(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351355
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】既存建物の免震化工法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20180625BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
E04G23/02 F
E04H9/02 331Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-95152(P2014-95152)
(22)【出願日】2014年5月2日
(65)【公開番号】特開2015-212474(P2015-212474A)
(43)【公開日】2015年11月26日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】小室 努
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 真一
(72)【発明者】
【氏名】安田 聡
(72)【発明者】
【氏名】井之上 太
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−280266(JP,A)
【文献】
特開2013−227778(JP,A)
【文献】
特開昭61−189906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04G 9/10
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の柱に免震装置を介装するための工法であって、
上記柱の上記免震装置を挿入すべき範囲の上下部の外周を増し打ちするための配筋および型枠を施工するとともに、上記柱の対向する2面に、上記上下部に跨って配置される軸力移行鋼板を設け、次いで上記型枠内にコンクリートを打設することにより上記上下部に補強部を形成した後に、連結手段により上記軸力移行鋼板の上記上下部分を上記補強部に固定し、次いで上記柱の上記免震装置を介装すべき範囲を切断し、当該切断部位に上記免震装置を挿入した後に、上記軸力移行鋼板を撤去することを特徴とする既存建物の免震化工法。
【請求項2】
上記軸力移行鋼板は、少なくとも上記型枠の一部を構成するとともに、当該部分の内側面に、凸が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の免震化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の柱に免震装置を介装することによって耐震性能を向上させるための既存建物の免震化工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、想定される大地震の被害を低減化させるために、免震化対策が講じられていない鉄筋コンクリート(RC)造等の各種の既存建物に対して、免震装置を特定の階に設置することにより、建物全体あるいはその一部を免震建物する対策が進められている。
【0003】
このような既存建物の免震化に際しては、上記特定の階の柱に免震装置を新たに挿入することによってなされるために、上記柱を一旦切断する必要がある。
図10および
図11は、先に本出願人が下記特許文献1、2等において提案したこの種の免震化工法を示すものである。
【0004】
この免震化工法においては、先ず柱30の免震装置を介装すべき範囲の上下部外周に、四角柱状の増し打ちコンクリート31を打設し、これら上下の増し打ちコンクリート31の3面間に支持材32を渡すとともに、他の1面に定着板33を配設し、これら支持材32間および支持板32と定着板33間にPC鋼棒34を通してプレストレスを導入したうえで、両端をナットによって固定することにより、支持材33の上下端部を増し打ちコンクリート31に圧接させる。
【0005】
以上により、柱30に作用する軸力を増し打ちコンクリート31を介して支持材32によって仮支持させた後に、上記1面に形成された開口部S側から柱30の免震装置を挿入すべき部位を切断する。次いで、切断された柱30の対向面に、それぞれ免震装置の上下部取付台を構築し、開口部S側から上下部取付台間に免震装置を挿入して据え付けた後に、PC鋼棒34を抜出して支持材32および定着板33を取り外すことにより、上記既存の柱30に対する免震化が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−49873号公報
【特許文献2】特開2000−257273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の既存建物の免震化工法においては、柱30の3面において支持部材32により柱30の荷重を支持し、他の1面に形成した開口部S側から柱30の切断、上下部取付台の構築および免震装置の挿入等の作業を行っている。このため、作業空間が狭隘になるとともに、柱30の切断および切断部位の搬出や、取付台および免震装置の搬入をいずれも上記1面側から行う必要があるために、作業が困難であるという問題点があった。
【0008】
また、柱30の3面に仮設した支持部材32によって荷重を支持し、開口部Sを形成した他の1面においては上記荷重の支持が無いために、支持バランスが悪く、特に柱30による支持荷重が大きい場合には、柱30に傾きが生じるおそれがあった。そこで、これに対応すべく支持部材32の本数を増加させると、これらを増し打ちコンクリート31に圧接させるためのPC鋼棒34の本数が多くなり、作業に要する手間とコストが増大してしまうという問題点もあった。
【0009】
さらに、増し打ちコンクリート31に支持部材32を圧接させるために、PC鋼棒34を用いているために、増し打ちコンクリート31内に鉄筋を避けて貫通孔を設けることが難しいとともに、PC鋼棒34に張力を付与するためのジャッキ類が必要となるために、工事が大掛かりなものになるという問題点もあった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、作業性に優れ、しかも工期の短縮化とコストの低減化を図ることが可能になる既存建物の免震化工法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、既存建物の柱に免震装置を介装するための工法であって、上記柱の上記免震装置を挿入すべき範囲の上下部の外周を増し打ちするための配筋および型枠を施工するとともに、上記柱の対向する2面に、上記上下部に跨って配置される軸力移行鋼板を設け、次いで上記型枠内にコンクリートを打設することにより上記上下部に補強部を形成した後に、連結手段により上記軸力移行鋼板の上記上下部分を上記補強部に固定し、次いで上記柱の上記免震装置を介装すべき範囲を切断し、当該切断部位に上記免震装置を挿入した後に、上記軸力移行鋼板を撤去することを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記軸力移行鋼板は、少なくとも上記型枠の一部を構成するとともに、当該部分の内側面に、凸が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜
2のいずれかに記載の発明によれば、柱の対向する2面に軸力移行鋼板を設けているために、これと隣接する2面に開口部が形成されている。このため、柱の切断や切断部位の搬出および免震装置の搬入や取り付け作業を、上記開口部が形成されている上記2面から行うことができ、作業性に優れる。
【0015】
また、柱の荷重を、当該柱の対向する2面に固定した軸力移行鋼板によって支持しているために、安定的に上記荷重を仮支持しておくことができる。
【0016】
この際に、請求項2に記載の発明においては、上下部分がそれぞれ増し打ちコンクリートの型枠の一部を構成する軸力移行鋼板の型枠構成部分の内側面に、凸部を形成しているために、増し打ちコンクリート打設後の一体性を高めて、荷重支持の安定性を高めることができる。
【0018】
この結果、従来のように高価なPC鋼棒や大掛かりなジャッキ等を用いることなく、軽量小型なトルクレンチ等によって軸力移行鋼板を増し打ちコンクリートの補強部に強固に固定することができ、よって工事上の手間やコストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態を説明するための図で、(a)は柱の上下部に後施工アンカーを設置した状態を示す横断面図、(b)は正面図である。
【
図2】
図1の柱の上下部に所定の配筋を行った状態を示すもので、(a)は横断面図、(b)は正面図である。
【
図3】
図2の柱の上下部に連結手段および型枠を設置した状態を示すもので、(a)は横断面図、(b)は正面図である。
【
図4】増し打ちコンクリートを打設した後の状態を示す要部の横断面図である。
【
図5】
図4の連結手段を示すもので、(a)は分解図、(b)は組立図である。
【
図6】
図5の連結手段の作用を示すための図である。
【
図7】柱の荷重を軸力移行鋼板に支持させた後に柱の一部を切断除去する状態を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【
図8】
図7の柱の切断部分に免震装置を設置した状態を示す側面図である。
【
図9】
図8の軸力移行鋼板を撤去した完成状態を示す正面図である。
【
図10】従来の免震化工法において柱の荷重を仮支持した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1〜
図9に基づいて、本発明に係る既存建物の免震化工法の一実施形態について説明する。
この免震化工法は、
図1に示すように、既存建物における断面方形状の柱1に免震装置を介装するための工法であり、先ず図中点線で示す柱1の免震装置を挿入すべき範囲Hを残した上下部1a、1bに増し打ちコンクリートを打設して補強部を形成するために、その外周表面に、目荒らし処理を施すとともに、後施工アンカー2を設置する。
【0021】
次いで、上記上下部1a、1bの周囲に、上記補強部用の軸方向主筋3aおよびフープ筋3bを設置した後に、
図3に示すように、柱1の対向する2面に、全面にわたって上記範囲Hを跨ぐ軸力移行鋼板4を配設し、その上下部分4a、4bを柱1の上下部1a、1bに打設するコンクリートの型枠の一部として設置する。また、上下部1a、1bの他の外周には、在来型枠5a、5bを設置する。これにより、軸力移行鋼板4が配置されていない2面に、柱1が露出する開口部Sが形成される。
【0022】
ここで、上記軸力移行鋼板4は、例えば縞鋼板によって製作されたもので、その内面側には
図4〜
図6に示すように、凸部13が形成されている。また、外面には、座屈補強用のリブ4dが上下方向の全長にわたって接合されている。なお、本実施形態においては、6本のリブ14が水平方向にほぼ等間隔をおいて並列的に設けられている。
【0023】
そして、上記型枠を施工する際に、予め上下部分(以下、型枠ともいう。)4a、4b内に、
図3(a)に示すように、軸力移行鋼板4を後述する増し打ちコンクリートによって形成された補強部に圧接させるための連結手段(
図4および
図5参照。)を組み込んでおく。
【0024】
この連結手段は、軸力移行鋼板4の上下部分4a、4bに各々形成された複数(図では縦2×横5)の孔から、それぞれワッシャ6aを介して型枠4a、4b内に挿入された高力ボルト(ボルト部材)6と、型枠4a、4b内に配置されて一端部側から高力ボルト6が螺合される袋ナット7と、この袋ナット7の他端部に螺合されるアンカーボルト(アンカー部材)8と、袋ナット7の一端部側に形成されたフランジ7aに接合されたリング状の弾性体9とを備えたものである。
【0025】
そして、後述する増し打ちコンクリートの割れ防止用として、各々の袋ナット7の外周に、スパイラル補強筋10aを配筋するとともに、袋ナット7の先端部に、水平方向に両端定着板付補強筋10bを配筋する。
以上の型枠および配筋の施工が完了した後に、
図4に示すように、型枠4a、4b、5a、5b内に増し打ちコンクリート11を打設し、所定期間養生させて硬化させることにより柱1と一体化した補強部12を形成する。
【0026】
このようにして、柱1の免震装置を介装すべき範囲Hの上下部1a、1bに補強部12を増築した後に、
図6に示すように、高力ボルト6を締め付ける。すると、袋ナット7はアンカーボルト8によって軸方向の移動が阻止されているために、高力ボルト6および袋ナット7に引張力が加わり、その反力によって弾性部材9が圧縮して軸力移行鋼板4の上下部分4a、4bが補強部12に圧接される。
【0027】
この時に、上下部分4a、4bの補強部12との対向面には、凸部13が形成されているために、上下部分4a、4bの補強部12との間に大きな摩擦力が生じて、軸力移行鋼板4が補強部12に強固に固定される。
【0028】
そこで次に、
図7に示すように、柱1を間に挟んだ2つの開口部Sから、上記範囲Hの柱1を切断して撤去する。これにより、柱1の荷重は軸力移行鋼板4によって支持される。この状態で、
図8に示すように、切断された柱1の対向面に、それぞれ免震装置の上下部取付台15、16を構築し、開口部S側から上下部取付台15、16間に免震装置17を挿入して据え付ける。
【0029】
そして、
図9に示すように、高力ボルト6を取り外して軸力移行鋼板4を取り外し、さらに上下部取付台15、16に耐火処理等を施すことにより、上記既存の柱1に対する免震化が完了する。
【0030】
以上説明したように、上記構成からなる既存建物の免震化工法によれば、柱1の対向する2面に、上下部分4a、4bがそれぞれ増し打ちコンクリート11の型枠の一部を構成する軸力移行鋼板4を設けている結果、これと隣接する2面には開口部Sが形成されている。このため、
図7および
図8に示すように、柱1の切断や切断部位18の搬出、上下部取付台15、16の設置、および免震装置17の搬入や取り付け作業を、上記2面の開口部S側から行うことができ、作業性に優れる。
【0031】
また、柱1の荷重を、対向する2面に固定した軸力移行鋼板4によって支持しているために、支持力に偏りを生じることなく、仮支持しておくことができるとともに、軸力移行鋼板4の補強部12との当接面に凸部13を形成して一体性を高め、荷重支持の安定性を高めることができる。
【0032】
さらに、軸力移行鋼板4の上下部分4a、4bを、補強部12内に埋設したアンカーボルト8付の袋ナット7と、軸力移行鋼板4から袋ナット7に螺合された高力ボルト6と、軸力移行鋼板4と袋ナット7との間に配置した弾性部材9と用い、補強部12を形成した後に、高力ボルト6を締め込むことにより補強部12に圧接・固定しているために、従来のように高価なPC鋼棒や大掛かりなジャッキ等を用いることなく、軽量小型なトルクレンチ等によって上記固定を行うことができ、よって工事上の手間やコストを大幅に削減することができる。
【0033】
なお、上記実施形態においては、袋ナット7と一体化されたアンカー部材として、袋ナット7に螺合されたアンカーボルト8を用いた場合ついてのみ説明しがた、本発明は、これに限定されるものではなく、上記袋ナット7の先端開口を塞ぐとともに、当該袋ナット7の外周面にアンカーを接合する等の様々な形態を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 柱
1a、1b 柱の上下部
4 軸力移行鋼板
4a、4b 上下部分(型枠)
6 高力ボルト
7 袋ナット
8 アンカーボルト(アンカー部材)
9 弾性部材
11 増し打ちコンクリート
12 補強部
13 凸部
17 免震装置
H 免震装置を介装する範囲
S 開口部