(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1又は2に記載の圧縮機と、前記圧縮機に接続される凝縮器と、前記凝縮器に接続される膨張装置と、前記膨張装置に接続される蒸発器とを備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス冷媒を圧縮する圧縮機において、ガス冷媒が圧縮機構部に吸い込まれる際に発生するガス冷媒の脈動による圧力波の共振作用により圧縮機構部に吸い込まれるガス冷媒の量が多くなる吸込過給効果を利用し、この吸込過給効果によって圧縮機の能力を増大することが知られている。この吸込過給効果を圧縮機の最大回転数のときに得られるようにすることにより、圧縮機の最大能力を増大でき、最小能力から最大能力までの能力可変幅を大きくすることができる。
【0003】
この吸込過給効果が得られる圧縮機の共振ピーク回転数f(s
−1)は、下記特許文献1に記載されているように、f=(2m−1)C/4{L+(V/A)}の式から求められる。
但し、
mは、1、2、3、…、の関数
Cは、ガス冷媒を伝わる音の速さ(m/s)
Lは、ガス冷媒が流れる吸入管の長さ(m)
Vは、圧縮機構部の排除容積(m
3)
Aは、吸入管の断面積(m
2)
である。
【0004】
このため、伝わる音の速さCが大きくなるガス冷媒を使用する場合には、従来の冷媒を使用する場合と同一の構成では吸込過給効果が得られる共振ピーク回転数fが大きくなり、圧縮機の許容回転数の範囲より高回転側にシフトすることがある。そこで、伝わる音の速さCが大きくなるガス冷媒を使用する場合において、共振ピーク回転数fを圧縮機の許容回転数の範囲内に保つためには、L+(V/A)を大きくする必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は冷凍サイクル装置1の全体構成を示しており、この冷凍サイクル装置1は、圧縮機本体2とこの圧縮機本体2とは別体に配置されたアキュムレータ3とを有してガス冷媒を圧縮する回転式圧縮機4と、圧縮機本体2に接続されて圧縮機本体2から吐出された高圧・高温のガス冷媒を凝縮して液冷媒にする凝縮器5と、凝縮器5に接続されて液冷媒を減圧する膨張装置6と、膨張装置6とアキュムレータ3との間に接続されて膨張した液冷媒を蒸発させる蒸発器7とを有している。アキュムレータ3はその上部に蒸発器7で蒸発したガス冷媒が導入される導入口3aを有し、アキュムレータ3内では導入口3aから導入されたガス冷媒に含まれる液冷媒が分離される。アキュムレータ3と圧縮機本体2とは、ガス冷媒のみが流れる吸入管8により接続されている。
【0011】
吸入管8は、アキュムレータ3の底部を貫通して設けられ、一端がアキュムレータ3内部の上方に開口し、他端が圧縮機本体2に設けられた後述する圧縮機構部の吸込口に連通されている。
【0012】
この冷凍サイクル装置1では、R32冷媒或いはR32冷媒を70重量%以上含む混合冷媒が使用され、回転式圧縮機4でそのガス冷媒が圧縮されるようになっている。
【0013】
圧縮機本体2は、円筒状に形成された密閉ケース9を有し、この密閉ケース9内に、電動機部10とこの電動機部10により駆動されてガス冷媒を圧縮する圧縮機構部11とが収容されている。これらの電動機部10と圧縮機構部11とは、電動機部10が上方に配置されて圧縮機構部11が下方に配置され、電動機部10と圧縮機構部11とは上下方向に延出して軸心回りに回転可能な回転軸12により連結されている。密閉ケース9内の底部には潤滑油13が貯留されている。
【0014】
電動機部10は、回転軸12に固定された回転子14と、密閉ケース9の内側に固定されて回転子14を囲む位置に配置された固定子15とを有している。回転子14には永久磁石(図示せず)が設けられ、固定子15にはコイル(図示せず)が巻かれている。この電動機部10は、コイルに通電することにより回転子14と回転軸12とが回転軸12の軸心回りに回転するようになっている。
【0015】
圧縮機構部11は、密閉ケース9の内側に固定されて上下方向の両端が開口されたシリンダ16を有している。このシリンダ16には、シリンダ16の上端側を閉塞する閉塞部材として機能する主軸受17と、シリンダ16の下端側を閉塞する閉塞部材として機能する副軸受18とが固定されている。シリンダ16の両端が主軸受17と副軸受18とで閉塞されることにより、シリンダ16内にシリンダ室19が形成されている。
【0016】
シリンダ室19には回転軸12が挿通され、回転軸12は主軸受17と副軸受18とにより軸心回りに回転可能に軸支されている。回転軸12におけるシリンダ室19内に位置する部分には偏心部20が形成され、この偏心部20にローラ21が嵌合されている。ローラ21は、回転軸12が軸心回りに回転することに伴いシリンダ室19内で偏心回転するようになっている。
【0017】
また、シリンダ16にはブレード溝(図示せず)が形成され、このブレード溝には板形状に形成されたブレード(図示せず)が往復移動可能に収容されている。ブレード溝の奥部にはスプリング(図示せず)が収容され、このスプリングによりブレードがローラ21側に向けて付勢され、ブレードの先端部がローラ21の外周面に当接されている。そして、ブレードの先端部がローラ21の外周面に当接することにより、シリンダ室19は、ガス冷媒を吸い込む吸込室22と、吸い込んだガス冷媒を圧縮する圧縮室(図示せず)とに二分されている。アキュムレータ3から吸込室22へのガス冷媒の吸い込みは、吸入管8と、シリンダ16に形成されて吸入管8の端部が接続される吸込口23とを経由して行われるようになっている。
【0018】
主軸受17には、圧縮室で圧縮されたガス冷媒が吐出される吐出孔24が形成され、さらに、吐出孔24を開閉する吐出弁25が取付けられている。また、主軸受17には、吐出孔24と吐出弁25とを覆う吐出マフラ26が取付けられている。吐出マフラ26には、吐出孔24から吐出マフラ26内に吐出されたガス冷媒を密閉ケース9内に流出させる流出孔27が形成されている。
【0019】
この回転式圧縮機4においては、圧縮機構部11の排除容積をV[m
3]、吸入管8の断面積をA[m
2]、吸入管8の長さをL[m]としたとき、
V、A、Lは、2≦L/(V/A)≦3の関係式が成り立つように設定されている。さらに、V、A、Lは、0.4≦L+(V/A)≦0.6の関係式が成り立つように設定されている。
【0020】
このような構成において、この回転式圧縮機4においては、電動機部10に通電されることにより回転軸12が回転子14と共に回転軸12の軸心回りに回転し、この回転により圧縮機構部11が駆動され、シリンダ室19内でガス冷媒が圧縮される。
【0021】
圧縮されたガス冷媒の圧力が設定圧に達すると、吐出弁25が開弁され、ガス冷媒が吐出孔24から吐出マフラ26内に吐出される。吐出マフラ26内に吐出されたガス冷媒は、流出孔27から密閉ケース9内に流出する。
【0022】
密閉ケース9内に流出したガス冷媒は、凝縮器5、膨張装置6、蒸発器7の順に流れて回転式圧縮機4に戻り、凝縮器5での放熱及び蒸発器7での吸熱が行われることにより冷凍サイクルが実行される。
【0023】
ここで、回転式圧縮機4において、吸込過給効果がえられる共振ピーク回転数f(s
−1)は、上述したように、f=(2m−1)C/4{L+(V/A)}の式から求められる。
但し、mは、1、2、3、…、の関数、Cは、ガス冷媒を伝わる音の速さ(m/s)である。
【0024】
ガス冷媒を伝わる音の速さCは、従来広く使用されているR410A冷媒に対し、R32冷媒或いはR32冷媒を70重量%以上含む混合冷媒では、1.3倍程度速くなる。
【0025】
このため、冷媒として、R32冷媒或いはR32冷媒を70重量%以上含む混合冷媒を使用し、吸込過給を行う場合には、Cが大きくなることに伴ってL+(V/A)を大きくする必要がある。
【0026】
L+(V/A)を大きくする場合には、Lを大きくする、Aを小さくする等の方法があるがLとV/Aとの比を変えることにより、COPが変化することが判明した。LとV/Aとの比を変えることによりCOPがどのように変化するかについて、
図2、
図3のグラフを用いて説明する。
【0027】
図2のグラフは、横軸にLとV/Aとの比をとり、縦軸にCOP比をとっている。
図2のグラフにおけるCOP比とは、R32冷媒を使用し、吸込過給効果が得られる共振ピーク回転数fが、R410A冷媒を使用したときと同じになるようにL+(V/A)を大きくした場合の共振ピーク回転数fでのCOPの、吸込過給効果を利用しないで運転した場合のCOPに対する比である(吸込過給効果を利用しないで運転した場合のCOPを1としている)。なお、吸込過給効果を利用した場合と、吸込過給効果を利用しないで運転した場合の能力は同一になるようにしている。
【0028】
この
図2のグラフから、LとV/Aとの比を、2≦L/(V/A)とすることにより、吸込過給効果を利用した場合には吸込過給効果を利用しない場合に比べてCOP比が高くなることが分かる。一方、L/(V/A)<2の範囲では、吸込過給効果を利用した場合には吸込過給効果を利用しない場合に比べてCOP比が低くなることが分かる。
【0029】
これは、L/(V/A)<2の範囲は、吸入管8内を流れるガス冷媒の流速に相当するV/Aの割合が大きくなることを意味し、ガス冷媒が吸入管8内を流れる際の圧力損失が急増するためである。一方、ガス冷媒の流速に相当するV/Aの増大を抑えるとともに、吸入管8の長さLを長くし、2≦L/(V/A)とすることにより、吸込過給効果による能力増大効果が、ガス冷媒が吸入管8内を流れる際の圧力損失を上回るためである。
【0030】
図3のグラフは、横軸にLとV/Aとの比をとり、縦軸にCOP比をとっている。
図3のグラフにおけるCOP比とは、R32冷媒を使用し、吸込過給効果が得られる共振ピーク回転数fが、R410A冷媒を使用したときと同じになるようにL+(V/A)を大きくした場合の共振ピーク回転数fより低い回転数(中間能力時の回転数)でのCOPの、吸込過給効果を利用しないで運転した場合のCOPに対する比である(吸込過給効果を利用しないで運転した場合のCOPを1としている)。
【0031】
この
図3のグラフから、吸込過給効果が得られる共振ピーク回転数fが、R410A冷媒を使用したときと同じになるようにL+(V/A)を大きくしたものは、吸込過給効果を利用しない回転数で運転した場合には、3<L/(V/A)の範囲ではCOP比が低くなることが分かる。
【0032】
これは、3<L/(V/A)の範囲では、吸入管8内を流れるガス冷媒の流速に相当するV/Aが小さい上、吸入管8の長さLが長くなるため、ガス冷媒が吸入管8内を通過するのに要する時間が長くなり、ガス冷媒が吸入管8内を流れている間に周囲からの熱により暖められ、圧縮前のガス冷媒が暖められることによって能力低下が生ずるためである。一方、L/(V/A)≦3とすることにより、ガス冷媒が吸入管8内を通過するのに要する時間が短くなり、ガス冷媒が吸入管8内を流れている間に周囲からの熱により暖められことが少なくなり、圧縮前のガス冷媒が暖められることによる能力低下が抑えられるためである。
【0033】
以上の
図2と
図3とから、R32冷媒或いはR32冷媒を70重量%以上含む混合冷媒を圧縮する圧縮機においては、LとV/Aとの比を、2≦L/(V/A)≦3の関係式が成り立つように設定することにより、吸込過給効果を利用して回転式圧縮機4の能力の増大を図るとともに、COPの低下を防止することができ、しかも、吸込過給効果を利用しない回転数で運転した場合においても能力の低下を防止することができることが判明した。
【0034】
図4は、R32冷媒における、L+(V/A)と共振ピーク回転数との関係を示すグラフである。このグラフは、横軸にL+(V/A)をとり、縦軸に共振ピーク回転数をとっている。
【0035】
この
図4のグラフから、L+(V/A)<0.4の範囲においては、共振ピーク回転数が、圧縮機構部11の摺動部が摩耗により信頼性を損なう140(s
−1)以上となる。また、0.6<L+(V/A)の範囲では、吸込過給効果が得られる回転数が低くなるため、この低い回転数の範囲では、過給損失を伴う吸込過給効果を利用するよりも、吸込過給効果を利用せず回転数を増大させることによる能力向上を図ることが有効である。
【0036】
したがって、この
図4から、R32冷媒或いはR32冷媒を70重量%以上含む混合冷媒を圧縮する圧縮機において、0.4≦L+(V/A)≦0.6とすることにより、吸込過給効果を利用して回転式圧縮機4の能力を確実に向上させることができることが判明した。
【0037】
なお、本実施形態においては、圧縮機としてローラとブレードが別体の回転式圧縮機4を例に挙げて説明したが、他の形式の圧縮機、例えば、ローラとブレードが一体形成されたスイング式圧縮機においても本発明を適用することができる。
【0038】
さらに、本実施形態では、1つのシリンダ16を有する単気筒の回転式圧縮機4を例に挙げて説明したが、2つ以上のシリンダを有する多気筒の回転式圧縮機においても本発明を適用することができる。
【0039】
また、本実施形態では、アキュムレータ3を介して冷媒を圧縮機構部に吸込み、圧縮機構部で圧縮した冷媒を、密閉ケース9内を介して吐出する回転圧縮機4を例に挙げて説明したが、これに限らず、蒸発器から冷媒を密閉ケース9内に吸込み、密閉ケース9内の冷媒を吸込管から圧縮機構部に吸込み、圧縮機構部で圧縮した冷媒を密閉ケース9を通さずに吐出する圧縮機にも適用することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。