【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題について鋭意研究を重ねた結果、ろう材/中間層材/心材/犠牲陽極材からなる4層材のブレージングシートの各構成について、それぞれについて特定の合金組成を有する材料を設定し、それらをクラッドしたものがその課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
具体的には、本発明は、心材と、前記心材の一方の面にクラッドされた中間層材と、前記中間層材にクラッドされたろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた犠牲陽極材と、を備えるアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記心材は、Si:0.05〜1.5mass%(以下、%とする)、Fe:0.05〜2.0mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記中間層材は、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記ろう材は、Si:2.5〜13.0mass%、Fe:0.05〜1.2mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠牲陽極材は、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなることを特徴とする、高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートである。
【0014】
以下、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート及びその製造方法の好適な実施態様について、詳細に説明する。まず、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートを構成する、心材、中間層材、ろう材、犠牲陽極材の各構成について説明する。尚、以下の説明において、材料組成を示す「%」とはmass%の意義である。
【0015】
A.心材
心材には、Si:0.05〜1.5%、Fe:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。本発明の心材に用いるアルミニウム合金は、JIS 3000系合金、例えばJIS 3003合金等のAl−Mn系合金が好適に用いられる。以下、各成分について説明する。
【0016】
Siは、Fe、Mnと共にAl−Fe―Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる必須の構成元素である。Si含有量は、0.05〜1.5%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.5%を超えると心材の融点が低下して溶融が生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.2%である。
【0017】
Feは、Si、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる必須の構成元素である。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.1〜1.5%以下である。
【0018】
Mnは、Siと共にAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる必須の構成元素である。Mn含有量は、0.5〜2.0%である。0.5%未満では上記効果が不十分となり、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Mnの好ましい含有量は、0.8〜1.8%である。
【0019】
また、心材は、Cu:0.05〜1.5%、Mg:0.05〜0.5%、Ti0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3%、及び、V:0.05〜0.3%から選択される1種以上を選択的添加元素として含有しても良い。
【0020】
Cuは、固溶強化により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Cu含有量は、0.05〜1.5%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.5%を超えると鋳造時におけるアルミニウム合金の割れ発生のおそれが高くなる。Cuの好ましい含有量は、0.3〜1.0%とする。
【0021】
Mgは、Mg
2Siの析出により強度を向上させるので含有させても良い。Mg含有量は、0.05〜0.5%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、0.5%を超えるとろう付が困難となる。Mg含有量は、より好ましくは0.1〜0.4%とする。
【0022】
Tiは、固溶強化により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Ti含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となる。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0023】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Zr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0024】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Cr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0025】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。V含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0026】
これら選択的添加元素であるCu、Mg、Ti、Zr、Cr及びVは、心材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0027】
B.中間層材
中間層材には、Zn:0.5〜8.0%、Si:0.05〜1.5%、Fe:0.05〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0028】
Znは、ろう付加熱時にろう材表面へ拡散し、ろう付加熱後のろう材表面の孔食電位を卑にすることができ、ろう材表面と心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上することができる。Znの含有量は0.5〜8.0%である。0.5%未満では、犠牲陽極効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、8.0%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、1.0〜6.0%である。
【0029】
Siは、FeとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはFe、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Siの含有量は、0.05〜1.5%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.5%を超えると中間層材の融点が低下してろう付時に溶融が生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.2%である。
【0030】
Feは、SiとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはSi、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.1〜1.5%以下である。
【0031】
また、中間層材は、Mn:0.05〜0.5%、Mg:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有しても良い。
【0032】
Mnは、Si、FeとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成する。この金属間化合物は分散強化により強度を向上させるが、この金属間化合物は同時に腐食速度をも増大させる。特に、中間層材はろう材と隣接しているため、Al−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し易いことから、Mnはその含有量を適切な範囲とする必要がある。そして、Mnの含有量は、0.5%以下が好ましい。0.5%を超えると金属間化合物の影響により腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。一方、0.05%未満では、強度向上の効果が十分でない。なお、耐食性の面からMnの含有量は0.1%以下に規制されることがより好ましく、更に好ましくは0.01%以下である。また、耐食性の面からMnの好ましい含有量に下限値は無いが、含有量が0.001%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。
【0033】
Mgは、Mg
2Siの析出により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Mg含有量は、0.05〜0.5%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、0.5%を超えるとろう付が困難となる。Mg含有量は、より好ましくは0.1〜0.4%とする。
【0034】
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。Ti含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、より好ましくは0.05〜0.2%とする。
【0035】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Zr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0036】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Cr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0037】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。V含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、より好ましくは0.05〜0.2%とする。
【0038】
これら選択的添加元素であるTi、Zr、Cr及びVは、中間層材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0039】
C.ろう材
ろう材には、Si:2.5〜13.0%、Fe:0.05〜1.2%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0040】
Siはろう材の必須構成元素であり、その添加によりろう材の融点を低下させ液相を生じさせ、これによってろう付を可能にする。Si含有量は2.5〜13.0%である。2.5%未満では、生じる液相が僅かでありろう付が機能し難くなる。一方、13.0%を超えると、例えばフィン等の相手材へ拡散するSi量が過剰となり、相手材への侵食が発生してしまう。Siの好ましい含有量は、3.5〜12.0%である。
【0041】
FeはAl−Fe系やAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し易いために、ろう付に有効となるSi量を低下させ、ろう付性の低下を招く。即ち、Feはろう付性を確保する上でその濃度を規制すべき元素である。Fe含有量は、0.05〜1.2%である。0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高を招く。一方、1.0%を超えると、上記作用によりろう付が不十分となる。Feの好ましい含有量は、0.1〜0.5%である。
【0042】
また、本発明において、ろう材は、Cu:0.05〜
0.6%、Mn:0.05〜2.0%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3%、V:0.05〜0.3%、Na:0.001〜0.05%、Sr:0.001〜0.05%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有しても良い。
【0043】
Cuは、固溶強化により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Cu含有量は、0.05〜
0.6%とするのが好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、一方、0.6%を超えると、表面の孔食電位が貴になってしまい、犠牲防食効果を損失して耐食性が低下する。Cuのより好ましい含有量は、0.1〜0.4%である。
【0044】
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させても良い添加元素である。Mnの含有量は、0.05〜2.0%とするのが好ましい。2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分得られない。Mn含有量は、より好ましくは0.05〜1.8%とする。
【0045】
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。Ti含有量は、0.05〜0.3%とするのが好ましい。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0046】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Zr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0047】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い。Cr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0048】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い。V含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0049】
以上の選択的添加元素であるMn、Ti、Zr、Cr、Vは、ろう材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。また、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0050】
D.犠牲陽極材
犠牲陽極材には、Zn:0.5〜8.0%、Si:0.05〜1.5%、Fe:0.05〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0051】
Znは孔食電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上することができる。Znの含有量は0.5〜8.0%である。0.5%未満では、犠牲陽極効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、8.0%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、2.1〜6.0%である。
【0052】
Siは、FeとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはFe、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Siの含有量は、0.05〜1.5%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.5%を超えるとろう付時に溶融を生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.2%である。
【0053】
Feは、SiとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはSi、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.1〜1.5%以下である。
【0054】
また、犠牲陽極材は、Mg:0.05〜3.0%、Mn:0.05〜2.0%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有しても良い。
【0055】
Mgは、Mg
2Siの析出により犠牲陽極材の強度を向上させる。また、犠牲陽極材自身の強度を向上させるだけでなく、ろう付することにより犠牲陽極材から心材にMgが拡散して心材の強度も向上させる。これらの理由から、Mgを含有させても良い。Mgの含有量は、0.05〜3.0%が好ましい。0.05%未満ではそれらの効果が十分得られない場合があり、3.0%を超えるとクラッド熱間圧延工程において犠牲陽極材と心材との圧着が困難となる。Mg含有量は、0.1〜2.0%とするのがより好ましい。なお、Mgはノコロックろう付におけるフラックスを劣化させてろう付性を阻害するため、犠牲陽極材が0.5%以上のMgを含有する場合はチューブ材同士の接合にはノコロックろう付を採用できない。この場合には、例えばチューブ材同士の接合には溶接等の手段を用いる必要がある。
【0056】
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させても良い。Mnの含有量は、0.05〜2.0%である。2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させ、また犠牲陽極層の電位を貴にするため、犠牲陽極効果を阻害して耐食性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分得られない。Mn含有量は、好ましくは0.05〜1.8%である。
【0057】
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い。Ti含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.05〜0.2%である。
【0058】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い。Zr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0059】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い。Cr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0060】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い。V含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.05〜0.2%である。
【0061】
これらMn、Ti、Zr、Cr及びVは、中間層材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0062】
以上のように組成調整が適切になされた、心材、中間層材、ろう材、犠牲陽極材をクラッドした本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、両面に十分な犠牲防食効果を備えつつも片面のろう付機能も確保されたものである。そして、板厚が薄い場合において、本発明の効果は最大限に発揮される。具体的には、アルミニウム合金ブレージングシートの全体の板厚が450μm以下の場合において、本発明の効果が最大限に発揮される。上記の通り、従来、アルミニウム合金ブレージングシートの板厚を450μm以下とした場合、フィンによる犠牲防食のみでは不十分であるが、本発明ではフィンの有無によらずに十分な犠牲防食効果が発揮される。本発明の効果を最大限に発揮するための、より好ましい板厚は、360μm以下である。尚、板厚が450μmより大きい場合には、フィンによる犠牲防食だけでも十分な効果があり、本発明の有効性が薄らぐこととなる。
【0063】
また、既に述べたように、板厚が薄い場合には、心材の板厚全体にZnが拡散し、心材と犠牲陽極材表面とのZn濃度差による犠牲防食効果が十分でなくなり、耐食性が不十分となるおそれがある。そのため、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートにおいては、ろう付後の犠牲陽極材の表面Zn量が多くなるようにすることが好ましい。具体的には、ろう付後の犠牲陽極材の表面Zn量が0.3%以上であれば、心材の板厚全体にZnが拡散しても、十分な耐食性を有することができる。ろう付後の犠牲陽極材の表面Zn量が0.3%未満の場合は、心材の板厚全体にZnが拡散した場合には、十分な耐食性を有することができない。
【0064】
ここで、ろう付後の犠牲陽極材の表面Zn量は、ろう付前の犠牲陽極材のZn量(%)×厚さ(μm)の値によって決まる。この値は、ろう付前のアルミニウム合金ブレージングシートの犠牲陽極材に含まれるZnの総量を意味する。Zn量(%)×厚さ(μm)の値が40以上であれば、ろう付後の犠牲陽極材の表面Znは0.3%以上となる。Zn量(%)×厚さ(μm)の値が40未満の場合は、ろう付後の犠牲陽極材の表面Znは0.3%未満となってしまう。Zn量(%)×厚さ(μm)の値は、より好ましくは50以上である。尚、犠牲陽極材の厚さについては特に制限は無いが、本願発明が薄肉材に対応可能であることを考慮すれば、80μm以下とするのが好ましい。また、製造による犠牲陽極材の厚さのバラツキを考慮すれば、10μm以上とするのが好ましい。
【0065】
尚、板厚が薄い場合の心材へのZn拡散による耐食性低下は、ろう材表面についても同様のことが言える。もっとも、ろう材表面の耐食性については、不十分であるもののフィンによる犠牲防食効果を付加的に作用させることができる。従って、ろう付後のろう材の表面Zn量や、中間層材のZn量(%)×厚さ(μm)の値については、特に制限する必要は無い。
【0066】
また、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートにおいては、犠牲陽極材の厚さについては規定するものの、ろう材層及び中間層材の厚さには特に制限はない。但し、例えば自動車用熱交換器のチューブ材として使う場合には、クラッド率にして2〜30%程度で設定されることが多い。
【0067】
本発明の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートの製造工程は、上記のアルミニウム合金心材、中間層材、犠牲陽極材、Al−Si系合金ろう材をそれぞれ鋳造して鋳塊となす鋳造工程と;鋳造した犠牲陽極材、中間層材及びAl−Si系合金ろう材をそれぞれ熱間圧延する熱間圧延工程と;熱間圧延した犠牲陽極材を心材用鋳塊の一方の面に重ね合わせ、熱間圧延したAl−Si系合金ろう材を心材用鋳塊の他方の面に重ね合わせて、これらを加熱して熱間圧延を行ってクラッド材とする熱間クラッド圧延工程と;得られたクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延の途中又は冷間圧延の後に焼鈍を行う焼鈍工程と;を備える。
【0068】
鋳造工程における条件に特に制限は無いが、通常は水冷式の半連続鋳造によって行われる。熱間圧延工程及び熱間クラッド圧延工程において、その加熱温度は通常は400〜560℃程度で行うのが好ましい。400℃未満では塑性加工性が乏しいため圧延時にコバ割れ等を生じる場合があり、また熱間クラッド圧延の場合は心材に対してろう材、中間層材、犠牲陽極材の圧着が困難となり、正常に熱間圧延を行うことができない場合がある。一方、560℃より高温の場合には、加熱中にろう材が溶融してしまうおそれがある。
【0069】
焼鈍工程は圧延中の加工ひずみを低減させる目的で、通常は100〜560℃程度で行うのが好ましい。100℃未満ではその効果が十分でない場合があり、560℃を超えるとろう材が溶融してしまうおそれがある。なお、焼鈍工程にはバッチ式の炉を用いても、連続式の炉を用いても良い。また、焼鈍工程は冷間圧延工程の途中又は冷間圧延工程の後に少なくとも1回以上行われるものであるが、その実施回数に上限は無い。
【0070】
アルミニウム合金心材を鋳造して得られる鋳塊を、熱間クラッド圧延工程の前に均質化処理工程に供しても良い。均質化処理工程は、通常は450〜620℃で行うことが好ましい。温度が450℃未満ではその効果が十分でない場合があり、620℃を超えると心材鋳塊の溶融を生じてしまうおそれがある。
【0071】
以上説明した本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、自動車用熱交換器の流路形成部品、即ち、チューブの製造に好適である。この際、例えば、ブレージングシートを
図1に示すようなB型断面形状に織り込んだものを、フラックスを塗布して600℃程度に加熱することによりろう付することでチューブとすることができる。