(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351035
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】耐汚染性艶消し水性塗料組成物及び耐汚染性艶消し塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 125/08 20060101AFI20180625BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20180625BHJP
C09D 7/42 20180101ALI20180625BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20180625BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20180625BHJP
B05D 5/02 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
C09D125/08
C09D5/02
C09D7/42
C09D5/16
B05D5/00 H
B05D5/02
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-164409(P2014-164409)
(22)【出願日】2014年8月12日
(65)【公開番号】特開2016-40349(P2016-40349A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2017年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛
【審査官】
磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−021514(JP,A)
【文献】
特開平05−025421(JP,A)
【文献】
特開2009−280787(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/129488(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/108880(WO,A1)
【文献】
特開2007−144384(JP,A)
【文献】
特開2012−092289(JP,A)
【文献】
特開2005−075839(JP,A)
【文献】
特開2004−217897(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/077879(WO,A1)
【文献】
室井宗一著,建築塗料における高分子ラテックスの応用,株式会社工文社,1983年 4月15日,第1版第1刷,48-57,72-75,82-87,99-101,112-115,178-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 125/08
B05D 5/00
B05D 5/02
C09D 5/02
C09D 5/16
C09D 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性樹脂(A)、顔料分(B)及びグリコールエーテル化合物(C)を含む水性塗料組成物であって、
水性樹脂(A)が、樹脂のガラス転移温度が10℃以上にあり、且つ水性樹脂(A)固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にあるものであり、
顔料分(B)が、着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)及び(b2)以外の体質顔料(b3)を含み、
着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)、体質顔料(b3)及びグリコールエーテル化合物(C)の含有量が、水性樹脂(A)の固形分100質量部を基準として
(b1)が5質量部以上、
(b2)が60〜200質量部、
(b3)が20質量部以上、
(C)が5〜25質量部の範囲内にあり、顔料体積濃度が35%以上にあることを特徴とする耐汚染性艶消し水性塗料組成物。
【請求項2】
水性樹脂(A)が加水分解性シリル基を有することを特徴とする請求項1に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物。
【請求項3】
顔料分(B)に対する吸油量の合計量が、水性樹脂(A)の固形分100質量部あたり80ml以下にある請求項1または2に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物。
【請求項4】
光安定化剤を更に含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物。
【請求項5】
形成塗膜の押し込み硬さが5N/mm2以上にある請求項1ないし4のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物。
【請求項6】
基材面に、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物を塗装することを特徴とする耐汚染性艶消し塗膜形成方法。
【請求項7】
基材面に、形成塗膜の伸び率が50%以上にある下塗り塗料を塗装した後、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物を上塗り塗装することを特徴とする耐汚染性艶消し塗膜形成方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の方法により得られる塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐汚染性艶消し水性塗料組成物及びそれを用いた耐汚染性艶消し塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物等の内外壁塗装に対する顧客のニーズが多様化しており、外観の印象を左右する仕上がり艶への意識が変化しつつある。特に外壁では従来、高級感のある艶有り塗装仕上げが好まれていたが、落ち着いた外観を有する低光沢のいわゆる艶消し塗装仕上げの要望が高まっている。
【0003】
一般に、艶消し塗装仕上げとするための艶消し塗料は、樹脂の屈折率差を利用する方法;ワックス類を添加する方法;シリカや体質顔料等の艶消し顔料を添加し、塗膜表面に凹凸を形成させる方法等によって設計される。
【0004】
しかしながら、樹脂の屈折率差を利用する方法は艶消し効果に限界があり、60度鏡面光沢度が5以下の完全艶消しにすることが難しい。また、ワックス類を添加する方法は耐汚染性に劣ったり、隠蔽性が低下したりする問題がある。そのため、艶消し顔料を添加する方法が種々開発されており、例えば特許文献1には、二酸化チタン、多孔質の炭酸カルシウム及び水性樹脂を含む艶消し水性塗料組成物が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の水性塗料組成物によれば、低光沢であり、また、高い拡散反射率を有する塗膜が得られるものであるが、艶を消すために艶消し顔料の配合量を多くしなければならないため、艶消し感はあっても塗膜の伸び率や破断強度が低くなり、下地の変形に追従できずにワレやハガレが起こることがあった。
【0006】
こうした問題に対し特許文献2には、ガラス転移温度が特定範囲のカルボニル基含有共重合体エマルジョン、特定量のポリヒドラジド化合物及び顔料体積濃度が特定範囲の顔料分を含む水性艶消し塗料が、特許文献3には、ガラス転移温度が特定範囲の合成樹脂エマルション、有機質粉体を艶消し剤として含む顔料体積濃度が特定範囲の水性塗料組成物が開示されている。
【0007】
特許文献2及び3に記載の塗料によれば艶消しの外観が表示でき、下地への追従性にも優れるものであるが、このものを外壁などの屋外塗装に適用した場合、長期の暴露により塗膜が汚れやすい問題があるために、耐汚染性に優れる水性艶消し塗料の開発が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−92289号公報
【特許文献2】特開平11−21514号公報
【特許文献3】特開2005−320496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、長期にわたり耐汚染性と耐候性を両立でき、下地追従性にも優れた艶消しタイプの水性塗料組成物及びこれを用いた塗膜形成方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題について鋭意検討した結果、特定の水性樹脂に、特定組成の顔料分及びグリコールエーテル化合物を特定量配合することによって、艶消し感を有し、耐汚染性、耐候性及び下地追従性に優れた塗膜が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち本発明は、
水性樹脂(A)、顔料分(B)及びグリコールエーテル化合物(C)を含む水性塗料組成物であって、
水性樹脂(A)が、樹脂のガラス転移温度が10℃以上にあり、且つ水性樹脂(A)固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にあるものであり、
顔料分(B)が、着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)及び(b2)以外の体質顔料(b3)を含み、
着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)、体質顔料(b3)及びグリコールエーテル化合物(C)の含有量が、水性樹脂(A)の固形分100質量部を基準として
(b1)が5質量部以上、
(b2)が
60〜200質量部、
(b3)が20質量部以上、
(C)が5〜25質量部の範囲内にあり、顔料体積濃度が35%以上にあることを特徴とする耐汚染性艶消し水性塗料組成物、該耐汚染性艶消し水性塗料組成物を塗装することを特徴とする耐汚染性艶消し塗膜形成方法、該耐汚染性艶消し塗膜形成方法により得られる塗装物品、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐汚染性艶消し水性塗料組成物によれば、艶消しの落ち着いた雰囲気の外観が安定して得られ、また、艶消し度合いが高い塗膜で、屋外暴露などの厳しい環境下においてもワレなどが発生しにくく、耐候性に優れると共に降雨水等による耐汚染性も備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の耐汚染性艶消し水性塗料組成物は、水性樹脂(A)、顔料分(B)及びグリコールエーテル化合物(C)を含む。
【0014】
<水性樹脂(A)>
本発明における水性樹脂(A)は、水溶解性であっても水分散性であってもよく、塗膜形成能を有するものであれば特に制限なく従来公知ものを使用でき、例えば、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッソ系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、メラミン樹脂等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。また、これらの樹脂は、例えば、ウレタン変性アクリル樹脂のように変性されていてもよく、又はグラフト重合されたものであってもよく、或いは分散粒子の形態であってもよい。
【0015】
水性樹脂(A)は、分散粒子の形態である場合には、単層構造(均質な粒状)又はコア・シェル構造等の多層構造を有することができ、コア・シェル構造の場合、コア及び/又はシェルは架橋されていてもよい。
【0016】
本発明において上記水性樹脂(A)は、樹脂のガラス転移温度が10℃以上にあり、水性樹脂(A)固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にあることを特徴とする。
【0017】
本明細書において樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば下記FOX式を用いて算出することができる。
【0018】
1/Tg=W
1/Tg
1+W
2/Tg
2+・・・+W
n/Tg
n
上記FOX式において、Tgは、n種類のモノマーからなるポリマーのガラス転移温度(K)であり、Tg
1、Tg
2、・・・Tg
nは、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)であり、W
1、W
2・・・W
nは、各モノマーの質量分率であり、W
1+W
2+・・・+W
n=1である。
【0019】
水性樹脂(A)の樹脂のガラス転移温度が10℃未満では、艶消し塗膜の耐汚染性が不十分となり好ましくない。
【0020】
より好ましい水性樹脂(A)の樹脂のガラス転移温度は15℃〜60℃の範囲内である。
【0021】
また、水性樹脂(A)固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%を超えると、本発明塗料組成物から形成される塗膜の下地追従性と耐候性が共に低下し、好ましくない。
【0022】
本発明において水性樹脂(A)は、具体的には芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体を挙げることができる。
【0023】
かかる芳香族ビニル化合物としてはスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。
【0024】
(メタ)アクリロイル基含有化合物として、1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状のアルキル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有(メタ)アクリロイルモノマー;N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートのようなアミノ基含有(メタ)アクリロイルモノマー;(メタ)アクリルアミド;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体、分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖含有(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリロイルモノマー;(メタ)アクリル酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のカルボニル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリロイルモノマー;イソシアナトエチル(メタ)アクリレート等のイソシアナト基含有(メタ)アクリロイルモノマー;γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有(メタ)アクリロイルモノマー;ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の酸化硬化性基含有(メタ)アクリロイルモノマー等が挙げられる。
【0025】
1分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えばアリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
これら(メタ)アクリロイル基含有化合物はそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
また、その他の重合性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;;トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン等の1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する多ビニル化合物;アリルアルコール;マレイン酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクロレイン、ホルミルスチロール、炭素数4〜7のビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等)、アセトアセトキシアリルエステル等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー;アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアナト基含有重合性不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマー;フルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル、パーフルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル等のフルオロビニルエーテル;上記エポキシ基含有重合性不飽和モノマー又は水酸基含有重合性不飽和モノマーと不飽和脂肪酸との反応生成物等の酸化硬化性基含有重合性不飽和モノマー等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
本発明において水性樹脂(A)は、加水分解性シリル基を有するものであることが望ましい。これにより形成塗膜の耐汚染性を早期から発現させることができるからである。
【0029】
水性樹脂(A)に加水分解性シリル基を導入するために用いられるモノマーとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマーを挙げることができ、単独で又は3種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
上記モノマーの重合方法は、特に制限されるものではなく、例えば、一般的な乳化重合法に従い、重合開始剤、乳化剤の存在下に、上記モノマーを(共)重合させることにより行うことができる。
【0031】
該重合開始剤は、熱または還元剤の存在下でラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、無機系開始剤、有機系開始剤のいずれも使用することができる。
【0032】
該乳化剤としては、それ自体既知の乳化剤を使用することができ、具体的には、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤が挙げられ、また、重合性不飽和基とアニオン性基又はノニオン性基の両者を分子中に含有する反応性界面活性剤等を使用することもできる。
【0033】
その使用量は、全重合性不飽和モノマーの合計質量を基準にして、通常0.5〜6質量%、好ましくは1〜4質量%の範囲内であることができる。
【0034】
また、水性樹脂(A)が酸基を有する場合、これら酸基は、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル−2−アミノ−1−プロパノール等のアミン類;アンモニア等の塩基で部分的に又は実質的に完全に中和されたものであってもよい。
【0035】
モノマーの(共)重合には必要に応じて連鎖移動剤、pH調整剤、溶剤を使用してもよい。
【0036】
このようにして生成する水性樹脂(A)は、通常50〜500nm、好ましくは100〜400nm、さらに好ましくは100〜300nmの範囲内の平均粒子径を有することができる。
【0037】
本明細書において、水性樹脂(A)の平均粒子径は、コールターカウンターN4(商品名、ベックマン・コールター株式会社製、粒度分布測定装置)にて、試料を脱イオン水にて測定に適した濃度に希釈して、常温(20℃程度)で測定される値である。
【0038】
<顔料分(B)>
本発明の水性塗料組成物において使用される顔料分(B)は、着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)及び(b2)以外の体質顔料(b3)を含む。
【0039】
本発明において着色顔料(b1)は、本発明水性塗料組成物から形成される塗膜に色味と隠蔽性を付与するために使用され、塗料用として公知の着色顔料、具体的には酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、鉛白(炭酸亜鉛)等の白色顔料;酸化鉄、ペリレン顔料、アゾ顔料、黄鉛、弁柄、朱、チタニウムレッド、カドミウムレッド、キナクリドンレッド、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、コバルトブルー、インダスレンブルー、群青、及び紺青等の着色顔料;アルミニウム顔料、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、酸化チタンや酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタンや酸化鉄で被覆された雲母、ホログラム顔料等の光輝性顔料;カーボンブラックなどの黒色顔料;等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0040】
薄片状体質顔料(b2)としては、具体的には、タルク、マイカ、ガラスフレークなどが挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0041】
該薄片状体質顔料(b2)によって、屋外などの厳しい条件であっても耐ワレ性に優れた耐汚染性艶消し塗膜が得られるという効果がある。
【0042】
(b2)以外の体質顔料(b3)は、体質顔料として公知のものを使用することができる。具体的には、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリンクレー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。該顔料(b3)によって形成塗膜に艶消し感を与える効果がある。
【0043】
また、本発明では、顔料分(B)の吸油量の合計量Aが、水性樹脂(A)の固形分100質量部あたり80ml以下、好ましくは10〜70mlの範囲内にあることが望ましい。該吸油量の合計量Aがこの範囲内にあることによって形成される塗膜の耐ワレ性に効果がある。
【0044】
本明細書において顔料分(B)の吸油量の合計量A(ml)は、本発明の水性塗料組成物における水性樹脂(A)の固形分100質量部あたりの顔料分(B)が吸収する煮アマニ油の量(ml)であり、以下のようにして算出することができる。
【0045】
A(ml)=〔顔料(b1)の吸油量/100×水性樹脂(A)固形分100質量部あたりの顔料(b1)の質量〕+〔顔料(b2)の吸油量/100×水性樹脂(A)固形分100質量部あたりの顔料(b2)の質量〕+・・・〔顔料(bn)の吸油量/100×水性樹脂(A)固形分100質量部あたりの顔料(bn)の質量〕
吸油量(ml/100g)とは、JIS K 5101−13−2:2004に規定されている方法によって求められる値であり、顔料100gに吸収される煮アマニ油の量(ml)で表わされるものである。
【0046】
また、本発明においては上記着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)及び体質顔料(b3)の使用割合としては、目的とする色調、艶消し度合いによって異なるが水性樹脂(A)固形分を基準として一般に、
着色顔料(b1)が、5質量部以上であり、好ましくは10〜120質量部、
薄片状体質顔料(b2)が、50質量部以上であり、好ましくは60〜200質量部、
体質顔料(b3)が、20質量部以上であり、好ましくは20〜150質量部、
の範囲内にあることができる。
【0047】
顔料(b1)が5質量部未満では形成塗膜の隠蔽力が劣り、顔料(b2)が50質量部未満では形成塗膜の耐候性、耐汚染性、下地追従性が不十分であり、顔料(b3)が20質量部未満では、形成塗膜に艶ムラができることがあり好ましくない。
【0048】
また、本発明において顔料分(B)の顔料体積濃度は35%以上にあるものであり、好ましくは35〜60%の範囲内にあることが適している。
【0049】
顔料体積濃度が35%未満では艶消し塗膜の艶消し感、耐汚染性が不十分となり、好ましくない。
【0050】
本明細書において、「顔料体積濃度」は、塗料中の全樹脂分と全顔料との合計固形分に占める当該顔料分の体積割合である。
【0051】
顔料の体積を算出する際のもとになる顔料の比重は、「塗料原料便覧第6版」(社団法人日本塗料工業会)によるものであり、また、樹脂固形分の比重は1と近似するものとする。
【0052】
<グリコールエーテル化合物(C)>
本発明の水性塗料組成物はグリコールエーテル化合物(C)を含む。
【0053】
該グリコールエーテル化合物(C)を含むことにより、造膜性を向上させ、下地追従性を向上させるという効果がある。
【0054】
このようなグリコールエーテル化合物(C)の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ポリエチレンオキサイド、エチレングリコールモノメチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも特に沸点が200℃以上の化合物を使用することが適している。
【0055】
また、グリコールエーテル化合物(C)の含有量としては、水性樹脂(A)の固形分100質量部を基準として5〜25質量部の範囲内にあるものであり、好ましくは7〜20質量部の範囲内がよい。
【0056】
グリコールエーテル化合物(C)の含有量が5質量部未満では形成塗膜の下地追従性が不十分であり、一方25質量部を越えると形成塗膜の耐汚染性が不十分となり、また、塗り重ね時に艶ムラが現れたりするなど外観に問題が生じるから好ましくない。
【0057】
<水性塗料組成物>
本発明の水性塗料組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ等の無機系艶消し剤、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等の有機系艶消し剤を使用することができる。これら艶消し剤の形状は不定形や球状、多面体状等制限なく使用できる。
【0058】
さらに、必要に応じて、水性樹脂(A)以外の改質用樹脂、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、中空粒子、アルキルシリケート、骨材、繊維、可塑剤、レベリング剤、タレ防止剤、蛍光増白剤、シランカップリング剤、増粘剤、中和剤、帯電防止剤、軟化剤、抗菌剤、香料、硬化触媒、pH調整剤、調湿剤、粉状もしくは微粒子状の活性炭、光触媒酸化チタン、水性撥水剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、造膜助剤、亜鉛ウィスカ、硬化促進剤、アルデヒド吸着剤、ワックス、難燃化剤等の公知の塗料用添加剤を含ませることができる。
【0059】
これらのうち光安定化剤としては例えば、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セパケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セパケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セパケート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゼル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシルエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重緒合物、ポリ〔16−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1.3.5−トリアジン−2,4−ジイル〕、〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕〕、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、(ミックスド1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ミックスド〔1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/β,β,β′−テトラメチル−3,9−〔2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカシ〕ジエチル〕ジエチル1−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート等のヒンダードアミン系光安定化剤が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0060】
かかる光安定化剤の配合量としては、水性樹脂(A)固形分100質量部を基準として0.5〜10質量部、好ましくは1〜5質量部の範囲内がよい。
【0061】
以上に述べた本発明の耐汚染性艶消し水性塗料組成物は、常温乾燥の条件でも硬い塗膜、具体的には形成塗膜の押し込み硬さが5N/mm
2以上、特に7〜35N/mm
2の範囲内にあることができ、耐汚染性を塗装後初期から発現させることができる。
【0062】
本明細書において塗膜の押し込み硬さはフィッシャースコープHM2000Sを用いて
最大荷重25mNまで押し込んだときのマルテンス硬度を測定した値とする。
【0063】
<耐汚染性艶消し水性塗料組成物を用いた塗膜形成方法>
本発明の耐汚染性艶消し水性塗料組成物は、基材表面に塗装することにより、耐汚染性に優れた艶消し塗膜を形成せしめることができる。
【0064】
本発明の水性塗料組成物を適用することができる基材表面としては、特に制限されるものではないが、例えば、石膏ボード、コンクリート板、コンクリートブロック、サイディングボード、モルタル板、スレート板、PC板、ALC板、セメント珪酸カルシウム板、レンガ、ガラス、木材、石材、プラスチック成形物、陶磁器、磁器タイル、鉄部、アルミサッシ等の金属加工材等の基材の表面;これら基材上に設けられたアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコン樹脂、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系等の塗膜面、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、紙、布等の材質からなる壁紙面等を挙げることができる。
【0065】
これら基材表面はシーラー等であらかじめ処理したものであってもよい。
【0066】
本発明の水性塗料組成物は耐候性と雨水などに対する耐汚染性に極めて優れ、且つ適度な下地追従性と艶消し感を有する塗膜を形成することができるため、建築物外壁に好適に施工することができる。
【0067】
建築物外壁の具体例には、例えば、ビル、家屋、施設、倉庫等の各種建築物の外壁面を例示することができ、この外壁面を構成するものとしては、一般的な外壁材であり、例えば、窯業系サイディングボード、モルタル、コンクリート、スレートなどの無機系外装材や、鉄、アルミニウム、金属サイディング等の金属系外装材や、天然木、合板等の木質系外装材等を挙げることができ、表面に旧塗膜が設けられたものも包含される。
【0068】
本発明の水性塗料組成物は、それ自体既知の塗装手段を用いて塗装を行うことができ、例えば、ローラー、エアスプレー、エアレススプレー、リシンガン、万能ガン、ハケ、ロールコーター等と塗装法から基材の種類、用途等に応じて適宜選択して使用することができる。また、本発明の水性塗料組成物は、塗膜外観を損なわない範囲で複数回塗り重ねることもできる。
【0069】
形成塗膜の乾燥は、常温乾燥で行うことができるが、使用した塗料組成物の組成や塗装環境等に応じて、加熱乾燥又は強制乾燥してもよい。
【0070】
乾燥膜厚は適用基材や塗装環境によって適宜調整できる。
【0071】
本発明の水性塗料組成物は、場合により、基材表面に予め下塗り塗料を塗装した後、形成される下塗り塗面上に塗装することができる。
【0072】
上記下塗り塗料としては、基材表面の種類や状態等に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、フッソ系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シリコン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、メラミン系樹脂、生分解性樹脂等の樹脂種よりなる水系又は溶剤系の樹脂を樹脂バインダーとして含んでなる塗料を挙げることができ、水系の樹脂を含んでなる水性塗料を使用することが好ましい。
【0073】
本発明の水性塗料組成物は艶消し感を与え、耐汚染性と耐候性を共に満足するものであるが、塗膜に柔軟性も備えているので、下塗り塗料として形成塗膜の伸び率が50%以上の下塗り塗料組成物を使用でき、該下塗り塗料組成物と共に変形の大きい基材面に適用することも十分可能である。
【0074】
上記下地形成用塗料の塗装は、それ自体既知の塗装手段を用いて行うことができ、例えば、ローラー、エアスプレー、エアレススプレー、リシンガン、万能ガン、ハケ、ロールコーター等の塗装法から基材の用途等に応じて適宜選択して使用することができる。形成される下塗り塗膜の乾燥は、常温乾燥が好ましいが、下塗り塗料の種類や塗装環境等に応じて、加熱乾燥又は強制乾燥を行うことができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、下記例中の「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0076】
水性樹脂の製造
製造例1
温度計、サーモスタット、撹拌器、及び滴下装置を備えた反応容器に脱イオン水350部、ニューコール707SF(注1)10部を仕込み、窒素気流中で撹拌混合し、85℃に昇温した。次いで下記組成の成分をエマルション化してなるプレエマルションの3%分及び2.5%過硫酸アンモニウム水溶液80部を反応容器内に添加し、85℃で20分間保持した。
脱イオン水 400部
スチレン 100部
メチルメタクリレート 520部
n−ブチルアクリレート 180部
2−エチルヘキシルアクリレート 180部
ヒドロキシエチルアクリレート 10部
メタクリル酸 10部
ニューコール707SF(注1) 80部
その後、残りのプレエマルションと2.5%過硫酸アンモニウム水溶液80部とを4時間かけて反応容器内に滴下し、滴下終了後2時間熟成を行った。その後、30℃まで冷却し、アンモニア水と脱イオン水を用いて固形分47%、pHが8.0となるように調整した。次いで、200メッシュのナイロンクロスで濾過しながら排出し、平均粒子径180nm、ガラス転移温度27℃の水性樹脂(A−1)を得た。
(注1)ニューコール707SF:商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤、不揮発分30%。
【0077】
製造例2〜4
上記製造例1においてモノマー組成を下記表1に示す配合とする以外は製造例1と同様にして合成し、水性樹脂(A−2)〜(A−4)を得た。
【0078】
【表1】
【0079】
白色顔料分散ペーストの製造
製造例5
ステンレス製容器に下記に示される各成分を撹拌しながら順次仕込み、PRIMIX社製ホモディスパーで30分間均一になるまで攪拌を続け白色顔料分散ペースト(B−1)を得た。
脱イオン水 230部
エチレングリコール 4部
スラオフ72N(注2) 1部
SP−600(注3) 1部
DISPER BYK−190(注4) 10部
BYK−028(注5) 4部
TI−PURE R−706(注6) 100部
TTKタルク(注7) 100部
スーパーS(注8) 50部
(注2)スラオフ72N:商品名、日本エンバイロケミカルズ社製、防腐剤、
(注3)SP−600:商品名、ダイセル化学工業社製、ヒドロキシエチルセルロース系増粘剤、
(注4)DISPER BYK−190:商品名、ビックケミー社製、顔料分散剤、
(注5)BYK−028:商品名、ビックケミー社製、消泡剤、
(注6)TI−PURE R−706:商品名、デュポン社製、二酸化チタン、比重4.0、吸油量14(ml/100g)、
(注7)TTKタルク:商品名、竹原化学工業製、タルク、比重2.7、吸油量27(ml/100g)
(注8)スーパーS:商品名、丸尾カルシウム社製、重質炭酸カルシウム、比重2.7、吸油量23(ml/100g)。
【0080】
製造例6〜9
上記製造例5において顔料組成を下記表2に示す配合とする以外は製造例5と同様にして白色顔料分散ペースト(B−2)〜(B−5)を得た。
【0081】
【表2】
【0082】
(注9)スーパー#1700:商品名、丸尾カルシウム社製、重質炭酸カルシウム、比重2.7、吸油量32(ml/100g)。
【0083】
黒色顔料ペーストの製造
製造例10
ステンレス製容器に下記に示される各成分を撹拌しながら順次仕込み、PRIMIX社製ホモディスパーで10分間均一になるまで攪拌した後、ペイントシェーカーで1時間分散して黒色分散液を得た。
脱イオン水 100部
DISPER BYK−190(注4) 10部
BYK−028(注5) 4部
TAROX BL−500(注10) 10部
次に、得られた黒色分散液124部に、脱イオン水130部、エチレングリコール1部、TTKタルク(注7)100部、スーパーS(注8)50部を加え、PRIMIX社製ホモディスパーで30分間均一になるまで攪拌を続け黒色顔料分散ペースト(B−6)を得た。
(注10)TAROX BL−500:商品名、チタン工業社製、黒色酸化鉄顔料、比重5.0、吸油量28(ml/100g)。
【0084】
水性塗料の製造
実施例1〜8及び比較例1〜7
ステンレス製容器に下記表3に示される各成分を撹拌しながら順次仕込み、PRIMIX社製ホモディスパーで15分間均一になるまで攪拌を続け水性塗料(C−1)〜(C−15)を得た。
また表3には各水性塗料の性状値を表記した。
【0085】
【表3】
【0086】
(注11)CS−12:商品名、チッソ社製、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、造膜助剤、
(注12)TINUVIN 292:商品名、BASF社製、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セパケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セパケート混合物、ヒンダードアミン系光安定化剤、
(注13)SNシックナー612N:商品名、サンノプコ社製、ウレタン会合型増粘剤。
【0087】
評価試験
実施例及び比較例で得られた水性塗料を下記評価に供した。結果を表3に併せて示す。
(*1)仕上がり性
フレキシブル板(600×900×4mm)に、「エコカチオンシーラー」(関西ペイント社製、水系カチオンエマルション系シーラー)を塗付量100g/m
2になるように中毛ローラーを用いて塗装し、温度23℃、相対湿度50%の条件下で18時間乾燥させた後、評価塗料を塗付量が120g/m
2になるようにフレキシブル板全面に中毛ローラーを用いて塗装した。同条件下で4時間乾燥させた後、その一部分に同じ塗料を塗付量が120g/m
2になるように中毛ローラーを用いて塗り重ねた。さらに、温度23℃、相対湿度50%の条件下で7日間乾燥させた後、塗膜表面の状態を目視にて評価した。
○:艶むらがなく、塗り重ねた部分が認識できない、
△:斜めから観察すると艶むらがあり、塗り重ねた部分が認識できる、
×:艶むらが著しく、どの角度から観察しても塗り重ねた部分が認識できる。
【0088】
(*2)耐汚染性
フレキシブル板(90×300×4mm)に、「エコカチオンシーラー」(関西ペイント社製、水系カチオンエマルション系シーラー)を塗付量100g/m
2になるように中毛ローラーを用いて塗装し、温度23℃、相対湿度50%の条件下で18時間乾燥させた。その後、評価塗料を1回あたりの塗付量が120g/m
2になるように2回塗装し、温度23℃、相対湿度50%の条件下で7日間乾燥させたものを耐汚染性の試験板とした。この試験板を東京都大田区の関西ペイント株式会社内にて南面30°になるように設置し、12ヵ月間暴露試験を行った。暴露後、L
*a
*b
*表色系で表される明度を色彩色差計(コニカミノルタ社製CR−300)で測定し、暴露前後の明度差の絶対値(ΔL)から耐汚染性を評価した。
○:ΔLが5未満、
△:ΔLが5以上9未満、
×:ΔLが9以上。
【0089】
(*3)下地追従性
フレキシブル板(70×150×4mm)に、「エコカチオンシーラー」(関西ペイント社製、水系カチオンエマルション系シーラー)を塗付量100g/m
2になるように刷毛を用いて塗装し、温度23℃、相対湿度50%の条件下で18時間乾燥させた後、JIS A 6909に規定の防水形複層塗材E主材をマスチックローラーで塗付量900g/m
2になるように塗装し、同条件下で24時間させた。次いで、評価塗料を1回あたりの塗付量が120g/m
2となるように刷毛を用いて塗装間隔4時間で2回塗り重ねた。その後、温度23℃、相対湿度50%の条件下で7日間乾燥させることにより試験板を作製した。以上の方法で得られた試験板を水浸漬(23℃)18時間→−20℃の気中3時間→50℃の気中3時間を1サイクルとする温冷繰り返し試験を合計10サイクル実施した後、塗膜表面のひび割れを目視によって確認した。
○:ひび割れ発生なし、
△:わずかにひび割れが認められる、
×:塗膜全面にわれが認められる。
【0090】
(*4)耐候性
フレキシブル板(70×150×4mm)に、「エコカチオンシーラー」(関西ペイント社製、水系カチオンエマルション系シーラー)を塗付量100g/m
2になるように刷毛を用いて塗装し、温度23℃、相対湿度50%の条件下で18時間乾燥させた後、評価塗料を1回あたりの塗付量が120g/m
2となるように刷毛を用いて塗装間隔4時間で2回塗り重ねた。次いで、温度23℃、相対湿度50%の条件下で7日間乾燥させたものを耐候性の試験板とした。これをJIS K 5600−7−7に規定されるキセノンランプ法試験に供し、照射1000時間後に塗膜表面の白亜化状態をJIS K 5600−8−6の規定に従い評価した。
◎:白亜化等級が1以下で、膨れ、はがれ、割れ等がなく、色の変化が見本板と比較して大きな変化がない、
○:白亜化等級が2以下で、膨れ、はがれ、割れ等がなく、色の変化が見本板と比較してわずかにある、
△:白亜化等級が3で、膨れ、はがれ、割れ等がなく、色の変化が見本板と比較して大きい、
×:白亜化等級が4以上で色の変化が見本板と比較して著しくある、または膨れ、はがれ、割れ等の異常が認められる。