特許第6351276号(P6351276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6351276-整髪剤 図000008
  • 特許6351276-整髪剤 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351276
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】整髪剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/65 20060101AFI20180625BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20180625BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   A61K8/65
   A61K8/64
   A61Q5/06
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-10118(P2014-10118)
(22)【出願日】2014年1月23日
(65)【公開番号】特開2015-137260(P2015-137260A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【弁理士】
【氏名又は名称】合路 裕介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正人
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚人
【審査官】 松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−224573(JP,A)
【文献】 特開2010−132595(JP,A)
【文献】 特開2010−241833(JP,A)
【文献】 特開2015−137261(JP,A)
【文献】 特開2010−285401(JP,A)
【文献】 特開2012−056855(JP,A)
【文献】 特開2015−137242(JP,A)
【文献】 特開2006−70019(JP,A)
【文献】 特開2006−248986(JP,A)
【文献】 特開平11−286419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪形状を加熱して非直線状にする前に毛髪に塗布して使用される整髪剤であって、
下記式(Ia)〜(Ic)で表される構造及びこれらの構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチドが配合されたことを特徴とする整髪剤。
−S−S−(CH−COOH (Ia)
(式(Ia)中、nは1又は2である。)
−S−S−CH(CH)−COOH (Ib)
−S−S−CH(COOH)−CH−COOH (Ic)
【請求項2】
前記加熱における加熱温度が100℃以上である請求項1に記載の整髪剤。
【請求項3】
前記変性ペプチドとして分子量10000以上のものが配合された請求項1又は2に記載の整髪剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪を巻き髪などの非直線状にするために使用される整髪剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を加水分解して得られるペプチドは、毛髪用途とされる組成物に配合されている。そのようなペプチドの効果の向上や機能の付加を目指した研究開発が行われており、カチオン化、アシル化又はシリル化したペプチド誘導体が知られている。また、特許文献1、2には、毛髪用処理剤に配合されるペプチド誘導体として、チオグリコール酸塩、メルカプトプロピオン酸塩、チオ乳酸塩又はチオリンゴ酸塩を用いてカルボキシメチルジスルフィド基などをペプチドに導入した変性ペプチドが開示されている。この変性ペプチドは、加熱を伴うことで毛髪に付着しやすくなったことが特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−132595号公報
【特許文献2】特開2012−224573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ヘアスタイルは多種多様であり、巻き髪などの非直線状毛髪にすることも求められる。この場合には、ヘアアイロンなどで毛髪に熱を加えて形状形成することが知られており、この際の形成効率を高める要望がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、毛髪を巻き髪などの非直線形状とする際に、その形状の形成効率を高められる整髪剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等が鋭意検討を行った結果、所定の変性ペプチドを配合した整髪剤を毛髪に塗布した後に、熱を加えて毛髪形状を形成すれば、その形成効率が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る整髪剤は、毛髪形状を加熱して非直線状にする前に毛髪に塗布して使用されるものであって、下記式(Ia)〜(Ic)で表される構造及びこれらの構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチドが配合されたことを特徴とする。前記加熱における加熱温度は、例えば100℃以上である。本発明に係る整髪剤は、前記変性ペプチドとして分子量10000以上のものが配合されたものが良い。
−S−S−(CH−COOH (Ia)
(式(Ia)中、nは1又は2である。)
−S−S−CH(CH)−COOH (Ib)
−S−S−CH(COOH)−CH−COOH (Ic)
【発明の効果】
【0008】
熱を加えて毛髪形状を非直線状にする前に毛髪に塗布される本発明に係る整髪剤によれば、所定の変性ペプチドが配合されるから、その非直線状に形成する効率が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例及び比較例による処理後の毛髪の鉛直方向の長さ平均を表すグラフである。
図2】本発明における変性ペプチドの製造方法例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に基づき、本発明を以下に説明する。
本実施形態の整髪剤は、所定の変性ペプチドが水に配合されたものである(水の配合量は、例えば90質量%以上)。また、整髪剤の原料として公知のものを任意原料として更に配合したものを、本実施形態の整髪剤としても良い。
【0011】
(変性ペプチド)
本実施形態の整髪剤には、所定の変性ペプチドが配合される。この所定の変性ペプチドは、2以上のアミノ酸のペプチド結合によって形成された主鎖と、この主鎖に結合する側鎖基を備える。
【0012】
変性ペプチドの上記主鎖は、特に限定されない。この主鎖の例としては、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの主鎖と同じものが挙げられる。また、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの例としては、ケラチン、カゼインが挙げられる。ケラチンは、天然物由来のペプチドの中でもシステイン比率が高いものとして知られており、当該変性ペプチドが効率よく得られる原料となる。かかる観点から、変性ペプチドの主鎖はケラチンの主鎖と同じものが好適である。
【0013】
所定の変性ペプチドは、下記式(Ia)〜(Ic)で表される構造及びこれらの構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える。
−S−S−(CH−COOH (Ia)
(式(Ia)中、nは1又は2である。)
−S−S−CH(CH)−COOH (Ib)
−S−S−CH(COOH)−CH−COOH (Ic)
【0014】
上記(Ia)〜(Ic)で表される構造の塩は、カルボキシラートアニオンとカチオンとのイオン結合体である。そのカチオンとなる単位としては、例えば、NHなどのアンモニウム;Na、Kなどの金属原子;が挙げられる。
【0015】
上記変性ペプチドは、分子量が小さいほど本実施形態の整髪剤に分散し易く、この整髪剤のpHを低下させた際の分散性への影響が小さい。この観点から、上記変性ペプチドの分子量は、70000以下が良く、50000以下が好ましく、30000以下がより好ましい。また、変性ペプチドの分子量は、変性ペプチド分子が大きなほど毛髪の外表面への付着に有利なので、2000以上が良く、10000以上が好ましく、20000以上がより好ましく、30000以上が更に好ましく、40000以上が更により好ましい。ここで、変性ペプチドの分子量については、Sodium Dodecyl Sulfate−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE法)による変性ペプチドのバンドと分子量マーカーのバンドとの相対距離から算出した分子量を、変性ペプチドの分子量とみなして採用する。
【0016】
本実施形態に係る整髪剤における上記変性ペプチド配合量の下限は、特に限定されないが、例えば0.01質量%であり、0.1質量%が良い。一方、変性ペプチド配合量の上限は、多量配合によるコスト上昇抑制と整髪剤の透明性向上の観点から、5質量%が良く、3質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、0.5質量%が更により好ましい。
【0017】
次に、変性ペプチドの製造方法例として、ケラチンを原料とした変性ペプチドの製造方法について説明する。当該変性ペプチドの製造方法は、図2に示すように、還元工程(STP1)、酸化剤混合工程(STP2)、固液分離工程(STP3)、及び回収工程L(STP4)を有する。図2に示す全工程を備える方法では、酸化剤混合工程(STP2)にて変性ペプチド(図2に示す液体部Lに溶解している変性ペプチド、及び固体部Sに含まれる変性ペプチド)が生成するので、固液分離工程(STP3)及び回収工程L(STP4)を設けなくても変性ペプチドが製造されることになる。
【0018】
ケラチン:
原料であるケラチンとしては、これを構成タンパク質として含む羊毛(メリノ種羊毛、リンカーン種羊毛等)、人毛、獣毛爪等が挙げられる。中でも、変性ペプチドを安価かつ安定的に入手するために、羊毛を原料とすることが好ましい。この羊毛等の原料については、殺菌、脱脂、洗浄、切断、粉砕及び乾燥を適宜に組み合わせて、予め処理するとよい。
【0019】
還元工程(STP1):
還元工程(STP1)は、還元剤とケラチンと水とを混合する工程である。かかる還元工程(STP1)において、ケラチンが有するジスルフィド基(−S−S−)をメルカプト基(−SH HS−)に還元する。
【0020】
還元工程(STP1)で用いる還元剤は、チオグリコール酸、チオグリコール酸塩、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸塩、チオ乳酸、チオ乳酸塩、チオリンゴ酸、及びチオリンゴ酸塩から選択される一種又は二種以上である。二種以上の還元剤を使用する場合の還元剤の組合せは、任意の組合せで良く、例えば、チオグリコール酸とチオグリコール酸塩一種との組合せ、チオグリコール酸塩二種の組合せ、メルカプトプロピオン酸とメルカプトプロピオン酸塩一種との組合せ、メルカプトプロピオン酸塩二種の組合せ、チオ乳酸とチオ乳酸塩一種との組合せ、チオ乳酸塩二種の組合せ、チオリンゴ酸とチオリンゴ酸塩一種との組合せ、チオリンゴ酸塩二種との組合せ、チオグリコール酸塩一種とメルカプトプロピオン酸塩一種の組合せ、チオグリコール酸塩一種とチオ乳酸塩一種の組合せ、チオグリコール酸塩一種とチオリンゴ酸塩一種の組合せ、メルカプトプロピオン酸塩一種とチオ乳酸塩一種の組合せ、メルカプトプロピオン酸塩一種とチオリンゴ酸塩一種の組合せ、チオ乳酸塩一種とチオリンゴ酸塩一種、チオグリコール酸塩一種とチオ乳酸塩一種とチオリンゴ酸塩一種の組合せが挙げられる。
【0021】
チオグリコール酸塩としては、例えば、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カリウム、チオグリコール酸リチウム、チオグリコール酸アンモニウムが挙げられる。メルカプトプロピオン酸塩としては、例えば、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、メルカプトプロピオン酸リチウム、メルカプトプロピオン酸アンモニウムが挙げられる。チオ乳酸塩としては、例えば、チオ乳酸ナトリウム、チオ乳酸カリウム、チオ乳酸リチウム、チオ乳酸アンモニウムが挙げられる。チオリンゴ酸塩としては、例えば、チオリンゴ酸ナトリウム、チオリンゴ酸カリウム、チオリンゴ酸リチウム、チオリンゴ酸アンモニウムが挙げられる。
【0022】
上記所定の還元剤の使用量としては、羊毛等の原料1gを基準として、0.005モル以上0.02モル以下であると良い。また、被処理液(ケラチン又はケラチン由来である処理物を含み、各工程での反応系となる液。以下、同じ。)の容量を基準とした場合の還元剤の使用量は、0.1mol/L以上0.4mol/L以下であると良い。
【0023】
水の量は、特に限定されないが、例えば、羊毛等の原料1質量部に対して、20容量部以上200容量部以下であると良い。
【0024】
還元工程(STP1)においては、一種又は二種以上のアルカリ性化合物を被処理液に混合するとよい。アルカリ性化合物とは、水に添加することで、その水をアルカリ性にすることができる化合物である。このアルカリ性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0025】
上記アルカリ性化合物の混合量は、特に限定はされないが、還元工程(STP1)における被処理液のpHを下記範囲に調整する量である。還元工程(STP1)でのpHの下限としては、9が好ましく、10がより好ましい。一方、還元工程(STP1)でのpHの上限としては、13が好ましく、12がより好ましい。還元工程(STP1)でのpHを上記下限以上にすることで、ケラチンの還元を効率良く行うことができる。また、pHを上記上限以下にすることで、ケラチン主鎖の切断を抑制できる(ケラチン主鎖の切断を促進することを目的とする場合は、被処理液のpHが13を超えるように調整すればよい。)。
【0026】
還元工程(STP1)の温度条件は、特に限定されないが、35℃以上60℃以下が良く、40℃以上50℃以下が好ましい。温度条件が35℃未満であると、ジスルフィド基をメルカプト基に変換するための還元反応速度が低下し、ケラチンを十分に還元できないことがある。一方、60℃を超えると、ケラチン主鎖が切断されやすくなる。また、還元工程(STP1)の時間は、設定温度が低いほど長時間となり、設定温度が高いほど短時間となる。
【0027】
酸化剤混合工程(STP2):
酸化剤混合工程(STP2)は、還元工程(STP1)を経た処理物(ケラチン由来物)と酸化剤とを混合し、変性ペプチドを生成させる工程である。かかる酸化剤の混合は、処理物のメルカプト基を変性する酸化反応を促進するために行われる。通常、還元工程(STP1)を経た処理物を含む被処理液に、酸化剤を混合する。
【0028】
酸化剤としては、例えば、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過酸化水素等が挙げられる。用いる酸化剤は、一種又は二種以上である。
【0029】
酸化剤の使用量は、特に限定されないが、羊毛等の原料1gを基準として、0.001モル以上0.02モル以下であると良く、酸化剤混合工程(STP2)の被処理液の容量を基準として、0.02mol/L以上1mol/L以下であると良い。
【0030】
酸化剤を被処理液に混合する際には、この酸化剤が被処理液中で局所的に高濃度化することを避けるため、1mol/L以上5mol/L以下程度の酸化剤溶液を例えば10分から6時間かけて連続的と断続的とを問わず徐々に混合するとよい。
【0031】
pH9以上の被処理液に混合する酸化剤量(A)を、pH7以上9未満の被処理液に混合する酸化剤量(B)より多くするのが好適である。これにより、変性ペプチド生成時間が短縮化する。上記酸化剤量(A)及び(B)の合計に対する酸化剤量(B)の割合は、20mol%以下が好ましく、10mol%以下がより好ましく、5mol%以下が更に好ましく、0mol%が特に好ましい。
【0032】
酸化剤混合工程(STP2)での被処理液のpHは、本工程の進行に応じて調整される。酸化剤の混合を開始する際のpHは、9以上が好ましく、10以上がより好ましい。また、そのpHは、13以下が良く、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。pH9以上であれば、変性ペプチドの生成効率が良く、pH13以下であれば、ケラチン由来の処理物の主鎖の切断を抑制できる。酸化剤混合工程(STP2)終了時のpHは、特に限定されないが、7程度で良い。
【0033】
酸化剤混合工程(STP2)において、pH9以上の時間がpH7以上9未満の時間よりも長いことが好ましく、pH9以上12以下の時間がpH7以上9未満の時間より長いことがより好ましく、pH10以上11以下の時間がpH7以上9未満の時間より長いことがさらに好ましい。このような手順を採用した場合、変性ペプチドの生成効率が高まる。
【0034】
被処理液のpHを調整するための酸としては、有機酸及び無機酸から選択された一種又は二種以上を使用するとよい。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、コハク酸、酢酸が挙げられ、無機酸としては、例えば、塩酸、リン酸が挙げられる。酸の混合量は、被処理液のpHを監視しつつ、適宜設定すると良い。酸を被処理液に混合する際には、被処理液において局所的にpHが低下すると、処理物のメルカプト基同士がジスルフィド基になるおそれがあるため、被処理液に酸を徐々に混合することが好ましい。
【0035】
酸化剤混合工程(STP2)での温度条件は、10℃以上60℃以下が良く、40℃以下が好ましい。温度を上記範囲に制御することで、副生成物であるシスチンモノオキシド等の生成を抑制できる。
【0036】
酸化剤混合工程(STP2)での反応式を、還元工程(STP1)での還元剤としてチオグリコール酸若しくはその塩、メルカプトプロピオン酸若しくはその塩、チオ乳酸若しくはその塩、又は、リオリンゴ酸若しくはその塩を用いた場合、その還元剤の順の通り挙げれば次の通りである。
【化1】
【0037】
固液分離工程(STP3):
固液分離工程(STP3)は、酸化剤混合工程(STP2)後の被処理液を液体部Lと固体部Sとに分離する工程である。固液分離工程(STP3)では、濾過、遠心分離、圧搾分離、沈降分離、浮上分離等の公知の固液分離手段を採用することができ、必要に応じてイオン交換や電気透析等による脱塩等を行うとよい。
【0038】
回収工程L(STP4):
回収工程L(STP4)は、固液分離工程(STP3)で得た液体部Lに分散溶解する変性ペプチドLを固形状のものとして回収する工程である。この回収工程L(STP4)における固形状変性ペプチドLの回収方法としては、(1)液体部Lを凍結乾燥することによる回収、(2)液体部Lを噴霧乾燥することによる回収、(3)塩酸等の酸を液体部Lに添加して、液体部LのpHを2.5から4.0程度に低下させることにより生じた変性ペプチドL沈殿物の回収などが挙げられる。回収した固形状の変性ペプチドLについては、必要に応じて、水や酸性水溶液による洗浄、乾燥等を行う。
【0039】
加水分解工程:
上記の通り、酸化剤混合工程(STP2)での処理を終えることで、被処理液に高分散して溶解した変性ペプチドと、同液に溶解していない変性ペプチドが得られる。これら変性ペプチドを低分子化すれば、水への分散性が向上して溶解性が高まる。低分子化する態様としては、(1)固液分離工程(STP3)で得られた固体部Sを加水分解する態様、(2)固液分離工程(STP3)で得られた液体部Lに溶解している変性ペプチドLを加水分解する態様、(3)回収工程Lにより回収した変性ペプチドLを加水分解する態様、(4)変性ペプチドLと固体部Sを一括して加水分解する態様、が挙げられる。また、その他に加水分解による低分子化を図る方法としては、還元工程(STP1)の前、還元工程(STP1)と同時、還元工程(STP1)と酸化剤混合工程(STP2)との間に、低分子化のための加水分解を行うことが挙げられる。変性ペプチドを加水分解する方法としては、ペプチドの加水分解として公知のものがあり、酵素による加水分解、酸による加水分解及びアルカリによる加水分解が挙げられる。
【0040】
加水分解された変性ペプチドを回収するためには、上記回収工程L(STP4)と同様の方法を採用できる。ただし、pHが2.5から4.0程度になるように酸を添加する回収方法では、変性ペプチドが加水分解により低分子化しているので、回収困難であるか回収不能な場合がある。
【0041】
(任意原料)
本実施形態の整髪剤に配合される任意原料は、ヘアアイロンで整髪する際に使用される公知の整髪剤に配合される原料から選定したものが良い。この任意原料は、例えば、界面活性剤(カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤など)、高級アルコール、低級アルコール、多価アルコール、糖類、エステル油、油脂、脂肪酸、炭化水素、ロウ、シリコーン、高分子化合物、アミノ酸、動植物抽出物、微生物由来物、無機化合物、香料、防腐剤、紫外線吸収剤などである。
【0042】
(剤型)
上記整髪剤の使用時の剤型は、特に限定されず、例えば液状、クリーム状、ワックス状、フォーム状(泡状)、霧状が挙げられる。この剤型を液状に調整する場合、B型粘度計を使用して25℃、ローター回転数12rpmで計測した60秒後の粘度が、例えば200mPa・s以下である。
【0043】
(pH)
本実施形態の整髪剤のpHは、例えば5.0以上8.0以下である。pHを酸性としたときに変性ペプチドの分散性の低下が問題となる場合には、例えば、下記式(IIa)で表されるトリメチルアンモニウム塩(IIa)及び下記式(IIb)で表されるピリジニウム塩(IIb)から選ばれた一種又は二種以上の界面活性剤を配合することとし、その分散性が向上するまで配合量を増やすと良い。
【0044】
【化2】
[上記式(IIa)において、Rは炭素数12以上22以下のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。]
【0045】
【化3】
[上記式(IIb)において、Rは炭素数12以上22以下のアルキル基を表し、Yはハロゲン原子を表す。]
【0046】
(使用方法)
本実施形態の整髪剤を毛髪に塗布し、毛髪を加熱して毛髪形状を形成する。
【0047】
毛髪の加熱における加熱温度は、毛髪の温度ではなく、毛髪に当接する毛髪外温度を意味する。加熱温度の上限は、熱による毛髪の損傷を抑えるために、220℃が良く、190℃が好ましく、170℃がより好ましく。160℃が更に好ましい。一方の加熱温度の下限は、毛髪形状の形成を効率良く行うために、100℃が良く、120℃が好ましく、130℃がより好ましく、140℃が更に好ましい。
【0048】
本実施形態の整髪剤を塗布した毛髪を加熱する前には、毛髪を乾燥させると良い。乾燥させない場合には、通常よりも多く含まれる水分が沸騰して、毛髪を傷めるおそれがある。
【0049】
毛髪を加熱して毛髪形状を非直線状にする態様としては、例えば、ロッドに巻き付けた毛髪にドライヤー等による温風を毛髪に吹き付ける態様、カールアイロン(棒状発熱体)に毛髪を巻き付ける態様、が挙げられる。これらいずれの態様でも、毛髪形状を曲線状にできる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0051】
(実施例の整髪剤)
実施例の整髪剤として、変性ペプチド溶液を調製した。この溶液は、以下の還元工程、酸化剤混合工程、固液分離工程、回収工程、及び加水分解工程に従い調製した、上記式(Ia)で表される側鎖基(n=1)を備える変性ペプチドが分散する透明溶液である。
【0052】
還元工程:
中性洗剤で洗浄、乾燥させたメリノ種羊毛を、約5mmに切断した。この羊毛5.0質量部、30質量%チオグリコール酸ナトリウム水溶液15.4質量部及び6mol/L水酸化ナトリウム水溶液8.5質量部を混合し、さらに水を混合して全量150質量部、pH11の被処理液を調製した。この被処理液を、45℃、1時間の条件で攪拌した。次いで、さらに水を混合して全量を200質量部とし、45℃、2時間の条件で放置し、その後、液温が常温になるまで自然冷却した。
【0053】
酸化剤混合工程:
還元工程後の被処理液を攪拌しながら、当該液に、35質量%過酸化水素水を15.26質量部配合した水溶液178質量部を、約30分かけて攪拌しながら混合した(過酸化水素水の混合に伴って被処理液のpHは上昇することになるが、その上昇は約20質量%酢酸水溶液を混合することでpH10以上11以下の範囲に調整した。)。その後、約20質量%酢酸水溶液を徐々に混合し、被処理液のpHが漸次11から7になるように調整した。
【0054】
固液分離工程及び回収工程:
酸化剤混合工程で得られた液をろ過することによりその液の不溶物を除去した。その後、回収した液体部(ろ液)に36質量%塩酸水溶液97.2質量部を配合した水溶液160質量部を添加して液のpHを7から3.8にすることにより、変性ペプチドの沈殿を生じさせた。この沈殿を回収、水洗し、固形状の変性ペプチドを得た。
【0055】
加水分解工程:
回収工程で得た固形状変性ペプチドを配合し、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールでpH10.5とした水溶液を、80℃で2時間加熱した。この加熱後の液をろ過し、ろ液を得た。当該液は、変性ペプチドが1質量%のものであり、SDS−PAGE法では、変性ペプチドのバンドが44000の分子量で認められた。
【0056】
(実施例の整髪処理)
一端を結束した5本の毛束(一般女性から採取した毛髪50本、長さ約25cm)を、ラウレス硫酸ナトリウム1質量%水溶液で洗浄してから水洗し、温風で乾燥させた。この各毛束を実施例の整髪剤に浸漬し、水を切ってから温風乾燥させた。この浸漬から温風乾燥までの作業を7回行った。その後、結束部を固定した各毛束を、設定温度180℃のカールアイロン(クレイツイオン社製「ion curl iron 19mm」)で巻き取り、10秒間保持した。以上を整髪処理とした。
【0057】
実施例の整髪処理後の毛束の結束部を固定し、固定してから60分間経過するまでの鉛直方向の毛束長さを、10分毎に測った。下記表1は、その結果である。
【表1】
【0058】
(比較例の整髪処理)
実施例の整髪剤への浸漬から温風乾燥までの7回の作業を省略した以外は、実施例の整髪処理と同様に、比較例の整髪処理を行った。
【0059】
比較例の整髪処理後の毛束に対して、上記と同様、鉛直方向の長さを10分毎に測った。その結果は、下記表2の通りである。
【表2】
【0060】
図1は、上記表1及び2で示す結果の平均値をグラフとして表したものである。図1では、比較例よりも実施例の方が鉛直方向の長さが短い結果であったことから、実施例の整髪剤を使用することで、毛髪形状の形成効率が向上したことが分かる。
【0061】
(参考例の毛髪処理)
実施例の毛髪処理における整髪剤を他の整髪剤に置き換えた処理を、参考例の毛髪処理とした。この処理で使用した整髪剤は、加水分解ケラチン1質量%の水溶液とした(加水分解ケラチンの配合では、成和化成社製「プロモイス
WK」を使用した。)。
【0062】
参考例の整髪処理後の毛束に対して、上記と同様、鉛直方向の長さを10分毎に測った。その結果は、下記表3の通りである。
【表3】
図1
図2