品の製造に関し、溶融ガラスを直接、管状等に成形するダンナー法やベロー法等の種々の手法が知られている。ダンナー法やベロー法については、例えば特許文献1の第2図や第4図にて開示されている。また、予め、管状等に成形したガラス母材を再加熱して延伸することにより、細径のガラス管等を得るリドロー法も知られている。例えば特許文献2には、加熱軟化させたガラス母材を垂直下方に向けて延伸し、次いで円弧状に湾曲させて水平方向に案内して水平引きを行い、その垂直及び水平区間での引き速度を調整することで所望径のガラス物品を製造する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−2931号公報
【特許文献2】特公平7−29796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガラス物品の製造過程において、ガラス移送経路上の例えば水平引き区間での製造装置の故障修理や定期メンテナンスが生じた場合等、ガラス物品の製造を一旦中断する必要がある。
【0005】
その際、特許文献1の開示技術等のようにガラス物品の移送経路の上流に加熱装置を備えるものでは、ガラス物品の製造を停止するためにその加熱装置を停止すると、再稼働時に加熱装置がガラス物品を適正温度まで加熱可能な状態となるまでに時間を要してしまう。つまり、再びガラス物品の通常の製造が行えるまでに時間を要してしまう。また、製造装置に熔解窯を併設するものにおいては特に、ガラス物品の製造を停止するために溶解窯の加熱を停止したのでは、復旧にかかる時間を一層要してしまうことが懸念される。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ガラス物品の製造を中断する状況となっても、その後の復旧を早期に行うことができるガラス物品の製造装置及びガラス物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するガラス物品の製造装置は、管状又は棒状ガラスを下方向に牽引する縦引き装置と、前記管状又は棒状ガラスの移送方向を横方向に案内する案内装置と、横方向に案内された前記管状又は棒状ガラスを所定の長さに切断する切断装置とを備えるガラス物品の製造装置であって、前記縦引き装置の下流側に前記管状又は棒状ガラスの粗切を行う粗切装置を備え、前記粗切装置の下流側且つ前記案内装置の上流側に、前記粗切装置と協働し、横方向の第1経路及び下方向の第2経路の何れかに前記管状又は棒状ガラスの先端の移送方向を切り替える切替装置を備える。
【0008】
この構成によれば、粗切装置と案内装置との間に設けられる切替装置は、粗切装置と協働した切替動作により、管状又は棒状ガラスを縦引き装置から案内装置、切断装置へと導いてガラス物品の製造を行う第1経路と、縦引き装置からガラスを下方向に向かわせる第2経路との何れかに切り替える。つまり、例えば第1経路において製造装置の故障修理や定期メンテナンス、またガラスの移送の不具合が生じた場合等、ガラスの移送経路を第2経路に切り替えておけば切替装置の上流側の稼働を維持可能なため、第1経路が正常となった時にガラスの移送経路を再び第1経路に切り替えれば、第1経路でのガラス物品の製造を即座に行うことが可能である。また、切替装置を備えることで、作業者の手に頼ることなく半自動又は自動で第1経路側にガラスの移送が切替可能なため、作業者の手間が省け、また品質や安全性の向上にも貢献できる。
【0009】
また、上記のガラス物品の製造装置において、前記案内装置の下流側且つ前記切断装置の上流側に、前記管状又は棒状ガラスを前記横方向の第1経路に牽引する横引き装置を備えることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、案内装置と切断装置との間に横引き装置が備えられることで、横方向の第1経路においての管状又は棒状ガラスの牽引をよりスムーズに行うことが可能となる。
【0011】
また、上記のガラス物品の製造装置において、前記切替装置は、退避位置と切替位置の間を移動する切替部材を備えており、前記切替部材が退避位置にある時は前記管状又は棒状ガラスと接触せず、前記切替部材が切替位置に移動した時は前記管状又は棒状ガラスの先端の移送方向を前記下方向の第2経路から前記横方向の第1経路へ切り替え可能となるように構成されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、切替装置に備えられる切替部材は、退避位置にある時は管状又は棒状ガラスと接触せず、切替位置に移動した時は管状又は棒状ガラスの先端の移送方向を下方向の第2経路から横方向の第1経路へ切り替えるべく接触する。つまり、切替部材は、ガラスと接触してガラスの移送方向(経路)の切り替えを行うと共に、不要時には退避してガラスとの接触を極力低減することが可能である。
【0013】
また、上記のガラス物品の製造装置において、前記切替部材は、拡開形状の凹溝形状をなしており、前記切替位置に移動することにより前記管状又は棒状ガラスの先端を凹溝内で溝方向に沿って移動させて、前記管状又は棒状ガラスを前記案内装置へ誘導可能なように構成されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、切替装置に備えられる切替部材は、切替位置において、拡開形状をなす凹溝の開口部から管状又は棒状ガラスを導入して凹溝の溝方向に沿って移動させてガラスの先端を案内装置側の第1経路に誘導する構成であり、簡素な構成にて実現可能である。また、切替部材の開口部は拡開形状をなしているため、切替部材の凹溝内へのガラスの導入をより確実に行うことが可能である。また、切替部材が凹溝形状をなしていることから、ガラスの先端の揺動を抑えて目標位置までより確実に誘導することが可能である。
【0015】
また、上記のガラス物品の製造装置において、前記切替部材は、前記粗切装置が前記管状又は棒状ガラスの上流側と下流側を切断分離した後、且つ上流側の前記管状又は棒状ガラスの先端の通過前に前記切替位置に移動するように構成されていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、切替装置に備えられる切替部材は、粗切装置が管状又は棒状ガラスの上流側と下流側を切断分離した後、上流側のガラスの先端の通過前に切替位置に移動するため、上流側のガラスの先端をこの切替部材にて案内装置側の第1経路に確実に誘導可能である。
【0017】
また、上記のガラス物品の製造装置において、前記切替装置は、前記管状又は棒状ガラスの移送を前記下方向の第2経路から前記横方向の第1経路への切替完了後に前記切替部材が前記退避位置に退避するように構成されていることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、切替装置に備えられる切替部材は、管状又は棒状ガラスの移送を下方向の第2経路から横方向の第1経路への切替完了後に退避位置に退避するため、この切替部材がガラスと摺接する期間を極力短くでき、切替部材の長寿命化等に寄与できる上、ガラス物品にも傷が付き難くなるため、ガラス物品の良品率が向上する。
【0019】
また、上記のガラス物品の製造装置において、前記管状又は棒状ガラスの前記横方向の第1経路への移送中断時に、前記粗切装置は、前記管状又は棒状ガラスの上流側と下流側を切断分離し、前記切替部材は、前記退避位置での退避状態を維持し上流側の前記管状又は棒状ガラスの先端を前記案内装置に誘導しないように構成されていることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、管状又は棒状ガラスの横方向の第1経路への移送中断時においては、粗切装置は管状又は棒状ガラスの上流側と下流側を切断分離し、切替部材は退避位置での退避状態を維持して上流側のガラスの先端を案内装置に誘導しないため、下方向の第2経路への切り替えをガラスの粗切を行うだけで即座に行うことが可能である。
【0021】
また、上記のガラス物品の製造装置において、前記管状又は棒状ガラスの前記下方向の第2経路から前記横方向の第1経路への切替完了を判定する判定手段を備えてなり、前記切替装置は、前記判定手段により切り替えが完了したとみなす旨の判定に基づいて、前記切替部材が前記退避位置に退避するように構成されていることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、管状又は棒状ガラスの下方向の第2経路から横方向の第1経路への切替完了を判定手段が判定することを受け、切替装置に備えられる切替部材が退避動作を行う。これにより、ガラスの経路変更を確実に行うことが可能となる。
【0023】
また、上記のガラス物品の製造装置において、前記縦引き装置の上方に溶融窯が設置されており、前記溶融窯の底部から引き出されたガラスが前記縦引き装置にて縮径及び伸長されて管状又は棒状に成形されることが好ましい。
【0024】
ガラスの移送経路の上流に溶解窯が併設されるものでは、溶解窯の加熱停止、再加熱に多大な時間を要することからも実質的に溶解窯の加熱を停止するのが困難であるため、下流側でガラスの移送経路を切り替えて上流側の稼働を維持できる上記の構成を溶解窯を併設する製造装置に適用する意義は大である。
【0025】
また、上記のガラス物品の製造装置において、前記切替装置の下方には、前記管状又は棒状ガラスを回収又は廃棄するための回収装置が設けられていることが好ましい。
この構成によれば、切替装置の下方である第2経路の下流には、第1経路に案内できなかった管状又は棒状ガラスを回収する回収装置が備えられるため、回収装置にて回収したガラスをこの製造装置やその他のガラス製造にて再利用すれば、ガラスの無駄が生じることが極力抑えられる上、製造コスト低減に寄与できる。
【0026】
また、上記課題を解決するガラス物品の製造方法は、上記のガラス物品の製造装置を用いて管状又は棒状のガラス物品を製造する方法である。
この構成によれば、上記のガラス物品の製造装置と同様に、ガラスの移送経路が第1及び第2経路の何れかに切替可能なため、切替箇所よりも上流側の稼働を維持できる。そのため、ガラス物品の製造を中断する状況となっても、その後の復旧を早期に行うことが可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明のガラス物品の製造装置及びガラス物品の製造方法によれば、ガラス物品の製造を中断する状況となっても、その後の復旧を早期に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】(a)は一実施形態におけるガラス物品の製造装置の概略図であり、(b)は製造装置に用いられる切替装置(切替部材)の構成を説明するための斜視図である。
図2】(a)〜(d)はガラス物品の製造手法(開始時)を示す概略図である。
図3】(a)(b)はガラス物品の製造手法(中断時)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、ガラス物品の製造装置(製造方法)の一実施形態について説明する。
図1(a)に示すように、本実施形態のガラス物品の製造装置10は、ダウンドロー法を用い、所望径及び所望長さの管状又は棒状をなすガラス物品G1を製造する装置である。本実施形態の製造装置10は、溶解窯11、垂直引き装置12、粗切装置13、切替装置14、案内装置15、水平引き装置16、切断装置17を備え、ガラス移送経路の上流から下流に向けてその順で配置されている。また、製造装置10は、これらの他にロールクラッシャ18、回収容器19を備え、更に、コントローラ20、感知センサ21、開始スイッチ22、停止スイッチ23を備えている。
【0030】
溶解窯11は、ガラス物品G1を製造するためのガラス原料を溶解する窯であり、下流側に向けて管状又は棒状に成形しながら流下させている。溶解窯11から流下されるガラスは、管又は棒といった大凡の形状を維持しつつもその径の絞りや曲げ等が可能な軟化状態を経て、垂直引き装置12に達する時点ではほぼ変形しない程度に徐冷され固化されたガラスG0として下流側に送られる。
【0031】
垂直引き装置12は、溶解窯11の下方(下流側)に設置され、溶解窯11から連続的に供給されるガラスG0を受け、垂直下方に向けて引っ張りつつ下流側に送るように動作する。垂直引き装置12は、例えば、駆動ローラ12a及びベルト12bを用いて対で構成され、上部から流下されてきたガラスG0の両側に配置されガラスG0を両側から挟み込むようにして下流側に送るような動作を行う。
【0032】
粗切装置13は、垂直引き装置12の下方(下流側)に設置され、ガラスG0の粗切を行う。粗切装置13は、流下されてきたガラスG0の一側に配置される粗切部材13aと、そのガラスG0を挟んだ他側に配置される受けローラ13bとを備える。粗切部材13aは、基端部が回動可能に軸支され駆動装置(図示略)にて往復回動し、粗切時には下方に向けていた先端部が上方に回動されて受けローラ13bに押し当てられる。その際、粗切部材13aの先端部と受けローラ13bとの挟み込みで、ガラスG0が粗切される。受けローラ13bは、ガラスG0が接触しても損傷が生じ難いゴムや樹脂等の有機系材料にて作製される。
【0033】
切替装置14は、粗切装置13の下方(下流側)に設置され、流下されてきたガラスG0を水平方向に向かう経路Aか垂直下方に向かう経路Bかを切り替える装置である。換言すれば、切替装置14は、ガラスG0の移送経路上の上下方向から水平方向に向きを変える起点部分に設置され、同経路上の分岐点となる。水平方向に向かう経路Aは、ガラスG0を案内装置15、水平引き装置16、切断装置17を経ることでガラス物品G1の製造を行う本流である。一方、垂直下方に向かう経路Bは、粗切装置13(切替装置14)の下方に設置されるロールクラッシャ18にてガラスG0が顆粒状や小片状に粗砕され、回収容器19にて回収が行われる経路となっている。回収容器19にて回収されたガラスについては再利用が可能である。
【0034】
ここで、切替装置14に用いられる切替部材14aは、図1(b)を参照すると、長手方向に連続したU字状又はV字状に近似した凹溝形状をなしている。切替部材14aの開口部14xは拡開しており、若干移動軌跡がぶれるガラスG0を確実に凹溝内に導入できるようにしている上、凹溝形状をなすことでガラスG0の先端の揺動を抑えて目標位置までより確実に誘導することが可能である。また、切替部材14aの溝底部14yは凹曲面をなしており、その凹曲面の曲率は管状又は棒状をなしているガラスG0の外周面の曲率よりも若干大きく設定されている。つまり、切替部材14aは、凹溝の開口部14xから導入したガラスG0を溝底部14yにてその溝方向に向きを変えることでガラスG0の移送方向を誘導するものであるが、その際の溝底部14yでのガラスG0との接触は断面で1点、長手方向では線となるため、ガラスG0の摺接抵抗は小さく抑えられる。
【0035】
このような切替部材14aは、開口部14x側がガラスG0側を向くように配置され、基端部が回動可能に軸支され駆動装置(図示略)にて往復回動する。切替部材14aは、通常では先端部が垂直下方に向く退避位置に配置されており、この退避位置では水平方向に向かう経路A及び垂直下方に向かう経路Bの何れの経路上のガラスG0に対して接触しないようになっている。また、切替部材14aは、ガラスG0を水平方向に向かう経路Aに切り替える際においては、先端部が斜め下方を向く切替位置まで上側に回動し、先端部が案内装置15の近傍に位置する。この場合、切替部材14aの先端部と案内装置15の先頭のローラ15aとの間は、ガラスG0の移送に支障を来さない(大きく落ち込まない)程度の隙間となるように設定されている。
【0036】
案内装置15は、切替部材14aよりも若干下側の側方に配置され、切替部材14aにて水平方向に向かう経路Aに切り替えられたガラスG0の案内を行う。案内装置15は、複数の搬送ローラ15aを備え、流下してきたガラスG0が切替部材14aにて若干斜めに向けられたのを次第に水平方向に向くように湾曲させつつ、下流側(側方)にある水平引き装置16に向けて案内する。案内装置15は、先頭のローラ15aが垂直下方に向かう経路Bから若干離間する配置となっており、垂直下方に向かう経路BにてガラスG0が流下する際にそのガラスG0と接触しないようになっている。
【0037】
水平引き装置16は、案内装置15の側方(下流側)に設置され、案内装置15にて水平方向に向けて送られてきたガラスG0を同方向に引っ張りつつ下流側に送るように動作する。水平引き装置16は、例えば、駆動ローラ16a及びベルト16bを用いて対で構成され、水平に送られてきたガラスG0の上下両側に配置されガラスG0を両側から挟み込むようにして下流側に送るような動作を行う。
【0038】
この水平引き装置16及び上記の垂直引き装置12は、管状又は棒状をなすガラスG0の径が目標値となるように、コントローラ20にてそのガラスG0の引き速度が制御されている。つまり、水平引き装置16及び垂直引き装置12により、ガラスG0を所望径とする成形が行われている。因みに本実施形態では、水平引き装置16及び垂直引き装置12との引き速度は同じ速度に設定されるが、異なる速度に設定してもよい。
【0039】
切断装置17は、水平引き装置16の側方(下流側)に設置され、成形されて移送されてきたガラスG0を所望長さ毎に切断する。切断装置17は、駆動装置(図示略)にて回動する切断部材17aと受けローラ17bとを備え、切断部材17aの先端部と受けローラ17bとの挟み込みでガラスG0の切断が行われる。これにより、所望径・所望長さのガラス物品G1が次々と作製される。
【0040】
コントローラ20は、垂直引き装置12、粗切装置13、切替装置14、水平引き装置16、切断装置17に対し、ガラス物品G1の製造にかかる各種の駆動制御(詳細は後述)を行っている。また、コントローラ20には、水平引き装置16の直前に設置した感知センサ21からの感知信号や、ガラス物品G1の製造開始を指示する開始スイッチ22及びその製造を停止する停止スイッチ23からの操作信号が入力され、各種の駆動制御に用いられる。
【0041】
次に、コントローラ20の制御に基づく本実施形態のガラス物品の製造装置10の動作を説明し、ダウンドロー法によるガラス物品G1の製造手順を説明する。
図1に示すように、溶解窯11からガラスG0が流下している際に開始スイッチ22が作業者にてオン操作されると、垂直引き装置12及び水平引き装置16の駆動が開始される。この時、切替装置14の切替部材14aは、先端部が下方に向けられた退避位置にある。流下してきたガラスG0は、垂直引き装置12により、設定された引き速度にてガラスG0が縮径且つ伸長されて下流側に送られる。
【0042】
次いで図2(a)に示すように、ガラスG0の先頭が粗切装置13に達すると、粗切部材13aの動作にてガラスG0の先頭部分の複数回の粗切が行われる。粗切が行われたガラスG0の先頭部分はそのまま下方に落下し、ロールクラッシャ18にて粗砕され、回収容器19にて回収される。
【0043】
次いで図2(b)に示すように、所定回の粗切が行われた後は、粗切部材13aが格納されると共に切替装置14の駆動が開始され、切替部材14aの先端部が案内装置15の先頭のローラ15aと並ぶ位置(切替位置)まで切替部材14aが回動する。
【0044】
すると図2(c)に示すように、垂直下方に流下してきた粗切後の先頭のガラスG0が切替部材14aにて斜め下方に向きを変えて案内装置15の先頭のローラ15aに誘導され、水平方向に向かう経路Aの確立が図られる。
【0045】
次いで、ガラスG0は、案内装置15にて更に水平方向に向きを変えられて水平引き装置16の直前の感知センサ21部分に到達すると、水平引き装置16の駆動が開始される。そして、ガラスG0は、設定された引き速度にて水平引き装置16により引っ張られ、その後、切断装置17にて切断されることで、所望径・所望長さのガラス物品G1が得られる。溶解窯11からの連続的なガラスG0の供給に基づき、ガラス物品G1が次々と製造される。
【0046】
また、ガラスG0が水平引き装置16の直前の感知センサ21に到達した旨の信号の入力に基づいて、コントローラ20は、ガラスG0が正常に移送されたとみなして切替装置14を制御し、切替部材14aを図2(d)に示す退避位置まで戻す。
【0047】
この場合、ガラスG0が案内装置15上に載って水平方向に向かう経路Aが一旦確立されると、切替部材14aによる案内が特段必要でなくなる。そのため、その後において、ガラスG0が垂直下方に向かう経路Bに切り替えられた時に即座に対応できるように、垂直下方に向かう経路B上の障害物となり得る切替部材14aが予め退避され、下方を開放状態としておく。また、切替部材14aがガラスG0と摺接する期間を極力短くでき、切替部材14aの長寿命化等に寄与できる上、ガラス物品G1にも傷が付き難くなるため、ガラス物品G1の良品率も向上する。
【0048】
また、本実施形態の製造装置10では、案内装置15以降の水平方向に向かう経路A上の装置において故障修理や定期メンテナンスが生じた場合や、同じく案内装置15以降でガラスG0の移送が正常に行えなくなった場合等、溶解窯11の加熱停止、ガラスG0の流下を停止することなく、それに対処することが可能である。
【0049】
この場合では、ガラス物品G1の製造を中断すべく、先ず図1に示す停止スイッチ23が作業者にてオン操作される。すると、コントローラ20は粗切装置13を駆動し、図3(a)に示すように、粗切部材13aによるガラスG0の切断が行われる。
【0050】
この時、切替部材14aが予め退避位置にあることから、図3(b)に示すように、中断による粗切後の先頭のガラスG0はその切替部材14aに接触することなく(案内装置15に対しても当然ながら接触することもなく)、垂直下方のロールクラッシャ18による粗砕、回収容器19による回収が行われる。製造の中断中においては、ガラスG0の粗砕及び回収が継続される。尚、回収したガラスを再利用すれば極力無駄が生じない上、製造コスト低減に寄与できる。
【0051】
このようにすることで、ガラスG0を案内装置15以降の水平方向に向かう経路A上から排除できるため、案内装置15以降の装置の故障修理や定期メンテナンスが可能であり、また移送が正常に行えなくなったガラスG0の除去が可能である。しかもこの場合、溶解窯11の加熱停止を行わなくて済むため、溶解窯11の加熱状態が維持できる。つまり、復旧に最も時間を要する溶解窯11の再加熱を行わなくて済む。またそれに比べれば効果は小さいが、ガラスG0の流下も停止しなくて済むため、経路A,Bの分岐点までガラスG0が流下しているのが維持される。
【0052】
そして、ガラス物品G1の製造の再稼働時には再び開始スイッチ22がオン操作され、念のために製造開始時と同様に粗切装置13による粗切から始まり、上記と同様の動作が行われる。先に述べたように、製造中断となっても溶解窯11の加熱状態が維持でき、ガラスG0の流下も維持されるため、粗切装置13による粗切及び切替装置14の切り替え動作にて即座にガラス物品G1の製造が可能な状態に切り替えることができ、極めて早い復旧が可能となっている。
【0053】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)粗切装置13と案内装置15との間に切替装置14を設け、粗切装置13と協働した切替装置14の切替動作により、ガラス物品G1の製造を行う経路A(第1経路)と、製造を行わない経路B(第2経路)との何れかにガラスG0の移送経路が切り替えられるようにした。つまり、例えば経路Aにおいて製造装置の故障修理や定期メンテナンス、またガラスG0の移送の不具合が生じた場合等、ガラスG0の移送経路を経路Bに切り替えておけば切替装置14の上流側の稼働を維持可能なため、経路Aが正常となった時にガラスG0の移送経路を再び経路Aに切り替えれば、経路Aでのガラス物品G1の製造を即座に行うことができ、復旧を早期に行うことができる。また、切替装置14を備えることで、作業者の手に頼ることなく半自動又は自動で経路A側にガラスG0の移送が切替可能なため、作業者の手間が省け、また品質や安全性の向上にも貢献できる。
【0054】
(2)案内装置15と切断装置17との間に水平引き装置16が備えられる本実施形態の製造装置10では、水平方向の経路AにおいてのガラスG0の牽引をよりスムーズに行うことができる。
【0055】
(3)切替装置14に備えられる切替部材14aは、退避位置にある時はガラスG0と接触せず、切替位置に移動した時はガラスG0の先端の移送方向を経路Bから経路Aへ切り替えるべく接触する。つまり、切替部材14aは、ガラスG0と接触してガラスG0の移送方向の切り替えを行うと共に、不要時には退避してガラスG0との接触を極力低減する構成である。
【0056】
(4)切替装置14の切替部材14aは、切替位置において、拡開形状をなす凹溝の開口部14xからガラスG0を導入して凹溝の溝方向に沿って移動させてガラスG0の先端を案内装置15側の経路Aに誘導する構成であり、簡素な構成にて実現することができる。また、切替部材14aの開口部14xは拡開形状をなしているため、切替部材14aの凹溝内へのガラスG0の導入をより確実に行うことができる。また、切替部材14aが凹溝形状をなしていることから、ガラスG0の先端の揺動を抑えて目標位置までより確実に誘導することができる。
【0057】
(5)切替装置14の切替部材14aは、粗切装置13がガラスG0の上流側と下流側を切断分離した後、上流側のガラスG0の先端の通過前に切替位置に移動するため(図2(b))、上流側のガラスG0の先端をこの切替部材14aにて案内装置15側の経路Aに確実に誘導することができる。
【0058】
(6)切替装置14の切替部材14aは、ガラスG0の移送を経路Bから経路Aへの切替完了後に退避位置に退避するため(図2(d))、この切替部材14aがガラスG0と摺接する期間を極力短くでき、切替部材14aの長寿命化等に寄与することができる上、ガラス物品G1にも傷が付き難くなるため、良品率も向上することができる。
【0059】
(7)ガラスG0の経路Aへの移送中断時においては、粗切装置13はガラスG0の上流側と下流側を切断分離し、切替部材14aは退避位置での退避状態を維持して上流側のガラスG0の先端を案内装置15に誘導しないため(図3(a))、経路Bへの切り替えをガラスG0の粗切を行うだけで即座に行うことができる。
【0060】
(8)ガラスG0の経路Bから経路Aへの切替完了を感知センサ21を含めてコントローラ20が判定することを受け、切替部材14aが退避動作を行う。これにより、ガラスG0の経路Aへの変更(ガラスG0の経路Aの移送の確立)を確実に行うことができる。
【0061】
(9)ガラスG0の移送経路の上流に溶解窯11が併設される本実施形態の製造装置10では、溶解窯11の加熱停止、再加熱に多大な時間を要することからも実質的に溶解窯11の加熱を停止するのが困難である。そのため、下流側でガラスG0の移送経路を切り替えて上流側(特に溶解窯11)の稼働を維持できる本実施形態の製造装置10に適用する意義は大である。
【0062】
(10)切替装置14の下方、経路Bの下流側には、経路Aに案内できなかったガラスG0を回収又は廃棄するためのロールクラッシャ18や回収容器19といった回収装置が備えられている。そのため、回収装置にて回収したガラスをこの製造装置10やその他のガラス製造にて再利用すれば、ガラスの無駄が生じることを極力抑えることができる上、製造コスト低減に寄与することができる。
【0063】
(11)ガラスG0の移送経路上の垂直方向から水平方向に向きを変える部分を起点部分とし、その起点部分から向きを変えて水平方向に沿った経路Aと、その起点部分からそのまま垂直下方に沿った経路Bとで移送経路を切り替えるべく、その起点部分に切替装置14が設置される。つまり、垂直方向から水平方向に向きを変える起点部分ではガラスG0の移送経路の切り替えを行い易いため、簡素な構成の切替装置14とすることができる。
【0064】
尚、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・凹溝形状の切替部材14aにおいて、開口部14xや溝底部14yの形状を適宜変更してもよい。また、凹溝形状以外で、例えば筒状、板状といった他の形状を採用してもよい。
【0065】
・粗切装置13、切替部材14a、切断装置17を回動動作させる態様としたが、例えばスライド動作等、動作態様を適宜変更してもよい。
・経路AへのガラスG0の移送が確立した後に切替部材14aを退避させたが、退避させずにそのまま切替部材14aの位置を保持させてもよい。この場合、切替部材14aを経路B側に切り替える必要が生じた場合等に退避させる。
【0066】
・経路AへのガラスG0の移送が確立したとみなす旨の判定を感知センサ21を用いて行い、この判定に基づいて切替部材14aを退避させたが、これ以外のセンサを用いてもよく、また作業者の判断で切り替えてもよい。また、例えばガラスG0の先頭部分が案内装置15に差し掛かった場合等、経路AへのガラスG0の移送が確立する若干手前で切替部材14aを退避させてもよい。
【0067】
・上記実施形態では、経路A(第1経路)に切り替える際に切替部材14aを動作させたが、経路B(第2経路)に切り替える際に切替部材を動作させる切替装置の構成としてもよい。また、第1及び第2経路の何れに切り替える際にも切替部材を動作させる切替装置の構成としてもよい。
【0068】
・ガラスG0の移送経路を垂直方向から水平方向に向きを変えるその起点部分に切替装置14(切替部材14a)を設置したが、設置位置はこれに限らず、起点部分よりも上流側、若しくは起点部分よりも下流側に設置する態様としてもよい。この場合、切替装置の構成や分岐経路の構成を適宜変更して対応する。
【0069】
・経路A(第1経路)をガラス物品G1の製造を行う経路とし、経路B(第2経路)をガラス物品G1の製造を行わない経路としたが、第1及び第2経路の両方でガラス物品G1の製造を行う構成としてもよい。その際、移送方向等は適宜変更してもよい。第1及び第2経路の両方でガラス物品G1の製造を行う構成とすれば、一方側の経路で製造を中断する状況となっても、他方側の経路にて即座にガラス物品の製造が行える。
【0070】
・ガラスG0を垂直方向に流下させたが、上部から下方に向けて垂直以外の角度を持たせて流下させる態様としてもよい。また、水平方向についても水平から角度を持たせ斜め方向でガラスG0(ガラス物品G1)を製造する態様としてもよい。
【0071】
・溶解窯11を併設する製造装置10に適用したが、リドロー法のようにガラス素材を再加熱する加熱装置を備える製造装置に適用してもよい。
・その他、ガラス物品の製造装置10(各種装置)の構成を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0072】
G0…ガラス(管状又は棒状ガラス)、G1…ガラス物品、A…経路(第1経路)、B…経路(第2経路)、10…製造装置、11…溶解窯、12…垂直引き装置(縦引き装置)、13…粗切装置、14…切替装置、14a…切替部材、15…案内装置、16…水平引き装置(横引き装置)、17…切断装置、18…ロールクラッシャ(回収装置)、19…回収容器(回収装置)、20…コントローラ(判定手段)、21…感知センサ(判定手段)。
図1
図2
図3