特許第6351556号(P6351556)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351556
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】動力分割式無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 37/02 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
   F16H37/02 R
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-153584(P2015-153584)
(22)【出願日】2015年8月3日
(65)【公開番号】特開2017-32090(P2017-32090A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年11月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】福元 浩二
(72)【発明者】
【氏名】松本 恭太
(72)【発明者】
【氏名】檀上 弥輝
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−325207(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/175587(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプット軸と、
アウトプット軸と、
プライマリ軸に支持されたプライマリプーリ、セカンダリ軸に支持されたセカンダリプーリおよび前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとに巻き掛けられたベルトを備える無段変速機構と、
前記インプット軸に入力される動力を逆転させて前記プライマリ軸に伝達する逆転ギヤ機構と、
キャリア、前記セカンダリ軸と一体回転可能に設けられたサンギヤおよび前記アウトプット軸と一体回転可能に設けられたリングギヤを備える遊星歯車機構と、
スプリットドライブギヤと、
前記キャリアと一体回転可能に設けられ、前記スプリットドライブギヤと噛合するスプリットドリブンギヤと、
前記インプット軸と前記スプリットドライブギヤとを一体回転可能に結合およびその結合を解除するために係合/解放される第1係合要素と、
前記サンギヤと前記リングギヤとを一体回転可能に結合およびその結合を解除するために係合/解放される第2係合要素とを含み、
前記スプリットドリブンギヤは、前記スプリットドライブギヤよりも小径に形成されており、
前記第1係合要素の解放および前記第2係合要素の係合により、相対的にロー側となる変速比範囲が構成され、前記第1係合要素の係合および前記第2係合要素の解放により、相対的にハイ側となる変速比範囲が構成される、動力分割式無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプット軸(入力軸)に入力される動力を2系統に分割して伝達可能な動力分割式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される変速機として、エンジンの動力を無段階に変速する無段変速機構と、エンジンの動力を無段変速機構を経由せずに伝達する歯車機構と、無段変速機構からの動力と歯車機構からの動力とを合成するための遊星歯車機構とを備えたものが提案されている。この変速機では、エンジンからの動力を無段変速機構と歯車機構とに分割し、その分割された各動力を遊星歯車機構で合成して車輪に伝達することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−176890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動源の動力を2系統に分割して伝達可能な変速機は、動力分割式無段変速機として、出願人も提案している。
【0005】
図4は、出願人の先の提案に係る動力分割式無段変速機901の構成を示すスケルトン図である。
【0006】
この動力分割式無段変速機901には、変速比の変更により動力を無段階に変速する無段変速機構902と、動力を一定の変速比で変速する一定変速機構903と、動力を出力するための出力用遊星歯車機構904とが備えられている。
【0007】
無段変速機構902は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。プライマリ軸905は、インプット軸906に直結されている。セカンダリ軸907は、出力用遊星歯車機構904のサンギヤ908を相対回転不能に支持している。また、出力用遊星歯車機構904のリングギヤ909には、アウトプット軸910が接続されている。アウトプット軸910の回転は、第1出力アイドルギヤ911および第2アイドルギヤ912を経由して、デファレンシャルギヤ913に伝達され、デファレンシャルギヤ913から左右の駆動輪に伝達される。
【0008】
一定変速機構903は、増速用遊星歯車機構914、スプリットドライブギヤ915、スプリットドリブンギヤ916およびアイドルギヤ917を備えている。増速用遊星歯車機構914のサンギヤ918は、インプット軸906に相対回転可能に外嵌されている。増速用遊星歯車機構914のキャリア919は、インプット軸906に相対回転不能に支持されている。スプリットドライブギヤ915は、サンギヤ918と一体回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ916は、出力用遊星歯車機構904のキャリア920と一体回転可能に設けられている。アイドルギヤ917は、スプリットドライブギヤ915およびスプリットドリブンギヤ916と噛合している。
【0009】
図5は、前進時および後進時におけるクラッチC1およびブレーキB1,B2の状態を示す図である。図5において、「○」は、クラッチC1およびブレーキB1,B2が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1およびブレーキB1,B2が解放状態であることを示している。
【0010】
動力分割式無段変速機901は、動力伝達モードとして、動力が無段変速機構902のみを経由して出力用遊星歯車機構904に伝達されるベルトモードと、動力が無段変速機構902および一定変速機構903を経由して出力用遊星歯車機構904に伝達されるスプリットモードとを有している。
【0011】
ベルトモードでは、クラッチC1が係合されて、出力用遊星歯車機構904のサンギヤ908とリングギヤ909とが直結され、ブレーキB1,B2が解放されて、出力用遊星歯車機構904のキャリア920がフリーな状態にされる。そのため、インプット軸906に入力される動力により、プライマリ軸905が回転すると、プライマリ軸905の回転がベルト921を介してセカンダリ軸907に伝達されて、出力用遊星歯車機構904のサンギヤ908およびリングギヤ909が一体的に回転し、アウトプット軸910がリングギヤ909と一体的に回転する。したがって、ベルトモードでは、動力分割式無段変速機901の変速比が無段変速機構902の変速比(ベルト変速比)と一致する。
【0012】
スプリットモードでは、クラッチC1およびブレーキB1が解放される。また、ブレーキB2が係合されることにより、増速用遊星歯車機構914のリングギヤ922が制動される。そのため、インプット軸906に入力される動力により、プライマリ軸905が回転すると、プライマリ軸905の回転がベルト921を介してセカンダリ軸907に伝達されて、出力用遊星歯車機構904のサンギヤ908が回転する。一方、増速用遊星歯車機構914のリングギヤ922が制動されているので、インプット軸906の回転は、増速用遊星歯車機構914のキャリア919、サンギヤ918、スプリットドライブギヤ915、アイドルギヤ917およびスプリットドリブンギヤ916を介して、出力用遊星歯車機構904のキャリア920に増速されて伝達される。したがって、スプリットモードでは、ベルト変速比が大きいほど、動力分割式無段変速機901の変速比(ユニット変速比)が小さくなり、一定変速機構903の変速比(スプリット変速比)以下の変速比を実現することができる。
【0013】
また、動力分割式無段変速機901が搭載された車両の後進時には、クラッチC1およびブレーキB2が解放され、ブレーキB1が係合される。ブレーキB1の係合により、スプリットドライブギヤ915が制動される。スプリットドライブギヤ915の制動により、アイドルギヤ917が回転不能となり、スプリットドリブンギヤ916および出力用遊星歯車機構904のキャリア920が回転不能になる。そのため、インプット軸906からプライマリ軸905およびセカンダリ軸907を介して出力用遊星歯車機構904のサンギヤ908に回転が伝達されると、出力用遊星歯車機構904のリングギヤ909がサンギヤ908と逆方向に回転し、アウトプット軸910が車両の前進時とは逆方向に回転する。
【0014】
ところが、動力分割式無段変速機901では、車両の走行燃費の向上に大きく寄与するスプリットモードにおいて、増速用遊星歯車機構914が作動(動力を伝達)するため、増速用遊星歯車機構914での噛み合い損失が発生する。また、スプリットモードでは、スプリットドライブギヤ915の回転がアイドルギヤ917を介してスプリットドリブンギヤ916に伝達されるため、そのギヤ列でも噛み合い損失が発生する。これらの噛み合い損失分、動力分割式無段変速機901におけるトルクの伝達効率が低下し、スプリットモードにおける車両の走行燃費が悪化する。また、アイドルギヤ917を備えることにより、動力分割式無段変速機901の体格(サイズ)が大きくなり、動力分割式無段変速機901のコストがアップする。
【0015】
本発明の目的は、出願人による先の提案に係る構成と比較して、トルクの伝達効率の向上ならびに体格およびコストの低減を図ることができる、動力分割式無段変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成するため、本発明に係る動力分割式無段変速機は、インプット軸(入力軸)と、アウトプット軸(出力軸)と、プライマリ軸に支持されたプライマリプーリ、セカンダリ軸に支持されたセカンダリプーリおよびプライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられたベルトを備える無段変速機構と、インプット軸に入力される動力を逆転させてプライマリ軸に伝達する逆転ギヤ機構と、キャリア、セカンダリ軸と一体回転可能に設けられたサンギヤおよびアウトプット軸と一体回転可能に設けられたリングギヤを備える遊星歯車機構と、スプリットドライブギヤと、キャリアと一体回転可能に設けられ、スプリットドライブギヤと噛合するスプリットドリブンギヤと、インプット軸とスプリットドライブギヤとを一体回転可能に結合およびその結合を解除するために係合/解放される第1係合要素と、サンギヤとリングギヤとを一体回転可能に結合およびその結合を解除するために係合/解放される第2係合要素とを含む。
【0017】
この構成によれば、第1係合要素が解放された状態では、スプリットドライブギヤがインプット軸から切り離され、遊星歯車機構のキャリアが回転自由(フリー)となる。また、第2係合要素が係合された状態では、遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとが一体回転可能に結合される。そのため、第1係合要素が解放され、第2係合要素が係合された状態において、インプット軸に入力される動力は、逆転ギヤ機構により逆転されてプライマリ軸に伝達されて、無段変速機構から遊星歯車機構のサンギヤに伝達され、遊星歯車機構のサンギヤおよびリングギヤを介してアウトプット軸に出力される。したがって、第1係合要素が解放され、第2係合要素が係合されることにより、インプット軸に入力される動力が無段変速機構を介して遊星歯車機構に伝達され、その伝達された動力が遊星歯車機構からアウトプット軸に出力されるベルトモードが達成される。
【0018】
一方、第1係合要素が係合された状態では、スプリットドライブギヤがインプット軸と一体回転可能に結合される。また、第2係合要素が解放された状態では、遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとの結合が解除される。そのため、第1係合要素が係合され、第2係合要素が解放された状態において、インプット軸に入力される動力の一部は、逆転ギヤ機構により逆転されてプライマリ軸に伝達されて、無段変速機構から遊星歯車機構のサンギヤに伝達される。また、インプット軸に入力される動力の一部は、スプリットドライブギヤからスプリットドリブンギヤを介して遊星歯車機構のキャリアに伝達される。したがって、第1係合要素が係合され、第2係合要素が解放されることにより、インプット軸に入力される動力が無段変速機構ならびにスプリットドライブギヤおよびスプリットドリブンギヤからなる一定変速機構を介して遊星歯車機構に伝達され、その伝達された動力が遊星歯車機構からアウトプット軸に出力されるスプリットモードが達成される。
【0019】
よって、本発明に係る動力分割式無段変速機では、動力伝達モードとして、ベルトモードおよびスプリットモードを実現することができる。
【0020】
そして、動力分割式無段変速機では、出願人による先の提案に係る構成、つまり図4に示される構成と比較して、増速用遊星歯車機構およびスプリットドライブギヤとスプリットドリブンギヤとの間に介在されるアイドルギヤが省略されている。これにより、噛み合い損失を低減させることができるので、トルクの伝達効率を向上させることができる。その結果、動力分割式無段変速機が搭載される車両の走行燃費の低減を図ることができる。また、部品点数の削減によるコストの低減を達成することができ、ひいては、動力分割式無段変速機が搭載される車両のコストの低減を図ることができる。さらには、アイドルギヤの省略によって、1軸減らすことができ、動力分割式無段変速機の体格を小さくすることができる。その結果、動力分割式無段変速機の車両への搭載性を向上させることができる。
【0021】
逆転ギヤ機構は、インプット軸に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸に伝達する構成であることが好ましい。逆転ギヤ機構は、たとえば、インプット軸に相対回転不能に保持される第1ギヤと、第1ギヤよりも歯数が多く、プライマリ軸に相対回転不能に保持されて、第1ギヤと噛合する第2ギヤとを含む構成であってもよい。
【0022】
インプット軸に入力される動力が逆転かつ減速されてプライマリ軸に伝達されることにより、ベルトの回転数を抑えることができるので、ベルトのフリクションロスを低減させることができる。その結果、動力分割式無段変速機のトルクの伝達効率をさらに向上させることができる。
【0023】
動力分割式無段変速機は、キャリアの回転を禁止および許容するために係合/解放される第3係合要素(ブレーキ)を含む構成であってもよい。
【0024】
第1係合要素および第2係合要素が解放されて、第3係合要素が係合された状態において、インプット軸に入力される動力が無段変速機構から遊星歯車機構のサンギヤに伝達されると、遊星歯車機構のリングギヤがサンギヤと逆方向に回転し、アウトプット軸がベルトモード時およびスプリットモード時とは逆方向に回転する。よって、動力分割式無段変速機が搭載された車両を後進させるリバースモードを実現することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、出願人による先の提案に係る構成と比較して、トルクの伝達効率の向上を図ることができ、ひいては、動力分割式無段変速機が搭載される車両の走行燃費の低減を図ることができる。また、動力分割式無段変速機の体格を小さくすることができ、動力分割式無段変速機の車両への搭載性を向上させることができる。さらには、動力分割式無段変速機のコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る動力分割式無段変速機が搭載された車両の駆動系統の構成を示すスケルトン図である。
図2】各動力伝達モードでのクラッチおよびブレーキの状態を示す図である。
図3】遊星歯車機構のサンギヤ、キャリアおよびリングギヤの回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
図4】出願人の先の提案に係る動力分割式無段変速機の構成を示すスケルトン図である。
図5図4に示される動力分割式無段変速機における各動力伝達モードでのクラッチおよびブレーキの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0028】
<車両の駆動系統>
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る動力分割式無段変速機4が搭載された車両1の駆動系統の構成を示すスケルトン図である。
【0030】
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。エンジン2の出力は、トルクコンバータ3および動力分割式無段変速機4を介して、車両1の駆動輪(たとえば、左右の前輪)に伝達される。
【0031】
エンジン2は、E/G出力軸21を備えている。E/G出力軸21は、エンジン2が発生する動力により回転される。
【0032】
トルクコンバータ3は、ポンプインペラ31、タービンランナ32およびロックアップクラッチ33を備えている。ポンプインペラ31には、E/G出力軸21が連結されており、ポンプインペラ31は、E/G出力軸21と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。タービンランナ32は、ポンプインペラ31と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。ロックアップクラッチ33は、ポンプインペラ31とタービンランナ32とを直結/分離するために設けられている。ロックアップクラッチ33が係合されると、ポンプインペラ31とタービンランナ32とが直結され、ロックアップクラッチ33が解放されると、ポンプインペラ31とタービンランナ32とが分離される。
【0033】
ロックアップクラッチ33が解放された状態において、E/G出力軸21が回転されると、ポンプインペラ31が回転する。ポンプインペラ31が回転すると、ポンプインペラ31からタービンランナ32に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ32で受けられて、タービンランナ32が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ32には、E/G出力軸21の動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。
【0034】
ロックアップクラッチ33が係合された状態では、E/G出力軸21が回転されると、E/G出力軸21、ポンプインペラ31およびタービンランナ32が一体となって回転する。
【0035】
動力分割式無段変速機4は、トルクコンバータ3から入力される動力をデファレンシャルギヤ6に伝達する。動力分割式無段変速機4は、インプット軸41、アウトプット軸42、無段変速機構43、逆転ギヤ機構44、遊星歯車機構45、スプリットドライブギヤ46およびスプリットドリブンギヤ47を備えている。
【0036】
インプット軸41は、トルクコンバータ3のタービンランナ32に連結され、タービンランナ32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0037】
アウトプット軸42は、インプット軸41と平行に設けられている。アウトプット軸42には、出力ギヤ48が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ48は、デファレンシャルギヤ6(デファレンシャルギヤ6の入力ギヤ)と噛合している。
【0038】
無段変速機構43は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、無段変速機構43は、プライマリ軸51と、プライマリ軸51と平行に設けられたセカンダリ軸52と、プライマリ軸51に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ53と、セカンダリ軸52に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ54と、プライマリプーリ53とセカンダリプーリ54とに巻き掛けられたベルト55とを備えている。
【0039】
プライマリプーリ53は、プライマリ軸51に固定された固定シーブ61と、固定シーブ61にベルト55を挟んで対向配置され、プライマリ軸51にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ62とを備えている。可動シーブ62に対して固定シーブ61と反対側には、プライマリ軸51に固定されたシリンダ(図示せず)が設けられ、可動シーブ62とシリンダとの間に、ピストン室(油室)が形成されている。
【0040】
セカンダリプーリ54は、セカンダリ軸52に固定された固定シーブ65と、固定シーブ65にベルト55を挟んで対向配置され、セカンダリ軸52にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ66とを備えている。可動シーブ66に対して固定シーブ65と反対側には、セカンダリ軸52に固定されたシリンダ(図示せず)が設けられ、可動シーブ66とシリンダとの間に、ピストン室(油室)が形成されている。
【0041】
無段変速機構43では、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54の各ピストン室に供給される油圧が制御されて、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54の各溝幅が変更されることにより、無段変速機構43での変速比であるベルト変速比が連続的に無段階で変更される。
【0042】
具体的には、ベルト変速比が下げられるときには、プライマリプーリ53のピストン室に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ53の可動シーブ62が固定シーブ61側に移動し、固定シーブ61と可動シーブ62との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ53に対するベルト55の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ54の固定シーブ65と可動シーブ66との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ53とセカンダリプーリ54とのプーリ比が小さくなり、ベルト変速比が下がる。
【0043】
ベルト変速比が上げられるときには、プライマリプーリ53のピストン室に供給される油圧が下げられる。これにより、ベルト55に対するセカンダリプーリ54の推力がベルト55に対するプライマリプーリ53の推力よりも大きくなり、セカンダリプーリ54の固定シーブ65と可動シーブ66との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ61と可動シーブ62との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ53とセカンダリプーリ54とのプーリ比が大きくなり、ベルト変速比が上がる。
【0044】
一方、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54の推力は、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54とベルト55との間で滑りが生じない大きさを必要とする。そのため、インプット軸41に入力されるトルクの大きさに応じた推力が得られるよう、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54の各ピストン室に供給される油圧が制御される。
【0045】
逆転ギヤ機構44は、インプット軸41に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸51に伝達する構成である。具体的には、逆転ギヤ機構44は、インプット軸41に相対回転不能に支持される第1ギヤ71と、第1ギヤ71よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸51に相対回転不能に支持されて、第1ギヤ71と噛合する第2ギヤ72とを含む。
【0046】
遊星歯車機構45は、サンギヤ81、キャリア82およびリングギヤ83を備えている。サンギヤ81は、セカンダリ軸52に相対回転不能に支持されている。キャリア82は、アウトプット軸42に相対回転可能に外嵌されている。キャリア82は、複数個のピニオンギヤ84を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ84は、円周上に配置され、サンギヤ81と噛合している。リングギヤ83は、複数個のピニオンギヤ84を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ84にセカンダリ軸52の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ83には、アウトプット軸42が接続され、リングギヤ83は、アウトプット軸42と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0047】
スプリットドライブギヤ46は、インプット軸41に相対回転可能に外嵌されている。
【0048】
スプリットドリブンギヤ47は、遊星歯車機構45のキャリア82と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ47は、スプリットドライブギヤ46よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ46よりも少ない歯数を有している。
【0049】
また、動力分割式無段変速機4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
【0050】
クラッチC1は、インプット軸41とスプリットドライブギヤ46とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態(オン)と、その直結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0051】
クラッチC2は、遊星歯車機構45のサンギヤ81とリングギヤ83とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態(オン)と、その直結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0052】
ブレーキB1は、遊星歯車機構45のキャリア82を制動する係合状態(オン)と、キャリア82の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0053】
<動力伝達モード>
【0054】
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
【0055】
また、図3は、遊星歯車機構45のサンギヤ81、キャリア82およびリングギヤ83の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
【0056】
動力分割式無段変速機4は、車両1の前進時の動力伝達モードとして、ベルトモードおよびスプリットモードを有している。
【0057】
ベルトモードでは、図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ46がインプット軸41から切り離され、遊星歯車機構45のキャリア82がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構45のサンギヤ81とリングギヤ83とが直結される。
【0058】
インプット軸41に入力される動力は、逆転ギヤ機構44により逆転かつ減速されて、無段変速機構43のプライマリ軸51に伝達され、プライマリ軸51およびプライマリプーリ53を回転させる。プライマリプーリ53の回転は、ベルト55を介して、セカンダリプーリ54に伝達され、セカンダリプーリ54およびセカンダリ軸52を回転させる。遊星歯車機構45のサンギヤ81とリングギヤ83とが直結されているので、セカンダリ軸52と一体となって、サンギヤ81、リングギヤ83およびアウトプット軸42が回転する。したがって、ベルトモードでは、図3に示されるように、動力分割式無段変速機4の全体での変速比であるユニット変速比がベルト変速比と一致する。
【0059】
スプリットモードでは、図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸41とスプリットドライブギヤ46とが直結され、遊星歯車機構45のキャリア82がフリーになり、遊星歯車機構45のサンギヤ81とリングギヤ83とが切り離される。
【0060】
インプット軸41に入力される動力の一部は、逆転ギヤ機構44により逆転かつ減速されて、無段変速機構43のプライマリ軸51に伝達され、プライマリ軸51からプライマリプーリ53、ベルト55およびセカンダリプーリ54を介してセカンダリ軸52に伝達され、遊星歯車機構45のサンギヤ81に伝達される。一方、インプット軸41に入力される動力の一部は、スプリットドライブギヤ46からスプリットドリブンギヤ47を介して遊星歯車機構45のキャリア82に増速されて伝達される。
【0061】
スプリットドライブギヤ46とスプリットドリブンギヤ47とのギヤ比であるスプリット変速比は、一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸41に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構45のキャリア82の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられると、遊星歯車機構45のサンギヤ81の回転数が下がるので、図3に破線で示されるように、遊星歯車機構45のリングギヤ83(アウトプット軸42)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、ベルト変速比が大きいほど、ユニット変速比が小さくなる。
【0062】
ベルトモードおよびスプリットモードにおけるアウトプット軸42の回転は、出力ギヤ48を介して、デファレンシャルギヤ6に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト7,8が前進方向に回転する。
【0063】
車両1を後進させるためのリバースモードでは、図2に示されるように、クラッチC1,C2が係合され、ブレーキB1が解放される。これにより、スプリットドライブギヤ46がインプット軸41から切り離され、遊星歯車機構45のサンギヤ81とリングギヤ83とが切り離され、遊星歯車機構45のキャリア82が制動される。
【0064】
インプット軸41に入力される動力は、逆転ギヤ機構44により逆転かつ減速されて、無段変速機構43のプライマリ軸51に伝達され、プライマリ軸51からプライマリプーリ53、ベルト55およびセカンダリプーリ54を介してセカンダリ軸52に伝達され、セカンダリ軸52と一体に、遊星歯車機構45のサンギヤ81を回転させる。遊星歯車機構45のキャリア82が制動されているので、サンギヤ81が回転すると、遊星歯車機構45のリングギヤ83がサンギヤ81と逆方向に回転する。このリングギヤ83の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ83の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ83と一体に、アウトプット軸42が回転する。アウトプット軸42の回転は、出力ギヤ48を介して、デファレンシャルギヤ6に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト7,8が後進方向に回転する。
【0065】
<作用効果>
【0066】
動力分割式無段変速機4では、出願人による先の提案に係る構成、つまり図4に示される構成と比較して、増速用遊星歯車機構914およびアイドルギヤ917が省略されている。これにより、噛み合い損失を低減させることができるので、トルクの伝達効率を向上させることができる。その結果、動力分割式無段変速機4が搭載される車両1の走行燃費の低減を図ることができる。また、部品点数の削減によるコストの低減を達成することができ、ひいては、動力分割式無段変速機4が搭載される車両1のコストの低減を図ることができる。さらには、アイドルギヤ917の省略によって、1軸減らすことができ、動力分割式無段変速機4の体格を小さくすることができる。その結果、動力分割式無段変速機4の車両1への搭載性を向上させることができる。
【0067】
逆転ギヤ機構44は、インプット軸41に入力される動力を逆転かつ減速させて無段変速機構43のプライマリ軸51に伝達する構成である。インプット軸41に入力される動力が逆転かつ減速されてプライマリ軸51に伝達されることにより、ベルト55の回転数を抑えることができるので、ベルト55のフリクションロスを低減させることができる。その結果、動力分割式無段変速機4のトルクの伝達効率をさらに向上させることができる。
【0068】
<変形例>
【0069】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもでき、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0070】
4 動力分割式無段変速機
41 インプット軸
42 アウトプット軸
43 無段変速機構
44 逆転ギヤ機構
45 遊星歯車機構
46 スプリットドライブギヤ
47 スプリットドリブンギヤ
51 プライマリ軸
52 セカンダリ軸
53 プライマリプーリ
54 セカンダリプーリ
55 ベルト
81 サンギヤ
82 キャリア
83 リングギヤ
B1 ブレーキ
C1 クラッチ(第1係合要素)
C2 クラッチ(第2係合要素)
図1
図2
図3
図4
図5