特許第6350265号(P6350265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6350265-ΔΣ変調器およびそのプログラム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6350265
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ΔΣ変調器およびそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   H03M 3/02 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   H03M3/02
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-258601(P2014-258601)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-119587(P2016-119587A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】710014351
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】日月 伸也
【審査官】 北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−523999(JP,A)
【文献】 米国特許第06157331(US,A)
【文献】 米国特許第05742246(US,A)
【文献】 米国特許第05841386(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M IEEE Xplore
3/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
m値(m:3以上の整数)デジタル信号をn値(n:mより小さい2以上の整数)デジタル信号に変換して出力するΔΣ変調器であって、
該m値デジタル信号が減算器に入力されるループフィルタと、
該ループフィルタから出力される第1出力信号を入力されてy値(y:m≧y≧nを満たす2以上の整数)デジタル信号である第2出力信号を出力するy値量子化器と、
該第1出力信号および該第2出力信号が入力されて、該第1出力信号の絶対値が所定値以上の場合に該第1出力信号を該ループフィルタの該減算器に帰還し、該第1出力信号の絶対値が所定値未満の場合に該第2出力信号を該ループフィルタの該減算器に帰還する切換器と、
該切換器が該ループフィルタに帰還する信号を入力信号として該n値デジタル信号を出力するΔΣ変調部と、
を備え、
該切換器の該所定値が、該n値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値よりも大きく設定されている、
ΔΣ変調器。
【請求項2】
前記n=2の場合に、前記ΔΣ変調部が、1次ΔΣ変調の信号処理を行う1次ΔΣ変調部または2次ΔΣ変調の信号処理を行う2次ΔΣ変調部である、
請求項1に記載のΔΣ変調器。
【請求項3】
前記n=y=2の場合に、前記y値量子化器が、出力する2値デジタル信号の信号値を第1の量子化値または第2の量子化値のいずれかに定める入力信号に対する閾値を、ゼロ値に設定されている、
請求項1または2に記載のΔΣ変調器。
【請求項4】
前記n=y=2の場合に、前記y値量子化器の前記第1の量子化値および前記第2の量子化値が、絶対値の等しい正および負の量子化値として設定されている、
請求項1から3のいずれかに記載のΔΣ変調器。
【請求項5】
m値(m:3以上の整数)デジタル信号をn値(n:mより小さい2以上の整数)デジタル信号に変換して出力するΔΣ変調の信号処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
該プログラムは、該コンピュータのプロセッサに、
該m値デジタル信号が減算器に入力されるループフィルタの信号処理を実行させるステップと、
該ループフィルタから出力される第1出力信号を入力されてy値デジタル信号である第2出力信号を出力するy値量子化の信号処理を実行させるステップと、
該第1出力信号および該第2出力信号が入力されて、該第1出力信号の絶対値が所定値以上の場合に該第1出力信号を該ループフィルタの該減算器に帰還し、該第1出力信号の絶対値が所定値未満の場合に該第2出力信号を該ループフィルタの該減算器に帰還する切換処理を実行させるステップと、
該切換器が該ループフィルタに帰還する信号を入力信号として該n値デジタル信号を出力するΔΣ変調処理を実行させるステップと、
を含み、
該切換処理の該所定値が、該n値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値よりも大きく設定されている、
プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ΔΣ変調器およびそのプログラムに関し、特に、m値(m:3以上の整数)デジタル信号をn値(n:mより小さい2以上の整数)デジタル信号に変換して出力するΔΣ変調器およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
PCM(Pulse Code Modulation)音声信号等のマルチビットデジタル音声信号を、1ビットデジタル音声信号または2値デジタル音声信号に変換するのに、ΔΣ変調器が用いられている。ΔΣ変調器は、量子化器をループフィルタの帰還ループ中に設け、高速で標本化した量子化雑音のパワースペクトル密度分布の形状を整形し、通過帯域のダイナミックレンジを向上させることによって、m値デジタル信号をより小さな量子化語長数であるn値デジタル信号に符号化することができる。このようなノイズシェーピングの動作およびサンプリング周波数を十分に高く設定することにより、ΔΣ変調器が出力する出力信号は、少ない量子化値数で広いダイナミックレンジが得られる利点がある。
【0003】
ΔΣ変調器では、量子化器の対応量子化値数に対して入力信号の振幅レベルが大きい場合に、ΔΣ変調の信号処理の動作が不安定になる場合があるという問題がある。例えば、最終段の2値量子化器から2値デジタル音声信号を出力するΔΣ変調器では、動作が不安定になると、0(ゼロ)データを入力する、あるいは、変調器の内部状態を修正するための介入を行う、フィードバックにリミッターを設ける、等の様々な対策が検討されている。
【0004】
例えば、従来には、変調器入力信号の振幅が高次変調器の動作範囲を越える時に高次変調器の次数が一時的に低下され、変調器入力信号の振幅に無関係に変調器が安定化される高次のΔΣ変調器がある(特許文献1)。このΔΣ変調器は、具体的には、積分器段の電圧を監視して検出される入力信号レベルが高次変調器の安定動作範囲を越える場合に、高次変調器の次数を低下させて変調器を、入力信号レベルに無関係に安定な、1次、2次もしくは3次変調器へと一時的に変換させることにより安定度を確保し、第1の積分器段の復帰を回避する。
【0005】
また、従来には、自身の積分出力を1サンプル遅延した信号と下記するフィードバック信号とを加算し、その加算出力をリミッターに入力し、そのリミッターの出力と積分入力を加算することで前記積分出力を得る積分器を複数段直列に結合し、初段の積分器に入力信号を加え、終段の積分器の出力を量子化器に入力し、その量子化器の出力信号を1サンプル遅延するとともに適宜に係数を掛けた信号を各積分器に対するフィードバック信号とすることを特徴とする分散フィードバック式ΔΣ変調器がある(特許文献2)。
【0006】
また、従来には、1ビットで表現されるデジタル信号が所定の信号処理を施されることによって1ビットを越える信号振幅になったデジタル処理済み信号が入力され、入力される上記デジタル処理済み信号に所定のΔΣ変調処理を行なう場合に、出力信号振幅を1ビットで表現されるように処理する発明に関し、上記入力される処理済みデジタル信号の信号振幅を少なくともn値(nは2以上の整数)に量子化可能な量子化振幅値を備える第1の量子化手段を備える2次以上の第1のΔΣ変調手段と、上記第1のΔΣ変調手段から出力される変調信号を上記デジタル信号の信号振幅値と等しい量子化振幅値を備える第2の量子化手段を備える2次以下の第2のΔΣ変調手段とを備えるデジタル信号処理装置がある(特許文献3)。
【0007】
【特許文献1】特許第3142946号公報
【特許文献2】特許第3303585号公報
【特許文献3】特許第4214850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術と共通の問題をより簡易に解決するためになされたものであり、その目的は、出力するn値デジタル信号よりも入力されるm値デジタル信号の量子化値数が大きくて、量子化器に入力される入力信号の振幅レベルが相対的に大きくなる場合にも、ΔΣ変調の信号処理の動作が安定するΔΣ変調器およびそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のΔΣ変調器は、m値(m:3以上の整数)デジタル信号をn値(n:mより小さい2以上の整数)デジタル信号に変換して出力するΔΣ変調器であって、m値デジタル信号が減算器に入力されるループフィルタと、ループフィルタから出力される第1出力信号を入力されてy値(y:m≧y≧nを満たす2以上の整数)デジタル信号である第2出力信号を出力するy値量子化器と、第1出力信号および第2出力信号が入力されて、第1出力信号の絶対値が所定値以上の場合に第1出力信号をループフィルタの減算器に帰還し、第1出力信号の絶対値が所定値未満の場合に第2出力信号をループフィルタの減算器に帰還する切換器と、切換器がループフィルタに帰還する信号を入力信号としてn値デジタル信号を出力するΔΣ変調部と、を備え、切換器の所定値が、n値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値よりも大きく設定されている。
【0010】
好ましくは、本発明のΔΣ変調器は、n=2の場合に、ΔΣ変調部が、1次ΔΣ変調の信号処理を行う1次ΔΣ変調部または2次ΔΣ変調の信号処理を行う2次ΔΣ変調部である。
【0011】
好ましくは、本発明のΔΣ変調器は、n=y=2の場合に、y値量子化器が、出力する2値デジタル信号の信号値を第1の量子化値または第2の量子化値のいずれかに定める入力信号に対する閾値を、ゼロ値に設定されている。
【0012】
また、好ましくは、本発明のΔΣ変調器は、n=y=2の場合に、y値量子化器の第1の量子化値および第2の量子化値が、絶対値の等しい正および負の量子化値として設定されている。
【0013】
また、本発明のプログラムは、m値(m:3以上の整数)デジタル信号をn値(n:mより小さい2以上の整数)デジタル信号に変換して出力するΔΣ変調の信号処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、プログラムは、コンピュータのプロセッサに、m値デジタル信号が減算器に入力されるループフィルタの信号処理を実行させるステップと、ループフィルタから出力される第1出力信号を入力されてy値(y:m≧y≧nを満たす2以上の整数)デジタル信号である第2出力信号を出力するy値量子化の信号処理を実行させるステップと、第1出力信号および第2出力信号が入力されて、第1出力信号の絶対値が所定値以上の場合に第1出力信号をループフィルタの減算器に帰還し、第1出力信号の絶対値が所定値未満の場合に第2出力信号をループフィルタの減算器に帰還する切換処理を実行させるステップと、切換器がループフィルタに帰還する信号を入力信号としてn値デジタル信号を出力するΔΣ変調処理を実行させるステップと、を含み、切換処理の所定値が、n値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値よりも大きく設定されている。
【0014】
以下、本発明の作用について説明する。
【0015】
本発明のΔΣ変調器は、m値(m:3以上の整数)デジタル信号をn値(n:mより小さい2以上の整数)デジタル信号に変換して出力するΔΣ変調器であって、n=2の場合には、2値デジタル信号を出力する1ビットΔΣ変調器を構成する。本発明のΔΣ変調器は、ハードウェアで構成する場合のほかに、コンピュータに信号処理を実行させる複数のステップを含むプログラムを実行させることにより、実現可能である。特に本発明のΔΣ変調器は、構成が簡易になるので、非常に高いサンプリング周波数で動作する2値デジタル信号を出力する1ビットΔΣ変調器を、デジタル信号処理で構成する場合に利点がある。
【0016】
本発明のΔΣ変調器は、m値デジタル信号が減算器に入力されるループフィルタと、ループフィルタから出力される第1出力信号を入力されてy値(y:m≧y≧nを満たす2以上の整数)デジタル信号である第2出力信号を出力するy値量子化器と、第1出力信号および第2出力信号が入力されて、第1出力信号の絶対値が所定値以上の場合に第1出力信号をループフィルタの減算器に帰還し、第1出力信号の絶対値が所定値未満の場合に第2出力信号をループフィルタの減算器に帰還する切換器と、切換器がループフィルタに帰還する信号を入力信号としてn値デジタル信号を出力するΔΣ変調部と、を備える。したがって、このΔΣ変調器では、入力されるm値デジタル信号が、n値デジタル信号に変換されて出力される。
【0017】
ここで、本発明のΔΣ変調器では、切換器の所定値が、y値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値よりも大きく設定されている。したがって、ループフィルタの減算器に帰還信号を帰還する切換器が、ループフィルタから出力される第1出力信号の絶対値が所定値以上の場合に第1出力信号を帰還し、所定値未満の場合にy値デジタル信号であるy値量子化器が出力する第2出力信号を帰還するように選択的に動作する。その結果、ループフィルタから出力される第1出力信号の絶対値レベルに応じて、ΔΣ変調器を構成するループフィルタへの帰還信号のレベルを増大させて安定的にΔΣ変調の信号処理を行うことができ、量子化器に入力される入力信号の振幅レベルが相対的に大きくなる場合にも、変調器の内部状態を修正するための介入を行う必要がなくなり、ΔΣ変調の信号処理の動作を安定させることができる。
【0018】
さらに、本発明のΔΣ変調器は、n=2の場合に、ΔΣ変調部を1次ΔΣ変調の信号処理を行う1次ΔΣ変調部または2次ΔΣ変調の信号処理を行う2次ΔΣ変調部として構成することができる。動作が不安定になることがない1次ΔΣ変調部または2次ΔΣ変調部を用いることで、1ビットΔΣ変調の信号処理の動作を安定させることができる。
【0019】
また、ΔΣ変調器は、n=y=2の場合に、y値量子化器が出力する2値デジタル信号の信号値を第1の量子化値または第2の量子化値のいずれかに定める入力信号に対する閾値を、ゼロ値に設定すればよい。ループフィルタから出力される信号レベルが1ビット以下の場合に、帰還信号を2値デジタル信号である1ビット信号にすることができ、1ビットΔΣ変調の信号処理の動作を安定させることができる。
【0020】
また、ΔΣ変調器は、n=y=2の場合に、y値量子化器の第1の量子化値および第2の量子化値が、絶対値の等しい正および負の量子化値として設定することができる。この場合には、出力される2値デジタル信号への変換における量子化誤差が少なくなる利点がある。
【発明の効果】
【0021】
本発明のΔΣ変調器およびそのプログラムは、出力するn値デジタル信号よりも入力されるm値デジタル信号の量子化値数が大きくて、量子化器に入力される入力信号の振幅レベルが相対的に大きくなる場合にも、ΔΣ変調の信号処理の動作を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の好ましい実施形態によるΔΣ変調器1について説明する図である。(実施例1)
図2】ΔΣ変調器1の量子化器の動作を説明するグラフである。(実施例1)
図3】ΔΣ変調器1の入力信号レベルに対するSNRレベルの特性カーブを説明するグラフである。(実施例1、比較例)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態によるΔΣ変調器およびそのプログラムについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるΔΣ変調器1について説明する図である。具体的には、ΔΣ変調器1は、入力端子2に入力されるデジタル音声信号であるm値(m:3以上の整数)デジタル信号を、n値(n:mより小さい2以上の整数)デジタル信号に変調して出力端子3から出力するΔΣ変調器であり、図1は、その内部構成を示すブロック図である。なお、説明に不要な一部の構成や、内部構造等は、図示ならびに説明を省略する。
【0025】
ΔΣ変調器1は、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)で構成され得る。その場合には、DSPを制御する制御回路としての(図示しない)マイクロコンピュータ(マイコン)が接続され、マイコンがDSPにプログラムをロードさせて実行させるように制御する。したがって、ΔΣ変調器1は、n=2とする場合には、マルチビットのデジタル音声信号を1ビットΔΣ変調して、2値のデジタル音声信号として出力するオーディオ機器に適用し得る。
【0026】
例えば、本実施例のΔΣ変調器1に入力されるm値デジタル音声信号は、同期したステレオ音声信号LおよびRのデータの組である16ビットPCM信号である。ただし、入力されるm値デジタル音声信号は、1チャンネルのモノラル信号であっても、3チャンネル以上のマルチチャンネル信号であってもよい。したがって、図1は、モノラル音声信号であるm値デジタル音声信号に対応する一つのシグナルフローとしてまとめて図示している。
【0027】
ΔΣ変調器1は、ループフィルタ4と、y値量子化器7と、後述する第1出力信号および第2出力信号が入力されて、選択的にそれらのいずれかを出力するセレクタ6と、n値ΔΣ変調部8と、を備える。ΔΣ変調器1の入力端子2に入力されるm値デジタル信号は、後述するループフィルタ4の減算器11に入力される。ループフィルタ4は、第1出力信号をy値量子化器7とセレクタ6とに出力する。y値量子化器7は、y値デジタル信号である第2出力信号をセレクタ6に出力する。セレクタ6は、出力信号をループフィルタ4に帰還するとともに、出力信号をn値ΔΣ変調部8に入力する。n値ΔΣ変調部8は、出力端子3にn値デジタル信号を出力する。
【0028】
ループフィルタ4は、入力端子2に入力されたm値デジタル信号を入力される減算器11と、減算器11の出力信号が入力される加算器12と、加算器12の出力信号が分岐されて入力される遅延器13と、加算器12の出力信号が入力される減算器14と、減算器14の出力信号が入力される加算器15と、加算器15の出力信号が分岐されて入力される遅延器16と、セレクタ6の出力信号を遅延させて、その出力信号を減算器11並びに減算器14に帰還する遅延器17と、を含む。
【0029】
ループフィルタ4の遅延器13、16または17は、入力されるデジタル信号を1サンプル遅延させて出力する遅延器である。ΔΣ変調器1におけるΔΣ変調の信号処理は、入力されるm値デジタル信号のサンプリング周波数よりも高いn値デジタル信号のサンプリング周波数で動作する。
【0030】
ループフィルタ4の減算器11または14は、一方の入力信号に他方の入力信号を位相反転させた負の入力信号を加算する加算器により実現される。具体的には、減算器11は、入力端子2に入力されたm値デジタル信号から遅延器17からの出力信号を減算して加算器12に出力する。また、減算器14は、加算器12の出力信号から遅延器17からの出力信号を減算して加算器15に出力する。
【0031】
加算器12は、減算器11の出力信号と遅延器13の出力信号とを加算して減算器14に出力する。加算器12の出力信号は、分岐されて遅延器13に入力されるので、加算器12および遅延器13は、減算器11の出力信号を積分して減算器14に出力する積分器として機能する。同様に、加算器15は、減算器14の出力信号と遅延器16の出力信号とを加算して出力する。加算器15の出力信号は、分岐されて遅延器16に入力されるので、加算器15および遅延器16は、減算器14の出力信号を積分して出力する積分器として機能する。
【0032】
m値デジタル信号を入力されるループフィルタ4は、加算器15の出力信号をその出力信号である第1出力信号とする。第1出力信号は、y値量子化器7とセレクタ6とが構成するいわば拡張された量子化器に入力され、セレクタ6は、その出力信号をループフィルタ4に帰還する。また、y値量子化器7は、y値デジタル信号である第2出力信号をセレクタ6に出力する。また、n値ΔΣ変調部8は、ループフィルタ4に帰還する信号を入力信号として出力端子3にn値デジタル信号を出力する。したがって、本実施例のループフィルタ4を含むΔΣ変調器1は、n値ΔΣ変調部8への信号出力の段階で、2次ΔΣ変調器を構成する。
【0033】
なお、ループフィルタ4は、n値ΔΣ変調部8への信号出力の段階で1次ΔΣ変調器を構成するように、上記の構成から減算器14と、加算器15と、遅延器16と、を省略してもよい。また、ループフィルタ4は、さらなる減算器および積分器を含む高次ΔΣ変調器を構成するループフィルタであってもよい。したがって、本実施例のΔΣ変調器1のループフィルタ4の詳しい動作の説明は、ここでは省略する。
【0034】
y値量子化器7は、ループフィルタ4から入力される第1出力信号を、y値デジタル信号である第2出力信号に量子化して出力する。y値量子化器7から出力される第2出力信号は、セレクタ6に出力される。したがって、y値量子化器7は、例えばy=2とする場合には、第2出力信号として{0、1}、あるいは、{−1、1}、といった2値の量子化値のいずれかを第1出力信号に応じて出力する。
【0035】
セレクタ6には、第1出力信号および第2出力信号が入力される。セレクタ6は、第1出力信号の絶対値により選択的に第1出力信号または第2出力信号のいずれかを出力し、その出力信号をループフィルタ4の遅延器17に入力する。具体的には、セレクタ6は、第1出力信号の絶対値が所定値以上の場合に第1出力信号をループフィルタ4に帰還し、それ以外の場合、つまり、第1出力信号の絶対値が所定値未満の場合に第2出力信号をループフィルタ4に帰還する。
【0036】
図2はΔΣ変調器1の量子化器の動作を説明するグラフである。具体的には、図2(a)は、y=2とする場合のy値量子化器7の動作を説明するグラフであり、図2(b)は、y値量子化器7およびセレクタ6が、いわば拡張された量子化器として動作する様子を説明するグラフである。図2(a)および(b)の横軸は、ループフィルタ4が出力する第1出力信号のデジタル信号の量子化値である。また、図2(a)の縦軸は、y値量子化器7から出力される第2出力信号の量子化値である。さらに、図2(b)の縦軸は、セレクタ6からループフィルタ4に帰還される信号の量子化値である。以下では、図2を用いて、ΔΣ変調器1のy値量子化器7およびセレクタ6の動作を中心に説明する。
【0037】
図2(a)に示すように、y値量子化器7は、ループフィルタ4から入力される第1出力信号が0以上の正の値の場合に量子化値{1}を第2出力信号として出力し、第1出力信号が0未満の負の値の場合に量子化値{−1}を第2出力信号として出力する。この場合には、y値量子化器7が出力する第2出力信号の量子化値を{−1}または{1}のいずれかに定める入力信号に対する閾値が、入力信号のゼロ値{0}に設定されている。また、y値量子化器7は、{−1、1}という絶対値の等しい正および負の量子化値を含むように、第2出力信号を出力する。
【0038】
また、図2(b)に示すように、セレクタ6は、第1出力信号の絶対値が所定値{2}以上の場合に第1出力信号をループフィルタ4に帰還し、第1出力信号の絶対値が所定値{2}未満の場合に第2出力信号をループフィルタ4に帰還する。つまり、セレクタ6は、第1出力信号の絶対値が所定値{2}未満の場合には、{−1、1}のいずれかの量子化値を含む第2出力信号をループフィルタ4に出力する。一方、セレクタ6は、第1出力信号の絶対値が所定値{2}以上の場合には、第1出力信号をそのままループフィルタ4に出力する。
【0039】
セレクタ6は、ループフィルタ4に出力する入力信号を、第1出力信号を選択するように切り換えるか、第2出力信号を選択するように切り換えるか、を定める第1出力信号の絶対値の所定値を、設定可能である。このセレクタ6の所定値は、出力信号であるn値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値よりも大きく設定されていればよい。図2に示すy=2の場合には、出力信号であるy値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値は{1}であるので、第1出力信号の絶対値の所定値を{2}とする上記の場合は、この条件を満たしている。セレクタ6における所定値は、ループフィルタ4への出力信号であるy値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値が整数で表される場合には、好ましくは本実施例のように、その最大値に{1}を加えた次の量子化値と等しく設定するのがよい。
【0040】
したがって、y値量子化器7およびセレクタ6は、図2(b)に示すような入出力特性を有するいわば拡張された量子化器として動作し、ループフィルタ4にフィードバックする帰還信号を出力する。その結果、y値量子化器7およびセレクタ6は、y値量子化器7に入力される入力信号の振幅レベルが相対的に大きくなる場合に、その絶対値が所定値以上であればy値量子化器7をいわばバイパスした帰還信号をループフィルタ4にフィードバックするように動作する。
【0041】
また、y値量子化器7およびセレクタ6から出力されてループフィルタ4にフィードバックされる帰還信号は、分岐されてn値ΔΣ変調部8に入力される。n値ΔΣ変調部8は、ΔΣ変調の信号処理を行って、n値デジタル信号を出力端子3に出力する。したがって、y値量子化器7およびセレクタ6は、y値量子化器7に入力される入力信号の振幅レベルが相対的に大きくなる場合に、その絶対値が所定値以上であればy値量子化器7をいわばバイパスした信号をn値ΔΣ変調部8に入力するように動作する。
【0042】
つまり、このΔΣ変調器1では、ループフィルタ4から出力される第1出力信号の絶対値レベルに応じて、ΔΣ変調器1を構成するループフィルタ4への帰還信号のレベルを増大させて安定的にΔΣ変調の信号処理を行うことができる。ループフィルタ4の減算器11または14に入力される帰還信号のレベルが増大すれば、ループフィルタ4から出力されてy値量子化器7に入力される第1出力信号の振幅レベルが相対的に小さくなるので、ΔΣ変調の信号処理の動作を安定させることができる。これは、このΔΣ変調器1において、y値量子化器7の量子化誤差がある程度の閾値を超えて大きくなると、自動的にその量子化誤差をゼロにするように制御が働くことに等価だからである。
【0043】
また、このΔΣ変調器1では、ΔΣ変調の信号処理の動作を安定させるのに、結果的にΔΣ変調器1の内部状態を修正するための介入を行う必要がなく、また、フィードバックの経路にリミッターを設ける必要もなくなる利点がある。仮に、ΔΣ変調器1に入力されるm値デジタル信号をあらかじめ減衰させてデジタル信号のヘッドルームを確保する場合にも、減衰量のマージンを最小とすることができる利点がある。
【0044】
また、n値ΔΣ変調部8は、n=2の場合に、1次ΔΣ変調の信号処理を行う1次ΔΣ変調部または2次ΔΣ変調の信号処理を行う2次ΔΣ変調部として構成することができる。動作が不安定になることがない1次ΔΣ変調部または2次ΔΣ変調部を用いることで、1ビットΔΣ変調の信号処理の動作を安定させることができる。また、このΔΣ変調器1では、n値ΔΣ変調部8をn=2と設定して、1ビットΔΣ変調信号を出力するのに、y値量子化器7においてyを3以上に設定し、3値以上のΔΣ変調信号をn値ΔΣ変調部8に入力することもできる。
【0045】
また、このΔΣ変調器1は、n=y=2の場合に、安定的な1ビットΔΣ変調器1を簡易な構成で実現できる利点がある。y値量子化器7は、出力する第2出力信号の量子化値を{−1}または{1}のいずれかに定める入力信号に対する閾値を、入力信号のゼロ値{0}に設定されていればよい。また、y値量子化器7が{−1、1}という絶対値の等しい正および負の量子化値を含むように、第2出力信号を出力するので、出力される2値デジタル信号への変換における量子化誤差が少なくなる利点がある。
【0046】
図3は、ΔΣ変調器1の入力信号レベルに対するSNRレベルの特性カーブを説明するグラフである。横軸は、入力端子2に入力されるm値デジタル信号の正弦波信号入力の振幅レベルを示し、振幅レベルのフルスケールを0dBFSとしている。縦軸は、ΔΣ変調器の変換の精度に関してよく用いられる指標である正弦波信号入力に対する信号対雑音比:SNR(Signal -to-Noise Ratio)レベルである。SNRレベルは、出力されるn値デジタル信号の信号レベルが雑音レベルよりも実質的に遙かに大きく、広いダイナミックレンジを有している状態であることを示すように大きな値をとることが好ましい。また、SNRレベルは、入力信号レベルに対して大きく変化しないことが好ましく、動作が不安定的なΔΣ変調の信号処理では、入力されるm値デジタル信号の信号レベルが大きくなると、急激にSNRレベルが低下することになる。
【0047】
図3の(a)に示す曲線は、本実施例の1ビットΔΣ変調器1のSNRレベルの特性カーブを示す。ただし、ΔΣ変調器1のループフィルタ4は、(図示しない)8次のCRFB(Cascade of Resonators with distributed Feedback:分布帰還を有する共振器の縦続構造)を採用する場合であり、m=2^16、n=y=2である。また、図3の(b)に示す曲線は、本実施例の他の1ビットΔΣ変調器1のSNRレベルの特性カーブを示し、図3の(a)場合との相違点は、y値量子化器7における設定値yをy=4と設定して、第2出力信号として4値の量子化値のいずれかを第1出力信号に応じて出力するように設定されている点である。また、図3の(c)に示す曲線は、比較例の(図示しない)ΔΣ変調器10のSNRレベルの特性カーブを示す。
【0048】
比較例の(図示しない)ΔΣ変調器10は、本実施例のΔΣ変調器1においてセレクタ6を含まないように構成する従来の1ビットΔΣ変調器であって、y値量子化器7から出力される第2出力信号を、そのままループフィルタ4に帰還する場合に等価である。したがって、比較例のΔΣ変調器10については、図示並びに説明を省略する。
【0049】
図3の(c)に示すように、比較例のΔΣ変調器10では、入力されるm値デジタル信号の正弦波信号入力の振幅レベルが−6dBFSを超える程度に大きくなると、急激にSNRレベルが低下し、SNRとして0dBに到達することがわかる。これは、ΔΣ変調器10の動作が不安定になり、適切なΔΣ変調信号としての1ビットデジタル信号が出力端子3から出力されない状態になることを意味している。
【0050】
一方で、図3の(a)または(b)に示すように、本実施例のΔΣ変調器1では、入力されるm値デジタル信号の正弦波信号入力の振幅レベルが−6dBFSを超える程度に大きくなると、急激にSNRレベルが低下するのは同様であるが、さらに入力の振幅レベルが大きくなったとしても、SNRとして0dBに到達することがない。これは、本実施例のΔΣ変調器1が絶対安定に動作することになり、従来礼に比較して、適切なΔΣ変調信号としての1ビットデジタル信号が出力端子3から出力される状態になることを意味している。
【0051】
このように本実施例のΔΣ変調器1では、従来技術に比べて、y値量子化器7に入力される入力信号の振幅レベルが相対的に大きくなる場合にも、ΔΣ変調の信号処理の動作を安定させることができる。つまり、ループフィルタ4から出力される第1出力信号の絶対値レベルに応じて、ΔΣ変調器を構成するループフィルタ4への帰還信号のレベルを増大させて安定的にΔΣ変調の信号処理を行うことができる。その結果、y値量子化器7に入力される入力信号の振幅レベルが相対的に大きくなる場合にも、変調器の内部状態を修正するための介入を行う必要がなくなり、ΔΣ変調の信号処理の動作を安定させることができる。
【0052】
なお、上記の説明では、m=2^16、n=y=2またはn=2、y=4の場合を取り上げているが、入力端子2に入力されるデジタル音声信号の量子化値の数を意味するm値は、m≧y≧nの関係を満たす3以上の整数であればよく、また、出力端子3に出力されるデジタル音声信号の量子化値の数を意味するn値は、mより小さい2以上の整数であればよい。例えば、ΔΣ変調器1は、{−1、0、1}、といった3値の量子化値のいずれかを第1出力信号に応じて出力する3値ΔΣ変調器として構成することができる。
【0053】
本実施例のΔΣ変調器1では、少なくとも、セレクタ6において設定される所定値が、n値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値よりも大きく設定されていればよい。その結果、ループフィルタ4の減算器に帰還信号を帰還するセレクタ6が、ループフィルタ4から出力される第1出力信号の絶対値が所定値以上の場合に第1出力信号を帰還し、所定値未満の場合にn値デジタル信号であるn値量子化器が出力する第2出力信号を帰還するように選択的に動作することができるので、ΔΣ変調の信号処理の動作を安定させることができる。
【0054】
また、上記の説明では、セレクタ6において設定される所定値を、第1出力信号の絶対値(例えば、{2})としているが、ループフィルタ4に出力する入力信号を、第1出力信号を選択するように切り換えるか、第2出力信号を選択するように切り換えるか、を定める第1出力信号の所定値を、第1出力信号が正の値の場合と負の値の場合とで、異なる絶対値の値に設定してもよい。つまり、セレクタ6は、ループフィルタ4から出力される第1出力信号の絶対値がある程度小さい場合に、n値デジタル信号であるn値量子化器が出力する第2出力信号を帰還するように選択的に動作すればよいのであって、セレクタ6において正の第1所定値および負の第2所定値を別々に設定してもよい。この場合には、セレクタ6は、第1出力信号が、正の第1所定値以上の場合または負の第2所定値以下の場合に、第1出力信号をループフィルタ4の減算器に帰還し、正の第1所定値未満でかつ負の第2所定値より大きい場合に、第2出力信号をループフィルタ4の減算器に帰還すればよい。
【0055】
また、上記実施例では、ΔΣ変調器1をデジタルシグナルプロセッサ(DSP)で構成しているが、もちろん、ΔΣ変調の信号処理を実現するΔΣ変調器1は、音声信号を取り扱う演算能力を有する他の(図示しない)プロセッサのみで構成してもよい。その場合にも、コンピュータのプロセッサには、以下に説明するプログラムがロードされて実行される。したがって、以下では、上述の図1図3の図示における図番を共通に用いて説明し、ΔΣ変調の信号処理のプログラムのフローチャートは省略する。
【0056】
このΔΣ変調の信号処理のプログラムは、プロセッサに、m値デジタル信号が減算器に入力されるループフィルタ4の信号処理を実行させるステップS1と、ループフィルタ4から出力される第1出力信号を入力されてy値デジタル信号である第2出力信号を出力するy値量子化器7によるn値量子化の信号処理を実行させるステップS2と、第1出力信号および第2出力信号が入力されて、第1出力信号の絶対値が所定値以上の場合に第1出力信号をループフィルタ4の減算器に帰還し、第1出力信号の絶対値が所定値未満の場合に第2出力信号をループフィルタ4の減算器に帰還するセレクタ6による切換処理を実行させるステップS3と、セレクタ6がループフィルタ4に帰還する信号を入力信号としてn値ΔΣ変調部8によるn値デジタル信号を出力するΔΣ変調処理を実行させるステップS4と、を実行させる。
【0057】
このステップS3において、セレクタ6による切換処理の所定値は、y値デジタル信号が取り得る量子化値の絶対値の最大値よりも大きく設定される。したがって、ΔΣ変調の信号処理のプログラムは、プロセッサに入力されるm値デジタル信号をy値デジタル信号に変換して出力することができる。また、ループフィルタ4から出力される第1出力信号の絶対値レベルに応じて、ΔΣ変調器1を構成するループフィルタ4への帰還信号のレベルを増大させて安定的にΔΣ変調の信号処理を行うことができる。
【0058】
もちろん、プロセッサは、n=y=2の場合に、安定的な1ビットΔΣ変調器1を簡易な構成で実現できる。y値量子化器7は、出力する第2出力信号の量子化値を{−1}または{1}のいずれかに定める入力信号に対する閾値を、入力信号のゼロ値{0}に設定されていればよい。また、y値量子化器7が{−1、1}という絶対値の等しい正および負の量子化値を含むように、設定されていればよい。出力される2値デジタル信号への変換における量子化誤差が少なくなる利点がある。
【0059】
なお、このΔΣ変調の信号処理のプログラムは、コンピュータのプロセッサに限らず、デジタル音声信号を取り扱うことが出来るプロセッサを搭載する電子機器で実行可能である。例えば、携帯電話、スマートフォン、等の音声信号専用のプロセッサを備えていないものであっても、CPUにおいてデジタル音声信号の演算能力をそなえていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のΔΣ変調器およびそのプログラムは、ステレオ音声信号を再生するステレオ装置のみならず、マルチチャンネルサラウンド音声再生装置を含む音響再生システム、あるいは、持ち運びが可能なポータブル機器、スマートフォンなどの電子機器にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 ΔΣ変調器
2 入力端子
3 出力端子
4 ループフィルタ
6 セレクタ
7 y値量子化器
8 n値ΔΣ変調部
11、14 減算器
12、15 加算器
13、16、17 遅延器
図1
図2
図3