(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1(a)】上層階増築工法の手順の説明図(1)である。
【
図1(b)】上層階増築工法の手順の説明図(2)である。
【
図1(c)】上層階増築工法の手順の説明図(3)である。
【
図1(d)】上層階増築工法の手順の説明図(4)である。
【
図1(e)】上層階増築工法の手順の説明図(5)である。
【
図1(f)】上層階増築工法の手順の説明図(6)である。
【
図1(g)】上層階増築工法の手順の説明図(7)である。
【
図2】上層階増築工法により増築する住宅の縦断面図である。
【
図3】上層階増築工法により増築する住宅の正面図である。
【
図4】上層階増築工法により増築する住宅の間取図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の上層階増築工法の説明に際して、まず、この工法が適用される建築物の具体的な構成について、各図面に基づいて説明する。この工法は種々の建築物に適用されるものであるが、ここでは、一戸建ての住宅の場合を例に挙げる。この住宅は、将来二階建てに増築することを前提として、当初は
図3の実線で示すような平屋で建築される。その間取は、
図4の一階図に示すもので、玄関、LDK、ウォークインクローゼット(W)付きの寝室、脱衣所、ユニットバス(UB)、トイレおよび子供部屋を有するものであるが、予め増築に備えた階段を設けてある。ただし、当初は平屋であるから、階段は天井で塞がれた状態となっている。そして、
図4における左側の、LDK、寝室および階段を含む正方形状の区画の上側に、二階部分が増築されるものであり、この区画の四隅、中心および各辺の中央の柱(図中の丸印で示した部分)が、増築のための伸縮柱10となっている。増築後は、
図3の二点鎖線で示すような二階建ての住宅となり、二階の間取は、
図4の二階図に示すもので、子供部屋を二室と、予備室、収納、トイレおよび一階から続く階段を有する。
【0010】
次に、伸縮柱10について説明するが、ここでは、
図4における右上の柱に基づき説明する。
図1(a)〜(g)はその柱を示しており、以下において前後左右とは、
図1(a)〜(g)に示す各方向のことである。伸縮柱10は、一階柱1(下層階柱)と、二階柱2(上層階柱)からなる。一階柱1と二階柱2は、何れも構造用角形鋼管からなる角筒状のものであって、本実施形態において、一階柱1は125mm角で厚さ9mmのもの、二階柱2は100mm角で厚さ9mmのものを用いている。よって、一階柱1の内寸は二階柱2の外寸よりも大きく、一階柱1内に、二階柱2が上下動可能に納まっており、基礎に固定された一階柱1に対して、二階柱2が上下動することで伸縮するものである。なお、二階柱2の上端部は板材で塞いである。また、一階柱1の上端部の前後方向中央には、左右方向(水平方向)に貫通する仮止孔11を形成してある。さらに、一階柱1の上端部の前後左右の各面には、それぞれ4つのボルト孔12を形成してあり、左側面と右側面において、ボルト孔12は仮止孔11を囲む位置となる。そして、一階柱1の前側面と左側面の、ボルト孔12の下側位置に、ガセットプレート17を溶接してあり、これらのガセットプレート17に、それぞれ前側および左側に延びる二階床梁13をボルト止めして固定してある。二階床梁13は、構造用H形鋼からなるものであり、その上面の、後述の二階の耐力壁8を固定する箇所には、ボルト18を長手方向に所定間隔で溶接して取り付けてある。一方、二階柱2の前後方向中央には、左右方向(水平方向)に貫通する貫通孔21を上下に等間隔に複数個形成してあり、本実施形態ではそれぞれ150mm間隔となっている。また、一階柱1のボルト孔12に対応して、二階柱2にもボルト孔を形成してあり、二階柱2のボルト孔の位置は、二階柱2が最も下降した状態(平屋の状態)で一階柱1のボルト孔12に連通する位置と、二階柱2が所定高さまで上昇した状態(二階建ての状態)で一階柱1のボルト孔12に連通する位置の二箇所である。さらに、二階柱2には、所定高さまで上昇した状態における、一階柱1の上端の高さ位置に、着色による警告ライン22を引いてある(
図1(g)参照)。この警告ライン22は、二階柱2をそれ以上上昇させると、一階柱1内に位置する二階柱2の長さ、すなわち一階柱1と二階柱2が重なる部分の長さが短くなりすぎて、所定の構造耐力を維持できなくなるため、二階柱2をそれ以上上昇させてはいけないことを示している。そして、二階柱2の前側面と左側面の上端部に、ガセットプレート26を溶接してあり、これらのガセットプレート26に、それぞれ前側および左側に延びる二階小屋梁23をボルト止めして固定してある。二階小屋梁23は、構造用H形鋼からなるものであり、二階床梁13の上側に位置するものであって、その下面の、後述の二階の耐力壁8を固定する箇所には、ボルト27を長手方向に所定間隔で溶接して取り付けてある。また、
図2に示すように、二階小屋梁23上に、小屋束31、母屋32や垂木33を組んで、屋根3を構成してあり、すなわち、二階柱2が屋根3と一体になっている。なお、
図1(a)〜(g)に示したもの以外の伸縮柱10についても、基本的な構造は同じであるが、仮止孔11および貫通孔21の貫通方向ならびに二階床梁13および二階小屋梁23の延びる方向が異なり得るものであり、二階床梁13および二階小屋梁23が三方または四方に延びる場合もある。また、二階床梁13の下側(一階部分)にも、所定箇所(二階の耐力壁8に対応する位置)に耐力壁を設けてあるが、ここでは図示省略する。
【0011】
そして、当初の状態(
図1(a))では、二階柱2が一階柱1内で最も下降した状態であり、一階柱1の上端面に、二階小屋梁23の下面が当接している。この状態で、一階柱1のボルト孔12と二階柱2のボルト孔が連通しており、一階柱1のボルト孔12および二階柱2のボルト孔に柱固定ボルト14を螺入して、一階柱1と二階柱2が固定されている。また、
図2に示すように、基礎の上側に一階床15が設けられ、二階床梁13の下側に一階天井16が設けられている。そして、外壁は、通常の住宅と同様に構成されているが、
図2および
図3の一点鎖線で示す、二階床梁13の上側面の高さ位置Aで、上下に分離可能なように予め下部外壁34と上部外壁35に分割されている。
【0012】
続いて、このように構成した平屋の住宅における、二階増築工法について説明する。この工法は、ジャッキ5、仮止ピン6、ジャッキアップ治具4および耐力壁8を用いるものであり、まず、それぞれについて説明する。
【0013】
ジャッキ5は、どのようなものを用いてもよいが、本実施形態で用いるのは、油圧式のボトルジャッキであり、略円筒形状のオイルタンク51と、オイルタンク51の上面から突没するピストン52を備える。
【0014】
仮止ピン6は、連通した一階柱1の仮止孔11と二階柱2の貫通孔21に挿入して、一階柱1に対して二階柱2を仮止めするためのものであり、丸棒状であって、一端が仮止孔11に挿入しやすいように先細形状となっており、他端が抜け防止のため仮止孔11の径よりも太くなっている(
図1(e)参照)。
【0015】
ジャッキアップ治具4は、二階柱2に取り付け、ジャッキ5のピストン52の先端を当接させてジャッキ5を効かせるためのものであり、挿入部41と、被当接部42と、係止部43を有している。係止部43は、平板を上面視略コ字形に折り曲げた形状であり、挿入部41は、丸棒状で係止部43の凹部から水平方向に延出しており、被当接部42は、平板状で挿入部41の反対方向に延出していて、上面には被当接部42を補強するリブ44を設けてある(
図1(c)参照)。このように形成したジャッキアップ治具4の挿入部41を貫通孔21に挿入すると、コ字形の係止部43が二階柱2をくわえ込み、ジャッキアップ治具4が挿入部41の長手方向軸周りに回転することを防止する。そして、被当接部42が二階柱2の側面から水平方向に延出し、ジャッキ5のピストン52の先端が被当接部42に当接する。
【0016】
耐力壁8は、柱に連結される角棒状の受材81と、受材81に釘打ちして連結される板材82からなり、受材81は板材82の周縁部に位置する(
図1(g)参照)。
【0017】
そして、これらを用いて、本発明の上層階増築工法により二階建てに増築する施工手順は、以下のとおりである。
(1)分割されている外壁のうち、二階床梁13より上側の、上部外壁35を撤去する。
(2)二階床梁13の上側面の、各伸縮柱10の近傍位置にジャッキ5を設置し、二階小屋梁23の下側面にジャッキ5のピストン52の先端部を当接させ、ジャッキ5を効かせて荷重を受ける状態にする(
図1(a))。
(3)一階柱1と二階柱2を固定している柱固定ボルト14を取り外す。
(4)ジャッキ5によりジャッキアップを行い、二階柱2および二階小屋梁23を屋根3ごと、二階柱2の上から二番目の貫通孔21が一階柱1の仮止孔11に連通する高さまで上昇させる(
図1(b))。
(5)連通した一階柱1の仮止孔11と二階柱2の貫通孔21に仮止ピン6を挿入して、二階柱2を仮止めし(
図1(b))、ジャッキ5を緩める。
(6)二階柱2の一番上側の貫通孔21に、ジャッキアップ治具4の挿入部41を挿入する((
図1(c)))。
(7)ジャッキアップ治具4の被当接部42の下側面にジャッキ5のピストン52の先端部を当接させ、ジャッキ5を効かせて荷重を受ける状態にする(
図1(d))。
(8)連通した一階柱1の仮止孔11と二階柱2の貫通孔21から仮止ピン6を引き抜く(
図1(e))。
(9)ジャッキ5によりジャッキアップを行い、二階柱2および二階小屋梁23を屋根3ごと、二階柱2の一つ下の貫通孔21が一階柱1の仮止孔11に連通する高さまで上昇させる(
図1(e))。
(10)連通した一階柱1の仮止孔11と二階柱2の貫通孔21に仮止ピン6を挿入して、二階柱2を仮止めし、ジャッキ5を緩める(
図1(f))。
(11)ジャッキアップ治具4を二階柱2の貫通孔21から引き抜き、一つ下側の貫通孔21に挿入部41を挿入する(
図1(f))。
(12)(7)〜(11)までを繰り返して、二階柱2を屋根3ごと所定高さまで上昇させる。
(13)一階柱1のボルト孔12および二階柱2のボルト孔に柱固定ボルト14を螺入して、一階柱1と二階柱2を固定する(
図1(g))。
(14)二階部分の外周をシートで養生して、雨水の浸入を防ぐ。
(15)一階柱1の上側に露出した二階柱2の貫通孔21にボルト7を通し、耐力壁8の一方の縦辺の受材81を、二階柱2にボルト止めするとともに、他方の縦辺の受材81を別に設ける二階の柱にボルト止めし、さらに上下の横辺の受材81をそれぞれ二階小屋梁23のボルト27および二階床梁13のボルト18にボルト止めする(
図1(g))。
(16)二階床24、二階天井25、外壁などを施工し(
図2)、内外装を完成させ、養生を取り外して増築が完了する。
なお、(2)〜(12)が上記の柱屋根上昇工程に相当し、(15)が上記の耐力壁固定工程に該当する。
【0018】
このような本発明の上層階増築工法によれば、平屋から二階建てに容易に増築できる。よって、たとえば結婚してまだ子供のいない夫婦が、当初は平屋にすることで建設資金を抑え、その後、子供が生まれて資金がたまってから二階建てにするなど、ライフプランに合わせて住宅を増築できる。そして、二階の増築に際して、既存の屋根3をそのまま用いるので、一階に住み続けることが可能で、また増築の費用が抑えられ、天候にも左右されず、工期も短くできる。また、増築に際しては、ジャッキアップ治具4と仮止ピン6を交互に挿脱しながらジャッキアップして二階柱2を上昇させるので、施工が容易である。さらに、二階柱2を屋根3ごと所定高さまで上昇させた後、ジャッキアップに用いた二階柱2の貫通孔21にボルト7を通して、二階柱2に耐力壁8をボルト止めするので、耐力壁8の固定が容易で、かつ増築後において十分な耐震性を確保できる。
【0019】
本発明は、上記の実施形態に限定されない。たとえば、ジャッキアップに用いるジャッキはどのようなものでもよく、ジャッキアップ治具の形状も、ジャッキの構造に合わせて適宜変更できる。また、屋根の構造についても、一例を示したものであり、どのようなものであってもよい。さらに、本発明の工法によれば、平屋を二階建てにするのみならず、二階建てを三階建てにするなど、上層階を増築して階数を増やすことができる。
【解決手段】 下層階柱と、上層階柱と、屋根を備え、下層階柱が、筒状のものであって、水平方向に貫通する仮止孔を有しており、上層階柱が、水平方向に貫通する貫通孔を上下に等間隔に複数個有しており、屋根と一体になっていて、下層階柱内に上下動可能に納まっている建築物において、上層階柱の貫通孔に挿入したジャッキアップ治具をジャッキによりジャッキアップして上層階柱を上昇させ、連通した下層階柱の仮止孔と上層階柱の貫通孔に仮止ピンを挿入して上層階柱を仮止めする間にジャッキアップ治具を下側の貫通孔に移動することを繰り返して、上層階柱を屋根ごと所定高さまで上昇させる柱屋根上昇工程と、下層階柱の上側に露出した上層階柱の貫通孔に通したボルトによって、耐力壁を上層階柱にボルト止めする耐力壁固定工程を有する。