特許第6350197号(P6350197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6350197既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法、および既設鉄骨の補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350197
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法、および既設鉄骨の補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   E04G23/02 FESW
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-209947(P2014-209947)
(22)【出願日】2014年10月14日
(65)【公開番号】特開2016-79609(P2016-79609A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】前澤 将男
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 照卓
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−184898(JP,A)
【文献】 特開2003−096919(JP,A)
【文献】 特開2008−297760(JP,A)
【文献】 特開2002−089052(JP,A)
【文献】 特開2006−200030(JP,A)
【文献】 特開平11−151553(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0228997(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00、23/02
G06F 17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設鉄骨に用いる鋳鋼製又は鋳鉄製の補強部材の製造方法であって、
既設鉄骨において補強する補強部材の必要断面を算定する工程と、
レーザー計測により前記既設鉄骨の形状を求めた既設鉄骨形状データを組み込んだ第1CADデータを作成する工程と、
前記第1CADデータに前記補強部材を組み込んだ第2CADデータを作成し、前記補強部材の形状を決定する工程と、
3次元造型装置を使用し、前記第2CADデータの前記補強部材に基づいて樹脂製の補強部材モデルを造型する工程と、
前記補強部材モデルを型にして鋳型を作成する工程と、
前記鋳型を使用して鋳鋼製又は鋳鉄製の補強部材を製造する工程と、
を有することを特徴とする既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法。
【請求項2】
前記補強部材同士、および前記補強部材と前記既設鉄骨とを摩擦接合により接合するための摩擦接合部材の必要数量を算定するとともに、前記摩擦接合部材の配置を決定する工程を有し、
前記補強部材の前記第2CADデータは、前記摩擦接合部材の条件に合わせて作成されることを特徴とする請求項1に記載の既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法。
【請求項3】
樹脂製の前記補強部材モデルは、前記鋳型によって製造された後に生じる鋳鋼製又は鋳鉄製の前記補強部材の収縮量を見込んだ寸法に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された前記補強部材を用いて既設鉄骨を補強する既設鉄骨の補強方法であって、
製造された前記補強部材を前記既設鉄骨の被補強部位に沿って配置させて補強することを特徴とする既設鉄骨の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法、および既設鉄骨の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば製鉄工場の建屋に設けられる鉄骨は、衝撃荷重や地震荷重により変形が生じる場合や図面通りに取り付いていない場合がある。このような既設鉄骨の変形に対して、一般的には耐熱性の高い鉄板などの鋼材を変形部位に沿って当てがい、溶接によって接合して補強している。ところが、前述のような製鉄工場の建屋においては、変形した補強対象(既設鉄骨)の周囲にはガス配管や電気配線、或いは引火物が設けられており、火気養生や安全対策を厳重に行う必要ある等、火気の使用が制限されている。
そのため、溶接を用いない補強方法として、例えば下記特許文献1に示されるように、被補強対象の変形発生部のうち引張力が作用する部位に剛性を有する樹脂製の炭素繊維シートを接着する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−47446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の既設鉄骨の補強方法では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1に記載されるように炭素繊維シートを補強材として被補強部位に接着する方法の場合には、樹脂製の炭素繊維シートが変形性能を有するので、造形性はあるが、耐熱性が低く、高熱に晒される前述した製鐵所のような使用環境で使用される場合にあっては、十分な機能が発揮できないうえ、耐久性も低くなることから、その点で改善の余地があった。
【0005】
また、上述したように補強鋼材を変形部位に当てがって溶接により補強する場合には、変形部位の形状に対して補強鋼材を溶接により調整することが可能であるため、補強部材に高い精度が要求されることはない。しかし、溶接が使用できない場合であって、補強鋼材の摩擦接合によりボルト等を使用して補強する場合にあっては、変形部位の形状に一致するように補強鋼材を高い精度で加工する必要があった。つまり、複雑かつ不均一に変形した被補強部位に対応する補強鋼材を加工するのが難しく、手間と時間がかかり、造形性という点で欠点があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、耐熱性を有するとともに、溶接を使用することなく、変形した既設鉄骨に一致する補強部材を精度よく、かつ容易に製造することができる既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法、および既設鉄骨の補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法は、既設鉄骨に用いる鋳鋼製又は鋳鉄製の補強部材の製造方法であって、既設鉄骨において補強する補強部材の必要断面を算定する工程と、レーザー計測により前記既設鉄骨の形状を求めた既設鉄骨形状データを組み込んだ第1CADデータを作成する工程と、前記第1CADデータに前記補強部材を組み込んだ第2CADデータを作成し、前記補強部材の形状を決定する工程と、3次元造型装置を使用し、前記第2CADデータの前記補強部材に基づいて樹脂製の補強部材モデルを造型する工程と、前記補強部材モデルを型にして鋳型を作成する工程と、前記鋳型を使用して鋳鋼製又は鋳鉄製の補強部材を製造する工程と、を有することを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る既設鉄骨の補強方法は、上述した製造方法によって製造された前記補強部材を用いて既設鉄骨を補強する既設鉄骨の補強方法であって、製造された前記補強部材を前記既設鉄骨の被補強部位に沿って配置させて補強することを特徴としている。
【0009】
本発明では、レーザー計測により求めた既設鉄骨形状データに基づいて作成した第1CADデータに対して、所望の形状に決定された補強部材を組み込んだ第2CADデータを作成し、その補強部材の第2CADデータを元データとして3次元造型装置により樹脂製の補強部材モデルを容易に造型することができる。そして、造型した補強部材モデルを型にして鋳型を作成し、その作成された鋳型を用いて耐熱性に優れる鋳鋼製又は鋳鉄製の補強部材を製造することができる。
このように、本発明では、既設鉄骨の変形した被補強部位に一致した形状の補強部材を精度よく、かつ容易に製造することができるので、既設鉄骨の変形部位に対して補強部材を摩擦接合により確実な補強を行うことが可能となる。また、既設鉄骨の変形に合わせて加工するといった手間と時間のかかる作業が不要となり、作業効率の向上を図ることができる。すなわち、補強部材を補強部材モデルと一致した形状で高い精度で製造することができるので、例えば既存鉄骨や接合金具等とのボルト穴の位置も精度よく形成することができ、接合手段としてボルト接合が可能となる。そのため、溶接が不要となることから、例えば製鉄工場の建屋などで溶接などの火気の使用が制限される場所でも上述した補強作業を行うことができる。
【0010】
また、本発明に係る既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法は、前記補強部材同士、および前記補強部材と前記既設鉄骨とを摩擦接合により接合するための摩擦接合部材の必要数量を算定するとともに、前記摩擦接合部材の配置を決定する工程を有し、前記補強部材の前記第2CADデータは、前記摩擦接合部材の条件に合わせて作成されることが好ましい。
【0011】
本発明では、第2CADデータに補強部材とともに摩擦接合部材の形状、位置、数量などの情報を組み込んでおくことができるので、摩擦接合部材に対する補強部材の取付け部分の形状を3次元造型装置によって精度よく造型することができる。そのため、鋳型によって製造された補強部材が既設鉄骨の形状に一致する形状に製造され、補強部材と既設鉄骨とを摩擦接合部材を介して容易に接合することができ、溶接が不要な摩擦接合により接合することができる。
【0012】
また、本発明に係る既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法は、樹脂製の前記補強部材モデルは、前記鋳型によって製造された後に生じる鋳鋼製又は鋳鉄製の前記補強部材の収縮量を見込んだ寸法に設定されていることが好ましい。
【0013】
この場合には、3次元造型装置で造型する樹脂製の補強部材モデルの寸法を、製造後の収縮量を見込んで大きく造型されるので、鋳型によって製造された後の鋳鋼製又は鋳鉄製の補強部材の形状が所望の製造寸法に一致した形状となる。そのため、補強部材モデルを使用して作成される鋳型の精度を高めることができ、所望の形状の補強部材を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法、および既設鉄骨の補強方法によれば、耐熱性を有するとともに、溶接を使用することなく、変形した既設鉄骨に一致する補強部材を精度よく、かつ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態による既設鉄骨の補強方法における設計・製作・施工フローを示す図である。
図2】既設鉄骨に補強部材を配置した状態を示す部分斜視図である。
図3図2の補強部材を摩擦接合金物を用いて固定した状態を示す部分斜視図である。
図4】補強部材を組み込んだ第2CADデータを示す斜視図である。
図5】(a)〜(f)は、樹脂製の補強部材モデルを使用して鋳型を作成し、鋳鋼製の補強部材を製造する工程を示す図である。
図6】変形例による既設鉄骨に補強部材を補強した状態を示す部分斜視図である。
図7図6に示すA−A線断面図である。
図8図6に示す補強部材の斜視図であって、本変形例の補強部材の製造方法によって製造された補強部材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態による既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法、および既設鉄骨の補強方法について、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施の形態の既設鉄骨の補強方法は、例えば製鉄工場の建屋内に設置されているブレース材等からなる鉄骨(以下、既設鉄骨1という)の被補強部位に沿って、新たに製造された補強部材2を配置させて補強するための方法である。
【0018】
本実施の形態の既設鉄骨1は、図2に示すように、梁材11、柱材12およびブレース材13からなり、ブレース材13はガセットプレート14を介してボルト15により梁材11および柱材12の角部に接合されている。梁材11および柱材12は、H形鋼であり、ブレース材13はL形鋼、CT形鋼、H形鋼である。なお、本実施の形態では、既設鉄骨1のうちブレース材13およびガセットプレート14が変形部位の対象となっている。
【0019】
補強部材2は、耐熱性の高い鋳鋼製をなし、既設鉄骨1の変形部位(ブレース材13およびガセットプレート14)の形状に合わせて製造された部材が用いられている。補強部材2は、棒状の本体21と、本体21の長さ方向の一端に位置して梁材11又は柱材12のフランジ11a、12aに固定される固定部22と、他端に位置してブレース材13に当接する板状の挟持部23と、を備えている。図3に示すように、本実施の形態の補強方法では、ブレース材13の被補強部位に対して一対の補強部材2,2のそれぞれの挟持部23、23で挟持し、それら挟持部23、23が摩擦接合金物3(摩擦接合部材)によって固定されている。また、補強部材2の固定部22も同様に、摩擦接合金物3によって梁材11又は柱材12のフランジ11a、12aに対して固定されている。
【0020】
摩擦接合金物3は、接合部分を挟持するようにして跨る凹部3aを有し、その接合部分の重なる方向に向けて一対の押えボルト30が螺合可能な雌ねじ孔(不図示)が形成されている。つまり、摩擦接合金物3は、凹部3aを前記接合部分に嵌合させ、押えボルト30を締め付けることで、そのボルト先端で接合部分を押圧する。これにより、接合される部材同士が摩擦接合金物3によって挟持され摩擦接合される。
なお、凹部3aにおける接合部分の重ね合せ方向の寸法は、接合部分の厚さ寸法よりも大きく、接合部分を挿入させた状態で、凹部3aの前記重ね合わせ方向に対向する両内面のうち少なくとも一方の内面と、接合部分と、の間に隙間が形成される寸法に設定されている。
【0021】
前述した補強部材2は、既設鉄骨1の変形部位の形状に合わせて製造されるものであるので、部材ごとに異なる形状となる。一方で、摩擦接合金物3の場合には、補強部材2の形状に関わらず、同形状のものが共通で使用される。
なお、摩擦接合金物3は、既存のものでもよいし、補強部材2の形状に合わせた形状で製造されるものでもよい。
【0022】
図1に示すように、既設鉄骨1の補強方法は、既設鉄骨1において補強する補強部材2の必要断面を算定する第1ステップS1と、既設鉄骨1をレーザーを用いて計測し、既設鉄骨1の形状を求め既設鉄骨形状データD1を作成し、その既設鉄骨形状データD1を組み込んだ第1CADデータを作成する第2ステップS2と、第1CADデータに補強部材2を組み込んだ第2CADデータD2を作成し、補強部材2の形状を決定する第3ステップS3及び第4ステップS4と、3Dプリンタ(3次元造型装置)を使用し、補強部材2の第2CADデータD2に基づいて樹脂製の補強部材モデル2M(図5(a)参照)を造型する第5ステップS5と、補強部材モデル2Mを型にして鋳型4を作成する第6ステップS6と、鋳型4を使用して鋳鋼製の補強部材2を製造する第7ステップS7と、製造された補強部材2を既設鉄骨1の被補強部位に沿って配置させて補強する第8ステップS8と、を有している。
【0023】
第1ステップS1で、補強部材2の必要断面を算定するとともに、摩擦接合金物3の必要個数を算定する。
【0024】
第2ステップS2では、レーザー計測を行うことによりCADデータとしての変形部位を有する補強対象部材(既設鉄骨1)における既設鉄骨形状データD1を求め、既設鉄骨1の形状を把握する。具体的には、図4に示すように、予め用意しておいた工場内の設備を移した写真データD0中に既設鉄骨形状データD1を組み込むことにより、既設鉄骨1の変形部位の形状や位置を確認することができる。
【0025】
第3ステップS3では、求めた既設鉄骨形状データD1に基づいて第1CADデータを作成し、補強部材2の位置や形状を決定するとともに、摩擦接合金物3の配置を決定する(図3参照)。なお、補強部材2の形状等は、摩擦接合金物3の条件に合わせて決定される。
【0026】
次いで、第4ステップS4において、第2ステップS2で求めた既設鉄骨形状データD1を組み込んだ第1CADデータを使用し、この第1CADデータ中に、第3ステップS3で決定された形状の補強部材2および摩擦接合金物3を組み合わせ、図4に示すような第2CADデータD2を作成する。この第2CADデータD2は、後述する3Dプリンタで造型される樹脂製の補強部材モデル2Mの元データとなる。
【0027】
そして、第5ステップS5において、3Dプリンタ(3次元造型装置)に第2CADデータD2を入力して作動させることにより、実際に使用する補強部材2と立体的に略同形状となる樹脂製の補強部材モデル2M(図5(a)参照)を造型する。ここで、3Dプリンタとしては、市販のものを使用することができ、アウトプットされる補強部材モデル2Mは形状のみが得られればよく、着色等はとくに限定されるものではない。
なお、樹脂製の補強部材モデル2Mは、3次元造型装置による造型後に生じる樹脂の収縮量を見込んだ寸法に設定されていることが好ましい。
ここで、本実施の形態では、図2および図3に示すようにブレース材13を挟んだ両側に異なる形状の一対の補強部材2によって補強されるので、第5ステップS5では、これら一対の補強部材2に対応する二種類の樹脂製の補強部材モデル2Mが造型されることになる。
【0028】
次いで、図5(a)〜(c)に示すように、第6ステップS6において、第5ステップS5で造型した補強部材モデル2Mを型とした鋳型4を作成する。このときの鋳型4の作成方法は、一般的な方法による。
すなわち、図5(a)に示すように、補強部材モデル2Mを鋳型用の土に埋設し固化させた後、土(鋳型4)を図中の破線で上下二分割にする。このとき、土には、外部から補強部材モデル2Mに連通する連通孔4aを形成しておく。そして、図5(b)に示すように、上半部分(上型4A)を切り出して、下半部分(下型4B)に埋設されている補強部材モデル2Mを取り出す。その後、図5(c)に示すように、上型4Aを下型4Bに被せた状態に戻して鋳型4が作成される。
【0029】
次に、第7ステップS7において、第6ステップS6で作成した鋳型4を使用し、図5(d)に示すように、鋳型4内に溶融された鋳鋼を連通孔4aから流し込み、図5(e)に示すように鋳型全体を冷却させる。その後、図5(f)に示すように、上型4Aと下型4Bを分割して中から製造された鋳鋼製の補強部材2を取り出す。
【0030】
そして、第8ステップS8において、図3に示すように、鋳型4によって製造した補強部材2を、既設鉄骨1の被補強部位に配置し、補強部材2の固定部22および挟持部23のそれぞれにおいて摩擦接合金物3を用いて接合する。これにより、補強部材2は、ブレース材13の変形部位に挟持部23を一致させた状態でブレース材13、梁材11、および柱材12に対して接合された補強構造を構築することができる。
なお、摩擦接合金物3は、押えボルト30を締め込むことで、接合部分の部材同士(すなわち、補強部材2の挟持部23とブレース材13の接合部分、および固定部22と梁材11、柱材12との接合部分)を接合する。そのため、摩擦接合金物3を用いた摩擦接合では、ブレース材13に作用する外力はボルトを介さずに梁材11および柱材12に伝達させることができる。
【0031】
次に、上述した既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法、および既設鉄骨の補強方法の作用について、図面に基づいて説明する。
本実施の形態では、図1に示すように、レーザー計測により求めた既設鉄骨形状データD1に基づいて作成した第1CADデータに対して、所望の形状に決定された補強部材2を組み込んだ第2CADデータD2を作成し、その補強部材2の第2CADデータD2を元データとして3Dプリンタにより樹脂製の補強部材モデル2M(図5(a)参照)を容易に造型することができる。
【0032】
そして、造型した補強部材モデル2Mを型にして鋳型4を作成し、その作成された鋳型4を用いて耐熱性に優れる鋳鋼製の補強部材2を製造することができる。
このように、本実施の形態では、既設鉄骨1の変形した被補強部位に一致した形状の補強部材2を精度よく、かつ容易に製造することができるので、既設鉄骨1の変形部位に対して補強部材2を摩擦接合により確実な補強を行うことが可能となる。
また、既設鉄骨1の変形に合わせて加工するといった手間と時間のかかる作業が不要となり、作業効率の向上を図ることができる。
【0033】
すなわち、補強部材2を補強部材モデル2Mと一致した形状で高い精度で製造することができるので、例えば既存鉄骨や接合金具等とのボルト穴の位置も精度よく形成することができ、接合手段としてボルト接合が可能となる。そのため、溶接が不要となることから、例えば製鉄工場の建屋などの火気(溶接)の使用が制限される場所でも上述した補強作業を行うことができる。
【0034】
また、本実施の形態では、第1ステップS1や第3ステップS4において、第2CADデータD2に補強部材2とともに摩擦接合金物3の形状、位置、数量などの情報を組み込んでおくことができるので、摩擦接合金物3に対する補強部材2の取付け部分の形状を3Dプリンタによって精度よく造型することができる。
そのため、鋳型4によって製造された補強部材2が既設鉄骨1の形状に一致する形状に製造され、補強部材2と既設鉄骨1とを摩擦接合金物3を介して容易に接合することができ、溶接が不要な摩擦接合により接合することができる。
【0035】
また、本実施の形態では、3Dプリンタで造型する樹脂製の補強部材モデル2Mの寸法を、製造後の収縮量を見込んで大きく造型されるので、鋳型によって製造された後の鋳鋼製又は鋳鉄製の補強部材2の形状が所望の製造寸法に一致した形状となる。そのため、補強部材モデル2Mを使用して作成される鋳型4の精度を高めることができ、所望の形状の補強部材2を製造することができる。
【0036】
上述のように本実施の形態による既設鉄骨1に用いる補強部材2の製造方法、および既設鉄骨1の補強方法では、耐熱性を有するとともに、溶接を使用することなく、変形した既設鉄骨1に一致する補強部材2を精度よく、かつ容易に製造することができる。
【0037】
(変形例)
次に、上述した実施の形態の変形例による既設鉄骨の補強方法について、鉄骨表面に凹凸をもつ部材への応用について、図6図8に基づいて説明する。
図6および図7に示す変形例は、他の補強用の既設鉄骨5の被補強部位に補強部材6を補強した一例を示している。
変形例による既設鉄骨5は、一対のフランジ用の第1プレート51、51と、ウェブ用の第2プレート52と、を使用してH形状に組み付け、各接合部には、L形鋼53を用いてリベット54によって焼締められて接合されている。具体的には、第1プレート51と第2プレート52とが直交する角部のそれぞれに、各プレート51、52の長手方向に沿ってL形鋼53を配置し、リベット54で接合されている。第2プレート52に接合される部分では、リベット54が、第2プレート52とその両側のL形鋼53のL字を構成する一方の板部を貫通させて接合されている。第1プレート51に接合される部分では、リベット54が、第1プレート51とL形鋼53の他方の板部を貫通させて接合されている。
【0038】
補強部材6は、前述の既設鉄骨5の第1プレート51と第2プレート52とによって形成される4箇所の角部5aのそれぞれに合せて配置される形状に製造されている。つまり、補強部材6は、両プレート51、52およびL形鋼53の変形に沿った形状に形成されており、既設鉄骨5のリベット54の頭部54aが係合する貫通穴6aが形成されている。また、補強部材6における既設鉄骨5の幅方向Xの外側には、第2プレート52の面方向に沿って突出する第1突出板61が設けられている。第1突出板61の幅方向Xの外側には、カバープレート62がボルト64により固定されている。つまり、既設鉄骨5は、4つの補強部材6を介して一対のカバープレート62が設けられ、図7に示す断面視で一対のカバープレート62によって既設鉄骨5の幅方向Xの両側の開口が塞がれた補強構造となっている。
さらに、補強部材6は、幅方向Xの内側の端板から上方に延びるとともにボルト穴63aが形成された第2突出板63が設けられ、第2プレート52を挟んで対向する補強部材6の第2突出板63同士がそれぞれのボルト穴63aに挿通されるボルト65によって固定されている。
【0039】
本変形例の場合も、このように構成される既設鉄骨5に対して補強される補強部材6は、上述した本実施の形態の既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法と同様の方法により、3Dプリンタを使用して造型した樹脂製の補強部材モデルを使用して作成した鋳型を使って、既設鉄骨5の変形部位に一致した形状の鋳鋼製の補強部材6を精度よく製造することができる。例えば図8における補強部材6の符号6bは、既設鉄骨5の変形部位に一致して形成された変形部を示している。
また、本変形例の既設鉄骨5のようにリベット54が用いられた構造の場合には、溶接による補強を行うと、リベット54に割れやき裂が生じることから、本変形例のように溶接を用いない補強方法がとくに効果的である。
【0040】
以上、本発明による既設鉄骨に用いる補強部材の製造方法、および既設鉄骨の補強方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0041】
例えば、本実施の形態では、摩擦接合金物3を介して補強部材2と既設鉄骨1とを摩擦接合する構成としているが、摩擦接合金物3を設けることに制限されることはなく、省略することも可能である。また、摩擦接合金物3の形状、大きさ等の構成については、補強部材2の形状、大きさ、既設鉄骨1の被補強部位の形状などに応じて決定することができる。
【0042】
また、本実施の形態では、上述した製造方法によって製造された補強部材を使用して補強する既設鉄骨として、製鉄工場に設けられる鉄骨を一例としているが、適用対象はこれに限定されることはない。例えば、橋梁や送電線の柱などの既設鉄骨を適用対象としても良い。そして、火気の使用が制限される既設鉄骨であることにも限定されるものではない。
【0043】
また、本実施の形態では、鋳鋼製の補強部材2を対象としているが、鋳鉄製の補強部材であってもかまわない。
【0044】
さらに、本実施の形態では、既設鉄骨の変形した被補強部位を対象とし、この被補強部位に一致するように補強部材を製造しているが、これに限らず、例えば錆の発生により膨出した部分に一致するように補強部材を製造してもかまわない。
【0045】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0046】
1、5 既設鉄骨
2、6 補強部材
2M 補強部材モデル
3 摩擦接合金物(摩擦接合部材)
4 鋳型
11 梁材
12 柱材
13 ブレース材
14 ガセットプレート
22 固定部
23 挟持部
D1 既設鉄骨形状データ
D2 第2CADデータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8