【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の問題的から把握されるように、ろう付後のアルミニウム合金ブレージングシート同士の接合部における優先腐食を防止するためには、ろう付後の状態における接合部の耐食性を考慮する必要がある。そして、接合部の防食のためには、ろう付後の犠牲陽極材表面と接合部のろう材表面との関係、及び、ろう付後のろう材層表面と心材との関係において、それぞれ適切な孔食電位の関係を有している必要がある。
【0018】
本発明者等は鋭意研究を行った結果、心材とろう材との間にZnを含有する中間層材をクラッドし、心材の中間層の無い面にはZnを含有する犠牲陽極材をクラッドし、更に中間層材のZn量、厚さと犠牲陽極材のZn量、厚さとの関係を適切に保つことにより、上述の好適な孔食電位の関係を達成できると考察した。そして、本発明者等は、それぞれが特定の合金組成を有するろう材、中間層材、心材及び犠牲陽極材をクラッドした材料が本願の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
上記課題を解決する本発明は、心材と、前記心材の一方の面にクラッドされた中間層材と、前記中間層材にクラッドされたろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた犠牲陽極材と、を備える高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記心材は、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%、Mn:0.5〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記中間層材は、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記ろう材は、Si:2.5〜13.0mass%、Fe:0.05〜1.2mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠牲陽極材は、Zn:0.5〜8.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなり、更に、前記犠牲陽極材におけるZn添加量(%)×厚さ(μm)の値が、前記中間層材におけるZn添加量(%)×厚さ(μm)の値以上であることを特徴とする、高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートである。
【0020】
以下、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシート及びその製造方法の好適な実施態様について、詳細に説明する。まず、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートを構成する、心材、中間層材、ろう材、犠牲陽極材の各構成について説明し、更に、中間層材と犠牲陽極材のZn量と厚さの関係について説明する。尚、以下の説明において、材料組成を示す「%」はmass%の意義である。
【0021】
A.心材
心材には、Si:0.05〜1.5%、Fe:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。本発明の心材に用いるアルミニウム合金は、JIS 3000系合金、例えばJIS 3003合金等のAl−Mn系合金が好適に用いられる。以下、各成分について説明する。
【0022】
Siは、Fe、Mnと共にAl−Fe―Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる必須の構成元素である。Si含有量は、0.05〜1.5%である。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.5%を超えると心材の融点が低下して溶融が生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.2%である。
【0023】
Feは、Si、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる必須の構成元素である。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.1〜1.5%以下である。
【0024】
Mnは、Siと共にAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる必須の構成元素である。Mn含有量は、0.5〜2.0%である。0.5%未満では上記効果が不十分となり、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Mnの好ましい含有量は、0.8〜1.8%である。
【0025】
また、心材は、Cu:0.05〜1.5%、Mg:0.05〜0.5%、Ti0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3%、及び、V:0.05〜0.3%から選択される1種以上を選択的添加元素として含有しても良い。
【0026】
Cuは、固溶強化により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Cu含有量は、0.05〜1.5%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、1.5%を超えると鋳造時におけるアルミニウム合金の割れ発生のおそれが高くなる。Cuの好ましい含有量は、0.3〜1.0%とする。
【0027】
Mgは、Mg
2Siの析出により強度を向上させるので含有させても良い。Mg含有量は、0.05〜0.5%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、0.5%を超えるとろう付が困難となる。Mg含有量は、より好ましくは0.1〜0.4%とする。
【0028】
Tiは、固溶強化により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Ti含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となる。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0029】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Zr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0030】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Cr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0031】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。V含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0032】
これら選択的添加元素であるCu、Mg、Ti、Zr、Cr及びVは、心材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0033】
B.中間層材
中間層材には、Zn:0.5〜8.0%、Si:0.05〜1.5%、Fe:0.05〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0034】
Znは、ろう付加熱時にろう材表面へ拡散し、ろう付加熱後のろう材表面の孔食電位を卑にすることができ、ろう材表面と心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上することができる。Znの含有量は0.5〜8.0%である。0.5%未満では、犠牲陽極効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、8.0%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、1.0〜6.0%である。
【0035】
Siは、FeとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはFe、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Siの含有量は、0.05〜1.5%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.5%を超えると中間層材の融点が低下してろう付時に溶融が生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.2%である。
【0036】
Feは、SiとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはSi、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.1〜1.5%以下である。
【0037】
また、中間層材は、Mn:0.05〜0.5%、Mg:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有しても良い。
【0038】
Mnは、Si、FeとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成する。この金属間化合物は分散強化により強度を向上させるが、この金属間化合物は同時に腐食速度をも増大させる。特に、中間層材はろう材と隣接しているため、Al−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し易いことから、Mnはその含有量を適切な範囲とする必要がある。そして、Mnの含有量は、0.5%以下が好ましい。0.5%を超えると金属間化合物の影響により腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。一方、0.05%未満では、強度向上の効果が十分でない。この点、上述の特許文献2においては、実施例として0.6%以上のMnが添加された中間層材の適用例があり、この先行技術が酸性環境における腐食速度を考慮していないことは明らかである。
【0039】
尚、耐食性の面からMnの含有量は0.1%以下に規制されることがより好ましく、更に好ましくは0.01%以下である。また、耐食性の面からMnの好ましい含有量に下限値は無いが、含有量が0.001%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。
【0040】
Mgは、Mg
2Siの析出により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Mg含有量は、0.05〜0.5%が好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、0.5%を超えるとろう付が困難となる。Mg含有量は、より好ましくは0.1〜0.4%とする。
【0041】
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。Ti含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、より好ましくは0.05〜0.2%とする。
【0042】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Zr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0043】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Cr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0044】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。V含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、より好ましくは0.05〜0.2%とする。
【0045】
これら選択的添加元素であるTi、Zr、Cr及びVは、中間層材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0046】
C.ろう材
ろう材には、Si:2.5〜13.0%、Fe:0.05〜1.2%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0047】
Siはろう材の必須構成元素であり、その添加によりろう材の融点を低下させ液相を生じさせ、これによってろう付を可能にする。Si含有量は2.5〜13.0%である。2.5%未満では、生じる液相が僅かでありろう付が機能し難くなる。一方、13.0%を超えると、例えばフィン等の相手材へ拡散するSi量が過剰となり、相手材の溶融が発生してしまう。Siの好ましい含有量は、3.5〜12.0%である。
【0048】
FeはAl−Fe系やAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し易いために、ろう付に有効となるSi量を低下させ、ろう付性の低下を招く。即ち、Feはろう付性を確保する上でその濃度を規制すべき元素である。Fe含有量は、0.05〜1.2%である。0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高を招く。一方、1.0%を超えると、上記作用によりろう付が不十分となる。Feの好ましい含有量は、0.1〜0.5%である。
【0049】
また、本発明において、ろう材は、Cu:0.05〜
0.6%、Mn:0.05〜2.0%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3%、V:0.05〜0.3%、Na:0.001〜0.05%、Sr:0.001〜0.05%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有しても良い。
【0050】
Cuは、固溶強化により強度を向上させるので含有させても良い添加元素である。Cu含有量は、0.05〜
0.6%とするのが好ましい。0.05%未満では上記効果が不十分となり、一方、0.6%を超えると、表面の孔食電位が貴になってしまい、犠牲防食効果を損失して耐食性が低下する。Cuのより好ましい含有量は、0.1〜0.4%である。
【0051】
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させても良い添加元素である。Mnの含有量は、0.05〜2.0%とするのが好ましい。2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分得られない。Mn含有量は、より好ましくは0.05〜1.8%とする。
【0052】
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い添加元素である。Ti含有量は、0.05〜0.3%とするのが好ましい。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0053】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い添加元素である。Zr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0054】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い。Cr含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、より好ましくは0.1〜0.2%とする。
【0055】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い。V含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0056】
以上の選択的添加元素であるMn、Ti、Zr、Cr、Vは、ろう材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。また、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0057】
D.犠牲陽極材
犠牲陽極材には、Zn:0.5〜8.0%、Si:0.05〜1.5%、Fe:0.05〜2.0%を必須元素として含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が用いられる。
【0058】
Znは孔食電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上することができる。Znの含有量は0.5〜8.0%である。0.5%未満では、犠牲陽極効果による耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、8.0%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲防食層が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、2.1〜6.0%である。
【0059】
Siは、FeとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはFe、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Siの含有量は、0.05〜1.5%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.5%を超えるとろう付時に溶融を生じるおそれが高くなる。Siの好ましい含有量は、0.1〜1.2%である。
【0060】
Feは、SiとともにAl−Fe−Si系の金属間化合物を形成し、またMnを同時に含有している場合にはSi、MnとともにAl−Fe−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの添加量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、0.1〜1.5%以下である。
【0061】
また、犠牲陽極材は、Mg:0.05〜3.0%、Mn:0.05〜2.0%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から選択される1種以上を選択的添加元素として更に含有しても良い。
【0062】
Mgは、Mg
2Siの析出により犠牲陽極材の強度を向上させる。また、犠牲陽極材自身の強度を向上させるだけでなく、ろう付することにより犠牲陽極材から心材にMgが拡散して心材の強度も向上させる。これらの理由から、Mgを含有させても良い。Mgの含有量は、0.05〜3.0%が好ましい。0.05%未満ではそれらの効果が十分得られない場合があり、3.0%を超えるとクラッド熱間圧延工程において犠牲陽極材と心材との圧着が困難となる。Mg含有量は、0.1〜2.0%とするのがより好ましい。なお、Mgはノコロックろう付におけるフラックスを劣化させてろう付性を阻害するため、犠牲陽極材が0.5%以上のMgを含有する場合はチューブ材同士の接合にはノコロックろう付を採用できない。この場合には、例えばチューブ材同士の接合には溶接等の手段を用いる必要がある。
【0063】
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させても良い。Mnの含有量は、0.05〜2.0%である。2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させ、また犠牲陽極層の電位を貴にするため、犠牲陽極効果を阻害して耐食性を低下させる。一方、0.05%未満では、その効果が十分得られない。Mn含有量は、好ましくは0.05〜1.8%である。
【0064】
Tiは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い。Ti含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では、上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Ti含有量は、好ましくは0.05〜0.2%である。
【0065】
Zrは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Zr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い。Zr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Zr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0066】
Crは、固溶強化により強度を向上させると共にAl−Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒を粗大化する作用を有するので含有させても良い。Cr含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。Cr含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0067】
Vは、固溶強化により強度を向上させると共に耐食性も向上させるので含有させても良い。V含有量は、0.05〜0.3%である。0.05%未満では上記効果が得られない。0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる。V含有量は、好ましくは0.05〜0.2%である。
【0068】
これらMn、Ti、Zr、Cr及びVは、中間層材中に必要により少なくとも1種が添加されていれば良い。更に、上記必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物を、各々0.05%以下、全体で0.15%含有していても良い。
【0069】
以上説明した適切な組成を有する心材、中間層材、ろう材、犠牲陽極材をクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシートは、例えば、
図3のようなチューブに成形する際、ろう付加熱に供されることにより、溶融したろうでその接合部が満たされ、その後の冷却によりろうが凝固することによって接合される。
【0070】
ここで、ろう付後のチューブにおいて、周囲よりも孔食電位の卑な部位が存在すれば、その部位が優先的に腐食を起こす。このようなろう付後の状態において、犠牲陽極材表面の孔食電位が接合部のろう材表面の孔食電位と同一又はそれよりも卑であれば、犠牲陽極材表面が優先腐食するため接合部の優先腐食は発生しない。
【0071】
一方、ろう付後のろう材に関しては、ろう材表面を心材よりも優先腐食させるいわゆる犠牲陽極効果を持たせる必要がある。ろう付後におけるろう材表面と心材との孔食電位差が20mV以上である場合、この電位差による犠牲陽極効果が発揮されるため、ろう材側からの腐食による貫通孔の発生を防ぐことができる。ろう付後のろう材表面と心材との孔食電位差が20mV未満である場合、この電位差による犠牲陽極効果が十分でないため、ろう材側からの腐食により貫通孔が発生してしまう。ここで、ろう付後におけるろう材表面と心材との孔食電位差とは、ろう付後における心材の孔食電位からろう材表面の孔食電位を差し引いた値として定義される。
【0072】
そこで、本発明に係るブレージングシートは、ろう付後の犠牲陽極材表面の孔食電位と接合部のろう材表面の孔食電位との関係について、これを適切なものとするため、犠牲陽極材に含まれるZnの総量を、中間層材に含まれるZnの総量よりも多くする。犠牲陽極材及び中間層材のZnの総量は、Zn添加量(%)×厚さ(μm)によって計算される。そして、本発明では、犠牲陽極材におけるZn添加量(%)×厚さ(μm)の値が、中間層材におけるZn添加量(%)×厚さ(μm)の値以上とすることで、犠牲陽極材表面の孔食電位を、接合部のろう材表面の孔食電位と同じかそれより卑となるようにする。
【0073】
また、ろう付後のろう材表面と心材との孔食電位差については、既に述べたように、ろう付加熱時に中間層材のZnがろう材へ拡散することにより、ろう付後のろう材表面の孔食電位を卑とすることができる。本発明では、中間層材のZn含有量が0.5%以上とすることで、心材に対して20mV以上の電位差が生じるようにしている。
【0074】
尚、本発明におけるろう付の条件については特に限定されるものではないが、通常はフッ化物系のフラックスを塗布した後、窒素雰囲気炉において600℃程度に加熱されることにより実施される。
【0075】
本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートの全体厚さには特に制限はないが、例えば自動車用熱交換器のチューブ材として使う場合には、通常、約0.6mm程度以下の薄肉ブレージングシートとすることができる。ただし、この範囲内の板厚に限定されるものではなく、0.6mm程度以上、5mm程度以下の比較的厚肉の材料として使用することも可能である。
【0076】
また、ろう材層、中間層材、犠牲陽極材層の個々のクラッド率に関しては、通常は2〜30%程度である。犠牲陽極材及び中間層材については、それぞれのZn量を考慮して厚さを規定しクラッド率を設定することができる。
【0077】
以上説明した、本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、自動車用熱交換器の流路形成部品、すなわち、チューブの製造に好適である。例えば、
図1に示すようなブレージングシートをB型断面形状に織り込んだものを、フラックスを塗布して600℃程度に加熱することによりろう付するものである。
【0078】
本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、自動車用熱交換器の流路形成部品として用いられる際に、一方の面は冷却用液体の流路を形成し、他方の面は空気に接する。そして、他方の面の表面に溶質濃度の合計値が1000ppm以下であり、かつ、塩化物イオンを5ppm以上含み、しかも、pHが4以下である凝縮水が生成する場合に、上記効果が最大限に発揮される。
【0079】
即ち、このような腐食環境では、凝縮液が孔食誘起性を有するため犠牲防食が必要であるが、溶質濃度が低濃度であり、しかも水没環境ではないためフィンによる犠牲防食が有効に作用しない。本発明に係る高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートは、このような腐食環境に対しても有用である。凝縮液の塩化物イオン濃度が500ppm以下で、なおかつ溶質濃度の合計値が10000ppm以下の場合には、フィンによる犠牲防食が有効に発揮されないので、本発明の効果が一層有効となる。尚、凝縮液の溶質濃度が10000ppm以下の場合であっても、その反対面が冷却水のような腐食環境でなければ、チューブ接合部の優先腐食が発生する可能性は低い。また、凝縮液の塩化物イオン濃度が5ppm以上の場合には、凝縮水が孔食誘起性を有するので、本発明の効果が一層有効となる。また、凝縮水のpHが4以下の場合には、凝縮水による腐食速度が非常に大きいため、本発明の効果が一層有効となる。
【0080】
本発明の高耐食性アルミニウム合金ブレージングシートの製造工程は、上記のアルミニウム合金心材、中間層材、犠牲陽極材、Al−Si系合金ろう材をそれぞれ鋳造して鋳塊となす鋳造工程と;鋳造した犠牲陽極材、中間層材及びAl−Si系合金ろう材をそれぞれ熱間圧延する熱間圧延工程と;熱間圧延した犠牲陽極材を心材用鋳塊の一方の面に重ね合わせ、熱間圧延したAl−Si系合金ろう材を心材用鋳塊の他方の面に重ね合わせて、これらを加熱して熱間圧延を行ってクラッド材とする熱間クラッド圧延工程と;得られたクラッド材を冷間圧延する冷間圧延工程と;冷間圧延の途中又は冷間圧延の後に焼鈍を行う焼鈍工程と;を備える。
【0081】
鋳造工程における条件に特に制限は無いが、通常は水冷式の半連続鋳造によって行われる。熱間圧延工程及び熱間クラッド圧延工程において、その加熱温度は通常は400〜560℃程度で行うのが好ましい。400℃未満では塑性加工性が乏しいため圧延時にコバ割れ等を生じる場合があり、また熱間クラッド圧延の場合は心材に対してろう材、中間層材、犠牲陽極材の圧着が困難となり、正常に熱間圧延を行うことができない場合がある。一方、560℃より高温の場合には、加熱中にろう材が溶融してしまうおそれがある。
【0082】
焼鈍工程は圧延中の加工ひずみを低減させる目的で、通常は100〜560℃程度で行うのが好ましい。100℃未満ではその効果が十分でない場合があり、560℃を超えるとろう材が溶融してしまうおそれがある。なお、焼鈍工程にはバッチ式の炉を用いても、連続式の炉を用いても良い。また、焼鈍工程は冷間圧延工程の途中又は冷間圧延工程の後に少なくとも1回以上行われるものであるが、その実施回数に上限は無い。
【0083】
アルミニウム合金心材を鋳造して得られる鋳塊を、熱間クラッド圧延工程の前に均質化処理工程に供しても良い。均質化処理工程は、通常は450〜620℃で行うことが好ましい。温度が450℃未満ではその効果が十分でない場合があり、620℃を超えると心材鋳塊の溶融を生じてしまうおそれがある。