特許第6351205号(P6351205)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6351205高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート
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  • 特許6351205-高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351205
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20180625BHJP
   B23K 35/14 20060101ALI20180625BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20180625BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C22C21/00 D
   C22C21/00 E
   C22C21/00 J
   B23K35/14 G
   B23K35/22 310E
   B23K35/28 310B
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-64676(P2013-64676)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-189813(P2014-189813A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年12月25日
【審判番号】不服2017-12705(P2017-12705/J1)
【審判請求日】2017年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】安藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】新倉 昭男
【合議体】
【審判長】 千葉 輝久
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−073153(JP,A)
【文献】 特表2005−505421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C21/00-21/18
C22F 1/04- 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材と、
前記心材の一方の面にクラッドされた中間層材と、
前記中間層材にクラッドされたろう材と、
前記心材の他方の面にクラッドされた犠牲陽極材と、を備える高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、
前記心材は、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%、Mn:0.5〜1.8mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
前記中間層材は、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
前記ろう材は、Si:2.5〜13.0mass%、Fe:0.05〜1.2mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
前記犠牲陽極材は、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
アルミニウム合金ブレージングシート全体の厚さが450μm以下であり、
更に、犠牲陽極材のZn量(mass%)×厚さ(μm)の値が84(mass%×μm)以上であることを特徴とする、高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
心材は、更に、Cu:0.05〜1.5mass%、Mg:0.05〜0.5mass%、Ti0.05〜0.3smass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
中間層材は、更に、Mn:0.05〜0.5mass%、Mg:0.05〜0.5mass%、Ti0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を含有する、請求項1又は2に記載の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項4】
ろう材は、更に、Cu:0.05〜0.6mass%、Mn:0.05〜2.0mass%、Ti:0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%、V:0.05〜0.3mass%、Na:0.001〜0.05mass%、Sr:0.001〜0.05mass%から選択される1種以上を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項5】
犠牲陽極材は、更に、Mg:0.05〜3.0mass%、Mn:0.05〜2.0mass%、Ti0.05〜0.3smass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートに関し、詳細には、ラジエータ等の熱交換器における高温圧縮空気や冷媒の通路構成材として好適に使用される高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートに関する。更に本発明は、前記高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートを用いた自動車用熱交換器の流路形成部品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量かつ高熱伝導性を備えており、適切な処理により高耐食性が実現できるため、ラジエータ、コンデンサ、エバポレータ、ヒータ、インタークーラ等の自動車用熱交換器の構成材料として用いられている。例えば、自動車用熱交換器のチューブ材としては、3003合金等のAl−Mn系合金を心材として、その片面にAl−Si系合金のろう材、又は、Al−Zn系合金の犠牲陽極材をクラッドした2層クラッド材や、更に、心材の他方の片面にAl−Si系合金のろう材をクラッドした3層クラッド材であるアルミニウム合金ブレージングシートが使用されている。熱交換器は通常、アルミニウム合金ブレージングシートにコルゲート成形したフィンを組み合わせて、600℃程度の高温でろう付して接合することによって製造される。
【0003】
この熱交換器のチューブの内外に腐食性を有する液体が存在すると、孔食発生によるチューブの貫通や、均一腐食によるチューブの板厚減少が生じ、耐圧強度が低下した結果チューブ材が破裂するおそれがある。そして、チューブに貫通や破裂が発生すると、内部を循環している空気や冷却水、冷媒の漏洩が生じる危険性がある。この熱交換器における腐食性液体としては、例えば、ラジエータのチューブ内部には冷却水が流れており、チューブ外部は外環境からの腐食性物質、例えば融雪塩等が付着することから、チューブの内外共に腐食環境にあるといえる。
【0004】
従来、熱交換器のチューブにおける腐食対策としては、チューブの内側については犠牲陽極材をクラッドして防食し、チューブの外側についてはチューブ自体に犠牲層をクラッドすることはせず、フィンの構成材料であるアルミニウム合金にZnを添加する等して孔食電位を卑化し、フィンによる犠牲防食作用を利用している。
【0005】
ところで、最近の自動車に使用される新しい熱交換器のチューブについては、より一層の軽量化を実現するための薄肉化に関する要求が高くなっている。このチューブの薄肉化の要求に対応するため、チューブ材の板厚を薄くしていくと、深さがさほど大きくない腐食孔であっても致命的なものとなり得る。これは、フィンによる犠牲防食のみではチューブ外側のろう材の防食が不十分であることを意味する。従って、薄肉化を考慮する場合、フィンがろう付されるチューブの外面に対しては、従来からあるフィンとのろう付機能に加えて、犠牲防食機能を具備させる必要が生じる。
【0006】
ここで、チューブ片面にろう付機能と犠牲防食効果の両方の機能を持たせるための手段としては、心材とろう材の間に犠牲防食効果を有する中間層材をクラッドした、ろう材/中間層材(Znによる犠牲防食効果あり)/心材/犠牲陽極材からなる4層材を用いることが考えられる。かかる4層材のブレージングシートとして、例えば、特許文献1及び2に記載のブレージングシートがある。
【0007】
特許文献1に記載されたブレージングシートは、心材とろう材との間にAl−Zn系合金の中間層材を有しており、更に心材の中間層材を有さない面には犠牲陽極材がクラッドされているので、チューブの両面に犠牲防食効果を有する。
また、特許文献2に記載されたブレージングシートは、同じく心材とろう材との間にAl−Zn系合金の中間層材を有しており、更に心材の中間層材を有さない面には、選択的に犠牲陽極材をクラッドしても良いとされているので、チューブの両面に犠牲防食効果を持たせることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57-073153号公報
【特許文献2】特開平10-158769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者等によれば、従来のろう材/中間層材/心材/犠牲陽極材からなる4層材のブレージングシートは、板厚を薄く設定した場合における耐食性が不十分である。これら4層材のブレージングシートは、ろう付加熱中に心材に対してその両面からZnが拡散するため、板厚を薄くすると、心材の板厚全体にZnが拡散するおそれがある。そうなると、心材とろう材表面とのZn濃度差、或いは、心材と犠牲陽極材表面とのZn濃度差が小さくなるため、犠牲防食効果が十分でなくなるからである。この点、上記の特許文献1、2についてみると、これらの先行技術においては、ブレージングシートの板厚については述べられておらず、具体的な実施例の板厚は1.0mm以上の厚肉材のみであり、板厚を薄くした場合の心材へのZn拡散といった問題点について何ら考慮されていない。
【0010】
このように、アルミニウム合金ブレージングシートを、例えば熱交換器のチューブ材であって、その内外面の双方が厳しい腐食環境にあり、しかも板厚が薄いものに適用する際において、双方の面に十分な犠牲防食効果を具備させ、かつ、片面にはろう付機能を具備させることは、従来の技術では困難であった。
【0011】
本発明は、かかる問題点を解消するべく完成されたものであって、アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、板厚が小さい場合においても両面で十分な犠牲防食効果を発揮し、かつ、その片面にはろう付機能を有し、ろう付時における溶融ろうによる侵食のない良好なろう付性を発揮する高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート、並びに、これを用いた自動車用熱交換器の流路形成部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題について鋭意研究を重ねた結果、ろう材/中間層材/心材/犠牲陽極材からなる4層材のブレージングシートの各構成について、それぞれについて特定の合金組成を有する材料を設定し、それらをクラッドしたものがその課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
具体的には、本発明は、心材と、前記心材の一方の面にクラッドされた中間層材と、前記中間層材にクラッドされたろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた犠牲陽極材と、を備えるアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記心材は、Si:0.05〜1.5mass%(以下、%とする)、Fe:0.05〜2.0mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記中間層材は、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記ろう材は、Si:2.5〜13.0mass%、Fe:0.05〜1.2mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠牲陽極材は、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなることを特徴とする、高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートである。
【0014】
以下、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート及びその製造方法の好適な実施態様について、詳細に説明する。まず、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートを構成する、心材、中間層材、ろう材、犠牲陽極材の各構成について説明する。尚、以下の説明において、材料組成を示す「%」とはmass%の意義である。
【0015】
A.心材
心材には、Si:0.05〜1.5%、Fe:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。本発明の心材に用いるアルミニウム合金は、JIS 3000系合金、例えばJIS 3003合金等のAl−Mn系合金が好適に用いられる。以下、各成分について説明する。
【0016】
Siは、Fe、Mnと共にAl−Fe―Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる必須の構成元素である。Si含有量は、0.05〜1.5%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.5%を超えると心材の融点が低下して溶融が生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.2%である。
【0017】
Feは、Si、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる必須の構成元素である。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.1〜1.5%以下である。
【0018】
Mnは、Siと共にAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる必須の構成元素である。Mn含有量は、0.5〜2.0%である。0.5%未満では上記効果が不十分となり、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Mnの好ましい含有量は、0.8〜1.8%である。
【0019】
また、心材は、Cu:0.05〜1.5%、Mg:0.05〜0.5%、Ti0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3%、及び、V:0.05〜0.3%から選択される1種以上を選択的添加元素として含有しても良い。
【0020】
Cuは、固溶強化により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Cu含有量は、0.05〜1.5%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.5%を超えると鋳造時におけるアルミニウム合金の割れ発生のおそれが高くなる。Cuの好ましい含有量は、0.3〜1.0%とする。
【0021】
Mgは、MgSiの析出により強度を向上させるので含有させても良い。Mg含有量は、0.05〜0.5%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、0.5%を超えるとろう付が困難となる。Mg含有量は、より好ましくは0.1〜0.4%とする。
【0022】
Tiは、固溶強化により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Ti含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となる。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0023】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Zr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0024】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Cr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0025】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。V含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0026】
これら選択的添加元素であるCu、Mg、Ti、Zr、Cr及びVは、心材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0027】
B.中間層材
中間層材には、Zn:0.5〜8.0%、Si:0.05〜1.5%、Fe:0.05〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0028】
Znは、ろう付加熱時にろう材表面へ拡散し、ろう付加熱後のろう材表面の孔食電位を卑にすることができ、ろう材表面と心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上することができる。Znの含有量は0.5〜8.0%である。0.5%未満では、犠牲陽極効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、8.0%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、1.0〜6.0%である。
【0029】
Siは、FeとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはFe、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Siの含有量は、0.05〜1.5%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.5%を超えると中間層材の融点が低下してろう付時に溶融が生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.2%である。
【0030】
Feは、SiとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはSi、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.1〜1.5%以下である。
【0031】
また、中間層材は、Mn:0.05〜0.5%、Mg:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有しても良い。
【0032】
Mnは、Si、FeとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成する。この金属間化合物は分散強化により強度を向上させるが、この金属間化合物は同時に腐食速度をも増大させる。特に、中間層材はろう材と隣接しているため、Al−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し易いことから、Mnはその含有量を適切な範囲とする必要がある。そして、Mnの含有量は、0.5%以下が好ましい。0.5%を超えると金属間化合物の影響により腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。一方、0.05%未満では、強度向上の効果が十分でない。なお、耐食性の面からMnの含有量は0.1%以下に規制されることがより好ましく、更に好ましくは0.01%以下である。また、耐食性の面からMnの好ましい含有量に下限値は無いが、含有量が0.001%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。
【0033】
Mgは、MgSiの析出により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Mg含有量は、0.05〜0.5%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、0.5%を超えるとろう付が困難となる。Mg含有量は、より好ましくは0.1〜0.4%とする。
【0034】
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。Ti含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、より好ましくは0.05〜0.2%とする。
【0035】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Zr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0036】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Cr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0037】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。V含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、より好ましくは0.05〜0.2%とする。
【0038】
これら選択的添加元素であるTi、Zr、Cr及びVは、中間層材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0039】
C.ろう材
ろう材には、Si:2.5〜13.0%、Fe:0.05〜1.2%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0040】
Siはろう材の必須構成元素であり、その添加によりろう材の融点を低下させ液相を生じさせ、これによってろう付を可能にする。Si含有量は2.5〜13.0%である。2.5%未満では、生じる液相が僅かでありろう付が機能し難くなる。一方、13.0%を超えると、例えばフィン等の相手材へ拡散するSi量が過剰となり、相手材への侵食が発生してしまう。Siの好ましい含有量は、3.5〜12.0%である。
【0041】
FeはAl−Fe系やAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し易いために、ろう付に有効となるSi量を低下させ、ろう付性の低下を招く。即ち、Feはろう付性を確保する上でその濃度を規制すべき元素である。Fe含有量は、0.05〜1.2%である。0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高を招く。一方、1.0%を超えると、上記作用によりろう付が不十分となる。Feの好ましい含有量は、0.1〜0.5%である。
【0042】
また、本発明において、ろう材は、Cu:0.05〜0.6%、Mn:0.05〜2.0%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3%、V:0.05〜0.3%、Na:0.001〜0.05%、Sr:0.001〜0.05%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有しても良い。
【0043】
Cuは、固溶強化により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Cu含有量は、0.05〜0.6%とするのが好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、一方、0.6%を超えると、表面の孔食電位が貴になってしまい、犠牲防食効果を損失して耐食性が低下する。Cuのより好ましい含有量は、0.1〜0.4%である。
【0044】
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させても良い添加元素である。Mnの含有量は、0.05〜2.0%とするのが好ましい。2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分得られない。Mn含有量は、より好ましくは0.05〜1.8%とする。
【0045】
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。Ti含有量は、0.05〜0.3%とするのが好ましい。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0046】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Zr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0047】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い。Cr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0048】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い。V含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0049】
以上の選択的添加元素であるMn、Ti、Zr、Cr、Vは、ろう材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。また、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0050】
D.犠牲陽極材
犠牲陽極材には、Zn:0.5〜8.0%、Si:0.05〜1.5%、Fe:0.05〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0051】
Znは孔食電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上することができる。Znの含有量は0.5〜8.0%である。0.5%未満では、犠牲陽極効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、8.0%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、2.1〜6.0%である。
【0052】
Siは、FeとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはFe、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Siの含有量は、0.05〜1.5%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.5%を超えるとろう付時に溶融を生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.2%である。
【0053】
Feは、SiとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはSi、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.1〜1.5%以下である。
【0054】
また、犠牲陽極材は、Mg:0.05〜3.0%、Mn:0.05〜2.0%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有しても良い。
【0055】
Mgは、MgSiの析出により犠牲陽極材の強度を向上させる。また、犠牲陽極材自身の強度を向上させるだけでなく、ろう付することにより犠牲陽極材から心材にMgが拡散して心材の強度も向上させる。これらの理由から、Mgを含有させても良い。Mgの含有量は、0.05〜3.0%が好ましい。0.05%未満ではそれらの効果が十分得られない場合があり、3.0%を超えるとクラッド熱間圧延工程において犠牲陽極材と心材との圧着が困難となる。Mg含有量は、0.1〜2.0%とするのがより好ましい。なお、Mgはノコロックろう付におけるフラックスを劣化させてろう付性を阻害するため、犠牲陽極材が0.5%以上のMgを含有する場合はチューブ材同士の接合にはノコロックろう付を採用できない。この場合には、例えばチューブ材同士の接合には溶接等の手段を用いる必要がある。
【0056】
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させても良い。Mnの含有量は、0.05〜2.0%である。2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させ、また犠牲陽極層の電位を貴にするため、犠牲陽極効果を阻害して耐食性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分得られない。Mn含有量は、好ましくは0.05〜1.8%である。
【0057】
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い。Ti含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.05〜0.2%である。
【0058】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い。Zr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0059】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い。Cr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0060】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い。V含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.05〜0.2%である。
【0061】
これらMn、Ti、Zr、Cr及びVは、中間層材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0062】
以上のように組成調整が適切になされた、心材、中間層材、ろう材、犠牲陽極材をクラッドした本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、両面に十分な犠牲防食効果を備えつつも片面のろう付機能も確保されたものである。そして、板厚が薄い場合において、本発明の効果は最大限に発揮される。具体的には、アルミニウム合金ブレージングシートの全体の板厚が450μm以下の場合において、本発明の効果が最大限に発揮される。上記の通り、従来、アルミニウム合金ブレージングシートの板厚を450μm以下とした場合、フィンによる犠牲防食のみでは不十分であるが、本発明ではフィンの有無によらずに十分な犠牲防食効果が発揮される。本発明の効果を最大限に発揮するための、より好ましい板厚は、360μm以下である。尚、板厚が450μmより大きい場合には、フィンによる犠牲防食だけでも十分な効果があり、本発明の有効性が薄らぐこととなる。
【0063】
また、既に述べたように、板厚が薄い場合には、心材の板厚全体にZnが拡散し、心材と犠牲陽極材表面とのZn濃度差による犠牲防食効果が十分でなくなり、耐食性が不十分となるおそれがある。そのため、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートにおいては、ろう付後の犠牲陽極材の表面Zn量が多くなるようにすることが好ましい。具体的には、ろう付後の犠牲陽極材の表面Zn量が0.3%以上であれば、心材の板厚全体にZnが拡散しても、十分な耐食性を有することができる。ろう付後の犠牲陽極材の表面Zn量が0.3%未満の場合は、心材の板厚全体にZnが拡散した場合には、十分な耐食性を有することができない。
【0064】
ここで、ろう付後の犠牲陽極材の表面Zn量は、ろう付前の犠牲陽極材のZn量(%)×厚さ(μm)の値によって決まる。この値は、ろう付前のアルミニウム合金ブレージングシートの犠牲陽極材に含まれるZnの総量を意味する。Zn量(%)×厚さ(μm)の値が40以上であれば、ろう付後の犠牲陽極材の表面Znは0.3%以上となる。Zn量(%)×厚さ(μm)の値が40未満の場合は、ろう付後の犠牲陽極材の表面Znは0.3%未満となってしまう。Zn量(%)×厚さ(μm)の値は、より好ましくは50以上である。尚、犠牲陽極材の厚さについては特に制限は無いが、本願発明が薄肉材に対応可能であることを考慮すれば、80μm以下とするのが好ましい。また、製造による犠牲陽極材の厚さのバラツキを考慮すれば、10μm以上とするのが好ましい。
【0065】
尚、板厚が薄い場合の心材へのZn拡散による耐食性低下は、ろう材表面についても同様のことが言える。もっとも、ろう材表面の耐食性については、不十分であるもののフィンによる犠牲防食効果を付加的に作用させることができる。従って、ろう付後のろう材の表面Zn量や、中間層材のZn量(%)×厚さ(μm)の値については、特に制限する必要は無い。
【0066】
また、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートにおいては、犠牲陽極材の厚さについては規定するものの、ろう材層及び中間層材の厚さには特に制限はない。但し、例えば自動車用熱交換器のチューブ材として使う場合には、クラッド率にして2〜30%程度で設定されることが多い。
【0067】
本発明の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートの製造工程は、上記のアルミニウム合金心材、中間層材、犠牲陽極材、Al−Si系合金ろう材をそれぞれ鋳造して鋳塊となす鋳造工程と;鋳造した犠牲陽極材、中間層材及びAl−Si系合金ろう材をそれぞれ熱間圧延する熱間圧延工程と;熱間圧延した犠牲陽極材を心材用鋳塊の一方の面に重ね合わせ、熱間圧延したAl−Si系合金ろう材を心材用鋳塊の他方の面に重ね合わせて、これらを加熱して熱間圧延を行ってクラッド材とする熱間クラッド圧延工程と;得られたクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延の途中又は冷間圧延の後に焼鈍を行う焼鈍工程と;を備える。
【0068】
鋳造工程における条件に特に制限は無いが、通常は水冷式の半連続鋳造によって行われる。熱間圧延工程及び熱間クラッド圧延工程において、その加熱温度は通常は400〜560℃程度で行うのが好ましい。400℃未満では塑性加工性が乏しいため圧延時にコバ割れ等を生じる場合があり、また熱間クラッド圧延の場合は心材に対してろう材、中間層材、犠牲陽極材の圧着が困難となり、正常に熱間圧延を行うことができない場合がある。一方、560℃より高温の場合には、加熱中にろう材が溶融してしまうおそれがある。
【0069】
焼鈍工程は圧延中の加工ひずみを低減させる目的で、通常は100〜560℃程度で行うのが好ましい。100℃未満ではその効果が十分でない場合があり、560℃を超えるとろう材が溶融してしまうおそれがある。なお、焼鈍工程にはバッチ式の炉を用いても、連続式の炉を用いても良い。また、焼鈍工程は冷間圧延工程の途中又は冷間圧延工程の後に少なくとも1回以上行われるものであるが、その実施回数に上限は無い。
【0070】
アルミニウム合金心材を鋳造して得られる鋳塊を、熱間クラッド圧延工程の前に均質化処理工程に供しても良い。均質化処理工程は、通常は450〜620℃で行うことが好ましい。温度が450℃未満ではその効果が十分でない場合があり、620℃を超えると心材鋳塊の溶融を生じてしまうおそれがある。
【0071】
以上説明した本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、自動車用熱交換器の流路形成部品、即ち、チューブの製造に好適である。この際、例えば、ブレージングシートを図1に示すようなB型断面形状に織り込んだものを、フラックスを塗布して600℃程度に加熱することによりろう付することでチューブとすることができる。
【発明の効果】
【0072】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、例えば熱交換器のチューブ材であって、チューブ内外の両面が厳しい腐食環境にあるものに対しても効果的な防食性能を有する。そして、チューブの肉厚を薄くした場合であっても、防食性能は維持される。そして、その片面にはろう付機能が付与されている。本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは、フィン接合率、耐エロージョン性等ろう付性にも優れ、更に軽量性や良好な熱伝導性の観点から、自動車用の熱交換器チューブ材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】アルミニウム合金ブレージングシートからなるB型断面形状に成形されたチューブの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下、本発明の実施形態について、実施例と比較例に基づいて詳細に説明する。本実施形態では、表1に示す合金組成を有するろう材、表2に示す合金組成を有する中間層材、表3に示す合金組成を有する心材、表4に示す合金組成を有する犠牲陽極材をそれぞれ製造した後、クラッドしてアルミニウム合金ブレージングシートとした。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
各合金は、DC鋳造により鋳造し、各々両面を面削して仕上げた。面削後の鋳塊厚さは、いずれも400mmとした。そして、ろう材、中間層材及び犠牲陽極材については、最終板厚で狙いの厚さとなるクラッド率を計算し、それに必要な合わせ時の厚さとなるよう、520℃で3時間の加熱工程に供した後、所定の厚さまで熱間圧延した。
【0080】
これらの合金を用い、心材合金の一方の面には表2の中間層材を、他方の面には表4の犠牲陽極材を組み合わせ、更に中間層材には、表1のろう材合金を組み合わせた。また、一部のものにおいては中間層材を用いず、心材合金の一方の面に表1のろう材を、他方の面に表4の犠牲陽極材を組み合わせた。これらの合わせ材を520℃で3時間の条件で加熱工程に供した後、熱間クラッド圧延工程にかけ、3.5mm厚さの4層又は3層クラッド材を作製した。この4層又は3層クラッド材に冷間圧延、400℃で5時間保持の中間焼鈍、並びに、最終冷間圧延を施して、H1n調質のブレージングシート試料を作製した。中間焼鈍後の冷間圧延率は、いずれも40%とした。
【0081】
本実施形態における各実施例、比較例のブレージングシートについての、心材、ろう材、中間層材、犠牲陽極材の合金の組み合わせ、最終板厚、及び最終板厚における各層の厚さについて表5に示す。また、犠牲陽極材のZn量(%)×厚さ(μm)の値についても表5に示す。
【0082】
上記の製造工程においては、ブレージングシートの製造性の評価も行った。この製造工程において問題が発生せず、0.3mmの最終板厚まで圧延できた場合は製造性を「○」とし、鋳造時や圧延時に割れが生じて0.3mmの最終板厚まで圧延できなかった場合は製造性を「×」として製造性を評価した。この製造性の評価結果も表5に示す。
【0083】
そして、製造した実施例、比較例のブレージングシート試料について、以下の方法にてろう付性、ろう付後における引張強さ、ろう付後における犠牲陽極材表面Zn量、ろう材側耐食性、犠牲材側耐食性に関する評価・測定を行った。
【0084】
(ろう付性の評価)
厚さ0.07mm、調質H14、合金成分が3003合金に1.0%のZnを添加した組成を有するフィン材を用意し、これをコルゲート成形して熱交換器フィン材とした。このフィン材を上記ブレージングシート試料のろう材面に配置し、5%のフッ化物フラックス水溶液中に浸漬し、600℃で3分のろう付加熱に供して、ミニコア試料を作製した。このミニコア試料のフィン接合率が95%以上であり、かつ、ブレージングシート試料及びフィンに溶融が生じていない場合をろう付性が合格「○」とし、フィン接合率が95%未満である場合、ブレージングシート試料に溶融が生じた場合、フィンに溶融が生じた場合の少なくといずれかに該当する場合をろう付性が不合格「×」とした。
【0085】
(ろう付後における引張強さの測定)
600℃で3分の熱処理(ろう付加熱に相当)を施したブレージングシート試料を、引張速度10mm/分、ゲージ長50mmの条件で、JIS Z2241に従って引張試験に供した。得られた応力−ひずみ曲線から引張強さを読み取った。その結果、引張強さが120MPa以上の場合を合格「○」とし、それ未満を不合格「×」とした。
【0086】
(ろう付後における犠牲陽極材表面Zn量の測定)
ブレージングシート試料の犠牲陽極材同士を重ね合わせ、600℃で3分の熱処理(ろう付加熱に相当)を施し、Zn量測定用試料とした。これの圧延方向断面を樹脂埋めし、研磨により鏡面に仕上、EPMAにてライン定量分析することにより犠牲陽極材表面のZn量を測定した。
【0087】
(ろう材側耐食性の評価)
ろう付性の評価にて用いたものと同じミニコア試料を用い、ブレージングシートの犠牲陽極材表面を絶縁樹脂でマスキングしてろう材面を試験面とし、JIS−H8502に基づいて500時間及び1000時間のCASS試験に供した。その結果、1000時間でブレージングシートに腐食貫通の生じなかったものをCASSの耐食性合格「○」とし、500時間では腐食貫通が生じなかったが1000時間では生じたものを耐食性不十分「△」とし、500時間で腐食貫通が生じたものをCASSの耐食性不合格「×」とした。
【0088】
(犠牲材側耐食性の評価)
上記Zn量測定用試料のろう材側を絶縁樹脂によってマスキングし、犠牲陽極材面を試験面とした。この合せ試料を、Cl500ppm、SO2−100ppm、Cu2+10ppmを含有する88℃の高温水中で8時間浸漬し、次いで室温で16時間放置する工程を1サイクルとするサイクル浸漬試験に3ヶ月間及び6ヶ月間供した。その結果、6ヶ月間でブレージングシートに腐食貫通の生じなかったものを耐食性優秀「◎」とし、3ヶ月間では腐食貫通が生じなかったが、6ヶ月間では生じたものを耐食性合格「○」とし、3ヶ月間で腐食貫通が生じたものを不合格「×」とした。
【0089】
以上の評価結果を表5に示した。尚、製造性「×」のものについては試料を製造できなかったため、これらの評価は行なっていない。また、ろう付性評価において、評価が後述する「×」となったものについては、評価不可能な項目があるため、その他の評価を省略した。
【0090】
【表5】
【0091】
ここで、各試験による測定結果及び評価結果について検討する。まず、実施例である試験No.1〜13、47〜56についてみると、これらはブレージングシートの各構成(ろう材、中間層材、心材、犠牲陽極材)の組成について、本発明で規定する条件を満すものであり、製造性、ろう付性、ろう付後の引張強さ及び耐食性のいずれも合格であった。また、犠牲陽極材のZn量(mass%)×厚さ(μm)の値を40(mass%×μm)としたことで、犠牲陽極材側の耐食性も良好であった。これに対して比較例である試験No.14〜46は、ブレージングシートの各構成について本発明で規定する条件を具備しないことから、製造性、ろう付性、ろう付後の引張強さ及び耐食性のいずれかにおいて好ましいものではなかった。具体的には以下のような結果であった。
【0092】
(ろう材の組成について)
試験No.14は、ろう材のSi成分が少な過ぎたためろう付性が不合格であった。
試験No.15は、ろう材のSi成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
試験No.16は、ろう材のFe成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
試験No.17は、ろう材のCu成分が多過ぎたためろう材側での耐食性が不合格であった。
試験No.18は、ろう材のMn成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.19は、ろう材のTi、Zr、Cr、V成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.20は、ろう材のNa成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
試験No.21は、ろう材のSr成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
【0093】
(中間層材の組成について)
試験No.22は、中間層材のSi成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
試験No.23は、中間層材のFe成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.24は、中間層材のTi、Zr、Cr、V成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.25は、中間層材のMn成分が多過ぎたためろう材側での耐食性が不合格であった。
試験No.26は、中間層材のZn成分が少な過ぎたためろう材側での耐食性が不合格であった。
試験No.27は、中間層材のZn成分が多過ぎたためろう材側での耐食性が不合格であった。
試験No.28は、中間層材のMg成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
試験No.29〜31は、中間層材を有していないため、ろう材側での耐食性が不合格であった。
【0094】
(心材の組成について)
試験No.32は、心材のSi成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
試験No.33は、心材のMg成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
試験No.34は、心材のFe成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.35は、心材のTi、Zr、Cr、V成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.36は、心材のMn成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.37は、心材のCu成分が多過ぎたため鋳造時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.38は、心材のMn成分が少な過ぎたためろう付加熱後の引張強さが不合格であった。
【0095】
(犠牲陽極材の組成について)
試験No.39は、犠牲陽極材のSi成分が多過ぎたためろう付性が不合格であった。
試験No.40は、犠牲陽極材のFe成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.41は、犠牲陽極材のTi、Zr、Cr、V成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.42は、犠牲陽極材のMn成分が多過ぎたため圧延時に割れが生じ、ブレージングシートを作製することができず製造性が不合格であった。
試験No.43は、犠牲陽極材のZn成分が少な過ぎたため犠牲陽極材側での耐食性が不合格であった。
試験No.44は、犠牲陽極材のZn成分が多過ぎたため犠牲陽極材側での耐食性が不合格であった。
試験No.45は、犠牲陽極材のMg成分が少多過ぎたため熱間クラッド圧延時に心材と犠牲陽極材とが圧着されず、製造性が不合格であった。
【0096】
また、本発明においては、犠牲陽極材のZn量(%)×厚さ(μm)の値について、これが40(%×μm)以上であるものが好ましいとしている。この点、試験No.46は、犠牲陽極材のZn量(%)×厚さ(μm)の値が40(%×μm)未満であるため犠牲陽極材側での耐食性が不合格であった。
【0097】
更に、試験No.57〜59は、ブレージングシートの板厚が本発明の効果が最大限に発揮されるとする条件よりも厚いもの(450μm以上)とする参考例である。これらの参考例の結果をみると、中間層材が本発明で規定する条件を満たしていなかったり、中間層材を有さなかったりする場合でも、板厚が厚い場合には耐食性に劣ることもなくその他の特性も十分であるので、本発明に対する劣等性は小さい。このことから、本発明は板厚の薄いブレージングシートの構成として特に有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明により、例えば、チューブの内外両面が腐食環境にあり、かつ、薄肉である熱交換器のチューブ材用アルミニウム合金ブレージングシートを提供できる。この高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、チューブの内外両面に犠牲防食効果を備え、かつ、その片面にはろう付機能を有することが可能であり、フィン接合率、耐エロージョン性等のろう付性、軽量性、熱伝導性に優れる。更に、このような高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートを用いた自動車用熱交換器の流路形成部品も提供される。
図1