特許第6351070号(P6351070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351070
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】機能性自溶合金被覆層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/10 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   C23C24/10 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-158664(P2014-158664)
(22)【出願日】2014年8月4日
(65)【公開番号】特開2016-35092(P2016-35092A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【弁理士】
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】奥津 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 登志生
(72)【発明者】
【氏名】古吟 孝
(72)【発明者】
【氏名】竹屋 昭宏
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−272060(JP,A)
【文献】 特開2000−170987(JP,A)
【文献】 特開2002−046072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/10,26/00
C23F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶合金粉末と固体潤滑剤粒子からなる機能性材料粉末と結着樹脂と溶剤とを含むスラリー状の膜形成性組成物を基材の表面に塗布する塗布工程と、
前記基材の表面に形成された塗膜を乾燥して前記溶剤を除去する乾燥工程と、
高周波誘導加熱装置により乾燥塗膜を1000〜1200℃に加熱することによって、前記結着樹脂を熱分解除去するとともに前記自溶合金粉末および前記機能性材料粉末を焼結させる焼結工程とを含み、
前記焼結工程において、焼結温度に至るまでの昇温速度が20〜200℃/秒であることを特徴とする機能性自溶合金被覆層の形成方法。
【請求項2】
前記機能性材料粉末が、ボロンナイトライド、二硫化モリブデンおよびグラファイトから選ばれた少なくとも一種の固体潤滑剤粒子であることを特徴とする請求項1に記載の機能性自溶合金被覆層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材などの基材の表面に機能性が付与された自溶合金被覆層を形成する方法に関し、さらに詳しくは、溶射工程を実施することなく、自溶合金粉末および機能性材料粉末を含有するスラリー状の膜形成性組成物を基材表面に塗布する工程を含む機能性自溶合金被覆層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
苛酷な環境で使用される鋼材の表面を自溶合金で被覆して耐摩耗性などを付与することが一般的に行われている。
また、自溶合金被覆層に機能性材料を含有させることによって、当該自溶合金被覆層に特定の機能を付与したり、自溶合金による性能(例えば耐摩耗性)を更に向上させたりすることも行われている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、熱間耐摩耗性に優れた連続鋳造用ロールとして、自溶合金および特定の金属炭化物(耐摩耗性を向上させるための機能性材料)を含有する溶射被覆層がロール基材の表面に形成されてなるものが紹介されている。
【0004】
しかして、この連続鋳造用ロールを構成する溶射被覆層は、ロール基材の表面に、自溶合金粉末および特定の金属炭化物の粉末を溶射し、形成された溶射皮膜を加熱により再溶融(フュージング)させ、自溶合金粉末および機能性材料粉末を焼結させることにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−263807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されている連続鋳造用ロールには、自溶合金粉末および特定の金属炭化物粉末の溶射時において、機能性材料である特定の金属炭化物が、曝される温度環境(例えば2000〜3000℃のフレーム温度)によって熱劣化してしまい、当該金属炭化物を併用したことによる溶射被覆層の耐摩耗性の向上効果を十分に発揮することができない、という問題がある。
【0007】
また、本発明者らが検討したところ、各種の機能性材料粉末を自溶合金粉末とともに溶射した場合に、溶射時に機能性材料粉末が曝される温度環境によって、当該機能性材料の熱劣化(酸化を含む)、熱分解、熱溶融などが起こり、機能性材料としての性能が損なわれてしまうことが確認された。
【0008】
更に、機能性材料粉末を自溶合金粉末とともに溶射した場合に、比較的融点の高い機能性材料が基材の表面からはじかれ、形成される溶射皮膜(延いては、再溶融後の溶射被覆層)に十分取り込むことができないことも確認された。
【0009】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、自溶合金とともに使用する機能性材料に熱劣化などを生じさせることがなく、当該機能性材料による機能を十分に発揮させることのできる機能性自溶合金被覆層の形成方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、自溶合金による優れた耐摩耗性および耐食性とともに、使用する機能性材料による優れた潤滑性を十分に発揮させることのできる機能性自溶合金被覆層の形成方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、自溶合金による優れた耐摩耗性および耐食性を、使用する機能性材料により更に向上させることのできる機能性自溶合金被覆層の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の機能性自溶合金被覆層の形成方法は、自溶合金粉末と固体潤滑剤粒子からなる機能性材料粉末と結着樹脂と溶剤とを含むスラリー状の膜形成性組成物を基材の表面に塗布する塗布工程と、
前記基材の表面に形成された塗膜を乾燥して前記溶剤を除去する乾燥工程と、
高周波誘導加熱装置により乾燥塗膜を1000〜1200℃に加熱することによって、前記結着樹脂を熱分解除去するとともに前記自溶合金粉末および前記機能性材料粉末を焼結させる焼結工程とを含み、
前記焼結工程において、焼結温度に至るまでの昇温速度が20〜200℃/秒であることを特徴とする。
【0012】
(2)本発明の形成方法において、前記機能性材料粉末が、ボロンナイトライド、二硫化モリブデンおよびグラファイトから選ばれた少なくとも一種の固体潤滑剤粒子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の機能性自溶合金被覆層の形成方法によれば、塗布工程において自溶合金粉末と機能性材料粉末とを含む塗膜(機能性自溶合金被覆層の形成性被膜)を基材の表面に形成するので、従来の形成方法における溶射に伴う機能性材料の熱劣化などの問題を回避することができ、当該機能性材料は所期の性能を確実に維持することができる。
これにより、当該機能性材料による機能を十分に発揮させることのできる機能性自溶合金被覆層を形成することができる。
【0016】
また、本発明の機能性自溶合金被覆層の形成方法によれば、自溶合金による優れた耐摩耗性および耐食性とともに、機能性材料である固体潤滑剤粒子による優れた潤滑性(低摩擦係数)を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で形成された機能性自溶合金被覆層の摩擦係数の測定結果を示すチャートである。
図2】比較例1で形成された自溶合金被覆層の摩擦係数の測定結果を示すチャートである。
図3】比較例2で形成された機能性自溶合金被覆層の摩擦係数の測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の自溶合金被覆層の形成方法について詳細に説明する。
本発明の形成方法は、自溶合金粉末と機能性材料粉末と結着樹脂と溶剤とを含むスラリー状の膜形成性組成物を基材の表面に塗布する塗布工程と、基材の表面に形成された塗膜を乾燥する乾燥工程と、乾燥塗膜を1000〜1200℃に加熱して自溶合金粉末および機能性材料粉末を焼結させる焼結工程とを含む。
【0020】
<膜形成性組成物>
本発明の形成方法に使用する膜形成性組成物は、自溶合金粉末と機能性材料粉末と結着樹脂と溶剤とを含有するスラリー状の組成物である。
【0021】
膜形成性組成物に含有される自溶合金は、耐摩耗性および耐食性に優れているとともに、焼結工程により形成される被覆層は、金属材料(基材)との密着性が良好で、厚膜形成も可能である。
膜形成性組成物に含有される自溶合金粉末としては、JIS H 8260(溶射用粉末材料)に規定されているものを挙げることができる。
自溶合金の焼結温度としては1000〜1200℃であることが好ましく、更に好ましくは1010〜1100℃とされる。
自溶合金粉末の平均粒径としては150μm以下であることが好ましく、更に好ましくは10〜45μmとされる。
【0022】
膜形成性組成物に含有される機能性材料粉末は、本発明の方法によって形成される自溶合金被覆層に潤滑性などの機能性を付与すること、あるいは、自溶合金被覆層が有する機能(例えば耐摩耗性や耐食性)を更に向上させることのできる粉末材料である。
【0023】
具体的には、自溶合金被覆層の表面に潤滑性(低摩擦係数)を付与するこのできる機能性材料粉末として、ボロンナイトライド(BN)、二硫化モリブデン(MoS2 )およびグラファイト(C)などの固体潤滑剤粒子を挙げることができる。
また、自溶合金被覆層の耐摩耗性や耐食性を更に向上させることのできる機能性材料粉末として、炭化タングステン(WC)、炭化ケイ素(SiC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、二炭化三クロム(Cr3 2 )などの金属炭化物粒子、窒化チタン(TiN)、窒化クロム(CrN)などの金属窒化物粒子、二酸化ケイ素(SiO2 )、酸化アルミニウム(Al2 3 )、酸化クロム(Cr2 3 )などを挙げることができる。
これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて機能性材料粉末として使用することができる。
機能性材料粉末の平均粒径としては100μm以下であることが好ましく、更に好ましくは1〜50μmとされる。
【0024】
膜形成性組成物における自溶合金粉末と機能性材料粉末との含有割合としては、「自溶合金粉末:機能性材料粉末(質量比)」が40〜99:60〜1であることが好ましい。 特に、機能性材料粉末として固体潤滑剤粒子を使用する場合には90〜99:10〜1であることが好ましく、機能性材料粉末として、金属炭化物粒子、金属窒化物粒子または金属酸化物粒子を使用する場合には40〜95:60〜5であることが好ましい。
【0025】
膜形成性組成物に含有される結着樹脂(バインダ樹脂)としては、自溶合金および機能性材料を結着保持することができ、焼結工程における加熱温度で熱分解されるものであれば特に限定されるものではない。
結着樹脂の熱分解温度は600℃以下であることが好ましい。
【0026】
膜形成性組成物における結合樹脂の含有割合としては、自溶合金粉末と機能性材料粉末との合計質量を100としたときに0.05〜5であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2である。
結着樹脂の含有割合が過小である場合には、自溶合金粉末および機能性材料粉末を十分に結着させることができず、得られる組成物は塗膜形成性に劣るものとなる。
他方、結着樹脂の含有割合が過大である場合には、気孔率が高くなり、緻密な焼結体を形成することが困難となる。
【0027】
膜形成性組成物に含有される溶剤としては、結着樹脂を溶解することができ、乾燥工程において完全に除去できるものであれば特に限定されるものではなく、有機溶剤であっても水系溶剤であってもよい。
【0028】
膜形成性組成物における溶剤の含有割合としては、自溶合金粉末と機能性材料粉末との合計質量を100としたときに3〜30であることが好ましく、更に好ましくは10〜20である。
【0029】
溶剤の含有割合が過小である場合には組成物の流動性が低下し、塗布工程において平滑な塗膜(延いては被覆層)の形成が困難となり、また、塗膜に空気を巻き込んで気孔率が増大しやすくなる。従って、均一で緻密な機能性自溶合金被覆層を得ることが困難となる。他方、溶剤の含有割合が過大である場合には組成物の流動性が過大となり、十分な膜厚の塗膜(延いては被覆層)を形成することが困難となる。
【0030】
膜形成性組成物の調製方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、自溶合金粉末と結着樹脂と溶剤とを含む混合物に機能性材料粉末を添加混合する方法;結着樹脂と可塑剤と溶剤とを混合してなる有機バインダ成分に、自溶合金粉末および機能性材料粉末を添加混合する方法を挙げることができる。
【0031】
膜形成性組成物はスラリー状を呈し、その粘度(25℃)は、通常50〜500dPa・sとされる。
【0032】
<塗布工程>
本発明の形成方法における塗布工程では、上記の膜形成性組成物を基材表面に塗布する。
本発明において使用される基材(機能性自溶合金被覆層を形成する被処理物)は、通常、鋼材などの金属材料からなる。なお、鋼材上に形成された既存の被覆層、例えば、自溶合金以外の被覆層、溶射工程を経て形成された自溶合金被覆層、機能性材料を含有しない自溶合金被覆層などの表面に塗布すること(本発明による機能性自溶合金被覆層を積層形成すること)も可能である。
基材の形状としては、特に限定されるものではなく、複雑な形状であっても適応することができる。
【0033】
自溶合金粉末を含有するスラリー状組成物を基材表面に塗布する方法としては、スプレー法、浸漬法、刷毛やローラなどの塗布手段を使用する方法など特に限定されるものではない。
【0034】
<乾燥工程>
本発明の形成方法における乾燥工程は、基材の表面に形成された塗膜を乾燥することにより、塗膜中の溶剤を除去して乾燥塗膜を形成する工程である。
ここに、乾燥温度としては100℃以下とされ、好ましくは10〜70℃とされる。
乾燥方法としては、塗膜が形成された基材を大気中に放置するだけでよいが、圧縮空気や熱風を塗膜に吹き付けてもよい。
乾燥時間としては、膜形成性組成物中の溶剤の含有割合や乾燥条件などにより異なるが、通常1〜20時間とされる。
溶剤が除去された乾燥塗膜の膜厚としては、通常0.1〜5.0mmとされ、好ましくは0.5〜3.0mmとされる。
【0035】
<焼結工程>
本発明の形成方法における焼結工程は、基材の表面に形成された乾燥塗膜を1000〜1200℃に加熱して、結着樹脂を熱分解除去するとともに自溶合金粉末および機能性材料粉末を焼結させる工程である。
【0036】
ここに、焼結温度としては、通常1000〜1200℃とされ、焼結時間(この温度が保持される時間)は、例えば10〜200秒間とされる。
焼結時間が短すぎる場合には、結着樹脂の熱分解除去、粉末の焼結、基材と被覆層との相互拡散を十分に行うことができない。他方、焼結時間が長すぎる場合には、被覆層を構成する自溶合金および機能性材料が劣化して、被覆層の性能が低下するおそれがある。
【0037】
また、焼結温度に至るまでの昇温速度としては20〜200℃/秒であることが好ましい。
ここに、昇温速度が低すぎると、焼結温度に達する前に結着樹脂がすべて熱分解されるため、焼結温度まで被覆層を十分に保持できず、最終的に得られる自溶合金被覆層にムラができやすい。他方、昇温速度が高すぎると、焼結温度に達したときにも多量の結着樹脂が被覆層内に残存するため、最終的に得られる自溶合金被覆層の気孔率が高くなる。
【0038】
上記のような昇温速度および焼結時間による迅速な加熱処理は高周波誘導加熱によって好適に行うことができる。
【0039】
上記のように、乾燥塗膜に含有される機能性材料は1000〜1200℃の温度環境に曝されることになるが、この温度は、従来の形成方法の溶射工程において機能性材料が曝される温度(例えば2000〜3000℃)と比較して格段に低いため、機能性材料の熱劣化(酸化を含む)、熱分解、熱溶融などを起こすことはない。
【0040】
また、この機能性材料粉末とともに乾燥塗膜を構成する自溶合金粉末中のボロン(B)およびシリコン(Si)が選択的に酸化されることにより、機能性材料粉末(例えばボロンナイトライド)の酸化劣化が抑制され、この理由によっても、当該機能性材料の機能を維持することができる。
【0041】
<機能性自溶合金被覆層>
この焼結工程によって、緻密な皮膜(機能性自溶合金被覆層)が基材の表面に形成され、その耐久性(耐摩耗性・耐食性)が向上するとともに、機能性材料による機能性が発揮される(あるいは、機能性材料による更なる耐摩耗性・耐食性の向上効果が得られる)。 ここに、本発明の形成方法により形成される機能性自溶合金被覆層の膜厚としては、通常0.05〜3.0mmとされ、好ましくは0.5〜2.0mmとされる。
また、本発明の方法により形成された機能性自溶合金被覆層は、強固で基材に対する密着性も良好であり、また、その気孔率も低くて緻密性も良好である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
(1)膜形成性組成物の調製:
JIS H 8303 NiCrCuMoBSi 69 15 3 3 Aに相当する平均粒径37μmの自溶合金粉末「Diamalloy 4016」(Sulzer Metco製)95.0質量部と、機能性材料粉末(固体潤滑剤粒子)として平均粒径30μmのボロンナイトライド(電気化学工業(株)製)5.0質量部と、熱分解温度が400℃の結着樹脂1質量部と、溶剤18質量部とを混合して、粘度(25℃)が100dPa・sの膜形成性組成物を調製した。
【0043】
(2)塗布工程:
ブラスト処理が施された一般構造用圧延鋼材SS400からなる基板(40mm×30mm×4.5mm)の表面に、上記(1)で得られた膜形成性組成物をスプレー装置により塗布して塗膜を形成した。
【0044】
(3)乾燥工程:
上記(2)により塗膜が形成された基板を、温度50℃の恒温槽内に6時間放置することにより、塗膜中の溶剤を完全に除去した。
このようにして形成された乾燥塗膜の厚さは1.7mm程度であった。
【0045】
(4)焼結工程:
上記(3)により基板の表面に形成された乾燥塗膜を、高周波誘導加熱装置を用いて、約50℃/秒の昇温速度で1050℃まで昇温させ、この温度で60秒間にわたり加熱することにより、結着樹脂を熱分解除去するとともに自溶合金粉末およびボロンナイトライドを焼結させた。その後、30分間かけて室温まで冷却することにより、基板の表面に厚さ1mm程度の機能性(潤滑性)自溶合金被覆層を形成した。
【0046】
<比較例1>
自溶合金粉末の配合量を100.0質量部に変更し、ボロンナイトライドを混合しないで膜形成性組成物を調製したこと以外は実施例1(1)〜(4)と同様にして、厚さ1mm程度の自溶合金被覆層を基板の表面に形成した。
【0047】
<比較例2>
実施例1で使用したものと同様の自溶合金粉末95.0質量部と、実施例1で使用したものと同様のボロンナイトライド5.0質量部とを混合し、この混合粉末を、SS400からなる基板(40mm×30mm×4.5mm)の表面に溶射することにより、当該基板の表面に溶射皮膜を形成した。ここに、フレーム温度は2900℃であった。
このようにして基板の表面に形成された溶射皮膜を1050℃に加熱して再溶融(フュージング)処理することにより厚さ1mm程度の溶射被覆層を基板の表面に形成した。
【0048】
<被覆層の評価(摩擦係数の測定)>
実施例1および比較例1〜2によって自溶合金被覆層を形成した基板の各々について、リニアモジュール試験機(CSM Instruments社製)により摩擦係数を測定した。結果を図1〜3および下記表1に示す。
ここに、測定条件は下記のとおりである。
【0049】
・往復距離の1/2:5mm
・最大速度:50mm/s
・荷重 :10N
・停止条件:1433サイクル
・相手材 :SUJ2(ボール)
【0050】
【表1】
【0051】
<実施例2>
(1)膜形成性組成物の調製:
実施例1で使用したものと同様の自溶合金粉末65.0質量部と、機能性材料粉末として平均粒径10μmの炭化タングステン粒子(住友金属鉱山(株)製)35.0質量部と、熱分解温度が400℃の結着樹脂1質量部と、溶剤18質量部とを混合して、粘度(25℃)が100dPa・sの膜形成性組成物を調製した。
【0052】
(2)塗布工程:
鋼材からなる円筒状の試験材(直径:28mm,幅:8mm)の側周面をブラスト処理した後、上記(1)で得られた膜形成性組成物をスプレー装置により塗布して塗膜を形成した。
【0053】
(3)乾燥工程:
上記(2)によって側周面に塗膜が形成された試験材を、温度50℃の恒温槽内に6時間放置することにより、塗膜中の溶剤を完全に除去した。
このようにして形成された乾燥塗膜の厚さは1.7mm程度であった。
【0054】
(4)焼結工程:
上記(3)により試験材の側周面に形成された乾燥塗膜を、高周波誘導加熱装置を用いて、約50℃/秒の昇温速度で1050℃まで昇温させ、この温度で60秒間にわたり加熱することにより、結着樹脂を熱分解除去するとともに自溶合金粉末および炭化タングステン粒子を焼結させた。その後、30分間かけて室温まで冷却することにより、試験材の側周面に厚さ1mm程度の機能性自溶合金被覆層を形成した。
【0055】
<比較例3>
自溶合金粉末の配合量を100.0質量部に変更し、炭化タングステン粒子を混合しないで膜形成性組成物を調製したこと以外は実施例2(1)〜(4)と同様にして、試験材の側周面に厚さ1mm程度の自溶合金被覆層を形成した。
【0056】
<被覆層の評価(耐摩耗性の評価)>
実施例2および比較例3によって側周面に自溶合金被覆層を形成した試験材の各々について、西原式摩耗試験機を用いて自溶合金被覆層の摩耗減量を測定することにより、耐摩耗性を評価した。ここに、測定条件は下記のとおりである。
【0057】
・相手材 :SUJ2
・試験荷重:1.5kN
・すべり度:30%
・試験時間:6時間
・回転数 :800rpm
・試験環境:湿式
【0058】
測定結果としては、比較例3によって形成された自溶合金被覆層の摩耗減量が40mgであったのに対して、実施例2によって形成された機能性自溶合金被覆層の摩耗減量が8mgであり、この機能性自溶合金被覆層は、炭化タングステンによる優れた耐摩耗性が認められた。
図1
図2
図3