特許第6351385号(P6351385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351385
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】コンタクトレンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20180625BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   G02C7/04
   C08F290/06
【請求項の数】10
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-115163(P2014-115163)
(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公開番号】特開2015-230342(P2015-230342A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000138082
【氏名又は名称】株式会社メニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 恵利
(72)【発明者】
【氏名】山本 勝宏
【審査官】 井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/063795(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0220688(US,A1)
【文献】 特表平11−502949(JP,A)
【文献】 特開2004−351257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00−13/00
C08F 290/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(I)室温で200mPa・s以上の粘度を示す両末端重合性のシリコーンオリゴマー成分1〜40質量%,(II)エチレン性不飽和基を持つ親水性モノマー成分10〜60質量%、および(III)分子量700以下のそれ自体は疎水性のモノマー成分10〜45質量%、の3成分(各成分量は上記3成分の合計量に対する質量割合である)、ならびに上記3成分の合計量100質量部に対して0.05〜1質量部の架橋剤を含む原料液に対し、その単位体積当たり5〜10000W/mの撹拌動力を与える撹拌を10分以上行い、その後レンズ型に注型して重合することによりコンタクトレンズを製造する方法であって、得られたコンタクトレンズが生理食塩水湿潤下での測定により以下の特性を示すことを特徴とする、コンタクトレンズの製造方法:
(i)破断弾性率が0.1〜0.5N/mm、初期弾性率(0.1N荷重時の歪み測定値に基づく)が0.1〜0.5N/mm
(ii)初期弾性率に対する破断弾性率の比で定義される弾性係数比が0.8〜1.2、および
(iii)酸素透過係数Dkが87×10-11(cm2 / sec)・(mLO2 / mL×mmHg)以上。
【請求項2】
前記原料液が、前記成分(I)2〜35質量%、成分(II)20〜50質量%および成分(III)15〜40質量%の3成分に加えて、これら3成分の合計量100質量部に対し0.1〜0.8質量部の架橋剤を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生理食塩水湿潤下で測定したコンタクトレンズの応力緩和係数が8〜25%である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記両末端重合性のシリコーンオリゴマー成分(I)が、下記一般式(I−1)あるいは一般式(I−2)で表されるシロキサン骨格を有し且つ室温で200mPa・s以上の粘度を示す両末端重合性マクロモノマーである請求項1〜3のいずれかに記載の方法:
・一般式(I−1):
1−(U1−S1−)n2−S2−U3−A2 (I−1)
[式中、A1およびA2はそれぞれ独立して末端重合性の活性不飽和基、炭素数1〜20のアルキレン基を有する活性不飽和基または炭素数1〜20のアルキレングリコール基を有する活性不飽和基、
1は両隣のA1およびS1とまたはS1およびS1と、それぞれウレタン結合を形成するジウレタン性ユニット、尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニットあるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニット
2は両隣のA1およびS2とまたはS1およびS2と、それぞれウレタン結合を形成するジウレタン性ユニット、尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニット、あるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニット
3は両隣のS2およびA2とそれぞれウレタン結合を形成する、ジウレタン性ユニット、尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニット、あるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニット
1およびS2はそれぞれ独立して式:
【化1】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキレン基、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、およびR10はそれぞれ独立してフッ素原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜20のアルキル基、式:A3−U4−R1−O−R2−(式中、A3は末端重合性の活性不飽和基、炭素数1〜20のアルキレン基を有する末端重合性の活性不飽和基もしくは炭素数1〜20のアルキレングリコール基を有する末端重合性の活性不飽和基、
4は隣りあうA3およびR1とウレタン結合を形成するジウレタン性ユニット尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニットあるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニットを示し、R1およびR2は前記と同じ)で表わされる基、または、水酸基、オキシアルキレン基から選ばれた置換基を少なくとも1個結合してなる鎖状または環状の炭化水素基、であり、xは1〜1500の整数、yは0または1〜1499の整数、zは0または1〜1499の整数、x+y+zは1〜1500の整数を示す)で表わされる基、nは0または1〜10の整数を示す];
・一般式(I−2):
1−S3−B1 (I−2)
[式中、B1はウレタン結合、尿素結合、アミド結合、あるいはエステル結合を有する末端重合性の活性不飽和ユニット、
3は式:
【化2】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキレン基、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、およびR10はそれぞれ独立してフッ素原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜20のアルキル基、式:A3−U4−R1−O−R2−(式中、A3は末端重合性の活性不飽和ユニット、炭素数1〜20のアルキレン基を有する末端重合性の活性不飽和基もしくは炭素数1〜20のアルキレングリコール基を有する活性不飽和ユニット、U4は隣りあうA3およびR1とウレタン結合を形成するジウレタン性ユニット、尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニットあるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニットを示し、R1およびR2は前記と同じ)で表わされる基、または、水酸基、オキシアルキレン基から選ばれた置換基を少なくとも1個結合してなる鎖状または環状の炭化水素基、であり、xは1〜1500の整数、yは0または1〜1499の整数、zは0または1〜1499の整数、x+y+zは1〜1500の整数を示す)で表わされる基を示す]。
【請求項5】
前記親水性モノマー成分(II)が、1−アルキル−3−メチレン−2−ピロリドン、N−置換アクリルアミド、アセトアミド類、N−ビニルラクタム、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(アルキル)アミノアルキル(メタ)アクリレート、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、および(メタ)アクリル酸からなる群より選択される親水性モノマーである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記分子量700以下の疎水性モノマー成分(III)が、シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレートおよびフッ素含有アルキル(メタ)アクリレートからなる群より選択される請求項1〜5のいずれかに記載の方法
【請求項7】
前記コンタクトレンズが、体積割合で、主として成分(I)の重合体からなる疎水性領域(A)が1〜40%、成分(II)と成分(III)の共重合体からなるが水/メタノール混合溶媒により膨潤されない中間領域(B)が0.1〜20%、および成分(II)と成分(III)の共重合体からなる親水性領域(C)が40〜98.9%の共重合体により構成される請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記撹拌が、平パドル翼により行われる請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記原料液の粘度が0.01〜0.40Pa・sである請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記撹拌時の撹拌エネルギーが5〜20000kJ/mである請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に加えて、高酸素透過性と、柔軟性および力学的特性のバランスとを兼ね備えたコンタクトレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズに関しては、長くに亘って、高酸素透過性を持つ硬質レンズ(RGP)と、吸水性によりゲルを形成するハイドロゲルを主成分とするソフトレンズ(SCL)とが主流であった。しかし、前者は高酸素透過性を背景に、角膜生理活動を阻害するリスクの低いという長所を有するが、硬いため、使用感に劣るという問題点を有する。他方、後者は、ハイドロゲルからなるため使用感に優れるが、酸素透過性が低いという問題点を抱えていた。
【0003】
これらを改善する為、高酸素透過性ソフトコンタクトレンズ材料としてシリコーンハイドロゲルが開発されるにいたった。シリコーンハイドロゲルは、RGPと同様に酸素透過性のシリコーン成分と、ハイドロゲルに使用されてきた親水性成分との共重合体を作製することで、形成される。特に、シリコーンハイドロゲルの主成分として、疎水性且つ高分子量のジメチルシロキサン系マクロモノマーと親水性成分の共重合体を使用することが、一般的によく知られている(例えば特許文献1〜4)。このように、相反する両成分の特徴を兼ね備えるシリコーンハイドロゲルは、従来のRGPと同等の高酸素透過性を持ちながら、従来のSCLに近い使用感の良さを持つため、昨今注目される素材である。
【0004】
しかしながら、シリコーンハイドロゲルを共重合体として形成する場合、相反する性質をもつ原料成分を混合する段階にあって、均一に混合できたと考えていても、重合反応に供することで、共重合体が白濁、すなわち失透することがある。これは、光学製品であるコンタクトレンズには、致命傷である。シリコーン共重合体を使用することで、ハイドロゲルレンズよりも高い酸素透過性を実現できたものの、従来のハイドロゲルよりも、弾性の強い重合体となるため、コンタクトレンズとして使用する際に、従来ハイドロゲルレンズと比較し、日常使用において装用感が低下することに加えて、場合により、SEALs(Superior Epithelial Arcuate Lesions:上方角膜上皮弓状病変)と総称されるシリコーンハイドロゲル装用に独特の角膜上皮障害が発生することさえある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4751421号公報
【特許文献2】WO01/44861A明細書
【特許文献3】特許第4235204号公報
【特許文献4】特開2011−219512号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高分子学会編「新高分子実験学6:高分子構造(2)散乱実験と形態観察」(1997)第2章X線回折・散乱、2.2小角X線散乱および2.3放射光X線分析。第191−256頁
【非特許文献2】化学工学便覧(改定六版)(丸善(株)発行、1999年11月)7.2均相撹拌、第426−434頁
【非特許文献3】永田ほか;化学工学、第21巻第11号(1957)第708−715頁
【非特許文献4】永田ほか;化学工学、第23巻第3号(1959)第130−137頁
【非特許文献5】R. Hernandez et al.; Macromolecules 2007, 40, pp.5441-5449
【非特許文献6】Eye & Contact Lens 34(3) (2008);pp.146-150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主要な目的は、透明性に加えて、高酸素透過性と、柔軟性および力学的特性のバランスとを兼ね備えたコンタクトレンズを、安定的かつ効率的に製造する方法を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明のコンタクトレンズの製造方法は、少なくとも(I)室温で200mPa・s以上の粘度を示す両末端重合性のシリコーンオリゴマー成分1〜40質量%,(II)エチレン性不飽和基を持つ親水性モノマー成分10〜60質量%、および(III)分子量700以下のそれ自体は疎水性のモノマー成分10〜45質量%、の3成分(各成分量は上記3成分の合計量に対する質量割合である)、ならびに上記3成分の合計量100質量部に対して0.05〜1.0質量部の架橋剤を含む原料液に対し、その単位体積当たり5〜10000W/mの撹拌動力を与える撹拌を10分以上行い、その後レンズ型に注型して重合することによりコンタクトレンズを製造する方法であって、得られたコンタクトレンズが生理食塩水湿潤下での測定により以下の特性を示すことを特徴とする、ものである:
(i)破断弾性率が0.1〜0.5N/mm、初期弾性率が0.1〜0.5N/mm
(ii)初期弾性率に対する破断弾性率の比で定義される弾性係数比が0.8〜1.2、および
(iii)酸素透過係数Dkが87×10-11(cm2 / sec)・(mLO2 / mL×mmHg)以上。
【0010】
本発明者らが、上述の目的で研究して、本発明に到達した経緯について若干付言する。
本発明のコンタクトレンズは、破断弾性率と初期弾性率の比として定まる弾性率比が0.8〜1.2と、1に近い値を持つこと重要な特徴とする。これは、初期弾性率と破断弾性率が近い値を示し、応力緩和が一定レベルにある力学特性を持つこと、換言すれば、レンズを構成するポリマーの変形に際してその初期の力学挙動と破断時の力学挙動が等しいこと、を意味する。しかしながら、一般的なコンタクトレンズにおいては、変形初期の弾性率は小さくとも、変形量が大きくなった場合には不均一な架橋点間のポリマーが部分的に伸びきることで、初期に比較して大きな弾性率を示す場合がある。一方、初期時に、不均一部の中でも、架橋密度の高い部位の特性が発揮された場合、初期弾性率に比し、破断時の弾性率が小さくなる。これら外観上透明で均一なコンタクトレンズ用の材料であっても、初期弾性率、破断弾性率という観点でみると、様々な特性を有するコンタクトレンズが存在する。
【0011】
従来より、このような特性は、レンズを構成する共重合体が微視的に均質であることにより得られると解されていたが、本願発明者が各種成分の組合せからなるシリコーンハイドロゲル共重合体の微細構造を小角X線散乱法により鋭意解析した結果、特に高酸素透過性と、柔軟性および力学的特性のバランスとを兼ね備えたシリコーンハイドロゲル共重合体が、上記特性を示すためには、従来より知られていた親水性領域と疎水性領域の共連続構造が均質に存在することでは足りず、両領域間に、親水性領域と同様な構成成分からなるが、親水性領域とは異なり、疎水性領域の影響を受けて、水やメタノール等の親水溶媒に膨潤され難い中間領域の発達した構造が必要であることが見出された。そして、このような、発達した中間領域の形成のためには、シリコーンハイドロゲル共重合体が、上述した(I)共重合体において疎水性領域を形成する両末端重合性のシリコーンオリゴマー成分および(II)共重合体において親水性領域を形成するエチレン性不飽和基を持つ親水性モノマー成分に加えて、(III)共重合体において成分(II)とともに親水性領域を形成し且つ前記疎水性領域と親水性領域との中間領域の形成に寄与する分子量700以下の疎水性モノマー成分、の少なくとも3成分から構成されることが必要なことが見出された。(なお、成分(III)が、親水性領域(C)および中間領域(B)に存在していることは、STEM(操作型透過電子顕微鏡)のEDS分析(エネルギー分散型スペクトル分析)により、確認されている。)
【0012】
さらに、上記中間領域の発達のためには、シリコーンハイドロゲル共重合体を構成する少なくとも3成分(I)〜(III)が、重合前に適度の撹拌を経て均質化されていることが必要であることも見出された。すなわち、従来、上述したようなシリコーンハイドロゲル共重合体の形成のために行われる好ましい共重合成分のスクリーニングにおいては、小規模のフラスコレベルの混合で簡単に実現可能な程度の、一見、透明性を維持し、成分の偏析の為生じる揺らぎ等がないことで確認される均一混合状態では足りず、より積極的な撹拌により達成される光学的な均質状態が、上記中間領域の発達には必要であることが見出された。かといって、オリゴマー成分(I)を含む原料組成物は、従来の硬質レンズや2-ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とするハイドロゲルレンズの原料と比較し、シリコーン成分が含まれていることと相まって比熱が低く温度上昇しやすい、さらには粘度が高いため熱拡散が遅い特徴がある。従って過度の撹拌は、撹拌熱を生じ、原料混合液系が部分的に熱せられる環境となることから、撹拌・混合時に重合が開始されてしまう恐れが生じる。さらには、過度の撹拌を行うと、粘度の高さゆえ、原料混合液内に気泡が混入してしまい、その除去のために、長い静置時間や付加工程を設ける必要性からくる著しい生産性の低下、更には製品コンタクトレンズにおける不良品の発生の恐れなどの不都合が生じかねない。他方、レンズの菌等による汚染を原因とする眼障害の予防、利便性を希求する使用者の要望から、昨今のコンタクトレンズは、頻繁な交換を伴う使用形態が主流となりつつある。使用者の交換頻度の増加に伴い、供給すべきシリコーンハイドロゲル共重合体量が増大することもあって、その原料混合物の撹拌管理が、良質なシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの供給に極めて重要であることが見出された。本発明の、コンタクトレンズおよびその製造方法は、上述の一連の知見の結果として得られたものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】後記実施例1及び比較例1で得られた撹拌後且つ重合前の原料混合液について測定した小角X線散乱強度測定値のプロット
図2】後記実施例1で得られた共重合体を用いて得たコンタクトレンズ形状の成形体を、水/メタノール比の異なる11種の混合溶媒に浸漬して得た膨潤体について得られたた小角X線散乱強度プロファイル。
図3】後記比較例1で得られた共重合体を用いて得られたた小角X線散乱強度プロファイル。
図4】小角X線散乱強度プロファイルに基づいて、実施例及び比較例で得られた共重合体について中間領域(B)の体積割合を算出するために想定したコアシェルシリンダーモデルの概念図。
図5】後記実施例の共重合体についてコアシェルシリンダーモデルに基づく規格化電子密度計算値Qciと測定された小角X線散乱強度プロファイルに基づく規格化積分値Qmiの一致を示す電子密度プロット。
図6】後記比較例1について求めたQCiとQmiの一致を示す電子密度プロット。
図7】実施例及び比較例で求めた共重合体レンズ状成形体の三次元破断弾性係数測定のための試料配置状態を示す概略図。
図8図7で示されたレンズCの測定中における変形状況を説明するための模式図。
図9】実施例によるレンズの弾性率測定中の荷重―ひずみ曲線を表す模式図。
図10】比較例1によるレンズの弾性率測定中の荷重―ひずみ曲線を表す模式図。
図11】比較例4によるレンズの弾性率測定中の荷重―ひずみ曲線を表す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、コンタクトレンズの製造方法の工程順序に従って、その好ましい実施態様について、順次説明する。以下の記載において、組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り、質量基準とする。
[シリコーンハイドロゲル形成成分]
【0015】
上述したように、少なくとも以下の成分(I)〜(III)に属する化合物類から、それぞれ少なくとも一種以上を使用する。なお、本明細書における成分(I)〜(III)に関し、「親水性」とは室温下(25℃)において、同質量の蒸留水と混合し、可視的に均一な溶液となるうる成分を意味し、「疎水性」とは、室温下(25℃)において、同質量の蒸留水と混合し、可視的に均一な溶液となりえない成分を意味する。
【0016】
・成分(I): 疎水性領域(A)形成成分
室温(25℃)で200mPa・s以上の粘度を示すシリコーンオリゴマーであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により求めたポリスチレン換算の数平均分子量は、1000〜100000程度が好ましい。
とくに下記一般式(I−1)あるいは一般式(I−2)で表されるシロキサン骨格を持つ両末端重合性マクロモノマーが、好ましく用いられる。
【0017】
一般式(I−1):
1−(U1−S1−)n2−S2−U3−A2 (I−1)
[式中、A1およびA2はそれぞれ独立して末端重合性の活性不飽和基、炭素数1〜20のアルキレン基を有する活性不飽和基または炭素数1〜20のアルキレングリコール基を有する活性不飽和基、
1は両隣のA1およびS1とまたはS1およびS1と、それぞれウレタン結合を形成するジウレタン性ユニット、尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニットあるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニット
2は両隣のA1およびS2とまたはS1およびS2と、それぞれウレタン結合を形成するジウレタン性ユニット、尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニット、あるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニット
3は両隣のS2およびA2とそれぞれウレタン結合を形成する、ジウレタン性ユニット、尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニット、あるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニット
1およびS2はそれぞれ独立して式:
【0018】
【化1】
【0019】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキレン基、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、およびR10はそれぞれ独立してフッ素原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜20のアルキル基、式:A3−U4−R1−O−R2−(式中、A3は末端重合性の活性不飽和基、炭素数1〜20のアルキレン基を有する末端重合性の活性不飽和基もしくは炭素数1〜20のアルキレングリコール基を有する末端重合性の活性不飽和基、
【0020】
4は隣りあうA3およびR1とウレタン結合を形成するジウレタン性ユニット尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニットあるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニットを示し、R1およびR2は前記と同じ)で表わされる基、または、水酸基、オキシアルキレン基から選ばれた置換基を少なくとも1個結合してなる鎖状または環状の炭化水素基、であり、xは1〜1500の整数、yは0または1〜1499の整数、zは0または1〜1499の整数、x+y+zは1〜1500の整数を示す)で表わされる基、nは0または1〜10の整数を示す]で表わされるポリシロキサンマクロモノマーや、
【0021】
一般式(I−2):
1−S3−B1 (I−2)
[式中、B1はウレタン結合、尿素結合、アミド結合、あるいはエステル結合を有する末端重合性の活性不飽和ユニット、
3は式:
【0022】
【化2】
【0023】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキレン基、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、およびR10はそれぞれ独立してフッ素原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜20のアルキル基、式:A3−U4−R1−O−R2−(式中、A3は末端重合性の活性不飽和ユニット、炭素数1〜20のアルキレン基を有する末端重合性の活性不飽和基もしくは炭素数1〜20のアルキレングリコール基を有する活性不飽和ユニット、U4は隣りあうA3およびR1とウレタン結合を形成するジウレタン性ユニット、尿素結合を形成するジウレア性ユニット、アミド結合を形成するジアミド性ユニットあるいはエステル結合を形成するジエステル性ユニットを示し、R1およびR2は前記と同じ)で表わされる基、または、水酸基、オキシアルキレン基から選ばれた置換基を少なくとも1個結合してなる鎖状または環状の炭化水素基、であり、xは1〜1500の整数、yは0または1〜1499の整数、zは0または1〜1499の整数、x+y+zは1〜1500の整数を示す)で表わされる基を示す]
で表わされる両末端重合性ポリシロキサンマクロモノマー、
【0024】
前記一般式(I−1)において、A1およびA2にて示される末端重合性の活性不飽和基としては、前記したように、たとえば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルカルバメート基などがあげられる。これらのなかでもレンズ材料にさらに良好な柔軟性を付与することができ、他の重合性成分との共重合性にすぐれる点から、アクリロイルオキシ基およびビニル基が好ましく、とくにアクリロイルオキシ基が好ましい。
【0025】
また前記末端重合性の活性不飽和基がアルキレン基またはアルキレングリコール基を有する場合、かかるアルキレン基やアルキレングリコール基の炭素数は好ましくは1〜20であり、1〜10であることがより好ましい。
【0026】
また、一般式(I−1)中、S1およびS2で示される式:
【化3】
【0027】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、およびR10x、yおよびzは前記と同じ)で表わされる基において、R1およびR2は好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基、R3〜R10は好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、またかかるR3〜R8を示す式:A3−U4−R1−O−R2−中のA3は、前記例示と同様の末端重合性の活性不飽和ユニットを示し、かかる末端重合性の活性不飽和ユニットがアルキレン基またはアルキレングリコール基を有する場合、アルキレン基やアルキレングリコール基の炭素数は1〜20が好ましく、1〜10であることがより好ましい。またxは1〜500の整数、yは0または1〜499の整数、zは0または1〜499の整数、x+y+zは1〜500の整数であることが好ましい。
さらに一般式(I−1)中、nは0または1〜5の整数であることが好ましい。
【0028】
一方、前記一般式(I−2)において、B1にて示されるウレタン結合を有する末端重合性の活性不飽和ユニットとしては、たとえば(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート、アリルイソシアネート、ビニルベンジルイソシアネート由来の基などがあげられる。また、一般式(I−2)中でS3にて示されるユニットは、前記一般式(I−1)中のS1およびS2にて示されるユニットと同様である。
【0029】
前記両末端重合性マクロモノマーのなかでも、形状回復性に代表される柔軟性および機械的強度の付与の効果が大きいという点から、式:
1−U2−S2−U3−A2
(式中、A1、A2、U2、U3およびS2は前記と同じ)で表わされる両末端重合性マクロモノマーおよび式:
1−(U1−S1−)n′2−S2−U3−A2
(式中、A1、A2、U1、U2、U3、S1およびS2は前記と同じ、n′は1〜4の整数を示す)で表わされるシロキサン骨格を持つ両末端重合性マクロモノマーが好ましく、とくに式:
【0030】
【化4】
で表わされる基、aは20〜50の整数を示す)
で表わされる両末端重合性ポリシロキサンマクロモノマーが好ましい。
【0031】
成分(I)は、成分(I)〜(III)の合計量の、1〜40%、特に2〜35%の割合で用いることが好ましい。1%未満では、シリコーンユニットの運動性に基づいて発揮される高い酸素透過性が得られない。一方、40%を超えると、材料自体の弾性率が高くなりすぎ装用感の悪化をもたらすほか、レンズ自体の涙濡れ性が低下してレンズが角膜へ吸着したり、或いはレンズと角膜表面との摩擦に伴うこすれにより、SEALsに代表される角膜障害が起こりうる。
【0032】
・成分(II):親水性領域(C)及び中間領域(B)形成成分
重合性基(エチレン性不飽和基)にを有する親水性モノマー成分である。
より具体的には、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリドンなどの1−アルキル−3−メチレン−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのN−置換アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドンなどのN−ビニルラクタム、N-エテニル-N-メチルアセトアミドなどのアセトアミド類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの(アルキル)アミノアルキル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸から選択される。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」の語は、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味し、他の(メタ)アクリレート誘導体についても同様である。
【0034】
成分(II)は、成分(I)〜(III)の合計量の、10〜60%、特に20〜50%の割合で用いることが好ましい。10%未満では、ソフトレンズとして十分な涙濡れ性や柔軟性が得られず、また、シリコーン特有の粘着性が顕著となって、レンズが角膜に吸着する可能性があり、60%を超えるとレンズの含水率が高くなりすぎて、シリコーンを適用した効果が十分発揮されず、高い酸素透過性が得られなくなったりレンズが脆くなったりする。
【0035】
・成分(III):中間領域(B)形成促進成分
上記成分(II)とともに親水性領域(C)を形成する共重合体を形成するが、その際に、最終的に形成される重合体に、疎水性領域形成成分からなる疎水性領域(A)の周辺に、親水性成分(II)との共重合体でありながら、溶媒和しない中間領域(B)の形成を促進し得る成分であり、分子量700以下のそれ自体は疎水性のモノマー成分である。珪素は含んでも含まなくてもよい。
【0036】
STEMのEDS分析により、重合後に得られる共重合体中において、この中間領域形成促進成分(III)が、親水性領域(C)並びに中間領域(B)に存在していることが確認できている。
具体的には、シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、フッ素含有アルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、より具体的には、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルジ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリルメタクリレートなどのシリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、ラウリルメタクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有アルキル(メタ)アクリレートから選択される。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
成分(III)は、成分(I)〜(III)の合計量の、10〜45%、特に15〜40%の割合で用いることが好ましい。10%未満では、中間領域(B)を効率よく形成できず、45%を超えると良好な装用感につながる十分な柔軟性を有し、かつ高い酸素透過性もつ、すなわち両特性を両立させた材料を得ることが困難となり、極端には製品レンズにおける透明性までもが低下する。
【0038】
(その他成分)
本発明のコンタクトレンズを構成する共重合体の重合前原料液は、基本的には上記成分(I)〜(III)からなるが、必要に応じてその他成分を含むことができる。
【0039】
例えば、生成される共重合体の架橋密度や柔軟性、硬質性の調節のために、架橋剤を添加することができる。このような架橋剤の例として、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、3−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等があげられる。これらの架橋剤は一種又は複数種のものを用いることができる。
【0040】
上記重合性組成物における架橋剤の使用割合としては、上記成分(I)〜(III)の合計量100質量部に対して0.05質量部以上1質量部以下が好ましく、0.1質量部以上0.8質量部以下が特に好ましい。架橋剤の使用割合を上記下限以上とすることによって、ポリマー材料に形状安定性、強度、耐久性等を付与でき、柔軟性等の調節を確実に行うことができる。一方、架橋剤の使用割合を上記上限以下とすることによって、ポリマー材料が硬くなりすぎることを抑制することができる。架橋剤は、このように少量であるため、生成共重合体中に含まれても、領域(A)、(B)及び(C)の体積算定に際しては無視可能である。
【0041】
重合原料液に含まれ得るその他成分の他の例としては、上記成分(I)〜(III)の合計量100部に対して、2部までの割合で含まれる熱重合あるいは光重合の開始剤、ならびに重合原料液の粘度調整あるいは成分間の相溶性改善のために100部までの割合で添加され得る炭素数1〜5のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン、ジメトキシエタン等の親水性有機溶剤が挙げられる。
【0042】
[撹拌条件]
本願発明のコンタクトレンズを構成する共重合体を製造するためには、少なくとも上記の成分(I)〜(III)を含む原料液に対し、その単位体積当たり5〜10000W/mの撹拌動力を与える撹拌を10分以上行うことが好ましく、またこれにより5〜20000kJ/mの単位容積あたりの撹拌エネルギーを与えることが好ましい。その後、撹拌後の原料混合液をレンズ型に注型して重合することによりコンタクトレンズを製造する。上記原料は、粘度が0.01〜0.40Pa・s程度の中低粘度液体に分類されるものであり、非特許文献2に示されるようなパドル、ディスクタービン、湾曲羽根ファンタービン、矢羽根タービン、ファウドラー型、ブルマージン型、傾斜パドル、プロペラ等の各種形状の撹拌翼をいずれも使用可能である。また、これら撹拌翼による撹拌と合せ、超音波撹拌等を加えて実施することも可能である。撹拌動力(正味撹拌動力)の測定は、使用撹拌翼を装着した攪拌機についての液撹拌状態のトルクと同一回転数における空回転状態の軸トルクの差として求めた正味撹拌トルクから求めるのが簡便であるが、軸トルク測定の誤差に基づく誤差を排除して、正味撹拌動力の変化に伴う撹拌効果への影響を正確に評価するために、後記実施例及び比較例では、垂直平パドル翼2枚を用いて、撹拌レイノルズ数Re[−]、撹拌動力数Np[−]を経由して、液単位容積あたり撹拌動力Pv[W/m]、更には、撹拌エネルギー[kJ/m]を求めた。測定および算出法の詳細は、後述する。
【0043】
撹拌動力(被撹拌液の単位体積あたりの正味撹拌動力)は、5〜10000W/mとするが、15〜8000W/mがより好ましい。5W/m未満では、本発明の目的とする中間領域(B)の発達に伴う、1に近い弾性係数比(=破断弾性率/初期弾性率)で代表される製品レンズの力学特性の改善が安定して得難く、また製品レンズにおける透明性の低下が起こりかねない。他方、10000W/mを超えると、撹拌熱の発生により、撹拌段階で重合が開始してしまったり、合理的な注型重合前の静置時間では、製品レンズにおける気泡混入による不良品の発生率が無視できなくなる。また、上記撹拌により、被撹拌液の単位容積あたり5〜20000kJ/m,特に15〜10000kJ/m、の撹拌エネルギー与えることが好ましい。撹拌レイノルズ数Re[−](=ndρ/μ、:撹拌翼回転数[1/s]、d=撹拌翼径[m]、ρ=被撹拌液密度([kg/m])、μ=被撹拌液粘度([Pa・s])は、遷移域の下限近傍および乱流域に相当する500〜6000[−]の範囲が好ましい。
【0044】
[重合]
適切な撹拌条件の管理により、微視的均一性を確保した重合原料液を、鋳型内に注型し、次いで5秒〜60分程度静置した後、レンズ成形用型に注入して重合・硬化させる。また、鋳型内において行う重合以外に、片面の鋳型内に重合原料液を滴下したのち、高速回転しながら重合を行うスピンキャスト製法等、当業界において一般的なレンズ生産法を用いることも可能である。重合は、加熱あるいは600〜100nmの光(ブルーライト、紫外光、エキシマレーザー光等)もしくは電子線等の放射線の照射により行うことができる。また、鋳型内への注入に先立ち、不溶性異物の除去を目的としたろ過並びに脱酸素(窒素バブリング)を実施しても良い。
【0045】
前記熱重合開始剤の具体例としては、たとえば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシヘキサノエート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。該ラジカル重合開始剤の量は、重合成分100部に対して約0.001〜2部であり、好ましくは0.01〜1部である。
鋳型内の重合成分を加熱する際の加熱温度は、重合時間の短縮および残留モノマー成分の低減という点から、50℃以上であり、好ましくは60℃以上である。また、各重合成分の揮発を抑制するという点および型の変形を防止するという点から、150℃以下であり、好ましくは140℃以下である。また、鋳型内の重合成分を加熱する際の加熱時間は、重合時間の短縮および残留モノマー成分の低減という点から、10分間以上であり、好ましくは20分間以上である。また、型の変形を防止するという点から、120分間以下であり、好ましくは60分間以下である。加熱は、段階的に昇温させて行なってもよい。
【0046】
前記光重合開始剤の具体例としては、たとえば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド(TPO)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド系光重合開始剤;メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム;2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソンなどのチオキサンソン系光重合開始剤;ジベンゾスバロン;2−エチルアンスラキノン;ベンゾフェノンアクリレート;ベンゾフェノン;ベンジルなどがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
また、光重合開始剤とともに、光増感剤を用いてもよい。これら光重合開始剤および光増感剤の含有量は、重合成分100部に対して約0.001〜2部であり、好ましくは0.01〜1部である。
また、たとえば、加熱と同時に光を照射する等、重合に寄与するエネルギーを2種以上混合して用いることもできる。
また、鋳型内から取り出したレンズは、適宜周辺加工等の後加工を加えることもできる。
【0048】
[後処理]
重合反応後の重合体を、鋳型内から取り出し、蒸留水、生理食塩水等に浸漬することよって、所望の眼用レンズ材料の形状に膨潤させ、また同時に未重合の重合性成分や重合に使用した有機溶媒などを除去するため水和処理を行う。水和処理の際、不要成分の回収効率をあげるために、アセトン・低級アルコール等の水溶性有機溶媒を使用することもできる。
【0049】
更に、前記溶出可能な化合物を効果的に除去するためにレンズの水和と同時に、または水和の後に、蒸留水または生理食塩液を加温させてもよい。加熱温度は、短時間で残存物が除去できる温度かつ眼用レンズ材料の変形温度未満であることが好ましく、たとえば35〜100℃であることが好ましい。
最後に、レンズを生理食塩水又はリン酸、ホウ酸、クエン酸等の緩衝剤を含む保存溶液とともに、レンズのインナーハイトよりも低い収納容器も含むレンズ容器に封入し、高圧蒸気又はガンマ線等の照射を行うことも好ましい。特に好ましくは、リン酸、ホウ酸、クエン酸等の緩衝剤を含む保存溶液、特に好ましくはリン酸緩衝剤を含む保存溶液を使用し、滅菌後1日以上、経過した保存することが好ましい。これらは、共重合体から得られるレンズに形成された各領域が、より固定化されることを促すものである。
【0050】
[コンタクトレンズ]
好ましくは上記工程を経て製造される本発明のコンタクトレンズは、少なくとも上記成分(I)〜(III)を含む3成分以上の共重合体から得られるものであって、初期弾性率に対する破断弾性率の比で定義される弾性係数比が0.8〜1.2の範囲内であることを特徴とするものである。上記弾性係数比が0.8未満であることは、初期弾性率に比し、破断時の弾性率が小さいことを示す。不均一部の中でも架橋密度の高い部位の特性が発揮される状態であって、レンズ中の架橋密度が不均一であり、微小変形した場合でも弾性率が高く、レンズの異物感がはなはだしく装用感が良好ではないレンズ、あるいはレンズが脆く、破損しやすいレンズになりうることを示す。また1.2を超えると、不均一な架橋点間のポリマーが部分的に伸びきることで、初期に比較して破断時に大きな弾性率を示すことを意味する。たとえば系中で不均一に存在する高分子量で疎水性のシリコーンマクロマーによる影響により、レンズ中のポリマーが不均一となっている状態である。微小変形時には架橋点の効果は発揮されないが、歪が大きくなった場合に極端に応力が高くなることにより、瞬目時に異物感を感じたり、それが原因となって角膜上皮障害の原因となったり、さらには取り扱いにおいて十分な洗浄ができなかったりする不具合が生じうる。
【0051】
本発明のコンタクトレンズの示す好ましい他の特性としては、破断弾性率が0.1〜0.5N/mm2、初期弾性率が0.1〜0.5N/mm2、応力緩和係数が8〜25%、酸素透過係数Dkが56×10-11(cm2 / sec)・(mLO2 / mL×mmHg)以上などがある。また、本発明のコンタクトレンズを構成する共重合体は、主として成分(I)の重合体からなる疎水性領域(A)、成分(II)と成分(III)の共重合体からなるが親水溶媒と溶媒和しない中間領域(B)および成分(II)と成分(III)の共重合体からなる親水性領域(C)を有し、前記中間領域(B)の領域(A)に対する体積割合が、5〜40%、特に8〜25%、である共重合体からなることが好ましい。上記割合が5%未満であると、本発明のコンタクトレンズの特徴とする力学的特性(弾性率)のバランスが損なわれ、40%を超えると親水性領域(C)の比率が、相対的に減少することから、柔軟性及び含水量が低下し、力学特性のバランスに欠けるもの、となるおそれがある。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに具体的に説明する。以下の記載を含めて、本明細書に記載の特性値は、以下の方法による測定値に基づくものである。
[密度]
重合前の原料成分および混合液の密度[g/cm](=1000kg/m)は、JIS Z8804:2012準拠して、また電子密度算出のための個々の重合体の密度[g/cm](=1000kg/m)測定は、JISZ8807:2012に準拠して測定した。
【0053】
[粘度]
重合前の原料混合液の粘度[Pa・s]は、JISZ:8803に従い、液体流下速度が200秒以上となる番号(例えば実施例1については200番)の細管粘度計(キャノンフェンスケ型、柴田化学機械工業(株)製)を用いて動粘度[mm・s]を測定し、得られた動粘度値に密度を乗じて、20℃の粘度を求めた。
【0054】
[撹拌レイノルズ数Re]
化学工学便覧(改定六版)(丸善(株)発行、1999年11月)第424頁に記載の下記式により計算した。
Re[−]=ndρ/μ・・・(1)
ここで、n:撹拌翼回転数[1/s]、d=撹拌翼径[m]、ρ=被撹拌液密度([kg/m])、μ=被撹拌液粘度([Pa・s])
例えば、後述の実施例1については、撹拌翼のn=5rps、d=0.15m、重合原料液のρ=1010[kg/m]、μ=0.047[Pa・s]から
Re=(5.0)(0.15)(1010)/0.047=2.4×10
と計算された。
【0055】
[撹拌動力]
2枚平パドル翼の撹拌動力測定に基礎を置く、永田らの研究に基づく下式(2)(非特許文献2〜4参照)により、撹拌動力数Np[−]を求めた。
Np=A/Re
+B((10+1.2Re0.66/(10+3.2Re0.66))
・(H/D)(0.35+b´/d)・(sinθ)1.2・・・(2)
ここで、D:撹拌槽内径[m]、H:被撹拌液深さ[m]、b´:修正撹拌翼幅[m]=(nb)/2(n:撹拌翼枚数[−]、b:撹拌翼幅[m])、θ:撹拌翼角度[°]、A、B及びpは、実験的に求められた(2)式の定数であり、下式で整理される。
【数1】
【0056】
後記実施例及び比較例で用いたθ=90°の2枚(n=2)平羽根パドル翼の場合には、b´=nb/2=2b/2=b、(sinθ)1.2=1となり、上記(2)式は、下記(2a)式に帰着する。またD=0.295mの円筒槽に深さH=約0.29mで収容した原料液20L(0.02m)を撹拌した実施例1の場合には、(1)式で求められたReを代入して、Npは、以下のように計算された。
Np=A/Re
+B((10+1.2Re0.66/(10+3.2Re0.66))
・(H/D)(0.35+b/d)・・・(2a)
【数2】
したがって、
Np=33.38/2.4×10
+1.22((10+1.2Re0.66/(10+3.2Re0.661.51
・(H/D)(0.35+b/D) ・・・(2a)
=0.85
これより、容積v=0.02[m]の原料液単位容積(体積)あたりの撹拌動力Pvは以下のように計算された。
Pv=P/v=Np・ρn/v=0.85×1010×5
×0.15/0.02=8.19/0.02=407W/m
更には、撹拌時間20分(=1200秒)間における原料液単位容積あたりの撹拌エネルギーQvは以下のように計算された。
Qv=Pv×t=407×1200/1000=489kJ/m
【0057】
[撹拌後の原料液の外観評価]
撹拌後30分間静置した原料混合溶液5mLを10mLの透明ガラス容器に分取し、下記の観察を行った。
<気泡評価>
目視により、以下の判断基準で評価した。
A:容器内の気泡は、5個以下であった。
B:容器内の気泡は、50個以下であった。
C:カウント不可能な多数の気泡が存在した。
【0058】
<ゆらぎ評価>
判定員5人の目視評価に基づき、以下の基準で評価した。
A:全員が、均一な溶液であると判断した。
B:5人中1名または2名が、光学的不均一性を認めると判断した。
C:全員が、光学的不均一性を認めると判断した。
【0059】
[小角X線散乱測定]
散乱ベクトルq(=(4π/λ)・sinθ)=0.1〜2[1/nm]の範囲で小角X線散乱強度を測定した。qは、使用した各種X線ビームラインについて共通して測定した65.3nmの周期構造を有する鶏の腱コラーゲン(Chicken Tendon Collagen)により較正した。(参考: 非特許文献1の第207頁、第252頁。)
【0060】
上記参考文献に記載される通り、小角X線散乱測定は高分子材料の高次構造解析の手法の一つであり、相分離構造からの小角X線散乱強度は各相分離ドメインの電子密度差によって決定される。電子密度は、試料の単位体積当たりの電子数であり、各相分離ドメインの密度から計算により求められる。
【0061】
<撹拌後の原料混合液の小角X線散乱強度>
後記実施例及び比較例で得られた撹拌後且つ重合前の原料混合液については、それぞれの約0.06mLを一対の厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製「カプトン50H」に挟持して適宜試料を重ねる等の処置を施し、厚さ0.2mmに保持した試料に直角にX線を入射させて、小角X線照射散乱測定を行った。測定は、佐賀県立九州シンクロトロンのBL11(波長λ=0.1127nm,エネルギー:11keV)およびあいちシンクロトロン光センターのBL8S3(波長λ=0.15nm,エネルギー:8.26keVのX線散乱用ビームラインを用いて行った。
【0062】
実施例1及び比較例1で得られた撹拌後且つ重合前の原料混合液について、散乱ベクトルq=(4π・λ)sinθ(ここで、λ:照射X線波長、2θ:散乱角)=0.1〜2[1/nm]の範囲で測定した散乱強度測定値のプロットを図1に示す。比較例1においては、q=0.17[1/nm]に相当する約40nm程度の相分離ドメインの存在が顕著に認められる。以下の、実施例及び比較例においては、q=0.17[1/nm]における比較例1の散乱強度を1とした相対散乱強度比を、重合前原料混合液の均一性の尺度として記録した。
【0063】
<共重合体における中間領域(B)の体積%>
実施例、比較例等で注型重合により成形し、リン酸緩衝剤を含む保存液中で高圧蒸気滅菌を施した直径14mm、厚さ約0.1mmのレンズ相当形状の共重合体試料を、その内部の相分離構造を解析するために、水、メタノール並びにこれらの割合の異なる混合液からなる複数の高極性溶媒、より具体的には、水/メタノールの容積比が、(1)100/0、(2)90/10、(3)80/20、(4)70/30、(5)60/40、(6)50/50、(7)40/60、(8)30/70、(9)20/80、(10)10/90および(11)0/100 、である11種の極性溶媒(使用量は共重合体の飽和膨潤を妨げない量)、にそれぞれ浸漬して所定の溶液に溶媒置換した重合体試料11種について、それぞれ小角X線照射散乱測定を行った。測定中に溶媒が蒸発しないように、膨潤重合体試料を、一対の厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製「カプトン50H」)に挟持して保持したものを小角X線照射散乱測定試料とした。測定は、高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 放射光科学研究施設(Photon Factory PF)の BL6A,BL9C 、及び公益財団法人高輝度光科学研究センターが運営する大型放射光施設(SPring8)の BL40B2のX線散乱用ビームラインを用い概ね以下の条件で行った。
【0064】
使用したシンクロトロン加速X線は、波長0.1nm及び0.15nm(エネルギー12.4keVと8.26keV)を適宜使用し、膨潤体試料の中央部約200μmに直角に入射させ、試料から2〜3m離れた検出器で、散乱光子数をカウントした。
【0065】
後記実施例1及び比較例1で得られた共重合体について、直径14mmm、厚さ約0.1mmのコンタクトレンズ形状の成形体を、それぞれ上記11種の溶媒で膨潤して得られた試料(膨潤体(1)〜(11))について、散乱ベクトルq=0.1〜1.3 [1/nm]の範囲で得られた小角X線散乱強度プロファイルを図2および3に示す。
実施例1で得られた共重合体について、上記で得られたデータを用いて、共重合体中の中間領域(B)の体積割合を求めた過程を、以下に説明する。
【0066】
このような領域計算は、上述したように本願発明者らの小角X線散乱分析およびSTEM(操作型透過電子顕微鏡)のEDS分析(エネルギー分散型スペクトル分析)を用いた微細構造解析により、上記成分(I)〜(III)の共重合により得られたシリコーンハイドロゲル共重合体は、
領域(A);マクロモノマーからなる水やメタノールをほとんど含まない領域
領域(B);領域Cと構成成分が同様であるが、領域Aの影響を受け溶媒を含み難い領域
領域(C);モノマー成分から構成される、水やメタノールを含み溶媒和する領域
からなるとの知見に基づく。このようにして確認されたシリコーンハイドロゲル共重合体の微細構造は、図4に示すような、領域Cと領域B(A)(すなわち、領域Bで被覆された領域A)が共連続構造を示す、コアシェルシリンダーモデルで近似できる構造と推定される。
【0067】
相分離構造からの小角X線全散乱強度Qは各相分離ドメイン間の電子密度差の2乗と各ドメインの体積分率との積によって決定される。より具体的には、領域A,BおよびC、の3種の相分離領域(ドメイン)を含む相分離構造体からの小角X線散乱強度Qは、次式(3)(非特許文献5の第5446頁の式(7)に相当)の比例関係を満たす。
Q=2π・(ΔρAB2・φAφB+(ΔρAC・φAφC
+(ΔρBC・φBφC ・・・ (3)
ここで、ΔρAB;領域Aと領域Bの電子密度差
ΔρAC;領域Aと領域Cの電子密度差
ΔρBC;領域Bと領域Cの電子密度差
φA;領域Aの体積分率
φB;領域Bの体積分率
φC;領域Cの体積分率。
【0068】
上記のように、メタノール含有率の異なる多種の水/メタノール混合溶媒により膨潤された重合体試料の散乱強度プロファイルを求めるのは、溶媒中のメタノール含有率の変化による領域(c)の選択的膨潤度の変化に伴う実測散乱強度プロファイルの変化を確認し、領域(B)/領域(A)体積比χを変化させて上記(3)式により複合電子密度、したがって、これに比例する散乱強度プロファイルを計算した結果と、実測された散乱強度プロファイルとを対比し、これらが一致するχを以て、目的の領域(B)/領域(A)体積比χを決定するためである。
【0069】
電子密度は試料の単位体積当たりの電子数であり、各相分離ドメインの密度から計算により求められる。より具体手的には、アボガドロ数をN(=6×1023)として、各ドメインを構成する物質X(式量:Mx、質量密度:ρmx,1モル中の電子数(=構成原子番号の総和):Nx)の電子密度ρex[N/cm]は次式で定まる。
ρex=ρmx×Nx/MX・・・(4)。
したがって、例えば上記の溶媒を構成する水およびメタノール並びに後記の実施例1で用いられる物質の電子密度ρe[N/cm]は、式料及びNxと、密度又は各々の単独重合体の密度から以下のように求められる。
・水(式量:18、密度:1.00、Nx=10):ρew=0.556、
・メタノール(式量:22、密度: 0.79、Nx:18):ρem=0.445、
・マクロマーa(ポリジメチルシロキサン単位として式量:74.16、密度:0.96、Nx=40):ρema=0.518
・ポリTRIS−MA(式量:423、密度:0.953、Nx:230):ρet=0.517
・ポリNMMP(式量:111、密度:1.20、Nx:60):ρen=0.649。
【0070】
実施例1においては、成分(I)マクロマーaを40質量部(領域(A)形成成分)、成分(II)NMMPを40質量部、成分(III)TRIS−MAを20質量部の割合で用いるため、これらの乾燥時の体積分率は、モノマー成分から構成される重合体中に占める各成分比(仕込み重量×モノマー密度)として見積もり、0.4023:0.3945:0.2032となり、また領域(B)および(C)を構成する、NMMP・TRIS−MA重合体の複合電子密度は、(0.649×0.40+0.517×0.20)/(0.40+0.20)=0.604となる。
【0071】
これらデータを基にして、実施例1の共重合体から得た膨潤重合体試料(1)〜(11)について行った、複合電子密度の計算過程を、末尾の表1に示した。
表1の計算過程及びこれを含む中間領域(B)/疎水性領域(A)体積比χ、の決定方法を以下、順次説明する。
【0072】
膨潤体(1)〜(11)の各々について、以下の操作および計算を行った。膨潤体(1)についての過程を以下に順次説明する。
I.膨潤後の直径を膨潤前の直径で除して一次元膨潤率を求め、これを3乗して、体積膨潤率=1.482を求める。
II.膨潤体中の領域Aの体積分率φAを、マクロモノマーaの乾燥時の体積比(=0.4023)/1.482=0.2715として求める。
III.膨潤体中の領域Bの体積分率φBを、領域B/領域A体積比κを仮定して計算する。κを増減しつつ、以下の全散乱強度に相当する複合電子密度を計算して、実測散乱プロファイルに基づく積分散乱強度と一致するする三領域複合電子密度を与える体積比κ=φA/φBを決定するのが、本シミュレーション計算の概要である。表1中においては、このような計算の結果として確定したκ=0.118を用いて、以下の計算を行った一連の値を表示してある。すなわち、表1において、φB=φA(=0.2715)×κ(=0.118)=0.0320となる。
IV.上記結果に基づき領域Cの体積割合φCを、1−φA−φB=0.6965として求める。
V.領域C内の溶媒の体積分率φC溶媒を、1−1/体積膨潤率(=1.482)=0.3252として求める。
VI.領域C内のポリマーの体積分率φBポリマーを、φC(=0.6965)−φC溶媒(=0.3252)=0.3712として求める。
VII.上記V.およびVI.の結果より領域C内のポリマーと溶媒を、両者の割合の合計が1となるように分配すると、0.3712/(0.3712+0.3252)=0.5330および0.3252/(0.3712+0.3252)=0.4670となる。
VIII.したがって、領域Cの複合電子密度は、領域C(及びB)を構成するNMMP・TRIS−MA重合体の複合電子密度が0.604であり、水/メタノール(100/0)溶媒の複合電子密度が0.554であるから、0.604×0.5330+0.554×0.4670=0.5807となる。
IX.マクロモノマーaの構成する領域Aの電子密度ρeA=0.518および体積分率φA=0.2715、NMMP・TRIS−MA重合体の構成する領域Bの複合電子密度ρeB=0.604及び上記III.で求めた体積分率φB=0.0320ならびに上記V.及びVIII.で求めた領域Cの電子密度ρeC=0.5807および体積分率φC=0.6965を上記(3)式に代入すると、全散乱強度Qに相当する三領域複合電子密度Qcは次式で求まる。
Qc=2π2・(ΔρAB2・φAφB+(ΔρAC・φAφC+(ΔρBC・φBφC
=19.72×(0.518-0.604)2×0.2715×0.0320+(0.518-0.5807)2×0.2715×0.6965+(0.604-0.5807)2×0.0320×0.6965
=19.72×{0.007396×0.008688+0.00393×0.1890+0.000497×0.0223}
=19.72×{0.0000643+0.007428+0.0000111}
=19.72×0.000818=0.0162
上記により水/メタノール(100/0)溶媒で膨潤させた膨潤体試料(1)の三領域複合電子密度は、0.0162と計算される。
【0073】
X.上記の計算を、同一のκ(表1では、0.118)を維持して、水メタノール比率が異なる膨潤体(2)〜(11)について繰り返すと、表1の右から第2列に記載した仮定したκ値(=0.118)における複合電子密度値の集合が得られるので、これらを、最大である膨潤体試料(1)の値で除して、規格化したものが、表1最右列の規格化電子密度である。
【0074】
XI.上記の表1に示す値は、最終的に決定されたκ=0.118についての計算結果であるが、仮定したκの値に基づく当初計算においては、当然にこれとは異なる電子密度規格値Qci(i=1〜11)の集合が得られるに過ぎないので、図2に示す実測小角X線散乱プロファイルと照合して較正する必要がある。このためには、図2に示す散乱強度Iqを次式(4)(非特許文献5第5447頁の式(9)に相当)に従い積分する。
【数3】
積分結果を末尾の表3に示す。
さらに上記の積分値を、最大である膨潤体(1)の積分値に対する相対値として規格化したのが表3の最右列に示す規格化積分値Qmi(i=1〜11)である。
【0075】
XII.次いで、領域(B)/領域(A)体積比κを増減しつつ、上記表1の計算を繰り返し、
Σ(Qmi−Qci) (i=1〜11)
を最小とするκの値を領域(B)/領域(A)体積比κとして求める。上述したように、このようにして得られたκ=0.118を基にして一連の計算を行った結果を表1に示す。
【0076】
上記した表1の最右列に示す規格化電子密度計算値Qci及び表3に示す規格化積分値Qmiのプロットを図5に示す。両者間の極めて良好な一致が認められ、図4に示すようなコアシエルシリンダーモデルの正しさ、ならびにこれに基づく表1を参照して説明したようなA,BおよびCの三領域複合電子密度および領域(B)/領域(A)体積比κの計算過程の正しさが証明されたと考えられる。
【0077】
後記するように、上記実施例1と全く同じ原料混合物を用い、注型重合前の撹拌条件を変更する以外は全く同様な比較例1の製造条件で製造したレンズ相当形状のシリコーンハイドロゲル重合体試料についても、同様に領域(B)/領域(A)体積比κの算出試験を行った。表2は、決定されたκ=0.04に対応して得られた計算結果の一覧を示す。また図3に示す比較例1の実測散乱プロファイルの積分値および規格化積分値を末尾の表4に示す。さらに表2の最右列に示す規格化電子密度計算値Qci及び表4に示す規格化積分値Qmiのプロットを図6に示す。両者間の極めて良好な一致が認められ、比較例1においても、図4に示すようなコアシエルシリンダーモデルの正しさ、ならびにこれに基づくA,BおよびCの三領域複合電子密度および領域(B)/領域(A)体積比κの計算過程の正しさが証明されたと考えられる。
【0078】
[レンズ成形体の評価]
後記実施例及び比較例で得られたレンズ成形体(直径14mm、中心厚さ0.08mmのコンタクトレンズ形状)を、抽出、水和およびリン酸緩衝剤を含む保存溶液中で滅菌処理した後、リン酸緩衝剤を含む保存溶液とともにレンズ容器中で1日間以上保存したものについて、以下の評価を行った。
【0079】
<<外観評価>>
容器から取り出したレンズを肉眼で観察した。
【0080】
<外観(透明性)>
5人の判定員による目視判定の結果に基づき、以下の基準で評価した。
A:5人全員が、レンズは透明であると判断した。
B:5人中3名以上が、レンズは微白濁を呈し、光学製品としての使用は困難と判断した。
C:5人中全員が、レンズは白濁を呈し、光学製品としての使用に耐えないと判断した。
【0081】
<外観(気泡混入)>
10枚のレンズ試料についての目視判定の結果に基づき、以下の基準で評価した。
A:気泡の混入したレンズは、1枚以下であった。
B:気泡の混入したレンズは、4枚から6枚であった。
C:すべてのレンズに気泡の混入を認めた。
【0082】
[感触]
得られたレンズ試料を手指で挟んだ際の感触を、5人の判定員が確認した結果に基づき、以下の基準で評価した。
A:5人中全員が、シリコーンを含まないハイドロゲルレンズと同様の柔軟性を示すと判断した。
B:5人中3名以上が、ハイドロゲルレンズより硬いと判断した。
C:5人中全員が、ソフトレンズとして使用した場合、装用時に眼球表面をこすり、傷をつけてしまう固さであると判断した。
【0083】
[酸素透過係数]
理化精機工業(株)社製、製科研式フィルム−酸素透過率計を使用して、ISO18369-4:2006(E)に記載の電極法に準拠した、35℃の生理食塩液中でレンズの電流値を測定した。
詳しくは、米国FDA編登録名:「asmofilconA」((株)メニコン製;非特許文献6に記載の方法により測定したDk値(厚さ無限大への外挿値):129×10-11(cm2 / sec)・(mLO2 / mL×mmHg)、レンズ直径(Dia):14.0mm、ベースカーブ(BC)8.60mm、度数(P)-3.00、中心厚み(CT)0.08mm、)を基準レンズとして使用し、実施例及び比較例で形成した同一形状の試料レンズについて、生理食塩水中の酸素透過量に比例する電流値を測定した。測定時の大気圧を確認の上、得られた基準レンズ並びに試料レンズについての電流値(IW及びIS)より、以下の式から試料レンズの酸素透過係数Dk値(単位: ×10-11(cm2 / sec)・(mLO2 / mL×mmHg)を求めた。
Dk=W×(IS/IW)×(TS/TW)×(PW/PS)
W :基準レンズのDk値(=129×10-11(cm2 / sec)・(mLO2 / mL×mmHg))
IS :試験レンズの電流値(μA)
IW :基準レンズの電流値(μA)
TS :試験レンズの厚み(mm)<0.08mm>
TW :基準レンズの厚み(mm)<0.08mm>
PS :試験レンズ測定時の大気圧(mmHg)
PW :基準レンズ測定時の大気圧(mmHg)。
【0084】
なお、Dk値は、コンタクトレンズによる酸素の目への供給遮断を緩和するためのレンズを通した酸素の透過能力を示すものであり、一般に終日装用であっては、24×10-11(cm2 / sec)・(mLO2 / mL×mmHg)以上、連続装用も可能とするために、レンズ中心厚みを汎用ソフトコンタクトレンズの0.08mmであると仮定した場合、56×10-11(cm2 / sec)・(mLO2 / mL×mmHg)以上、更には69.6×10-11(cm2 / sec)・(mLO2 / mL×mmHg)以上であることが好ましい、とされている。
【0085】
[破断弾性率の測定]
25℃の恒温室中において、レンズ状成形体試料についての破断特性(弾性率)測定装置における試料配置状態を示す模式断面図である図7に示すように、レンズ試料より若干小さい直径Do(=9.7mm)を有するOリングO1を上端縁に配置した円筒状試料固定用セルBに生理食塩液を満たし、ベースカーブBC(mm)をあらかじめ測定したレンズ試料CをセルBのOリングD1上に載置し,更に同じ直径Doを有するOリングO2を下端に設けたホルダーH(セルBの上側半分)で押圧してレンズ試料Cを固定し、更に試料C上に生理食塩液約0.05mLを滴下することで、試料Cを生理食塩液環境に置いた。このように試料Cを固定したセルBを昇降型強度試験機(島津製作所製「AG−IS MS型」)に設置した。この状態で試験機のモーターをオンにし、直径1/16インチの先端部PTを有する押圧針Pを、試料Cの中央部へ向けて20mm/minの速度で下降させて(図7)、押圧針先端部PTの位置およびこれから試料Cへ加えられる荷重の変化の測定・記録による三次元破断特性評価を行った。
【0086】
なお、弾性率測定に先だって、20℃に調節された生理食塩液中でのレンズのBC(ベースカーブ、すなわちレンズの凹面側曲率半径)を、コンタクトレンズアナライザー(オプティメック社、JCF/TCU型)を用いて、ISO18369−3,2006に従って測定した。
図7の装置により測定される弾性率は、レンズの凹面側単位表面積あたりに印加される荷重(レンズへの変形応力)を、その荷重印加により起こされるレンズの歪み(−)で除して得られる値であり、下式により求めるものである。
弾性率(mN/mm2
=((荷重(N)/レンズ表面積(mm2))/レンズ歪み)×1000
=((応力(N/mm2)) /レンズ歪み)×1000・・・(5)
ここで、図7で示されたレンズCの測定中における変形状況を説明するための模式図である図8を参照して、射影で示したレンズCの表面積は、上記ベースカーブBC、Oリング直径Do及びレンズ内面への初期接触時の押圧針Pの先端位置h1(=(BC)−{(BC)−(Do/2))}1/2)を用いて、球体の部分表面積計算として下式により求められる。
レンズ表面積(mm)=2×π×(BC)×h1
=2×π×(BC)× {(BC)-((BC)2-(Do /2)2)1/2) }・・・(6)
また歪みは、レンズの径方向長さの荷重印加時の値pと初期値qとの比として、荷重印加時の押圧針Pの荷重印加時の先端位置h2を含めて、以下の式により計算される。
レンズ歪み=p/q={(Do/2)2+(h1+h2)2} 1/2/ {(Do/2) 2+h12) } 1/2・・・(7)
【0087】
<破断弾性率>
試料破断時の荷重(N)と押圧針の先端位置変化h2とから、上記(7)式により歪みを計算し、更に(6)式による表面積を(5)式に代入して変形した以下の式(5a)を用いて、破断時の弾性率を算出した。
破断弾性率(mN/mm2
=((破断時荷重(N)/レンズ表面積(mm2))/破断時の歪み)×1000・・・(5a)
【0088】
<初期弾性率>
上記した破断弾性率測定時のチャートから、(7)式により0.1N加重時のレンズ歪みを算出し、荷重(0.1N)、0.1N荷重時の歪み及び上記で求めたレンズ表面積を用いて、初期弾性率を算出した。
初期弾性率(mN/mm2
=((荷重(0.1N)/レンズ表面積(mm2))/0.1N荷重時の歪み)×1000
この初期弾性率は、コンタクトレンズ装用時において、眼瞼圧(0.1N)の負荷がレンズにかかった際に示す素材特性を示す指標となり、一般に、0.1〜0.5N/mm程度が適当とされる。
【0089】
<弾性率比>
上記で求めた破断弾性率と初期弾性率の比として、次式により弾性率比が求められる:
弾性率比=破断弾性率/初期弾性率。
本発明によるコンタクトレンズは、この弾性率比が0.8〜1.2と、1に近い値を持つことが一つの特徴である。これは、初期弾性率と破断弾性率が近い値を示し、応力緩和が一定レベルにある力学特性を持つことを意味する。コンタクトレンズのようなポリマーが変形する場合、その初期の力学挙動と破断時の力学挙動が等しいことは、すなわちレンズ中のポリマーが均質であることを示す。一般的なコンタクトレンズにおいては、変形初期の弾性率は小さくとも、変形量が大きくなった場合には不均一な架橋点間のポリマーが部分的に伸びきることで、初期に比較して大きな弾性率を示す場合がある。一方、初期時に、不均一部の中でも、架橋密度の高い部位の特性が発揮された場合、初期弾性率に比し、破断時の弾性率が小さくなる。これら外観上透明で均一なコンタクトレンズ用の材料であっても、初期弾性率、破断弾性率という観点でみると、様々な特性を有するコンタクトレンズが存在し、この両者の比を求めることでその均一性の指標とできる。
【0090】
因みに、このようにして得られる本発明の実施例に相当する上記特性を示すレンズの荷重―ひずみ曲線は模式的に図9に代表され、後記比較例1及び4のレンズの荷重―ひずみ曲線は、それぞれ図10および11で代表されるものと解される。
【0091】
<応力緩和係数>
弾性率測定と同様に試料を設置し、押圧針Pを下降させ、レンズ試料Cと接触させて、約0.1N/mm2の応力(初期応力)が加わった時点から、押圧針Pをその位置に1分間保持するプログラムを稼働し、30秒経過後の応力を測定した。以下の式を用いて応力緩和係数を算出した。
応力緩和係数(%)=(A−B)/A×100
A:初期応力(=0.1N/mm2
B:保持後30秒後の応力(N/mm2
この応力緩和係数は、
8%以下の場合、レンズの反撥感が強く、レンズ装用時の装用感の悪さ、更には前眼部障害につながる恐れがある。一方、25%以上の場合、レンズの戻りが悪く、装用時の瞬目によるレンズの変形が残存しやすく、開瞼後の視界の回復の遅延につながる。
そのため、一般に8〜25%の範囲内が好ましいと考えられる。
【0092】
<<原料>>
後記の実施例及び比較例においてレンズ製造原料として以下に略称で示す化合物を用いた。
【0093】
[成分(I)]
本願発明の成分(I)に相当するマクロモノマーa〜dを以下のようにして製造した。
(マクロモノマーaの製造)
(1)反応槽へ、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIと記す)2223.0g、触媒として鉄(III)アセチルアセトナート1%/アセトニトリル溶液19.2g、n-ヘキサン1496.0gを入れ、バス温度70℃設定で攪拌を開始した。両末端水酸基化ジメチルシロキサン(重合度40、水酸基当量1560g/モル、信越化学工業(株)製KF−6002)9656.9gを4回に分けて添加し、最後の添加後に70℃のまま2時間攪拌して反応させ、冷却した。
液温が55℃以下となったら、2−ヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEAという)1626.0g、鉄(III)アセチルアセトナート1%/アセトニトリル溶液38.5g、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール(以下、MEHQという)8.13gを反応層に添加した。反応熱による昇温が安定し、液温50℃で60分攪拌して反応させたら、バス温を70℃に設定し、適宜サンプリングを実施した。FT/IR測定により、原料中のN=C=O基に基づくピーク(2230-2320cm-1)の消失度合から、反応の終点を判断した(液温が70℃となってから約3時間反応を継続した)。
【0094】
反応層を冷却し、n-ヘキサン約28kg、アセトニトリル12kgを加えて希釈しながら、内容物を抽出層に移送した。抽出層の液を攪拌し、室温で1時間放置し、アセトニトリル層とマクロモノマー/n―ヘキサン層の分離を目視で確認し、アセトニトリル層を排出した。その後、約9kgのアセトニトリルを加えて攪拌し、室温で1時間放置し、アセトニトリル層とマクロマー/n―ヘキサン層の分離を目視で確認し、アセトニトリル層を排出した。最終的に得られたn-ヘキサン層を回収し、30℃、15kPaの減圧度下で濃縮した。最終的には10kPaで一晩濃縮し、わずかに黄味を有する粘ちょう透明液体であり、数平均分子量が6,300のマクロモノマーaを得た。(収率80%)。
精製後のマクロモノマーaは以下のようにキャラクタライズされた。
1H−NMR(CDCl3、δppm)
0.06(Si−CH3,3H,m)
0.52(Si−CH2,2H,m)
2.91(NH−C2,2H,d)
3.42(−O−CH2,2H,t)
3.61(−O−CH2,2H,m)
4.18〜4.34(−(O)CO−CH2−,6H,m)
4.54(NH,1H,s)
4.85(NH,1H,s)
5.84(CH=,1H,dd)
6.14(CH=,1H,dd)
6.43(CH=,1H,dd)
FT/IR(cm-1
1262および802(Si−CH3
1094および1023(Si−O−Si)
1632(C=C)
1728付近(C=O、エステルおよびウレタン)
【0095】
なお、1H−NMR分析、FT/IR分析、は、それぞれ以下の方法にて行なった。
(イ)1H−NMR分析:フーリエ変換核磁気共鳴装置(NMR):Varian社製、GEMINI2000/400BB型。
測定核種:1H(共鳴周波数400.42MHz)
溶媒:CDCl3試験試料:約5〜10w/v%CDCl3
溶液測定温度:約22℃
(ロ)FT/IR分析:
赤外吸収スペクトル装置(IR):日本分光(株)製、FT/IR−8300
方法:液膜法(KBr板を使用)
(ハ)SEC分析:
SEC装置:日本分光(株)製
カラムオーブン:日本分光(株)製、860−CO
デガッサー:日本分光(株)製、DG−980−50
ポンプ:日本分光(株)製、PU−980
検出器(RI型、UV型):日本分光(株)製、830−RI(RI型)
カラム:Waters社製、Ultrastyragel Plus MX 103Å(2本を直列に接続)
移動相:テトラヒドロフラン検量線:標準ポリスチレンを用いて作成。
【0096】
(マクロモノマーbの製造)
両末端水酸基化ジメチルシロキサン(重合度60、水酸基当量2330g/モル、信越化学工業(株)製KF−6003)を用いるほかはマクロモノマー(a)と同様に合成・精製を行った。こうして得られたマクロモノマーbはわずかに黄味を有する透明液体であり、数平均分子量は7,700であった。
【0097】
(マクロモノマーcの製造)
触媒として鉄(III)アセチルアセトナート、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール、および溶媒としてn-ヘキサンの存在下、イソシアナートエチルメタクリレートおよび両末端水酸基化ジメチルシロキサン(重合度20、水酸基当量920g/モル、信越化学工業(株)製KF−6001)を添加し加熱攪拌した。このように合成された粗生成物を、n−ヘキサンとアセトニトリルにて抽出・洗浄し、n−ヘキサン層を回収して、減圧下にて有機溶媒ならびに低分子化合物を留去した。こうして得られたマクロモノマーcは淡黄色透明液体であり、数平均分子量は3,400であった。
【0098】
(マクロモノマーdの製造)
イソホロンジイソシアネート(以下IPDIと記す)222.3g、触媒としてトリエチルアミン(TEDA)6.85gを入れ、バス温度40℃設定で攪拌を開始した。両末端水酸基化ジメチルシロキサン(重合度40、水酸基当量1480g/モル、信越化学工業(株)製KF−6002)2065gを4回に分けて添加し、最後の添加後に40℃のまま16時間攪拌して反応させ、冷却した。2−ヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEAという)66.2g、TEDA0.20gを反応層に添加したほかはマクロモノマー(a)と同様に合成・精製を行った。こうして得られたマクロモノマーdは淡黄色透明液体であり、数平均分子量は13600であった。
【0099】
[成分(II)]
以下の略号で示す化合物を用いた。
NMMP:1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン (式量:111、重合体密度:1.20、ρe(電子密度):0.649)
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド(式量:99、重合体密度:1.14、ρe:0.62)
GMA:グリセロールメタクリレート(式量:160、重合体密度:1.19、ρe:0.64)
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート(式量:116 、重合体密度:1.15、ρe:0.615)
N−VP:n−ビニルピロリドン(式量:111、重合体密度:1.17、ρe:0.63)
【0100】
[成分(III)]
以下の略号で示す化合物を用いた。
TRIS−MA:トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート(式量:423、重合体密度:0.95、ρe:0.518)
TRIS−A:トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルアクリレート(式量:409、重合体密度:0.95、ρe:0.52)
DI-GMA:メチルジ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリルメタクリレート(式量:423、重合体密度:1.19、ρe:0.64)
2−MTA:2−メトキシエチルアクリレート(式量:130 、重合体密度1.12、ρe:0.602)
【0101】
[その他成分]
少量で用いられる機能成分として、以下の略号で示す化合物を用いた。
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート (架橋剤)
HMPPO:2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン (光重合開始剤)。
また、実施例7では、n-BuOH(n-ブタノール)を溶媒として用いた。
【0102】
(実施例1)
マクロモノマーa40部、NMMP40部、TRIS−MA20部、EDMA0.4部およびHMPPO0.4部からなり、密度ρ=1010kg/m3、粘度μ=0.047Pa・sの原料液20Lを、内径D=0.295mの円筒槽に深さH=約0.29mで入れ、翼径d=0.15m、幅b=0.03m、翼数n=2の平羽根パドル翼により回転数n=5rpsで20分間撹拌して重合原料液Iを調製した。
重合原料液Iの組成を、以下の実施例及び比較例で用いた重合原料液II〜Xとともに後記表5にまとめて示す。
【0103】
上記で得られた重合原料液Iを、コンタクトレンズ形状を有する鋳型(ポリプロピレン製、鋳型サイズは、水和処理後、直径14mm及び中心厚さ0.08mm及びベースカーブBC=8.60mm))内に注入し、次いで、この鋳型に高圧水銀ランプ(2kW)を使用してUV光を20分照射して光重合を行った。重合後、鋳型から取り出してコンタクトレンズ形状、あるいはフィルム形状の重合体を得た。当該重合体を蒸留水に浸漬し平衡となるまで膨潤させた後、リン酸緩衝剤を含む溶液中で高圧蒸気滅菌(121℃、20分)した。
【0104】
得られたコンタクトレンズ形状の成形体について、上記した各種特性評価を行った。
上記実施例1の概要ならびに評価結果を、以下の実施例、比較例とともに、まとめて、後記表6に示す。
【0105】
(実施例2〜10および比較例1〜4)
原料液組成および撹拌条件を表6に記載するように変更する以外は、実施例1と同様にして、重合原料液を調製し、引き続き実施例1と同様に、重合、レンズ状成形体の製造および評価を行った。
なお、溶媒としてn-ブタノールを含む原料混合物を使用した実施例7については、水和後に他の実施例等と同一寸法となる寸法の型を用い、重合後の成形体については、エタノールにて一旦膨潤させた上で蒸留水に浸漬し、平衡となるまで浸漬させ、更に、リン酸緩衝剤を含む溶液中で高圧蒸気滅菌を行った後、各種評価に供した。
【0106】
上記実施例及び比較例の概要及び結果をまとめて後記表6に示す。
【産業上の利用可能性】
【0107】
後記表6によれば、本発明に従い、特定の成分(I)、(II)および(III)を含む原料混合液を撹拌動力で代表される制御された条件下で撹拌した後、注型重合してられた共重合体は、疎水性領域(A)と親水性領域(C)の間に、親水溶媒と溶媒和しない中間領域(B)が発達して存在しており、これから得られるコンタクトレンズは、透明性、高い酸素透過係数に加えて、感触評価および適度の初期弾性率で代表される柔軟性と、適度の破断弾性率、初期弾性率および応力緩和係数に加えて、特に本発明の特徴とする弾性係数比(=破断弾性率/初期弾性率)=0.8〜1.2が理想的に達成されていることがわかる。
【0108】
これに対し、同様な成分を含むが低い撹拌動力条件で得られた原料混合液は目視にては均一であっても、その注型重合を経て得られた共重合体においては、破断弾性率が低く、弾性係数比も顕著に低下しており、図10に示すような荷重―ひずみ変化特性を示すものと解される(比較例1)。
【0109】
他方、撹拌動力が過大な比較例3においては、撹拌後の原料混合液に気泡が生成し、30分間の静置後、注型ならびに重合を行った場合にも得られるコンタクトレンズに気泡の残留が認められた。また、得られたコンタクトレンズの気泡部位を避けて測定した中間領域(B)の体積割合ならびに力学特性はいずれも正常値を示したが、総合的にコンタクトレンズ製品としての市販は不可と判定された。
【0110】
また、成分(III)を含まない原料液組成Xを用いた比較例4においては、3.89×10という適正な撹拌条件で得た原料液を注型重合した場合にも、生成した共重合体における中間領域(B)の領域(A)に対する割合が0.8%と極めて低く、対応して得られるコンタクトレンズにおいて初期弾性率に比べて破断弾性率が高く、弾性係数比は2.5と極めて高くなっている。これは、瞬目時に異物感を感じたり、それが原因となって角膜上皮障害の原因となったり、レンズ使用後、手指による洗浄を行う際に発生する変形が残存しやすい。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11