【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一つの実施形態にかかるタービンハウジングは、
排気ガスによって回転するタービンホイールを収容するためのタービンハウジングであって、
前記タービンハウジングは、
前記タービンホイールの周囲において前記タービンホイールに供給される前記排気ガスが流れる環状のスクロール流路を形成するスクロール部と、
前記タービンホイールを通過した前記排気ガスが前記タービンホイールの軸線方向に沿って流れる排気流路を形成する排気管部と、
前記スクロール部と前記排気管部との接続部においてハブ側に迫り出して設けられるシュラウド部であって、前記シュラウド部の外周面は、前記スクロール流路に面するとともに、前記シュラウド部の内周面は、前記タービンホイールの動翼との間に所定の隙間を存して形成されるシュラウド部と、を含む鋳造製のタービンハウジングであって、
前記タービンホイールの軸線方向に沿った断面において、前記タービンホイールの軸線から前記シュラウド部の先端までの半径方向距離をR1、前記タービンホイールの軸線から前記スクロール部のハブ側壁面の内周端までの半径方向距離をR2としたときに、R1<R2となる半径R2を有する開口部が前記スクロール部のハブ側に形成され、
前記タービンホイールの軸線方向に沿った断面において、前記シュラウド部の先端よりも半径方向外側における前記スクロール流路に面する前記シュラウド部および前記スクロール部の流路面の内、前記シュラウド部の先端からの所定範囲を領域A、前記領域Aと隣接する所定範囲を領域Bとしたときに、前記領域Aにおける流路面の粗度が、前記領域Bにおける流路面の粗度よりも小さくなるように構成される。
【0009】
上記(1)に記載のタービンハウジングは、タービンホイールの軸線方向に沿った断面において、タービンホイールの軸線からシュラウド部の先端までの半径方向距離をR1、タービンホイールの軸線からスクロール部のハブ側壁面の内周端までの半径方向距離をR2としたときに、R1<R2となる半径R2を有する開口部がスクロール部のハブ側に形成されている。これに対して、
図12に示す従来の比較例のタービンハウジング2´における開口部16´では、その半径R2´は、R1´≧R2´の関係にある。
【0010】
このような従来よりも大きな開口部を有するタービンハウジングにあっては、この従来よりも大きな開口部を利用して、鋳造後にタービンハウジングの内部を加工することが可能となる。したがって、特に流速が大きく通気抵抗に与える影響の大きい、スクロール流路の内周側にあたる領域Aの流路面を加工し、その粗度を小さくすることで、タービンハウジングにおける排気ガスの通気抵抗を低減してターボチャージャの効率を向上させることが出来る。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のタービンハウジングにおいて、タービンホイールの外径をDとしたときに、領域Aの半径方向における存在範囲は、1.15Dから1.4Dの範囲の少なくとも一部を含むように構成される。
また、幾つかの実施形態では、領域Aの半径方向における存在範囲は、1.20Dから1.4Dの範囲の少なくとも一部を含むように構成される。
さらに、幾つかの実施形態では、領域Aの半径方向における存在範囲は、1.25Dから1.4Dの範囲の少なくとも一部を含むように構成される。
【0012】
上記(2)に記載の実施形態によれば、領域Aが、特に流速が大きく通気抵抗に与える影響の大きい、スクロール流路の内周側を少なくとも含むように構成される。このため、タービンハウジングにおける排気ガスの通気抵抗を低減してターボチャージャの効率を向上させることが出来る。
【0013】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)または(2)に記載のタービンハウジングにおいて、タービンホイールの軸線方向に沿った断面において、シュラウド部の外周面は、タービンホイールの軸線方向に対して傾斜する傾斜面からなり、領域Aは外周面の少なくとも一部を含むように構成される。
【0014】
上記(3)に記載の実施形態では、領域Aが、特に流速が大きく通気抵抗に与える影響の大きい、スクロール流路の内周側に位置するシュラウド部の外周面を少なくとも含むように構成される。また、このようにシュラウド部の外周面が傾斜面からなる場合、流体との接触面積が広いため、通気抵抗に与える影響が特に大きい。したがって、このような実施形態によれば、タービンハウジングにおける排気ガスの通気抵抗を低減してターボチャージャの効率を向上させることが出来る。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(3)の何れかに記載のタービンハウジングにおいて、上記開口部に配設され、スクロール流路に面する流路部と、タービンホイールの背面との間に隙間を存する背面部と、を有する環状の第1プレート部材をさらに備える。
【0016】
上記(4)に記載の実施形態では、開口部にスクロール流路に面する流路部を有する、タービンハウジング第1プレート部材が配設される。この第1プレート部材は、鋳造製のタービンハウジングとは別部材からなるため、この第1プレート部材の表面の粗度をタービンハウジングの表面の粗度よりも小さくするのは容易である。したがって、このような実施形態によれば、スクロール流路に面する第1プレート部材の流路部の粗度を小さくすることで、スクロール流路を流れる排気ガスの通気抵抗を小さくすることができる。
【0017】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載のタービンハウジングにおいて、タービンハウジングは、タービンハウジングの外部から導入される排気ガスをスクロール流路へと導く導入流路を形成する導入管部をさらに備える。そして、導入流路とスクロール流路とを半径方向に仕切る舌部が、第1プレート部材側からシュラウド部に向かって延在する、タービンハウジングとは別体の舌部部材により形成される。
【0018】
上記(5)に記載の実施形態によれば、タービンハウジングとは別体の舌部部材によって舌部が形成される。このため、鋳造後に開口部を利用してタービンハウジングの内部を加工する際に、鋳造製のタービンハウジングと一体的に舌部を形成する場合のように舌部が加工の邪魔にはならない。よって、タービンハウジング内部を加工し易くなる。
また、鋳造製のタービンハウジングと一体的に舌部を形成する場合と比べて、舌部を薄く形成することが出来る。これにより、舌部の後流側で発生する流動ひずみの発生を抑制でき、導入流路からスクロール流路に流れる排気ガスの通気抵抗を小さくすることができる。
【0019】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載のタービンハウジングにおいて、上記舌部部材は、第1プレート部材である。そして、第1プレート部材は、板金製からなり、タービンホイールの軸線方向に沿って折り曲げられてなる屈曲部を有し、この屈曲部により舌部が形成される。
【0020】
上記(6)に記載の実施形態によれば、第1プレート部材の屈曲部によって舌部を形成することで、部品点数の少ない簡単な構造によってタービンハウジングとは別体からなる板金製の舌部を形成することが出来る。
【0021】
(7)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載のタービンハウジングにおいて、タービンハウジングの開口部において、第1プレート部材の流路部の一部を覆うように配設される第2プレート部材をさらに備える。そして、上記舌部部材は、第2プレート部材である。
【0022】
上記(7)に記載の実施形態では、第1プレート部材の流路部の一部を覆うように配設される第2プレート部材をさらに備える。そして、この第2プレート部材によって舌部を形成する。このような実施形態によれば、第1プレート部材に対しては特段の加工を施すことなく、簡単な構造によってタービンハウジングとは別体からなる舌部を形成することが出来る。
【0023】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)に記載のタービンハウジングにおいて、第2プレート部材は、板金製からなり、タービンホイールの軸線方向に沿って折り曲げられてなる屈曲部を有し、この屈曲部により舌部が形成される。
【0024】
上記(8)に記載の実施形態によれば、第1プレート部材に対しては特段の加工を施すことなく、簡単な構造によってタービンハウジングとは別体からなる板金製の舌部を形成することが出来る。
【0025】
(9)幾つかの実施形態では、上記(7)又は(8)に記載のタービンハウジングにおいて、第2プレート部材は、タービンホイールの周方向の全周に亘って延在する環状部材からなる。そして、タービンホイールの軸線方向に沿った断面において、第1プレート部材における第2プレート部材で覆われている部分を除いたスクロール流路に面する流路部が、タービンホイールの周方向の全周に亘って同一の半径方向幅となるように構成されている。
【0026】
上記(9)に記載の実施形態によれば、第1プレート部材における高温の排気ガスに曝される流路面の半径方向幅をタービンホイールの周方向の全周に亘って均一にすることができる。これにより、第1プレート部材への入熱量を周方向に亘って揃えることが出来、第1プレート部材が熱伸びによって不均一に変形することを防止することが出来る。
【0027】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(3)の何れかに記載のタービンハウジングにおいて、上記タービンハウジングの背面側には、タービンホイールと連結される回転軸を回転可能に支持する軸受装置を収容するためのベアリングハウジングが連結される。タービンハウジングは、タービンハウジングの外部から導入される排気ガスをスクロール流路へと導く導入流路を形成する導入管部をさらに備える。そして、導入流路とスクロール流路とを半径方向に仕切る舌部が、ベアリングハウジングからシュラウド部に向かって延在する、タービンハウジングとは別体の舌部部材により形成される。
【0028】
上記(10)に記載の実施形態によれば、ベアリングハウジングからシュラウド部に向かって延在する、タービンハウジングとは別体の舌部部材によって舌部が形成される。このため、鋳造後に開口部を利用してタービンハウジングの内部を加工する際に、鋳造製のタービンハウジングと一体的に舌部を形成する場合のように舌部が加工の邪魔にはならない。よって、タービンハウジング内部を加工し易くなる。
【0029】
(11)幾つかの実施形態では、上記(10)に記載のタービンハウジングにおいて、上記舌部部材は、ベアリングハウジングに接続される第3プレート部材からなる。
【0030】
上記(11)に記載の実施形態によれば、ベアリングハウジングに接続される第3プレート部材によって舌部が形成される。この第3プレート部材は、鋳造製のタービンハウジングとは別部材からなるため、鋳造製のタービンハウジングと一体的に舌部を形成する場合と比べて、舌部を薄く形成することが容易である。これにより、舌部の後流側で発生する流動ひずみの発生を抑制でき、導入流路からスクロール流路に流れる排気ガスの通気抵抗を小さくすることができる。また、ベアリングハウジングに第3プレート部材を接続する簡単な構造によって、舌部を形成することができる。
【0031】
(12)幾つかの実施形態では、上記(11)に記載のタービンハウジングにおいて、第3プレート部材は板金製からなる。
【0032】
上記(12)に記載の実施形態によれば、第3プレート部材が板金製であるため、簡単な構造によって舌部を薄く形成することができる。
【0033】
(13)幾つかの実施形態では、上記(5)〜(12)の何れかに記載のタービンハウジングにおいて、タービンホイールの軸線方向から視認した断面において、領域Aは、タービンホイールの円周方向の全周に亘って同一の半径方向幅に形成される。
【0034】
上記(5)〜(12)に記載の実施形態では、タービンハウジングとは別体からなる別部材によって舌部が形成される。これに対して、
図5に示す従来の比較例のタービンハウジング2´では、舌部50´がタービンハウジング2´と一体的に形成されていたため、この舌部50´が障害となってタービンホイール5´の円周方向の全周に亘って同一の半径方向幅で領域Aを形成することが出来なかった。
したがって、上記(13)に記載の実施形態によれば、タービンホイールの円周方向の全周に亘って領域Aを同一の半径方向幅に形成することで、タービンホイールの円周方向の全周に亘って排気ガスの通気抵抗を低減することが出来る。
【0035】
(14)幾つかの実施形態では、上記(6)、(8)及び(12)の何れかに記載のタービンハウジングにおいて、タービンホイールの軸線方向から視認した断面において、導入流路の流路中心は、導入流路の入口部からスクロール流路との合流部に向かって、半径方向内側に湾曲した後に半径方向外側に湾曲するS字カーブに形成される。
【0036】
上記(6)、(8)及び(12)に記載の実施形態では、板金製の板状部材によって舌部が形成される。このような板金製の板状部材によって舌部を形成する場合、舌部が薄いがゆえに、舌部の外周側と内周側との圧力差が舌部に作用することで舌部に振動が発生し、通気抵抗が増加する虞がある。また、舌部に圧力差が作用することで、舌部が変形する虞がある。舌部の内周側は、高速の排気ガス流によって圧力が低下するため、舌部の外周側よりも圧力が低くなっている。
したがって、上記(14)に記載の実施形態によれば、導入流路の流路中心をS字カーブに形成することで、舌部の外周側を流れる排気ガスの流れを外向きに旋回させることで、舌部外周側での圧力を低下させ、舌部に作用する圧力差を小さくすることが出来る。
【0037】
(15)本発明の少なくとも一つの実施形態にかかるタービンハウジングの製造方法は、
排気ガスによって回転するタービンホイールを収容するためのタービンハウジングの製造方法であって、
前記タービンハウジングは、
前記タービンホイールの周囲において前記タービンホイールに供給される前記排気ガスが流れる環状のスクロール流路を形成するスクロール部と、
前記タービンホイールを通過した前記排気ガスが前記タービンホイールの軸線方向に沿って流れる排気流路を形成する排気管部と、
前記スクロール部と前記排気管部との接続部においてハブ側に迫り出して設けられるシュラウド部であって、前記シュラウド部の外周面は、前記スクロール流路に面するとともに、前記シュラウド部の内周面は、前記タービンホイールの動翼との間に所定の隙間を存して形成されるシュラウド部と、を含み、
前記タービンホイールの軸線方向に沿った断面において、前記タービンホイールの軸線から前記シュラウド部の先端までの半径方向距離をR1、前記タービンホイールの軸線から前記スクロール部のハブ側壁面の内周端までの半径方向距離をR2としたときに、R1<R2となる半径R2を有する開口部が前記スクロール部のハブ側に形成され、
前記タービンホイールの軸線方向に沿った断面において、前記シュラウド部の先端よりも半径方向外側における前記スクロール流路に面する前記シュラウド部および前記スクロール部の流路面の内、前記シュラウド部の先端からの所定範囲を領域A、前記領域Aと隣接する所定範囲を領域Bとしたときに、鋳造後に前記領域Aの流路面を加工し、前記領域Aにおける流路面の粗度が、前記領域Bにおける流路面の粗度よりも小さくなるようにする。
【0038】
上記(15)に記載のタービンハウジングの製造方法では、従来よりも大きな開口部を利用して、鋳造後にタービンハウジングの内部を加工することで、タービンハウジング内部の流路面の粗度を小さくすることが出来る。特に流速が大きく通気抵抗に与える影響の大きい、スクロール流路の内周側にあたる領域Aの流路面を加工し、その粗度を小さくすることで、タービンハウジングにおける排気ガスの通気抵抗を低減してターボチャージャの効率を向上させることが出来る。
【0039】
(16)幾つかの実施形態では、上記(15)に記載のタービンハウジングの製造方法において、領域Aの流路面の加工は、機械加工からなる。
【0040】
上記(16)に記載の実施形態によれば、従来よりも大きな開口部を利用して、鋳造後にタービンハウジングの内部を機械加工することができる。このため、タービンハウジング内部における流路面の粗度を簡単な方法で小さくすることが出来る。
【0041】
(17)幾つかの実施形態では、上記(16)に記載のタービンハウジングの製造方法において、領域Aの流路面の加工は、鋳造されたタービンハウジングの内部に開口部からバイトを挿入し、鋳造されたタービンハウジングを回転させることで領域Aの流路面を切削または研削する旋盤加工からなる。
【0042】
上記(17)に記載の実施形態によれば、従来よりも大きな開口部からタービンハウジングの内部にバイトを挿入してタービンハウジングを回転させることで、領域Aの流路面を切削または研削する旋盤加工によって、タービンハウジング内部における流路面の粗度を簡単な方法で小さくすることが出来る。