(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図2は、非鉄金属プロセスラインの張力制御装置をループカーに適用した構成例を示す図である。1は金属材料(鉄および非鉄金属)からなるストリップ、2、3はブライドルロール、4はループカーである。ループカー4はモータ5により駆動される。6はストリップ1の張力を測定する張力検出器である。
【0003】
ストリップ1に与えられる目標張力T
AIMは、張力・トルク変換回路7で目標トルクQ
AIMに変換される。目標トルクQ
AIMに、メカロストルクQ
Lと加減速トルクQ
Fが加算されて、トルク基準Q
REFとして、トルク制御回路8へ導入される。トルク制御回路8は、トルク基準Q
REFに基づいて電力変換器(図示せず)を介してモータ5のトルクを制御する。
【0004】
目標張力T
AIMと、張力検出器6により検出された実張力T
FBKとの張力偏差ΔTは、増幅器11に導入され、比例・積分計算を行って補正信号を出力し、張力偏差ΔTが零となるように制御される。
【0005】
尚、出願人は、本発明に関連するものとして、特許文献1を認識している。特許文献1は、フィードフォワード補償を要しない張力制御装置を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したメカロストルクQ
Lは、ループカー4とモータ5の摩擦などの機械損トルクであり、速度基準SP
REF毎に関数テーブルに保存されている。また、上述した加減速トルクQ
Fは、加減速時に必要なトルクであり、ループカー4とモータ5の慣性モーメント(機械慣性モーメント)の和Jに基づいて算出される。上述の張力制御装置では、メカロストルクQ
Lや、慣性モーメントJは、定数として記憶されている。そのため、当初は現物に合っていても、機械の経時変化(すなわち、機械摩耗などによるメカロスの増加や、ロール摩耗による慣性の減少)が進むと、メカロストルク補償量や加減速トルク補償量が実際に必要な適正値に対して、徐々に乖離が大きくなる。その結果、補償不足あるいは過補償となり、その分が目標張力T
AIMとの差となって、張力制御精度を悪化させる要因となっていた。
【0008】
上述のように、張力偏差ΔTは、増幅器11に導入され、比例・積分計算を行って補正信号を出力し、ΔTが零となるように制御されるが、フィードバック制御系のため遅れが生じるため十分とはいえない。
【0009】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、張力制御に用いられるメカロストルクや加減速トルクの経時変化による誤差拡大を低減し、張力制御精度の悪化を低減できる学習型張力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記の目的を達成するため、材を搬送するロールと、前記ロールを駆動するモータとを備えるプロセスラインに用いられる学習型張力制御装置であって、
前記材の実張力を検出する張力検出器と、
速度基準に応じたメカロストルクを出力するメカロス補償回路と、
前記ロールおよび前記モータの慣性モーメントと、前記速度基準とに基づいて加減速トルクを出力する加減速補償回路と、
目標張力と前記実張力との張力偏差が零になるように前記目標張力を補正した補正後目標張力を目標トルクに変換し、前記目標トルクを、前記メカロス補償回路から出力されたメカロストルクおよび前記加減速補償回路から出力された加減速トルクで補正したトルク基準に基づいて、前記モータを制御する制御回路と、
前記張力偏差を前記ロールの実半径で除算してトルク偏差に変換する変換回路と、
前記ロールが一定速度である場合に、前記トルク偏差をメカロストルク誤差とみなして、前記メカロス補償回路に記憶された前記速度基準に応じたメカロストルクを前記メカロストルク誤差に基づいて更新するメカロストルク更新回路と、
前記ロールが加速または減速している場合に、前記トルク偏差と前記速度基準から慣性モーメント誤差を計算する計算回路と、
前記加減速補償回路に記憶された前記慣性モーメントを前記慣性モーメント誤差に基づいて更新する慣性モーメント更新回路と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る学習型張力制御装置によれば、プロセスラインにおいて、機械の経時変化によって機械データが変わる場合であっても、目標張力と実張力との張力偏差に基づいて、速度基準に応じたメカロストルクや、慣性モーメントを更新することができる。そのため、この発明によれば、張力制御に用いられるメカロストルクや加減速トルクの経時変化による誤差拡大を低減し、張力制御精度の悪化を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
図1は、本発明の実施の形態1に係るシステム構成を説明するための構成図である。
図1に示すシステムは、プロセスラインおよびその張力制御装置を備える。プロセスラインは、材であるストリップ1を搬送する複数のロールを備える。ストリップ1は、金属材料(鉄および非鉄金属)である。
図1には、複数のロールとして、ブライドルロール2、3、ループカー4が描かれている。ループカー4は、ギアボックス(図示省略)を介してモータ5に接続されている。モータ5は、ループカー4を回転駆動する。
【0014】
張力制御装置は、ストリップ1の実張力(張力の実績値)を検出する張力検出器6、ループカー4のロール半径(実半径)を検出する検出器17を備える。また、張力制御装置は、基本的な制御回路を備える。制御回路は、目標張力T
AIMと実張力T
FBKとの張力偏差ΔTが零になるように目標張力T
AIMを補正した補正後目標張力を目標トルクQ
AIMに変換し、目標トルクQ
AIMを、メカロス補償回路9から出力されたメカロストルクQ
Lおよび加減速補償回路10から出力された加減速トルクQ
Fで補正したトルク基準Q
REFに基づいて、モータ5を制御する。
【0015】
上述した制御回路の具体的構成について説明する。目標張力T
AIMは、ストリップ1に与える張力の目標値である。目標張力T
AIMは、張力・トルク変換回路7で目標トルクQ
AIMに変換される。目標トルクQ
AIMに、メカロストルクQ
Lと、加減速トルクQ
Fが加算され、トルク基準Q
REFとして、トルク制御回路8へ導入される。トルク制御回路8は、トルク基準Q
REFに基づいて電力変換器(図示せず)を介してモータ5のトルクを制御する。
【0016】
また、目標張力T
AIMと、張力検出器6により検出された実張力T
FBKとの張力偏差ΔTは、増幅器11に導入され、比例・積分計算を行って補正信号を出力し、張力偏差ΔTが零となるようにフィードバック制御される。
【0017】
ここで、メカロストルクQ
Lは、ループカー4とモータ5の摩擦などの機械損トルクである。メカロス補償回路9は、速度基準SP
REF毎にメカロストルクQ
Lを定めた関数テーブルを記憶している。メカロス補償回路9は、関数テーブルから、速度基準SP
REFに対応するメカロストルクQ
Lを出力する。
【0018】
また、加減速トルクQ
Fは、加減速時に必要なトルクであり、ループカー4とモータ5の慣性モーメントの和Jと、速度基準SP
REFを微分した加速度とを乗算することで(1)式より求められ、加減速補償回路10から出力される。
【0020】
メカロス補償回路9に予め記憶されたメカロストルクQ
Lや、加減速補償回路10に予め記憶された慣性モーメントJは、当初は現物に合っていても、機械の経時変化(すなわち機械摩耗(ベアリングやギアボックスの摩耗を含む)などによるメカロスの増加やロール摩耗による慣性の減少)が進むと、メカロストルク補償量や加減速トルク補償量が実際に必要な適正値に対して、徐々に乖離が大きくなる。その結果、補償不足あるいは過補償となり、その分が目標張力T
AIMとの差となって、張力制御精度を悪化させる要因となる。
【0021】
そこで、本発明の実施の形態1に係る張力制御装置では、機械の経時変化に応じて、メカロストルク補償、加減速補償を更新する学習機能を備えることとした。以下、本発明の実施の形態1に係る学習型の張力制御装置の主な特徴について説明する。
【0022】
張力制御装置は、張力偏差ΔTをトルク偏差ΔQに変換する張力・トルク変換回路12を備える。具体的には、トルク偏差ΔQは、張力偏差ΔTをループカー4のロール半径(実半径)で除算して算出される。実半径は、検出器17により検出される。
【0023】
張力制御装置は、トルク偏差ΔQが検出された時の速度基準SP
REFから、トルク偏差ΔQがメカロストルク誤差ΔQ
Lおよび加減速トルク誤差ΔQ
Fのいずれであるかを判断して振り分ける判断回路13を備える。
【0024】
メカロストルク誤差ΔQ
Lの同定方法について説明する。ループカー4が一定速度で運転しているときは、加減速補償回路10の出力は零(dSP
REF/dt=0)であり、張力偏差ΔTを変換したトルク偏差ΔQを、メカロストルク誤差ΔQ
Lとみなすことができる。よって、判断回路13は、トルク偏差ΔQをその速度基準SP
REFにおけるメカロストルク誤差ΔQ
Lと判断する。その後、メカロストルク更新回路15は、ループカー4のロールが一定速度である場合に、メカロス補償回路9が有する関数テーブルに記憶された速度基準SP
REFに応じたメカロストルクQ
Lを、メカロストルク誤差ΔQ
Lに基づいて更新する。例えば、メカロストルクQ
Lにメカロストルク誤差ΔQ
Lを加算又は減算した値Q
L’で更新する。
【0025】
次に、加減速トルク誤差ΔQ
Fの同定方法と、慣性モーメントJの計算方法について説明する。ループカー4が定速運転から加速あるいは減速に転じたときには、張力偏差ΔTを変換したトルク偏差ΔQを、加減速トルク誤差ΔQ
Fとみなすことができる。よって、判断回路13は、トルク偏差ΔQを加減速トルク誤差ΔQ
Fと判断する。J計算回路14は、ループカー4のロールが加速または減速している場合に、トルク偏差ΔQと、その時の速度基準SP
REFを用いた式(2)により慣性モーメント誤差ΔJを算出する。
【数2】
【0026】
慣性モーメント更新回路16は、加減速補償回路10に記憶された慣性モーメントJを慣性モーメント誤差ΔJに基づいて更新する。例えば、慣性モーメントJに慣性モーメント誤差ΔJを加算又は減算した値J’で更新する。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係る張力制御装置によれば、機械の経時変化により機械データが変化した場合であっても、目標張力T
AIMと実張力T
FBKとの張力偏差ΔTに基づいて、速度基準SP
REFに応じたメカロストルクQ
Lや、慣性モーメントJを更新することができる。そのため、張力制御に用いられるメカロストルクや加減速トルクの経時変化による誤差拡大を低減し、張力制御精度の悪化を低減できる。
【0028】
(変形例)
ところで、上述した実施の形態1のシステムにおいて、メカロストルク更新回路15、および慣性モーメント更新回路16におけるデータ更新方法は、上述した方法に限定されるものではない。例えば、過去データを保存しておき、新データと過去データの平均値を用いて更新してもよい。また、通過したコイル数の平均値に基づいて更新してもよい。また、次の関係式、新データ=旧データ(Q
L又はJ)×(1−α)+測定データ(Q
L’又はJ’)×αを用いて更新してもよい。なお、αは重みであり、予め設定されているものとする。
【0029】
また、上述した実施の形態1のシステムにおいて、材はストリップ1としたが、材は金属材料に限定されるものではない。材は紙であってもよい。即ち、本発明は抄紙機における張力制御装置にも適用可能である。
【0030】
また、上述した実施の形態1のシステムにおいて、ロールはループカー4のロールとしたが、ループカー4のロールに限定されるものではない。モータにより駆動されるロールであればよい。
【0031】
尚、上述した実施の形態1においては、ループカー4のロールがこの発明における「ロール」に、上述した基本的な制御回路がこの発明における「制御回路」に、「張力・トルク変換回路12」この発明における「変換回路」に、J計算回路14がこの発明における「計算回路」に、それぞれ相当している。