【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)応募日:平成26年5月10日 公募:独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」 (2)掲載日:平成26年8月25日 社内報:熊谷組技術開発便り・8月号,熊谷組技術開発便り_Vol−17−改
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベース部材と、該ベース部材を間に挟んで並行に対向配置されて前後方向へ延びる2つのメインフレームと、前記各メインフレームの前部と後部に夫々回動自在に軸支された懸架部材と、各懸架部材により夫々支持され、一つの太陽歯車、3つの従動歯車、及び3つの遊星歯車を有した遊星歯車機構と、前記各遊星歯車と一体回転し、磁性体から成る走行面に吸着する永久磁石を有した車輪と、前記懸架部材をその軸心を中心として回動させる転舵機構と、前記遊星歯車機構を介して前記車輪を回転駆動する車輪駆動機構と、前記遊星歯車機構を公転させて走行面に接地させる前記車輪を選択する車輪選択機構と、を備え、
前記各メインフレームの少なくとも一部には、該各メインフレームの変形を容易にする変形部が設けられていることを特徴とする壁面等の移動装置。
前記メインフレームは、少なくとも、前記ベース部材の横方向両端部に夫々固定される非変形部と、前記各非変形部から前方、及び後方へ夫々延びる2つの変形部と、前記各変形部により支持された他の非変形部と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の壁面等の移動装置。
【背景技術】
【0002】
我が国の高度成長期に整備された多くの社会インフラが老朽化し、それら社会インフラの長寿命化を図ることを目的として、インフラの維持管理が欠かせない。
例えば、鋼鉄製の橋梁等、磁性体材料によって壁面、天井面等を構成した構造物では、磁力により該構造物への吸着が可能なため、従来、磁力を利用した吸着ロボットが提案されている。
【0003】
特許文献1記載の移動装置は、車体の前後左右に設けた走行車輪を走行用駆動モータで駆動し、かつ走行車輪をディスク状の永久磁石と該ディスク状永久磁石より直径の大きいディスク状磁性体ヨークとから構成している。各走行車輪は独立した走行駆動用モータ及び独立したステアリング用モータにより駆動される。
特許文献1記載の移動装置は、車輪を構成する永久磁石により磁性体から成る壁面や管上を移動することができ、また電源喪失時においても壁面等から落下することがないという利点を有している。
しかしながら、特許文献1記載の移動装置は走行する壁面に大きな段差、突起がある場合はその段差を乗り越えることができないという課題がある。
また、車体が、前後方向へ長尺な車体フレームと、車体フレームの前後位置に上下方向へ折り曲げ自在に連結された短尺な走行車輪支持ベースとから変形自在に構成されているが、車体フレームに対する走行車輪支持ベースの折り曲げ方向が一方向に限定されている。このため、車体全体の柔軟性が十分でなく、走行面の凹凸の状況に応じて車体を上下方向以外の方向へ柔軟に変形させることができない。このため、大きな凸部を乗り越える際に車体フレームが凸部に引っ掛かりを起こして移動不能となったり、落下するなどの不具合が想定される。
特に、移動装置の高さを超える大きさの凸部を乗り越えることは極めて難しい。例えば、垂直或いは傾斜した壁面に形成されたオーバーハング部を乗り越えることは不可能である。
【0004】
次に、特許文献2に開示された煙突筒身検査装置は、自走して筒身の状態を検査する手段であり、台車と、台車に取り付けられて磁力により煙突筒身に接着し、夫々自転、及び一体として公転可能な複数の遊星車輪とを備えている。
しかし、変形不能な構造を有した台車によって遊星車輪が支持されているため、大きな凸部を乗り越える際に柔軟性を欠いた台座が凸部に引っ掛かりを起こして移動不能となったり、落下するなどの不具合が想定される。また、垂直な壁面に設けた大きな凸部に前輪が乗り上げた際に後輪のみでは吸着力を維持し切れずに、車体全体が垂直な走行面から落下する虞がある。この不具合を解消するために離脱防止機構を備えているが、装置の全長を増大する結果を将来するため小回りが効かなくなるばかりで無く、構成が複雑化したり、重量増をもたらすことが明らかである。
また、この装置構成では、垂直、或いは傾斜した走行面に形成されたオーバーハング部を乗り越えることは難しい。
【0005】
次に、特許文献3には車体の前後左右に遊星歯車機構を介して回転駆動される3つの小車輪を備えた保全ロボットが開示されている。この保全ロボットは原子力発電プラント等において、保全作業を無人で実施するための手段であり、階段の昇降、階段と同程度の凹凸の乗り越え等を可能とするものである。
しかし、この保全ロボットは、鉄鋼等の磁性体から成る垂直な壁面や天井面を車輪に設けた磁石の吸着力を利用して移動するものではない。仮に、遊星歯車機構によって回転駆動される3つの小車輪に永久磁石を組み込んだとしても、車体が変形しない構造であるため、垂直面等に設けた大きな凸部を乗り越える際に柔軟性を欠いた車体が凸部に引っ掛かりを起こして移動不能に陥ったり、落下するなどの不具合が想定される。また、垂直面に設けた凸部に前輪が乗り上げた際に後輪のみでは吸着力を維持し切れずに、車体全体が垂直な走行面から落下する虞もがある。
また、この装置構成では、垂直、或いは傾斜した走行面に形成されたオーバーハング部を乗り越えることは難しい。
また、壁面移動装置は、垂直面や天井面に車輪の磁着力によって吸着しながら走行するが、その際に車体の自重によって落下することがない程度に車輪の磁着力が強く設定されている。このため、移動方向を転換するために車輪を転舵するためには当該磁着力を上回る強力な動力が必要とされる。特許文献3のように3つの小車輪のうちの2つの小車輪を走行面に接地させて走行する場合には、2つの小車輪の強力な磁着力に抗しながら車輪の方向を変化させることは更に困難になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る壁面等の移動装置の全体構成を示す外観斜視図であり、
図2(a)(b)及び(c)は同壁面等の移動装置の正面図、平面図、及び右側面図であり、
図3(a)及び(b)はメインフレームの構成を示す側面図、及びA−A断面図であり、
図4(a)(b)及び(c)はメインフレームにサスペンションアーム等を組み付けた状態の側面図、正面側縦断面図((a)のB−B断面図)、及びC部の拡大図であり、
図5は
図2(a)のD−D一部断面図であり、
図6(a)は遊星歯車機構、車輪駆動機構、及び車輪選択機構を示す正面図、(b)はE-E断面図、(c)はF−F断面図である。また、
図7は懸架部材の下部の構成を示す一部分解斜視図であり、
図8は懸架部材の下部の構成を示す一部分解斜視図であり、
図9は遊星歯車機構、車輪駆動機構、及び車輪選択機構を一方向から見た分解斜視図であり、
図10は遊星歯車機構、車輪駆動機構、及び車輪選択機構を他方向から見た分解斜視図である。
【0012】
<基本構成>
壁面等の移動装置1は、鋼鉄製の橋梁等、磁性体材料によって壁面、天井面等を構成した構造物の点検、保守等のために利用される。
移動装置1は、点検、保守等のための各種機材を搭載するのに充分な強度を有したベース部材(連結部材)2と、ベース部材を間に挟んで並行に対向配置されて前後方向へ延びる2つのメインフレーム10と、各メインフレームの前部と後部により夫々矢印M1で示す操舵(転舵)方向へ回動自在に軸支された懸架部材(サスペンションアーム、懸架装置、操舵軸)50と、各懸架部材により夫々支持され、一つの太陽歯車63、及び3つの遊星歯車67を有した遊星歯車機構60と、各遊星歯車67と軸心を共通にして一体回転し、磁性体から成る走行面(壁面等)に吸着する永久磁石を有した車輪80と、懸架部材50をその軸心を中心として回動させる転舵機構100と、遊星歯車機構60を介して車輪80を回転駆動する(自転させる)車輪駆動機構110と、遊星歯車機構60を公転させて走行面に接地させる車輪を選択する車輪選択機構120と、を概略備えている。
【0013】
ベース部材2の左右両端部に接続された各メインフレーム10は、前後方向中央部に設けられてベース部材2に固定される第1非変形部11と、前後方向両端部に夫々設けられて懸架部材50を矢印M1方向へ回転自在に支持する第2非変形部(懸架部材支持部)15と、第1非変形部11と2つの第2非変形部15との間に少なくとも一箇所ずつ配置されて各非変形部よりも変形が容易な構成を有した変形部(多方向変形部)20と、を備えている。
これを言い換えれば、移動装置1は、前部と後部に懸架部材50を回動自在に軸支する第2非変形部(懸架部材支持部)15を夫々備えた2つのメインフレーム10と、並行に配置された2つのメインフレーム10間を連結するベース部材(連結部材)2と、各懸架部材50により夫々支持され、一つの太陽歯車63、及び3つの遊星歯車67を有した遊星歯車機構60と、各遊星歯車により夫々回転駆動され、且つ磁性体から成る走行面に吸着する永久磁石を有した車輪80と、懸架部材50を回動させる転舵機構100と、遊星歯車機構60を介して車輪80を回転駆動する(自転させる)車輪駆動機構110と、遊星歯車機構を公転させて走行面に接地させる車輪80を選択する車輪選択機構120と、を概略備えている。
【0014】
そして、各第2非変形部(懸架部材支持部)15は、ベース部材2の両端部、又は各メインフレーム10の一部に対して、多方向(上下、左右、斜め方向)へ変形可能な変形部(変形部材)20を介して変位可能な状態で連結(配置)されている。
各非変形部11、15は、少なくとも一部がステンレス等の金属材料から構成されており、第1非変形部11の前後両端部には、夫々変形部20(20a、20b)を介して第2非変形部15が同一軸心状に連結されている。従って、多方向への変形が可能な変形部20の作用によって各第2非変形部15は、第1非変形部11に対する前記同一軸心状の位置から、多方向(全方位)へ変位することができる。
【0015】
変形部20は、例えばゴム等の弾性部材、又はユニバーサルジョイント等から構成する。変形部20は、
図1、
図2等に示した特別な外力が加わらない初期状態では、第1非変形部11と第2非変形部15とを同一軸心状の位置関係としているが、変形部を曲げ変形させるに足りる所定以上の外力が加わった場合には第1非変形部と第2非変形部との位置関係を変化させる(
図13、
図18、
図20参照)。なお、各非変形部11、15と変形部20との関係(外力が加わらない場合の位置関係)は、同一軸心状(一直線状)である必要はなく、種々の変形パターンが想定できる。例えば、各非変形部11と非変形部15とが変形部20を介して所定の傾斜角度をもって配置された構成としてもよい。
変形部20を弾性体によって構成する場合、その形状は円筒状であってもよいし、多角柱、その他の異形としてもよい。多角柱状にすることにより、円筒体の場合よりは撓みにくくすることができる。
【0016】
変形部20は、
図3、
図11等に示した変形規制部材150により変形部の変形量、変形方向を規制される。変形規制部材150が軸方向へ進退し、変形規制位置、変形規制解除位置に夫々停止することにより、各変形部の変形を規制したり、変形を解除することができる。これにより、変形部20を介して連結された非変形部11、15の相対的な位置関係を種々変更することができる。なお、図示説明の都合上、
図1、
図2、
図4などには変形規制部材150は図示していないが、
図3、
図11等に示した変形規制部材150が各メインフレーム10に装備される。
なお、本例では第1非変形部11を中心として線対称となる位置に変形部20a、20bを一箇所ずつ配置したが、これは一例に過ぎない。例えば、第1非変形部11とは非対称に変形部20a、20b、及び第2非変形部15を配置してもよい。また、第2非変形部15と各変形部20a、20bとの間に図示しない第3の非変形部を配置し、第3の非変形部と第2非変形部15との間を図示しない第2変形部によって連結するようにした多関節構造としてもよい。
つまり、一つのメインフレーム10を構成する非変形部の個数、非変形部間を連結する変形部の個数、長さ、形状についても種々変形が可能である。
【0017】
メインフレーム10の断面を示す
図3に示すように、第1非変形部11は、ベース部材2の両端部を嵌合する嵌合穴12を内側面に有し、嵌合穴12内にベース部材の端部を嵌合させた状態で外側面に設けた小穴から差し込んだボルト13(
図1、
図2)によってベース部材2を固定する。
第1非変形部11の両外側端面には、夫々変形部20、本例ではゴムから成る変形部20a、20bの一端部が固定される。変形部20a、20bの他端部は夫々第2非変形部15の端部に固定される。
なお、図示した実施形態では、第1非変形部11をベース部材2に対して固定する構造としたが、ベース部材2の横方向両端部の前面と後面に対して夫々変形部20を取り付ける構造としてもよい。つまり、第1非変形部11をベース部材の一部として構成してもよい。
【0018】
図11(a)及び(b)は変形規制部材を備えたメインフレーム単体の正面図、及び断面図である。
変形規制部材150は、変形部20a、20bの変形を許容する変形非規制時には、
図3と、
図11の左側に示すように前後の非変形部15の外周面に位置する一方で、変形部20a、20bの変形を阻止する変形規制時には、
図11の右側に示すように各非変形部15と非変形部11の外周にまたがった状態となっている。
つまり、変形規制部材150は、変形規制位置と変形非規制位置との間を進退する構成を備えており、変形規制部材は手作業で移動させてもよいし、図示しない小型モータを用いて移動させるようにしてもよい。この場合の小型モータの駆動は、遠隔操作であってもよいし、メインフレーム等に設けたスイッチを操作してもよい。
【0019】
また、変形規制位置と変形非規制位置で夫々変形規制部材を位置固定する固定手段を設けるのが好ましい。この固定手段としては、任意のロック手段を用いることができる。
なお、常に全ての変形規制部材を同時に変形規制位置、或いは変形非規制位置の何れかに固定する必要はなく、走行条件等に応じて個々の変形規制部材毎に適宜選択的にその固定位置を決めてもよい。
或いは、変形規制位置と変形非規制位置の中間位置に変形規制部材を固定できるように構成することにより、変形部20a、20bの変形量を調整するようにしてもよい。つまり、変形規制部材によって変形部を覆う長さを調整することによって、変形に寄与する変形部の長さを調整して、可撓性の程度、変形量を調整することができる。
【0020】
次に、
図12(a)(b)及び(c)は他の構成例に係る変形規制部材を適用したメインフレームの一部の正面図、断面図、及び平面図である。
この変形規制部材150は変形部20を覆ったときに変形部の変形方向を部分的に規制するための構成を備えている。即ち、この変形規制部材150には2つのU字状の切欠き152を対向して設けることにより、図示した変形規制位置にある場合にも変形部20は2つの切欠き152側には変形することが可能となる。換言すれば、切欠き部152が存在しない方向には変形できなくなる。
つまり、変形規制部材150は完全な円筒状である必要はなく、その形状を変更することにより、変形部の変形方向(変形規制方向)を種々選択することが可能となる。
なお、特に図示しないが変形部を筒状の弾性体から構成する一方で、その端面中心部に軸方向に延びる穴を設け、この穴内に剛性の高い金属棒を出入れ自在に構成することにより、変形を規制したり、規制を解除するように構成しても良い。つまり、変形規制部材は、変形部の外周に配置してもよいし、内部に配置しても良い。
全ての変形規制部材150によって全ての変形部20a、20bの変形を可能にした場合には、各メインフレーム10は
図2(a)において非変形部11を中心として左右の非変形部15を下方へ撓ませた逆V字状、或いは非変形部11を中心として左右の非変形部15を上方へ撓ませたV字状に変形することができる。
メインフレームを逆V字状に撓ませた場合には管体の外周面、つまり突状に湾曲した面に対して各車輪を安定して接地させつつ移動することができる。また、メインフレームをV字状に撓ませた場合には凹状に湾曲した面に対して各車輪を安定して接地させつつ移動することができる。
【0021】
図4に示すように、各第2非変形部15によって矢印M1で示した水平方向へ回動自在に軸支された懸架部材50は、第2非変形部15の上面から下方へ向けて延びる軸受穴16に上部開口から挿通されて抜け落ち不能、且つ回動自在に軸支される棒状部材52と、棒状部材52の外周に配置されて棒状部材と一体回転する筒状部材54と、筒状部材54の下部に一体化されて遊星歯車機構60、車輪駆動機構110、及び車輪選択機構120を支持する機構支持部材58と、これらの各部材の最外部に位置する固定側板59と、を有する。
棒状部材52は長さの異なるものを種々揃えておき、用途に応じて使い分けることにより、第2非変形部15下面からの筒状部材54、及び機構支持部材58の高さ位置(突出長)を変更することができる。即ち、筒状部材54を取り付ける対象物としての棒状部材52は長さの異なるものを変更して組み付けできるように構成されており、棒状部材を変更使用することにより、移動装置1を使用する環境の違いに対応させてメインフレーム10からの車輪80の突出長を調整することが可能となる。なお、棒状部材の長さを同じにしておく一方で、筒状部材54を長さの異なるものと交換して使用してもよい。
【0022】
懸架部材50をその軸心を中心として回動させる転舵機構100は、第2非変形部15を構成する中空の外筒部15a内に収容された転舵用モータ101と、転舵用モータの出力軸101aに固定されて回転する出力側ベベルギヤ(笠歯車)103と、棒状部材52の外周に軸心を固定されて棒状部材と一体回転する従動側ベベルギヤ105と、を有する。各第2非変形部15に装備された各転舵用モータ101は、図示しないコントローラからの制御信号によって出力側ベベルギヤ103を任意の角度、任意の方向に回動させることにより機構支持部材58を個別に水平方向(懸架部材の軸方向と直交する面方向)へ回動させる。
【0023】
図6乃至
図10に示すように各機構を保護するために最外部に配置された2つの固定側板59の間には、遊星歯車機構60、3つの車輪80、車輪駆動機構110、車輪選択機構120、第1可動側板140、第2可動側板142が配置されている。
車輪80は、
図6(b)に示すように厚さ方向中心部に位置する永久磁石(ネオジウム磁石)81と、永久磁石の両外側に位置する補強用の金属部材82とから一体的に構成されている。金属部材82はその外周に設けた凹所82a内に環状の永久磁石81を収容、支持する。本例では、永久磁石81は2つの部材から構成しているが、一体構造の永久磁石であってもよい。
車輪80の中心孔には車輪回転軸85が貫通して固定されており、車輪回転軸85はその両端部を各可動側板140、142の車輪支持孔140a、142aに設けた軸受140b、142bによって回転自在に軸支されている(
図6(b)、(c))。
【0024】
可動側板140、142は、車輪駆動機構110を構成する車輪駆動用モータ111からの駆動力を受けて回転する中央車軸61を挿通する中央孔140c、142cを有し、可動側板間を連結部材(スペーサ)144により固定されている。3つの連結部材144の両端部はビス144aによって各可動側板に固定されている。このため、可動側板140、142は、一定の間隔を保持した状態で保持され、中央車軸61を中心として一体的に正逆回動する。可動側板140、142の間には、3つの車輪80が120度の周方向間隔で回転自在に配置されている。第1可動側板140の外側に搭載された遊星歯車機構60、及び3つの車輪80は、車輪選択機構120からの駆動を受けてこれら可動側板と一体となって中央車軸を中心として回転(公転)する。
【0025】
遊星歯車機構60は、車輪駆動機構110を構成する車輪駆動用モータ111からの駆動力を受けて回転する中央車軸61と、中央車軸61により軸心を固定的に支持されて一体回転する太陽歯車63と、太陽歯車63の外周に120度の周方向間隔で配置されて太陽歯車63により駆動される3つの従動歯車65と、太陽歯車63の外径方向に各従動歯車65を介して120度間隔で配置されて駆動される3つの遊星歯車67と、を有する(
図6乃至
図9)。各従動歯車65は第1可動側板140に固定されたアイドルシャフト65aに対してベアリング65bを介して軸心を回転自在に軸支されている(
図9)。各遊星歯車67は各車輪80の車輪回転軸85により軸心を固定されることにより、各車輪と一体回転する。つまり、太陽歯車63からの駆動力は、従動歯車65を介して遊星歯車67に伝達され、車輪80を回転させる。
中央車軸61に固定された太陽歯車63の軸方向外側には、車輪駆動機構110を構成する第1プーリ113が太陽歯車63と同軸状、且つ一体的に固定されている。従って、車輪駆動機構110を構成する車輪駆動用モータ111が第1プーリ113を正逆回転させることにより、遊星歯車機構60が作動して車輪80を正逆回転させる。
【0026】
図7乃至
図10等に示すように、機構支持部材58に搭載された車輪駆動機構110は、車輪駆動用モータ111と、車輪駆動用モータ111の出力軸に固定された駆動側プーリ(スプロケット)112と、太陽歯車63の軸部に相当する中央車軸61の一端部に軸心を固定された従動側プーリ113と、駆動側プーリ112と従動側プーリ113に巻掛けられたタイミングベルト114と、を備え、車輪駆動用モータ111からの駆動力を太陽歯車63に伝達する。
従動側プーリ113は、
図6(b)に示すように軸受113aにより第1可動側板140に対して相対回転可能に支持されている一方で、従動側プーリ113と太陽歯車63とは一体化されている。従って、従動側プーリ113の駆動力は太陽歯車63に直接伝達され、太陽歯車と一体の車輪回転軸85を回転させる。
【0027】
第1及び第2可動側板140、142は一体化されており、太陽歯車63の軸(中央車軸61)を回転中心として正逆回動(公転)するように構成されており、二枚の可動側板140、142が回動することにより、移動面に接地する車輪が切替られる。第1及び第2可動側板140、142は、中央車軸61に対しては相対回転するように構成されている。
車輪選択機構120は、各可動側板140、142を正逆回動させることにより、各可動側板に支持された遊星歯車67、及び車輪80を回動(公転)させる手段である。
車輪選択機構120は、
図8に示したように、遊星歯車選択用のモータ122と、モータ122の出力軸に軸心が固定された駆動側のプーリ(スプロケット)123と、第2可動側板142に対して同軸状に固定された従動側プーリ124と、両プーリ123、124間にエンドレスに張設されたタイミングベルト125と、を備え、遊星歯車選択用のモータ122からの駆動力を第2可動側板142(第1可動側板140)に伝達して両可動側板を任意の角度、任意の方向に回動させる。
【0028】
従動側プーリ124は、
図6(a)、
図10に示すように第2可動側板142の外側面に固定具124aによって固定されている。第2可動側板142、及び従動側プーリ124は中央車軸61の他端部外周に対して相対回転自在に支持されているため、従動側プーリ124を回動させることにより、第2可動側板142、及び第1可動側板140、更には遊星歯車機構60が中央車軸61を中心として公転する。この時、中央車軸は連れ回転しない。
なお、モータとしては、転舵(操舵)用モータ101、走行用の車輪駆動用モータ111、遊星歯車選択用のモータ(車輪選択用のモータ)122が4つずつ設けられている。各モータは車体に搭載された図示しないバッテリーを電源として駆動する。モータは図示しないコントローラによって遠隔制御、或いは有線による制御を受けるように構成する。
【0029】
次に、
図13(a)乃至(d)は移動装置を変形させた一例を示す正面図、平面図、側面図、及び斜視図を示している。なお、変形規制部材150は図示を省略している。
この図に示すように各変形部20a、20bを変形可能な状態(変形非規制状態)にすることにより、2つの第1非変形部11に対する各2つの第2非変形部15の位置関係を多様に変化させて、走行面の状況に応じて柔軟に対応しつつ移動することが可能になる。
【0030】
<転舵方法>
次に、
図14に基づいて本発明の移動装置における転舵(操舵)方法について説明する。
移動装置1は強力な磁石を有した3つの車輪80から成る4つの車輪ユニットU1〜U4を備えており、走行時には各車輪ユニットは二個の車輪を接地(吸着)させた二輪接地状態にある。
【0031】
ところで、実験によれば、二個の車輪を走行面に吸着させたままの状態で、各車輪ユニットを転舵(操舵)して移動方向を転換するには、転舵用モータ101として大出力の大型モータを採用する必要があることが判明した。二個の車輪の吸着力に抗して車輪ユニットを転舵するには多大な出力を要するためである。
このことは、水平面上に移動装置の各車輪ユニットUが二輪接地状態で吸着している場合は勿論、垂直壁や天井面に各車輪ユニットが二輪接地状態で吸着している場合においても同様であり、方向転換のために各車輪ユニットを転舵するには多大な駆動力を必要とする。
しかし、移動装置の小型、軽量化を目指す上では、転舵用モータの大型化、重量化は絶対に避けたい事項である。
【0032】
そこで本実施形態では、進行方向を転換させるための手法として以下の方法を採用するものである。
即ち、本発明の磁性体壁面等の移動装置の転舵(操舵)方法では、各車輪ユニットを構成する各車輪選択機構120を作動させて、4つの遊星歯車機構60により夫々支持された3つの車輪80のうちの2つの車輪を走行面に接地させておく通常走行モードステップと、一つの車輪ユニットを構成する遊星歯車機構60と対応する車輪選択機構120を作動させて、該遊星歯車機構60により支持された3つの車輪のうちの一つの車輪(既接地の2つの車輪のうちの一つ)だけを走行面に接地させる一輪接地ステップと、その後に遊星歯車機構60と対応する転舵機構を作動させて一つの接地車輪を所定角度転舵させる一輪転舵ステップと、当該車輪選択機構120を作動させて2つの車輪を走行面に接地させる二輪接地への復帰ステップと、残りの3つの車輪ユニットに夫々対応した各車輪選択機構120について、順次前記一輪接地ステップ、一輪転舵ステップ、及び前記二輪接地状態への復帰ステップを実施する。
なお、上記一連のステップを実施する車輪ユニットの順番は走行面の状況などに応じて適宜選定される。
【0033】
以下、
図14に基づいて転舵方法について説明する。なお、この図では移動装置1が水平面上にある状態を示しているが、垂直面、傾斜面、天井面にある場合の転舵手順も同様である。
図14(a)は通常走行モードステップを示しており、この状態では4つの車輪ユニットU1〜U4を構成する2つの車輪80−1、80−2が全て接地しており、同じ進行方向(前方)を向いている。
なお、転舵の操作においては、変形規制部材150は非作動状態としており、各変形部20は多方向への変形が可能な状態にある。また、
図14では変形規制部材は図示を省略している。
【0034】
通常走行モードにおいて矢印で示す進行方向へ向いた各車輪の向きを90度横方向に方向転換するには、まず車輪ユニットU1を
図14(b)に示した一輪接地ステップに移行させることにより走行面と車輪との吸着力を低減しておく。即ち、一輪接地ステップでは、まず何れか一つの車輪ユニット、本例では進行方向前方左側の車輪ユニットU1を構成する車輪選択機構120を作動させて、この車輪ユニットU1を構成する遊星歯車機構60により支持された3つの車輪のうちの一つの車輪(既に接地している2つの車輪80−1、80−2のうちの一つ、本例では第1の車輪80−1)だけを走行面に接地させるように可動側板140、142(遊星歯車機構)を60度だけ公転させる。この操作により、元々接地していた2つの車輪のうちの一方(第2の車輪80−2)が走行面から離間する。
【0035】
一輪接地状態では、二輪接地状態に比して走行面に対する車輪の吸着力が半減するため、転舵のために要するモータの出力を低減させることができる。
なお、一輪接地状態で当該一輪を転舵させるためには、転舵軸である棒状部材52、筒状部材54(懸架部材50)の直下(軸方向延長線上)に第1の車輪80−1の回転軸を位置させる必要があり、上記の如く可動側板140、142(遊星歯車機構)を60度公転させることにより、この位置関係を実現できる。
このように一輪接地状態に移行した後で、車輪ユニットU1と対応する転舵機構100(転舵用モータ)を作動させて当該一つの接地車輪を所定角度、本例では90度、左方向(又は右方向)へ転舵させる(一輪転舵ステップ、
図15(c))。
【0036】
一輪転舵過程では、車輪駆動用モータ111は停止(ロック)状態にある。
こうして一つ目の車輪ユニットU1について一輪状態での転舵を実施してから、上記車輪選択機構120を作動させて前記と逆方向に60度だけ可動側板140、142を公転させることにより、一旦走行面から離間させていた第2の車輪80−2を接地させる。これにより、元々接地していた2つの車輪80−1、80−2を走行面に同時に接地させた状態に戻す二輪接地への復帰ステップが完了する。この過程でも、車輪駆動用モータ111は停止(ロック)状態にある。
最初の車輪ユニットU1に対する一輪接地ステップと、一輪転舵ステップと、二輪接地への復帰ステップを完了した後で、同様のステップを他の車輪ユニットU2、U3、U4に対して順次実施する。即ち、残りの車輪ユニットU2、U3、U4全てについて、夫々一輪接地状態にしてから90度転舵し、その後二輪接地に戻す(
図15(d))。
【0037】
前述のように車輪ユニットに対して一連のステップを実施する順番は、任意に選定できる。
このようにして全ての車輪ユニットU1〜U4を構成する車輪80について進行方向を90度転舵する操作を行ってから、各車輪駆動用モータ111を駆動することにより進行方向を90度転換させた横方向へ移動することが可能になる。
つまり、移動装置1にあっては、進行を停止させた状態において、全ての車輪ユニットについて個別に転舵を行った上で進行方向を転換する。
なお、転舵する角度は元の進行方向に対して180度(左右90ずつ)の範囲内で任意の値に設定することができる。例えば、各車輪ユニットを構成する車輪80の方向を元の進行方向に対して45度傾斜させたい場合には、全ての車輪ユニットについて上記の転舵のための操作を実施し、全ての車輪ユニットの車輪が45度、同方向に方向転換した状態で二輪接地となった段階で車輪駆動用モータ111を駆動することにより、進行方向を45度転換させた斜め方向へ移動することが可能となる。後方へ移動する場合には、転舵後に車輪駆動用モータを逆転させればよい。
【0038】
また
図15(e)の平面略図に示すように車輪ユニットU1とU2、車輪ユニットU3とU4の各車輪を平面視で夫々八の字状に転舵することにより、車体全体をその場で回転させることも可能となる。
【0039】
本発明の転舵方法では、一輪接地状態となるのは常に一つの車輪ユニットのみであり、他の車輪ユニットは二輪接地状態を維持して、走行面に対する強い吸着力を維持している。
この転舵のための操作を水平面上以外の場所、例えば垂直面や傾斜面や天井面で実施するとしても、転舵作業中、3つの車輪ユニットは常に二輪接地状態を維持しているので、合計7個の車輪80からの吸着力によって走行面に吸着し続けることができる。このため、垂直面、天井面を移動している場合であっても、7個の車輪の吸着力の合計によって移動装置の車体重量を充分に支持することができ、落下することがない。
【0040】
特に本発明の移動装置1では、ベース部材2(非変形部11)に対して変形部20を介して各車輪ユニットU1〜U4(非変形部15、懸架部材50、車輪80、転舵機構100)が支持されているため、一つの車輪ユニットだけを一輪接地状態とし、残りの3つの車輪ユニットUが二輪接地状態にある時に、一輪接地状態にある車輪ユニットについてのみ走行面から非変形部15までの距離が他の車輪ユニットと異なってくる。しかし、変形部20の可撓性作用により車輪ユニット間の段差によるストレスを吸収緩和することができるため、各車輪と走行面との間の吸着力が低下して脱落する虞がない。
【0041】
移動装置をロボットとして構成する場合には、転舵のための各種動作は、移動装置に搭載された制御手段が各種センサからの検知信号に基づいて各モータを制御することにより実現される。一方、人間が操作する送信機を用いた無線による遠隔制御により転舵のための各種動作を実施する場合には、
図16に示した遠隔制御のための回路構成が必要となる。
即ち、移動装置1側に設けられた受信機170は同調回路171、検波回路172、信号増幅回路173等を備えており、送信機160から受信した制御信号に基づいて制御対象物としてのモータ175(転舵用モータ101、車輪駆動用モータ111、遊星歯車選択用のモータ122)の駆動を制御する。
なお、有線による制御とすることもできる。
【0042】
<水平面から垂直面への移行動作>
次に、移動装置が水平面上から垂直面に移行する場合の手順について説明する。
図17(a)乃至(c)、
図18(d)乃至(f)、
図19(g)は本発明の移動装置が水平面上から垂直面上に移動する場合の手順を説明する図面である。
図17(a)では移動装置1は全ての車輪ユニットU1〜U4を二輪接地させた状態で水平面G上に沿って矢印で示す進行方向へ移動しており、移動先には垂直面Vが位置している。この時の太陽歯車63と従動歯車65と遊星歯車67の回転方向は(a)中に示した通りであり、太陽歯車63を反時計回り方向へ回転することにより、各従動歯車65を介して駆動力を伝達される各遊星歯車67は反時計回り方向へ回転し、各車輪80を前進方向へ回転させる。
水平面Gを移動する際には、図示しない変形規制部材150により変形部20を変形しない状態としておくが、水平面から垂直面に移行するためには、変形部20を変形可能な状態としておく。この際の切替えは、手作業でもよいし、無線による操作でも良い。或いは、移動装置に搭載したセンサが垂直面の存在を検知することにより、この検知信号に基づいて制御手段が変形規制部材を作動させて変形部を変形可能な状態に移行させるようにしてもよい。
【0043】
移動装置1が水平面Gから垂直面Vに移行してこれに沿って上昇移動するためには、まず(b)のように2つの前部の車輪ユニットU1、U2の前輪(第1の車輪80−1)が垂直面Vと接するまで移動する。第1の車輪80−1が垂直面Vに接して前進を阻止されたことにより、従動歯車65を介して太陽歯車63からの駆動力を受ける遊星歯車67の作用により、可動側板140、142、及び遊星歯車機構60が(c)中に矢印で示す反時計回り方向へ公転を開始し、第2の車輪80−2を水平面Gから離間させる。第2の車輪80−2は、第3の車輪80−3が垂直面Vと接触(吸着)するまで反時計回り方向へ公転し続ける。
なお、この動作はあくまで遊星歯車機構本来の機能により実現されるものである。つまり、車輪選択機構120が作動して可動側板140、142を回転させることによりこの動作を実現するのではなく、車輪(遊星歯車)選択用のモータ122はフリーの状態となっている。
【0044】
続いて太陽歯車63を前進方向へ駆動し続けると、垂直面Vと吸着している第3の車輪80−3と第1の車輪80−1とが前進方向へ回転することにより、前部の2つの車輪ユニットU1、U2が垂直壁を登り始める。この時、各機構支持部材58、及び各固定側板59は、中央車軸61を中心として各車輪ユニットU1、U2に対して時計回り方向(垂直面から離間する方向)へ相対回転するため、垂直面と干渉することなく、各車輪ユニットをスムーズに上昇させることができる((d))。この時、後部の車輪ユニットU2、U4も前進を続けている。
【0045】
(e)は前部の車輪ユニットU1、U2が更に上昇を続けた状態を示しており、この間、後部の車輪ユニットU3、U4も垂直面Vに向けて移動を継続しているため、最終的には(f)のように後部の車輪ユニットU3、U4の夫々の前輪(第1の車輪80−1)が垂直面Vに接触する。後部の車輪ユニットU3、U4の夫々の前輪である第1の車輪80−1が垂直面に接触した後は、前部の車輪ユニットU1、U2について説明したように遊星歯車機構60の作用によって第2の車輪80−2が水平面Gから離脱すると共に、第3の車輪80−3が垂直面Vに吸着する。その結果、後部の車輪ユニットU3、U4も第1及び第3の車輪80−1、80−3が垂直面Vに吸着した状態で上昇を開始する((g))。
【0046】
以上の全行程において、前部の車輪ユニットU1、U2と後部の車輪ユニットU3、U4間を連結するメインフレーム10は、変形部20において上下方向へ変形することができるため、水平面上から垂直面上への移行をスムーズに行うことができる。
なお、水平面から上向きに傾斜した面に移行する場合にも、垂直面Vから天井面に移行する場合にも、水平面から垂直面に移行する場合と同様の動作手順を実施することにより、スムーズな移行が可能となる。
【0047】
<オーバーハング部の乗り越え動作>
次に、オーバーハング部の乗り越え動作について説明する。
図20(a)乃至(f)及び
図21(g)乃至(j)は、移動装置がオーバーハング部を乗り越える手順を示す図である。
【0048】
本発明の移動装置1によれば、オーバーハング部200の水平な下面201を逆立ちの状態で走行している状態から、垂直な側面202を乗り越えて上面203へ移行させることができる。
オーバーハング部200を乗り越える際には、図示しない変形規制部材150による規制を解除して変形部20a、20bの変形を許容すると共に、遊星歯車選択用のモータ122をフリーの状態にしておく。これにより遊星歯車機構を支持した可動側板140、142は自由に正逆回転する状態となっている。この状態で各車輪ユニットU2〜U4の車輪駆動用モータ111を進行方向へ駆動する。
【0049】
図20(a)ではオーバーハング部200の下面201に対して各車輪ユニットU1〜U4の2つの車輪80−1、80−2が同時に接地した状態で吸着しながら矢印で示す進行方向へ移動する。
図20(b)、(c)は前部の車輪ユニットU1、U2の第1の車輪80−1が下面20とエッジE1に吸着し続けながらこれを乗り越えて側面202に移動する過程を示している。このエッジ乗り越え過程では、第2の車輪80−2も下面201とエッジE1に吸着し続けながら側面202へ移動して行く((d))。この間、接地状態にある第1及び第2の車輪80−1、80−2は走行面である下面201、エッジE1、側面202に強い吸着力で吸着し続けるため、走行面から一瞬たりとも離脱することがなく、走行面から落下する虞がなくなる。
【0050】
この例では、側面202の上下方向長がメインフレーム10の長さよりも大幅に短いため、(e)(f)に示すように前部の車輪ユニットU1、U2の第1、及び第2の車輪80−1、80−2が上部エッジE2を乗り越える過程で、後部の車輪ユニットU3、U4は下部のエッジE1に達し、エッジE1を乗り越え始める。
その後は、
図21(g)(h)に示すように前部の車輪ユニットU1、U2の第1、及び第2の車輪80−1、80−2が上部エッジE2を乗り越えた後で、後部の車輪ユニットU3、U4の第1、及び第2の車輪80−1、80−2が下部エッジE1から側面202に移行する。
前部の車輪ユニットU1、U2が上部エッジE2を乗り越える場合には、下部エッジE1を乗り越える場合と同様の動作が行われる。即ち、前部の車輪ユニットU1、U2の第1の車輪80−1が上部エッジE2に吸着しながらこれを乗り越える。
【0051】
また、後続する第2の車輪80−2も第1の車輪80−1と同様に下部エッジE1に吸着しながら下面201から側面202へ移行する。
この際、後部の車輪ユニットU3、U4は変形部20が変形することにより前部の車輪ユニットU1、U2の動作に影響を与えないようになっている。
更に、(i)(j)では後部の車輪ユニットU3、U4の第1、及び第2の車輪80−1、80−2が上部のエッジE2を乗り越えて上面203に移行する。
後部の車輪ユニットの第1及び第2の車輪が上部エッジE2を乗り越える手順は、前部の車輪ユニットの場合と同じである((i))。
このようにして最後は(j)に示すように前後の車輪ユニットは完全に上面203上に移行して二輪接触状態で進行することができる。
前後の車輪ユニットは変形部により連結されているため、後部の車輪ユニットU3、U4が下部エッジE1を乗り越える時と、上部エッジE2を乗り越える時に、互いに影響を与えることなくスムーズな乗り越えが可能となる。
なお、上面203上から側面202を乗り越えて下面201へ移行する場合は上記と逆の手順を経る。
移動装置の背丈を大幅に超えるオーバーハング部を越えることができる以上、背丈と同等、或いは背丈以下の小サイズの突起、凹所を通過できることは当然である。
【0052】
<移動装置の応用例>
本発明の壁面等の移動装置1は、種々の計測機器等を搭載した状態で、橋梁、その他の建造物(検査対象物)の壁面、点正面に沿って移動することにより、各種計測を実施することができる。
移動装置1が搭載する計測機器の一例としては、打音検査を行う打音検査ユニットを例示することができる。
打音検査ユニットは、橋梁等の検査対象物の被測定部位に打撃を加えて音を発生させる打撃部と、打撃部によって発生した音を収集する音カメラと、から構成する。打撃部と音カメラは夫々別個の移動装置1のベース部材2上に搭載する。
打撃部は、例えばベース部材2上に搭載した折り畳み式アームの先端部分に配置した打撃手段、例えばシュミットハンマーを用いる。
【0053】
音カメラとは、特許第4722347号公報に記載されているように、直交する2本の直線上に所定の間隔を隔てて配置された2組のマイクロフォン対と撮像装置とを有し、一つのマイクロフォン対に入力する音の到達時間差と、他のマイクロフォン対に入力する音の到達時間差とから音の発生源方向と特定し、撮像された画像に音の発生源方向を表示する手段である。
打音測定時は、打撃部を搭載した一方の移動装置を検査対象物の被測定部位から所定距離離れた位置に配置し、シュミットハンマーを被測定部位に打ち付けることにより打音を発生させる。一方、音カメラを搭載した他の移動装置1は被測定部位からの打音を集音するのに適した位置に配置し、打音を音カメラで収集する。
被測定物である構造物に亀裂、空洞等の欠陥が存在すると、音の伝搬状態が変わるので、その伝搬状態変化を捉えることにより欠陥の存在を知ることができる。複数のセンサで音を検知し、各音の位相差により音源を特定する。これを映像上にオーバーラップさせる。
シュミットハンマーで被測定物を打撃する箇所は特定できているため、特定した箇所と音カメラとで検出した音源との関係から様々な欠陥を把握することができる。
【0054】
移動装置は、磁性体からなる検査対象物であれば、垂直面、天井面は勿論、凹凸、オーバーハング部等々を遠隔操作により移動することができるので、人が立ち入るのには危険な箇所を無人化して点検することができる。
このため、各種インフラの状況を適宜監視して異常の発生を報知する上で効果的である。
【0055】
<発明の構成、作用、効果のまとめ>
第1の本発明に係る壁面等の移動装置は、ベース部材2と、該ベース部材を間に挟んで並行に対向配置されて前後方向へ延びる2つのメインフレーム10と、各メインフレームの前部と後部に夫々回動自在に軸支された懸架部材(懸架装置)50と、各懸架部材により夫々支持され、一つの太陽歯車63、3つの従動歯車65、及び3つの遊星歯車67を有した遊星歯車機構60と、各遊星歯車67と一体回転し、磁性体から成る走行面に吸着する永久磁石81を有した車輪80と、懸架部材50をその軸心を中心として回動させる転舵機構100と、遊星歯車機構60を介して車輪80を回転駆動する(自転させる)車輪駆動機構110と、遊星歯車機構60を公転させて走行面に接地させる車輪を選択する車輪選択機構120と、を備え、各メインフレーム10の少なくとも一部には、該各メインフレームの変形を容易にする変形部20が設けられていることを特徴とする。
車輪80が有する永久磁石により磁性体から成る走行面に吸着することにより車体(メインフレーム)全体を例えば橋梁等の構造物の各所(垂直面、傾斜面、天井面等)に対して密着させながら移動することができる。
【0056】
また、車輪を遊星歯車機構を介して駆動する構成なので、走行面に段差等があってもそれを乗り越えることができる。特に、メインフレームの一部に変形部があるため、一部の車輪が凸部に乗り上げたり、凹所内に入り込むことにより他の車輪との高低差が発生したとしても、変形部がメインフレームを自在に変形させて高低差によるストレスを吸収緩和することができる。その結果、メインフレームが凸部などを乗り越える際に凸部に引っ掛かりを起こして車輪を走行面から浮かせたり、脱落させるという不具合を解消できる。
また、水平面に形成された凸部がメインフレームの高さを超える大きさを有している場合であっても、まず前輪が大きな凸部の壁面に移動して吸着しながらこれを登ることができる。後続する後輪も同様の壁面に移動してこれを登ることができる。凸部を乗り越えてから凸部の反対側の壁面を下降して行く場合にも遊星歯車機構の作用によってスムーズに乗り越え、且つ下降することができる。
【0057】
メインフレームの高さを超える大きな凸部が垂直壁や傾斜壁に形成されたオーバーハングである場合にも同様の手順によって乗り越えることができる。
このように単なる小凸部ではなく、メインフレームの背丈を大きく超える凸部を乗り越えることができる理由は、メインフレームの要所に変形部20を配置したことにある。変形部の前後のメインフレーム部分が多方向に変位することができるため、メインフレームが全体として柔軟性を持つこととなり、大きな凸部の乗り越えが可能になる。
なお、本発明は、四輪のみならず、三輪、五輪等々の構成にも適用することができる。
【0058】
第2の本発明に係る壁面等の移動装置は、メインフレーム10は、少なくとも、ベース部材2の横方向両端部に夫々固定される非変形部11と、非変形部から前方、及び後方へ夫々延びる2つの変形部20と、各変形部20により支持された非変形部15と、を備えていることを特徴とする。
メインフレームのどの部位を変形部とするかは任意であるが、メインフレームの略中央部に非変形部11を設けた場合には、非変形部の前部と後部に夫々変形部20を設け、前部と後部の各変形部20に夫々非変形部としての懸架部材支持部15を設ける。
なお、各非変形部11はベース部材の一部であってもよいし、メインフレームの一部としてもよい。
変形部とは、メインフレームを全体としてリジッドに構成した場合のデメリットを解消するために、メインフレームの長手方向適所に部分的に配置する可撓性をもたせた部位のことである。非変形部はその材質が可撓性を有するか否かとは無関係に、変形部よりも剛性を有しているために変形しにくいことを意味する。
【0059】
第3の本発明に係る壁面等の移動装置は、変形部20が、全方位への変形が可能であることを特徴とする。
変形部の前後に位置するメインフレーム部位の変形方向を、走行面に対して上下、左右、斜め等々、全方位とすることにより、走行面の多様な状況に応じて安定して車輪を吸着させながら移動することが可能になる。なお、変形方向を全方位とせず、上下方向、左右方向、或いは斜め方向の一方向に限るようにしてもよい。
【0060】
第4の本発明に係る壁面等の移動装置は、変形部20が、弾性部材、又はユニバーサルジョイントから構成されていることを特徴とする。
全方位方向への変形を可能にするためには、ゴム、樹脂等の弾性部材を用いたり、ユニバーサルジョイントを用いることが可能である。
【0061】
第5の本発明に係る壁面等の移動装置は、変形部20の変形量、変形方向を規制する変形規制部材150を備えていることを特徴とする。
変形部の変形を規制したり変形を許容するための変形規制部材150を設けている。
変形規制部材150は、例えばメインフレーム10に予めスライド自在に取り付けた筒状体、その他の部材であり、手動、或いは遠隔操作により作動するモータにより作動するように構成する。
走行面の状況に応じて変形部をフリーに変形させることが好ましくない場合には変形規制部を作動させて変形自体を禁止したり、変形方向を制限することが有効である。即ち、移動装置が平坦な水平面を移動する場合等、状況に応じて変形部の変形を規制してメインフレーム全体がリジッドな構成となるようにしてもよい。
変形自由度が高すぎると、走行中に予測しない変形をもたらし、特に平坦面の走行時に支障が生じるので、変形を完全に拘束してもよい。一方、凸部、凹部を乗り越える場合には変形部が変形することがスムーズな走行をもたらす。また、移動装置の運搬時に、車輪ユニットが接近して車輪同志が吸着することを避けるためには、変形を規制する手段を設けることが好ましい。即ち、移動装置を車両等に乗せて移動する場合に、永久磁石を有した車輪同志が接近して吸着することを避けるためにメインフレームをリジッドにしておくことが好ましい。
一方、水平面から垂直面へ移動する場合やその逆の場合、その他凸部を乗り越える場合にはメインフレームが変形することによりスムーズな移動が可能となる。
【0062】
本発明に係る壁面等の移動装置の操舵(転舵)方法は、各車輪選択機構120を作動させて、4つの遊星歯車機構60により夫々支持された3つの車輪80−1、80−2、80−3のうちの2つの車輪80−1、80−2を走行面に接地させる通常走行モードステップと、一つの遊星歯車機構と対応する車輪選択機構を作動させて、該一つの遊星歯車機構により支持された3つの車輪のうちの一つの車輪(車輪80−1、80−2のうちの一つ)だけを走行面に接地させる一輪接地ステップと、一つの遊星歯車機構に対応する一つの転舵機構100を作動させて接地状態にある一つの車輪を所定角度転舵させる一輪転舵ステップと、一つの車輪選択機構を作動させて2つの車輪を走行面に接地させる二輪接地への復帰ステップと、残りの3つの遊星歯車機構と夫々対応する各車輪選択機構について、順次一輪接地ステップ、一輪転舵ステップ、及び二輪接地への復帰ステップを実施することを特徴とする。
【0063】
転舵時に特定の車輪ユニットの車輪を二輪接地から一輪接地にするため、走行面に対する車輪の磁着力を一時的に減少させ、容易に転舵することができる。一方、転舵完了後は車輪を二輪接地モード(通常走行モード)に変更することで、強い磁着力を復活させ、移動装置が構造物から脱落しないよう構成している。
車輪の永久磁石は、全ての車輪ユニットが二輪接地状態にある場合には、移動装置が天井面に吸着している場合においても車体や搭載物が落下しないくらい強力な磁力を発揮する。このため、二輪接地状態では、方向転換時において扱いにくい。そこで、強制的に一輪状態にする。
【0064】
一方、移動装置が天地を反転させた状態で各車輪が磁性体から成る走行面に磁着している場合に、転舵時に全ての車輪ユニットを一輪接地状態にすると、磁着力の低下により移動装置が構造物から落下する恐れがあるので、転舵を実施する過程では、常に一つの車輪ユニットだけを一輪接地状態とし、残りの車輪ユニットについては二輪接地状態として充分な吸着力を確保する。
即ち、本発明の転舵方法では、4つの車輪ユニットを一個ずつ転舵させる。転舵のための操作を受けていない他の3つの車輪ユニットは二輪接地状態にある。このため、一つの車輪ユニットが一輪接地状態になっていても、二輪接地状態にある残りの3つの車輪ユニットの吸着力によって車輪による吸着安定性を確保することができる。
この際、一つの車輪ユニットと他の3つの車輪ユニットとの間の高低差を変形部が吸収緩和する。即ち、一輪接地状態にある一つの車輪ユニット(懸架部材)と二輪接地状態にある他の三つの車輪ユニットの走行面からの高さ位置が異なってくるため、車体(メインフレーム)に歪みが生じる。つまり、車輪ユニット間に高低差が生じた時に車体(メインフレーム)がリジッドであると、一輪接地状態になった車輪ユニットに連れられて隣接する他の車輪ユニットの二輪が走行面から浮き上がったり、或いは二輪で接地した状態にある他の3つの車輪ユニットからの抵抗増大により一輪への転舵が困難化する等の不具合が発生する。
【0065】
本発明では各メインフレームの少なくとも一部が一方向、二方向、或いは多方向に変形するため、各車輪ユニット間の高低差を変形部が吸収緩和し、安定した転舵を行うことができる。
進行方向を変更する場合には、自動車のように前輪のみを転舵させてカーブするのではなく、4つの車輪ユニットの車輪を全て転舵(方向転換)させた後で車体全体を当該方向へ移動させる。移動方向としては、前進、後退、横方向移動、斜め方向(以上、直進運動)、その場での回転等々、種々のパターンがある。
なお、車体の重量などとの関係で、2つの車輪ユニットを一輪接地状態にしても吸着力が低下する虞が明らかにない場合は、2つの車輪ユニットを同時に一輪接地状態にして転舵させてもよい。