(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コンピュータ上にX線撮影系の幾何学的配置を再現し、予め収集されたX線CT画像データに仮想的に透視投影を行うことによりDRR画像を得るDRR画像作成ステップと、
前記DRR画像作成ステップにより得た前記DRR画像とX線撮影系により患者を透視または撮影して得た現実の撮影画像との一致度を評価する評価関数が最大となるように、前記X線CT画像データの回転・平行移動に関する透視投影パラメータを最適化して、前記X線CT画像データを収集したときの患者の位置と、X線撮影系により患者を透視または撮影したときの現実の患者の位置とのずれ量を算出する最適化ステップと、
前記最適化ステップにおいて算出されたずれ量を、患者を載置した放射線治療のための治療台の移動制御手段に出力する出力ステップと、
を含む位置決め装置の作動方法であって、
前記最適化ステップにより前記透視投影パラメータを最適化する最適化演算を開始する前に、前記DRR画像と前記撮影画像のずれ量から患者の粗位置ずれ量を算出し、当該粗位置ずれ量に基づいて前記透視投影パラメータの初期位置を変更する初期パラメータ調整ステップを含み、
前記初期パラメータ調整ステップは、前記DRR画像を所定方向に積分した1次元積分プロファイルと前記撮影画像を所定方向に積分した1次元積分プロファイルとをそれぞれ算出し、前記DRR画像と前記撮影画像の同一方向の1次元積分プロファイル間での比較を実行することにより、前記粗位置ずれ量を算出する、位置決め装置の作動方法。
【背景技術】
【0002】
癌等の患部に対してX線、電子線、粒子線等の放射線を照射する放射線治療においては、放射線を患部に正確に照射する必要がある。放射線治療装置を利用して放射線治療を実行するときには、治療に先だって治療計画が策定される。そして、放射線治療の実行時には、患者の位置が治療計画時と一致するように位置決めを行うことが必要となる。放射線治療装置における患者の位置決めは、従来は、技師がレーザ墨出し器により示される位置を目視で確認しながら、患者を載置する診療台の位置を操作することにより行われていた。また、近年ではX線透視像を使用して患者の位置決めを行うことが提案されている(特許文献1から特許文献3参照)。
【0003】
このような放射線治療においては、患者の位置決めから治療が終了するまで、患者は同じ姿勢で治療台に拘束されることになり、それが患者へのストレスとなっている。このような患者のストレスを軽減するために、患者の位置決めをより速く行うことが求められている。また、より多くの患者が放射線治療装置による治療機会を得られるようにするためには、患者の位置決めを高速化し、患者一人当たりの放射線治療装置の使用時間を短縮する必要がある。
【0004】
特許文献2の患者位置決め装置では、患者の過去の治療台位置決めデータに基づいて、治療台の粗位置決め位置を学習させることで、位置決めの繰り返し回数を低減することが提案されている。
【0005】
また、X線画像を使用した患者の位置決めにおいては、コンピュータ上に治療装置におけるX線撮影系の幾何学的配置を再現し、治療計画時にX線CT装置により収集した3次元画像データを利用した仮想的透視投影であるDRR(Degital Reconstructed Radiography)を実行している。そして、現実のX線撮影画像とDRR画像の類似性を評価すること(画像レジストレーション)により、患者の現在位置と治療計画時位置とのずれ量を算出している。DRRは、計算コストが膨大なものとなるため、特許文献3では、DRRの実行に必要な計算コストを削減することで、放射線治療における患者の位置決めを高速化した自動位置決め装置が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
画像レジストレーションにおいて対比されるDRR画像と患者の現実のX線撮影画像との類似度は、一般にDRR画像作成時の投影ジオメトリに対して非凸関数となる。このため、両画像の類似性を評価する評価尺度を最適化して得られる解が、局所解となる場合がある。一方で、最適化演算時に局所解に陥ることを防止するには、最適化開始時の投影ジオメトリの初期パラメータを、最適解により近づけることが有効である。すなわち、最適化演算を開始する前の位置決めである粗調整の段階で、現実の患者の撮影ジオメトリをDRR投影ジオメトリにより近づけることが要求される。
【0008】
従来の最適化演算を開始する前の患者の粗位置決めは、例えば、レーザ墨出し器を用いた調整や、ディスプレイに表示されたDRR画像と患者の実透視画像とを入力装置を介して操作者が重ね合わせる等、操作者の手動により実行され、その確認は操作者の目視に依った作業であった。このため、操作者による判断の個人差が位置決め精度の差となることがあった。しかしながら、治療位置との関係において達成すべき位置決め精度が、操作者の熟練度によって変化することは好ましくない。さらに、上述した従来の手法では、位置決めに係る時間も長くなる傾向にあった。
【0009】
また、特許文献2の患者位置決め装置においては、過去の治療台位置決めデータに基づいて位置決めを行っているため、分割照射による第1回目の治療や、定位放射線照射のような1回照射で治療が完結する場合等、過去の治療台位置決めデータが存在しない患者の治療に際しては、従来のように手動による位置決めを行わなければならない。このような場合には、患者の位置決めに操作者の判断の個人差の問題や、位置決めに長い時間がかかるなどの問題が生じる。
【0010】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、患者の位置決めを自動的に高速で行うことが可能な位置決め装置及び位置決め
装置の作動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明では、コンピュータ上にX線撮影系の幾何学的配置を再現し、予め収集されたX線CT画像データに仮想的に透視投影を行うことによりDRR画像を得るDRR画像作成部と、
前記DRR画像作成部により得た前記DRR画像とX線撮影系により患者を透視または撮影して得た現実の撮影画像との一致度を評価する評価関数が最大となるように、前記X線CT画像データの回転・平行移動に関する透視投影パラメータを最適化して、前記X線CT画像データを収集したときの患者の位置と、X線撮影系により患者を透視または撮影したときの現実の患者の位置とのずれ量を算出する最適化部と、を備え、
前記最適化部により算出されたずれ量を、患者を載置した放射線治療のための治療台の移動制御手段に出力する位置決め装置であって、前記最適化部により前記透視投影パラメータを最適化する最適化演算を開始する前に、前記DRR画像と前記撮影画像のずれ量から患者の粗位置ずれ量を算出し、当該粗位置ずれ量に基づいて前記透視投影パラメータの初期位置を変更する初期パラメータ調整部を備え
、前記初期パラメータ調整部は、前記DRR画像を所定方向に積分した1次元積分プロファイルと前記撮影画像を所定方向に積分した1次元積分プロファイルとをそれぞれ算出し、前記DRR画像と前記撮影画像の同一方向の1次元積分プロファイル間での比較を実行することにより、前記粗位置ずれ量を算出する。
【0012】
第
2の発明では、前記初期パラメータ調整部は、前記DRR画像と前記撮影画像の同一方向の1次元積分プロファイル間での比較において、前記1次元積分プロファイルをヒストグラムとしてヒストグラム間の類似度を算出し、当該ヒストグラム間の類似度が最大となる位置を前記透視投影パラメータの初期位置とする。
【0013】
第
3の発明では、コンピュータ上にX線撮影系の幾何学的配置を再現し、予め収集されたX線CT画像データに仮想的に透視投影を行うことによりDRR画像を得るDRR画像作成ステップと、前記DRR画像作成ステップにより得た前記DRR画像とX線撮影系により患者を透視または撮影して得た現実の撮影画像との一致度を評価する評価関数が最大となるように、前記X線CT画像データの回転・平行移動に関する透視投影パラメータを最適化して、前記X線CT画像データを収集したときの患者の位置と、X線撮影系により患者を透視または撮影したときの現実の患者の位置とのずれ量を算出する最適化ステップと、
前記最適化ステップにおいて算出されたずれ量を、患者を載置した放射線治療のための治療台の移動制御手段に出力する出力ステップと、を含む位置決め装置の作動方法であって、前記最適化ステップにより前記透視投影パラメータを最適化する最適化演算を開始する前に、前記DRR画像と前記撮影画像のずれ量から患者の粗位置ずれ量を算出し、当該粗位置ずれ量に基づいて前記透視投影パラメータの初期位置を変更する初期パラメータ調整ステップを含
み、前記初期パラメータ調整ステップは、前記DRR画像を所定方向に積分した1次元積分プロファイルと前記撮影画像を所定方向に積分した1次元積分プロファイルとをそれぞれ算出し、前記DRR画像と前記撮影画像の同一方向の1次元積分プロファイル間での比較を実行することにより、前記粗位置ずれ量を算出する。
【0014】
第
4の発明では、前記初期パラメータ調整ステップは、前記DRR画像と前記撮影画像の同一方向の1次元積分プロファイル間での比較において、前記1次元積分プロファイルをヒストグラムとしてヒストグラム間の類似度を算出し、当該ヒストグラム間の類似度が最大となる位置を前記透視投影パラメータの初期位置とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明及び第
3の発明によれば、DRR画像と撮影画像を用いて、最適化部で最適化演算を開始する前に透視投影パラメータの初期位置を自動的に得ることができる。これにより、従来のような手動による位置決めにかかる操作者の労力を軽減することができる。また、DRR画像と撮影画像の粗位置ずれ量を自動的に算出することから、例えば、分割照射治療での初回治療時であっても、従来の手動による粗位置決め調整ステップを省略することができ、治療スループットを向上させることができる。さらに、操作者の手動による位置決め操作を省略可能な構成としたことで、操作者の熟練度に依存しない再現性の高い患者の位置決め精度を達成することが可能となるとともに、患者の位置決めに要する時間を短縮することができる。そして、患者の拘束時間が短くなることで、位置決め中に患者が同じ姿勢を維持できずに動いてしまうことによる位置決め精度の低下を抑制するとともに、同じ姿勢を維持しなければならない患者の苦痛も低減することが可能となる。
【0016】
また、第
1の発明及び第
3の発明によれば、DRR画像と撮影画像の同一方向の1次元積分プロファイル間で比較を行うことから、2次元画像であるDRR画像と撮影画像を直接比較するよりも画像間の類似度が最も高い位置の探索をより高速に行うことが可能となる。さらに、積分により、各画像のノイズ成分による位置決め精度への悪影響を低減することができる。
【0017】
第
2の発明及び第
4の発明によれば、DRR画像と撮影画像との比較において、1次元積分プロファイルをヒストグラムとしてヒストグラム間の類似度を算出するヒストグラム・インターセクションを用いることから、DRR画像と撮影画像の画質の違いや、各画像における治療台やコリメータなどの患者以外の要素の写り込みの有無により生じる差異および濃度の違いに対しても、頑健で高速な類似度が最も高い位置の探索が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明に係る位置決め装置40を適用する放射線治療装置10の概要図である。
【
図2】患者57の位置決めの手順を示すフローチャートである。
【
図3】最適化演算を開始する前の初期パラメータ調整の手順を示すフローチャートである。
【
図4】撮影画像101のX方向およびY方向の画素値の1次元積分プロファイルを説明する概要図である。
【
図5】DRR画像102のX方向およびY方向の画素値の1次元積分プロファイルを説明する概要図である。
【
図6】撮影画像101とDRR画像102のX方向の1次元積分プロファイルを示すグラフである。
【
図7】撮影画像101とDRR画像102のY方向の1次元積分プロファイルを示すグラフである。
【
図8】
図6のグラフを正規化した正規化積分プロファイルとヒストグラム・インターセクションHIを説明するグラフである。
【
図9】
図7のグラフを正規化した正規化積分プロファイルとヒストグラム・インターセクションHIを説明するグラフである。
【
図10】
図8の正規化積分プロファイルを移動させたときのヒストグラム・インターセクションHIの変化を示すグラフである。
【
図11】
図9の正規化積分プロファイルを移動させたときのヒストグラム・インターセクションHIの変化を示すグラフである。
【
図12】初期パラメータ調整後のX方向の正規化積分プロファイルを示すグラフである。
【
図13】初期パラメータ調整後のY方向の正規化積分プロファイルを示すグラフである。
【
図14】初期パラメータ調整後の撮影画像101とDRR画像102の重ね合わせ像103を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る位置決め装置40を適用する放射線治療装置10の概要図である。
【0020】
この放射線治療装置10は、治療台27に載置された患者57に対して放射線治療を行うものであり、治療装置全体の動作を制御する治療制御装置30と、この発明に係る位置決め装置40を備える。治療制御装置30と位置決め装置40とは相互に通信可能に接続されている。また、治療制御装置30と位置決め装置40は、ネットワーク17を介して、患者情報を格納する患者DB(データベース)16、治療前の患者57の患部を含む3次元のX線CT画像データを得るためのX線CT装置14、および、X線CT装置14により収集されたCT画像データに基づいて治療計画を策定する治療計画装置15に接続されている。なお、X線CT装置14により収集されたCT画像データ、および、治療計画装置15により策定された患者57の治療計画は、患者DB16に保存される。
【0021】
治療制御装置30は、論理演算を実行するCPU、装置の制御に必要な動作制御プログラムが格納されたROM、制御時にデータ等が一時的に記憶されるRAM等を備え、この放射線治療装置10の全体を制御する。また治療制御装置30は、機能的構成として、治療ビーム照射制御部31、治療台移動制御部32およびX線透視撮影制御部33を備える。
【0022】
放射線治療装置10は、電子線等の治療ビームを照射する水平照射ポート21と垂直照射ポート22を備える。水平照射ポート21および垂直照射ポート22からの治療ビームの照射制御は、治療ビーム照射制御部31により行われる。また、放射線治療装置10の治療台27は、治療台移動制御部32により、6軸方向に移動および回転可能となっている。
【0023】
放射線治療装置10は、X線管25から照射され患者57を通過したX線を検出するためのX線検出器23と、X線管26から照射され患者57を通過したX線を検出するためのX線検出器24とからなる2方向からの透視・撮影が可能なX線撮影系を備える。X線撮影系の動作は、X線透視撮影制御部33により制御される。なお、X線検出器23およびX線検出器24としては、例えば、イメージインテンシファイア(I.I.)やフラットパネルディテクタ(FPD)が使用される。
【0024】
この放射線治療装置10では、水平照射ポート21および垂直照射ポート22は、室内に固定されている。そして、X線検出器24は、X線管26と患者57を介して対向する水平照射ポート21の前面の撮影位置(
図1に仮想線で示す位置)と、水平照射ポート21から離隔した退避位置(
図1に実線で示す位置)との間を移動可能となっている。同様に、X線検出器23は、X線管25と患者57を介して対向する垂直照射ポート22の前面の撮影位置(
図1に仮想線で示す位置)と、垂直照射ポート22から離隔した退避位置(
図1に実線で示す位置)との間を移動可能となっている。
【0025】
位置決め装置40は、論理演算を実行するCPU、後述する患者57の位置決めを実現するためのプログラムが格納されたROM、演算結果が一時的に記憶されるRAM等を備えたコンピュータであり、表示部47が接続されている。表示部47は、この放射線治療装置10のグラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface:GUI)としても機能するものであり、例えば、タッチパネル機能を具備した液晶表示パネル等から構成される。この表示部47には、X線検出器23およびX線検出器24により検出されたX線に基づく透視・撮影画像(以下、撮影画像と呼称する)や、予めX線CT装置14により収集された3次元CT画像が表示される。さらに表示部47には、後述するCT画像データから作成されるDRR画像、放射線の照射情報およびX線撮影情報等の、その他の情報も表示される。
【0026】
位置決め装置40は、機能的構成として、CT画像データに基づきDRR画像を作成するDRR画像作成部41と、透視投影パラメータを最適化して患者57の位置ずれ量を算出する最適化部43と、最適化部43においてCT画像データの回転・平行移動に関する透視投影パラメータを最適化する前に最適化開始時の透視投影パラメータの初期位置を変更する初期パラメータ調整部42と、を備える。
【0027】
DRR画像作成部41は、予めX線CT装置14により収集されたCT画像データを患者DB16から読み出し、コンピュータ上にX線撮影系の幾何学的配置を再現するとともに、このCT画像データに対して仮想的に透視投影を行うことでDRR画像を作成する。すなわち、この放射線治療装置10のX線管25から3次元CT画像にX線を照射したと仮定した2次元画像、および、X線管26から3次元CT画像にX線を照射したと仮定した2次元画像を計算する。これらの2次元画像はDRR画像であり、仮想的なX線パスに沿って各CT画像データのボクセル値を積算することにより作成される。
【0028】
初期パラメータ調整部42は、DRR画像作成部41において最初の仮想的透視投影により作成されたDRR画像の初期投影ジオメトリ、すなわち、CT画像データの回転・平行移動に関する透視投影パラメータの初期位置を、DRR画像と撮影画像の比較により算出される粗位置ずれ量に基づいて調整する。そして、調整された透視投影パラメータは、最適化部43でDRR画像と撮影画像のより正確なずれ量を算出するために、両画像の一致度を評価する評価尺度(評価関数)を最適化する際の初期パラメータとなる。
【0029】
次に、上述した放射線治療装置10における患者57の位置決めについて説明する。
図2は、患者57の位置決め手順を示すフローチャートである。
図3は、最適化演算を開始する前の初期パラメータの調整手順を示すフローチャートである。
図4は、撮影画像101の1次元積分プロファイルを説明する概要図であり、
図5は、DRR画像102の1次元積分プロファイルを説明する概要図である。また、
図4の撮影画像101は、X線検出器23の検出値に基づく患者57の頭部の静止画像を模式的に示したものであり、患者57の頭部像を実線で示している。
図5のDRR画像102は、予めX線CT装置14で収集した患者57の頭部のCT画像データに対して、
図1に示すX線管25からX線検出器23に向かうX線パスに沿ってDRRを実行して得た2次元画像を模式的に示したものであり、患者57の頭部像を破線で示している。
【0030】
放射線治療を行う場合には、患部に治療ビームが正確に照射されるように、水平照射ポート21および垂直照射ポート22に対して、治療台27を移動させて患者57の位置決めを行う。患者57の位置決めを行う場合には、CT画像データやその他の治療計画情報が患者DB16より取得され、DRR画像102が作成される(ステップS1)。この治療計画情報には、治療ビームとしての放射線の照射方向等のパラメータが含まれている。
【0031】
続いて、X線検出器23およびX線検出器24を、
図1に仮想線で示す位置に配置した状態で、患者57にX線管25およびX線管26からX線を照射し、患者57の現在の撮影画像101を取得する(ステップS2)。
【0032】
しかる後、最適化部43において透視投影パラメータを最適化する最適化演算を開始する前に、ステップS1で作成されたDRR画像102と、ステップS2で取得された撮影画像101とを用いて、透視投影パラメータの初期位置である初期パラメータを調整する(ステップS3)。なお、
図4に示す撮影画像101および
図5に示すDRR画像102は、必要に応じて表示部47に表示される。
【0033】
初期パラメータの調整は、
図3に示す手順により行われる。まず、撮影画像101とDRR画像102をそれぞれ所定方向に積分した1次元積分プロファイルを作成する(ステップS31)。
図4および
図5において積分方向を矢印で示す。これらの図においては、画像の横方向(X方向)および縦方向(Y方向)に積分した1次元積分プロファイルを算出している。
【0034】
図6は、撮影画像101とDRR画像102のX方向の1次元積分プロファイルを示すグラフであり、
図7は、撮影画像101とDRR画像102のY方向の1次元積分プロファイルを示すグラフである。グラフの横軸は画素であり、縦軸は積分値である。
図6および
図7においては、撮影画像101の1次元積分プロファイルを実線で示し、DRR画像102の1次元積分プロファイルを破線で示している。
【0035】
図6および
図7に示すように、放射線治療装置10の治療台27の患者57を撮影した撮影画像101の1次元積分プロファイルと、CT画像データから作成されたDRR画像102の1次元積分プロファイルとでは、全く一致してない。これは、放射線治療装置10の治療台27の患者57とX線CT装置14でCT画像データを収集したときの患者57とでは、その位置・角度にずれがあること、撮影画像101とDRR画像102との間に画質の違いや濃度の違いがあること、治療台27等の装置を構成する部材の画像への写り込みの有無等による違いがあることに起因している。
【0036】
このように互いに一致していない撮影画像101とDRR画像102の1次元積分プロファイルに対し、スケールを統一する正規化を行う。この正規化は、各1次元積分プロファイルをヒストグラムとみなし、後述するヒストグラム・インターセクションHIにより1次元積分プロファイル相互の類似度を評価できるようにするために実行される。すなわち、下記式(1)により、撮影画像101の1次元積分プロファイルH1[i]の面積が、DRR画像102の1次元積分プロファイルH2[i]の面積に一致するように正規化する(ステップS32)。
【0038】
図8は、
図6のグラフを正規化した正規化積分プロファイルとヒストグラム・インターセクションHIを説明するグラフである。
図9は、
図7のグラフを正規化した正規化積分プロファイルとヒストグラム・インターセクションHIを説明するグラフである。
図8および
図9において、撮影画像101の正規化積分プロファイルを実線で示し、DRR画像102の正規化積分プロファイルを破線で示している。
【0039】
なお、この正規化は、撮影画像101とDRR画像102の濃度の違いを揃えることも兼ねている。すなわち、1次元積分プロファイル上では、画像間の画質の違い等の影響が小さいため、実用的な精度で患者像の濃度を揃えることが可能である。ここで、DRR画像102はCT画像データを利用して撮影画像101を模擬したものであるため、CT値の濃度分布幅を調整しなくとも、X線量のゲインの調整のみで濃度を揃えることも可能である。なお、CT値の濃度分布幅を調整する必要がある場合には、従来のWL(Window Level)/WW(Window Width)処理を併用して画像間の濃度を揃えるようにしてもよい。
【0040】
次に、撮影画像101とDRR画像102の同一方向の正規化後の1次元積分プロファイル(以下、正規化積分プロファイルと呼称する)が最も類似している位置を探索する。この探索は、ヒストグラム・インターセクションHIを用いて、撮影画像101とDRR画像102の両正規化積分プロファイルの類似度を、下記式(2)により求める(ステップS33)。
【0042】
上述した正規化により、
図8中、実線で囲まれた撮影画像101のヒストグラムの面積と、破線で囲まれたDRR画像102のヒストグラムの面積は一致している。同様に、
図9中、実線で囲まれた撮影画像101のヒストグラムの面積と、破線で囲まれたDRR画像102のヒストグラムの面積は一致している。ヒストグラム・インターセクションHIは、
図8および
図9にハッチングで示すように、ヒストグラムの面積に対して、撮影画像101とDRR画像102のヒストグラムが重なっている領域の面積の割合である。したがって、ヒストグラム・インターセクションHIは、0以上1以下の値をとり、1に近いほどヒストグラムの一致度が高いことを示す。
【0043】
ヒストグラムの一致度が最も高い位置は、撮影画像101とDRR画像102の両正規化積分プロファイルが最も類似している位置である。そして、この位置は、両画像が最も重なる位置であると推定できる。したがって、ヒストグラムの一致度が最も高い位置、すなわち、ヒストグラム・インターセクションHIが最大となる位置を探索する(ステップS34)。このステップS34における探索は、一方の画像の正規化積分プロファイルの位置に対して、他方の画像の正規化積分プロファイルの位置を
図8および
図9のグラフの横軸に沿って移動させながら、ヒストグラム・インターセクションHIを算出することにより行われる。
【0044】
図10は、
図8の正規化積分プロファイルを移動させたときのヒストグラム・インターセクションHIの変化を示すグラフであり、
図11は、
図9の正規化積分プロファイルを移動させたときのヒストグラム・インターセクションHIの変化を示すグラフである。グラフの横軸は移動画素数、縦軸はヒストグラム・インターセクションHIである。
【0045】
一方の画像(撮影画像101)の正規化積分プロファイルの位置に対して、他方の画像(DRR画像102)の正規化積分プロファイルの位置を
図8および
図9のグラフの横軸方向にずらした場合のヒストグラム・インターセクションHIは、
図10および
図11に示すようになる。
図10に示すグラフでは、ヒストグラム・インターセクションHIのピークが明らかであることから、ヒストグラム・インターセクションHIが最大となる正規化積分プロファイルの位置の探索は容易に行える。正規化積分プロファイルを用いたヒストグラム・インターセクションHIの算出は、画像そのものを用いた場合よりも計算コストを十分小さくすることができる。このため、ヒストグラム・インターセクションHIの最大値の探索には、網羅的計算を行ってもよく、Brent法などの1次元最適化手法を用いてもよい。
【0046】
一方、
図11に示すヒストグラム・インターセクションHIの変化のように、ピークが平坦となりヒストグラム・インターセクションHIが最大となる正規化積分プロファイルの位置の探索が困難な場合がある。例えば、比較する画像間に治療台27等の写り込みの違いがある場合に、ヒストグラム・インターセクションHIは
図11に示すような変化となる。このようにヒストグラム・インターセクションHIの最大値が複数ある場合には、平坦部分の中央を最大値の位置としてもよい。
【0047】
ヒストグラム・インターセクションHIの最大値の探索が終了すると、そのヒストグラム・インターセクションHIが最大となる位置を、透視投影パラメータの初期位置に設定する(ステップS35)。
【0048】
図12は、ヒストグラム・インターセクションHIが最大となる位置での撮影画像101とDRR画像102のX方向の正規化積分プロファイルを示すグラフである。
図13は、ヒストグラム・インターセクションHIが最大となる位置での撮影画像101とDRR画像102のY方向の正規化積分プロファイルを示すグラフである。
図14は、
図12および
図13に示すヒストグラム・インターセクションHIが最大となる位置で初期パラメータを調整した後の撮影画像101とDRR画像102の重ね合わせ画像103を示す概要図である。
図14中においては、撮影画像101に由来する患者57の頭部像を実線で示し、DRR画像102に由来する患者57の頭部像を破線で示している。
【0049】
図12に示すように、撮影画像101とDRR画像102のX方向の正規化積分プロファイルは、相互に類似している。
図13に示すように、Y方向の正規化積分プロファイルもまた、相互に類似している。なお、撮影画像101の正規化積分プロファイルとDRR画像102の正規化積分プロファイルとでは、患者57の位置や角度の違い等によりヒストグラムの形状そのもの異なるものとなることから、完全に一致することはない。すなわち、両正規化積分プロファイルが最も類似している位置は、撮影画像101とDRR画像102が重なる位置と厳密に一致するとは限らない。しかし、初期パラメータの調整(ステップS3)を行う目的は、後段の最適化(ステップS4)において、最適化演算時の解が局所解に陥ることを防止するために、透視投影ジオメトリを現実のX線撮影系のジオメトリにより近づけることにある。すなわち、最適化演算を開始する前の初期パラメータの調整という観点からすれば、上述した手順(ステップS31〜ステップS34)により得られた、撮影画像101とDRR画像102の正規化積分プロファイルが最も類似する位置を最適化演算前の初期位置とすることは、患者57の位置の粗調整の精度としては十分に実用的な範疇にあると言える。
【0050】
なお、上述した
図4から
図14を参照した例では、撮影画像101とDRR画像102がX線管25からX線検出器23へのX線照射軸を画像中心とするX―Y平面の2次元画像の場合を説明したが、X線管26からX線検出器24へのX線照射軸を画像中心とするY−Z平面の2次元画像についても同様の手順により最適化演算前の初期位置を自動で決定することができる。
【0051】
初期パラメータの調整が終わると、
図14に示す撮影画像101とDRR画像102の重ね合わせ画像103が、粗位置調整後の画像として、表示部47に表示される。そして、透視投影パラメータの最適化を実行し、現在の患者57の位置とCT画像データ取得時の患者57の位置との間での位置ずれ量を算出する(ステップS5)。位置ずれ量は、治療台27の移動量に換算され、治療台移動制御部32の作用により、治療台27の移動が実行される(ステップS6)。
【0052】
治療台27が移動した後に、再度、撮影画像が取得され、表示部47に表示される画像の操作者の目視による確認や、撮影画像101とDRR画像102のずれ量が、治療ビームの照射位置の誤差範囲として許容される範囲内にあるか否かの自動判定による確認が実行される(ステップS7)。患者57の位置決めが適正に行われたことが確認された後、X線検出器23およびX線検出器24を
図1に実線で示す位置に移動させ、患者57の患部に治療ビームを照射する放射線治療が実行される(ステップS8)。
【0053】
従来では、最適化演算の最初のステップでDRR画像を作成していたが、上述した実施形態では、初期パラメータの調整前にDRR画像102を作成している。なお、このDRR画像102をそのまま最適化演算に用いることができる。
【0054】
上述した実施形態では、放射線治療装置10に位置決め装置40を適用した例を説明したが、例えば、心臓カテーテル治療を行う際に使用されるX線透視台に、この発明の位置決め装置を適用して、先にX線CT装置により取得した心臓の3次元画像と現在の患者の位置を合わせることも可能である。