【実施例】
【0044】
方法:
1.対象食材や飲用:主として沖縄県国際通りの公設市場で食材又は飲用として販売されている、以下に示す22種類の植物・果物由来の食材液等を求めた。各食材液等を1,500 rpm、15分間遠沈して上清を得た(以下、この上清を食材液原液と記載する。)。
1. うっちん(ウコン)茶 2. マンゴー搾汁 3. ドラゴンフルーツ搾汁
4. シークワーサー搾汁 5. タンカン搾汁 6. サンピン茶
7. トマト搾汁 8. よもぎ茶 9. 朝鮮人参搾汁
10. ウーロン茶 11. 緑茶 12. アセロラ搾汁 13. レンプ搾汁
14. ハブ酒 15. 島バナナ搾汁 16. パッションフルーツ搾汁
17. スナックパイン搾汁 18. パパイヤ搾汁 19. グワバ搾汁
20. リンゴ搾汁 21.ピーチパイン搾汁 22. 八重山青木搾汁
【0045】
2.測定:Nesfatin-1に高感度で特異性の高いサンドウイッチタイプのNesfatin-1 ELISA(ヒトネスファチン-1 ELISA キット、シバヤギ社製)を用いて上記食材液原液を測定した。Nesfatin-1が測定可能な食材液原液では、脳視床下部で食欲調節に関与し、脂肪細胞に発現してヒト血中に存在するレプチン及びアデイポネクチンの各濃度を、各々の成分を特異的に測定するELISAキット(Mercodia社製)を用いて更に測定した。
【0046】
3.食欲抑制効果−1:食材液原液の食欲抑制作用を検討するために、体重約25gの雄マウスを用いた。上記方法1で得られた食材液原液、及び、これを生理食塩水で1/4、1/16に希釈した希釈液の各々0.5 mlずつを、マウス(n=4)の腹腔内に暗期(19:30消灯、12時間サイクル、室温25℃)直前に投与して、マウスの摂食量を経時的に測定した。対照は生理食塩水投与群とした。データは棒グラフ(平均値±標準誤差)で示した。各群の有意差検定はOne-way analysis of variance (ANOVA)により求めた。
【0047】
4.食材液原液の構成成分の分子量による分画・分取:通常、残留する成分の分子量の少なくとも1/2以下の分画分子量膜が使用されるので、Nesfatin-1の推定分子量(ヒトNesfatin-1の分子量9,695ダルトン)を基に、分子量分画3,000ダルトン膜材質である、分子量分画フイルター装置(centrifugal filter devise)のCentriprep 3K (Merck Millipore社製)を用いた。上記方法1で得られた食材液原液中に含まれる構成成分を、Nesfatin-1を含む分子量3,000ダルトン以上の成分(以下、>3,000成分は同意とする。)からなる残留液と、分子量3,000ダルトン以下の小分子量成分(以下、<3,000成分は同意とする。)からなる濾過液に分画するために、上記、分子量分画フイルター装置を用いて、食材液原液を3,600 rpmで120分間遠沈して、更に3,600 rpmで60分間遠心後、残る残留液と、フイルターを透過した濾過液に分画・分取した。分子量分画フイルター装置で得られた>3,000成分残留液と、食材液原液の蛋白濃度を、紫外吸収法(波長280 nm)で吸光度計により測定した。食材液原液、及び分子量分画フイルター装置で分画して得られた>3,000成分残留液と<3,000成分濾過液のカリウム(分子量39ダルトン)濃度をイオン電極選択法で測定し、Nesfatin-1濃度を上記方法2に記載したNesfatin-1 ELISAで測定した。又、食材液原液のアミノ酸をアミノ酸自動分析法により測定した。
【0048】
5.食欲抑制効果−2:八重山青木果実の食材液原液より得られた>3,000成分液(残留液)の投与は、食材液原液の投与で認められる食欲抑制作用より、長時間作用するか否かについて検討した。上記方法4で得られた>3,000成分を含む残留液、及び、上記方法1で得られた食材液原液を、上記方法3と同様に0.5 mlずつ、マウス(n=4)の腹腔内に投与して、マウスの摂食量を経時的に測定した。対照は生理食塩水投与群とした。データは棒グラフ(平均値±標準誤差)で示した。各群の有意差検定はOne-way analysis of variance (ANOVA)により求めた。
【0049】
6.食欲抑制効果−3:八重山青木果実の食材液原液より得られた>3,000成分液(残留液)の投与は、食材液原液の投与で認められる食欲抑制作用より、強い効果を示すか否かについて検討した。上記方法4で得られた>3,000成分を含む残留液、及び、これを生理食塩水で1/4、1/16に希釈した希釈液の各々0.5 mlずつを、上記方法3と同様にマウス(n=4)の腹腔内に投与して、マウスの摂食量を経時的に測定した。対照は生理食塩水投与群とした。データは棒グラフ(平均値±標準誤差)で示した。各群の有意差検定はOne-way analysis of variance (ANOVA)により求めた。
【0050】
7.食欲抑制効果−4:八重山青木果実の食材液原液より得られた小分子量の<3,000成分液(濾過液)が食欲抑制作用を示すか否かについて検討した。上記方法4で得られた、八重山青木果実の食材液原液の<3,000成分を含む濾過液、及び、上記方法1で得られた食材液原液を、上記方法3と同様に0.5 mlずつマウス(n=4)の腹腔内に投与して、マウスの摂食量を経時的に測定した。対照は生理食塩水投与群とした。データは棒グラフ(平均値±標準誤差)で示した。各群の有意差検定はOne-way analysis of variance (ANOVA)により求めた。
【0051】
8.条件付け味覚嫌悪感嗜好効果:嘔気や嘔吐、嫌悪感、味覚障害等を誘導する物質でも、食欲は非特異的に抑制される。食材液原液、>3,000成分を含む残留液、並びに<3,000成分を含む濾過液による食欲抑制効果が、非特異的作用か否かについてconditioned taste aversive test(条件付け味覚嫌悪感嗜好性試験)法を用いて検討した。水の入った2つのボトルで、1日2時間(午前10:00〜12:00)だけの摂水スケジュールへの順化を5日間行ったマウスを、実験6日目にサッカリ(0.15%)の入った2つのボトルを設置して30分間摂水させた。その後、各食材成分、生理食塩水、又は塩化リチウム(分子量 42.4ダルトン)液の0.5 mlずつをマウス(n=5)の腹腔内に投与して、サッカリン溶液味覚に対する嫌悪感学習の条件付けを形成した。その後は、90分間水の入った2つのボトルで摂水させた。実験7日目は水の入った2つのボトルで2時間の摂水を行った。実験8日目は水又はサッカリン溶液の入った2つのボトルを設置して、30分間摂水させ、サッカリン溶液摂水の嗜好性比率(サッカリン摂水量÷2ボトル全体の摂水量)を測定した。各食材液成分の投与量は、摂食量を1/2に抑制する量として、上記方法1で得られた食材液原液の1/4生理食塩水希釈液、並びに上記方法4で得られた>3,000成分を含む残留液の1/16生理食塩水希釈液と<3,000成分を含む濾過液原液を用いた。又、非特異的に摂食量を抑制して、サッカリン嗜好性摂水量を抑制する成分として塩化リチウム液を投与(3 nmo/体重kg)した。対照は生理食塩水投与群とした。データは棒グラフ(平均値±標準誤差)で示した。各群の有意差検定はOne-way analysis of variance (ANOVA)により求めた。
【0052】
結果:
1.食材液原液のNesfatin-1測定 1:食材液原液の各々についてNesfatin-1 ELISAで測定した結果、八重山青木の果実の食材液原液だけがNesfatin-1を比較的高濃度に含有することが初めて発見された。一方、他の食材液原液はNesfatin-1を殆ど含有していなかった。尚、八重山青木の果実は約3ヶ月間に亘り熟成発酵したものであった。
図1に八重山青木の果実の食材液原液でNesfatin-1を測定した濃度希釈曲線を示す。その食材液原液の各希釈濃度とNesfatin-1実測濃度値は強い正の相関(r
2=0.98257)にあり、当該食材液原液はNesfatin-1を含むことを示す。尚、
図1の縦軸はNesfatin-1濃度(ng/ml)を、横軸は八重山青木の果実の食材液原液の希釈倍率を示す。一方、八重山青木の果実の食材液原液では、レプチンならびにアデイポネクチンの測定はできなかった。
【0053】
2.食材液原液のNesfatin-1測定 2:製造元の異なる6種類の八重山青木の果実の食材液原液について測定したところ、全ての八重山青木の果実の食材液原液においてNesfatin-1の測定が可能であり、その濃度は1.04〜61.30 ng/ml(平均12.8 ng/ml)であった。上記の結果から、食欲抑制効果等の測定は、八重山青木の果実の食材液原液について行った。
【0054】
3.食欲抑制効果−1:八重山青木の果実の食材液原液並びにこれを生理食塩水で1/4、1/16に希釈した液をマウスの腹腔内に投与して、摂食量を測定したところ、
図3〜
図4に示す様に、八重山青木の果実の食材液原液は、その濃度依存性に摂食量を抑制した。食材液の投与後1〜2時間における、摂食量を1/2に抑制する希釈濃度は1/4であった。又、
図4に示す様に、八重山青木の果実の食材液原液投与群は、投与12時間以上経過しても摂食量を抑制していたが、投与24〜48時間経つと、その抑制効果は認められなかった。これらの成績は、八重山青木の果実の食材液は濃度依存性に食欲を抑制し、その抑制効果は24時間以上経過すると、消失することを示す。投与前の体重(BW)と24時間摂食量の結果を
図2に、投与後の摂食量の経時的変化量を
図3〜
図4に示す。尚、
図3〜
図4において、縦軸は累積摂食量(g)を、横軸は投与後の経過時間(h)を示し、白抜きの棒グラフは生理食塩水投与群を、斜線の棒グラフは八重山青木の果実の食材液原液の1/16希釈液投与群を、網掛けの棒グラフは1/4希釈液投与群を、黒色の棒グラフは食材液原液投与群を、それぞれ示す。又、
図3〜
図4における*、**は、棒グラフで示す相対群の作用に対する各有意差検定P<0.05、P<0.01を示す。
【0055】
4.分子量による分画・分取:八重山青木の果実の食材液原液を、分子量分画フイルター装置で分画して得た、>3,000成分を含む残留液の蛋白濃度は189〜219 mg/mlであり、食材液原液の蛋白濃度は50〜58 mg/mlであった。又、食材液原液中のカリウム含有濃度は46.6 mgであり、分子量分画フイルター装置で得た>3,000成分を含む残留液中のカリウム含有濃度は4.1 mgで、その残存率は平均8.8 %であった。一方、<3,000成分を含む濾過液中のカリウム含有濃度は44.2 mgで、その回収率は平均94.8 %と計算され、カリウム(分子量39ダルトン)などの小分子量成分は<3,000成分を含む濾過液中に含まれていた。又、使用した食材液原液のNesfatin-1濃度は46〜61(平均55)ng/mlで、分子量分画フイルター装置で得た>3,000成分を含む残留液のNesfatin-1濃度は1.372〜1.691(平均1.504)ng/mlであり、>3,000成分を含む残留液のNesfatin-1濃度は、食材液原液の濃度に比較して27倍に残留されていた。一方、<3,000成分を含む濾過液のNesfatin-1濃度は0.5〜10.3(平均3.1)ng/mlであり、食材液原液の濃度の5.6 %にすぎず、Nesfatin-1は>3,000成分を含む残留液中に残存していた。又、食材液原液のアミノ酸で、1 mg/ml濃度以上含有しているアミノ酸として、グルタミン酸(分子量 147ダルトン)、アスパラギン酸(分子量 133ダルトン)、アルギニン(分子量 174ダルトン)とアラニン(分子量 89ダルトン)があり、各々1.89 mg/ml、1.37 mg/ml、1.07 mg/ml、1.02 mg/mlが食材液原液に含有されており、これらの小分子量成分の殆どは、<3,000成分を含む濾過液中に存在することが計算された。
【0056】
5.食欲抑制効果−2(長時間作用):八重山青木の果実の食材液原液を、分子量分画フイルター装置で得た、>3,000成分を含む残留液の投与群は、
図6〜
図7に示す様に、著明な食欲抑制作用を示した。又、
図7に示す様に、食材液原液の投与群の食欲抑制作用は、投与24時間後には認められなくなったが、>3,000成分を含む残留液の投与群による食欲抑制作用は、更に長時間(投与後24時間〜48時間)持続した。これらの成績は、>3,000成分を含む残留液は食欲抑制の長時間作用効果を有することを示す。投与前の体重(BW)と24時間摂食量の結果を
図5に、投与後の摂食量の経時的変化量を
図6〜
図7に示す。尚、
図6〜
図7において、縦軸は累積摂食量(g)を、横軸は投与後の経過時間(h)を示し、白抜きの棒グラフは生理食塩水の投与群を、黒色の棒グラフは八重山青木の果実の食材液原液の投与群を、網掛けの棒グラフは>3,000成分を含む残留液の投与群を、それぞれ示す。**は生理食塩水投与群の作用(
図6)又は棒グラフで示す相対群の作用(
図7)に対する有意差検定P<0.01を示す。
【0057】
6.食欲抑制効果−3(増強作用):八重山青木の果実の食材液原液を分子量分画フイルター装置で分画して得た、>3,000成分を含む残留液並びにこれを生理食塩水で1/4、1/16に希釈した液をマウスの腹腔内に投与して、摂食量を測定した。
図9〜
図10に示す様に、>3,000成分を含む残留液は、その濃度依存性に摂食量を抑制した。>3,000成分を含む残留液の投与後1〜2時間の摂食量を1/2に抑制する希釈濃度は1/16であり、その食欲抑制効果は食材液原液の約4倍強いことが判明した。又、その食欲抑制効果は、投与後24時間経過しても持続していた。これらの成績は、>3,000成分を含む残留液は食欲抑制の増強作用効果も有することを示す。投与前の体重(BW)と24時間摂食量の結果を
図8に、投与後の摂食量の経時的変化量を
図9〜
図10に示す。尚、
図9〜
図10において、縦軸は累積摂食量(g)を、横軸は投与後の経過時間(h)を、白抜きの棒グラフは生理食塩水投与群を、斜線の棒グラフは>3,000成分を含む残留液の1/16希釈液投与群を、網掛けの棒グラフは1/4希釈液投与群を、黒色の棒グラフは残留液原液投与群を、それぞれ示す。
図9〜
図10における*、**は生理食塩水投与群の作用に対する各有意差検定P<0.05、P<0.01を示す。
【0058】
7.食欲抑制効果−4(小分子量成分):八重山青木果実の食材液原液を、分子量分画フイルター装置で分画して得た、小分子量の<3,000成分を含む濾過液の投与群は、
図12〜
図13に示す様に、食欲を抑制し、その抑制作用は食材液原液の投与群で認められる作用と同等であった。カリウムやアミノ酸などの小分子量成分はこの濾過液に含まれる。しかし、
図13に示す様に、<3,000成分を含む濾過液投与群による食欲抑制作用は、食材液原液投与群の作用と同様、投与24時間後には認められなくなった。これらの成績は、小分子量<3,000成分液は食欲抑制効果を有するが、増強作用や長時間作用を有さないことを示す。投与前の体重(BW)と24時間摂食量の結果を
図11に、投与後の摂食量の経時的変化量を
図12〜
図13に示す。尚、
図12〜
図13において、縦軸は累積摂食量(g)を、横軸は投与後の経過時間(h)を、白抜きの棒グラフは生理食塩水の投与群を、黒色の棒グラフは八重山青木果実の食材液原液の投与群を、網掛けの棒グラフは<3,000成分を含む濾過液の投与群を、それぞれ示す。
図12〜
図13における*、**は生理食塩水投与群の作用に対する各有意差検定P<0.05、P<0.01を示す。
【0059】
8.条件付け味覚嫌悪感嗜好効果:塩化リチウムの投与は、
図14に示す様にサッカリン嗜好性摂水量を著しく抑制したが、食材液原液、>3,000成分を含む残留液、並びに<3,000成分を含む濾過液の投与は、サッカリン嗜好性摂水量を抑制しなかった。これらの成績は、八重山青木果実の食材液原液、>3,000成分を含む残留液、並びに<3,000成分を含む濾過液による食欲抑制効果は、非特異的作用でないことを示す。各液投与後のサッカリン嗜好性摂水量の変化を
図14に示す。尚、
図14において、縦軸はサッカリン溶液摂水の嗜好性比率を、白抜きの棒グラフ(A)は生理食塩水の投与群を、黒色の棒グラフ(B)は八重山青木果実の食材液原液投与群を、斜線の棒グラフ(C)は>3,000成分を含む残留液投与群を、網掛けの棒グラフ(D)は<3,000成分を含む濾過液投与群を、灰色の棒グラフ(E)は塩化リチウム投与群を、それぞれ示す。**は生理食塩水投与群の作用に対する有意差検定P<0.01を示す。
【0060】
これまで、長年にわたり市場等で販売されている多くの食材液等の中で、八重山青木に由来する食材液成分、例えばその果実の搾汁液における食欲抑制作用について検討した実験データや、実際に八重山青木の果実の食材液を用いて食欲抑制作用を検討した実験データはない。これに対し本発明は、八重山青木の果実の食材液が食欲抑制分子Nesfatin-1を含有していることを初めて証明すると共に、八重山青木に由来する成分、例えばその果実の搾汁液に含有される食欲抑制組成物は、その濃度依存性に食欲抑制作用を示すことを見出した。
【0061】
加えて、分子量分画フイルター装置で処理して>3,000成分を含む残留液とした八重山青木の果実に由来する食材液成分の食欲抑制組成物は、未処理の食材液成分の食欲抑制組成物による食欲抑制の増強作用効果及び長時間作用効果を有し、その食欲抑制効果は非特異的作用でないことを初めて証明した。
【0062】
又、分子量分画フイルター装置で処理して小分子量の<3,000成分を含む濾過液とした食材液成分についても、食欲抑制の増強作用効果や長時間作用効果は認められないが、食欲抑制効果が認められており、八重山青木に由来する複数のアミノ酸などの小分子量成分、例えばその果実の搾汁液を含有する食欲抑制組成物は食欲抑制効果を示し、その食欲抑制効果は非特異的作用でないことを初めて証明した。
【0063】
従って、本発明は食欲抑制組成物として極めて優れている。