(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、仮撚捲縮糸は、その伸縮性、嵩高性の特徴を活かし、様々な分野で利用されている。しかしながら、仮撚捲縮糸からなる織編物は、仮撚捲縮糸が伸縮性を有するため、変形しやすいものであり、引っ張られたり、押し潰されたりした際には、嵩高性が減少するかあるいはなくなってしまう問題があった。
特許文献1には、鞘成分にエチレン−ビニルアルコール系共重合体を配した、捲縮率5%以上の接着性捲縮繊維を20質量%以上含み、繊維層が該接着性捲縮繊維間の熱接着による融着層と、該融着層よりも表面側に存在して該接着性繊維により熱接着されていない嵩高層から形成された靴中敷用繊維構造体が記載されている。
この接着性捲縮繊維は、熱接着性を有するものの、靴中敷用のパイル糸としての使用を目的として捲縮率が高々20%であるため、織編物にしたときには嵩高性が小さくなってしまう問題があった。加えて、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が鞘成分に配されているため、水やアルコールに弱く、通常の環境下で衣料用や産業資材用途に使用するには問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題を解決し、得られる織編物は、良好な嵩高性を保持することが可能であり、またアルカリ処理をおこなうことが可能であり、その処理により織編物内部の空間を広げたり、風合いを調整することが可能である、
仮撚捲縮糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、特定の構成を有する芯鞘型フィラメントからなる仮撚捲縮糸が、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、
芯鞘型フィラメントからなる仮撚捲縮糸であって、
芯成分が、アルキレンテレフタレート単位を主体とし、融点が220℃以上のポリエステルで構成され、
鞘成分が、前記ポリエステルより融点が低い低融点共重合ポリエステルで構成され、
前記低融点共重合ポリエステルが、少なくともテレフタル酸成分と、エチレングリコール成分と、1,4−ブタンジオール成分とを含み、
前記仮撚捲縮糸の伸縮伸長率が30%以上であることを特徴とする仮撚捲縮糸を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、仮撚捲縮糸に熱処理して鞘成分を融着させることで、良好な嵩高性を保持することが可能な織編物を得ることができ、得られた織編物は、変形させても嵩高性を保持することが可能である。さらに、得られた織編物は、アルカリ処理により鞘成分を溶出することで、織編物内部の空間を広げたり、風合いを調整することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の仮撚捲縮糸は、芯鞘型フィラメントからなり、そのフィラメントの鞘成分は、芯成分を構成するポリエステルより融点が低い、低融点共重合ポリエステルであることが必要である。芯成分を構成するポリエステルと、鞘成分を構成する低融点共重合ポリエステルとの融点差は10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。具体的には、低融点共重合ポリエステルは、融点が130〜200℃であることが好ましく、ガラス転移点は20〜80℃であり、結晶開始温度は90〜130℃であることが好ましい。
低融点共重合ポリエステルを構成する共重合成分は、特に限定されるものでないが、得られる低融点共重合ポリエステルが、融着性が良好となり、水分等に対して安定し、かつ後述するアルカリ処理により効率よく除去できるものが好ましい。
具体的には、少なくともテレフタル酸成分、エチレングリコール成分および1,4−ブタンジオール成分を共重合成分とする低融点共重合ポリエステル
であることが必要である。このような低融点共重合ポリエステルは、比較的結晶化速度が速く、紡糸時だけでなく、融着加工時の安定性が高い点でも好ましいものである。なお、脂肪族ラクトン成分を共重合成分とする場合は、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、ε−カプロラクトンが特に好ましい。
【0008】
本発明の仮撚捲縮糸におけるフィラメントの芯成分は、アルキレンテレフタレート単位を主体とする融点が220℃以上のポリエステルであることが必要である。芯成分を構成するポリエステルは、前述のように、鞘成分を構成する低融点共重合ポリエステルより融点が10℃以上高いことが好ましく、融点が220〜280℃であることが好ましい。具体的には、芯成分を構成するポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどであることが好ましい。これらは単独で用いても、または混合して用いてもよい。
芯成分を構成するポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で共重合成分を含有してもよい。共重合成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン2酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン、りん酸、グリセリン、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシ)フェニル}プロパンなどが挙げられる。
【0009】
本発明の仮撚捲縮糸は、フィラメントの芯鞘質量比(芯:鞘)が、40:60〜90:10であることが好ましい。芯部の比率が40質量%未満であると、フィラメントの強力が得られにくく、また伸縮伸長率を30%以上とすることが困難となり、織編物の張り腰が低減する傾向がある。一方、芯部の比率が90質量%を超えると、鞘部の融着成分が少なくなる結果、融着しにくくなるため、融着に時間を要したり、目的とする融着状態が得られないことがある。
【0010】
本発明の仮撚捲縮糸のフィラメント断面形状は、特に限定されず、丸、三角、十字などいずれの形状でもよい。
本発明の仮撚捲縮糸の単糸繊度は、0.1〜30dtexであることが好ましい。
【0011】
本発明の仮撚捲縮糸は、前述の芯成分と鞘成分から構成された芯鞘型フィラメントからなり、仮撚捲縮を有する糸であることが必要である。
仮撚捲縮糸を使用して得られた織編物は、熱処理すると、捲縮がある状態で、すなわち、嵩高性を保持したままの状態で、仮撚捲縮糸の鞘成分を融着することができる。したがって、この織編物は、外力が加わった場合にも融着部が嵩高性を保持するため、嵩高性が減少することが少なく、また空気層が保持されるため、保温性を維持することもできる。
織編物において、上記嵩高性を有効に発揮するために、仮撚捲縮糸の伸縮伸長率は30%以上であることが必要であり、良好なふくらみ感や嵩高性を保持するために、伸縮伸長率は、30〜200%であることが好ましく、40〜180%であることがより好ましく、50〜150%であることがさらに好ましい。伸縮伸長率が30%未満の場合、嵩高性が十分に発揮されず、織編物はふくらみ感に欠けるものとなってしまう。
【0012】
次に、
本発明の仮撚捲縮糸の製法例を説明する。
まず、芯成分が、アルキレンテレフタレート単位を主体とし、融点が220℃以上のポリエステルで構成され、鞘成分が、前記ポリエステルより融点が低い低融点共重合ポリエステルで構成される芯鞘型フィラメントを準備する。この芯鞘型フィラメントは、公知の複合紡糸装置を用いて製造することができる。具体的には、芯成分を構成するポリエステルと、鞘成分を構成する低融点共重合ポリエステルとを複合紡糸装置に投入し、引取速度1000〜4500m/分の範囲で複合紡糸した後、所定の倍率に延伸する。
【0013】
次に、得られた芯鞘型フィラメントに仮撚加工を行って仮撚捲縮糸を得る。得られる仮撚捲縮糸の伸縮伸長率を30%以上とするための仮撚条件の一例としては、延伸倍率0.90〜1.20倍、好ましくは0.95〜1.10倍、仮撚係数25000〜35000、好ましくは27000〜32000、ヒーター温度130〜180℃、好ましくは130〜160℃の条件が挙げられる。なお、仮撚係数は、供給糸の繊度(dtex)を延伸倍率で除したものの平方根に仮撚数を乗じた数値である。
上記方法によって
本発明の仮撚捲縮糸を製造することができる。
【0014】
上記方法によって製造された
本発明の仮撚捲縮糸を、公知の方法に準じて製編織した後、熱処理を施す。
熱処理は、通常のピンテンターなどを使用して、仮撚糸の鞘成分の融点以上、芯成分の融点以下の温度で実施される。熱処理により、織編物を構成する仮撚捲縮糸は、鞘成分同士が融着する。このとき、織編物の引っ張り状態と、熱処理温度を調整することによって、織編物の嵩高性と、伸縮性とを調整することができる。すなわち、嵩高性と伸縮性が必要な織編物は、引っ張りを小さく、かつ熱処理温度を低くして融着部分を少なくすることによって、また変形に対して影響されにくく嵩高性が必要な織編物は、引っ張りを小さく、かつ熱処理温度を高くすることによって、それぞれ得ることができる。さらに、嵩高性が小さく、伸縮性が必要な織編物は、引っ張りを大きく、かつ熱処理温度を低くすることによって、また嵩高性が小さく、変形に対して影響されにくい織編物は、引っ張りを大きく、かつ熱処理温度を高くすることによって、それぞれ得ることができる。
【0015】
本発明の仮撚捲縮糸から得られた織編物は、その内部の空間を広げて、空気層を増やしたり、風合い調整をすることも可能である。特に、空気層を増やすことで断熱効果が向上する。
本発明の仮撚捲縮糸は、鞘成分が低融点共重合ポリエステルで構成され、アルカリ処理により鞘成分を溶出することができるため、一般的に行なわれるアルカリ減量方法を採用することができる。アルカリ減量方法により、鞘成分同士が融着している部分の一部が溶出して、織編物の融着部分が減少し、織編物の内部空間を広げることができる。アルカリ減量方法は、簡便性やコスト面等において好ましい方法である。アルカリ減量は、織編物のポリエステル質量に対して、濃度が20〜40g/Lであるアルカリを、浴比1:20〜50で、30〜60分間程度の条件で行なえばよく、減量促進剤として第4級アンモニウム塩などの減量促進剤を1〜5g/L程度併用することが好ましい。
【実施例】
【0016】
次に、本発明を実施例でさらに具体的に説明する。
なお、各評価は以下の方法で行った。
【0017】
(1)伸縮伸長率(%)
JIS−L−1013の伸縮性B法に従って測定を行い、仮撚捲縮糸の伸縮伸長率を算出した。ただし、沸水中で95℃×30分処理した試料を測定した。
【0018】
(2)厚み(mm)
JIS−L−1018に従って、編地の厚さを算出した。
【0019】
(3)1kPa圧力時の厚み(mm)
JIS−L−1018に従って、圧力を1kPaとしたときの編地の厚みを算出した。
【0020】
(4)目付(g/m
2)
JIS−L−1018に従って、標準状態における編地の単位面積当たりの質量を求め、目付とした。
【0021】
(5)気孔容積(%)
JIS−L−1096に従って、編地の気孔容積を算出した。
【0022】
(6)ストレッチ感
編地のストレッチ感について、5人のパネラーにより、次の基準により評価を行った。
◎:ストレッチ感が非常に良好なもの
○:ストレッチ感が良好なもの
△:ストレッチ感がやや不足しているもの
×:ストレッチ感がないもの
【0023】
実施例1A〜1D、参考例1、比較例1
鞘成分用の低融点共重合ポリエステルとして、極限粘度0.78、融点181℃、ガラス転移点48℃で、1,4−ブタンジオールを50mol%共重合させた、結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートと、芯成分用のポリエステルとして、極限粘度0.61、融点256℃のポリエチレンテレフタレートとを用意した。なお、融点は、パーキンエルマー社製示差走査熱量計「DSC−2型」を用いて、昇温速度20℃/分で測定した。
これらの原料を質量比1:1の割合で複合紡糸装置に投入し、温度270℃で同時に紡糸、延伸することにより、鞘成分に低融点共重合ポリエステルを、芯成分にポリエチレンテレフタレートを配する芯鞘型フィラメントからなる56dtex24fの糸条を得た。
この芯鞘型フィラメントを供給糸として、ピンタイプの仮撚機を用い、表1に記載の条件で仮撚加工を行って、
仮撚捲縮糸を得た。
次に、得られた仮撚捲縮糸を、福原精機製丸編機「LPJ−H」(33″×28G)を用いて、スムース組織の編地に製編した。
得られた編地を、表1に記載の条件で、ピンテンターを用いて熱処理した。
実施例1Dでは、熱処理された編地のポリエステル質量に対して、アルカリ濃度40g/L、減量促進剤(一方油脂工業社製DYK1125)3g/L、キレート(一方油脂工業社製D−40)0.3g/L、浴比1:20の条件で60分間アルカリ減量した。
得られた仮撚捲縮糸と編地の特性を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
本発明の仮撚捲縮糸は、伸縮伸長率が40.5%であり、この仮撚捲縮糸を使用して得られた実施例1A〜1Cの編地は、嵩高性が良好であり、1kPa圧力時にも厚みの減少が小さかった。実施例1Dで得られた編地は、アルカリ減量により鞘成分の一部が溶出されており、編地内部の空間が広がったため、気孔容積が増加し、実施例1Aの編地に比べて、ふくらみ感、軽量感、あたたかみがより一層向上した。
一方、参考例1の編地は、熱処理しなかったため、鞘成分の融着がなく、1kPa圧力時の厚みの減少が大きかった。
比較例1で得られた仮撚捲縮糸は、伸縮伸長率が低いため、これから得られた編地は、嵩高性に劣るものであった。