特許第6350199号(P6350199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6350199連続鋳造用鋳片支持装置及び鋳片支持方法
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  • 特許6350199-連続鋳造用鋳片支持装置及び鋳片支持方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350199
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳片支持装置及び鋳片支持方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/128 20060101AFI20180625BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B22D11/128 E
   B22D11/128 340F
   B22D11/124 Z
   B22D11/128 340D
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-212490(P2014-212490)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-78084(P2016-78084A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 俊太
(74)【代理人】
【識別番号】100105441
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 久喬
(72)【発明者】
【氏名】小梶 峻介
(72)【発明者】
【氏名】今井 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】関 健
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−328799(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/105670(WO,A1)
【文献】 特開平4−059105(JP,A)
【文献】 特開2013−035025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造中の鋳片に接触する鋳片支持ロールと、当該鋳片支持ロールに反鋳片側で接触するバックアップロールとを有する連続鋳造用鋳片支持装置であって、
鋳片支持ロール回転中心を中心として鋳造中のロール回転方向に角度θを定義し、鋳片支持ロールの鋳片接触位置をθ=0°とし、
前記鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射する流体噴射ノズルを有し、当該流体噴射ノズルからの流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置が、θ=0〜180°の範囲内であり、
前記流体噴射ノズルから噴射する流体のうち、鋳片支持ロール表面に衝突する水の水量密度が、ロール表面の面積当たりで、50L/min・m2以上が可能であることを特徴とする連続鋳造用鋳片支持装置。
【請求項2】
前記鋳片支持ロールは鋳片幅方向に1本ロールであり、前記バックアップロールは鋳片幅方向に1本又は複数本であって前記鋳片支持ロールの鋳片幅方向の一部に配置され、前記流体噴射ノズルから噴射する流体は、少なくとも鋳片幅方向でバックアップロールが配置されている位置において鋳片支持ロールに衝突することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用鋳片支持蔵置。
【請求項3】
連続鋳造中の鋳片に接触する鋳片支持ロールと、当該鋳片支持ロールに反鋳片側で接触するバックアップロールとを有する連続鋳造用鋳片支持装置を用いた鋳片支持方法であって、
鋳片支持ロール回転中心を中心としてロール回転方向に角度θを定義し、鋳片支持ロールの鋳片接触位置をθ=0°とし、
前記鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射し、流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置が、θ=0〜180°の範囲内であり、
前記噴射する流体のうち、鋳片支持ロール表面に衝突する水の水量密度が、ロール表面の面積当たりで、50L/min・m2以上であることを特徴とする連続鋳造用鋳片支持方法。
【請求項4】
前記鋳片支持ロールは鋳片幅方向に1本ロールであり、前記バックアップロールは鋳片幅方向に1本又は複数本であって前記鋳片支持ロールの鋳片幅方向の一部に配置され、前記噴射する流体は、少なくとも鋳片幅方向でバックアップロールが配置されている位置において鋳片支持ロールに衝突することを特徴とする請求項3に記載の連続鋳造用鋳片支持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳片支持ロールとバックアップロールとを有する連続鋳造用鋳片支持装置及び鋳片支持方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼をはじめとする金属の連続鋳造においては、鋳型内に供給された溶融金属の外周に凝固シェルが形成し、鋳型下端から一定速度で引き抜かれ、鋳型の下方においては鋳片の厚み方向両側を鋳片支持ロールに支持されつつ凝固が進行し、凝固が完了して連続鋳造装置から引き出される。
【0003】
未凝固部を有する鋳片が引き抜かれて下方に移動するにつれ、凝固シェルにかかる溶湯静圧が増大するため、凝固シェルを外側に押し広げるバルジングが発生する。バルジング発生を低減するためには、鋳造方向のロールピッチを低減することが有効であり、鋳片支持ロールを小径化してロールピッチ短縮を図っている。一方、鋳片支持ロールを小径化することにより、ロールのたわみ剛性が低下するため、ロール自身が溶湯静圧によって外側にたわむ懸念が生じる。
【0004】
連続鋳造中の凝固末期において、鋳片中心部の未凝固金属の凝固収縮に伴ってクレーターエンド部に吸引され、不純物元素が濃化した溶融金属が集積して中心偏析を形成することがある。凝固末期の鋳片を軽圧下し、未凝固金属の凝固収縮にみあった分だけ鋳片厚みを低減することにより、中心偏析を軽減することが行われている。また、鋳片中心部にはセンターポロシティと呼ばれる空隙が形成される。センターポロシティについても、凝固末期の未凝固部又は完全凝固直後の鋳片を圧下することにより、低減が図られている。鋳片をロールで圧下するに際しては圧下反力によってロールにたわみが生じる。ロールたわみを低減するために大径ロールを用いると、ロールピッチが広がってバルジングの原因となる。そこで、小径分割ロールを用いて鋳片の圧下が行われる。
【0005】
鋳片に接触する鋳片支持ロールに接するように、鋳片支持ロールの反鋳片側にバックアップロールを設けることにより、鋳片からの反力による鋳片支持ロールのたわみを低減することができる。特許文献1〜3には、バックアップロールを有する鋳片支持装置が開示されている。いずれも、鋳片のバルジングを防止するため、鋳片支持ロールを小径化してロールピッチを稠密化する目的で、バックアップロールが用いられている。
【0006】
鋳片支持ロールは回転しながら高温の鋳片に接触するので、大きな入熱を受け、加熱と冷却を繰り返している。通常はロールの中心に冷却水路を設け、冷却水路に冷却水を通すことによってロールの冷却を図っている。特許文献4には、鋳片支持ロールに対してロール冷却専用のミストノズル又はスプレーノズルを設置し、ノズルからロールに水を吹き付ける発明が開示されている。また、特許文献2では、鋳片支持ロール(サポートロール)とバックアップロールとの接点を、サポートロールを冷却する水の水路とする発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−33817号公報
【特許文献2】特開平10−328799号公報
【特許文献3】特開平11−291007号公報
【特許文献4】特開2002−126859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋳片の中心偏析改善やセンターポロシティ改善を目的として鋳片を圧下するロールについて、従来は分割ロールが用いられていた。この場合、分割ロールの軸受が高温にさらされることとなる。また、分割ロールであっても鋳片の圧下に際してロール系全体のたわみが無視できないことがある。これに対し、鋳片支持ロール(1本ロール)の背後にバックアップロールを設置することとすると好ましい。鋳片支持ロールとして小径の1本ロールを用い、その背後にバックアップロールとして分割ロールを配置することとすれば、分割ロールの軸受に対する熱負荷を軽減することができる。また、圧下反力によるロール系全体のたわみを大幅に軽減することができる。
【0009】
以上のように、鋳片支持ロールとバックアップロールとを有する鋳片支持方式は、バルジング軽減のための鋳片支持ロール小径化、鋳片を圧下するロールの最適化のいずれにおいても、有効な手段である。
【0010】
ここで、鋳造中に鋳片支持ロールが鋳片に接しつつ回転している状況において、鋳片支持ロール回転中心を中心としてロール回転方向に角度θを定義する。鋳片支持ロールの鋳片接触位置をθ=0°とおく。
【0011】
鋳片支持ロールは前述のとおり、通常はロールの中心に冷却水路を設け、冷却水路に冷却水を通すことによってロールの冷却を図っている。一定鋳造速度で連続鋳造が行われているとき、ロールも鋳片に接触しつつ一定回転速度で回転している。ロール表面の円周方向温度分布は、鋳片に接している部分が最も高温であり、ロールの回転方向に順次温度が低下する定常温度分布を示す。中心に冷却水路が配置されているため、ロール内部の半径方向温度分布は、中心に近づくほど温度が低下する温度分布となる。ロールの温度分布が定常状態であることから、熱応力によるロール曲りも定常状態であって時間とともにロールのたわみ方向が移動することもない。通常は、前記定義した角度θが概略90°の方向に熱応力起因のロールのたわみ方向が向いている。
【0012】
連続鋳造中、鋳造速度が非定常的に大きく低下することがある。連続鋳造装置がブレークアウト予知装置を有している場合、鋳型内の凝固シェルに拘束起因の破断箇所が生じた際、破断が進行してブレークアウトとなる前にブレークアウト予知信号を発する。このとき、ブレークアウト発生を防止するために鋳造速度を一時的に大幅に低下させ、凝固シェルの破断箇所修復をはかる。また、連続鋳造中に鋳造する品種が変更になる継ぎ目部(異鋼種継ぎ目)や、タンディッシュ交換時において、鋳造速度を低下し、あるいは一時的に鋳造速度をゼロとする場合がある。そしてその後、鋳造速度が定常に戻ってロールの回転速度が定常の回転速度に戻ると、ロールに大きなたわみが発生し、たわみの方向がロールの回転とともに回転する現象が見られる。この現象をここでは"振れ回り"と称する。
【0013】
鋳片支持ロールの背後にバックアップロールを有する鋳片支持装置において、上記のような鋳片支持ロールの"振れ回り"が発生した場合、たわみの方向がロールの回転とともに回転してバックアップロールが接している方向に一致したとき、鋳片支持ロールとバックアップロールとの間に大きな反力が生じ、その反力はそれぞれのロールの胴部及びネック部の曲げモーメントの増大と、それぞれのロールを支持する軸受への負荷増大をもたらす。
【0014】
連続鋳造中の高温の鋳片表面は、酸化反応によってスケールが発生する。成長したスケールが剥離すると鋳片支持ロール表面に付着する。鋳片支持ロール背後にバックアップロールを有する鋳片支持装置においては、鋳片支持ロール表面に付着したスケールがロールの回転とともにバックアップロールとの接触部にかみ込み、それが原因でロール表面の摩耗が促進され、ロール寿命の低減をもたらす。
【0015】
本発明は、鋳片支持ロールとバックアップロールとを有する連続鋳造用鋳片支持装置において、ロールの振れ回りに起因するロールとロール支持装置への負荷を軽減することを第1の目的とする。本発明はまた、鋳片から剥離したスケールに起因するロール摩耗とロール寿命の低減を防止することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)連続鋳造中の鋳片に接触する鋳片支持ロールと、当該鋳片支持ロールに反鋳片側で接触するバックアップロールとを有する連続鋳造用鋳片支持装置であって、
鋳片支持ロール回転中心を中心として鋳造中のロール回転方向に角度θを定義し、鋳片支持ロールの鋳片接触位置をθ=0°とし、
前記鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射する流体噴射ノズルを有し、当該流体噴射ノズルからの流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置が、θ=0〜180°の範囲内であり、前記流体噴射ノズルから噴射する流体のうち、鋳片支持ロール表面に衝突する水の水量密度が、ロール表面の面積当たりで、50L/min・m2以上が可能であることを特徴とする連続鋳造用鋳片支持装置。
(2)前記鋳片支持ロールは鋳片幅方向に1本ロールであり、前記バックアップロールは鋳片幅方向に1本又は複数本であって前記鋳片支持ロールの鋳片幅方向の一部に配置され、前記流体噴射ノズルから噴射する流体は、少なくとも鋳片幅方向でバックアップロールが配置されている位置において鋳片支持ロールに衝突することを特徴とする上記(1)に記載の連続鋳造用鋳片支持蔵置。
(3)連続鋳造中の鋳片に接触する鋳片支持ロールと、当該鋳片支持ロールに反鋳片側で接触するバックアップロールとを有する連続鋳造用鋳片支持装置を用いた鋳片支持方法であって、
鋳片支持ロール回転中心を中心としてロール回転方向に角度θを定義し、鋳片支持ロールの鋳片接触位置をθ=0°とし、
前記鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射し、流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置が、θ=0〜180°の範囲内であり、前記噴射する流体のうち、鋳片支持ロール表面に衝突する水の水量密度が、ロール表面の面積当たりで、50L/min・m2以上であることを特徴とする連続鋳造用鋳片支持方法。
(4)前記鋳片支持ロールは鋳片幅方向に1本ロールであり、前記バックアップロールは鋳片幅方向に1本又は複数本であって前記鋳片支持ロールの鋳片幅方向の一部に配置され、前記噴射する流体は、少なくとも鋳片幅方向でバックアップロールが配置されている位置において鋳片支持ロールに衝突することを特徴とする上記(3)に記載の連続鋳造用鋳片支持方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、連続鋳造中の鋳片に接触する鋳片支持ロールと、当該鋳片支持ロールに反鋳片側で接触するバックアップロールとを有する連続鋳造用鋳片支持装置において、鋳片支持ロール回転中心を中心として鋳造中のロール回転方向に角度θを定義し、鋳片支持ロールの鋳片接触位置をθ=0°とし、前記鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射する流体噴射ノズルを有し、当該流体噴射ノズルからの流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置が、θ=0〜180°の範囲内とすることにより、ロールの振れ回りに起因するロールとロール支持装置への負荷を軽減し、鋳片から剥離したスケールに起因するロール摩耗とロール寿命の低減を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の連続鋳造用鋳片支持装置の一例を示す側面図である。
図2】本発明の連続鋳造用鋳片支持装置の一例を示す正面図であり、(a)はバックアップロールが1本ロールの場合、(b)はバックアップロールが分割ロールの場合である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1、2に基づいて本発明の説明を行う。
【0020】
本発明は、連続鋳造中の鋳片に接触する鋳片支持ロール2と、鋳片支持ロール2に反鋳片側で接触するバックアップロール3とを有する連続鋳造用鋳片支持装置1と、それを用いた鋳片支持方法を対象とする。鋳片支持ロール2の反鋳片側にバックアップロール3を設けることにより、鋳片10からの反力による鋳片支持ロール2のたわみを低減することができる。鋳片支持ロール2は鋳造方向に稠密に配置され、隣接するロール間の隙間が狭いので、バックアップロール3を有するロール対を隣接して複数設置する場合、バックアップロールについても、鋳片支持ロールと同等又はそれ以下の直径のロールを配置することとなる。バックアップロールの幅(軸方向長さ)が小さい場合には、バックアップロールの軸方向配置位置を隣接するロール間で互い違いにすることにより、鋳片支持ロールの直径よりも大きな直径のバックアップロールを配置することも可能である(特許文献3参照)。
【0021】
本発明では前述のとおり、鋳造中に鋳片支持ロール2が鋳片に接しつつ回転している状況において、鋳片支持ロール回転中心を中心として鋳造中のロール回転方向12に角度θを定義する。鋳片支持ロール2の鋳片接触位置14をθ=0°とおく。図1に示すように、水平部のロールであって、鋳造方向11が図の左から右へ流れる図面であれば、鋳片上側の鋳片支持ロール2Lはロールの下側がθ=0°であり、鋳造中にロール回転方向12が反時計回りとなるため、反時計回りにθが増大する。鋳片下側の鋳片支持ロール2Fはロールの上側がθ=0°であり、鋳造中にロール回転方向12が時計回りとなるため、時計回りにθが増大する。換言すれば、θ=0〜180°は鋳片支持ロール2の鋳造方向11下流側に向く面、ということができる。
【0022】
前述のとおり、連続鋳造中、鋳造速度が一度大幅に低下した後に定常に戻る鋳造速度変更(以下「鋳造速度低下回復」という。)があってロールの回転速度が定常の回転速度に戻ると、ロールに大きなたわみが発生し、たわみの方向がロールの回転とともに回転する現象(振れ回り)が発生する。そして本発明は、ロールの振れ回りに起因するロールとロール支持装置への負荷を軽減することを第1の目的とする。
【0023】
連続鋳造中に鋳造速度が低下したとき、さらには鋳造速度がゼロとなったときに高温の鋳片に接触している部分の鋳片支持ロール表面は、定常の回転速度時と比較して温度が上昇する。温度が上昇した結果として熱応力起因のロール曲りも増大する。ロールの周方向のうち、局所的に温度が上昇した方向において熱応力起因のロール曲りも増大している。即ち、ロール回転中心から見たロール曲り方向は、当該温度が上昇した表面の方向に一致する。そしてその後、鋳造速度が定常の速度に上昇すると、長時間鋳片に接して局所的に温度が上昇したロール部分がロールの回転とともに移動する。従って、ロール曲りが増大した方向についても、ロールの回転とともに移動する。この現象が、鋳造速度低下回復時に発生する「振れ回り」の原因であることがわかった。
【0024】
本発明の連続鋳造用鋳片支持装置は、第1の目的を達成するため、鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射する流体噴射ノズル4を有し、流体噴射ノズル4からの流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置(流体衝突位置5)が、θ=0〜180°の範囲内であることを特徴とする。また、連続鋳造用鋳片支持装置を用いた本発明の鋳片支持方法は、鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射し、流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置(流体衝突位置5)が、θ=0〜180°の範囲内であることを特徴とする。図1において、流体噴射ノズル4から噴射された流体は、流体噴射範囲6の範囲内でロールに向かい、鋳片支持ロール2の表面において流体衝突位置5に衝突する。流体衝突位置5の両端について、θの小さい側をθ1、θの大きい側をθ2と記載している。
【0025】
鋳造速度低下回復の際、鋳造速度が低下したときに鋳片に接していた鋳片支持ロール表面の温度が大きく上昇し、鋳造速度回復後に温度上昇部がロールの回転とともに移動する。従来の連続鋳造においては、θ=0〜180°の範囲においてロールに直接流体を噴射して冷却することをしていないので、鋳片支持装置のロールが半回転するまでの間に上昇したロール表面温度が十分に低下せず、ロールが半回転して温度上昇部がバックアップロール側に回ったときにバックアップロールに大きな反力が係ることになる。それに対して本発明では、θ=0〜180°の範囲で鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射するので、流体が衝突した位置のロール表面は急速に冷却され、温度が低下するため、非定常ロール曲りも急速に軽減する。そして、鋳造速度回復後にロールが半回転した時点で、ロール曲りは十分に低減しているので、バックアップロールにかかる反力を確実に低減することができる。
【0026】
流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置(流体衝突位置5)がθ=0〜180°の範囲であれば、即ち角度θ1、θ2がいずれも0〜180°の範囲であれば、この範囲内のいずれの位置で流体が直接ロール表面に衝突しても良い。本発明において好ましくは、θ=10〜90°の範囲で鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射すると良い。θ=10〜45°の範囲で鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射するとより好ましい。
【0027】
上記本発明において、鋳片支持ロールに直接噴射された流体が対象となる。流体噴射ノズルから流体を噴射するに際しても、鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射する流体噴射ノズルが対象となる。たとえば、流体噴射ノズルから鋳片に直接流体が噴射され、鋳片に衝突して跳ね返って鋳片支持ロールに到達する流体は対象から外れる。そして、流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置が、θ=0〜180°の範囲内である。θ=0〜180°の範囲で流体が衝突しさえすれば、それ以外のθ=180〜360°の範囲内にも流体が直接衝突することを妨げず、鋳片に直接衝突する流体が存在することも妨げない。
【0028】
鋳片支持ロールに直接噴射する流体として、水のみを噴射することとしてもよく、あるいは水と空気を噴射して気水噴霧状態で噴射することとしても良い。
【0029】
鋳片支持ロールに噴射する流体の量については、特に限定されないが、流体の量が多くなるほど、ロール冷却効果が増大するため、好適である。本発明において、噴射する流体のうち、鋳片支持ロール表面に衝突する水の水量密度が、ロール表面の面積当たりで、50L/min・m2以上が好ましく、十分にロール曲り低減の効果を発揮することができる。100L/min・m2以上であればより好ましい。
【0030】
鋳片支持ロール表面に衝突する水の水量密度が50L/min・m2以上であれば、ロールの周方向で水が衝突する領域の角度範囲(θ2−θ1=Δθ)にかかわらず、振れ回り対策として本発明の効果が十分に発揮される。但し、実際に使用するノズルとしては、水が衝突する周方向範囲が、角度でΔθ=5°以上のものが多く用いられ、さらには、角度でΔθ=10°以上のものがより多く用いられる。
【0031】
振れ回り対策効果の良好範囲としては、水量で規定することもできる。ロールの幅方向単位長さ当たり単位時間当たり、鋳片支持ロール表面に衝突する水の量が50L/m・min以上であれば、本発明の振れ回り対策効果を達することができる。100L/m・min以上であればより好ましい。
【0032】
本発明は前述のとおり、鋳片支持ロールとバックアップロールとを有する連続鋳造用鋳片支持装置において、鋳片から剥離したスケールに起因するロール摩耗とロール寿命の低減を防止することを第2の目的とする。
【0033】
本発明は上述のとおり、鋳造速度低下回復の際に発生する振れ回り対策として、鋳片支持ロール表面に直接流体を噴射し、流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置が、θ=0〜180°の範囲内である。そして、このような位置において鋳片支持ロール表面に流体を噴射した結果として、鋳片支持ロール表面に付着したスケールを除去できることが判明した。また、鋳片支持ロール表面に衝突する水の水量密度が、ロール表面の面積当たりで、50L/min・m2以上であれば、スケールを除去できることも判明した。鋳片支持ロール表面にスケールが付着するのは、鋳片支持ロールが鋳片に接している部分(θ=0°)である。このあと、θ=0〜180°の範囲で流体を衝突させることによってスケールを除去できれば、スケール付着位置がバックアップロールとの接触位置に到達する前にスケールが除去されるので、鋳片支持ロールとバックアップロールの間の押し圧によってスケールがロールに押し込まれる事態を防ぐことができる。鋳片支持ロール表面に衝突する水の水量密度が100L/min・m2以上であればより好ましい。
【0034】
前記本発明の振れ回り対策効果と同様に、スケール剥離効果についても、ロール表面の面積当たりで、50L/min・m2以上でありさえすれば、ロールの周方向で水が衝突する領域の角度範囲(Δθ)にかかわらず効果は発揮される。
【0035】
鋳片支持ロール背後のバックアップロールは、鋳片支持ロールが小径であっても、鋳片からの反力で鋳片支持ロールがたわむ現象を防止する目的で配置されている。この目的のためには、例えば鋳片支持ロールが1本ロールである場合、鋳片支持ロールの軸方向全長をバックアップロールで押さえる必要はない。鋳片支持ロールの軸方向中央部のみをロール幅(軸方向長さ)の小さいバックアップロールで押さえるだけでも大きな効果を発揮することができる。現実的には、例えば図2(b)に示すように、鋳片支持ロール2を1本ロールとし、バックアップロール3としてロール幅(軸方向長さ)の小さいロールを3本配置することができる。鋳片支持ロールの軸方向(鋳片幅方向)においてバックアップロール3が配置されない部分が形成される。このような場合、本発明では、鋳片支持ロール表面に直接噴射する流体は、少なくとも鋳片幅方向でバックアップロール3が配置されている位置において鋳片支持ロールに衝突することにより、効果を発揮することができる(図2(b))。このような場合、鋳片幅方向において、鋳片支持ロールとバックアップロールが接触する部分については流体の噴射によってスケールが除去されているので、スケールかみ込み防止という本発明の第2の目的は十分に達成している。また、鋳片支持ロールの鋳片幅方向の一部には表面に流体が直接噴射されないが、流体が直接噴射される部分においてロール表面温度が低下するため、第1の目的としての振れ回り防止についても効果が発揮される。
【実施例】
【0036】
垂直曲げ型の鋼スラブ連続鋳造装置において本発明を適用した。鋳造する鋳片の幅は1900mm、厚みは300mmである。図1、2(a)に示すような、バックアップロール付きの鋳片支持装置を水平部に設置した。鋳片支持ロールとバックアップロールの直径は250mm、鋳片支持ロールの鋳片幅方向長さは2000mmである。鋳片支持ロールの回転中心を貫通する穴を有し、この穴の中に冷却水を流すことによってロールの冷却を行っている。
【0037】
図1、2(a)に示すように、流体噴射ノズル4を設置した。噴射する流体は水である。流体噴射ノズル4の設置位置と噴射角度、噴射する水の流量(L/min)を調整することにより、表1に示すように、噴射角度θ範囲(θ1、θ2)と鋳片支持ロール表面に衝突する水の水量密度(L/min・m2)を調整した。
【0038】
鋳造速度低下回復の際に発生する振れ回り発生状況について、数値計算を実施した。鋳造速度変動として、定常鋳造速度1m/minから0.3m/minに鋳造速度を低下し、そのまま鋳片支持ロール2周分経過し、その後、鋳造速度を1m/minに上昇した。鋳片からロールへの熱供給、流体噴射ノズルからの水噴射による冷却、熱応力によるロール変形を数値計算し、バックアップロールにかかる鋳片支持ロールからの負荷を計算した。鋳造速度再上昇からロール1/4周回転後付近において、負荷の最大値が観測された。比較例1の「噴射なし」における負荷の最大値を1と規格化し、各実施例の負荷の大きさを評価し、表1の「バックアップロール負荷比」の欄に記入した。また、鋳造速度再上昇から90°回転させた時点において、鋳片支持ロールのθ=90°部分の表面温度と、θ=270°部分の表面温度の差を「ロール温度偏差」として表1に記載した。
【0039】
実施例1〜9は本発明例であり、流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置が、θ=0〜180°の範囲内にあり、水量密度が50L/min・m2以上である。結果として、実施例1〜9のいずれも、負荷比が0.9以下であってバックアップロールへの負荷の軽減が確実に実現している。比較例2〜4は、流体衝突位置がθ=180〜360°の範囲内にあり、負荷比を軽減することができなかった。比較例11、12は、水量密度が10L/min・m2であって好適範囲よりも少ない水量密度だが、バックアップロールへの負荷の軽減は得ることができた。しかし、後述の通り、スケール圧痕評価結果はいずれも「×」であった。
【0040】
連続鋳造装置において、上記バックアップロールを供える鋳片支持装置を用いて連続鋳造を行い、20チャージの鋳造を経た時点で鋳片支持ロール表面のスケール圧痕発生状況を調査した。スケール圧痕がなければ「○」とし、スケール圧痕があれば「×」とし、表1に記載した。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1〜9は流体が鋳片支持ロール表面に衝突する位置がθ=0〜180°の範囲内にあり、スケール圧痕評価結果はいずれも「○」であった。特に実施例9は、流体衝突位置がθ=90〜91°の1°範囲のみであったが、スケール圧痕評価結果は「○」であった。一方、比較例1〜4は、液体噴射を行わないか、行っても噴射範囲がθ=180〜360°の範囲であり、スケール圧痕評価結果はいずれも「×」であった。比較例11、12は水量密度が10L/min・m2と低く、スケール圧痕評価結果はいずれも「×」であった。
【符号の説明】
【0043】
1 鋳片支持装置
2 鋳片支持ロール
2F 鋳片支持ロール(下側)
2L 鋳片支持ロール(上側)
3 バックアップロール
3F バックアップロール(下側)
3L バックアップロール(上側)
4 流体噴射ノズル
5 流体衝突位置
6 流体噴射範囲
10 鋳片
11 鋳造方向
12 ロール回転方向
13 鋳片幅方向
14 鋳片接触位置
図1
図2