特許第6351523号(P6351523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351523
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】二酸化バナジウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20180625BHJP
   C09K 5/02 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C01G31/00
   C09K5/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-41623(P2015-41623)
(22)【出願日】2015年3月3日
(65)【公開番号】特開2016-160148(P2016-160148A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】福知 稔
(72)【発明者】
【氏名】成橋 智真
(72)【発明者】
【氏名】新▲高▼ 誠司
(72)【発明者】
【氏名】河野 公俊
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭49−028355(JP,B1)
【文献】 特開2014−073955(JP,A)
【文献】 特開2014−198645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00−47/00
C01G 49/10−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
1-xx2 (1)
(式中、Mは、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReの群から選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。xは0≦x≦0.5を示す。)で表わされる二酸化バナジウムの製造方法であって、
バナジウム源を含む溶液にアルカリを添加し反応を行って析出した沈殿物を含むスラリーを調製する第一工程、次いで該スラリーを水熱反応に付して反応前駆体を得る第二工程、次いで該反応前駆体を不活性ガス雰囲気中で焼成して焼成品を得る第三工程、次いで該焼成品をアニール処理する第四工程とを有し、必要により前記バナジウム源を含む溶液及び/又は前記沈殿物を含むスラリーにM源を添加することを特徴とする二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項2】
バナジウム源が、四価のバナジウム化合物であることを特徴とする請求項1記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項3】
バナジウム源が、硫酸バナジルであることを特徴とする請求項1記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項4】
第三工程の焼成温度が800〜1050℃であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項5】
第四工程のアニール処理は100〜550℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【請求項6】
蓄熱材として用いられることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に蓄熱材として有用な二酸化バナジウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材は、物質に熱を蓄え、また、必要に応じてその熱を取り出すことができる材料である。蓄熱によって、蓄熱材自身や、蓄熱材が置かれた空間内等の温度を一定に保つことができる。
【0003】
蓄熱方式には、顕熱蓄熱、潜熱蓄熱、化学蓄熱があり、蓄熱時に使用される物理化学現象によって分類される。
【0004】
潜熱蓄熱は、物質の相変化、転移に伴う転移熱を利用したもので転移熱を熱エネルギーとして蓄え、利用するものであり、潜熱蓄熱は、顕熱蓄熱に比べて、蓄熱密度が高く、相転移温度の一定温度で熱供給が可能で、また、化学蓄熱に比べて、相転移を繰り返すだけなので耐久性に優れている。
【0005】
下記特許文献1及び下記特許文献2には、電子相転移熱を利用した新しいタイプの潜熱蓄熱材として、二酸化バナジウム系の強相関電子系遷移金属化合物を用いることが提案されている。このタイプの蓄熱材は、電子の持つ内部自由度であるスピンの自由度と、軌道の自由度とを含む複自由度の相転移を利用するものであり、固相状態で生じる相転移であるため、蓄熱材が容器から漏れる心配がない。また、無機塩水和物などの固体―液体相転移と異なり、相転移時の相分離や分解が生じる虞れがない、相転移時の体積変化が固体―液体相転移と比べて小さい、高い熱伝導率を有する等の利点もある。
【0006】
二酸化バナジウム系の強相関電子系遷移金属化合物を製造する方法として、特許文献1及び特許文献2には、各原料を所定量混合して得られる混合物を真空封入して昇温する方法が提案されているが、工業的に有利な方法とは言い難い。
【0007】
また、二酸化バナジウム系の強相関電子系遷移金属化合物を製造する方法として、下記特許文献3には、可溶解性バナジウム化合物を含む溶液に、アルカリを添加して得られる沈殿物を水熱反応する方法が提案されている。また、下記特許文献4には、四価のバナジウム化合物を含む溶液と、該バナジウム化合物と錯形成する物質及びドーパント元素の溶液を反応させて得られる反応物を不活性ガス中で焼成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−210835号公報
【特許文献2】特開2010−163510号公報
【特許文献3】特表2014−505651号公報
【特許文献4】特開2014−198645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3の方法によれば、工業的に有利な方法で二酸化バナジウムが得られるが、蓄熱特性に優れたものが得られ難い。
従って、本発明の目的は、蓄熱特性に優れた二酸化バナジウムを工業的に有利な方法で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
潜熱蓄熱に用いられる材料の特性として、転移熱量が大きいことに加えて、昇温時と降温時で蓄熱特性の温度ムラが生じないように昇温過程と降温過程の両方の相転移温度差が出来るだけ小さいことが要求される。
【0011】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)
1-xx2 (1)
(式中、Mは、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReの群から選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。xは0≦x≦0.5を示す。)で表わされる二酸化バナジウムの製造方法であって、
バナジウム源を含む溶液にアルカリを添加し反応を行って沈殿物を析出させ、次いで得られる沈殿物を水熱反応に付して得られる反応前駆体には、吸発熱に伴う相転移が見られないが、該反応前駆体を不活性ガス雰囲気中で焼成して得られる焼成品には、吸発熱に伴う相転移が見られること。更に該焼成品をアニール処理することにより、吸熱開始温度と発熱開始温度の差が小さいものになることを見出し本発明を完成するに到った。
【0012】
即ち、本発明が提供しようとする二酸化バナジウムの製造方法は、下記一般式(1)
1-xx2 (1)
(式中、Mは、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReの群から選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。xは0≦x≦0.5を示す。)で表わされる二酸化バナジウムの製造方法であって、
バナジウム源を含む溶液にアルカリを添加し反応を行って析出した沈殿物を含むスラリーを調製する第一工程、次いで該スラリーを水熱反応に付して反応前駆体を得る第二工程、次いで該反応前駆体を不活性ガス雰囲気中で焼成して焼成品を得る第三工程、次いで該焼成品をアニール処理する第四工程とを有し、必要により前記バナジウム源を含む溶液及び/又は前記沈殿物を含むスラリーにM源を添加することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、工業的に有利な方法で、蓄熱材として有用な二酸化バナジウムを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の第二工程で得られた反応前駆体試料のX線回折図。
図2】実施例1の第二工程で得られた反応前駆体試料の示差走査熱量測定結果を示す図。
図3】実施例1の第三工程で得られた焼成品試料のX線回折図。
図4】実施例1の第三工程で得られた焼成品試料の示差走査熱量測定結果を示す図。
図5】実施例1の第四工程で得られたアニール処理品試料のX線回折図。
図6】実施例1の第四工程で得られたアニール処理品試料の示差走査熱量測定結果を示す図。
図7】実施例1の第四工程で得られたアニール処理品試料のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明の製造方法により得られる二酸化バナジウムは下記一般式(1)で表わされる化合物である。
1-xx2 (1)
(式中、Mは、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReの群から選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。xは0≦x≦0.5を示す。)
【0016】
潜熱蓄熱において、蓄熱は相転移温度付近で行われる。一般式(1)の式中のMは、本発明において必要により添加する元素である。
【0017】
本発明の製造方法で得られる二酸化バナジウムは、例えば、蓄熱材として使用する場合に、一般式(1)の式中のM及びxの値を調製することにより、相転移温度を所望の温度に調製することが出来る。例えば、二酸化バナジウムのバナジウムの一部をW、Ta、Nb、Ru、Mo、Re等の元素で置換することで、相転移温度を無置換の二酸化バナジウムに比べて低下させることが出来る。また、その置換量が多くなるほど相転移温度が低くなることが知られている(特開2010−163510号公報)。また、二酸化バナジウムのバナジウムの一部をCrで置換することで、相転移温度を無置換の二酸化バナジウムに比べて高くすることが出来る。また、その置換量が多くなるほど相転移温度が高くなることが知られている(特開2014−210835号公報)。
【0018】
本製造方法に係る第一工程は、バナジウム源を含む溶液にアルカリを添加し反応を行って沈殿物を析出させ、沈殿物を含むスラリーを調製する工程である。
【0019】
第一工程に係るバナジウム源を含む溶液は、バナジウム源を水溶媒に溶解した溶液である。
【0020】
第一工程に係るバナジウム源は四価のバナジウム化合物が好ましく用いられる。四価のバナジウム化合物としては、例えば、硫酸バナジル(VOSO4)、二塩化バナジル(VOCl2)、シュウ酸バナジル(VOC24)等が挙げられる。これらのバナジウム化合物は含水物であっても無水物であってもよい。
【0021】
バナジウム源を溶解する水溶媒は、水に限らず、水と親水性溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0022】
バナジウム源を含む溶液におけるバナジウム源の濃度は無水物換算で0.5〜5質量%、好ましくは1〜3質量%とすることが好ましい。
【0023】
第一工程に係るアルカリとしては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。これらのアルカリは、水に溶解させた水溶液として用いることが好ましい。
【0024】
アルカリの添加量は、アルカリに対する、バナジウム源を含む溶液中のバナジウムイオンのモル比(バナジウムイオン/アルカリ)で0.1〜3、好ましくは0.4〜0.6 とすることが収率よく沈殿物を析出させる観点から好ましい。
【0025】
第一工程に係る反応は基本的に中和反応なので、アルカリの添加は反応液のpHが5〜9、好ましくは6〜8となるように添加すればよい。
【0026】
アルカリの添加は、安定した品質のものが得られるように一定速度で添加することが好ましい。
【0027】
アルカリの添加温度は5〜50℃、好ましくは10〜35℃であることが収率よく沈殿物を析出させる観点から好ましい。
【0028】
また、第一工程において、必要によりアルカリ添加後に、収率の向上を目的として熟成反応を行うことができる。
熟成反応の温度は5〜50℃、好ましくは10〜35℃であり、熟成反応の時間は15分以上、好ましくは0.5〜3時間である。
【0029】
以上の操作を行うことにより、反応により析出した沈殿物を含むスラリーが得られ、該スラリーをそのまま第二工程の水熱反応に付することが出来るが、本製造方法では必要によりスラリー濃度が0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%となるように濃度調製を行って第二工程を行うことが出来る。
【0030】
また、本製造方法では、必要により前記バナジウム源を含む溶液及び/又は前記沈殿物を含むスラリーに、M源を添加して、後述する第二工程を行うことができる。
【0031】
必要に添加するM源としては、M元素自体であってもよく、また、M元素を含む化合物であってもよい。M元素を含む化合物としては、M元素の酸化物、モリブデン酸、タングステン酸のような金属酸又はその金属酸塩、M元素のアルコラート或いはM元素の有機酸塩等が挙げられる。
【0032】
M源の添加量は、得られる二酸化バナジウムの組成に合わせて適宜添加量を調製して添加することが好ましい。
【0033】
第二工程は、第一工程で得られる下記の(a)〜(d)の何れかの沈殿物を含むスラリーを水熱反応に付して反応前駆体を得る工程である。
(a)沈殿物を含むスラリー(M元素を含まない)。
(b)前記バナジウム源を含む溶液にM源を添加して得られるM元素と沈殿物を含むスラリー。
(c)前記沈殿物を含むスラリーに、M源を添加して得られるM元素と沈殿物を含むスラリー。
(d)前記バナジウム源を含む溶液にM源を添加しM元素と沈殿物を含むスラリーを調製し、このM元素と沈殿物を含むスラリーに、更にM源を添加したM元素と沈殿物を含むスラリー。
【0034】
該反応前駆体自体は、X線回折分析的に単層の前記一般式(1)で表わされる二酸化バナジウムであるが、該反応前駆体自体は、示差走査熱量測定において、昇温過程と降温過程の両方で明確な相転移が観察されないものである。
【0035】
水熱反応の反応条件は、反応温度が150〜400℃、好ましくは200〜300℃であることが、結晶性の高い二酸化バナジウムが得られやすい観点から好ましい。また、反応時間は1時間以上、好ましくは3〜15時間である。
【0036】
水熱反応終了後、反応終了後のスラリーを常法により固液分離し、必要により洗浄、乾燥、粉砕、解砕等を行って反応前駆体を得ることができる。
【0037】
第三工程は、第二工程で得られた反応前駆体を焼成して焼成品を得る工程である。該焼成品自体は、X線回折分析的に単層の前記一般式(1)で表わされる二酸化バナジウムであるが、該焼成品は、前述した反応前駆体とは異なり示差走査熱量測定において、昇温過程と降温過程の両方で明確な相転移が観察され、吸熱開始温度と発熱開始温度の差が3℃以上存在するものである。
【0038】
第三工程に係る焼成条件は、焼成温度が800〜1050℃、好ましくは900〜1000℃とすることが、結晶性の高い二酸化バナジウムが得られやすい観点から好ましい。
【0039】
また、焼成雰囲気は、バナジウムの酸化防止のため、不活性ガス雰囲気とする。使用できる不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0040】
焼成時間は、1時間以上、好ましくは3〜10時間である。
【0041】
焼成は所望により何度行ってもよい。或いは、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、次いで再焼成を行ってもよい。
【0042】
得られた焼成品は、必要に応じて所望の粒径まで粉砕又は解砕し、粉体の状態で次の第四工程のアニール処理に付す。
【0043】
第四工程は、第三工程で得られた焼成品をアニール処理して目的とする二酸化バナジウムを得る工程である。
【0044】
第三工程で得られた焼成品は、前述したようにX線回折分析的に単層の前記一般式(1)で表わされる二酸化バナジウムであり、示差走査熱量測定において、昇温過程と降温過程の両方で明確な相転移が観察され、吸熱開始温度と発熱開始温度の差が3℃以上存在する。
本製造方法では、この第四工程で該焼成品をアニール処理することで、吸熱開始温度と発熱開始温度の差が好ましくは2℃以下の二酸化バナジウムに転換することが出来る。この理由は明確ではないが、第三工程で得られる焼成品には、酸素の欠損があり、アニール処理することで、構造中の酸素欠損の構造が補修されるためと本発明者らは推測している。
【0045】
アニール処理の条件は、処理温度が高すぎると5価のバナジウムに変化し所望の二酸化バナジウムを得ることが難しくなる傾向があることから、アニール処理温度は100〜550℃、特に200〜400℃であることが、バナジウムの酸化を防止しながら酸素欠損部位の補修を行うことができる観点から好ましい。
【0046】
アニール処理時間は1時間以上、特に3〜10時間とすることが好ましい。アニール処理の雰囲気は、酸素、大気等の酸化性雰囲気中で行う。なお、必要により、アニール処理は何度でも行うことができる。
【0047】
また、アニール処理後、必要により粉砕、解砕、分級等を行い製品とする。
【0048】
かくして得られる本発明の二酸化バナジウムは、X線回折分析的に下記一般式(1)
1-xx2 (1)
(式中、Mは、Cr、W、Mo、Nb、Ta、Os、Ir、Ru及びReの群から選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。xは0≦x≦0.5を示す。)で表わされる二酸化バナジウム単層であり、示差走査熱量測定において、昇温過程と降温過程の両方で明確な相転移が観察され、吸熱開始温度と発熱開始温度の差が好ましくは2℃以下の二酸化バナジウムである。
【0049】
本製造方法で得られる二酸化バナジウムは、温度によって透過率や反射率等の光学的特性が可逆的に変化するサーモクロミック現象を示す材料としての利用の他、特に蓄熱材としての利用が期待できる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(相転移温度、熱量の測定)
各実施例において、相転移温度、熱量の測定は下記のように行った。
試料を示差走査熱量測定(DSC)用密閉式セル(SUSセル)に封入し、示差走査熱量測定装置(SIIエポリードサービス社製、形式DSC6200)にて昇温速度1℃/minにて100℃まで昇温し、その後20℃まで降温した.昇温過程で生じる吸熱ピーク、及び降温過程で生じる発熱ピークの開始温度、熱量を測定した.
【0052】
{実施例1}
第一工程;
硫酸バナジル(VOSO4)含水塩15.63gをイオン交換水500mlに溶解した(A液)。これとは別に1モル/Lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液125mlを調製した(B液)。
A液に、B液を20℃で30分かけて一定速度で撹拌下に添加した(バナジウムイオン/アルカリのモル比0.49)。添加終了後の反応液のpHは7.3であった。次いで、20℃で30分間撹拌下に熟成反応を行い、沈殿物を含む0.9質量%スラリーを得た。
第二工程;
第一工程で得られた沈殿物を含むスラリー620gを1Lのオートクレーブに投入して250℃で6時間水熱反応を行った。
次いで、反応終了後のスラリーを固液分離し、120℃で真空乾燥して反応前駆体試料を得た。
得られた反応前駆体試料のレーザー回折・散乱法で求められる平均粒子径は36.6μmであった。また、SEM観察から求めた一次粒子径は10nmであった。また、XRD分析の結果、回折ピークのパターンがVO2と一致し、単層のVO2であることを確認した。反応前駆体試料のX線回折図を図1に示す。
また、示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定により、昇温及び降温過程での相転移の開始温度、及び、相転移に伴う熱量を測定した。その結果、相転移は確認できなかった。その結果を図2に示す。
第三工程;
次いで、第二工程で得られた反応前駆体試料をアルミナるつぼに投入し、窒素雰囲気中で1000℃で5時間焼成を行って焼成品試料を得た。
焼成品試料をXRD分析した結果、回折ピークのパターンがVO2と一致し、単層のVO2であることを確認した。焼成品試料のX線回折図を図3に示す。
また、反応前駆体試料と同様にして、示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定により、昇温及び降温過程での相転移の開始温度、及び、相転移に伴う熱量を測定した。示差走査熱量測定の結果を図4に示す。
第四工程;
次いで、第三工程で得られた焼成品をアルミナるつぼに投入し、大気中で300℃で5時間アリール処理を行いアニール処理品試料を得た。
アニール処理品試料をXRD分析した結果、回折ピークのパターンがVO2と一致し、単層のVO2であることを確認した。アニール処理品試料のX線回折図を図5に示す。
また、反応前駆体試料と同様にして、示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定により、昇温及び降温過程での相転移の開始温度、及び、相転移に伴う熱量を測定した。示差走査熱量測定の結果を図6に示す。
【0053】
{実施例2}
第三工程の焼成温度を950℃とした以外は、実施例1と同様な条件で反応を行いアニール処理品試料を得た。
第三工程で得られた焼成品試料について、XRD分析した結果、回折ピークのパターンがVO2と一致し、単層のVO2であることを確認した。また、焼成品試料について昇温及び降温過程での相転移の開始温度、及び、相転移に伴う熱量を測定した。
第四工程で得られたアニール処理品試料について、XRD分析した結果、回折ピークのパターンがVO2と一致し、単層のVO2であることを確認した。また、アニール処理品試料について昇温及び降温過程での相転移の開始温度、及び、相転移に伴う熱量を測定した。
【0054】
{実施例3}
第三工程の焼成温度を900℃とした以外は、実施例1と同様な条件で反応を行いアニール処理品試料を得た。
第三工程で得られた焼成品について、XRD分析した結果、回折ピークのパターンがVO2と一致し、単層のVO2であることを確認した。また、焼成品について昇温及び降温過程での相転移の開始温度、及び、相転移に伴う熱量を測定した。
第四工程で得られたアニール処理品試料について、XRD分析した結果、回折ピークのパターンがVO2と一致し、単層のVO2であることを確認した。また、アニール処理品試料について昇温及び降温過程での相転移の開始温度、及び、相転移に伴う熱量を測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
注)「−」は、相転移が観察されなかったことを示す。
【0057】
表2の結果から、明らかなように、第三工程で得られる焼成品試料を第四工程でアニール処理を行うことにより、吸熱開始温度と発熱開始温度の差が小さくなることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7