特許第6351261号(P6351261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6351261自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリーを保持する構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351261
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリーを保持する構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/00 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   B62D21/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-533261(P2013-533261)
(86)(22)【出願日】2011年10月11日
(65)【公表番号】特表2014-509974(P2014-509974A)
(43)【公表日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】FR2011052368
(87)【国際公開番号】WO2012049418
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2014年9月8日
【審判番号】不服2017-2995(P2017-2995/J1)
【審判請求日】2017年3月1日
(31)【優先権主張番号】1058325
(32)【優先日】2010年10月13日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ル ジョアン, ギョム
(72)【発明者】
【氏名】マヘ, シリル
(72)【発明者】
【氏名】ル デュク, フランソワ
【合議体】
【審判長】 島田 信一
【審判官】 中田 善邦
【審判官】 氏原 康宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−117726(JP,A)
【文献】 特開2007−15588(JP,A)
【文献】 特開2009−274665(JP,A)
【文献】 特開2008−184015(JP,A)
【文献】 特開2008−114736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D17/00-25/08,25/14-29/04
B60K1/00-6/12,7/00-8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータに電力供給するための電気バッテリー(3)、すなわち自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリー(3)を保持することを意図した構造(2)であって、当該構造は、
その上方および/またはその下方に前記電気バッテリー(3)が配置されるように意図された剛性エレメント、を備え、当該剛性エレメントは、
横断方向Yに延びる少なくとも2つのクロスメンバー(7)、及び長手方向Xに延びる少なくとも2つの長手方向部材(6a、6b)、を備え、前記構造(2)は、
(a)横断方向Yに延びる少なくとも2つの変形可能部材(5a、5b)、及び長手方向Xに延びる少なくとも2つのビーム(4a、4b)、を備え、
(b)前記クロスメンバー(7)の長さはバッテリーの横断方向の幅Lより大きく、前記電気バッテリーと前記クロスメンバー(7)の末端との間にクリアランスJが残っており、そして
(c)前記電気バッテリー(3)を記構造(2)上にランプ留めする手段を備え、構造(2)は前記(a)、(b)、(c)を全て備え
前記変形可能部材(5a、5b)は、前記長手方向部材(6a、6b)の両側に横断方向Yに配置されており、前記長手方向部材(6a、6b)と前記ビーム(4a、4b)とを機械的に接続し、
前記少なくとも2つの長手方向部材(6a、6b)が、前記少なくとも2つのクロスメンバー(7)によって互いに接続されており、
前記変形可能部材(5a、5b)の断面は矩形であり、
前記変形可能部材(5a、5b)は、孔(8a、8b)を備える、
ことを特徴とする構造(2)。
【請求項2】
請求項に記載の構造を備える自動車のフレーム(1)。
【請求項3】
請求項に記載の構造、または請求項に記載のフレームを備える、ハイブリッド自動車または電気自動車、すなわち電気四輪車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気バッテリー、詳細には、自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリーを保持するように意図された構造に関する。また、そのような構造を呈する自動車のフレームに関する。最終的には、そのような構造またはそのようなフレームを備える自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車またはハイブリッド自動車のようなある特定の自動車は、駆動電気モータに電力供給するための電気バッテリーを備える。安全上の理由により、様々な衝撃構成、すなわち
・前方衝撃
・後方衝撃
・ポストに対する側方衝撃
おいて、モータに電力供給するための電気バッテリーの完全性を保証することが必要である。
【0003】
衝撃中に、または衝撃の後に、発火の原因となり得る任意の電気ショックおよび/または任意の短絡回路を回避することを目的とする。これを回避するためには、バッテリーケーシングの完全性を保証すること、および衝撃時にバッテリーケーシングの内部エレメントとの接触のいかなる可能性も回避することが必要である。バッテリーケーシングの亀裂は許容できるが、ユーザが指を挿入できないように保証するある特定の寸法を超えてはならない。
【0004】
電気自動車のアーキテクチャは独特である。従来の内燃機関車両の燃料タンクの代わりに、必ずしも電気バッテリーを設置する必要はない。場合によっては、車両の2つの車軸間に電気バッテリーを設置することにより、衝撃の、特に、ポストに対する標準化側方衝撃の影響を受けやすくなる。
【発明の概要】
【0005】
ある特定のアーキテクチャによれば、電気バッテリーは、(一般には、エンジン車両の燃料タンクの代わりに)後方走行装置または前方走行装置の高さに配置される。このように配置することにより、走行装置の横断剛性から恩恵を受け、側方衝撃の発生時にバッテリーの完全性を保証することが可能になる。
【0006】
本発明の目的は、電気バッテリーを保持するように意図された構造を利用可能とし、それにより、前述の欠点を相殺し、従来技術からすでによく知られている構造を改善することである。詳細には、本発明は、自動車に対する側方衝撃の発生時に電気バッテリーの完全性を保証する単純で信頼でき、ロバストな構造を提案する。
【0007】
本発明によれば、電気モータに電力供給するための電気バッテリー、詳細には、自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリーを保持するように意図された構造は、その上方および/またはその下方にバッテリーが配置されるように意図された剛性エレメントを備え、剛性エレメントの両方の側方に配置されたエネルギー吸収エレメントを備え、エネルギー吸収エレメントは、少なくとも実質的に側方に延びる変形可能部材を備える。
【0008】
バッテリーの垂直突出部の表面は、剛性エレメントの垂直突出部の表面に含まれ得るか、または剛性エレメントの垂直突出部の表面に少なくとも実質的に含まれ得る。
【0009】
剛性エレメントは、1つまたは複数のクロスメンバーを備え得る。
【0010】
剛性エレメントは、1つまたは複数の長手方向部材を備え得る。
【0011】
剛性エレメントは、複数のクロスメンバーによって互いに接続された2つの長手方向部材(6a、6b)を備え得る。
【0012】
エネルギー吸収エレメントは、(剛性エレメントの両側に対して少なくとも実質的に横断方向に配置された)変形可能部材を備え得る。
【0013】
エネルギー吸収エレメントは、剛性エレメントの両側に対して少なくとも実質的に長手方向に配置された2つのビームを備え得る。
【0014】
エネルギー吸収エレメントは、剛性エレメントの両側に対して少なくとも実質的に長手方向に配置された2つのビームと、剛性エレメントの両側に対して少なくとも実質的に横断方向に配置された変形可能部材とを備え得、変形可能部材は、剛性エレメントをビームに機械的に接続する。
【0015】
本発明によれば、自動車のフレームは、上記で規定した構造を備える。
【0016】
本発明によれば、ハイブリッド自動車または電気自動車、詳細には、電気四輪車は、上記で規定した構造を備える。
【0017】
例として、本発明による構造の一実施形態を備える自動車のフレームを添付の図面に示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による構造の一実施形態を備える自動車フレームの斜視図である。
図2図1に点線で示されたセクションの高さにおける断面図であり、本発明による当該構造の実施形態を備える自動車フレームの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
自動車1のフレームの一実施形態について、図1および図2を参照して以下に説明する。
【0020】
フレームは、詳細には、電気自動車またはハイブリッド自動車のフレームであり、特に電気四輪車のフレームである。
【0021】
フレームは、好ましくはその中間セクションに、電気バッテリー3を保持するように意図され、詳細には、自動車を駆動する電気モータに電力供給するための電気バッテリーを保持するように意図された構造2を備える。
【0022】
フレームは長手方向xに延び、前記長手方向は、直線における車両の変位方向である。yは、長手方向に直行する横断方向に延び、zは、長手方向と横断方向とに直行する垂直方向に延びることを留意されたい。
【0023】
当該構造は、
・その上方にバッテリーが配置されるように意図された剛性エレメント7、6a、6bと、
・剛性エレメントの両方の側方に配置されたエネルギー吸収エレメント4a、5a、4b、5bと
を備える。
【0024】
好ましくは、剛性エレメントは、互いに対して少なくとも実質的に平行に延び、少なくとも実質的に長手方向xに延びる2つの長手方向部材6a、6bを備える。これらの長手方向部材は、たとえば、詳細には、アルミニウムまたはスチール製の金属プロファイルから作製される。これらの長手方向部材の断面は矩形とすることができる。
【0025】
好ましくは、剛性エレメントは、各図に示すように、2つの長手方向部材を機械的に接続するクロスメンバー、たとえば、4つのクロスメンバー7を備える。クロスメンバーは、少なくとも実質的に側方yに延びることができる。これらのクロスメンバーは、たとえば、詳細には、アルミニウムまたはスチール製の金属プロファイルから作製される。クロスメンバーの断面は矩形とすることができる。
【0026】
たとえば、クロスメンバーの高さは、長手方向部材の高さよりも低い。したがって、クロスメンバーの上面は、長手方向部材の上面に対して後退させられ得る。
【0027】
クロスメンバーは、ガセットによって長手方向部材に固定することができる。代替的には、クロスメンバーは、溶接によって、または、任意の他の固定手段によって長手方向部材に固定することができる。
【0028】
クロスメンバーの長さは、好ましくは、バッテリーの幅Lよりも大きい。したがって、バッテリーは、長手方向部材間のクロスメンバー上に配置することができる。好ましくは、図2に示すように、バッテリーとクロスメンバーの末端との間の、または、バッテリーと剛性エレメントの末端との間のバッテリーの両側にクリアランスJが残っている。
【0029】
好ましくは、エネルギー吸収エレメントは、互いに対して少なくとも実質的に平行に延び、少なくとも実質的に長手方向xに延びる2つのビーム4a、4b、詳細には、バランスビームまたはバランスを備える。好ましくは、これらのビームは、たとえば、詳細には、アルミニウムまたはスチール製の金属プロファイルから作製される。これらのビームの断面は矩形とすることができる。
【0030】
好ましくは、エネルギー吸収エレメントは、各図に示すように、剛性エレメントを、ビーム、たとえば、4つの変形可能部材5a、5bに機械的に接続する変形可能部材を備える。変形可能部材5a、5bは、少なくとも実質的に側方yに延びることができる。これらの変形可能部材は、たとえば、詳細には、アルミニウムまたはスチール製の金属プロファイルから、あるいは、合成材料製のプロファイルから作製される。変形可能部材5a、5bの断面は矩形とすることができる。変形可能部材5a、5bは、それらの変形を支援または案内する手段8a、8bを備えることができる。これらの手段8a、8bは、たとえば、変形可能部材中に作製された孔である。変形可能部材は、衝撃の発生時に、特に、側方衝撃の発生時、すなわち、当該構造に対して機械的作用FaまたはFbが乱暴に側方に加えられたことによる、詳細には、横断方向yに対して少なくとも実質的に平行に機械的作用が加えられたことに起因する衝撃の発生時に、著しいエネルギー吸収特性を所有することが好ましい。
【0031】
変形可能部材は、溶接によって、または、任意の他の固定手段によって長手方向部材およびビームに固定することができる。
【0032】
たとえば、変形可能部材の高さはビームの高さよりも低く、および/または、変形可能部材の高さは長手方向部材の高さよりも低い。少なくともある特定のエネルギー吸収エレメントは、クロスメンバーと整列して配置することができる。好ましくは、すべてのエネルギー吸収エレメントが、クロスメンバーと整列して配置される。
【0033】
変形実施形態では、当該構造は、構造上にバッテリーをクランプ留めするための(図示されない)手段を備えることができる。たとえば、これらのクランプ留め手段は、レール9aおよび9b、詳細には、剛性エレメントに固定されたレール上に、および/または長手方向にバッテリーにまたがったレール上に設けることができる。
【0034】
「剛性エレメント」という表現は、本明細書全体にわたって、構造に対する衝撃の発生時に、詳細には、特にポストに対する標準化衝突試験の過程における側方衝撃時に、エネルギー吸収エレメントよりも変形が少ない任意のエレメントを示すために使用される。好ましくは、剛性エレメントは、ポストに対する標準化衝突試験の過程において変形しないか、または標準化衝突試験中に剛性エレメントの弾性範囲で変形する。逆に、エネルギー吸収エレメントは、ポストに対する標準化衝突試験中に変形する。エネルギー吸収エレメントは、その塑性範囲で変形する。したがって、エネルギー吸収エレメントは、衝突試験の終了時に変形したままであるが、剛性エレメントは、剛性エレメントの初期形態を保持しているか、またはその初期形態を回復する。エネルギー吸収エレメントは、最大量の衝撃エネルギーを吸収するように設計される。
【0035】
代替的には、剛性エレメントはまた、標準化衝突試験の過程において塑性範囲で変形し得る。ただし、剛性エレメントは、エネルギー吸収エレメントよりも、側方の変形が小さい。詳細には、剛性エレメントは、バッテリーの完全性を十分に保証するために、ほとんど変形しない。前述のクリアランスJは、この目的のために寸法決定される。さらに、側方衝撃の発生時に、剛性エレメントは、エネルギー吸収エレメントが完全に変形したときのみ、詳細には、長手方向部材に対してビームが接触したときにのみ、剛性エレメントの塑性範囲で変形する。
【0036】
好ましくは、剛性エレメントは、エネルギー吸収エレメントの横断剛性よりも大きい横断剛性を特徴とする。エネルギー吸収エレメントの横断剛性と剛性エレメントの横断剛性とは、標準化側方衝突試験の過程において、剛性エレメントは変形しないか、またはその弾性範囲で変形するが、エネルギー吸収エレメントはその塑性範囲で変形することを保証するように十分に異なる。好ましくは、剛性エレメントの剛性は、エネルギー吸収エレメントの剛性の少なくとも1.2倍である。
【0037】
あらゆる場合において、剛性エレメントの剛性により、ポストに対する標準化側方衝突試験の過程においてバッテリーケーシング3の完全性を保証することが可能になる。
【0038】
前述の実施形態では、剛性エレメントは、バッテリーの下方に延びる。しかしながら、それに替えて、またはそれに加えて、本明細書には示されない別の実施形態では、剛性エレメントは、当該構造の所定の位置にバッテリーが置かれたときに、バッテリーの上方に延びるように配置することができる。
【0039】
好ましくは、バッテリーの垂直突出部の表面は、剛性エレメントの垂直突出部の表面に含まれるか、または少なくとも実質的に含まれる。「剛性エレメントの垂直突出部の表面」という表現は、垂直突出部の表面包絡線を示すために使用される。したがって、エネルギー吸収エレメントが2つの平行線からなる場合、長手方向部材は、長手方向部材に直交する2つのクロスメンバーによって接続され、次いで、垂直投影の表面は、2つのクロスメンバーと2つの長手方向部材とによって範囲が規定される矩形となる。
【0040】
自動車フレームは、当該構造の前述した実施形態のうちの一方または他方を備えることができる。自動車、詳細には、電気自動車、たとえば、電気四輪車にそのようなフレームを装備することができる。
【0041】
本発明のおかげで、当該構造は、下部構造が反復するか否かにかかわらず、下部構造の連続する横断補強を呈し、それにより、バッテリーの最適完全性が保証される。
【0042】
当該構造の前述した実施形態は、以下の利点を示す。
・低エネルギー衝撃の発生時に、当該構造を修復することが可能である。したがって、実際には、ビームおよび変形可能部材のみが損傷し、剛性エレメントは損傷していない。その場合、損傷したビームと損傷した変形可能部材を交換するだけでよい。
・剛性構造が一意に局所的に存在することにより、構造の軽量化を達成することが可能になる。
【0043】
様々な形容詞とともに本明細書全体にわたって使用される「少なくとも実質的に」という表現は、「(形容詞)である」または「実質的に(形容詞)である」を意味し、たとえば、「少なくとも実質的に直交する」は、「直交する」または「実質的に直交する」を意味する。
図1
図2