(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351008
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】魚骨由来のヒドロキシアパタイト
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20180625BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20180625BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20180625BHJP
B01J 20/04 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
C01B25/32 Q
G21F9/12 501B
B01J20/30
B01J20/04 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-58267(P2014-58267)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-182901(P2015-182901A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230836
【氏名又は名称】日本興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末永 慶寛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀典
(72)【発明者】
【氏名】本城 凡夫
(72)【発明者】
【氏名】多田 邦尚
(72)【発明者】
【氏名】一見 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】亀山 剛史
(72)【発明者】
【氏名】山地 功二
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−345448(JP,A)
【文献】
特開平03−164411(JP,A)
【文献】
特開平02−097409(JP,A)
【文献】
特開2009−107854(JP,A)
【文献】
特開2001−211895(JP,A)
【文献】
特開平07−277712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 − 25/46
B01J 20/04
B01J 20/30
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類残渣を煮る前処理工程と、
煮られた魚類残渣を水洗浄して魚骨を抽出する抽出工程と、
魚骨を700℃〜900℃で焼成する焼成工程と、
焼成された魚骨をボールミルで0.0002mm〜0.1mmの粒径に粉砕する粉砕工程とからなる
ことを特徴とする魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法。
【請求項2】
前記前処理工程は、容器中の高温水に魚類残渣を浸けた状態で煮る
ことを特徴とする請求項1記載の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法。
【請求項3】
前記抽出工程は、高圧水を吹き付けて肉を除去する
ことを特徴とする請求項1記載の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法。
【請求項4】
前記焼成工程は、加熱炉を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法。
【請求項5】
前記粉砕工程は、ボールミルを用いて行う
ことを特徴とする請求項1記載の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚骨由来のヒドロキシアパタイトに関する。さらに詳しくは、放射性物質その他の汚染物質の吸着技術に利用できる魚骨由来のヒドロキシアパタイトに関する。
【背景技術】
【0002】
汚染物質の吸着材として、従来よりゼオライト等が使用されている。ゼオライトは結晶構造中に比較的大きな空隙を持つ鉱物である。ゼオライトは液中において微細孔内の水分子を放出し、かわりに毒素等を吸着することから吸着材として利用されてきた。しかしながら、ゼオライトは天然に産する鉱物であるためその採掘には環境破壊を伴う。
【0003】
従来のヒドロキシアパタイトは、動物(牛など)の骨から得られていた。
ヒドロキシアパタイトがたんぱく質やアミノ酸に対する吸着能をもつことは既に知られており、特許文献1の従来技術では、動物系由来のアパタイトを製するため、カルシウム塩とリン酸塩を水溶液反応で反応させて得られる沈殿物を一旦凍結させた後、融解させ、この凍結融解処理により粒状物としてアパタイト系吸着剤を得るようにした製法を開示している。
この従来技術によると、水溶液反応による沈殿物を凍結融解処理するようにしたことにより、非晶質であるヒドロキシアパタイトを吸着剤として適する固形の粒状物として得ることができるというものである。
しかし、この製法では、凍結工程とその後の融解工程を要するため、エネルギー消費量も多く時間も多く必要とするという問題がある。
【0004】
ところで、養殖場や水産物加工場などで大量に魚の骨が廃棄処分されているが、廃棄処分にもエネルギーを消費するし社会的に無駄が多いことである。
魚骨からヒドロキシアパタイトを得る技術として特許文献2の従来技術があるが、これは人工骨や人工皮膚への適用を考えたものである。
これらのアパタイトは結晶質であることなど生体適合性の高いことが望まれ、かつ生産量が少なくてよいことから、廃棄される大量の魚骨の再利用に適したものではない。
【0005】
本発明者は、大量に廃棄処分される魚骨を再利用することと、これまで全く着目してこなかった放射性物質の吸着材として使用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-192480号公報
【特許文献2】特開平10−216214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、複雑な工程が不要であって大量生産が可能であり、放射性物質の吸着性能を有する魚骨由来のヒドロキシアパタイトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法は、魚類残渣を煮る前処理工程と、煮られた魚類残渣を水洗浄して魚骨を抽出する抽出工程と、魚骨を700℃〜900℃で焼成する焼成工程と、焼成された魚骨をボールミルで0.0002mm〜0.1mmの粒径に粉砕する粉砕工程とからなることを特徴とする。
第2発明の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法は、第1発明において、前記前処理工程は、容器中の高温水に魚類残渣を浸けた状態で煮ることを特徴とする。
第3発明の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法は、第1発明において、前記抽出工程は、高圧水を吹き付けて肉を除去することを特徴とする。
第4発明の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法は、第1発明において、前記焼成工程は、加熱炉を用いることを特徴とする。
第5発明の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法は、第1発明において、前記粉砕工程は、ボールミルを用いて行うことを特徴とする
。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、第1発明における各工程はいずれも複雑ではなく、単純に行える工程を順次実行していくだけなので大量生産が容易である。また、焼成した魚骨を粉砕した骨粉は、粒度のそろった比表面積の大きな魚骨由来の微細骨粉が得られるので、吸着能が優れたヒドロキシアパタイトを提供できる。
第2発明によれば、煮ることによって魚骨に付いている肉が柔らかくなり簡単にそぎ落とせるので、不純物の混じっていない魚骨から高品質のヒドロキシアパタイトを得ることができる。
第3発明によれば、煮ることによって肉が柔らかくなっているので、水を吹き付けるだけで肉をそぎ落とすことができ、不純物の混じっていない魚骨から高品質のヒドロキシアパタイトを得ることができる。
第4発明によれば、汎用の加熱炉を使えるので、バッチ処理から大量生産が可能となる。
第5発明によれば、ボールミルによると、非常に細かく粒度の揃った微細骨粉を得ることができる
。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製法の工程の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の実施例で得られた魚骨由来のヒドロキシアパタイトと、市販のヒドロキシアパタイトのX線回折チャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施例で得られた魚骨由来のヒドロキシアパタイトの粒度分布を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の実施例における鉛直式試験の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(魚類残渣)
本発明の製法において処理対象とする魚類残渣は、通常、養魚場や食品加工場などで排出される、一部または全体に魚肉の付いた魚骨である。例えば、三枚卸にされた後の魚頭や魚骨部分であって、少なくとも一部に魚肉が付いたものが該当する。ただし、魚肉が付着していない部分が混入しても、本発明の製法を実施することは可能である。
【0012】
(前処理工程)
本発明において前処理工程(
図1のS1)とは、前記魚類残渣を煮る工程である。より詳細には、煮るとは、水に魚類残渣を浸して加熱することをいう。該前処理工程においては、容器中の高温水に魚類残渣を浸けた状態で煮ることがより好ましい。このような状態で煮ることによって魚骨に付いている肉が柔らかくなり簡単にそぎ落とせるので、魚骨から不純物の混じっていない高品質のヒドロキシアパタイト(以下、本発明においてHAPということがある)を得ることができる。
高温水の温度は、特に限定されるものではないが、後続の工程による魚肉の魚骨からの脱離を効率よく行うためには、魚類残渣が入った水が沸騰する程度であることが好ましく、例えば80℃〜100℃で行うことが好ましい。また、前処理工程の時間としては、処理する魚類残渣の量や水温により適宜調整すればよいが、例えば6時間〜8時間とすることができる。
なお、前処理工程は、大気圧下で行っても密閉容器などを用いた加圧条件下で行ってもよい。前処理工程にて用いた煮水を排水し、魚類残渣を取り出して次の抽出工程に供する。
【0013】
(抽出工程)
本発明における抽出工程(
図1のS2)とは、前処理工程に処された魚類残渣から魚骨を抽出する工程である。魚骨を抽出する方法は、特に限定されるものではないが、水を吹き付けて魚肉を除去することが好ましく、高圧水による除去がより好ましい。高圧水を用いることで、前処理工程に処された魚類残渣から、高効率で魚肉を排除し、魚骨を抽出することができる。
高圧水を吹き付ける装置としては、特に限定されるものではなく、公知の市販の装置等を用いることができる。
また、水圧や水温は特に限定されるものではなく、魚肉が排除されるように調整すればよい。
【0014】
(焼成工程)
本発明における焼成工程(
図1のS3)とは、前記抽出された魚骨を700℃〜900℃で焼成する工程である。該焼成工程においては、加熱炉を用いることが好ましい。汎用の加熱炉を用いることで、バッチ処理から効率よく焼成魚骨を大量生産することができる。
魚骨の焼成は、処理対象となる魚骨全体をバラつきなく、かつ効率よく700℃〜900℃に達するようにするために、例えば、多段の棚を備えた加熱炉の各棚に、抽出した魚骨が重ならないように平面状に広げられた状態とすることが好ましい。
上記焼成工程の時間は、対象とする魚骨全体が上記温度範囲に達するように調整すればよく、例えば、6時間〜10時間とすることで、焼成工程を完了することができる。また、上記温度範囲内であれば、焼成中に炉内温度が必ずしも一定でなくてもよい。
上記焼成された魚骨は次いで粉砕工程に供されるが、焼成工程と粉砕工程との間には、魚骨の物性に影響しない範囲において、適宜冷却工程などの他の工程を含んでいてもよい。
【0015】
(粉砕工程)
本発明において粉砕工程(
図1のS4)とは、前記焼成した魚骨を粉砕する工程である。粉砕工程において魚骨は例えば、粒径が0.1mm以下、好ましくは0.0002mm〜0.1mmの程度にまで粉砕される。
粉砕後の形状は、粒状に限られるものではなく、針状、燐片状、板状などいずれの形状であってもよい。粒状以外の形態の場合、各形状の最長部が上記粒径の範囲にあることが好ましい。
粉砕手段は特に限定されるものではないが、ボールミルによることが好ましい。ボールミルによると、非常に細かく粒度の揃った微細骨粉を得ることができる。このような粒度の揃った細かい骨粉は、例えば、該骨分を放射性物質の吸着に用いた場合にその吸着性能が優れたものとなる。
粉砕後の骨粉は、たとえば、水洗などの清浄工程により精製してもよい。
【0016】
(用途)
上記の工程を経て、魚類残渣から魚骨由来のヒドロキシアパタイトが製造される。得られた魚骨由来のヒドロキシアパタイトは、人工骨や人工皮膚への適用など公知のヒドロキシアパタイトとしてや、放射性物質の吸着材として用いることができる。また、本発明の魚骨由来のヒドロキシアパタイトを、コンクリートに混入する耐久性向上材料として用いることもできる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の製法について実施例をもとにより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
(実施例1)魚骨由来のヒドロキシアパタイトの製造
魚類残渣として、水産試験場で排出された魚肉付着の魚骨15kgを用意した。該魚骨に、120リットルの水を加え、100℃の水温まで加熱し、その後8時間、魚類残渣を煮た。その後、煮水を排出し、魚類残渣を取り出した。取り出した魚類残渣に、高圧洗浄装置(ケルヒャー社製、型番550M)を用いて、高圧水を吹き付けた。高圧水の吹き付けにより、魚骨から魚肉が剥離された。魚肉が剥離された魚骨を、棚板に広げて並べ、加熱炉装置(東京陶芸器材株式会社製、型番TY-17W)で700℃〜900℃、10時間焼成した。焼成した魚骨を回収して、室温まで冷却した。次いで、ボールミル(株式会社セイワ技研製、型番AXB-15)を用いて回収した魚骨を粉砕して、粉砕された魚骨を得た。
得られた粉砕魚骨のX線回折チャートは、市販のヒドロキシアパタイトと一致するものであった(
図2参照、
図2中、縦軸は回折強度、横軸は入射角である)。また、その粒度分布を粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、型番SA-CP3L)を用いて調べたところ、平均粒径(d
50)が1.7μmであった(
図3参照)。
【0019】
(放射性物質の吸着試験)
図4の模式図に示す鉛直式試験の装置を用いて、吸着材として、実施例1で得られた魚骨由来のヒドロキシアパタイトと、比較としてゼオライトと、ベントナイトとの3種それぞれについて、放射性物質の吸着試験を行った。
鉛直式試験は、
図4(幅70mm、高さ80mm,奥行60mm、の直方体のアクリル製容器で板圧は5mm)に示すように、砂1に試料としてセシウムを均一に分散させたものの上に吸着材2を積載し、砂1の底面側に直径15mm×長さ40mmの炭素棒3を、吸着材の上部に接するように30mm×70mm×1mmのアルミ板4を配置して、外部電源により電流が印加できる鉛直式試験装置20を用いて行う。砂1は、粒径約0.2mmの豊浦標準砂200gを用い、吸着材2は50g、セシウムは38.1mg(添加したのは水酸化セシウムであるが、38.1mgは、セシウムに換算した量)とした。
このように設置した吸着材2の上部に、電解質(不図示)として、蒸留水500mLの酢酸アンモニウム14.8gを加えて撹拌したものを作製し、試験開始時に100mLを投入した。次いで、電流0.05Aを48時間流して、吸着材に水酸化セシウム(セシウムイオン)を吸着させた。
試験中、電流は0.05Aで一定(定電流の通電試験)とするが、電解質の消費とともに電圧が上昇することから、作業者の感電を避けるために、電圧が25V以上に上昇した場合は、電解質を100mL毎追加し、電圧の上昇の抑制を図った。
通電48時間後に、撹拌翼(不図示)を用いて10分間、砂に蒸留水500mlを投入して撹拌する操作を4回繰り返し、砂の中に残るセシウムの抽出を行った。こうして得られた溶液と、試験後に残存する電解質溶液(ここでは酢酸アンモニウム)を、原子吸光装置(株式会社島津製作所製、型番AA-6200)に供してセシウムの砂ならびに電解質溶液中の残留量を測定し、その値からセシウムの吸着材への吸着量を決定した。なお、上記と同様の条件で、吸着材を用いず、かつ、通電をせずに6時間放置した砂ならびに電解質溶液からは、添加した38.1mgのセシウムのうち、平均で35.2mgの残留量を計測している。つまり、添加したセシウムの約92.4%は回収できていたことから、本洗い出し手法にて、添加したセシウムの大半を抽出できるものと判断した。
上記の種々の吸着材を用いた48時間の通電試験を3回繰り返し、それぞれについてセシウムの残留量を調べた。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示すセシウム残留量の結果から、本発明の製法により得られた魚骨由来のヒドロキシアパタイトでは、セシウムの吸着量が特に優れていることが示された。これらの吸着能の差は、基本的には、ヒドロキシアパタイトがC軸方向に配列した水酸化物イオンが陽イオンを補償しようとすること、ベントナイトでは、単位結晶層が負電化を帯びており、その層間に陽イオンを補償しようとすること、ゼオライトでは、骨格中に陽イオンを補償しようとすることによるものである吸着能の差によるものと考えられるが、本発明の製法によることで、粒度のそろった比表面積の大きな魚骨由来のヒドロキシアパタイトが得られたことで、その吸着能が優れたものとなっていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
震災陸域および海域での放射能汚染対策材料として、本技術を活用して除染が可能である。また、藻場造成構造物の多孔質体に混入して、吸着材として使用することが可能である。更に、本発明の魚骨由来のヒドロキシアパタイトを、コンクリートに混入する耐久性向上材料として用いることもできる。
【符号の説明】
【0023】
1 砂
2 吸着材
3 炭素棒(陽極)
4 アルミ板(陰極)
20 鉛直式試験装置