【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ヒト幹細胞産業応用促進基盤技術開発/ヒト幹細胞の実用化に向けた評価基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
SHEN, G., et al.,A 2,6-Disubstituted 4-Anilinoquinazoline Derivative Facilitates Cardiomyogenesis of Embryonic Stem Cells,ChemMedChem,2012年,7,pp.733-740
【文献】
森崎隆幸,心筋分化における分子解剖学的制御機構の解明に関する研究,厚生労働省循環器病研究委託費による研究報告集(平成15年度),国立循環器病センター,2005年 1月,p.177
【文献】
WANG, Z., et al.,Neuregulin-1 enhances differentiation of cardiomyocytes from embryonic stem cells,Med. Biol. Eng. Comput.,2009年,47,pp.41-48
【文献】
MINAMI, I., et al.,A Small Molecule that Promotes Cardiac Differentiation of Human Pluripotent Stem Cells under Defined, Cytokine- and Xeno-free Conditions,Cell Reports,2012年,2,pp.1448-1460
【文献】
南一成ら,新規低分子化合物を用いたヒトES/iPS細胞の臨床グレード心筋分化誘導法の開発,再生医療,2013年 2月28日,12(suppl.),p.151
【文献】
WANG Hanmin, et al.,Cardiac Induction of Embryonic Stem Cells by a Small Molecule Inhibitor of Wnt/β-Catenin Signaling,ACS Chem. Biol.,2011年,6,pp.192-197
【文献】
山下潤,iPS細胞からの心筋分化・血管分化,医学のあゆみ,2011年12月31日,239(14),pp.1416-1421
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
EGF受容体阻害剤が、AG1478、ゲフィチニブ、アファチニブ、ARRY334543、AST1306、AZD8931、BIBU1361、BIBX1382、BPDQ、BPIQ−I、BPIQ−II、カネルチニブ、CL−387,785、CUDC101、ダコミチニブ、バンデタニブ、EGFR Inhibitor III(CAS 733009-42-2)、EGFR/ErbB-2 Inhibitor(CAS 179248-61-4)、エルロチニブ、GW583340、GW2974、HDS029、ラパチニブ、WHI−P154、OSI−420、PD153035、PD168393、PD174265、ペリチニブ、Compound 56、XL657、PP3、AG−490、AG555、チロホスチンB42、チロホスチンB44、AG556、AG494、AG825、RG−13022、DAPH、EGFR Inhibitor(CAS 879127-07-8)、エルブスタチンアナログ(CAS 63177-57-1)、JNJ28871063、チロホスチン47、ラベンダスチンA、ラベンダスチンC、ラベンダスチンCメチルエステル、LFM−A12、TAK165、TAK285、チロホスチン51、チロホスチンAG183、チロホスチンAG528、チロホスチンAG99、チロホスチンRG14620、WZ3146、WZ4002、WZ8040、ブテイン、およびチロホスチンAG112から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の多能性幹細胞の心筋分化促進剤は、上皮成長因子(EGF)受容体阻害剤を含む。本発明における「EGF受容体阻害剤」とは、EGF受容体からのシグナル伝達を阻害するあらゆる物質を意味し、低分子化合物、核酸、ペプチド、抗体などが含まれるがこれらに限定されない。EGF受容体阻害剤としては、AG1478、ゲフィチニブ(Gefitinib)、アファチニブ(Afatinib)、ARRY334543、AST1306、AZD8931、BIBU1361、BIBX1382、BPDQ、BPIQ−I、BPIQ−II、カネルチニブ(Canertinib)、CL−387,785、CUDC101、ダコミチニブ(Dacomitinib)、バンデタニブ(Vandetanib)、EGFR Inhibitor III(N−(4−((3,4−ジクロロ−6−フルオロフェニル)アミノ)−キナゾリン−6−イル)−2−クロロアセトアミド、CAS 733009-42-2)、EGFR/ErbB-2 Inhibitor(4−(4−ベンジルオキシアニリノ)−6,7−ジメトキシキナゾリン、CAS 179248-61-4)、エルロチニブ(Erlotinib)、GW583340、GW2974、HDS029、ラパチニブ(Lapatinib)、WHI−P154、OSI−420、PD153035、PD168393、PD174265、ペリチニブ(Pelitinib)、Compound 56、XL657、PP3、AG−490、AG555、チロホスチン(Tyrphostin)B42、チロホスチンB44、AG556、AG494、AG825、RG−13022、DAPH、EGFR Inhibitor(シクロプロパンカルボン酸−(3−(6−(3−トリフルオロメチル−フェニルアミノ)−ピリミジン−4−イルアミノ)−フェニル)−アミド、CAS 879127-07-8)、エルブスタチンアナログ(Erbstatin Analog)(メチル 2,5−ジヒドロキシシナマート、CAS 63177-57-1)、JNJ28871063、チロホスチン47、ラベンダスチン(Lavendustin)A、ラベンダスチンC、ラベンダスチンCメチルエステル、LFM−A12、TAK165、TAK285、チロホスチン51、チロホスチンAG183、チロホスチンAG528、チロホスチンAG99、チロホスチンRG14620、WZ3146、WZ4002、WZ8040、ブテイン、チロホスチンAG112などが例示される。ある態様において、EGF受容体阻害剤は、キナゾリン系骨格を有するEGF受容体阻害剤、例えばAG1478、ゲフィチニブ、アファチニブ、ARRY334543、AST1306、AZD8931、BIBU1361、BIBX1382、BPDQ、BPIQ−I、BPIQ−II、カネルチニブ、CL−387,785、CUDC101、ダコミチニブ、バンデタニブ、EGFR Inhibitor III(CAS 733009-42-2)、EGFR/ErbB-2 Inhibitor(CAS 179248-61-4)、エルロチニブ、GW583340、GW2974、HDS029、ラパチニブ、WHI−P154、OSI−420、PD153035、PD168393、PD174265、ペリチニブ、Compound 56、もしくはXL657であるか、または、PP3である。本発明に好適なEGF受容体阻害剤は、AG1478、ゲフィチニブ、およびPP3である。EGF受容体阻害剤は、Santa Cruz Biotechなどから入手可能である。
【0016】
本発明において「多能性幹細胞」とは、成体を構成する全ての細胞に分化することができる多分化能(pluripotency)と、細胞分裂を経てもその多分化能を維持することができる自己複製能を有する細胞を意味する。「多能性幹細胞」には、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)が含まれる。「多能性幹細胞」の生物種は特に限定はされないが、好ましくは哺乳類であり、より好ましくは齧歯類または霊長類である。本発明は、サルまたはヒト多能性幹細胞に特に好適である。
【0017】
ES細胞は、初期胚に由来する多能性幹細胞であり、胚盤胞の内部細胞塊または着床後の初期胚のエピブラストから樹立することができる。ES細胞としては、ヒト(Thomson J. A. et al., Science 282: 1145-1147 (1998) 、Biochem Biophys Res Commun. 345(3), 926-32 (2006);アカゲザルおよびマーモセット等の霊長類(Thomson J. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 7844-7848 (1995);Thomson J. A. et al., Biol. Reprod. 55: 254-259 (1996));ウサギ(特表2000−508919号);ハムスター(Doetshman T. et al., Dev. Biol. 127: 224-227 (1988))、ブタ(Evans M. J. et al., Theriogenology 33: 125128 (1990); Piedrahita J.A. et al., Theriogenology 34: 879-891 (1990); Notarianni E. et al., J. Reprod. Fert. 40: 51-56 (1990); Talbot N. C. et al., Cell. Dev. Biol. 29A: 546-554 (1993))、ヒツジ(Notarianni E. et al., J. Reprod. Fert. Suppl. 43: 255-260 (1991))、ウシ(Evans M. J. et al., Theriogenology 33: 125-128 (1990); Saito S. et al., Roux. Arch. Dev. Biol. 201: 134-141 (1992))、ミンク(Sukoyan M. A. et al., Mol. Reorod. Dev. 33: 418-431 (1993)) (いずれも参照により本明細書に含まれる)などのES細胞が挙げられる。
【0018】
EG細胞は、始原生殖細胞に由来する多能性幹細胞であり、例えば、ヒトEG細胞(Shamblott, et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 95: 13726-13731 (1998)) (参照により本明細書に含まれる)が挙げられる。
【0019】
本発明において「iPS細胞」とは、体細胞や組織幹細胞などの多能性幹細胞以外の細胞から誘導された多能性幹細胞を意味する。iPS細胞の作製方法は、例えば、WO2007/069666、WO2009/006930、WO2009/006997、WO2009/007852、WO2008/118820、Cell Stem Cell 3(5): 568-574 (2008) 、Cell Stem Cell 4(5): 381-384 (2009)、Nature 454: 646-650 (2008) 、Cell 136(3) :411-419 (2009) 、Nature Biotechnology 26: 1269-1275 (2008) 、Cell Stem Cell 3: 475-479 (2008) 、Nature Cell Biology 11: 197-203 (2009) 、Cell 133(2): 250-264 (2008)、Cell 131(5): 861-72 (2007)、Science 318 (5858): 1917-20 (2007) (いずれも参照により本明細書に含まれる)に記載される。しかしながら、人工的に誘導された多能性幹細胞であれば、いかなる方法で作製された細胞も本発明の「iPS細胞」に含まれる。
【0020】
本発明の心筋分化促進剤は、Wntシグナル阻害剤、Wntシグナル活性化剤、ニトロビン、サイトカイン(bFGF、BMP4、VEGF、DKK1およびアクチビンAの組み合わせ)などの別の心筋分化促進因子と併用してもよい。本発明における「心筋分化促進因子」には、心筋分化促進効果を有するあらゆる物質が含まれる。好ましい態様において、本発明の心筋分化促進剤は、Wntシグナル阻害剤および/またはWntシグナル活性化剤と併用される。
【0021】
本発明における「Wntシグナル活性化剤」とは、Wntシグナル経路を活性化する物質を意味する。Wntシグナル活性化剤としては、例えばBIOおよびCHIR99021などのGSK3β阻害剤が例示される。本発明においては、2以上、例えば2、3、または4種類のWntシグナル活性化剤を併用してもよい。
【0022】
本発明における「Wntシグナル阻害剤」とは、Wntシグナル経路を阻害する物質を意味する。Wntシグナル阻害剤には、例えば、以下の式(I)の化合物またはその塩、IWP2、XAV939、およびIWR1などの化合物、並びにIGFBP4、およびDkk1などのタンパク質が含まれる。好ましくは、本発明におけるWntシグナル阻害剤は化合物であり、例えば、式(I)の化合物またはその塩、IWP2、XAV939、およびIWR1である。本発明においては、2以上、例えば2、3、または4種類のWntシグナル阻害剤を併用してもよい。
【0023】
ある態様において、Wntシグナル阻害剤は、以下の式(I)の化合物またはその塩である:
式(I):
【化1】
[式中、
R
1−R
5は、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR
12R
13(R
12及びR
13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である)である、ここでR
1−R
5のうち隣接する2つが一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成していてもよい、
R
6−R
9は、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基(Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された飽和または不飽和5または6員環であり、該環は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から独立に選択される1または2個の原子を含んでいてもよい);非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR
12R
13(R
12及びR
13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である)である、ここでR
6−R
9のうち隣接する2つが一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成していてもよい、
R
10−R
11は、各々独立して、水素原子;又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である、
Xは、−CR
14(R
14は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基、非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である);酸素原子;硫黄原子;セレン原子;又は基−NR
15(R
15は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基、又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐アシル基である)である、および
nは、0から6の整数である]。
【0024】
炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基が挙げられる。
【0025】
炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基が挙げられる。
【0026】
炭素数1〜5の直鎖又は分岐アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基が挙げられる。
【0027】
ハロゲン原子としては、Cl、Br、IまたはFが挙げられる。
【0028】
好ましい態様において、R
1−R
5は、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基であり、ここでR
1−R
5のうち隣接する2つが一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成していてもよい。
【0029】
R
2及びR
3は、好ましくは、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基であるか、又は、一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成している。さらに好ましくは、R
2及びR
3は、メトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基である。さらにより好ましくは、R
2はメトキシ基であり、R
3はメトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基である。
【0030】
R
1、R
4及びR
5は、好ましくは、水素原子である。
【0031】
ある態様において、R
6−R
9は、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR
12R
13(R
12及びR
13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基である)であり、ここでR
6−R
9のうち隣接する2つが一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成していてもよい。
【0032】
R
6及びR
9は、好ましくは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基であり、より好ましくは、水素原子である。
【0033】
好ましい態様において、R
7は、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基(Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された飽和または不飽和5または6員環であり、該環は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から独立に選択される1または2個の原子を含んでいてもよい);非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR
12R
13(R
12及びR
13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である)であって、R
8は、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基であるか、又は、R
7及びR
8は、一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成している。
【0034】
ある態様において、R
7は、ハロゲン原子である。
【0035】
ある態様において、R
7は、基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖アルコキシ基であり、基−C(O)Aは前記アルコキシ基の末端の炭素原子に結合している。
【0036】
好ましい態様において、Aは窒素原子を少なくとも1つ含み、そのようなAとしては、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、及びピリダジニル基が例示される。より好ましい態様において、Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された、ピペリジニル基、ピペラジニル基、又はモルホリニル基である。さらに好ましい態様において、Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された、ピペリジン−1−イル基、ピペラジン−1−イル基、又はモルホリン−4−イル基である。
【0037】
R
10及びR
11は、好ましくは、水素原子である。
【0038】
好ましい態様において、Xは、酸素原子;硫黄原子;基−NR
15(R
15は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アシル基である)である。Xは、好ましくは、硫黄原子である。
【0039】
好ましい態様において、nは、0から4の整数である。さらに好ましい態様において、nは、1から3の整数であり、さらにより好ましくは2又は3である。
【0040】
本発明における式(I)の化合物またはその塩としては、以下の化合物またはその塩が例示される:
(1)式(I):
【化2】
[式中、
R
1−R
5は、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR
12R
13(R
12及びR
13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である)である、ここでR
1−R
5のうち隣接する2つが一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成していてもよい、
R
6−R
9は、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基(Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された飽和または不飽和5または6員環であり、該環は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から独立に選択される1または2個の原子を含んでいてもよい);非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR
12R
13(R
12及びR
13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である)である、ここでR
6−R
9のうち隣接する2つが一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成していてもよい、
R
10−R
11は、各々独立して、水素原子;又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である、
Xは、−CR
14(R
14は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基、非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である);酸素原子;硫黄原子;セレン原子;又は基−NR
15(R
15は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基、又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐アシル基である)である、および
nは、0から6の整数である]の化合物またはその塩。
(2)R
6−R
9が、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR
12R
13(R
12及びR
13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である)である、ここでR
6−R
9のうち隣接する2つが一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成していてもよい、(1)に記載の化合物またはその塩。
(3)R
1−R
5が、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である、ここでR
1−R
5のうち隣接する2つが一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成していてもよい、および
Xが、酸素原子;硫黄原子;基−NR
15(R
15は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基、又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐アシル基である)である、(2)に記載の化合物またはその塩。
(4)R
2及びR
3が、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基である、又はR
2及びR
3が、一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成している、
R
6及びR
9が、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である、および
R
7が、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR
12R
13(R
12及びR
13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である)である、
R
8が、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である、
又は、R
7及びR
8が、一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成している、(3)に記載の化合物またはその塩。
(5)R
1、R
4、R
5、R
6、R
9、R
10及びR
11が、水素原子である、
R
2及びR
3が、メトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基である、
Xが、硫黄原子である、および
nが、0から4の整数である、(4)に記載の化合物またはその塩。
(6)R
7が、ハロゲン原子であり、R
8が、水素原子である、(5)に記載の化合物またはその塩。
(7)R
2が、メトキシ基である、および
R
3が、メトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基である、(5)または(6)に記載の化合物またはその塩。
(8)nが、1から3の整数である、(5)〜(7)のいずれかに記載の化合物またはその塩。
(9)R
1、R
4、R
5、R
6、R
8、及びR
9が、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である、
R
2及びR
3が、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基である、又はR
2及びR
3が、一緒になって−O−CH
2−O−または−O−(CH
2)
2−O−を形成している、
R
7が、基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基(Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された飽和または不飽和5または6員環であり、該環は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から独立に選択される1または2個の原子を含んでいてもよい)である、および
Xが、酸素原子;硫黄原子;基−NR
15(R
15は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基、又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐アシル基である)である、(1)に記載の化合物またはその塩。
(10)R
1、R
4、R
5、R
6、R
8、及びR
9が、水素原子である、
R
2及びR
3が、メトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基である、
R
10及びR
11が、水素原子である、
Xが、硫黄原子である、
Aが、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された、ピペリジニル基、ピペラジニル基、又はモルホリニル基である、および
nが、0から4の整数である、(11)に記載の化合物またはその塩。
【0041】
ある態様において、式(I)の化合物またはその塩は、以下の化合物またはその塩である:
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
および、
【化7】
[式中、R
7は、ハロゲン原子である。]。
【0042】
本発明における好適なWntシグナル阻害剤は、以下から選択される化合物またはその塩である:
KY02111
【化8】
KY01041
【化9】
T61164
【化10】
KY02114
【化11】
KY01045
【化12】
KY01040
【化13】
KY02109
【化14】
KY01042
【化15】
KY01043
【化16】
KY01046
【化17】
PB2852
【化18】
N11474
【化19】
PB2572
【化20】
PB2570
【化21】
KY02104
【化22】
SO087
【化23】
SO102
【化24】
SO096
【化25】
SO094
【化26】
SO3031(KY01−I)
【化27】
SO2031(KY02−I)
【化28】
SO3042(KY03−I)
【化29】
SO2077
【化30】
【0043】
本発明における特に好適な式(I)の化合物またはその塩は、以下から選択される化合物またはその塩である:
KY02111
【化31】
KY01041
【化32】
T61164
【化33】
KY02114
【化34】
KY01045
【化35】
KY02104
【化36】
SO087
【化37】
SO102
【化38】
SO3031(KY01−I)
【化39】
SO2031(KY02−I)
【化40】
SO3042(KY03−I)
【化41】
SO2077
【化42】
【0044】
式(I)の化合物は、公知の方法(J. Med. Chem., 1965, 8 (5), pp 734-735)(参照により本明細書に含まれる)により、あるいは国際公開第2012/026491号パンフレットに記載の方法に準じて、合成することができる。
【0045】
上記化合物は、例えば、J. Med. Chem., 1965, 8 (5), pp 734-735 (参照により本明細書に含まれる)に記載されている(N11474、T61164)。また、UkrOrgSynthesis社(PB2852、PB2572、PB2570)やENAMINE社(T61164)などから入手可能である。
【0046】
本発明の心筋分化促進剤は、後述する本発明の多能性幹細胞の心筋細胞誘導方法にしたがい使用することができる。
【0047】
本発明の心筋分化促進用キットは、EGF受容体阻害剤を含む。本発明の心筋分化促進用キットはさらに、Wntシグナル阻害剤、Wntシグナル活性化剤その他の心筋分化促進因子を含んでいてもよい。
【0048】
本発明の多能性幹細胞の心筋細胞誘導方法は、EGF受容体阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養することを含む。本発明は、インビトロで実施される。本発明の方法に用いる培地は、一般的に多能性幹細胞の心筋分化に使用される培地(以下、心筋分化培地ともいう)であればよく、その組成は特に限定はされない。本発明の方法に用いる培地としては、IMDM培地を基本とした心筋分化培地(例えば、実施例で使用している培地)、DMEMを基本とした心筋分化培地(例えば、DMEM/F12培地(Sigma)200ml、ウシ胎児血清(GIBCO)50ml、MEM non-essential amino acid solution (Sigma)2.5ml、ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO)2.5ml、200mM L−グルタミン 2.5ml、2−メルカプトエタノール)、またはStemPro-34SFM(GIBCO)+BMP4(10ng/ml)のような培地が例示される。
【0049】
ある態様において本発明は、血清を含まない培地(以下、血清不含培地ともいう)を用いる多能性幹細胞の心筋細胞誘導方法を提供する。血清不含培地を用いる場合、培地はアルブミンを含むことが好ましい。アルブミンとしては、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミンが挙げられる。アルブミンを含む血清不含培地を用いた場合、血清、サイトカイン、支持細胞(フィーダー細胞)等、アルブミン以外のタンパク質や、使用する多能性幹細胞とは異なる生物種に由来する成分(すなわち、異種成分)の非存在下で多能性幹細胞の心筋分化を誘導することができる。
【0050】
本発明の方法においては、一般的に多能性幹細胞の心筋分化に適した培養方法を用いることができる。培養方法としては、例えば、接着培養法、浮遊培養法、懸濁培養法等が挙げられる。ある態様において、本発明の方法は、END2細胞のような支持細胞(フィーダー細胞)を使用しない。
【0051】
本発明の方法において、心筋分化培地における培養(以下、心筋分化培養ともいう)の開始からEGF受容体阻害剤を含む培地中での培養開始までの期間、およびEGF受容体阻害剤を含む培地中での培養期間は、適宜変更されうる。好適には、サルまたはヒトES細胞またはiPS細胞の場合、心筋分化培養の2、3、または4日目から14日目までのうち2日間以上(具体的には、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12日間)、好ましくは3〜10日間、より好ましくは4〜10日間、さらに好ましくは4〜8日間、培養すればよい。例えば、心筋分化培養の2、3、または4日目から10日目までのうち4〜8日間、例えば心筋分化培養の2〜10日目(8日間)、2〜9日目(7日間)、2〜8日目(6日間)、3〜10日目(7日間)、3〜9日目(6日間)、3〜8日目(5日間)、4〜10日目(6日間)、4〜9日目(5日間)、4〜8日目(4日間)に実施することが好ましい。
【0052】
本発明の方法は、Wntシグナル活性化剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養すること、および/またはWntシグナル阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養することをさらに含んでもよい。
【0053】
ある態様において、本発明の方法は、EGF受容体阻害剤とWntシグナル阻害剤とを含む培地中で多能性幹細胞を培養する工程を含む。本方法は、EGF受容体阻害剤とWntシグナル阻害剤とを含む培地中で多能性幹細胞を培養する工程に加えて、EGF受容体阻害剤またはWntシグナル阻害剤のいずれか一方を含む培地中で細胞を培養する工程を含んでもよい。例えば、EGF受容体阻害剤を含みWntシグナル阻害剤を含まない培地、またはWntシグナル阻害剤を含みEGF受容体阻害剤を含まない培地中で細胞を1〜2日間培養した後、培地をEGF受容体阻害剤とWntシグナル阻害剤の両方を含む培地に交換し、培養を継続してもよい。あるいは、培養期間全体においてEGF受容体阻害剤とWntシグナル阻害剤との両方を含む培地を使用してもよい。また、EGF受容体阻害剤とWntシグナル阻害剤との両方を含む培地中での培養後、いずれか一方のみを含む培地中で細胞を培養する期間があってもよい。
【0054】
ある態様において、本発明の方法は、以下の工程を含む:
(1)多能性幹細胞をWntシグナル活性化剤を含む培地中で培養する工程、および;
(2)工程(1)の後、前記細胞をEGF受容体阻害剤を含む培地中で培養する工程。
前記方法において、心筋分化培養の開始から工程(1)の開始までの期間、工程(1)の終了から工程(2)の開始までの期間、および工程(1)および(2)の培養期間は適宜変更されうる。工程(2)は、工程(1)の終了直後から開始してもよいし、工程(1)の終了から一定期間後に開始してもよい。Wntシグナル活性化剤は、多能性幹細胞の心筋分化の初期段階に添加すればよい。ここで、多能性幹細胞の心筋分化の初期段階とは、中胚葉マーカー遺伝子の発現上昇が起こる、多能性幹細胞から中胚葉への分化誘導期を意味する。中胚葉への分化は、中胚葉マーカー遺伝子の発現を調べることにより決定することができる。中胚葉マーカー遺伝子としては、T、MIXL1、NODAL等が挙げられる。
【0055】
例えば、サルまたはヒトES細胞またはiPS細胞の場合、心筋分化培養の0〜2日目または0〜3日目に、すなわち心筋分化培養開始から2または3日間、工程(1)を実施し、次いで、心筋分化培養の2、3、または4日目から14日目までのうち2日間以上(具体的には、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12日間)、好ましくは3〜10日間、より好ましくは4〜10日間、さらに好ましくは4〜8日間、工程(2)を実施すればよい。工程(2)は、例えば、心筋分化培養の2、3、または4日目から10日目までのうち4〜8日間、例えば心筋分化培養の2〜10日目(8日間)、2〜9日目(7日間)、2〜8日目(6日間)、3〜10日目(7日間)、3〜9日目(6日間)、3〜8日目(5日間)、4〜10日目(6日間)、4〜9日目(5日間)、または4〜8日目(4日間)に実施することが好ましい。
【0056】
前記方法において、好ましくは、工程(2)の培養期間の全体または一部において、EGF受容体阻害剤に加えてWntシグナル阻害剤をさらに含む培地中で細胞を培養する。Wntシグナル阻害剤は、多能性幹細胞の心筋分化の中期段階に添加すればよい。ここで、多能性幹細胞の心筋分化の中期段階とは、中胚葉から心筋細胞への分化誘導期を意味する。心筋細胞への分化は、拍動心筋細胞の数、心筋マーカーの発現、イオンチャネルの発現、電気生理学的刺激に対する反応等により確認することができる。心筋マーカーとしては、αMHC、βMHC、cTnT、αアクチニン、およびNKX2.5が挙げられる。また、イオンチャネルとしては、HCN4、Nav1.5、Cav1.2、Cav3.2、HERG1b、およびKCNQ1が挙げられる。
【0057】
例えば、EGF受容体阻害剤を含みWntシグナル阻害剤を含まない培地中で細胞を1〜2日間、好ましくは1日間培養した後、培地をEGF受容体阻害剤とWntシグナル阻害剤とを含む培地に交換し、培養を継続する。あるいは、工程(2)の培養期間全体においてEGF受容体阻害剤とWntシグナル阻害剤の両方を含む培地を使用してもよい。また、Wntシグナル阻害剤を含みEGF受容体阻害剤を含まない培地中で細胞を1〜2日間培養した後、培地をEGF受容体阻害剤とWntシグナル阻害剤とを含む培地に交換し、培養を継続してもよい。さらに、EGF受容体阻害剤とWntシグナル阻害剤との両方を含む培地中での培養後、いずれか一方のみを含む培地中で細胞を培養する期間があってもよい。本方法によれば、浮遊培養法によっても効率的に多能性幹細胞の心筋分化を誘導することができる。
【0058】
本発明におけるEGF受容体阻害剤の濃度は、特に限定はされない。EGF受容体阻害剤としてゲフィチニブまたはAG1478を使用する場合、最終濃度100nM〜100μM、好ましくは1μM〜20μMで使用すればよい。EGF受容体阻害剤としてPP3を使用する場合、最終濃度1μM〜1mM、好ましくは10μM〜100μMで使用すればよい。
【0059】
本発明におけるWntシグナル活性化剤およびWntシグナル阻害剤の濃度は、特に限定はされない。Wntシグナル活性化剤としてBIOまたはCHIR99021を使用する場合、最終濃度100nM〜100μM、好ましくは1μM〜10μMで使用すればよい。Wntシグナル阻害剤としてIWP2、XAV939、またはIWR1を用いる場合、例えば最終濃度0.5〜20μM、好ましくは1〜10μMで使用すればよい。Wntシグナル阻害剤として式(I)の化合物またはその塩を用いる場合、使用する化合物またはその塩に応じて、例えば最終濃度0.1〜20μM、好ましくは0.1〜10μM、より好ましくは1〜10μMで使用すればよい。
【0060】
本発明の方法は、心筋細胞の製造に用いることができる。心筋細胞が得られたことは、拍動心筋細胞の数、心筋マーカーの発現、イオンチャネルの発現、電気生理学的刺激に対する反応等により確認することができる。本発明の方法により得られた心筋細胞は、インビトロにおける薬剤安全性試験に、あるいは心臓疾患などに対する移植用心筋細胞として、使用することができる。
【0061】
さらなる態様において、本発明は、前記式(I)の化合物またはその塩を含む多能性幹細胞の心筋分化促進剤であって、EGF受容体阻害剤と併用される心筋分化促進剤を提供する。本態様における式(I)の化合物またはその塩およびEGF受容体阻害剤は、「EGF受容体阻害剤を含む、多能性幹細胞の心筋分化促進剤」について説明のとおりである。
【0062】
さらなる態様において、本発明は、多能性幹細胞の心筋分化促進のためのEGF受容体阻害剤の使用、および多能性幹細胞の心筋分化促進剤の製造のためのEGF受容体阻害剤の使用を提供する。かかる態様は、本発明の心筋分化促進剤および心筋分化誘導方法に関する記載に準じて実施することができる。
【0063】
以下、実施例によりさらに本発明を説明するが、本発明は如何なる意味においても本実施例により限定されない。
【実施例】
【0064】
1.サルES細胞の接着培養系におけるEGF受容体阻害剤の心筋分化促進効果(1)
心筋分化マーカーであるα−MHC遺伝子のプロモータを持つGFP遺伝子を導入したサルES細胞を6ウェルプレート(旭硝子/ 5816-006 :Ezviewカルチャープレート)上に播種(2.0×10
5細胞/ウェル)し、IMDM培地を基本とした20%FBS(GIBCO 10099-141)含有心筋分化培地(IMDM (Sigma) (20% FBS (Gibco)、1% MEM 非必須アミノ酸溶液 (Sigma)、1% ペニシリン-ストレプトマイシン (Gibco)、2 mM L-グルタミン (Sigma)、0.001% 2-メルカプトエタノール (Gibco)、および0.005N NaOH含有))で培養した。培養4〜8日目に、KY02111(10μM)と、EGF受容体阻害剤であるAG1478または下記のキナーゼ阻害剤のいずれかを投与した。
SB203580(20μM):p38MAPK阻害剤
BIRB796(10μM):p38MAPK阻害剤(SBよりもp38阻害活性が強い。)
U0126(10μM):ERK/MAPKK(MEKK)阻害剤
ODQ(20μM):NO感受性グアニル酸シクラーゼ阻害剤(NOによるcGMP産生を阻害する。)
チロホスチンAG490(5μM):JAK2/3阻害剤
AG1478(20μM):EGF受容体チロシンキナーゼおよびErb−B2受容体阻害剤
培養10日目にGFP蛍光量が増加している化合物を、HCS(high contents screening)システム(オリンパスIX81倒立顕微鏡およびモレキュラーデバイス/MetaMorph イメージングシステム)を用いてGFP蛍光量を測定することで検出した。
【0065】
その結果、EGF受容体阻害剤であるAG1478が心筋分化促進効果を有することが見出された(
図1、2)。また、他のEGF受容体阻害剤であるゲフィチニブも、心筋分化促進効果を有することが分かった(
図3)。さらに、AG1478やゲフィチニブは、Wntシグナル阻害剤であるKY02111やXAV939(WAKO)の同時添加により、相乗的に心筋分化を促進することが分かった(
図4)。
【0066】
2.ヒトES細胞およびiPS細胞の浮遊培養系におけるEGF受容体阻害剤の心筋分化促進効果
マウスフィーダー細胞で継代維持したヒトES細胞またはiPS細胞を回収し、そのヒトES細胞またはiPS細胞コロニー(3−10×10
6細胞/ウェル)を、Ultra-lowカルチャーディッシュの6ウェルプレート(CORNING 3261)に播種し、IMDMを基本とした既知組成培地(IMDM (Sigma)(1% MEM 非必須アミノ酸溶液 (Sigma)、1% ペニシリン-ストレプトマイシン (Gibco)、2 mM L-グルタミン (Sigma)、0.5 mM L-カルニチン (Sigma)、0.001% 2-メルカプトエタノール (Gibco)、および0.4% ヒト血清アルブミン (Sigma)含有))を用いて浮遊培養で30日間培養した(
図5)。培養0〜2日目に(2日間)CHIR99021(Axon)(4μM)とBIO(Calbiochem)(1μM)を添加し、培養3〜9日目に(6日間)KY02111(10μM)とXAV939(1μM)を添加した。また、KY02111とXAV939に加えて、EGF受容体阻害剤であるAG1478あるいはゲフィチニブを、5〜20μMの濃度で、培養0〜2日目(2日間)、2〜5日目(3日間)、3〜7日目(4日間)、あるいは2〜9日目(7日間)添加した。心筋分化効果は、培養30日目に、心筋特異的マーカーである心筋トロポニンT(cTnT)に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより心筋細胞の割合を解析して評価した。
【0067】
その結果、ヒトES細胞(KhES−3)において、ゲフィチニブ(10μM)の0〜2日目の添加では心筋分化促進効果は見られなかったが、2〜5日目および3〜7日目の添加では顕著な分化効率の増加が見られた(
図6)。さらに、ヒトES細胞(KhES−3)とヒトiPS細胞(IMR90−1)について、AG1478またはゲフィチニブを培養2〜9日目に5〜20μM添加したところ、ヒトES細胞とiPS細胞の両方について心筋分化効率の増加が見られ、特にAG1478の20μM添加では心筋細胞の割合が92〜95%まで顕著に上昇した(
図7)。また、AG1478とゲフィチニブは、それぞれ単独(KY02111およびXAV939の添加なし)でも心筋分化促進効果を示し、XAV939のみとの組み合わせ(XAV+AG1478またはゲフィチニブ)においても分化促進効果が確認された(
図8)。これらの結果は、EGF受容体阻害剤とWntシグナル活性化剤および/またはWntシグナル阻害剤とを組み合わせることで相乗的な強い心筋分化促進効果が得られることを示す。
【0068】
3.フィーダーフリーのヒトiPS細胞スフェア培養系におけるEGF受容体阻害剤の心筋分化促進効果
ヒトiPS細胞株(253G1)に対して支持細胞なし(フィーダーフリー)のスフェア培養を行った。具体的には、マウスフィーダー細胞で継代維持した253G1細胞を回収し、その細胞塊を50μmのメッシュ(CellTrics, PARTEC04004-2327)に通して均一な細胞塊(80−120μm)を得た後、Ultra-lowカルチャーディッシュの6ウェルプレート(CORNING 3261)に播種し、3%メチルセルロース(R&D, HSC001)を含んだmTeSR1培地(Stem Cell Technology 05850)でiPS細胞コロニーの大きさが約200−300μmになるまで浮遊培養した。このフィーダーフリーのスフェア培養法を用いて上記の手順を繰り返すことで20継代以上培養維持した細胞に対し、IMDMを基本とした既知組成培地(IMDM (Sigma)(1% MEM 非必須アミノ酸溶液 (Sigma)、1% ペニシリン-ストレプトマイシン (Gibco)、2 mM L-グルタミン (Sigma)、0.5 mM L-カルニチン (Sigma)、0.001% 2-メルカプトエタノール (Gibco)、および0.4% ヒト血清アルブミン (Sigma)含有)を培地交換によりそのまま添加し、浮遊培養で30日間培養した(
図5)。培養0〜2日目に(2日間)CHIR99021(4μM)とBIO(1μM)を添加し、培養3〜9日目に(6日間)KY02111(10μM)とXAV939(1μM)を添加した。また、KY02111とXAV939に加えて、EGF受容体阻害剤であるAG1478あるいはゲフィチニブを、10μMの濃度で、3〜9日目(6日間)添加した。心筋分化効果は、培養30日目に、心筋特異的マーカーである心筋トロポニンT(cTnT)に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより心筋細胞の割合を解析して評価した。
【0069】
その結果、AG1478あるいはゲフィチニブの添加により、分化誘導された心筋細胞の割合が34%から50%近くにまで増加した(
図9)。すなわち、マウスフィーダー細胞上のヒトiPS細胞だけではなく、フィーダーフリーのスフェア培養系におけるiPS細胞に対しても、EGF受容体阻害剤が心筋分化効率を高める効果が持つことが分かった。
【0070】
4.サルES細胞の接着培養系におけるEGF受容体阻害剤の心筋分化促進効果(2)
上記1と同様にして、サルES細胞においてEGF受容体阻害剤であるPP3のの心筋分化促進効果を検討した。培養4〜8日目に、KY02111(10μM)と、PP3(3μM、10μM、30μM、または100μM)を投与した。その結果、PP3はKY02111の心筋分化促進効果を増強することが分かった(
図10)。PP3は、AG1478やゲフィチニブと骨格構造が異なること、またEGFRをリン酸化するSrcキナーゼに対する阻害作用を有さないEGFR阻害剤であることから、この結果はEGF受容体からのシグナル伝達を阻害する物質が心筋分化促進効果を有することを示す。
【0071】
製造例
SO3031(KY01−I)
【化43】
2−アミノ−6−ヨードベンゾチアゾール(200mg,0.723mmol)、3,4−ジメトキシフェニル酢酸(157mg,0.795mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(3ml)溶液に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(139μl,0.803mmol)、O−(6−クロロベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(360mg,0.870mmol)を加えて終夜、室温にて攪拌した。反応終了後、酢酸エチルにて希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した。残渣をエタノールにて再結晶し、2−(2−(3,4−ジメトキシフェニル)アセトアミド)−6−ヨードベンゾチアゾールを167mg、収率50%で得た。
1H NMR (DMSO-d
6): δ 12.61 (s, 1H), 8.37 (s, 1H), 7.73-7.69 (m ,1H), 7.54 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 6.97-6.84 (m, 3H), 3.75-3.72 (m, 8H).
MS (ESI) Found; 455 [M+H]
+
【0072】
SO2031(KY02−I)
【化44】
4−ヨードアニリン(1.00g,4.57mmol)のジクロロメタン(3ml)溶液に、チオカルボニルジイミダゾール(976mg,5.47mmol)を加えて1.5時間、室温にて攪拌した。25%アンモニア水(3ml)を加えて終夜、室温にて攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧下で留去し、析出物を濾過して1−(4−ヨードフェニル)チオウレアを889mg、収率59%で得た。
【化45】
1−(4−ヨードフェニル)チオウレア(889mg,3.19mmol)のクロロホルム(7ml)懸濁液に、臭素(328μl,6.40mmol)を加えて加熱還流し、6時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去し、ジクロロメタンを加えて、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去後、析出物を濾過して2−アミノ−6−ヨードベンゾチアゾールを650mg、収率73%で得た。
【化46】
2−アミノ−6−ヨードベンゾチアゾール(100mg,0.362mmol)、3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロピオン酸(91.4mg,0.435mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(2ml)溶液に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(69.4μl,0.398mmol)、O−(6−クロロベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(180mg,0.435mmol)を加えて終夜、室温にて攪拌した。反応終了後、酢酸エチルにて希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した。残渣をエタノールにて再結晶し、2−(3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロパンアミド)−6−ヨードベンゾチアゾールを83mg、収率48%で得た。
1H NMR (DMSO-d
6): δ 12.42 (s, 1H), 8.37 (s, 1H), 7.72-7.69 (m, 1H), 7.52 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.85-6.83 (m, 2H), 6.75-6.72 (m, 1H), 3.71 (s, 3H), 3.69 (s, 3H), 2.90-2.76 (m, 4H).
MS (ESI) Found; 469 [M+H]
+
【0073】
SO3042(KY03−I)
【化47】
2−アミノ−6−ヨードベンゾチアゾール(250mg,0.905mmol),4−(3,4−ジメトキシフェニル)ブタン酸(224mg,0.995mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(3ml)溶液に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(174μl,0.995mmol)、O−(6−クロロベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(450mg,1.09mmol)を加えて終夜、室温にて攪拌した。反応終了後、酢酸エチルにて希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した。残渣をエタノールにて再結晶し、2−(4−(3,4−ジメトキシフェニル)ブタンアミド)−6−ヨードベンゾチアゾールを131mg、収率30%で得た。
1H NMR (DMSO-d
6): δ 12.37 (s, 1H), 8.37 (s, 1H), 7.72-7.69 (m, 1H), 7.52 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.86-6.79 (m, 2H), 6.70 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 3.73 (s, 3H), 3.70 (s, 3H), 2.58-2.48 (m, 4H), 1.96-1.86 (m, 2H).
MS (ESI) Found; 483 [M+H]
+
【0074】
SO2077
【化48】
4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニルプロピオン酸(500mg,2.54mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(5ml)溶液に、炭酸カリウム(881mg,6.37mmol)、1−ブロモプロパン(692μl,7.65mmol)を加えて、室温にて終夜攪拌した。反応終了後、酢酸エチルにて希釈し、水、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/酢酸エチル=4/1)にて精製し、プロピル 3−(3−メトキシ−4−プロポキシフェニル)プロパノエートを590mg、収率82%で得た。
【化49】
プロピル 3−(3−メトキシ−4−プロポキシフェニル)プロパノエート(590mg,2.10mmol)を1,4−ジオキサンに溶かし、5mol/l水酸化ナトリウム水溶液(1.68ml)を加えて室温にて終夜攪拌した。反応終了後、6mol/l塩酸を加えて、酢酸エチルにて抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を留去し、3−(3−メトキシ−4−プロポキシフェニル)プロピオン酸を438mg、収率87%で得た。
【化50】
2−アミノ−6−ヨードベンゾチアゾール(200mg,0.723mmol)、3−(3−メトキシ−4−プロポキシフェニル)プロピオン酸(200mg,0.839mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(3ml)溶液に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(140μl,0.803mmol)、O−(6−クロロベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(360mg,0.870mmol)を加えて終夜、室温にて攪拌した。反応終了後、酢酸エチルにて希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去した。残渣をエタノールにて再結晶し、2−(3−(3−メトキシ−4−プロポキシフェニル)プロパンアミド)−6−ヨードベンゾチアゾールを217mg、収率60%で得た。
1H NMR (DMSO-d
6): δ 12.42 (s, 1H), 8.38-8.37 (m, 1H), 7.72-7.69 (m, 1H), 7.54-7.51 (m, 1H), 6.85-6.82 (m, 2H), 6.72 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 3.86-3.82 (m, 2H), 3.72 (s, 3H), 2.87-2.78 (m, 4H), 1.72-1.65 (m, 2H), 094 (t, J = 7.3 Hz, 3H).
MS (ESI) Found; 497 [M+H]
+【0075】
SO3031(KY01−I)、SO2031(KY02−I)、SO3042(KY03−I)、およびSO2077が心筋分化促進効果を有することを、国際公開第2012/026491号に記載の実施例と同様の方法により確認した。