(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
AIS(Automatic Identification System)装置は、技術の進歩と共に低廉化、小型化、低消費電力化および高機能化が図られ、航行の安全や利便性の向上のために多くの船舶に搭載されつつある。
【0003】
また、このようなAIS装置は、国際航海する船舶にあっては総トン数が300トン以上の船、領海内のみを航行する船舶にあっては総トン数が500トン以上の船、国際航海をする旅客船の全てに対して搭載義務が課されている。また、搭載義務がない船舶には、無線従事者が居なくても運用が可能な簡易型のAIS装置も多く搭載されつつある。
【0004】
図6は、AIS装置の構成例を示す図である。
図において、アンテナ31AIS、31GPSの給電点は、トランスポンダ40の第一のアンテナ端子および第二のアンテナ端子にそれぞれ接続され、そのトランスポンダ40のディジタル入出力ポートには、縦続接続された集配器50および操作表示部60が接続される。集配器50には、所望の外部機器やセンサ(何れも図示されない。)が接続される。
【0005】
トランスポンダ40は、以下の要素から構成される。
(1) 単極双投であって共通接点が上記第一のアンテナ端子に接続されたスイッチ(SW)41
(2) スイッチ41のメーク(ブレーク)接点に接続された第一の端子を有するハイブリッド(H)42
【0006】
(3) ハイブリッド42の第二ないし第四の端子にそれぞれ接続されたTDMA受信部43-1、43-2およびDSC受信部44
(4) これらのTDMA受信部43-1、43-2およびDSC受信部44の出力にそれぞれ接続された第一ないし第三の復調入力を有する変復調部45
【0007】
(5) 変復調部45の変調出力に接続された変調入力を有し、かつ出力がスイッチ41のブレーク(メーク)接点に接続された送信部46
(6) 上記第二のアンテナ端子に接続された入力を有するGPS受信部47
【0008】
(7) 変復調部45の入出力ポートとGPS受信部47の出力とにそれぞれ接続された入出力ポートに併せて、既述の集配器50に接続されたディジタル入出力ポートとを有する制御部48
【0009】
このような構成のAIS装置では、スイッチ41およびTDMA受信部43-1、43-2は、制御部48の配下で稼働し、他船からアンテナ31AISに到来した受信波を変復調部45に与える。
【0010】
変復調部45は、その受信波を復調することによって、
図7(a) に示す形式でメッセージの各フィールドに配置された伝送情報を得る。なお、このような伝送情報には、例えば、他船の識別情報、船首方位、船位、針路、速度等(以下、「通知情報」という。)が含まれる。制御部48は、このようにして得られた通知情報を所定の形式および内容の情報に変換し、かつ集配器50を介して操作表示部60に引き渡す。操作表示部60は、集配器50を介して制御部48から引き渡された情報を表示することにより、自船舶の航行にかかわる要員に通知する。
【0011】
一方、集配器50は、制御部48の配下で既述の外部機器やセンサと連係することにより、自船の識別情報、船首方位、船位、針路、速度等(以下、「通知情報」という。)を収集し、その制御部48に与える。
【0012】
GPS受信部47は、図示されないGPS衛星からアンテナ31GPSに到来した無線信号に所定の衛星航法を適用することにより、時刻(TDMA受信部43-1、43-2等によって行われる多元接続の基準となる。)と自船(アンテナ31GPS)の位置とを求め、その位置を上記自船の通知情報に組み込まれ得る情報として制御部48に引き渡す。
【0013】
制御部48は、これらの情報を所定の形式に変換して変復調部45に与える。変復調部45は、このような形式の情報で変調された送信波を制御部48の配下で生成する。送信部46は、制御部48の配下でスイッチ41およびアンテナ31AISを介して他船や陸上局宛に、上記送信波を送信する。
【0014】
なお、このような送信波は、制御部48の配下でTDMA受信部43-1、43-2が既述の受信波を受信するために行う同期制御の下で所定の時分割多重方式に適合した送信タイムスロット(制御部48の配下で予約され、あるいは自船に割り付けられる。)の期間に、バースト波として生成される。
【0015】
すなわち、AIS装置は、自船の通知情報を周辺の船舶や陸上局に自動的に通知し、かつ他の船舶から同様に通知される通知情報を取得して所定の処理を施すことにより、船舶の衝突予防、積荷情報等の把握、運航管理業務、海上保安業務、港湾等における運行管制の支援に供される。
【0016】
なお、本発明に関連する先行技術としては、以下に列記する特許文献1ないし特許文献5があった。
【0017】
(1) 「船舶から送信された船舶識別信号を受信して、該船舶識別信号から前記船舶の少なくとも位置情報を抽出する船舶位置情報抽出手段と、レーダの探知データから物標の位置を捕捉・追尾する物標捕捉追尾手段と、前記船舶位置情報抽出手段により得られた船舶の位置または速度ベクトルを示す第1のマーク、および前記物標捕捉追尾手段により得られた物標の位置または速度ベクトルを示す第2のマークを同一の表示部に表示するとともに、前記第1のマークの表示位置またはその周辺内において、第1のマークを第2のマークより優先して表示する制御手段とを備える」ことによって、「船舶自動識別装置(AIS)による他船のマークと、自動衝突予防援助装置(ARPA)による物標のマークとを同一表示画面上に表示する際の表示内容の煩雑さを解消し、またARPAの能力を有効に利用できるようにする」点に特徴がある船舶表示装置…特許文献1
【0018】
(2) 「他船の少なくとも位置の情報を含む他船情報を検知する検知手段と、該検知手段により検知された他船情報の重要度を所定条件に従って求め、予め設定した範囲の重要度をもつ他船情報を抽出する他船情報抽出手段と、抽出された他船情報に対応する他船の位置をグラフィック表示する表示制御手段とを備える」ことによって、「他船情報を検知して、他船と自船との相対位置関係または他船同士の相対位置関係をグラフィック表示する際に、他船の数が多くなった時の表示の煩雑化を防いで視認性を高める」点に特徴がある他船表示装置…特許文献2
【0019】
(3) 「ARPAレーダ装置併載船舶のAIS装置が、インターフェイスを介してARPAレーダ装置に接続され、受信する近傍船舶の動的情報とARPAレーダ装置から取得するレーダシンボル情報とを、刻々に比較し、所定の一致が認められる動的情報がないレーダシンボル情報を送信停止警戒情報とし、所定の一致が認められるレーダシンボル情報がない動的情報を無実体通報警戒情報とし、これらの警戒情報を表示装置にて表示して運用者に警戒を促すと共に、前記警戒情報を通報に変換して近傍船舶に送信する」ことによって、「送信AIS装置の送信停止や実体を伴わない動的情報、送信情報の詐称・欺瞞を受信AIS装置が検出して警戒を促すことにより、不正な情報送信に対する抑止効果が働く環境を実現し、ひいてはAIS装置の信頼性を向上する」点に特徴があるAIS送受信情報の信頼性向上方法…特許文献3
【0020】
(4) 「船舶に搭載されて航行支援を行う船舶用航行支援装置において、目標船から送信される目標船情報を受信するAIS(船舶自動識別)装置と、レーダのレーダ信号から捕捉した目標船を追尾するARPA(自動衝突予防援助)装置と、自船位置を特定する自船位置情報特定手段と、前記受信した目標船位置情報と前記特定した自船位置情報から目標船の自船に対する相対位置を演算する目標相対位置演算手段と、前記目標相対位置演算手段で演算された目標船の相対位置から、その目標船と同一の、ARPA装置で追尾中の目標船を特定する同一目標判定手段と、AIS装置にて受信される目標船情報の精度を監視して、AIS装置で受信される目標船情報が誤っているか否かを判定するAIS情報監視手段とを備え、ある目標船に対して、AIS情報監視手段がその目標船情報を誤っていると判定したときに、異常信号を出力する」ことによって、「AIS装置とARPA装置の特性を生かして、ARPA装置によりAIS装置の補完を行い、AIS装置で受信される目標船情報の信頼性を高める」点に特徴がある船舶用航行支援装置…特許文献4
【0021】
(5) 「船舶に搭載されて航行支援を行う船舶用航行支援装置において、目標船または第3者から送信される目標船位置情報を受信する目標船情報受信手段と、自船位置を特定する自船位置情報特定手段と、前記受信した目標船位置情報と前記特定した自船位置情報から目標船の自船に対する相対位置を演算する目標相対位置演算手段と、レーダのレーダ信号から、目標船を継続して追尾し、その履歴から目標船の運動情報を提供する目標船捕捉追尾手段と、前記目標相対位置演算手段で演算された目標船の相対位置と目標船捕捉追尾手段で追尾中の目標船の相対位置とを比較することにより、目標船捕捉追尾手段で追尾中の目標船と同一の、前記目標船情報受信手段でその目標船位置情報を入手した目標船を特定する同一目標判定手段とを備え、前記同一目標判定手段は、さらに、同一判定を行う期間を制限する同一目標判定期間制限手段を備える」ことによって、「レーダ信号から目標船捕捉追尾を行うものと、目標船等から送られてくる目標船情報を受信するものとの、それぞれの特性を生かして補完を行い、目標船についての情報の統合を効率的に行う」点に特徴がある船舶用航行支援装置…特許文献5
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
〔第一の実施形態〕
図1は、本発明の第一ないし第三の実施形態を示す図である。
図において、
図8に示すものと機能および構成が同じものについては、同じ符号を付与し、ここでは、その説明を省略する。
【0033】
本実施形態の構成は、制御部48に代えて制御部11が備えられる点で
図8に示す従来例と異なる。
【0034】
図2は、本発明の第一の実施形態における制御部の動作フローチャートである。
図3は、本発明の第一の実施形態の動作を説明する図である。
以下、
図1、
図2、
図3および
図7を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0035】
本実施形態では、制御部11は、
図6に示す制御部48として機能し、かつ後述する処理を適宜行う。
制御部11は、既定の頻度(周期)で、あるいは所定のきっかけに応じて以下の処理を行う。
【0036】
(1) AISを介して位置が通知された船舶の内、その位置の真偽の判別の対象となるべき特定の船舶の識別子IDdを識別する(
図2ステップS1,
図3(1))。
(2) 以下の項目を含む「問い合わせ」(メッセージ15)(
図7(b))を生成する(
図2ステップS2,
図3(2))。
【0037】
・ MMSI番号=自船の識別子IDs
・ 宛先ID1=上記特定の船舶の識別子IDd
・ メッセージId=上記位置を偽る船舶が応答できない可能性が高い(ある)メッセージの番号(例えば、「1」、「2」…「クラスA位置情報」に該当する。)
・ 上記回答の送信に供されるべきスロットのオフセット番号(制御部11によって適宜求められ、あるいは更新されてもよい。)
【0038】
(3) 変復調部45、送信部46、スイッチ41およびアンテナ31AISを介して上記特定の船舶宛に、この「問い合わせ」を送信する(
図2ステップS3,
図3(3))。
(4) この時点で所定長のタイマーを起動し(
図2ステップS4)、そのタイマーによる計時が終了するまでの期間(
図3(4))には、以下の処理を行う。
【0039】
(4-1) TDMA受信部43-1、43-2および変復調部45と連係することにより、アンテナ31AISに到来した受信波に含まれるメッセージ(
図7(a))を適宜取り込む(
図2ステップS5,
図3(5))。
【0040】
(4-2) そのメッセージが上記「問い合わせ」に対する正規の応答であるか否かを判別する(
図2ステップS6,
図3(6))。
【0041】
(5) 集配器50を介して操作表示部60に、上記期間内に上記「問い合わせ」に対する応答が識別されたか否かを示す2値情報を既述の「通知情報c」と共に引き渡す(
図2ステップS7,
図3(7))。
【0042】
ここに、上述した正規の応答については、例えば、以下の要件の全てを満たすことが望ましい。
・ 既述のスロットのオフセット番号に対応するスロット(以下、「応答スロット」という。)を介して受信された。
・ メッセージ番号=1
・ MMSI番号=特定の船舶の識別子IDd
・ 緯度/経度=同特定の船舶から先行して通知された緯度/経度に対して所定の相関性がある。
【0043】
操作表示部60は、このようにして引き渡された2値情報および既述の通知情報cを表示する(
図3(8))ことにより、自船舶の航行にかかわる要員に通知する。
【0044】
すなわち、本実施形態によれば、以下に列記する好適な構成の下で、所望の船舶が「位置等を偽り、あるいは正規のAISトランスポンダを搭載していない偽船舶」であるか否かの判別が確度高く実現され、その判別の結果が操作表示部60の表示画面上に表示される。
(1) 複雑かつ多くの処理量を要する無線航法や衛星航法が適用されない。
(2) 既存の多元接続方式や通信手順に根本的な変更が施されない。
(3) AISトランスポンダの構成は、ソフトウェア以外には変更が施されない。
【0045】
したがって、実存しない船舶からAISを介して通知された情報が安価にかつ確度高く識別され、その判別の結果が航行の支援に供され、かつ偽船舶による航行の無用な妨げが回避される。
【0046】
なお、本実施形態では、現行のAISシステムにおいて「問い合わせ」に応じて特定の船舶から応答スロットを介して「正規の応答」が受信されるまでに要する時間Tについては、以下の(1)〜(4)項の何れの構成で短縮が図られてもよい。
【0047】
(1) 特定の船舶に搭載されたAISトランスポンダによってバイナリ放送メッセージ(メッセージ8)が「正規の応答」に代えて送信され、そのバイナリ放送メッセージの受信および識別が本実施形態に係るAISトランスポンダによって行われる。ここに、バイナリ放送メッセージは、少なくとも、上記「問い合わせ」に対する応答であって、所望の確度で「正規の応答」と同等と見なし得る要件を満たす必要がある。
【0048】
(2) 「正規の応答」が受信されるまでに所要する時間が可能な限り最短となるように、「問い合わせ」の内容(例えば、「優先度の指定」、「優先度の設定の条件」等)が設定される。
【0049】
(3) 特定の船舶から最も早く送信(受信)されるメッセージによって「正規の応答」またはこれに代わる情報を代替されるように、「問い合わせ」の内容が設定される。
【0050】
(4) 特定の船舶から最も早く送信(受信)されるメッセージに、「正規の応答」またはこれに代わる情報を盛り込むことが可能となるように、「問い合わせ」の内容が設定される。
【0051】
また、上記(1)〜(4)項の何れかの選択、あるいは上記「優先度」やその設定の条件については、例えば、操作表示部60を介して操作者によって与えられる指定に応じて適宜設定や変更が可能となるように構成されてもよい。
【0052】
さらに、本実施形態では、例えば、「問い合わせ」(メッセージ15)と「問い合わせ」に対する正規の応答とは、以下に列記するメッセージの対の何れで代替されてもよい。
【0053】
(1) メッセージ6とメッセージ7との対
(2) 2つのバイナリ放送メッセージ(メッセージ8)の対
(3) メッセージ10とメッセージ11との対
(4) メッセージ16とメッセージ17との対
【0054】
(5) グループ割り当て通報(メッセージ23)と、これに対する船舶からの応答メッセージとの対
(6) 所望のメッセージに含まれる情報フィールドの内、見かけ上の多元接続方式や通信手順に影響が及ぼされることなくビットスチール方式により形成され、かつ伝送速度が実用に足りる程度に高く確保されるチャネル(所望のスペアフィールドを活用して形成されてもよい。)を介して相互に引き渡されるメッセージの対
【0055】
また、本実施形態では、「問い合わせ」にスロットのオフセット番号が含まれている。
しかし、このようなオフセット番号は、特定の船舶が偽船舶であることの識別が可能であるならば、上記「問い合わせ」に含まれなくてもよい。
【0056】
さらに、本実施形態では、特定の船舶が偽船舶であるか否かの判別が実現されるならば、以下に列記する何れの項目がどのように設定されてもよい。
(1) 「問い合わせ」に含まれるべき情報の組み合わせおよび内容
(2) 「問い合わせ」に対する正規の応答の判別に適用されるべき基準
【0057】
(3) 「問い合わせ」と、これに対する正規の応答として特定の船舶との間で引き渡されるべきメッセージの対
(4) 既述の時間Tの短縮のために作用されるべき構成の態様
【0058】
また、このような設定の形態は、例えば、手動により、あるいは所定のアルゴリズムに基づいて自動的に設定されてもよい。
【0059】
〔第二の実施形態〕
本実施形態の構成は、
図1に示すように、制御部11に代えて制御部11Aが備えられる点で、既述の第一の実施形態の構成と異なる。
【0060】
図4は、本発明の第二の実施形態における制御部の動作フローチャートである。
以下、
図1、
図4および
図7を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0061】
本実施形態では、制御部11Aは、
図6に示す制御部48として機能し、かつ後述する処理を適宜行う。
制御部11Aは、既定の頻度(周期)で、あるいは所定のきっかけに応じて以下の処理を行う。
【0062】
(1) AISを介して通知されたメッセージを送信した船舶等を適宜記憶し(
図4ステップS1)、これらの船舶の内、偽船舶であるか否かの判別の対象となるべき特定の船舶の識別子IDdを識別する(
図4ステップS2)。
【0063】
(2) その特定の船舶から通知され、かつ記憶されたメッセージ(以下、「特定のメッセージ」という。)に含まれるCommunication State(
図7(c)i )を抽出し、時系列の順に識別子IDdに対応させて蓄積する(
図4ステップS3)。上記Communication Stateには、一般に、以下の項目が含まれる。
【0064】
・ Slot time-out(
図7(c)ii ):3ビット長の2進数(=0〜7)であって、「0」は該当するスロットにおける末尾の送信を意味し、「1」〜「7」は該当するスロットにおいて送信される個々のフレームを示す昇順の番号(該当するスロットにおいて送信されるべき残りのフレームの数)を意味する。)
【0065】
・ Sub message(
図7(c)iii ):14ビット長のメッセージであって、以下に列記するように、上記Slot time-outの値に応じた情報が配置される。なお、Slot time-outの値が「0」、「3」、「5」、「7」である場合におけるSub messageについては、本実施形態では、参照されないので、ここではその説明を省略する。
【0066】
[Slot time-out=1である場合]
協定世界時(UTC:Coordinated Universal Time)の時分の値
[Slot time-out=2、4、6である場合]
該当するメッセージの送信に供されたスロットを示す「スロット番号」
【0067】
また、本実施形態では、後述する「判定処理」の過程で適用されるべき判定基準(偽船舶の識別が行われるべき厳しさの程度を意味する。)を示すセキュリティクラスSCが予め与えられ、あるいは操作表示部60を介して操作者によって与えられる。
【0068】
さらに、制御部11Aは、既述の処理(
図2ステップS1〜S3)に並行して、これらの処理の過程で識別子IDd毎に対応付けられて蓄積されたCommunication Stateの列を時系列tの順に参照し、下記の処理(1)〜(5)の内、上記セキュリティクラスSCによって定まる処理の組み合わせからなる「判定処理」を適宜行う。
【0069】
なお、以下では、識別子IDdと時系列tとに対応したCommunication StateについてはCS(IDd,t)と表記し、そのCS(IDd,t) に含まれるSlot time-outとSub messageとについては、それぞれSTO(IDd,t) 、SM(IDd,t) と表記する。
【0070】
(1) CS(IDd,t)に不正規な点が見かけ上無い場合であっても、そのCS(IDd,t)を含むメッセージの送信端である船舶(識別子IDdで示される。)については、正規の船舶と見なさない(
図4ステップS10)。
【0071】
(2) 時系列tの順に蓄積された複数のCommunication State(…、CS(IDd,(t-1))、CS(IDd,t))の値に毎回何らかの相違があるか否か判別し(
図4ステップS11)、相違がある場合には、該当する識別子IDdで示される船舶については、偽船舶であると識別する(
図4ステップS12)。
【0072】
(3) 時系列の順に蓄積された複数のSlot time-out(…、STO(IDd,(t-1)) 、STO(IDd,t))がサイクリックにデクリメントされているか否か判別し(
図4ステップS13)、デクリメントされていない場合には、該当する識別子IDdで示される船舶については、偽船舶であると識別する(
図4ステップS14)。
【0073】
(4) STO(IDd,t)の値が「1」であるCommunication Stateに含まれるSM(IDd,t)の値(協定世界時の時分の値を意味する。)がその時点における時刻に所定の精度で一致するか否か判別し(
図4ステップS15)、一致しない場合には、該当する識別子IDdで示される船舶については、偽船舶であると識別する。
【0074】
(5) STO(IDd,t)の値が「2」、「4」、「6」であるCommunication Stateに含まれるSM(IDd,t)の値(既述の「スロット番号」を意味する。)が該当するスロットのスロット番号に一致するか否か判別し(
図4ステップS17)、一致しない場合には、該当する識別子IDdで示される船舶については、偽船舶であると識別する(
図4ステップS18)。
【0075】
制御部11Aは、このようにして偽船舶として識別された船舶の識別子IDdと既述の通知情報cとを操作表示部60に適宜引き渡す(
図4ステップS19)。
【0076】
操作表示部60は、これらの識別子IDdと既述の通知情報cとを表示することにより、自船舶の航行にかかわる要員にその旨を通知する。
【0077】
すなわち、本実施形態によれば、以下に列記する好適な構成の下で、所望の船舶が「位置等を偽り、あるいは正規のAISトランスポンダを搭載していない偽船舶」であるか否かの判別が確度高く実現され、その判別の結果が操作表示部60の表示画面上に表示される。
【0078】
(1) 複雑かつ多くの処理量を要する無線航法や衛星航法が適用されない。
(2) 既存の多元接続方式や通信手順に根本的な変更が施されず、偽船舶等を画策する者や装置による改ざんが容易には実現できないCommunication Stateが「偽船舶」の識別の基準として参照される。
(3) AISトランスポンダの構成は、ソフトウェア以外には変更が施されない。
【0079】
したがって、実存しない船舶からAISを介して通知された情報が安価にかつ確度高く識別され、その判別の結果が航行の支援に供されることにより、偽船舶による航行の無用な妨げが回避される。
【0080】
なお、本実施形態では、既述の通りに制御部11Aによって実行されるソフトウェアは、例えば、制御部48(11)と連係するコプロセッサやパッケージとして組み込まれることにより、従来のAISトランスポンダ、あるいはその他のAISトランスポンダによる偽船舶の識別の確度を高める装置として構成されてもよい。
【0081】
また、本実施形態では、既述のセキュリティクラスSCの態様と、これらのセキュリティクラスSCに適応した「判定処理」の手順との何れについても、以下の何れに適した形態に設定されてもよい。
【0082】
(1) 特定の船舶に搭載されたAISトランスポンダの製造者、機種等の属性
(2) 特定の船舶の名目上の位置、その位置における(にかかわる)気象状況その他の属性
(3) その他、受信されたメッセージ等に基づいて特定可能な情報
【0083】
また、上述した各実施形態では、特定の船舶は、以下の何れの船舶であってもよい。
(1) 操作表示部60を操作する操作者によって指定された船舶
(2) (直近に)位置が通知された船舶
【0084】
〔第三の実施形態〕
本実施形態の構成は、
図1に示すように、制御部11に代えて制御部11Bが備えられる点で、既述の第一の実施形態の構成と異なる。
【0085】
図5は、本発明の第三の実施形態における制御部の動作フローチャートである。
以下、
図1、
図5および
図7を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0086】
本実施形態では、制御部11Bは、
図6に示す制御部48として機能し、かつ後述する処理を適宜行う。
制御部11Bは、以下に列記するメッセージの何れかを受信する度に、後述する処理(1),(2)を行う。
【0087】
・ 位置通報(メッセージ1、2、3)
・ ベースステーション通報(メッセージ4)
・ SAR航空機位置通報(メッセージ9)
・ 標準位置通報(メッセージ18)
・ 拡張位置通報(メッセージ19)
・ 航行援助設備通報(メッセージ21)
【0088】
(1) 該当するメッセージに含まれ、かつ協定世界時(UTC)の秒の値(0〜59)を示する6ビット長のタイムスタンプの値(以下、「T」という。)と、そのメッセージの無線伝送に供されたタイムスロット(
図7(d)iv)の番号(以下、「S」という。)(0≦S≦2249)とを抽出する(
図5ステップS1)。ここに、Tは、該当するメッセージの送信端であるAISトランスポンダにおいてGPS受信部が測位演算の結果を得た時刻を意味し、かつ上記タイムスロットを含むフレームの先頭の時点で値が「0」に設定され、そのフレームの末尾にある第2250番目のスロットの末尾から後続するフレームの先頭に移行する時点で「59」からオーバーして「0」となる。したがって、TおよびSの値は、時系列の順に連なる37.5(=2250/60)個のスロットの列毎に既知の対となる。
【0089】
(2) TとSとの間に下記の不等式が成立するか否かの判別を行い(
図5ステップS2)、成立しない場合には、該当するメッセージの送信端に該当する船舶を偽船舶と識別する(
図5ステップS3)。
(S/37.5)≦T≦(S/37.5)+1
【0090】
制御部11Bは、このようにして偽船舶として識別された船舶の識別子IDdと既述の通知情報cとを操作表示部60に適宜引き渡す。
【0091】
操作表示部60は、これらの識別子IDdと既述の通知情報cとを表示することにより、自船舶の航行にかかわる要員に通知する。
【0092】
すなわち、本実施形態によれば、以下に列記する好適な構成の下で、所望の船舶が「位置等を偽り、あるいは正規のAISトランスポンダを搭載していない偽船舶」であるか否かの判別が確度高く実現され、その判別の結果が操作表示部60の表示画像上に表示される。
【0093】
(1) 複雑かつ多くの処理量を要する無線航法や衛星航法が適用されない。
(2) 既存の多元接続方式や通信手順に根本的な変更が施されず、偽船舶を画策する者による改ざんが容易には実現できないタイムスタンプの値が「偽船舶」の識別の基準として参照される。
(3) AISトランスポンダの構成は、ソフトウェア以外には変更が施されない。
【0094】
したがって、実存しない船舶からAISを介して通知された情報が安価にかつ確度高く識別され、その判別の結果が航行の支援に供されることにより、偽船舶による航行の無用な妨げが回避される。
【0095】
なお、本実施形態では、既述の通りに制御部11Bによって実行されるソフトウェアは、例えば、制御部48(11)と連係するコプロセッサやパッケージとして組み込まれることにより、従来のAISトランスポンダ、あるいはその他のAISトランスポンダによる偽船舶の識別の確度を高める装置として構成されてもよい。
【0096】
また、本実施形態では、既述の不等式が成立するか否かの判別は、以下に列記する判別の任意の組み合わせで代替されてもよい。
【0097】
(a) 協定世界時(UTC)を与える時計の秒の値に、Tが所定の精度で一致するか否かの判別
【0098】
(b) 時系列の順にTが(modulo60で)更新されるインターバルが許容可能な上限値を下回っているか否かの判別(Tが以下に列記する値の何れにも該当しないことの判別)
・ 60:タイムスタンプSの利用が不可能な状態を意味する。
・ 61:測位システムが手動入力モードとなっていることを意味する。
・ 62:測位システムが推測航法モードとなっていることを意味する。
・ 63:測位システムが無効となっていることを意味する。
【0099】
さらに、本実施形態では、既述の不等式が成立するか否かの判別と、上記代替の判別(a),(b)との内、採用されるべき判別の形態や組み合わせは、メッセージの送信端に該当する船舶等の属性に基づいて適宜決定され、あるいは操作表示部60を操作する操作者によって指定されてもよい。
【0100】
また、このような「他船の存否や、その確度の判定」は、例えば、本願と同日の出願に係る発明と、既述の各実施形態の全てまたは一部との組み合わせにより、さらに確度高く実現されてもよい。
【0101】
さらに、上述した各実施形態では、到来する受信波の送信端は、船舶局のみに限定されず、陸上局、ブイ等に搭載されたAISトランスポンダであってもよい。
【0102】
また、上述した各実施形態では、本発明は、船舶局や陸上局に適用されるAISに適用されている。
しかし、本発明は、このようなAISに限定されず、例えば、以下に連記される何れのシステムや装置にも同様に適用可能である。
【0103】
(1) 低軌道を周回する人工衛星にAIS受信機が搭載されることにより、沿岸から80キロメートル以上離れている大洋上の船舶等の航行状態も監視可能とする「人工衛星AIS」
【0104】
(2) 海上の捜索や監視を行う航空機等に搭載されるAISトランスポンダ
(3) 航空機が絶えずその位置や高度を他の航空機および地上局に向けて報知する放送型自動従属監視システム(ADS−B:Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)
【0105】
さらに、上述した各実施形態の構成は、
図1に示す構成に限定されず、本発明の特徴的な処理や機能が実現されるならば、ハードウェアの構成は如何なるものであってもよく、かつ各部の機能や負荷の分散の形態も如何なるものであってもよい。
【0106】
また、本発明は、上述した各実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0107】
以下、本願に開示された発明の内、「特許請求の範囲」に記載しなかった発明の構成、作用および効果を「特許請求の範囲」、「課題を解決するための手段」、「発明の効果」の各欄の記載に準じた様式により列記する。
【0108】
〔1〕 請求項1に記載の情報判別装置において、
前記基準は、
前記多元接続方式と前記通信手順との双方もしくは何れか一方に併せて、前記無線局の属性に適合する
ことを特徴とする情報判別装置。
【0109】
このような構成の情報判別装置では、請求項1に記載の情報判別装置において、前記基準は、前記多元接続方式と前記通信手順との双方もしくは何れか一方に併せて、前記無線局の属性に適合する。
【0110】
すなわち、航行監視自動放送システムの無線伝送路を介して対向する正規の無線局と、その無線局から無線伝送された伝送情報との何れも、その航行監視自動放送システムに対する不正なアクセスのためには対応し難い問い合わせ、多元接続方式、通信手順、該当する伝送情報の内容の全てまたは一部に併せて、該当する無線局の属性が加味された基準の下で厳格に判別される。
【0111】
したがって、本発明が適用された航行監視自動放送システムは、信頼性に併せて、多様な属性の無線局に対する柔軟な適応が可能となる。