特許第6351481号(P6351481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6351481-空気入りタイヤの製造方法 図000002
  • 特許6351481-空気入りタイヤの製造方法 図000003
  • 特許6351481-空気入りタイヤの製造方法 図000004
  • 特許6351481-空気入りタイヤの製造方法 図000005
  • 特許6351481-空気入りタイヤの製造方法 図000006
  • 特許6351481-空気入りタイヤの製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351481
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/38 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   B29D30/38
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-220335(P2014-220335)
(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公開番号】特開2016-87792(P2016-87792A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】沖 康弘
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−276268(JP,A)
【文献】 特表2000−512586(JP,A)
【文献】 米国特許第05709760(US,A)
【文献】 特開平10−338001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/38−30/46
B60C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコードが並列に配置されたカーカスプライを円筒状のフォーマに巻回した後に裁断し、始端部と終端部とを重ね合わせてジョイントすることにより、ジョイント部が形成された円筒状のカーカスプライを形成する空気入りタイヤの製造方法であって、
前記複数のコードが前記カーカスプライの幅方向に対して3〜7°傾斜している前記カーカスプライを前記フォーマの軸方向に対して平行に裁断し、前記ジョイント部を幅3〜20mmに形成することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記複数のコードが前記カーカスプライの幅方向に対して傾斜している角度が3〜5°であり、前記ジョイント部を幅3〜15mmに形成することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のコードを有するカーカスプライの始端部と終端部とを重ね合わせてジョイントすることにより、ジョイント部が形成された円筒状のカーカスプライを形成する空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCRタイヤ(乗用車用タイヤ)などに用いられるカーカスプライは、図3に示すように、複数のコード52がカーカスプライ50の幅方向に対して平行に配列されて構成されている。なお、図3は従来の空気入りタイヤの製造方法に用いられるカーカスプライを模式的に示す図である。
【0003】
図4は従来の空気入りタイヤの製造方法におけるカーカスプライの成形を模式的に示す図である。図4に示すように、カーカスプライ50は、フォーマ(図示省略)上に巻回されて、始端部54と終端部56とを重ね合わせてジョイントされることにより、所定の重なり量(例えば6mm)のジョイント部58を有した円筒状のカーカスプライに成形される。
【0004】
しかし、このジョイント部58では、図5に示すように、複数本のコード52が密集して配置されており、タイヤ作製後に他の部分よりも剛性が強くなり、作製後のタイヤに空気を充填する際に、他の部分よりもコード52が伸びずに、タイヤ側面のサイドウォール部においてバルジデント(凹凸)が生じて外観品質を低下させる恐れがある。なお、図5はバルジデント発生のメカニズムを説明するための側面断面図である。
【0005】
このバルジデントの発生を防止するため、従来より、ジョイント幅を小さくする、サイドウォール部を厚くする、ケーステンションを高くするなどの対策が取られている。
【0006】
また、図6に示すように、カーカスプライ60を、コード62に対して所定の角度で斜めに裁断し、始端部64と終端部66とをジョイントすることにより、ジョイント部68の剛性を低下させてバルジデントの発生を抑制する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−225808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した何れの技術においても、カーカスプライのジョイント部におけるバルジデントの発生の防止については、未だ十分とは言えず、さらなる改善が求められていた。
【0009】
例えば、上記したように、ジョイント幅を小さくした場合には、ジョイント幅がばらつき易くなり、コード間が開くマイナスジョイントが発生する恐れがある。一方、サイドウォール部を厚くしても、バルジデントの発生を充分に抑制できず、作業性の悪化も生じる。また、ケーステンションを高くし過ぎると、コードがタイヤ表面に浮き出る、いわゆる内面コード見え(O/TH)が発生する恐れがある。
【0010】
また、上記したカーカスプライを斜めに裁断する技術の場合、所定の裁断角度を保って手動でカーカスプライを裁断することが困難であるため、高精度の裁断設備を導入する必要があるが、導入に際して多大な設備費用が発生するという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、カーカスプライのジョイント部におけるバルジデントの発生を、多大な設備費用を必要とすることなく、適切に防止することができる空気入りタイヤの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下に記載する発明により上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
請求項1に記載の発明は、
複数のコードが並列に配置されたカーカスプライを円筒状のフォーマに巻回した後に裁断し、始端部と終端部とを重ね合わせてジョイントすることにより、ジョイント部が形成された円筒状のカーカスプライを形成する空気入りタイヤの製造方法であって、
前記複数のコードが前記カーカスプライの幅方向に対して3〜7°傾斜している前記カーカスプライを前記フォーマの軸方向に対して平行に裁断し、前記ジョイント部を幅3〜20mmに形成することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、
前記複数のコードが前記カーカスプライの幅方向に対して傾斜している角度が3〜5°であり、前記ジョイント部を幅3〜15mmに形成することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カーカスプライのジョイント部におけるバルジデントの発生を、多大な設備費用を必要とすることなく、適切に防止することができる空気入りタイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法に用いられるカーカスプライを模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法におけるカーカスプライの成形を模式的に示す図である。
図3】従来の空気入りタイヤの製造方法に用いられるカーカスプライを模式的に示す図である。
図4】従来の空気入りタイヤの製造方法におけるカーカスプライの成形を模式的に示す図である。
図5】バルジデント発生のメカニズムを説明するための側面断面図である。
図6】従来の空気入りタイヤの製造方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態に基づき、図面を参照しつつ本発明を具体的に説明する。
【0018】
1.カーカスプライの成形
図1は本実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法に用いられるカーカスプライを模式的に示す図であり、図2は本実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法におけるカーカスプライの成形を模式的に示す図である。
【0019】
本実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、従来の空気入りタイヤの製造方法と同様に、複数のコード12が並列に配置されたカーカスプライ10を円筒状のフォーマ(図示省略)に巻回した後に裁断し、始端部14と終端部16とを重ね合わせてジョイントすることにより、ジョイント部18が形成された円筒状のカーカスプライを形成する。
【0020】
しかし、本実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法では、図1に示すように、複数のコード12がカーカスプライ10の幅方向に対して3〜7°傾斜しているカーカスプライ10を、フォーマの軸方向に平行に裁断し、ジョイント部18を幅3〜20mmに形成する点で従来の製造方法と異なる。
【0021】
このように、複数のコード12が所定の角度で傾斜したカーカスプライ10を、カッター刃がコード12に沿わないように、フォーマの軸方向に平行(図1中のカーカスプライ10の長手方向に対する垂直方向)に裁断することにより、裁断後のカーカスプライ10の始端部や終端部に、途中で切断されたコード12aが複数本(図1では2本)形成される。
【0022】
そして、本実施の形態においては、図2に示すように、途中で切断されたコード12aが複数形成された始端部14と終端部16とを重ね合わせてジョイントすることにより、ジョイント部18を形成し、円筒状のカーカスプライを成形する。
【0023】
このように、途中で切断されたコードがジョイント部に配置された円筒状のカーカスプライを用いて空気入りタイヤを作製した場合、ジョイント部と他の部分との間で剛性差が生じることが抑制されるため、作製後のタイヤに空気を充填した際に、タイヤ側面のサイドウォール部におけるジョイント部にバルジデントが発生することを適切に防止することができる。
【0024】
具体的には、従来の技術では、作製後のタイヤの幅方向の両端部には、一対のビードが配置されており、一方のビードと他方のビードの間がカーカスプライのコードにより繋がれている。そして、ジョイント部においては、このコードの本数が他の部分よりも多くなるために剛性が増加して、他の部分との間で剛性差が生じていた。
【0025】
これに対して、本実施の形態によれば、ジョイント部18に途中で切断されたコード12aが形成されており、ジョイント部18においてはコードの本数が他の部分よりも多くなるが、途中で切断されたコード12aがビードとビードとの間で繋がっていないため、剛性の増加を抑制することができる。
【0026】
この結果、ジョイント部18と他の部分との間の剛性差を従来よりも小さくすることができ、作製後のタイヤのサイドウォール部にバルジデントが発生することを適切に防止することができる。
【0027】
また、本実施の形態においては、コード12が、カーカスプライ10の幅方向に対して予め所定の角度で傾斜しているため、カーカスプライ10を裁断する際にフォーマの軸方向に平行にカッター刃を走らせるのみで、途中で切断されたコード12aを容易に形成することができる。このため、図6のようなコード62が幅方向に沿って配置されたカーカスプライ60を斜めに裁断する場合のように、高精度の裁断設備を導入する必要がなく、簡素で安価な既存の裁断設備をそのまま使用することができる。
【0028】
さらに、従来のように、ジョイント幅を小さくする必要がない。ジョイント幅を従来よりも広く設定しても、途中で切断されたコードにより剛性の増加が抑制されるため、コード間が開くマイナスジョイントを適切に防止することができる。また、サイドウォール部を薄くすることもできるため、作業性を従来よりも向上させることができる。そして、ケーステンションを高くする必要もないため、内面コード見え(O/TH)の発生も抑制することができる。
【0029】
2.コードの傾斜角度
カーカスプライ10の幅方向に対するコード12の傾斜角度は、上記したように、3〜7°の範囲内に設定することが好ましく、3〜5°の範囲内に設定することがより好ましい。
【0030】
カーカスプライ10の幅方向に対するコード12の傾斜角度が3°未満の場合は、途中で切断されたコード12aの本数が少なくなり、ジョイント部18における剛性の増加を抑制させることが難しくなる。このため、ジョイント部18の重なり幅を狭くする必要がでてくる。
【0031】
一方、傾斜角度が7°を超える場合は、コード12aがラジアル方向に配置されなくなるため、ラジアルタイヤ本来の効果が薄れてしまう可能性がある。
【0032】
3.ジョイント部の幅
上記したように、ジョイント部18の幅は、3〜20mmの範囲内に設定することが好ましく、3〜15mmの範囲内に設定することがより好ましい。
【0033】
ジョイント幅が3mm未満の場合、インフレート時にジョイント部18が開いてしまう恐れがある一方、20mmを超える場合、途中で切れていないコード12がジョイント部18に多く配置されて、ジョイント部18における剛性の増加を適切に抑制することが難しくなる。
【実施例】
【0034】
1.第1の試験
(1)試験例1〜4
第1の試験では、コードを傾斜させた(傾斜角度3°)カーカスプライを用いたタイヤと、コードが平行なカーカスプライとを用いて、タイヤサイズ155/65R13の乗用車用タイヤを作製し、コードの傾斜による効果を評価した(試験例1〜4)。
【0035】
具体的には、試験例1では、コードが傾斜したカーカスプライを用いると共に、ジョイント幅を3mmに設定した。一方、試験例2では、コードが平行なカーカスプライを用い、ジョイント幅を試験例1と同じ3mmに設定した。
【0036】
また、試験例3では、コードが傾斜したカーカスプライを用いると共に、ジョイント幅を6mmに設定した。試験例4では、コードが平行なカーカスプライを用い、ジョイント幅を試験例3と同じ6mmに設定した。
【0037】
(2)評価方法
作製した乗用車用タイヤをインフレートし、カーカスプライのジョイント部におけるバルジデントがサイドウォール部に認められるか否かについて目視と手触りによる官能評価を行い、以下の5段階評価を行った。
評点5 :バルジデントは確認されない。
評点4 :バルジデントは触ると分かる程度。
評点3.5:バルジデントは目視で確認できるが、軽度で目立たない。
評点3 :バルジデントが目視で確認され、実用上問題の可能性がある。
評点2 :重度のバルジデントが確認され、実用上問題がある。
評点1 :ジョイント部のオープン等の異常な膨らみが認められる。
【0038】
(3)評価結果
評価結果は、試験例1は5点、試験例2は4点、試験例3は4点、試験例4は3点であった。試験例1と試験例2との評価結果、また、試験例3と試験例4との評価結果を比較すると、ジョイント幅が同じである場合、コードを所定の傾斜角で傾斜させたカーカスプライを用いることにより、バルジデントの発生を適切に抑制して、外観品質に優れた空気入りタイヤを作製できることが確認された。
【0039】
2.第2の試験
(1)試験例5〜7
第2の試験では、バルジデントの抑制とジョイント幅との関係を調べるために、同じ傾斜角度でコードが傾斜したカーカスプライを用い、ジョイント幅をそれぞれ異ならせて乗用車用タイヤを作製した(試験例5〜7)。
【0040】
なお、試験例5〜7のコードの傾斜角度は全て3°に設定し、試験例1のジョイント幅は9mm、試験例2は15mm、試験例3は18mmに設定した。
【0041】
(2)評価方法
上記した第1の試験と同様に、作製した乗用車用タイヤをインフレートした後、バルジデントが認められるか否かについて5段階の官能評価を行った。
【0042】
(3)評価結果
評価結果は、試験例1は4点、試験例2は3.5点、試験例3は3点であった。このことから、ジョイント部の幅を小さくすることにより、バルジデントの発生がより適切に防止され、優れた外観品質の空気入りタイヤを作製できることが確認できた。
【0043】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10、50、60 カーカスプライ
12、52、62 コード
12a 途中で切断されたコード
14、54、64 始端部
16、56、66 終端部
18、58、68 ジョイント部
図1
図2
図3
図4
図5
図6