(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351283
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制剤、密封容器入り剥き栗及び密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/14 20060101AFI20180625BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20180625BHJP
A23B 7/00 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
A23B7/14
A23L29/00
A23B7/00 101
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-21431(P2014-21431)
(22)【出願日】2014年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-168459(P2014-168459A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-21734(P2013-21734)
(32)【優先日】2013年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393029974
【氏名又は名称】クラシエフーズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】角谷 直紀
(72)【発明者】
【氏名】平林 明史
【審査官】
濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−125800(JP,A)
【文献】
特開平07−289163(JP,A)
【文献】
特開2003−335624(JP,A)
【文献】
特開2010−124824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00
A23L 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗の、1年以上の長期保存中に剥き栗表面に表出する緑色物質の析出抑制剤であって、アミノ酸を有効成分として含有することを特徴とする密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制剤。
【請求項2】
剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗であって、前記剥き栗に、アミノ酸が剥き栗全体重量中0.01重量%以上となるように施与されてなる密封容器入り剥き栗。
【請求項3】
アミノ酸が、剥き栗全体重量中0.04重量%以上となるように施与されてなる請求項2記載の密封容器入り剥き栗。
【請求項4】
アミノ酸が、グリシン、アラニン、オルニチン、シトルリン及びグルタミンのうち少なくとも1つである請求項2又は3記載の密封容器入り剥き栗。
【請求項5】
更に、剥き栗に、還元糖が施与されてなる請求項2乃至4の何れか1項に記載の密封容器入り剥き栗。
【請求項6】
剥き栗に、還元糖が剥き栗全体重量中0.1重量%以下となるように施与されてなる請求項5記載の密封容器入り剥き栗。
【請求項7】
還元糖が、キシロース及びグルコースのうち少なくとも1つである請求項5又は6記載の密封容器入り剥き栗。
【請求項8】
密封容器入り剥き栗の1年以上の長期保存中に剥き栗表面に表出する緑色物質の析出抑制方法であって、剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌するに際し、前記剥き栗に、アミノ酸を剥き栗全体重量中0.01重量%以上となるように施与することを特徴とする緑色物質析出抑制方法。
【請求項9】
アミノ酸を、剥き栗全体重量中0.04重量%以上となるように施与する請求項8記載の緑色物質析出抑制方法。
【請求項10】
アミノ酸が、グリシン、アラニン、オルニチン、シトルリン及びグルタミンのうち少なくとも1つである請求項8又は9記載の緑色物質析出抑制方法。
【請求項11】
更に、剥き栗に、還元糖を施与する請求項8乃至10の何れか1項に記載の緑色物質析出
抑制方法。
【請求項12】
剥き栗に、還元糖を剥き栗全体重量中0.1重量%以下となるように施与する請求項11記載の緑色物質析出抑制方法。
【請求項13】
還元糖が、キシロース及びグルコースのうち少なくとも1つである請求項11又は12記載の緑色物質析出抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗であって、常温(20〜30℃)で少なくとも1年以上、更には3年以上長期保存しても剥き栗に生ずる緑色物質の析出が抑制され、風味を良好とする密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制剤、密封容器入り剥き栗及び密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栗加工食品を製造、流通する際、栗の成熟に伴い渋皮から移動した栗果肉に存在するタンニンが、酵素、加熱、金属化合物等の影響を受けて過剰に褐色化したり、好ましくない色調の黄色化をすることで栗加工食品の製品価値を下げるという問題に対し、従来、様々な対応策が講じられている。
渋皮のついたクリを、金属封鎖活性の大なるフィチン酸溶液に浸漬して加温することで、渋皮を除去したのちのクリが空気中に放置されても、剥皮直後の淡黄色のまま保持されるクリ渋皮の剥皮法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、栗等の可食部をγ−オリザノール含有溶液、或いはγ−オリザノールとL−システインもしくはその塩含有溶液に浸漬処理する栗等の変色防止方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
更に、剥皮した生栗を焼みょうばん、アスコルビン酸溶液で浸漬処理する冷凍栗の製造法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
他に、水酸化ナトリウム水溶液を用いて生栗の渋皮を剥皮するβ工程によってタンニンを除去することで果肉の表面が褐変化するのを妨げる生栗色戻し方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1乃至4のいずれにおいても、解決するべき課題は、栗表層付近の組織、すなわち栗果肉自身が過剰に褐色化したり、好ましくない色調の黄色化をすることであり、その解決方法が開示されているだけであって、該変色防止方法を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗に用いて、1年以上長期保存すると、栗果肉表層の外側すなわち栗果肉自身とは異なる場所に生じる、緑色物質の析出を抑制することはできなかった。
【0004】
本発明者らは、剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗について、剥き栗表面に、ゼラチン等の誘導蛋白質やコラーゲン等の繊維蛋白質を施与することで、加熱による褐変が生じず、栗本来の色調を維持させる方法を出願している(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、該変色防止方法も、1年以上長期保存すると、栗果肉表層の外側に生じる緑色物質の析出を抑制できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭46−42934号公報
【特許文献2】特開昭57−202248号公報
【特許文献3】特開昭60−41438号公報
【特許文献4】特開2009−254346号公報
【特許文献5】特開2000−125800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗であって、常温(20〜30℃)で少なくとも1年以上、更には3年以上長期保存しても剥き栗に生ずる緑色物質の析出が抑制され、風味を良好とする密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制剤、密封容器入り剥き栗及び密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗の、保存中の剥き栗に表出する緑色物質の析出抑制剤であって、アミノ酸を有効成分として含有することを特徴とする密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制剤によって上記目的を達成する。
【0008】
本発明は、剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗であって、前記剥き栗に、アミノ酸が剥き栗全体重量中0.01重量%以上となるように施与されてなる密封容器入り剥き栗によって上記目的を達成する。
【0009】
好ましくは、アミノ酸が、剥き栗全体重量中0.04重量%以上となるように施与されてなる。更に好ましくは、アミノ酸が、グリシン、アラニン、オルニチン、シトルリン及びグルタミンのうち少なくとも1つである。また、更に、剥き栗に、還元糖が施与されてなることが好ましい。また、剥き栗に、還元糖が剥き栗全体重量中0.1重量%以下となるように施与されてなることが更に好ましい。また、より好ましくは、還元糖が、キシロース及びグルコースのうち少なくとも1つである。
【0010】
また、本発明は、剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌するに際し、前記剥き栗に、アミノ酸を剥き栗全体重量中0.01重量%以上となるように施与することを特徴とする密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制方法によって上記目的を達成する。
【0011】
好ましくは、アミノ酸が、剥き栗全体重量中0.04重量%以上となるように施与する。更に好ましくは、アミノ酸が、グリシン、アラニン、オルニチン、シトルリン及びグルタミンのうち少なくとも1つである。また、更に、剥き栗に、還元糖を施与することが好ましい。また、剥き栗に、還元糖を剥き栗全体重量中0.1重量%以下となるように施与することが更に好ましい。また、より好ましくは、還元糖が、キシロース及びグルコースのうち少なくとも1つである。
【0012】
すなわち、本発明者らは、剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗に、従来からある栗の変色防止方法を用いると、製造中或いは1年未満のような比較的短い流通期間中に生じる、剥き栗の果肉表層の組織そのものの過剰な褐色化や好ましくない色調の黄色化を防止できても、1年以上の長期保存をする場合には、果肉表層の外側に緑色物質が結晶のように析出することがあり、このように析出した緑色の異物を目にすると、剥き栗にあたかも緑カビが付着したように見えるという問題があることがわかった。
【0013】
そこで、1年以上の長期保存をしたときに生じる密封容器入り剥き栗の緑色物質の析出抑制方法について鋭意検討を行い、該緑色物質の析出を抑制する有効な成分がないかについて探索を行った。すると驚くべきことに、剥き栗にアミノ酸を特定量以上施与すると、常温(20〜30℃)で少なくとも1年以上、更には3年以上長期保存しても剥き栗に生ずる緑色物質の析出が抑制された密封容器入り剥き栗が得られることを見出した。
【0014】
次いでアミノ酸の他に、緑色物質の析出抑制に有効な成分について検討したところ、ア
ミノ酸ほどではないにしても、還元糖にも多少抑制作用があることを見出した。更に、アミノ酸と還元糖を併用すると、アミノ酸によって長期保存したときに剥き栗に生ずる緑色物質の析出を抑制し、還元糖によって剥き栗に香ばしい風味を付与し、焼き栗を彷彿させる程度に適度に褐色化させる、という密封容器入り剥き栗として相乗的に総合品質が向上することを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、密封容器入り剥き栗を常温(20〜30℃)で少なくとも1年以上、更には3年以上長期保存しても、剥き栗に生じる緑色物質の析出を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を詳しく説明する。
本発明の密封容器入り剥き栗用緑色物質析出抑制剤(以下、「緑色物質析出抑制剤」と記す)は、剥き栗を容器に収容、密封して加熱殺菌する密封容器入り剥き栗の、保存中の剥き栗に表出する緑色物質の析出抑制剤であって、アミノ酸を有効成分として含有する。有効成分とは、目的とする機能が発揮される程度に上記アミノ酸を含むことを意味する。具体的には、アミノ酸の固形分換算で、緑色物質析出抑制剤全体重量中、好ましくは80重量%以上、より好ましくは100重量%であることが、保存中の緑色物質析出の抑制効果を十分得ることができる点で望ましい。
【0017】
上記アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、オルニチン、シトルリン、グルタミン、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、バリン等が挙げられ、単独もしくは複数組み合わせて用いればよい。これらの中でも、グリシン、アラニン、オルニチン、シトルリン及びグルタミンは、緑色物質析出の抑制効果が高く、加熱殺菌等の加熱の際に良好な風味を付与する、また、後述する還元糖との相乗効果が高い点で好適に用いられる。
【0018】
また、本発明の緑色物質析出抑制剤は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択した副原料を含有してもよい。副原料としては、例えば、澱粉類等が挙げられる。また、本発明の緑色物質析出抑制剤の剤形は、粉末、顆粒、液体等が挙げられ、適宜選択して設定すればよい。
【0019】
本発明の緑色物質析出抑制剤は、例えば、次のようにして調製することができる。すなわち、アミノ酸及び必要に応じて副原料等を準備し、これらを公知の方法で混合する。その後、適宜の剤形に調製することにより、本発明の緑色物質析出抑制剤を得ることができる。
【0020】
このようにして得られた緑色物質析出抑制剤は、密封容器入り剥き栗に施与することで、密封容器入り剥き栗を常温(20〜30℃)で少なくとも1年以上、更には3年以上長期保存しても、剥き栗に生じる緑色物質の析出を抑制することができる。なお、本発明が課題としている上記緑色物質は、タンニンと金属との結合に由来するものではなく、また、加熱等の工程を経た直後ではなく、加熱等の工程を経た後長期に保存されることにより剥き栗中のポリフェノール類が縮合もしくは重合の化学変化を生じて剥き栗の表面に析出するものと推定される。
【0021】
また、本発明の密封容器入り剥き栗は、剥き栗に、アミノ酸が剥き栗全体重量中、固形分換算で0.01重量%以上、好ましくは0.04重量%以上となるように施与されてなることが、密封容器入り剥き栗を長期保存したときに剥き栗に生じる緑色物質の析出を抑
制できる点で重要である。アミノ酸の剥き栗への施与量は、好ましくは、0.04重量%以上0.2重量%以下である。0.04重量%よりも少ないと緑色物質の析出抑制効果が低減し、0.2重量%を超えると剥き栗本来の風味を損なう傾向がある。
【0022】
剥き栗に、本発明の緑色物質析出抑制剤又はアミノ酸を施与する方法としては、溶質として緑色物質析出抑制剤又はアミノ酸を含有する水溶液を調製し、浸漬する方式、スプレーコーティング、回転釜、高温高湿機、高湿度条件に設定したチャンバーを用いる手法等が挙げられる。これらの手法の中でも、剥き栗に均一に緑色物質析出抑制剤又はアミノ酸が施与されかつ、緑色物質が表出する剥き栗表面への抑制効果が高い点で、浸漬する方式が好適である。
【0023】
前記アミノ酸に還元糖を併用して剥き栗に施与すると、密封容器入り剥き栗を長期保存したときに剥き栗に生じる緑色物質の析出を効果的に抑制すると共に、焼き栗を彷彿させる色調及び香ばしい風味を付与できる点で好適である。より好ましくは、剥き栗に、還元糖が剥き栗全体重量中、固形分換算で0.1重量%以下となるように施与し、0.1重量%より多くなると、剥き栗全体の褐色化が強くなりすぎて色調が不良となる、香ばしさから焦げた風味となる傾向がある。なお、剥き栗に還元糖を施与する方法としては、上述のアミノ酸の施与方法と同様に行えばよい。
【0024】
還元糖としては、例えば、キシロース、グルコース、フラクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、ラクトース、マルトース等が挙げられる。これらの中でも、キシロース及びグルコースは、アミノ酸との相乗効果が高く、焼き栗を彷彿させる香ばしい風味を付与できる点で好適に用いられる。
【0025】
次に、本発明に係る剥き栗は、加熱調理された剥皮済みの剥き栗であれば特に限定されるものではない。上記加熱調理とは、焼成、蒸煮、煮熟等が挙げられる。この中でも焼成は、少なくとも1年以上、更には3年以上の長期保存中に緑色物質の析出が顕著となる点で本発明に好適に用いられる。具体的な剥き栗としては、焼成後剥皮する剥き栗や、剥皮後焼成する剥き栗等が挙げられるが、特に、焼成後剥皮する剥き栗は、少なくとも1年以上、更には3年以上の長期保存中に緑色物質の析出が顕著となる点で本発明に好適に用いられる。
【0026】
上記剥き栗の原料となる栗は、特に品種や大きさを限定するものではないが、例えば、日本栗(丹沢栗、利平栗、筑波栗、銀寄栗、国見栗、岸見栗等)、中国栗(天津栗、丹東栗等)、ヨーロッパ栗、アメリカ栗、朝鮮栗、オーストラリア栗等が挙げられる。特に渋皮剥離性が良好な中国栗は、渋皮が接触していた剥き栗表面が露出しているため、本発明の効果を好適に発揮する点で好適である。
【0027】
本発明に係る容器は、上記剥き栗を収容し、密封して加熱殺菌できる耐熱性のある包装容器であれば限定されるものではなく、例えば、缶、ビン、パウチのような合成樹脂製袋等が挙げられる。
【0028】
また、剥き栗には、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択した副原料を施与してもよい。副原料としては、例えば、糖質甘味料(スクロース等の少糖類や、トレハロース等の非還元性少糖類や、糖アルコール、粉末水飴、デキストリン等)、高甘味度甘味料(スクラロース、アセスルファムK等)、油脂類、乳製品、安定剤、乳化剤、香料、色素、アミノ酸を除く風味原料、各種栄養素等が挙げられる。これらは単独もしくは複数組み合わせて用いればよく、アミノ酸を含有する水溶液の調製時に合わせて添加すればよい。
【0029】
本発明の緑色物質析出抑制剤は、例えば、次のようにして使用される。
また、本発明の密封容器入り剥き栗は、例えば、次のようにして製造される。
まず、生の皮付き栗を水洗し、浮き栗(腐った栗や虫喰い栗)や異物を除いた後、焼成し、剥皮して剥き栗を得る。
【0030】
焼成方法としては、特に限定するものでなく、従来用いられている方法を適宜用いればよい。なお、表面に高温短時間で程よい焦げ色をつけ、また、香ばしい風味を付与し、栗果肉内部まで加熱できる点で、特に乾熱加熱が好適である。具体的には、回転式焼成釜での石焼、砂煎り、炭焼き、遠赤外線加熱、オーブン加熱、熱風ローストのような流体加熱等が挙げられる。上記流体加熱とは、流体(好ましくは空気などの気体)が加熱された状態で流動しているか、もしくは流体と熱源とが共存した状態で流体が流動し、栗を熱交換しながら加熱するものである。焼成条件としては、装置仕様、処理量によって適宜設定すればよい、例えば、オーブン加熱の場合、170〜230℃で10〜30分程度が好適である。また、熱風ローストの場合は、具体的には、ジェットゾーンシステム(連続式)、ジェットロースト(バッチ式)(共に荒川製作所製)などの熱風乾燥や、コーヒー豆の焙煎などに用いられる熱風が滞留する装置等が挙げられる。
【0031】
上記のようにして得られた栗はこの後、人手もしくは機械によって鬼皮、渋皮を剥皮することで剥き栗を得る。具体的には、焼成処理後に引き続き、栗表面温度を40℃以上、好ましくは60〜80℃に保持した状態で剥皮することが、鬼皮、渋皮が欠損することなく完全に栗果肉から遊離できる点で好適である。
【0032】
次に、上記剥き栗に、緑色物質析出抑制剤、アミノ酸、或いは、好ましくはアミノ酸及び還元糖を施与する。浸漬方法による施与方法を用いる場合、例えば、緑色物質析出抑制剤を施与するときは、緑色物質析出抑制剤による水溶液を調製し、この水溶液中に同重量の上記剥き栗を投入し15分間浸漬して液切りする。緑色物質析出抑制剤の施与量は、アミノ酸固形分換算で、剥き栗全体重量中0.01重量%以上とすることが重要である。次に、例えば、アミノ酸のみを施与するときは、アミノ酸が剥き栗全体重量中0.01重量%以上となるようにする。具体的には、2.0重量%アミノ酸溶液を調製し、上述の緑色物質析出抑制剤と同様に操作する。そうすると剥き栗には、剥き栗全体重量中0.1重量%のアミノ酸が施与される。他に、例えば、アミノ酸及び還元糖を施与するときは、3.0重量%アミノ酸及び1.0重量%還元糖溶液を調製し、上述の緑色物質析出抑制剤と同様に操作する。そうするとアミノ酸及び還元糖はそれぞれ、剥き栗全体重量中0.15重量%、0.05重量%が施与される。通常、浸漬液中に同重量の剥き栗を15分間浸漬した場合、浸漬後の剥き栗には、全体重量中4.95重量%の浸漬液が付与される。なお、上記溶液には、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択した副原料を添加してもよい。
【0033】
液切りした後は、上記に示した耐熱性のある密封可能な容器に収容し、密封した後、加熱殺菌する。容器に収容する際、容器内の空気を、窒素、アルゴン等の不活性ガスに置換してから密封すると、剥き栗の表面組織の過褐色化防止の点で好適である。殺菌方法は、長期保存と品質保持の観点からレトルト殺菌(加熱加圧殺菌)を施すことが望ましい。この時、レトルト殺菌は、115℃〜125℃、1.7〜2.5kg/cm
2で20〜60分の条件で行うことが、剥き栗の形状を維持しながら殺菌できる点で望ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき例示する。
<実施例1〜19、比較例1〜4>
まず、剥き栗を調製した。すなわち、中国河北省産の天津栗を、皮付きのまま回転式焼成釜で焼成した。焼成した栗を自然冷却後(栗表面温度約50℃)、手で鬼皮、渋皮を同時に剥離し、剥き栗を得た。
得られた剥き栗100gを、表1及び表2に示す組成の浸漬液100gに、20℃15分
間浸漬した後、10分間液切りを行った。その後、耐熱性のあるアルミパウチに剥き栗を6〜8個収容し、収容する際容器内の空気を窒素に置換してから密封した。次にレトルト機にて加熱殺菌し、密封容器入り剥き栗を得た。
【0035】
以上のようにして得られた密封容器入り剥き栗を、25℃1.5年保存した後に開封したときの、外観及び風味について、専門パネラー5名で評価した結果を合わせて表1及び表2に示す。なお、外観評価は、「緑色物質析出剥き栗の発生率」と、褐色に変色する程度を示す「褐色化」と、両者を合わせた評価となる「色調総合」の3点で示した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
評価の結果、剥き栗にアミノ酸を施与した実施例1〜19はすべて、緑カビが付着したように見間違う指標ラインとなる緑色物質析出剥き栗の発生率4.5%より低い数値であることから、1.5年間保存しても剥き栗に生ずる緑色物質の析出が抑制できることを示している。また実施例1〜19について、更に保存期間を延長し、25℃3年後に同様の評価を行ったところ、1.5年保存品と同等の良好な結果であった。これに対し、剥き栗にアミノ酸が施与されていない比較例1〜4は、該発生率が4.5%より高く、緑色物質の析出の抑制効果は得られなかった。
【0039】
次に、還元糖のキシロース0.1重量%のみを施与した比較例2では緑色物質析出の抑制効果は得られなかった。それに比べ、グリシンにキシロースを併用した実施例11では、緑色物質の析出が抑制され、かつ、色調が適度に褐色化し、風味ともに大変良好で、むしろ保存経過したものの方が製造直後よりも焼き栗を彷彿させ食欲をそそる風味・色調の
剥き栗であった。また、グリシンが0.25重量%施与された実施例8は、良好な風味であるものの、わずかに栗としての風味がもの足りなかった。
他に、比較例4の緑色物質析出剥き栗の発生率は7.1%であり、従来、栗の変色防止のために用いられるアスコルビン酸は、1.5年以上という長期保存では緑色物質の析出を効果的に抑制できないことを示している。