(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム基材と、当該アルミニウム基材の少なくとも一方の表面に形成された化成皮膜と、当該化成皮膜上に形成された塗膜とを含むコンデンサケース用アルミニウム塗装材であって、
当該塗膜は、ポリエステル樹脂、アルキレン鎖を有する樹脂およびポリエーテル骨格を有する樹脂を含有する塗料組成物の硬化物であり、それぞれがウレタン結合によって架橋されており、厚さが2μm〜20μm、メチルエチルケトンにおける膨潤度が1.3以下、表面自由エネルギーが36〜60mN/m、ガラス転移温度が30〜70℃であり、
前記塗料組成物を構成する固形分のうち、前記ポリエステル樹脂の含有量は48〜82mass%、前記アルキレン鎖を有する樹脂の含有量は14〜48mass%、前記ポリエーテル骨格を有する樹脂の含有量は4〜14mass%であることを特徴とするコンデンサケース用アルミニウム塗装材。
前記塗膜は、厚さが4μm〜15μmであり、前記ガラス転移温度が40〜60℃であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のコンデンサケース用アルミニウム塗装材。
【背景技術】
【0002】
近年、成形後の絶縁用樹脂被覆が不要な樹脂被覆アルミニウム合金板材が、コンデンサケース材として使用されるようになってきている。このコンデンサケースは円筒形であり、様々な高さ/直径比を有する。板材を円筒形に成形するため、深絞り成形やしごき成形を組み合わせた厳しい条件での成形が施される。そのため、建材などに用いられる一般的な樹脂被覆アルミニウム合金板材を適用すると、樹脂層に亀裂や剥離などが発生して十分な絶縁性が得られない。特に、高さ/直径比の大きいケースの成形において、この傾向が顕著である。
【0003】
特許文献1には、コンデンサケース等に利用され、成形性に優れ、耐熱変色性及び高温高湿耐久性を有する樹脂被覆アルミニウム材料が開示されている。この樹脂被覆アルミニウム材料は、純アルミニウム又はアルミニウム合金表面に有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜を形成し、その上層に数平均分子量が2000〜100000のエポキシ系樹脂をシランカップリング剤を介して被覆した構造を有する。前記無孔質陽極酸化皮膜の膜厚が30〜200nm、前記シランカップリング剤の無孔質陽極酸化皮膜上への塗布量が0.5〜10mg/m
2、ならびに、前記エポキシ系樹脂の数平均分子量が5000〜80000でその被覆厚さが1〜20μmであることが好ましい旨が開示されている。
【0004】
特許文献2には、(A)水酸基含有樹脂とブロックイソシアネート硬化剤を含有する皮膜形成樹脂組成物、(B)アルデヒド化合物吸着能を有する窒素含有化合物で表面処理された無機化合物、及び(C)リン酸チタニウム系化合物を、(A)成分100重量部に対して(B)成分0.1〜10重量部及び(C)成分0.1〜10重量部の割合で含有することを特徴とするプレコート用熱硬化型塗料組成物と、それを金属板に塗装して得られるプレコート金属板が開示されている。さらに、(A)成分に含まれる水酸基含有樹脂として、水酸基価5〜200mgKOH/g、数平均分子量が1000〜20000である水酸基含有ポリエステル樹脂が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の樹脂被覆アルミニウム材は、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂が最表面に形成されているために、成形性には優れているものの、加工後のプレス成形にて使用したプレス油を落とすための洗浄液によって塗膜の変性や溶解が生じる等の問題があった。また、コンデンサケースにはUVインキの印刷が施されるが、この際に、インキのにじみや剥離が生じると需要家での歩留まりが悪化するため、印刷性の付与が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るコンデンサケース用アルミニウム塗装材は、アルミニウム基材と、当該アルミニウム基材の少なくとも一方の表面に形成された化成皮膜と、当該化成皮膜上に形成された塗膜とを含む。
【0013】
本発明で用いる基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材である。以下において、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる基材を、単に「アルミニウム基材」と記す。なお、アルミニウム以外の金属を基材に用いることもできる。
【0014】
本発明で用いる化成皮膜は、塗布型であっても反応型であってもよいが、アルミニウム基材および塗膜への2次密着性の観点から、反応型が好ましい。具体的には、リン酸クロメート、クロム酸クロメート、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウムなどの処理液で形成される皮膜である。2次密着性、経済性の観点から、リン酸クロメートがより好ましい。リン酸クロメート皮膜の付着量は金属Cr元素換算で2〜50mg/m
2であることが好ましい。付着量がCr元素換算で2mg/m
2未満では、塗膜との2次密着性が得られない。また、付着量がCr元素換算で50mg/m
2を超えても、塗膜との2次密着性の効果が飽和し経済性に欠ける。好ましい付着量はCr元素換算で5〜40mg/m
2である。
【0015】
本発明で用いる塗膜は、ポリエステル樹脂とアルキレン鎖を有する樹脂とポリエーテル骨格を有する樹脂を含有する塗料組成物の硬化物である。ポリエステル樹脂、アルキレン鎖を有する樹脂およびポリエーテル骨格を有する樹脂は、ウレタン結合によって架橋されている。塗料組成物を構成する固形分のうち、ポリエステル樹脂の含有量は48〜82mass%、アルキレン鎖を有する樹脂の含有量は14〜48mass%、ポリエーテル骨格を有する樹脂の含有量は4〜14mass%である。
【0016】
アルミニウム基材に、ポリエステル樹脂を塗装することにより、高い深絞り成形性、皮膜密着性等において優れた塗膜が得られる。しかし、ポリエステル樹脂は、樹脂内部に加水分解され得るエステル結合を有するため、耐高温水性や2次密着性が低下する傾向があった。
【0017】
そこで、本発明者等は、ポリエステル樹脂とアルキレン鎖を有する樹脂及びポリエーテル骨格を有する樹脂のそれぞれがウレタン結合によって架橋されることで、優れた深絞り成形性と皮膜密着性、2次密着性、耐高温水性及び洗浄液に曝しても変性しない優れた耐洗浄液性を有した塗装材が得られることを見出した。2次密着性と耐高温水性が改善されたのは、ポリエステル樹脂とアルキレン鎖を有する樹脂とが緻密な架橋構造を形成することにより、エステル基と水の接触が妨げられ、エステル基の加水分解が抑制されるためであると考えられる。また、塗膜内部の架橋構造中に、柔軟なポリエーテル骨格を有する樹脂が含有されることで、塗膜に柔軟性を付与することができ、2次密着性や耐高温水性を維持しつつも、深絞り成形性を付与することができる。さらに、ネオペンチルグリコールは高い立体障害を有し、官能基の反応性を低下させることができるので、ポリエーテル骨格を有する樹脂としてネオペンチルグリコールを有する樹脂を含有させると、エステル基と水の接触を妨げる効果が高く、塗膜の2次密着性と耐高温水性を向上させることができる。
【0018】
ポリエステル樹脂は、工業的汎用性及び良好な成形性等の点から好ましく用いられる。ポリエステル樹脂の重量平均分子量は特に制限されないが、例えば、10000〜50000である。また、水酸基価は特に制限されないが、例えば、10〜100である。ポリエステル樹脂を1種用いてもよく、又は、異なる種類のポリエステル樹脂を2種以上用いてもよい。本発明に係るポリエステル樹脂は、酸成分とアルコール成分とを用い、直接エステル化法またはエステル交換反応によって合成されるものである。
【0019】
ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、例えば、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの二塩基酸及びこれらの二塩基酸の低級アルキルエステルが主として用いられる。必要に応じて安息香酸やクロトン酸などの一塩基酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの多塩基酸やε−カプロラクトンなどのラクトンが併用される。これらの酸成分は1種類、あるいは2種類以上を混合して使用することができる。
【0020】
ポリエステル樹脂を構成するアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサンなどの二価アルコールが主に用いられる。必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタンなどの3価以上の多価アルコールを併用することができる。これらのアルコール成分は1種類、あるいは2種類以上を混合して使用することができる。
【0021】
上記のポリエステル樹脂は、オイルフリーポリエステル樹脂、油変性アルキド樹脂、または、これらの樹脂の変性物、例えば、エポキシ変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性アルキド樹脂などのいずれであっても良いが、成形性の観点からオイルフリーポリエステル樹脂が好ましい。
【0022】
塗膜の固形分中、ポリエステル樹脂の含有量は48〜82mass%である。ポリエステル樹脂の含有量が48〜82mass%であることによって、深絞り成形性、印刷性を満足することができる。ポリエステル樹脂の含有量が48mass%未満では、塗膜の伸びが低下し、深絞り成形性を満足することができない。また、ポリエステル樹脂の含有量が82mass%を超えると、得られる塗膜の強度が不十分となり、塗膜が破断し、深絞り成形性や皮膜密着性を満足することができない。
【0023】
アルキレン鎖を有する樹脂としては、アルキレン鎖を有するポリイソシアネートが好ましく、特に、アルキレン鎖を有する3官能型イソシアネート、アルキレン鎖を有するジイソシアネートであることが好ましい。アルキレン鎖を有する3官能型イソシアネートとしては、アルキレン鎖を有するジイソシアネートを環化三量化反応によって得られるイソシアヌレート型ポリイソシアネートや、3当量のアルキレン鎖を有するジイソシアネートと1当量のトリメチロールプロパンの付加体であるアダクト型ポリイソシアネートや、アルキレン鎖を有するジイソシアネートの三量化反応によって得られるビウレット型ポリイソシアネートが好ましい。アルキレン鎖を有するジイソシアネートとは、アルキレン鎖にジイソシアネートを誘導した化合物である。アルキレン鎖の炭素数は1〜10であることが好ましい。特に、アルキレン鎖は、ヘキサメチレン鎖であること好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネートは無黄変タイプのポリイソシアネートであるため、熱による黄変をおこさず耐熱性に優れている。
【0024】
また、イソシアネート基の反応性を抑制するために、イソシアネート基をブロック剤によってマスクしたブロック型ポリイソシアネートを使用するのが好ましい。ブロック剤は、例えば、フェノール、アルコール、マロン酸ジメチル、アセト酢酸エチル等の活性メチレンである。ブロック型ポリイソシアネートは、加熱によりブロック剤が解離することで架橋が開始するため、取り扱いや保管が容易である。アルキレン鎖を有する樹脂がイソシアネート基を有することにより、塗料組成物を焼付乾燥させた後、ポリエステル樹脂とアルキレン鎖を有する樹脂とが架橋し、ウレタン結合が形成される。
【0025】
塗膜の固形分中、アルキレン鎖を有する樹脂の含有量は14〜48mass%である。アルキレン鎖を有する樹脂の含有量が14〜48mass%であることによって、得られる塗膜は良好な深絞り成形性、2次密着性、耐洗浄液性、耐ブロッキング性、印刷性を保持しつつ、更に耐高温水性を満足することができる。アルキレン鎖を有する樹脂の含有量が14mass%未満では、厳しい環境下で塗膜の変色や変性が生じ、耐高温水性を満足することができない。また、アルキレン鎖を有する樹脂の含有量が48mass%を超えるとでは、架橋密度が高くなりすぎるため、皮膜密着性を満足することができない。
【0026】
ポリエーテル骨格を有する樹脂としては、ポリエーテル骨格を有するポリイソシアネートが好ましく、ポリエーテル骨格を有するジイソシアネートがより好ましい。ポリエーテル骨格を有するジイソシアネートとは、ポリエーテル化合物にジイソシアネートを誘導した化合物である。ポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリネオペンチルグリコール等のグリコール類、これらのグリコール類同士を反応させて得られる化合物、アクリルポリオール、ポリエステルポリエーテル、アクリルポリエーテル等が挙げられる。
【0027】
ポリエーテル骨格としては、特にネオペンチルグリコール骨格が好ましい。ネオペンチルグリコール骨格を有するジイソシアネートを含有させると、2次密着性が優れる。
【0028】
ポリイソシアネートは、ビュレット型ポリイソシアネート、アダクト型ポリイソシアネート、イソシアヌレート型ポリイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネートを使用することも可能である。また、イソシアネート基の反応性を抑制するために、イソシアネート基をブロック剤によってマスクしたブロック型ポリイソシアネートを使用するのが好ましい。ブロック剤は、例えば、フェノール、アルコール、マロン酸ジメチル、アセト酢酸エチル等の活性メチレンである。ブロック型ポリイソシアネートは、加熱によりブロック剤が解離することで架橋が開始するため、取り扱いや保管が容易である。ポリエーテル骨格を有する樹脂がイソシアネート基を有することにより、塗料組成物を焼付乾燥させた後、ポリエステル樹脂とポリエーテル骨格を有する樹脂とが架橋し、ウレタン結合が形成される。
【0029】
塗膜の固形分中、ポリエーテル骨格を有する樹脂の含有量は4〜14mass%である。ポリエーテル骨格を有する樹脂の含有量が4〜14mass%であることによって、得られる塗膜の柔軟性が増加し、皮膜密着性を満足することができる。ポリエーテル骨格を有する樹脂の含有量が4mass%未満では、得られる塗膜のガラス転移温度が高く、塗膜が強固となり、深絞り成形性や皮膜密着性が劣る傾向がある。一方、ポリエーテル骨格を有する樹脂の含有量が14mass%を超えると、塗膜のガラス転移温度が低くなり、耐ブロッキング性が劣る傾向がある。
【0030】
また、本発明に係る塗膜は、メチルエチルケトン(以下、MEKと記す)による膨潤度が1.3以下、表面自由エネルギーが36〜60mN/m、ガラス転移温度が30〜70℃、厚さが2μm〜20μmである。
【0031】
塗膜のガラス転移温度を30〜70℃にすることにより、加工後の歪を抑制することができ、皮膜密着性の低下を抑制し、さらに良好な深絞り成形性を付与することが可能となった。塗膜のガラス転移温度が30℃未満であると、塗装後にアルミニウム塗装材を積み重ねた場合、アルミニウム塗装材同士が貼りついてしまい、生産性を著しく低下してしまうことになる。この材料同士が貼りついてしまう現象をブロッキングと言い、長時間、塗膜が押し付けられた状態が続いても貼り付かない性質を耐ブロッキング性と言う。一方、塗膜のガラス転移温度が70℃を超えると、成形加工時の歪が残存し、皮膜密着性が低下する。さらにガラス転移温度を40〜60℃とすることで、深絞り成形性、皮膜密着性、耐ブロッキング性を高度に並立させることができ、コンデンサケース用アルミニウム塗装材としてより好ましい。
【0032】
塗膜の表面自由エネルギーを36〜60mN/mとすることにより、印刷性を十分に確保することができる。さらに、深絞り成形性を良好にする方法のひとつとして、ワックス等の潤滑剤を添加することが挙げられるが、添加したワックスが表面に露出し、表面自由エネルギーが36mN/m未満に低下してしまうことがある。塗膜の表面自由エネルギーが36mN/m未満であると、印刷時にインクが弾かれることや印刷部が剥離してしまうことがある。また、塗膜の表面自由エネルギーが60mN/mを超えると、インクの有する表面張力と化成皮膜の表面自由エネルギーとの差が大きくなり、インクが弾かれ印刷しにくくなる。なお、塗膜の表面自由エネルギーは、表面自由エネルギーが既知の液体にて測定した接触角を基に拡張Fowkesの式より算出することができる。
【0033】
塗膜のMEKによる膨潤度を1.3以下とすることにより、成形時の成形油や成形後の洗浄液等による塗膜の溶解を抑制することができ、耐洗浄液性を付与することができる。さらに、塗膜の架橋構造が強固となるため、耐ブロッキング性を満足させることができる。MEKによる膨潤度は、1.1以下であることがより好ましい。MEKによる膨潤度が1.3を超えると、成形時の成形油や成形後の洗浄液によって、塗膜の膨潤、溶解および変色等が生じる。
【0034】
塗膜の厚さ(膜厚)を2μm〜20μmとすることにより、加工後の歪による内部応力が抑えられ、皮膜密着性の低下を抑止することができる。膜厚が2μm未満となると、成形加工時に樹脂が破断しやすくなり、深絞り成形性が損なわれる。膜厚が20μmを超えると加工後の塗膜内の内部応力が大きくなり、深絞り成形性、皮膜密着性が損なわれる。なお、好ましい膜厚は4μm以上15μm以下である。
【0035】
(その他添加剤)
また、本発明における塗膜を形成する塗料組成物には、必要に応じて、レベリング剤、防錆剤、界面活性剤等を含有させてもよい。また、相溶性を損なわない範囲で着色剤を含有させてもよい。レベリング剤としては、例えば、ポリアルコールのアルキルエステル類等が挙げられる。防錆剤としては、例えば、タンニン酸、没食子酸、フイチン酸、ホスフィン酸等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、シリコーンオイル系、脂肪酸等が挙げられる。着色剤としては、例えば、フタロシアニン化合物等が挙げられる。
【0036】
(塗膜の形成)
本発明のアルミニウム基材表面に塗膜用の液状の塗料組成物を塗装(塗布)し、それを焼付けることにより、塗膜を形成する。
【0037】
本発明における塗膜を形成する塗料組成物は、溶剤を含有する。各成分は、溶剤に溶解、分散させて調製される。溶剤は、各成分を溶解又は分散できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、アルコールエステル類、ケトンエステル類、エーテル類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、エステルエーテル類である。
【0038】
塗料組成物における固形分の総量は、10〜45mass%であることが好ましい。総含有量が10mass%未満であると、焼付け時に発泡等が生じ、塗膜が均一に形成できない。一方、総含有量が45mass%を超えると、塗料組成物の粘度が高くなり、取り扱いが難しい上、塗料組成物を均一に塗布することが難しい。
【0039】
塗料組成物の塗布方法としては、ロールコータ法、スプレー法、静電塗装法等の方法が用いられるが、塗膜の均一性に優れ、生産性が良好なロールコータ法が好ましい。ロールコータ法としては、塗布量管理が容易なグラビアロール方式や、厚塗りに適したナチュラルコート方式や、塗布面に美的外観を付与するのに適したリバースコート方式等を採用することができる。また、塗膜の乾燥には一般的な加熱法、誘電加熱法等が用いられる。
【0040】
塗膜を形成する際の焼付けは、焼付け温度(到達板表面温度)が150℃〜320℃で行うのが好ましい。焼付け温度が150℃未満である場合には、塗膜が十分に形成されず化成皮膜との皮膜密着性が低下する。焼付け温度が320℃を超える場合には、塗膜が変性し、塗膜の強度・伸び等を著しく低下させ、深絞り成形性を低下させることになる。焼付け時間は1〜120秒の条件で行うのが好ましい。
【0041】
このようにして作製されるアルミニウム塗装板は、その表面にプレス成形加工用のプレス油を塗布してからスリット加工や深絞り加工等の成形加工を施すことにより、所望の円筒形状からなるコンデンサケースが作製される。このようなコンデンサケースは、例えば電解コンデンサとして好適に用いられるが、深絞り成形性、耐高温水性、2次密着性、耐洗浄液性、印刷性が必要とされるものであれば使用可能であり、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
まず、表1〜2に示す各成分を含有する塗料組成物を調製した。具体的に、塗料組成物を構成する固形分を、固形分の総重量と同じ重量の混合溶剤(PMAとキシレンを等量混合した溶剤)に溶解させた。
【0044】
アルミニウム基材表面には、塗膜を以下のようにして形成した。アルミニウム合金板(1100−H24材、0.30mm厚さ)を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗した後に乾燥した。次いで、このように処理したアルミニウム合金板表面に、市販のリン酸クロメート処理液を用いて化成処理を施した。なお、比較例17は、化成処理を施していない。このアルミニウム合金板に、各々の塗料組成物をロールコータにて塗布した。到達板表面温度(PMT)は270℃、焼付け時間は42秒となるように焼付けして、アルミニウム塗装材の供試材を得た。膜厚は、渦電流式膜厚計にて測定した。
【0045】
(塗料組成物における各成分)
ポリエステル樹脂(A1):重量平均分子量30000のポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂(A2):重量平均分子量45000のポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂(A3):重量平均分子量15000のポリエステル樹脂
ポリエーテル骨格を有する樹脂(B1):ポリエチレングリコールジイソシアネート
ポリエーテル骨格を有する樹脂(B2):ポリプロピレングリコールジイソシアネート
ポリエーテル骨格を有する樹脂(B3):ポリネオペンチルグリコールジイソシアネート
アルキレン鎖を有する樹脂(C1):ヘキサメチレンジイソシアネート誘導体のブロックポリイソシアネート
【0046】
得られた供試材について、MEKによる膨潤度、表面自由エネルギー、ガラス転移温度を測定した。また、それぞれの供試材について、深絞り成形性、皮膜密着性、耐高温水性、2次密着性、耐洗浄液性、印刷性、耐ブロッキング性を後述の方法で測定した。評価結果を、あわせて表1〜3に示す。なお、固形分については、固形分全体を100mass%としたときの各割合を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0047】
(MEKによる膨潤度)
供試材をMEKに24時間浸漬し、表面に付着しているMEKを拭き取り、重量を測定した。その後供試材を十分乾燥し、塗膜中のMEKを蒸発させ、脱膜し、塗膜量を測定した。
膨潤度=(MEKにて膨潤した塗膜量)/(乾燥した塗膜量)
(表面自由エネルギー)
表面自由エネルギーの各成分が既知の液体として、蒸留水、ジヨードメタン及びエチレングリコールを各供試材に滴下した。各液体の接触角を測定し、表面自由エネルギーを算出した。なお、水の分散成分、双極子成分、水素結合成分はそれぞれ、29.1mN/m、1.3 mN/m、42.4 mN/mとし、ジヨードメタンの分散成分、双極子成分、水素結合成分はそれぞれ、46.8 mN/m、4 mN/m、0 mN/mとし、エチレングリコールの分散成分、双極子成分、水素結合成分はそれぞれ、30.1 mN/m、0 mN/m、17.6 mN/mとした。
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度は、熱機械分析装置を用いて、温度上昇速度5.0℃/min、サンプル長10mm、サンプル幅5mmの条件で線膨張率を測定することで評価した。変位を測定しそのピークをガラス転移温度とした。
(深絞り成形性)
深絞り成形性は、5段の絞りしごき成形方式にて、塗膜が形成されている側を外面にして絞り比2.0のコンデンサケースに成形し、成形後の塗膜を目視で観察することにより評価した。成形の際、動粘度1.6mm
2/sの揮発性プレス油を使用した。下記評価基準に基づいて評価した。
○:目視にて表面の変化ない。
△:表面が荒れており、目視でも塗膜の亀裂が確認できる。
×:表面が荒れて更に筋が観察され、目視でも塗膜の亀裂が確認できる。
○又は△を合格とした。
(皮膜密着性)
成形品の側壁部におけるテープ剥離試験を実施し、塗膜の残存状況を目視で観察した。下記評価基準に基づいて評価した。
○:塗膜の剥離が確認されなかった。
×:塗膜が剥離した。
○を合格とした。
(耐高温水性)
上記の成形品を、121℃の水蒸気に24時間暴露した。樹脂塗膜の変色状況を目視で観察した。下記評価基準に基づいて評価した。
◎:塗膜の変色が確認されなかった。
○:塗膜の一部が変色したものの、製品の使用に耐えうる。
×:塗膜全体が変色した。
◎又は○を合格とした。
(2次密着性)
上記の成形品を、121℃の水蒸気に24時間暴露した。成形品の側壁部におけるテープ剥離試験を実施し、塗膜の残存状況を目視で観察した。下記評価基準に基づいて評価した。
○:塗膜の剥離が確認されなかった。
×:塗膜が剥離した。
○を合格とした。
(耐洗浄液性)
洗浄液として使用されるアクアソルベントG(炭化水素系洗浄剤:アクア化学株式会社製、登録商標)に浸漬(常温にて1時間浸漬)し、塗膜の変色状況を目視で観察した。下記評価基準に基づいて評価した。
◎:塗膜の溶解、変色が確認されなかった。
○:塗膜の一部が変色するものの、製品の使用に耐えうる。
△:塗膜は溶解しないものの、変色が確認された。
×:塗膜が溶解した。
◎又は○を合格とした。
(印刷性)
シルクスクリーンインキで供試材に印刷を行った。UV硬化後のインクとの密着性を碁盤目テープ剥離により碁盤目の非剥離率で評価した。シルクスクリーンインキはRIG(商品名、セイコーアドバンス社製、UV硬化性金属用インキ)を使用した。
○:剥離なし
×:剥離あり、又は印刷後インクが滲んで使用に耐えられなかった。
○を合格とした。
(耐ブロッキング性)
耐ブロッキング性は、各材料の塗装面と化成皮膜面を重ね合わせ、その上から、2kPaの荷重をかけ、50℃にて1日間保管し、樹脂皮膜の貼り付き状態を確認した。
○:塗膜の変化・貼り付きが確認されなかった。
△:塗膜が変化したものの、貼り付きが確認されなかった。
×:塗膜の貼り付きが確認された。
○又は△を合格とした。
【0048】
表1に示すように実施例1〜10はいずれも、深絞り成形性、皮膜密着性、耐高温水性、2次密着性、耐洗浄液、印刷性及び耐ブロッキング性が良好であった。また、実施例1、2、8は特に、深絞り成形性、皮膜密着性、耐高温水性、2次密着性、耐洗浄液、印刷性及び耐ブロッキング性が並立しており、コンデンサケース塗装材として好適な性能を備えている。
【0049】
これに対し、表2、3に示すように、比較例1では、ベース樹脂としてエポキシ樹脂を用いたため、深絞り成形性や皮膜密着性を満足することができなかった。比較例2は、ベース樹脂としてエポキシ樹脂とポリアクリル酸を用いたため、皮膜密着性、耐高温水性、耐洗浄液性および印刷性を満足することはできなかった。比較例3は、ベース樹脂としてポリプロピレンを用いたため、印刷性や耐ブロッキング性を満足することはできなかった。比較例4は、ポリエーテル骨格を有する樹脂を用いなかったため、深絞り成形性を満足することができなかった。比較例5は、アルキレン鎖を有する樹脂を用いなかったため、耐高温水性と2次密着性を満足することはできなかった。比較例6は、ポリエステル樹脂のほかにポリビニルアルコールを含有したため、耐高温水性、2次密着性、耐洗浄液性や耐ブロッキング性を満足することができなかった。比較例7は、ポリエステル樹脂の含有量が多いため、皮膜密着性および2次密着性を満足することができなかった。比較例8は、ポリエーテル骨格を有する樹脂の含有量が少なかったため、皮膜密着性を満足することができなかった。比較例9は、ポリエーテル骨格を有する樹脂の含有量が多かったため、耐高温水性、2次密着性および耐ブロッキング性を満足することができなかった。比較例10は、ポリエチレンワックスを含有し、塗膜の表面自由エネルギーが低くなったため、2次密着性および印刷性を満足することができなかった。比較例11は、塗膜の表面自由エネルギーが高くなったため、印刷性を満足することができなかった。また、アルキレン鎖を有する樹脂の含有量が少なかったため、耐高温水性と2次密着性を満足することができなかった。比較例12はアルキレン鎖を有する樹脂の含有量が多かったため、皮膜密着性を満足することができなかった。また、塗膜のガラス転移温度が高かったため、深絞り成形性が低下した。比較例13は塗膜のMEKによる膨潤度が高かったため、耐高温水性、2次密着性および耐洗浄液性を満足することができなかった。また、塗膜のガラス転移温度が低かったため、耐ブロッキング性を満足することができなかった。比較例14は膜厚が薄すぎたため、深絞り成形性を満足することができなかった。比較例15は膜厚が厚すぎたため、皮膜密着性を満足することができなかった。比較例16は化成処理を施していなかったため、2次密着性を満足することができなかった。比較例17はポリエーテル骨格を有する樹脂を含有しないため、皮膜密着性を満足しなかった。