特許第6350768号(P6350768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6350768-プレコート金属板 図000006
  • 特許6350768-プレコート金属板 図000007
  • 特許6350768-プレコート金属板 図000008
  • 特許6350768-プレコート金属板 図000009
  • 特許6350768-プレコート金属板 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6350768
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】プレコート金属板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20180625BHJP
   B32B 15/095 20060101ALI20180625BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20180625BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20180625BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20180625BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20180625BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20180625BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B32B15/08 G
   B32B15/095
   C09D201/00
   C09D175/04
   C09D7/61
   C09D5/00 D
   C23C28/00 A
   C23C2/06
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-564747(P2017-564747)
(86)(22)【出願日】2017年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2017035572
【審査請求日】2017年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-193436(P2016-193436)
(32)【優先日】2016年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】古川 博康
(72)【発明者】
【氏名】高橋 通泰
(72)【発明者】
【氏名】井上 郁也
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−111785(JP,A)
【文献】 特許第5857156(JP,B2)
【文献】 特開2015−116734(JP,A)
【文献】 特開2009−235340(JP,A)
【文献】 特開2005−186288(JP,A)
【文献】 特開2003−013263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
C09D 1/00− 10/00,
101/00−201/10
C23C 2/00− 2/40,
24/00− 30/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき金属板と、
前記めっき金属板の表面に形成されたプライマー層と、
前記プライマー層の表面に形成された上層皮膜と、
を有し、
前記プライマー層が、バインダー樹脂と、バナジウム化合物及びマグネシウム化合物を含む顔料粒子とを含み、
前記バナジウム化合物が、バナジン酸カルシウム、バナジン酸マグネシウム及びメタバナジン酸アンモニウムからなる群から選択される1種以上であり、
前記マグネシウム化合物が、バナジン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上であり、
前記プライマー層の膜厚方向の断面の、前記めっき金属板と前記プライマー層との界面から前記膜厚方向に1.0μm以内の領域を、EPMAマッピングにより観察したとき、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満である領域が前記膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在せず、かつ、マグネシウム元素の検出濃度が3.0%未満である領域が前記膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在しない、
ことを特徴とするプレコート金属板。
【請求項2】
前記プライマー層の膜厚が3〜15μmであり、
前記顔料粒子の前記膜厚方向の最大長径が、前記プライマー層の膜厚の80%以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項3】
前記バインダー樹脂がイソシアネート樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のプレコート金属板。
【請求項4】
前記顔料粒子の含有量が、前記プライマー層の全固形分質量に対して、15〜70質量%である、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプレコート金属板。
【請求項5】
前記めっき金属板と前記プライマー層との間に、更に化成処理皮膜を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のプレコート金属板。
【請求項6】
前記めっき金属板がZn−Al−Mgめっき鋼板であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のプレコート金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート金属板に関する。
本願は、2016年09月30日に、日本に出願された特願2016−193436号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用などに、従来の成形加工後に塗装されていたポスト塗装製品に代わって、着色した有機皮膜を被覆したプレコート金属板が使用されるようになってきた。このプレコート金属板は、防錆処理を施した鋼板やめっき鋼板に着色した有機皮膜を被覆したもので、美麗な外観を有しながら、十分な加工性を有し、耐食性が良好であるという特性を有している。
【0003】
重塩害地仕様のエアコン室外機や住設機器にプレコート金属板を適用する場合、耐食性に加えて高度の耐薬品性(耐酸性および耐アルカリ性)が要求される。近年、耐酸性及び耐アルカリ性として要求される水準が高度化しており、従来のプレコート金属板では、高度化する要求を満足できなくなっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、プレコート塗装金属板の端面や傷つき面及び加工部での耐食性に優れた塗膜を形成できるクロムフリー系下塗り塗料組成物が記載されている。特許文献1には、この下塗り塗料組成物が種々の非クロム系防錆顔料を含むことが記載されている。
特許文献1では、この下塗り塗料組成物が塗装金属板の耐食性の向上に有用であることは記載されているものの、耐薬品性については何ら考慮されていない。
【0005】
特許文献2には、塗装金属板の平面部の耐食性のみならず、加工部や端面部の耐食性に優れた硬化塗膜を有する塗装金属板が記載されている。また、硬化塗膜を形成する塗料組成物には、非クロム系塗料組成物の成分として、種々の防錆顔料混合物を含むことが記載されている。
特許文献2では、この塗料組成物が、加工部や端面部の耐食性に優れた塗膜を形成できることは記載されているが、耐薬品性については何ら考慮されていない。
【0006】
特許文献3には、塗装金属板等の加工部や端面部の耐食性に優れた硬化塗膜を有する、アルミニウムを主成分とするめっき鋼板が記載されている。また、この硬化塗膜を形成する塗料組成物には、防錆顔料として、バナジウム化合物、マグネシウムを含有するリン酸系金属塩、マグネシウムイオン交換シリカ防錆顔料混合物を含むことが記載されている。
特許文献3では、この塗料組成物に基づく硬化塗膜が形成された塗装金属板が耐食性に優れることは記載されているものの、耐薬品性については何ら考慮されていない。
【0007】
特許文献4には、優れた耐食性及び耐湿性を有し、短期耐食性試験において塗膜形成対象物に腐食を生じさせにくい塗料組成物を用いて形成された塗膜を有する塗装鋼板が記載されている。また、塗料組成物として、バナジウム化合物と防錆促進剤が記載されている。しかしながら、特許文献4では、耐薬品性については何ら考慮されていない。
【0008】
上述したように、特許文献1〜4に記載されている塗料組成物は、いずれも耐食性塗膜を形成することを目的とするものであって、耐薬品性の向上を目的とするものではない。
本発明者らの検討の結果、塗膜が防錆顔料を含んでいたとしても、それだけでは重塩害地仕様のエアコン室外機や住設機器に適用されるプレコート金属板に要求される高度の耐薬品性(耐酸性および耐アルカリ性)を満足できないことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特開2012−012497号公報
【特許文献2】日本国特開2012−131907号公報
【特許文献3】国際公開第2012/086494号
【特許文献4】日本国特開2013−67699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、重塩害地仕様のエアコン室外機や住設機器に使用されることが想定されるプレコート金属板には、高度の耐薬品性が求められている。しかしながら、従来のプレコート金属板、プレコート金属板用塗料は、耐食性の向上を目的とし、耐薬品性に関しては検討されていなかった。
本発明は上記の課題に鑑みてなされた。本発明の目的は、耐食性に加えて高度の耐薬品性を備えたプレコート金属板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記のような目的を達成するため鋭意研究を行った。
高度な耐薬品性として、例えば、耐酸性として5%硫酸に120時間浸漬しても異常がないこと、及び耐アルカリ性として5%水酸化ナトリウム水溶液に120時間浸漬しても異常がないこと、という条件を満足することが求められる場合がある。しかしながら、本発明者らが、従来の一般的な塗料を塗装したプレコート鋼板を用いて、上記の耐薬品性試験を行った結果、耐酸性試験では約50時間、耐アルカリ試験では約24時間を超えた時点で塗膜に膨れが発生し、要求を満足できなかった。
そのため、本発明者らは、その原因を調査するため、耐酸性および耐アルカリ性試験における、最も初期段階の膨れ部分の断面顕微鏡観察を実施した。その結果、プレコート金属板を、酸、アルカリのいずれに浸漬した場合も、塗膜とめっきとの界面に小さな隙間が生じているだけで、めっき自体に腐食は見られなかった。すなわち塗膜膨れの起点は、薬品が塗膜を透過してめっき表面(めっき金属板が有するめっき層の表面)に到達し、めっきの最表層が溶解して生じた微細な隙間であると考えられる。このことから、耐薬品性を向上させるには、薬品が塗膜を透過しにくい構造とすること、塗膜とめっき表層との密着性を向上させて薬品が浸入する隙間を生じさせないようにすること、およびめっき表面が薬品により溶解しにくいようにバリア層を形成させることが、効果的であることが示唆された。
本発明は、以上の知見をもとに完成されたものであって、具体的には、以下の通りである。
【0012】
(1)本発明の一態様に係るプレコート金属板は、めっき金属板と、前記めっき金属板の表面に形成されたプライマー層と、前記プライマー層の表面に形成された上層皮膜と、を有し、前記プライマー層が、バインダー樹脂と、バナジウム化合物及びマグネシウム化合物を含む顔料粒子とを含み、前記バナジウム化合物が、バナジン酸カルシウム、バナジン酸マグネシウム及びメタバナジン酸アンモニウムからなる群から選択される1種以上であり、前記マグネシウム化合物が、バナジン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上であり、前記プライマー層の膜厚方向の断面の、前記めっき金属板と前記プライマー層との界面から前記膜厚方向に1.0μm以内の領域を、EPMAマッピングにより観察したとき、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満である領域が前記膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在せず、かつ、マグネシウム元素の検出濃度が3.0%未満である領域が前記膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在しない。
(2)上記(1)に記載のプレコート金属板は、前記プライマー層の膜厚が3〜15μmであり、前記顔料粒子の前記膜厚方向の最大長径が、前記プライマー層の膜厚の80%以下であってもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載のプレコート金属板は、前記バインダー樹脂がイソシアネート樹脂を含んでもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のプレコート金属板は、前記顔料粒子の含有量が、前記プライマー層の全固形分質量に対して、15〜70質量%であってもよい
)上記(1)〜()のいずれか一項に記載のプレコート金属板は、前記めっき金属板と前記プライマー層との間に、更に化成処理皮膜を有してもよい。
)上記(1)〜()のいずれか一項に記載のプレコート金属板は、前記めっき金属板がZn−Al−Mgめっき鋼板であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記態様によれば、プライマー層中のバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の分布が層内下部に密に存在するようにコントロールされているので、プライマー層の下部に、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物の濃度が薄い部分が形成されない、優れた耐食性及び高度の耐薬品性を備えるプレコート金属板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のプレコート金属板の断面を表す写真である。
図2A】本発明のプレコート金属板のプライマー層断面内のバナジウム化合物(V)の分布を示すEPMAマッピング写真(倍率6000倍)の一例である。
図2B】本発明のプレコート金属板のプライマー層断面内のマグネシウム化合物(Mg)の分布を示すEPMAマッピング写真(倍率6000倍)の一例である。
図3A図2AのEPMAマッピング写真(倍率6000倍)をトレースした図である。
図3B図2BのEPMAマッピング写真(倍率6000倍)をトレースした図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るプレコート金属板(以下本実施形態に係るプレコート金属板と言う場合がある)について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係るプレコート金属板は、めっき金属板と、前記めっき金属板の表面に形成されたプライマー層と、前記プライマー層の表面上に形成された上層皮膜と、を有する。
前記プライマー層は、バインダー樹脂と、バナジウム化合物及びマグネシウム化合物を含む顔料粒子とを含む。
また、前記プライマー層では、膜厚方向の断面の、前記めっき金属板と前記プライマー層との界面から前記膜厚方向に1.0μm以内の領域を、EPMAマッピングにより観察したとき、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満である領域が前記膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在せず、かつ、マグネシウム元素の検出濃度が3.0%未満である領域が前記膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在しない。
本実施形態に係るプレコート金属板は、用途に応じ、金属板の両面が上述の塗膜で被覆されていても、片面のみが被覆されていてもよく、また、表面の一部が被覆されていても、全面が被覆されていてもよい。金属板の塗膜で被覆された部位において耐薬品性、耐食性が優れる。上述の皮膜を片面にのみ形成する場合、反対側の面には、最低限の耐食性と意匠性とを付与するため、公知の皮膜を形成してもよい。
【0017】
<めっき金属板>
本実施形態に係るプレコート金属板(塗装金属板)に用いるめっき金属板は、表面にめっき層を有する金属板である。金属板の構成金属としては、特に限定しないが、例えば、アルミニウム、チタン、亜鉛、銅、ニッケル、そして鋼等が適用可能である。鋼を使用する場合には、普通鋼であっても、クロム等の添加元素を含有する鋼であってもよく、特に限定されない。
また、金属板の表面に形成されるめっき層の種類も、特に限定されない。
適用可能なめっき層としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケルのうちのいずれか1種からなるめっき、および、これらの金属元素にさらに他の金属元素、非金属元素を含む合金めっき等が挙げられる。特に、亜鉛系めっき層としては、例えば、亜鉛からなるめっき、亜鉛と、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケル、鉄、クロム、チタン、マグネシウム、マンガンの少なくとも1種との合金めっき、または、さらに他の金属元素、非金属元素を含む種々の亜鉛系合金めっき(例えば、亜鉛と、アルミニウム、マグネシウム、シリコンの4元合金めっき)が挙げられる。
【0018】
アルミニウム系めっき層としては、アルミニウムからなるめっき、またはアルミニウムとシリコン、亜鉛、マグネシウムの少なくとも1種との合金めっき(例えば、アルミニウムとシリコンとの合金めっき、アルミニウムと亜鉛との合金めっき、アルミニウム、シリコン、マグネシウムの3元合金めっき)等が挙げられる。
【0019】
亜鉛系合金めっき層またはアルミニウム系めっき層を有するめっき金属板としては、具体的には、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)やZn−Al−Mgめっき鋼板が挙げられる。Zn−Al−Mgめっき鋼板を原板に用いると、溶融亜鉛めっき鋼板よりも優れた耐食性が得られるので、好ましい。Zn−Al−Mgめっきは、各成分の割合によって、Zn−6%Al−3%Mg、Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Si、微量のNiを含有するもの等が種々存在するが、Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Siの成分比率のZn−Al−Mgめっき鋼板が特に好ましい。
【0020】
これらのめっき金属板を脱脂及び洗浄し、クロメート処理、燐酸塩処理、或いは非クロメート処理などの通常の表面処理を施した後、表面にプライマー層を形成することができる。好ましい表面処理は、燐酸塩処理、非クロメート処理である。
【0021】
<プライマー層>
めっき金属板の表面に形成されるプライマー層は、バインダー樹脂と、バナジウム化合物及びマグネシウム化合物を含む顔料粒子とを含む。
また、本実施形態に係るプレコート金属板のプライマー層では、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物が、プライマー層の下側の領域(めっき金属板とプライマー層との界面から膜厚方向に1.0μm以内の領域)において、後述するように、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満である領域が前記膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在せず、かつ、マグネシウム元素の検出濃度が3.0%未満である領域が膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在しないように分布していることが必要である。
【0022】
上述のように分布する限り、これらの化合物を添加する形態は特に限定されない。すなわち、プライマー層を形成する塗布液中へのバナジウム化合物およびマグネシウム化合物を添加する形態は、液体、固体のいずれでもよい。しかしながら、固体形状、特に粒子形状で添加することが好ましい。その理由は、これらの化合物を液体として添加した場合、塗膜の乾燥過程で溶剤が揮発し化合物が析出することにより固体化し、結果として化合物が塗膜中で微細かつ均一な状態で存在する傾向があり、プライマー層の下側の領域でバナジウム化合物、マグネシウム化合物の濃度を高くするにはより多くの化合物を添加する必要が生じる場合があるためである。より具体的には、プライマー層を形成する塗布液中へバナジウム化合物およびマグネシウム化合物を含有する顔料粒子を添加することが好ましい。
【0023】
酸またはアルカリ成分を含む水は、プライマー層の表面に形成された上層皮膜、及びプライマー層を透過して、めっき表面に到達し、めっき表面を溶解させる。
プライマー層中のバナジウム化合物は、浸入した酸あるいはアルカリ成分を含む水に対して溶解し、その際、バナジン酸イオンが放出される。このバナジン酸イオンは、めっき表面の金属と反応して塩を生成する。この塩は、めっきとプライマー層との界面に緻密なバリア層を形成することで、浸入した薬品がめっき表面を浸食するのを抑制する。そのため、プライマー層の下側の領域にバナジウム化合物が密に存在することで、めっき表面に到達した酸またはアルカリによりめっきが溶解したごく初期段階から、速やかに高濃度のバナジン酸イオンがめっき表面に供給され、緻密なバリア層を形成することができる。
【0024】
バナジウム化合物としては、例えばバナジン酸カルシウム、バナジン酸マグネシウム、メタバナジン酸アンモニウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸アンモニウム、バナジン酸リン等の各種バナジン酸塩、及び酸化バナジウム等の顔料の粒子を用いることができる。五酸化バナジウムは有毒性のため使用しないことが好ましい。これらの化合物は、単独で含まれてもよく、複数が含まれてもよい。
これらのバナジウム化合物の中では、防錆顔料として適度な溶解性を有することで耐食性と耐水性とのバランスが良好であるという理由から、バナジン酸カルシウム、バナジン酸マグネシウム、及び/またはメタバナジン酸アンモニウムが特に好ましい。
【0025】
プライマー層中のバナジウム化合物の含有量は、プライマー層の全固形分質量に対して、3〜50質量%であることが好ましい。この含有量が3質量%未満であると、プライマー層の膜厚方向断面の下側表面(めっき金属板とプライマー層との界面)から膜厚方向に1.0μm以内の領域に、バナジウム元素を十分に密に存在させることができず、耐食性や耐薬品性が低下することが懸念されるので好ましくない。
一方、プライマー層の全固形分質量に対するバナジウム化合物の含有量が50質量%を超えると、耐食性や耐薬品性向上の効果が飽和して経済的でないだけでなく、顔料の合計含有量の上昇を招き、加工性が低下する場合があるので好ましくない。耐食性及び耐薬品性を向上させた上で、プレコート金属板として求められる加工性を確保する観点から、バナジウム化合物の含有量は、プライマー層の全固形分質量に対して、4〜50質量%がより好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。
【0026】
プライマー層中のマグネシウム化合物は、浸入した酸あるいはアルカリ成分を含む水に対して溶解し、その際、マグネシウムイオンが放出される。このマグネシウムイオンは、めっき表面と反応して塩を生成する。また、アルカリ環境下では、水酸化マグネシウムも同時に形成する。これらの塩および/または水酸化マグネシウムは、めっき−プライマー層界面に緻密なバリア層を形成することで、浸入した薬品がめっき表面を浸食するのを抑制する。
【0027】
マグネシウム化合物としては、バナジン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸系マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、ギ酸マグネシウム等の各種マグネシウム塩、およびマグネシウムイオン交換シリカ等の顔料の粒子を用いることができる。これらの化合物は、単独で含まれてもよく、複数が含まれてもよい。
これらのマグネシウム化合物の中では、防錆顔料として適度な溶解性を有することで耐食性と耐水性とのバランスが良好であるとの理由から、バナジン酸マグネシウム、酸化マグネシウムが特に好ましい。
【0028】
プライマー層中のマグネシウム化合物の量は、プライマー層の全固形分質量に対して、3〜50質量%であることが好ましい。プライマー層の全固形分質量に対するマグネシウム化合物の含有量が3質量%未満であると、プライマー層の断面の下側表面(めっき金属板とプライマー層との界面)から膜厚方向に1.0μm以内の領域にマグネシウム元素を十分に密に存在させることができず、耐食性や耐薬品性が低下することが懸念されるので好ましくない。
一方、プライマー層の全固形分質量に対するマグネシウム化合物の含有量が50質量%を超えると、耐食性や耐薬品性向上の効果が飽和して経済的でないだけでなく、顔料の合計含有量の上昇を招き、加工性が低下する場合があるので好ましくない。耐食性及び耐薬品性を向上させた上で、求められる加工性を確保する点から、マグネシウム化合物の含有量は、4〜50質量%がより好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。
【0029】
バナジウム化合物およびマグネシウム化合物は、いずれも平均粒径が1.0μm以下であると、十分に微細な状態で存在することになる。この場合、塗布液中で均一に分散したバナジウム化合物およびマグネシウム化合物を、塗布、加熱乾燥工程でプライマー層中でめっき金属板との界面の方向に移動させて、めっき表面に隣接する位置に密に存在させるために有利である。そのため、プライマー層中のバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の平均粒径がそれぞれ、1.0μm以下の範囲にあることが好ましい。
プライマー層中での平均粒径を1.0μm以下とする場合、塗布液中に添加する顔料粒子の平均粒径も1.0μm以下とすることが好ましい。
【0030】
添加する顔料粒子の平均粒径を0.5μm未満とすると、顔料の分級に時間がかかり、コスト高となるため好ましくない。そのため、プライマー層中に含まれるバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の平均粒径を0.5μm以上としてもよい。
【0031】
プライマー層に含有されるバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の平均粒径を測定する方法は以下の通りである。
対象とするプレコート金属板を適当な大きさに切断して板厚方向断面が見えるように樹脂に埋め込みし、断面を研磨し、その後、断面(研磨面)のプライマー層のEPMAマッピング分析を倍率6000倍で行う(加速電圧15kV)。検出対象元素としてVおよびMgを選択し、各元素の存在位置および元素濃度のマッピング撮影を行う。次に、同一サンプルの同じ位置を、倍率6000倍でSEM画像撮影し、先のEPMAマッピング画像と照合することにより、SEM画像上でのバナジウム化合物およびマグネシウム化合物を全て特定する。SEM画像上で金属板の平面方向に20μmを測定範囲とし、範囲内のプライマー層に存在する全てのバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の粒径(真円でない場合は最も長い径:長径)を測定する。そして、バナジウム化合物、マグネシウム化合物のそれぞれについて平均粒径を算出し、これらをプライマー層に含有されるバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の平均粒径とする。
複数個のバナジウム化合物およびマグネシウム化合物が凝集している場合は、凝集した化合物を1個とみなして粒径(長径)を測定する。
【0032】
本実施形態に係るプレコート金属板のプライマー層では、バナジウム化合物とマグネシウム化合物とを同時に含有することが重要である。
バナジウム化合物とマグネシウム化合物とを同時に含有すると、バナジウム化合物から放出されたバナジン酸イオンがめっき表面の金属と反応して塩を形成してめっき表面に吸着する一方、マグネシウム化合物から放出されたマグネシウムイオンがめっき表面で水酸化マグネシウムを形成し、めっき表面のバナジウム塩の被覆が十分でない部分を埋めるかたちでバリア性をより強固にする。その結果、特にAl含有めっきで劣るとされる耐アルカリ性を飛躍的に向上させることができる。この効果は、バナジウム化合物、マグネシウム化合物がそれぞれ単独で存在する場合に得られる効果を足し合わせたよりも大きい。すなわち、バナジウム化合物とマグネシウム化合物とを同時に含有することで相乗効果が得られ、非常に優れた耐薬品性、特に非常に優れた耐アルカリ性を得ることができる。
【0033】
前述したように、本実施形態に係るプレコート金属板においては、プライマー層内のめっき金属板に近い領域に、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物が集中的に分布し、それぞれが一定以上の濃度となっていることが重要である。即ち、プライマー層内で、プライマー層の膜厚方向断面の下側表面(めっき金属板とプライマー層との界面)から膜厚方向に1.0μm以内の領域を、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)マッピングにより観察したとき、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満である領域が膜厚方向と垂直な方向(平面方向)に2.0μm以上連続して存在せず、かつ、マグネシウム元素の検出濃度が3.0%未満の領域が膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在しない。
【0034】
バナジウム化合物およびマグネシウム化合物はプライマー層内では、粒子として存在しており、これらの化合物が疎な部分では各元素濃度が低く、十分な耐食性及び耐薬品性が得られない。バナジウム元素の濃度(EPMAマッピングよって得られる検出濃度)が0.6%未満、またはマグネシウム元素の濃度(検出濃度)が3.0%未満の領域では、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物から放出されるバナジン酸イオン及びマグネシウムイオンの濃度が、耐薬品性及び耐食性を確保するには不十分となる。
つまり、プライマー層の下側表面から膜厚方向に1.0μm以内の領域を、EPMAマッピングにより観察したとき、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満の領域またはマグネシウム元素の検出濃度3.0%未満の領域が、平面方向(膜厚方向と垂直な(直交する)方向)に2.0μm以上連続して存在する場合、その部分はバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の存在が疎な部分であり、バナジン酸イオンまたはマグネシウムイオンが十分にめっき表面に供給されないので、十分な耐食性及び耐薬品性が得られない。そのため、本実施形態に係るプレコート金属板のプライマー層では、プライマー層の下側表面から膜厚方向に1.0μm以内の領域において、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満の領域、マグネシウム元素の検出濃度3.0%未満の領域のいずれも、平面方向(膜厚方向と垂直な方向)に2.0μm以上連続して存在しないように制御されている。
【0035】
EPMAマッピングによりバナジウム元素およびマグネシウム元素濃度を測定する方法は以下のとおりである。
対象とするプレコート金属板を適当な大きさに切断して板厚方向断面が見えるように樹脂に埋め込み、断面を研磨し、その後、断面のプライマー層のEPMAマッピング分析を、プライマー層の膜厚方向と直交する方向に20μm以上の範囲に対して、倍率6000倍で行う(加速電圧15kV)。検出対象元素としてVおよびMgを選択し、各元素の存在位置および元素濃度のマッピングを行う。
本実施形態に係るプレコート金属板のプライマー層断面内のバナジウム化合物の分布およびマグネシウム化合物の分布をそれぞれ示すEPMAマッピング写真(倍率6000倍)の一例を図2A図2Bに、これらをトレースした図を、図3A図3Bに示す。図2A図2Bでは、マッピングの色で示された濃度とともに、平面方向に2.0μm以下の間隔で、詳細に測定した検出濃度を併記している。図2A図2Bに示すように、本実施形態に係るプレコート金属板のプライマー層では、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満の領域も、マグネシウム元素の検出濃度3.0%未満の領域も、いずれも平面方向(膜厚方向と直角方向)に2.0μm以上連続して存在していない。
【0036】
プライマー層の断面の下側表面から1.0μm以内の領域にバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の微細な粒子が集中的に分布していることにより、各イオンの発生源となるバナジウム化合物およびマグネシウム化合物がめっき近傍に密に存在することになる。この場合、これらの化合物から放出されたバナジン酸イオン及びマグネシウムイオンはいずれも速やかにめっき表面に到達することができる。これにより、薬品が浸入した際に、めっき表面が浸入した薬品で侵される前に、めっき表面に緻密なバリア層を迅速に形成して、浸入した薬品がめっき表面を浸食するのを抑制することができる。この結果、プレコート金属板に非常に優れた耐薬品性を付与することができる。プライマー層の上部領域に存在するバナジウム化合物やマグネシウム化合物も酸またはアルカリ成分を含む水に対して溶解し、バナジン酸イオン、マグネシウムイオンを放出する。しかしながら、めっき表面からの距離が遠い場合、放出されたバナジン酸イオン、マグネシウムイオンはほとんどがプライマー層中に拡散し、めっき表面に到達する濃度はごく小さくなるので、耐薬品性向上への寄与はごく小さいと考えられる。
【0037】
プライマー層の断面の下側表面から1.0μm以内の領域に、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物の微細な粒子を集中的に分布させることにより、耐薬品性の向上に加えて、耐食性もさらに向上する。このことは、後で説明する実施例の結果によって実証されている。この理由は、明らかではないが、上層皮膜およびプライマー層に傷が付き、めっき表面が傷つけられた場合であっても、プライマー層の断面の下側表面から1.0μm以内の領域に、集中して存在するバナジウム化合物およびマグネシウム化合物から放出されたバナジン酸イオンとマグネシウムイオンとが、直ちに傷つけられためっき表面を覆うことによるためであると考えられる。
【0038】
本実施形態に係るプレコート金属板のプライマー層では、上述したバナジウム化合物及びマグネシウム化合物以外の防錆顔料を含んでもよい。例えば、トリポリリン酸アルミニウム、カルシウムイオン交換シリカ、シリカ等の防錆顔料を挙げることができる。また必要に応じて、沈降性硫酸バリウム、クレー等の体質顔料や、酸化チタン等の着色顔料をさらに含有してもよい。
【0039】
顔料粒子(バナジウム化合物である顔料粒子、マグネシウム化合物である顔料粒子、及びそれ以外の顔料粒子)の合計含有量は、プライマー層の全固形分質量に対して、15〜70質量%であることが好ましい。含有量が15質量%未満であると、塗膜の剛性と凝集力とが低下することにより、鋼板のプレス加工の際に塗膜表面が金型と擦れた時に塗膜剥離が発生(塗膜齧り)しやすくなるため、好ましくない。また、合計含有量が70質量%を超えると、加工性が低下するので、好ましくない。耐食性、耐薬品性および加工性のバランスの観点から、20〜50質量%がより好ましい。
【0040】
プライマー層中の顔料粒子の大きさは、全顔料粒子の膜厚方向の長径の最大がプライマー層の膜厚の80%以下となることが好ましい。薬品は顔料とバインダー樹脂との界面に沿って浸入しやすいと考えられる。そのため、膜厚方向にプライマー層厚の80%を超える大きな長径を有する顔料が存在すると、プライマー層を顔料が上下に貫通するのに近い形態となる場合があり、局部的に薬品の浸入が促進されるおそれがある。この場合、薬品が侵入した位置が膨れの起点となり、耐薬品性が低下すると考えられる。この観点から、顔料粒子の膜厚方向の最大長径がプライマー層の膜厚の60%以下となることが、より好ましい。
【0041】
プライマー層中の顔料の膜厚方向の最大長径は、以下の方法で求めることができる。
対象とするプレコート鋼板を適当な大きさに切断して板厚方向断面が見えるように樹脂に埋め込みし、断面を研磨し、その後、断面のプライマー層のSEM画像を倍率6000倍で撮影する。SEM画像上で鋼板の平面方向に100μmを測定範囲とし、測定範囲内に存在する全ての顔料のうち、プライマー層の膜厚方向の粒径(該顔料が真円でない場合は、該顔料の占める範囲の基板から最も近い位置から遠い位置までの距離)が最も大きな顔料の膜厚方向の粒径を、プライマー層に含有される全顔料の最大長径と定義する。複数個の顔料が凝集している場合はこれを1個とみなして最大長径を測定する。
【0042】
プライマー層の膜厚は、3〜15μmであることが好ましい。膜厚が3μm未満であると、十分な耐食性および耐薬品性が得られないので好ましくない。一方、膜厚が15μmを超えると、加工性が低下するので好ましくない。耐食性、耐薬品性、および加工性の良好なバランスの観点から、プライマー層の膜厚は、4〜10μmの範囲がより好ましい。
【0043】
プライマー層に含まれるバインダー樹脂は、特に限定されるものではない。例えば、高分子ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ふっ素樹脂、或いはこれらの変性樹脂などのフィルム形成性樹脂成分を、ブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、ブチルメチル混合メラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネート樹脂やこれらの混合系の架橋剤成分により、加熱により架橋させたもの等を用いることができる。或いは電子線硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂などを用いてもよい。これらのバインダー樹脂に用いる架橋剤としては、イソシアネート樹脂の硬化剤を用いることが特に好ましい。例えば、ポリエステル樹脂からなるフィルム形成性樹脂成分を、イソシアネート樹脂の架橋剤成分により、加熱により架橋させたものを用いることが好ましい。イソシアネート硬化により形成された塗膜は、架橋点が緻密なウレタン結合となるとともに、めっき金属板のめっき表面に存在する水酸基(−OH)と反応し、めっき金属板との密着性を向上させる効果が得られることで、耐薬品性が良好な樹脂が得られるからである。
バインダー樹脂がイソシアネート硬化であることを確認する方法としては、対象とするプレコート金属板を適当な大きさに切断して樹脂埋め込みし、断面方向を研磨し、その後、断面のプライマー層皮膜を顕微FT−IR等の方法によりIR測定を行い、1550cm-1近辺のウレタン結合の吸収や、2260cm-1付近に現れるイソシアネート由来のC=N吸収ピークを確認することで判断できる。
【0044】
硬化剤として使用するイソシアネート樹脂としては、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート),HMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、水素化MDI、水素化XDI(キシリレンジイソシアネート)、水素化TDI等に代表される各種のイソシアネートの一量体、二量体、三量体及びこれらのイソシアネートを骨格に持つプレポリマーを、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、フェノール、クレゾール、クロロフェノール、ニトロフェノール、ヒドロフェノール、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、マロン酸エチル、ラクタム、ホスゲン、1−クロロ−2プロパノール、MEKオキシム類等に代表されるブロック剤でブロックしたものが挙げられる。ただし、イソシアネート樹脂の種類やブロック剤の種類は、上記のものに限定されるものではない。ラクタムブロックMDI、MEKオキシムブロックIPDIが特に好ましい。
【0045】
本実施形態に係るプレコート金属板のプライマー層は、防錆顔料、体質顔料、バインダー樹脂以外に、着色剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含んでもよい。
【0046】
<上層皮膜>
本実施形態に係るプレコート金属板では、プライマー層の上に上層皮膜を有する。この上層皮膜は、用途に応じた、バインダー樹脂、着色顔料を含有するものであれば、特に制限されない。上層皮膜は、通常のプレコート鋼板の上層皮膜と同様に1層又は複数層の皮膜とすればよい。
【0047】
上層皮膜のバインダー樹脂としては、特に限定されるものではない。例えば、高分子ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ふっ素樹脂、或いはこれらの変性樹脂などのフィルム形成性樹脂成分を、ブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、ブチルメチル混合メラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネート樹脂やこれらの混合系の架橋剤成分により、加熱により架橋させたもの等を用いることができる。或いは電子線硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂などを用いてもよい。これらの樹脂は単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
上層皮膜の着色顔料としては、公知の無機及び有機着色顔料を用いることができ、無機着色顔料としては酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄等を用いることができ、有機着色顔料としてはハンザエロー、ピラゾロンオレンジ、フタロシアニン、アゾ系顔料等を用いることができる。
【0049】
上層皮膜の厚みは、乾燥膜厚として5〜50μmであることが好ましい。5μm未満では耐薬品性や耐食性が低下することが懸念されるばかりでなく、色の隠蔽性が低下し、意匠性が十分に得られない。また乾燥膜厚が50μmを超えると加工性が悪くなる。上層皮膜の厚みは、10〜25μmであることがより好ましい。
【0050】
本実施形態に係るプレコート金属板は、製造方法によらず、上述の構成を有していれば、その効果が得られる。しかしながら、例えば以下のような工程を含む製造方法によれば、安定して得られるので好ましい。
【0051】
<プライマー層の形成工程>
めっき金属板上に、必要に応じて公知の方法で化成処理を行って化成処理皮膜を形成し、その後、プライマー層形成用塗布液を塗布し、加熱乾燥してプライマー層を形成する。
化成処理は、公知の非クロメート型処理が広く使用できるが、特に、タンニン酸およびシランカップリング剤を含有する処理液を、乾燥膜重量で10〜1000mg/mとなるように塗布・乾燥させることにより、きわめて高い塗膜密着性が得られるので好ましい。
【0052】
[プライマー層形成用塗布液]
プライマー層を形成するための塗布液は、溶剤、上述したバインダー樹脂成分、並びに、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物を含む顔料を含んで成ることが好ましい。これらの成分以外にも、レベリング剤、消泡剤、着色剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含んでもよい。
【0053】
前述のようにプライマー層の下部領域(めっき金属板とプライマー層との界面から膜厚方向に1.0μm以内の領域)からバナジウム元素およびマグネシウム元素が密に検出されるようにするためには、プライマー層を形成するための塗布液がめっき金属板表面に塗布され、その後加熱乾燥される工程で、塗布液中のバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の顔料粒子をめっき金属板との界面の方向に移動させて、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物を局在化させることが有効である。バナジウム化合物およびマグネシウム化合物を含む顔料粒子はいずれも無機顔料でありその表面エネルギーはバインダー樹脂よりも十分に高い。そのため、顔料粒子が塗布液中で十分に自由に移動できる状態に制御することで、一連の工程の中で、対流により表面張力が相対的に低いバインダー樹脂成分がプライマー層の表層方向に移動し、顔料粒子がプライマー層の下部領域に局在化する。
上述の顔料粒子が塗布液中で十分に自由に移動できる状態とするために、プライマー層を形成するための塗布液の粘度を、岩田カップ式粘度計で20秒〜50秒の範囲内とすることが望ましい。塗布液の粘度は、溶剤添加量により調整できる。塗布液の粘度が50秒よりも高粘度の場合、塗布液内でのバナジウム化合物およびマグネシウム化合物を含む顔料粒子が自由に移動することができず、結果として乾燥後のプライマー層中の下部領域からバナジウム元素およびマグネシウム元素が密に検出されない。一方、塗布液の粘度が20秒よりも低粘度では、塗布液中の溶剤比率が高すぎ、乾燥工程でいわゆる「わき」と呼ばれる塗膜中に気泡が残留する塗装欠陥が発生するため、製造条件として好ましくない。
【0054】
前述の濃度範囲に制御した塗布液の塗布方法は特に限定されないが、浸漬法、カーテンフロー法、ロールコート法、バーコート法、静電法、刷毛塗り法、T−ダイ法、ラミネート法など,任意の方法を用いることができる。塗布液の乾燥方法としては、加熱工程で原板側からの加熱により塗布液中の対流を積極的に発生させ、バナジウム化合物顔料およびマグネシウム化合物顔料の局在化を促すことのできる高周波誘導加熱、あるいは高周波誘導加熱を複合化した加熱方式が望ましい。
【0055】
<上層皮膜の形成工程>
上記プライマー層が形成されためっき金属板に、上層皮膜用塗布液を塗布した後、加熱乾燥して上層皮膜を形成する。上層皮膜が複数ある場合は、さらにこの工程繰り返してプレコート金属板を製造する。上層皮膜の塗布方法に関しては、特に制限はなく、例えば、浸漬法、カーテンフロー法、ロールコート法、バーコート法、静電法、刷毛塗り法、T−ダイ法、ラミネート法、スプレー法などが挙げられる。また、ウェット・オン・ウェットコート法や多層同時コート法を用いることもできる。
【0056】
乾燥方法としては、熱風、近赤外線、遠赤外線、高周波誘導加熱やこれらの複合による加熱法など、任意の方法が適用可能である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を、実施例を用いて説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
実施例(本発明例)および比較例で使用した、めっき金属板、プライマー層、上層皮膜の内容を表1〜表4及び以下に示す。
【0058】
<めっき金属板>
SD:Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Si合金めっき鋼板(板厚:0.6mm、めっき付着量:片面当たり40g/m2
GI:溶融亜鉛めっき鋼板(板厚:0.6mm、めっき付着量:片面当たり40g/m2
これらの原板の表裏面をアルカリ脱脂した後、クロメートフリー化成処理液(シランカップリング剤、タンニン酸、シリカ、及びポリエステル樹脂混合系)により化成処理(付着量:片面100mg/m2)してから使用した。めっき層は金属板の両面に形成した。
【0059】
<プライマー層>
化成処理されためっき金属板の片面にプライマー層を形成した。実施例および比較例に用いたプライマー層のバインダー樹脂に使用したフィルム形成性樹脂成分および硬化剤は、以下のとおりである。
【0060】
(フィルム形成性樹脂成分)
・ポリエステル樹脂「バイロン300」(東洋紡社製;Tg7℃、数平均分子量26000、水酸基価4、酸価2以下)
【0061】
(硬化剤)
・メラミン樹脂「サイメル235」(三井化学社製;メトキシ/ブトキシ混合変性メラミン樹脂)
・イソシアネート「コロネート2536」(日本ポリウレタン工業社製;ラクタムブロック/メチレンジイソシアネート(MDI))
フィルム形成性樹脂成分と硬化剤の混合比率は、硬化剤がメラミン樹脂の場合は80対20、硬化剤がイソシアネートの場合は90対10(いずれも固形分重量比率)とした。
【0062】
実施例および比較例に用いたプライマー層に使用したバナジウム化合物顔料およびマグネシウム化合物顔料、その他防錆顔料は以下のとおりである。
A:バナジン酸カルシウム
B:バナジン酸マグネシウム
C:バナジン酸カルシウム−マグネシウム
D:酸化マグネシウム
E:Caイオン交換シリカ(グレース社製:シールデックスC303)
F:リン酸アルミ(テイカ社製:K−ホワイト#82)
表1中、顔料濃度が斜体で示されているものは、粒径1.0μm未満の顔料を除去して使用したことを示している。
【0063】
また、一部のプライマー層には、下記の顔料を下記の添加量(固形分重量%)で添加した。
G:硫酸バリウム(堺化学工業社製:沈降性硫酸バリウム100)5%
H:酸化チタン(石原産業社製:CR95)2%
【0064】
上記のバインダー樹脂および顔料を種々選択し、表1に示すような顔料重量濃度(PWC)、組成比率にて混合・分散し、プライマー層形成用塗布液を作製した。その後、シクロヘキサノン、ソルベッソ150(炭化水素系有機溶剤)の1対1混合溶剤を添加して希釈し、所定の塗料粘度になるように調整した。
【0065】
作製した種々のプライマー層形成用塗布液を、化成処理を施した金属板の表面に種々の乾燥膜厚になるようにバーコーターで塗布し、PMT(到達板温度)215℃に45秒で到達する条件で、高周波誘導加熱オーブンにて乾燥させた。
【0066】
<上層皮膜>
プライマー層を形成させた上に、プレコート用白色塗料(日本ペイント社製の高分子ポリエステル/ブチル化メラミン硬化型FLC7000塗料(酸化チタン白色顔料を固形分濃度で50質量%含有))を、種々の乾燥膜厚になるようにバーコーターで塗布し、PMT(到達板温度)230℃に45秒で到達する条件で熱風オーブンにて乾燥させた。
【0067】
<裏面皮膜層>
全実施例および比較例に共通で、プレコート裏面用塗料(BASF社製RB02塗料)を、化成処理を施した金属板の裏面(プライマー層を形成しなかった面)に乾燥膜厚が5μmになるようにバーコーターで塗布し、PMT(到達板温度)230℃に45秒で到達する条件で、熱風オーブンにて乾燥した。
【0068】
<めっき近傍領域でのバナジウム元素およびマグネシウム元素の連続検出性>
上記のように作製した実施例および比較例のプレコート金属板を15×20mmの大きさに切断して板厚方向が見えるように樹脂に埋め込み、断面を研磨し、その後、断面のプライマー層のEPMAマッピング分析を倍率6000倍で行った(加速電圧15kV)。プライマー層の断面の下側表面から膜厚方向に1.0μm以内の領域において、平面方向(膜厚と直交する方向)に20μmの範囲について、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満の領域、およびマグネシウム元素の検出濃度が3.0%未満の領域が、平面方向に2.0μm以上連続して存在するか否かを確認した。
【0069】
バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満の領域、マグネシウム元素の検出濃度が3.0%未満の領域のそれぞれについて、平面方向に2.0μm以上連続して存在しない場合(密に検出される場合)をOK、平面方向に2.0μm以上連続して存在する場合(検出が疎である場合)をNGと評価した。
【0070】
上述した方法で、プライマー層中の、バナジウム化合物、マグネシウム化合物の平均粒径、前顔料における膜厚方向の最大長径を求めた。
【0071】
<性能評価試験>
実施例および比較例のプレコート金属板を用い、耐食性(SST)、耐薬品性(耐酸性、耐アルカリ性)、および加工性(T曲げ)について評価を行った。以下に、各試験と評価の方法を示す。
【0072】
耐食性(塩水噴霧試験(SST))
プレコート金属板から、70×150mmのサンプルを採取した、このサンプルの切断端面を塗装シールし、鋼板表面の塗膜にカッターナイフで鉄地に至るまでの深い傷をX形状に入れた試験片と、上下短辺を塗装シールし、左右2つの長辺が裏面側にバリが向く方向にシャーにて切断した試験片とを準備した。これらの試験片について、JIS K5600−7−1の方法で、960時間および1500時間、塩水噴霧試験を実施した。
【0073】
塩水噴霧試験終了後、Xカット部および切断端面部からの最大膨れ幅(Xカット部は片側)をルーペ観察にて測定した。評価基準は以下の通りとし、1を不合格とした。
4:2mm未満
3:2mm以上4mm未満
2:4mm以上6mm未満
1:6mm以上
【0074】
耐薬品性(耐酸性、及び耐アルカリ性)
サンプルサイズ50×50mmのプレコート金属板の切断端面および裏面をテフロン(登録商標)性粘着テープでシールした試験片を、耐酸性試験として5%硫酸に120時間、耐アルカリ性試験として5%水酸化ナトリウム水溶液に120時間浸漬した。試験終了後、塗膜の膨れの程度を評価した。
【0075】
評価基準は以下の通りとし、1を不合格とした。
4:全く膨れ無し
3:軽度の膨れ(膨れ面積率1%未満)
2:中程度の膨れ(膨れ面積率1〜10%未満)
1:重度の膨れ(膨れ面積率10%以上)
【0076】
加工性(T曲げ)
T曲げ試験を行った。20℃にて、0T曲げを行い、加工部の亀裂および剥離の状態を10倍ルーペで観察し、以下のように評価し、1を不合格とした。
4:亀裂、剥離が全く見られない。
3:きわめて軽微な亀裂または剥離が見られる。
2:中程度の亀裂または剥離が見られる。
1:重度の亀裂または剥離が見られる。
【0077】
評価結果を表3、表4に示す。実施例、比較例の主な評価結果の違いに関して説明する。
比較例1、2、3、4、6および7は、顔料粒子がバナジウム化合物、マグネシウム化合物のどちらか、あるいは両方を含有していない。そのため、プライマー層の断面の下側表面から膜厚方向に1.0μm以内の領域にバナジウム元素の検出濃度0.6%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在せず、かつ、マグネシウム元素の検出濃度3.0%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在しない、という条件を満たさなかった。その結果、耐薬品性、特に耐アルカリ性が低下した。また耐食性についても低かった。
バナジウム元素の検出濃度0.6%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在せずかつマグネシウム元素の検出濃度3.0%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在しないということは、測定範囲全体にわたって、バナジウム元素の検出濃度が0.6%以上の領域が2.0μm以下の間隔で存在し、かつ、マグネシウム元素の検出濃度3.0%以上の領域が2.0μm以下の間隔で存在することを意味する。
【0078】
比較例5は、バナジウム化合物、マグネシウム化合物の両方を含有するが、含有量が少なかった。その結果、プライマー層の断面の下側表面から膜厚方向に1.0μm以内の領域に、バナジウム元素の検出濃度0.6%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在せずかつマグネシウム元素の検出濃度3.0%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在しない、という条件を満たさなかった。その結果、耐薬品性、特に耐アルカリ性が良くない結果となっており、また耐食性についても低かった。
【0079】
比較例8、9、および10は、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物の粒径1.0μm未満を除去した顔料を使用した結果、含有するマグネシウム化合物の平均粒径が大きくなった。その結果、バナジウム元素の検出濃度0.6%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在せずかつマグネシウム元素の検出濃度3.0%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在しない、という条件を満たさず、耐薬品性、特に耐アルカリ性が低かった。
【0080】
比較例11は、プライマー層形成用塗布液の粘度が高いことにより、塗布、乾燥工程で顔料の流動が十分に行われなかった。その結果、バナジウム元素の検出濃度0.6%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在せずかつマグネシウム元素の検出濃度3.0%未満の領域が平面方向に2.0μm以上連続して存在しない、という条件を満たさなかった。そのため、耐薬品性、特に耐アルカリ性が低かった。
【0081】
実施例1〜42についてはいずれも、耐食性、耐薬品性、加工性ともに概ね良好であった。ただし、各種の条件によって性能に優劣の差が見られた。例えば、実施例15は、プライマー層のトータル顔料濃度が高く、また実施例17および18は、バナジウム化合物あるいはマグネシウム化合物の顔料濃度が高いことにより、結果としていずれもプライマー層のトータル顔料濃度が高くなり、加工性が低下する傾向が見られた。
【0082】
実施例21は、プライマー膜厚が厚いことにより、加工性が低下する傾向が見られた。実施例23および24は、プライマー膜厚が薄いことにより、顔料粒子の長径がプライマー層の膜厚の80%以下であるという条件を満たさず、耐食性や耐薬品性が低下する傾向が見られた。
【0083】
実施例25は、塗布液の粘度が低いことによりプライマー層に塗装欠陥(わき)が発生し、上層皮膜を塗布乾燥後も外観不良となって現れるとともに、耐食性や耐薬品性が低下する傾向が見られた。
【0084】
実施例28、29、および30は、バインダー樹脂の硬化剤としてメラミン樹脂を使用しているため、イソシアネート硬化の場合よりも耐アルカリ性および加工性が低下する傾向が見られた。
【0085】
実施例35は、上層皮膜の膜厚が厚いので、加工性が低下する傾向が見られた。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、プライマー層中のバナジウム化合物およびマグネシウム化合物の分布を層内下部にコントロールし、プライマー層の下部に、バナジウム化合物およびマグネシウム化合物の濃度が薄い部分を形成しないようにすることにより、十分な加工性と、優れた耐食性及び高度の耐薬品性とを備えるプレコート金属板が得られる。そのため、産業上の利用可能性が高い。
【要約】
このプレコート金属板は、めっき金属板と、前記めっき金属板の表面に形成されたプライマー層と、前記プライマー層の表面に形成された上層皮膜とを有し、前記プライマー層が、バインダー樹脂と、バナジウム化合物及びマグネシウム化合物を含む顔料粒子とを含み、前記プライマー層の膜厚方向の断面の、前記めっき金属板と前記プライマー層との界面から前記膜厚方向に1.0μm以内の領域を、EPMAマッピングにより観察したとき、バナジウム元素の検出濃度が0.6%未満である領域が前記膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在せず、かつ、マグネシウム元素の検出濃度が3.0%未満である領域が前記膜厚方向と垂直な方向に2.0μm以上連続して存在しない。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B