(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る魚釣用リールの斜視図である。この魚釣用リールは、主にルアーフィッシングに用いられる両軸受リールである。この両軸受リールは、リール本体1と、リール本体1の側方に配置されたハンドル2と、ハンドル2のリール本体1側に配置されたドラグ調整用のスタードラグ3と、を備えている。リール本体1には、釣り糸が巻かれるスプール12が回転可能に支持されている。ハンドル2を回すとスプール12を回転させて、釣り糸を巻き取ることができる。ハンドル2は、板状のアーム部2aと、アーム部2aの両端に回転自在に装着された1対の把手2bとを、有している。
【0020】
釣り糸は通常スプール12から、
図1に向かって左手前側に張られている。
図1で左手前側をリール本体1の前方、右手奥側を後方という。リール本体1の後方にクラッチ操作レバー17が配置されている。クラッチ操作レバー17を操作すると、ハンドル2とスプール12の間のクラッチを切ることができる。スプール12の前方側を取り巻くようにサムレスト10が装着されている。
【0021】
キャスティング動作によってスプール12に巻かれた釣り糸が繰り出されるとスプール12が回転する。キャスティング動作時のバックラッシュを防止するために、リール本体1の内部にスプール制動装置20が備えられている。リール本体1のハンドル2とは反対側の側面に、そのスプール制動装置20の制動力を調節する操作つまみ65が配置されている。操作つまみ65を回すことによって、スプール12の制動力を調節することができる。
【0022】
図2は、実施の形態1に係る魚釣用リールの断面図である。
図2を文字が正立する向きに見て上が前方、下が後方である。リール本体1は、フレーム5と、フレーム5の両側方に装着された第1側カバー6および第2側カバー7と、を有している。サムレスト10(
図1参照)はフレーム5の上部に装着される。フレーム5は、所定の間隔を開けて互いに対向するように配置された1対の第1側板8および第2側板9と、これらの第1側板8および第2側板9を連結する図示しない複数の連結部とを有している。
【0023】
ハンドル2側の第2側カバー7は、ねじにより第2側板9に着脱自在に固定されている。ハンドル2と逆側の第1側板8には、スプール12が通過可能な開口8aが、形成されている。ハンドル2と逆側の第1側カバー6には、ブレーキケース55が、ねじにより固定されている。
【0024】
フレーム5内には、スプール12と、レベルワインド機構15と、クラッチ操作レバー17と、が配置されている。レベルワインド機構15は、スプール12に釣り糸を均一に巻き付けるための機構である。クラッチ操作レバー17は、サミングを行う場合の親指の当てとなる。
【0025】
フレーム5の第2側板9と第2側カバー7との間には、ギア機構18と、クラッチ機構13と、クラッチ係脱機構19と、ドラグ機構21と、キャスティングコントロール機構22と、が、配置されている。ギア機構18は、ハンドル2からの回転力を、スプール12およびレベルワインド機構15に伝える。クラッチ係脱機構19は、クラッチ操作レバー17の操作に応じて、クラッチ機構13の係脱を行う。ドラグ機構21は、糸繰り出し時にスプール12を制動する。キャスティングコントロール機構22は、スプール軸16を両端で挟んで制動する。また、開口8aには、キャスティング時のバックラッシュを抑えるためのスプール制動装置20が、配置されている。
【0026】
スプール12は、例えばアルミニウム合金製であり、非磁性の電気的導電体である。スプール12は、スプール12に連動して回転する導電体ともいえる。スプール12は、筒状の糸巻胴部12bとその両端に連続する両側部に皿状のフランジ部12aを有している。スプール12は、糸巻胴部12bの内周側に一体に形成された筒状のボス部12cを、有している。スプール12は、ボス部12cを貫通するスプール軸16に相対回転しないように、例えばセレーション結合により固定されている。
【0027】
スプール軸16は、第2側板9を貫通して第2側カバー7の外方に延びている。スプール軸16のハンドル2に近い端は、第2側カバー7に形成されたボス部29に対して回転自在に、軸受35bで支持されている。スプール軸16の第1側カバー6に近い端は、ブレーキケース55の内筒部55a内で、軸受35aにより回転自在に支持されている。
【0028】
レベルワインド機構15は、第1側板8および第2側板9の間に固定されたガイド筒25と、ガイド筒25内に回転自在に配置された螺軸26と、ラインガイド27とを有している。螺軸26の端部には、ギア機構18を構成するギア28aが固定されている。螺軸26には、螺旋状溝26aが形成されている。この螺旋状溝26aには、ラインガイド27が噛み合っている。ギア機構18を介して螺軸26が回転させられることにより、ラインガイド27は、ガイド筒25に沿って往復移動する。このラインガイド27内に釣り糸が挿通される。螺軸26はスプール軸16と同期して回転するので、釣り糸がスプール12に均一に巻き付けられる。
【0029】
ギア機構18は、ギア28aと、ギア28aに噛み合うギア28bと、ドライブギア31と、ドライブギア31に噛み合う筒状のピニオンギア32とから構成される。ギア28aは前述の螺軸26端部に固定され、ギア28aに噛み合うギア28bはハンドル軸30に相対回転しないように固定される。ハンドル軸30の回転は、ギア28bおよびギア28aで螺軸26に伝達される。ドライブギア31は、ハンドル軸30に回転自在に装着され、ハンドル軸30の回転がドラグ機構21を介して伝達される。
【0030】
ピニオンギア32は、第2側板9を貫通して配置されている。ピニオンギア32は、筒状部材である。ピニオンギア32の中心には、スプール軸16が挿通される。ピニオンギア32は、スプール軸16に軸方向に移動自在に装着されている。ピニオンギア32は、
図2右端部外周に形成されドライブギア31に噛み合う歯部32aと、他端側に形成された噛み合い部32bとを、有している。歯部32aと噛み合い部32bとの間には、くびれ部32cが設けられている。
【0031】
噛み合い部32bは、ピニオンギア32の端面に形成された凹溝から構成されている。この凹溝には、スプール軸16を径方向に貫通するクラッチピン16aが嵌まり込んで係合する。ピニオンギア32がハンドル2の方に移動すると、噛み合い部32bの凹溝とスプール軸16のクラッチピン16aとが離脱して係合が解除され、ピニオンギア32の回転はスプール12に伝達されなくなる。この噛み合い部32bの凹溝とクラッチピン16aとにより、クラッチ機構13が構成される。
【0032】
クラッチ操作レバー17は、1対の第1側板8および第2側板9の間で、スプール12の後方に配置されている。クラッチ係脱機構19は、クラッチヨーク40とクラッチ操作レバー17に固定される図示しないクラッチカムを有している。クラッチ係脱機構19は、クラッチ操作レバー17の回動により、図示しないクラッチカムを介してクラッチヨーク40をスプール軸の軸芯と平行に移動させる。また、クラッチ係脱機構19は、ハンドル軸30が糸巻き取り方向に回転すると、クラッチ機構13が自動的につながるように、クラッチヨーク40を移動させる。
【0033】
釣り糸を巻き取ることができる通常状態では、ピニオンギア32はスプール12側のクラッチ係合位置に位置している。このクラッチ係合位置において、ピニオンギア32の噛み合い部32bとスプール軸16のクラッチピン16aとが係合して、クラッチをつないだ状態となっている。クラッチヨーク40によってピニオンギア32がハンドル2側に移動されると、噛み合い部32bとクラッチピン16aとの係合が外れ、クラッチを切った状態となる。
【0034】
キャスティングコントロール機構22は、有底筒状のキャップ45と、キャップ45の底部に装着された摩擦プレート46と、ブレーキケース55に装着された摩擦プレート47とを備えている。キャップ45は、第2側カバー7のボス部29の外周側に形成された雄ネジ部に螺合する。摩擦プレート46および摩擦プレート47はそれぞれ、スプール軸16の端に接触して、スプール軸16を挟持する。例えば、キャップ45が回転された場合、摩擦プレート46および摩擦プレート47によって発生する挟持力が調整される。これにより、スプール12の制動力が調整される。
【0035】
図3は、実施の形態1に係るスプール制動装置の断面図である。ブレーキケース55は、有底筒状の部材である。ブレーキケース55は、外周部が第1側板8の開口8aにバヨネット構造14によって装着される。ブレーキケース55のスプール12側の中央部には、筒状に突出する内筒部55aが形成されている。内筒部55aの外周部には、スプール制動装置20の筒部60が装着される。内筒部55aの内周部は、軸受35aの外輪を支持している。内筒部55aの基端部外周部には、複数の貫通孔55bが形成されている。貫通孔55bには、操作つまみ65の押圧部65bが挿通される。
【0036】
操作つまみ65は、
図1に示されるように円形のつまみ部65aと、複数の押圧部65bとを有している。つまみ部65aは、第1側カバー6に形成された開口6aから露出する部分である。複数の押圧部65bは、つまみ部65aのスプール12側に突出して設けられている。押圧部65bは、貫通孔55bに挿通され、スプール制動装置20の筒部60を押圧可能に筒部60の底面に当接している。以下、スプール制動装置20の構成を説明する。
【0037】
スプール制動装置20は、筒部60、磁石51、保持部材61、支持リング62および係合部材63を有する。筒部60は、その中心軸がスプール軸16の中心軸と一致するように配置される。
図2および
図3では、内筒部55aの上下でスプール制動装置20の異なる部分の断面が示されている。内筒部55aの上側(レベルワインド機構15側)では磁石51のある部分の断面を、下側(クラッチ操作レバー17側)では磁石51のない部分の断面を示す。
【0038】
図4は、実施の形態1に係るスプール制動装置の分解斜視図である。支持リング62は、筒部60の内周底部に配置される。支持リング62は筒部の内周底部からスプール軸16の軸方向に移動しないように、例えばピン64(
図3参照)で規制されている。
図4では、支持リング62を軸方向に規制する部材が省略されている。支持リング62は筒部60に対して軸方向には移動しないが、中心軸の回りに回転可能である。支持リング62には、保持部材61の数だけ回転対称の位置でかつ等間隔に孔62aが形成されている。
【0039】
磁石51は保持部材61にはめ込まれて固定され、磁石51と保持部材61は一体になっている。磁石51はスプール12の回転面に向き合う面にN極とS極とを有する。回転面はこの場合、スプール12の糸巻胴部12bの内周面である。磁石51を保持する保持部材61は、筒部60の側面に形成された案内孔60aに収容される。保持部材61には、支持部61aと係合部61bが形成されている。支持部61aは、支持リング62の孔62aに嵌合し、保持部材61は支持リング62に対して回動可能に支持される。支持リング62が筒部60に対して回転しながら、保持部材61を回動可能に支持するように、支持リング62の孔62aの周囲は平面になっている。
【0040】
保持部材61の係合部61bは、係合部材63の係合孔63aにはめ込まれる。係合部61bと係合孔63aには遊びがあり、係合部61bは係合孔63aの中で自由に回転できる。係合部材63は、筒部60に収容される。係合部材63は筒部60に対して、軸方向には移動するが、回転できないように支持される。例えば、係合部材63の外周の面取りされた平面部分が、筒部60の内周面に形成された平面部分に対向するようにはめ込まれて、筒部60に対して係合部材63が回転できないように規制される。
【0041】
筒部60の内周底面と係合部材63の間には図示しない押圧バネが配置され、係合部材63を筒部60から飛び出る方向に付勢する。係合部材63の係合孔63aは保持部材61の係合部61bに係合し、保持部材61は筒部60の案内孔60aに収容され、かつ、保持部材61の支持部61aは支持リング62の孔62aに嵌合されている。そして、支持リング62は筒部60に対して軸方向に移動しないように規制されているので、係合部材63は押圧バネで付勢されても、筒部60から抜け出ることはない。この状態で保持部材61は、支持部61aと係合部61bを結ぶ線が筒部60の軸方向になるように付勢される。
【0042】
スプール制動装置20を組み立てるには、例えば、以下のようにする。筒部60の内周底面に支持リング62を配置し、支持リング62が抜け出ないように、例えば
図3のピン64で規制する。押圧バネを筒部60の内周底面と係合部材63で挟みながら、係合部材63を筒部60に押し込む。支持リング62の孔62aと係合部材63の係合孔63aが、筒部60の案内孔60aから見える位置で、保持部材61の支持部61aと係合部61bの距離になるように保持し、磁石51を保持する保持部材61を案内孔60aから挿入し、支持部61aを支持リング62の孔62aに、係合部61bを係合孔63aにはめ込む。すべての保持部材61を同様にはめ込んで、組み立てを完了する。
【0043】
図5は、実施の形態1に係るスプール制動装置の動作を示す図である。
図5は、筒部60の案内孔60aの部分を外周面から中心軸の方向に見たものである。
図5では、スプール12の軸方向が上下であり、スプール12の回転する周方向が左右である。実線で表された保持部材61および磁石51は、スプール12が回転していない状態を示す。二点鎖線で表された保持部材61および磁石51はスプール12が回転している状態を示す。筒部60は円筒面なので、案内孔60aの両側の側面が見えている。釣り糸をキャストしたときに、スプール12の磁石51に対向する面が
図5の左方向に移動するようにスプール12が回転する。
【0044】
スプール12が回転していない状態では、保持部材61は、係合部材63を介して押圧バネで支持部61aと係合部61bを結ぶ線が筒部60の軸方向になるように付勢される。その状態で、磁石51はN極とS極がスプール12の軸方向に並ぶ向きに配置されている。このとき、スプール12の回転面の一部を周方向にみると、対向する1つの磁石51の磁極はN極またはS極だけである。
【0045】
スプール12が回転すると、スプール12の回転面に対向する磁石51の磁束によって、スプール12にはその回転速度に応じた渦電流が発生する。この渦電流によってスプール12には回転方向と逆方向の誘導力がかかる。これにより、スプール12は制動される。スプール12の回転(スプール面の移動)で磁石51によって引き起こされる誘導力の反力で、逆に磁石51はスプール12の回転する方向に引きずられる。磁石51を保持する保持部材61は、支持部61aで支持リング62に回動可能に支持され、係合部61bが軸方向にしか移動しないように係合部材63で規制されている。そして支持リング62は軸の回りに回転するが軸方向には移動しない。また、案内孔60aの突出部60bで係合部61bの基部が抑えられるので、保持部材61は
図5の左に移動しながら時計回りに回転する。その結果磁石51は、N極とS極がスプール12の回転する周方向に並ぶ向きに回転しながら移動させられる。このとき、スプール12の回転面の一部を周方向に見ると、対向する1つの磁石51の磁極はN極とS極が並んでいる。
【0046】
図6Aは、実施の形態1に係るスプール制動装置の停止状態における磁束を示す概念図である。
図6Aの白抜き矢印は、スプール12の回転する方向を示す。それぞれの磁石51のN極とS極はスプール12の回転軸の方向に並んでいる。磁石51に対向するスプール12の一点を通る回転面(円)について見れば、対向する磁石51の磁極はN極またはS極だけである。1つの磁極の大きさより十分小さい微小幅の回転面における磁束は、
図6Aの上のグラフのように表すことができる。N極またはS極だけの磁束なので、グラフは回転周方向を示す磁束基準線の片側だけに表されている。
【0047】
図6Bは、実施の形態1に係るスプール制動装置の最大制動状態における磁束を示す概念図である。それぞれの磁石51のN極とS極はスプール12の回転する周方向に並んでいる。磁石51に対向するスプール12の一点を通る回転面について見れば、対向する磁石51の磁極はN極とS極が並んでいる。
図6Aと同じ微小幅の回転面における磁束は、
図6Bの上のグラフのように表すことができる。N極およびS極が周方向に交互に現れるので、グラフは回転周方向を示す磁束基準線の両側に表されている。
図6Aに比べて、磁束変化の振幅が大きく、また周方向の磁束の変化率が大きくなっている。すなわち、スプール12の磁石51に向き合う面における磁束の、スプール12の回転周方向の変化率が大きくなっている。誘導力は磁束の変化率に比例するので、回転周方向の磁束の変化率が大きくなれば、誘導力すなわち制動力が大きくなる。
【0048】
実施の形態1に係るスプール制動装置20では、磁石51は、保持部材61と支持リング62で、スプール12の磁石51に向き合う面における磁束の、スプール12の回転周方向の変化率が変化する方向に、回動可能に支持される。係合部材63は、押圧バネによって、スプール12の磁石51に向き合う面における磁束の、スプール12の回転周方向の変化率が小さくなる方向に、磁石51を付勢する。そして、支持リング62、カムとしての保持部材61および係合部材63は、スプール12の回転で磁石51によって引き起こされる誘導力の反力で、スプール12の磁石51に向き合う面における磁束の、スプール12の回転周方向の変化率が大きくなる方向に、磁石51を回転させている。
【0049】
係合部材63は、所定回転面における、スプールの回転周方向の磁束の変化率が小さくなる方向に、磁石51を移動させる付勢部を構成する。支持リング62、カムとしての保持部材61および係合部材63は、スプール12の移動で磁石51によって引き起こされる誘導力の反力で、スプール12の所定回転面における、スプール12の回転周方向の磁束の変化率が大きくなる方向に、磁石51を移動させる移動機構と言える。いわば、スプール制動装置20は、スプール12の回転面に平行でかつ回転周方向に直交する方向、すなわち回転軸方向の所定単位幅を有する所定回転面における、磁石51が影響する回転周方向の磁束の変化率を、スプール12の回転によって変化させている。より厳密に言えば、回転面に鎖交する磁束の磁束密度の回転周方向の変化率を変化させている。支持リング62、保持部材61および係合部材63は、磁束変化率可変機構を構成する。
【0050】
図3に示されるように、実施の形態1では、磁石51の半分、すなわちスプール12が停止している状態で1つの磁極だけがスプール12の回転面に対向している。それでも、磁石51が回転して
図6Bの状態になれば、磁束の周方向の変化率が大きくなるので、制動力はスプール12の回転速度に応じて大きくなる。同じ磁石51でも、スプール12に対向する磁石51の面を大きくすればそれだけ制動力は全体として大きくなる。磁石51の全面をスプールに対向させても、
図6Aと
図6Bの状態で、磁束の周方向の変化率が大きくなることに変わりはないので、制動力はスプールの回転速度に応じて大きくなる。そこで、スプール制動装置20全体を軸方向に移動させれば、制動力を全体的に変えることができる。
【0051】
図3のつまみ部65aは、開口6aに回転自在に支持されている。操作つまみ65は、つまみ部65aの回転を押圧部65bの軸方向の移動に変換する図示しないカム機構を有している。例えば、操作つまみ65を時計回りに回すと、カム作用により、筒部60がスプール12に接近する方向(
図3右側)に移動する。すなわち、磁石51がスプール12に接近する。この結果、スプール12を通過する磁束の数が増加して、スプール12に対する制動力が強くなる。
【0052】
操作つまみ65を反時計回りに回すと、カム作用により、筒部60および磁石51がスプール12から離反する方向(
図3左側)に移動する。すなわち、磁石51がスプール12から離反する。この結果、スプール12を通過する磁束の数が減少して、全体の制動力が弱くなる。このように、操作つまみ65を回転することによって、スプール12の初期制動力が設定される。
【0053】
また、スプール12が停止している状態で、係合部材63を筒部60の内周底面方向に近づければ、初期の制動力を大きくできる。言い換えれば、スプール12が回転しているときの最大制動力と、回転し始めるときの最小制動力との比を変化させることができる。
【0054】
実施の形態1のスプール制動装置20によれば、導電体(スプール12)の回転軸方向の所定単位幅を有する所定回転面における回転周方向の磁束の変化率を、導電体の回転によって変化させるので、導電体および磁石51の一方を回転軸の方向に移動させる必要がなく、スプール制動装置20の軽量化と小型化を図ることができる。
【0055】
実施の形態1では、スプール12が導電体である場合を例に挙げて説明した。スプール12に連動する導電体があれば、スプール12は導電体でなくてもよい。例えば、非導電体で形成されたスプール12の内周面に、導電体の円筒を貼り合わせた構成でもよい。その場合、スプール制動装置20は、スプール12に連動する導電体に磁石51を対向させて配置される。
【0056】
また、実施の形態1では、導電体が円筒である構成を説明した。導電体がスプール12に連動して回転するものであればスプール制動装置20を適用することができる。例えば、導電体が円板の場合でも、実施の形態1の構成を変形して適用することができる。円板は例えば、スプール12のフランジ部12aである。その場合、回転面は、円板面である。磁石51は円板面に対向して配置され、円板の磁石51に向き合う面における磁束の、円板の回転周方向の変化率が変化する方向に、回動可能に支持される。係合部材63は、円板の磁石51に向き合う面における磁束の、円板の回転周方向の変化率が小さくなる方向に、磁石51を付勢する。そして、支持リングおよび係合部材は、円板に平行な平面上の同心円状に配置される。支持リング、保持部材および係合部材は、円板の回転で磁石51によって引き起こされる誘導力の反力で、円板の磁石51に向き合う面における磁束の、円板の回転周方向の変化率が大きくなる方向に、磁石51を回転させる。その場合、円板の回転面に平行でかつ回転周方向に直交する方向、すなわち半径方向の所定単位幅を有する所定回転面における、磁石51が影響する回転周方向の磁束の変化率を、導体である円板の回転によって変化させている。
【0057】
実施の形態1では、磁石51が4つの場合を例に取り上げた。磁石51は導電体の回転面に向き合う面にN極とS極とを有していれば、1つ以上いくつでもよい。ただし、制動力の加わる位置がスプール12の回転軸に関して対称になるように、2つ以上の磁石51を備えて回転対称の位置に配置することが好ましい。さらに、磁石51を等間隔に配置することが好ましい。なお、磁石51のN極とS極の並びは
図4〜
図7と逆でもよい。また、磁石51のN極とS極の並びをすべての磁石51で同じにしなくてもよい。例えば、N極とS極の並びが逆である磁石を、導電体の回転する周方向に交互に配置してもよい。
【0058】
[変形例]
図7は、実施の形態1の変形例に係るスプール制動装置の動作を示す概念図である。この変形例では、磁石51を回転させるのにカムとしての保持部材61および係合部材63の代わりにラックとピニオンを用いる。
図7では、歯形が略画法で表されている。歯先は太い実線、ピッチは一点鎖線、歯底は細い実線でそれぞれ表されている。
【0059】
磁石51を保持する保持部材71は、スプール12の回転面に向かって周りに外歯71aが形成されたピニオンになっている。磁石51は最大で90°回転すればよいので、全周に外歯71aを形成しなくてもよい。保持部材71は、実施の形態1と同様に磁石51の中心を通る軸(支持部)で支持リング62に回動可能に支持されている。支持リング62は
図3および
図4と同様に、筒部70に対して軸方向には移動せず軸の周りに回転可能に支持されている。変形例では、支持リング62が図示しないトーションバネなどで筒部70に対して、
図7の右方向に付勢されている。
【0060】
筒部70の案内孔70aには、ピニオンの外歯71aに噛合する、スプール12の回転周方向に一列に形成された平歯70bが形成されている。筒部70はリール本体1に対して位置が調節されるが、スプール12の動作中は固定されていると考えてよい。案内孔70aの平歯70bはラックを構成する。
【0061】
図7では
図5と同様に、実線で表された保持部材71および磁石51は、スプール12が回転していない状態を示す。二点鎖線で表された保持部材71および磁石51はスプール12が回転している状態を示す。筒部70は円筒面なので、案内孔70aの両側の側面が見えている。釣り糸をキャストしたときに、スプール12の磁石51に対向する面が
図7の左方向に移動するようにスプール12が回転する。
【0062】
スプール12が回転していない状態では、保持部材71は、支持リング62を介してトーションバネでN極とS極がスプール12の軸方向に並ぶ向きが軸方向になるように付勢される。スプール12が回転すると、スプール12の回転(スプール面の移動)で磁石51によって引き起こされる誘導力の反力で、磁石51はスプール12の回転する方向に引きずられる。磁石51を保持する保持部材71は、支持部で支持リング62に回動可能に支持され、外歯71aが案内孔70aの平歯70bに噛み合っているので、保持部材71は
図7の左に移動しながら時計回りに回転する。その結果磁石51は、N極とS極がスプール12の回転する周方向に並ぶ向きに回転しながら移動させられる。
【0063】
磁石の動きは
図5と同様なので、変形例でも
図6Aおよび
図6Bに示されるように、スプール12の回転周方向の磁束の変化率が、スプール12の回転速度に応じて大きくなり、制動力がスプール12の回転速度に応じて大きくなる。支持リング62、ピニオンとしての保持部材71およびラックである筒部70の平歯70bは、磁束変化率可変機構を構成する。
【0064】
スプール制動装置20の制動力を全体的に調節できることは、実施の形態1と同様である。制動力の最大と最小の比を変えるには、スプール12が回転していないときの支持リング62の初期位置を変えられるようにすればよい。その他、導電体の構成、磁石の個数と配置、およびN極とS極の並びについては、実施の形態1と同様である。
【0065】
[実施の形態2]
図8は、本発明の実施の形態2に係るスプール制動装置の断面図である。実施の形態2では、磁石51は、導電体の磁石51に向き合う面と並行する軸の周りに揺動可能に支持される。そして、導電体の回転によってN極とS極の双方が導電体の回転周方向に近接する向きに磁石51を揺動させる。磁石51は、実施の形態1と同様、導電体の磁石51に向き合う面にN極とS極を有する。実施の形態2でも、スプール12が導電体である。
【0066】
図8では、磁石51と保持部材81などの部分は断面になっていない。磁石51はスプール12の回転面に向き合う面にN極とS極を有し、保持部材81に保持されている。回転面は、スプール12の糸巻胴部12bの内周面である。保持部材81には、支持部81aが形成されている。支持部81aは支持板82の孔に嵌合し、保持部材81は、支持板82によってスプール12の回転軸と並行する軸の周りに揺動可能に支持されている。支持板82は、筒部80に支持されている。
【0067】
図9は、実施の形態2に係るスプール制動装置を回転軸の方向に見た断面図である。
図9は、
図8のA−A線断面を示す。磁石51を保持する保持部材81は、支持部81aが支持板82の孔82aに嵌合することによって、磁石51の中心とスプール12の回転軸を通る面から離隔した、スプール12の回転面に平行でかつ回転周方向に直交する軸の周りに揺動可能に支持される。磁石51は、磁石51の回転面に向き合う面とは反対の背面側で揺動可能に支持される。支持板82はスプール12が回転してもリール本体1に対して動かない。
【0068】
保持部材81には、係合部81bが形成されている。係合部81bは、板バネ83の先端部にある係合孔83aに係合している。板バネ83は、保持部材81を支持部81aの周りに、磁石51のスプール12に向き合う面をスプール12の回転面から遠ざける向きに付勢する。板バネ83は、筒部80(
図8参照)に支持されている。
図9は、スプール12が回転していない状態を示す。釣り糸をキャストしたときに、スプール12は
図9で反時計回りに回転する。
【0069】
図10は、実施の形態2に係るスプール制動装置の動作を示す図である。実線で表された保持部材81および磁石51は、スプール12が回転していない状態を示す。二点鎖線で表された保持部材81および磁石51はスプールが回転している状態を示す。スプールが回転していない状態では、保持部材81は、板バネ83で付勢されて、スプール12の回転面に対向する面、特に磁石51の支持部81aの軸から遠い磁極が、スプール12の回転面から遠ざかっている。
【0070】
スプール12が回転すると、スプール12の回転面に対向する磁石51の磁束によって、スプール12にはその回転速度に応じた渦電流が発生する。この渦電流によってスプール12には回転方向と逆方向の誘導力がかかる。これにより、スプール12は制動される。スプール12の回転(スプール面の移動)で磁石51によって引き起こされる誘導力の反力で、逆に磁石51はスプール12の回転する方向に引きずられる。磁石51を保持する保持部材81は、支持部81aで支持板82(
図9参照)に揺動可能に支持されているので、保持部材81は支持部81aの周りに
図10で反時計回りに回転する。その結果磁石51のスプール12の回転面に対向する面、特に支持部81aから遠い磁極が、スプール12の回転面に近づいていく。
【0071】
図11は、実施の形態2に係るスプール制動装置の作用を示す概念図である。スプール12が回転していない状態では、磁石51はスプール12の回転面から遠くにあるので、スプール12の回転面に交わる磁束Bは少なく、回転面における磁界のピークは小さい。スプール12が回転して磁石51が近づくと、スプール12の回転面に交わる磁束Bが多く、回転面における磁界のピークは大きくなる。すなわち、スプール12の磁石51に向き合う面における磁束Bの、スプールの回転周方向の変化率が大きくなる。
【0072】
図12Aは、実施の形態2に係るスプール制動装置の停止状態における磁束を示す概念図である。
図12Bは、実施の形態2に係るスプール制動装置の制動状態における磁束を示す概念図である。
図12Aおよび
図12Bの白抜き矢印は、スプール12の回転する方向を示す。
図11に示されるように、スプール12が回転していない状態では磁石51はスプール12の回転面か
ら離れ、S極の方がN極より遠くにある。そのため、スプール12が回転している場合に比べて回転面における磁界のピークは小さく、かつ、S極側の磁束がN極側の磁束より小さい。
図12Aに示されるように、磁束は振幅が小さく、回転周方向を示す磁束基準線の一方に偏っている。その結果、回転周方向の磁束の変化率は小さい。スプール12が回転すると、磁石51はスプール12の回転面に近づき、S極とN極から回転面までの距離の差が小さくなる。そのため、回転面における磁界のピークが大きくなり、S極側とN極側とで磁束の差が小さくなる。
図12Bに示されるように、磁束の振幅が大きくなり、回転周方向を示す磁束基準線の両側にほぼ同じ大きさで表される。その結果、回転周方向の磁束の変化率は大きくなる。誘導力は磁束の変化率に比例するので、回転周方向の磁束の変化率が大きくなれば、誘導力すなわち制動力が大きくなる。
【0073】
実施の形態2に係るスプール制動装置20では、磁石51は、磁石51の中心とスプール12の回転軸を通る面から離隔した、スプール12の回転面に平行でかつ回転周方向に直交する軸の周りに回動可能に支持される。板バネ83は、磁石51のスプール12に向き合う面がスプール12の回転面から遠ざかる向きに磁石51を付勢する。そして、スプール12の回転で磁石51によって引き起こされる誘導力の反力で、磁石51のスプール12に向き合う面がスプール12の回転面に近づく向きに磁石51を回転させるので、スプール12の磁石51に向き合う面における磁束の、スプール12の回転周方向の変化率が大きくなる。
【0074】
板バネ83は、所定回転面における、スプール12の回転周方向の磁束の変化率が小さくなる方向に、磁石51を移動させる付勢部を構成する。支持板82、保持部材81および係合部81bは、スプール12の移動で磁石51によって引き起こされる誘導力の反力で、スプール12の所定回転面における、スプール12の回転周方向の磁束の変化率が大きくなる方向に、磁石51を移動させる移動機構と言える。いわば、スプール制動装置20は、スプール12の回転軸方向の所定単位幅を有する所定回転面における、磁石51が影響する回転周方向の磁束の変化率を、スプール12の回転によって変化させている。
【0075】
図8では、磁石51は全面がスプール12の回転面に対向しているが、実施の形態1と同様に、スプール制動装置20をスプールの回転軸方向に移動させることによって、制動力を全体的に変えることができる。実施の形態2では、支持板82をスプール12の回転軸の周りに回転させて、保持部材81の支持部81aの位置を変えることによって、スプール12が回転し始める初期の制動力を変えることができる。例えば、
図9で支持板82を反時計回りに回転させると、板バネ83の係合孔83aに対して支持部81aが遠ざかるので、磁石51はスプール12の回転面からさらに遠ざかる。支持板82を時計回りに回転させれば、磁石51はスプール12の回転面に近づく。これによって、スプール12が回転しているときの最大制動力と、回転し始めるときの最小制動力との比を変化させることができる。保持部材81、支持板82および板バネ83は、磁束変化率可変機構を構成する。
【0076】
実施の形態2のスプール制動装置20によれば、導電体(スプール12)の回転軸方向の所定単位幅を有する所定回転面における回転周方向の磁束の変化率を、導電体の回転によって変化させるので、導電体および磁石51の一方を回転軸の方向に移動させる必要がなく、スプール制動装置20の軽量化と小型化を図ることができる。
【0077】
実施の形態2では、スプール12が導電体である場合を例に挙げて説明した。スプール12に連動する導電体があれば、スプール12は導電体でなくてもよい。例えば、非導電体で形成されたスプール12の内周面に、導電体の円筒を貼り合わせた構成でもよい。その場合、スプール制動装置20は、スプール12に連動する導電体に磁石51を対向させて配置される。
【0078】
また、実施の形態2では、導電体が円筒である構成を説明した。導電体がスプール12に連動して回転するものであればスプール制動装置20を適用することができる。例えば、導電体が円板の場合でも、実施の形態2の構成を変形して適用することができる。円板は例えば、スプール12のフランジ部12aである。その場合、磁石51は、円板面に対向して配置され、磁石51の中心と円板の回転軸を通る面から離隔した位置で、円板面に平行でかつ回転周方向に直交する軸の周りに揺動可能に支持される。磁石51は、円板の磁石51に向き合う面における磁束の、円板の回転周方向の変化率が小さくなる方向に付勢される。
【0079】
実施の形態2では、磁石51が4つの場合を例に取り上げた。磁石51は導電体の回転面に向き合う面にN極とS極とを有していれば、1つ以上いくつでもよい。ただし、制動力の加わる位置がスプール12の回転軸に関して対称になるように、2つ以上の磁石51を備えて回転対称の位置に配置することが好ましい。さらに、磁石51を等間隔に配置することが好ましい。なお、磁石51のN極とS極の並びは
図9〜
図12と逆でもよい。また、磁石51のN極とS極の並びをすべての磁石51で同じにしなくてもよい。例えば、N極とS極の並びが逆である磁石を、導電体の回転する周方向に交互に配置してもよい。