(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記単一ドメイン抗原結合構築物が、重鎖抗体構築物であるか、またはSH3誘導性フィノマーもしくはフィブロネクチン誘導性結合ドメインから誘導される、請求項1に記載の単離ヘテロ多量体。
前記アミノ酸突然変異が、L351の位置のアミノ酸突然変異および/またはK392の位置のアミノ酸突然変異をさらに含み、L351の位置のアミノ酸突然変異がL351Yであり、かつK392の位置のアミノ酸突然変異がK392L、K392MまたはK392Fである、請求項1または4に記載の単離ヘテロ多量体。
前記ヘテロ多量体が、第1および第2の単量体Fcポリペプチドの一方に結合している第1の単一ドメイン抗原結合構築物と、他方の単量体Fcポリペプチドに結合している第2の単一ドメイン抗原結合構築物とを含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の単離ヘテロ多量体。
前記治療抗体が、アバゴボマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、アウログラブ、バピネオズマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ブリアキヌマブ、カナキヌマブ、カツマキソマブ、セルトリズマブペゴル、セツキシマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エファリズマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、ルミリキシマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ムロモナブ、ミコグラブ、ナタリズマブ、ニモツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、レスリズマブ、リツキシマブ、テプリズマブ、トシリズマブ/アトリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、Proxinium(商標)、Rencarex(商標)、ウステキヌマブ、およびザルツムマブからなる群から選択される、請求項31に記載の単離ヘテロ多量体。
【発明の概要】
【0006】
一態様によると、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの免疫グロブリン単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する前記ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、前記単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖を欠いている、単離ヘテロ多量体が提供される。
【0007】
少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物および免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、前記免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域が、2つの単量体Fcポリペプチドを含み、単一ドメイン抗原結合構築物が、一方の単量体Fcポリペプチドに結合し、ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する前記ヘテロ二量体Fc領域の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、前記単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖および免疫グロブリンの第1の定常(CH1)領域を欠いている、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。
【0008】
ある特定の実施形態では、1つの単量体Fcポリペプチドに結合している1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。
【0009】
幾つかの実施形態では、一方の単量体Fcポリペプチドに結合している1つの単一ドメイン抗原結合構築物と、他方の単量体Fcポリペプチドに結合している第2の単一ドメイン抗原結合構築物とを含む、単離ヘテロ多量体が本明細書において記載される。幾つかの実施形態では、両方の単一ドメイン抗原結合構築物が同じエピトープに結合する、単離ヘテロ多量体が、本明細書において提供される。幾つかの実施形態では、前記1つの単一ドメイン抗原結合構築物が1つのエピトープに結合し、第2の単一ドメイン抗原結合構築物が異なるエピトープに結合する、単離ヘテロ多量体が、本明細書において提供される。幾つかの実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、単一ドメイン抗体(sdAbまたはVH)、ラクダ科動物のナノボディ(V
hH)、軟骨魚類(V
NAR)、SH3誘導性フィノマー、およびフィブロネクチン誘導性結合ドメインから選択される。単一ドメイン抗原結合構築物がラクダ科動物のナノボディ(V
hH)である、本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体が、本明細書の幾つかの実施形態において提供される。ある特定の実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、IL2、IFNa−2a/b、IFN−1a/b、IL−21、IL−17a、TNF、IL23、VEGF、およびANG2から選択される1つ以上のサイトカインまたはケモカインに結合する。幾つかの実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、EpCam、EGFR、VEGFR、CEA、またはGP100のような1つ以上の腫瘍関連抗原に結合する。選択される実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、CD16、CD30、CD137、CD22、CD52、CD80、CD23、CD2、CD4、CD40、KIR、CD32b、CD25、LAG3、またはB7−H3のような1つ以上の免疫調節抗原に結合する。実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、クロストリジウム・ディフィシル毒素Bのような1つ以上の細菌性毒素に結合する。
【0010】
単一ドメイン抗原結合構築物がEGFR1に結合する本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体が、本明細書において提供される。一実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、EGFR1突然変異変種EGFRvIIIに結合する。
【0011】
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する前記ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3領域を含み、前記単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖を欠いている、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。
【0012】
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する前記ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種定常領域を含み、前記単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖を欠いている、単離ヘテロ多量体が提供される。
【0013】
また、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fc領域に匹敵する安定性を有する前記ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種定常領域を含み、前記単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖および免疫グロブリンの第1の定常(CH1)領域を欠いている、単離ヘテロ多量体が提供される。前記単一ドメイン抗原結合構築物が、ラクダ科動物または軟骨魚類から誘導される、本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。一実施形態では、前記ラクダ科動物がラマである、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。また、ヘテロ二量体Fc領域が、安定性を増加したヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、前記アミノ酸突然変異が、アミノ酸突然変異を含まないCH3ドメインと比較して安定性を増加したヘテロ二量体Fc領域の形成を促進し、変種CH3ドメインが、約70℃以上の融解温度(Tm)を有する、本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体が提供される。一実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域が、野生型Fc領域と比べてCH3ドメインに追加のジスルフィド結合を含まない、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。更なる実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域が、野生型Fc領域と比べて変種CH3ドメインに追加のジスルフィド結合を含むが、但し、CH3ドメインの約70℃以上の融解温度(Tm)が追加のジスルフィド結合の不在下のものであることが条件である、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。別の実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域が約90%を超える純度を有する、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。更なる実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域が約98%以上の純度を有する、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。別の実施形態では、Tmが約74℃以上である、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。一実施形態では、第1のFcポリペプチドが、F405およびY407の位置にアミノ酸修飾を含み、第2のFcポリペプチドが、T394の位置にアミノ酸修飾を含む、単離ヘテロ多量体である。別の実施形態では、第1のFcポリペプチドが、L351Y、Y405A、およびY407Vから選択される1つ以上のアミノ酸修飾を含み、第2のFcポリペプチドが、T366L、T366I、K392L、K392M、およびT394Wから選択される1つ以上のアミノ酸修飾を含む、単離ヘテロ多量体である。更なる実施形態では、第1のFcポリペプチドが、D399およびY407の位置にアミノ酸修飾を含み、第2のFcポリペプチドが、K409およびT411の位置にアミノ酸修飾を含む、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。
【0014】
本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体であって、前記ヘテロ二量体Fc領域が、野生型CH3ドメインポリペプチドと比較して少なくとも3つのアミノ酸修飾を含む第1の修飾CH3ドメインを含む第1の単量体Fcポリペプチド、および野生型CH3ドメインポリペプチドと比較して少なくとも3つのアミノ酸修飾を含む第2の修飾CH3ドメインを含む第2の単量体Fcポリペプチドを含み、前記第1および第2のCH3ドメインの一方が、K392Jにアミノ酸修飾を含み、Jが、L、I、M、またはKの側鎖量より実質的に大きくない側鎖量のアミノ酸から選択され、前記第1および第2の修飾CH3ドメインポリペプチドが、少なくとも約74℃の融解温度(Tm)および少なくとも95%の純度を有するヘテロ二量体CH3ドメインを優先的に形成し、少なくとも1つのアミノ酸修飾が、前記第1と前記第2のCH3ドメインポリペプチドの間の界面にあるアミノ酸のものではない、本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。
【0015】
一実施形態では、少なくとも1つのT350X修飾を含み、Xが、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびその誘導体または変種から選択される天然または非天然のアミノ酸である、単離ヘテロ多量体である。更なる実施形態では、少なくとも1つのT350V修飾を含む、単離ヘテロ多量体である。幾つかの実施形態において、前記第1および第2のFcポリペプチドは、それぞれ、T350V修飾を更に含む。幾つかの実施形態において、Fcヘテロ二量体ドメインは、約77℃以上のTmを有する。
【0016】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つの単量体Fcポリペプチドが、修飾S400Zを含み、Zが、正荷電アミノ酸および負荷電アミノ酸から選択される、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。一実施形態では、当該第1のFcポリペプチドが、S400E、S400D、S400K、およびS400Rから選択されるアミノ酸修飾を含む、単離ヘテロ多量体である。別の実施形態において、当該第1および第2のFcポリペプチドの一方は、S400EおよびS400Rから選択されるアミノ酸修飾を含み、他方のFcポリペプチドは、N390の位置にアミノ酸修飾を含む。更なる実施形態では、修飾N390Zを含み、Zが、正荷電アミノ酸および負荷電アミノ酸から選択される、単離ヘテロ多量体である。一実施形態では、前記第2のFcポリペプチドがアミノ酸修飾N390RまたはN390Kを含む、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。
【0017】
一実施形態において、前記第1のFcポリペプチドが、アミノ酸修飾S400Eを含む修飾CH3ドメインポリペプチドであり、当該第2のFcポリペプチドが、アミノ酸修飾N390Rを含む修飾CH3ドメインポリペプチドである、本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体が提供される。一実施形態では、一方の前記Fcポリペプチドがアミノ酸修飾Q347Rを含み、他方のFcポリペプチドがアミノ酸修飾K360Eを含む、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。
【0018】
Fcポリペプチドアミノが、T366V、T366I、T366A、T366M、T366L、K409F、T411E、およびT411Dから選択される少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、第2のFcポリペプチドが、L351Y、Y407A、Y407I、Y407V、D399R、およびD399Kから選択される少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。一実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域が、Fcガンマ受容体への選択的結合を促進する非対称アミノ酸修飾を含む変種CH2ドメインを更に含む、単離ヘテロ多量体である。
【0019】
一実施形態では、変種CH2ドメインが、野生型CH2ドメインと比較して、FcガンマIIIa受容体に選択的に結合する、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。
【0020】
幾つかの実施形態では、G型免疫グロブリン(IgG)に基づいたFc構築物を含む、単離ヘテロ多量体が、本明細書において提供される。ある特定の実施形態では、前記IgGが、IgG1、IgG2IgG3、およびIgG4のうちの1つである、単離ヘテロ多量体である。幾つかの実施形態では、免疫グロブリンM(IgM)、免疫グロブリンA(IgA)、免疫グロブリンD(IgD)、または免疫グロブリンE(IgE)に基づいたFc構築物を含む、単離ヘテロ多量体である。
【0021】
当該ヘテロ多量体が、二重特異的抗体または多特異的抗体である、本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体が幾つかの実施形態において提供される。
【0022】
少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物が、EGFRまたはEGFRvIIIに結合する、本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体が幾つかの実施形態において提供される。幾つかの実施形態では、前記EGFRまたはEGFRvIII結合構築物が、抗体またはそのフラグメントから誘導される、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。ある特定の実施形態において、前記EGFRまたはEGFRvIII結合構築物は、重鎖抗体構築物である。幾つかの実施形態において、前記重鎖抗体構築物は、ラクダ科動物の構築物である。一実施形態において、前記ラクダ科動物の構築物は、
図44に示される配列を含む。
【0023】
本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体と薬学的に許容される担体とを含む組成物が、提供される。
【0024】
本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体をコードする核酸を含む哺乳類宿主細胞が、提供される。
【0025】
一実施形態では、単一ドメイン抗原結合構築物が、少なくとも1つの治療抗体と結合を競合する、単離ヘテロ多量体が、本明細書に記載される。一実施形態では、当該少なくとも1つの治療抗体が、アバゴボマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、アウログラブ、バピネオズマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ブリアキヌマブ、カナキヌマブ、カツマキソマブ、セルトリズマブペゴル、セツキシマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エファリズマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、ルミリキシマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ムロモナブ、ミコグラブ、ナタリズマブ、ニモツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、レスリズマブ、リツキシマブ、テプリズマブ、トシリズマブ/アトリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、Proxinium(商標)、Rencarex(商標)、ウステキヌマブ、およびザルツムマブからなる群から選択される、単離ヘテロ多量体である。
【0026】
一実施形態では、癌抗原により特徴付けられる癌を有する患者において癌を治療する方法であって、当該患者に治療有効量の本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体を投与することを含む、方法である。一実施形態では、当該癌が、EGFRまたはEFGRvIIIの過剰発現により特徴付けられる、癌を治療する方法である。
【0027】
EGFRまたはEFGRvIIIを過剰発現する癌細胞を治療する方法であって、当該細胞を、本明細書に提供されるある量のヘテロ多量体と接触させることを含む方法が提供される。幾つかの実施形態おいて、当該癌細胞は、乳癌細胞、肺癌細胞、肛門癌細胞、および神経膠芽腫のうちの少なくとも1つである。
【0028】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されている癌を治療する方法であって、別の治療分子に加えて、当該ヘテロ多量体を投与することを含む方法である。幾つかの実施形態において、当該治療分子はヘテロ多量体と複合体化している。
【0029】
免疫抗原により特徴付けられる免疫障害を有する患者において免疫障害を治療する方法であって、当該患者に治療有効量の本明細書に記載されている単離ヘテロ多量体を投与することを含む方法が、提供される。
【0030】
一態様では、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの免疫グロブリン単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する当該ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、当該単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリンの第1の定常(CH1)領域および免疫グロブリン軽鎖を欠いている単離ヘテロ多量体が、本明細書において提供される。
【0031】
一態様では、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの免疫グロブリン単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する当該ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、当該単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリンの第1および第2の定常ドメイン(CH1およびCH2)、ならびに免疫グロブリン軽鎖を欠いている単離ヘテロ多量体が、本明細書において提供される。
【0032】
本明細書に提供される単離ヘテロ多量体のある特定の実施形態において、変種CH3ドメインは、約70℃以上の融解温度(Tm)を有する。ある特定の実施形態において、変種CH3ドメインは、少なくとも約75℃の融解温度(Tm)を有する。幾つかの実施形態において、変種CH3ドメインは、少なくとも約80℃の融解温度(Tm)を有する。
【0033】
本明細書に提供される単離ヘテロ多量体の幾つかの実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域は、特定のFcガンマ受容体への選択的結合を促進する少なくとも1つの非対称アミノ酸修飾を含む変種CH2ドメインを更に含む。一実施形態において、変種CH2ドメインは、野生型CH2ドメインと比較して、FcガンマIIIa受容体に選択的に結合する。
【0034】
本発明のある特定の実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、原核生物もしくは真核生物の宿主細胞における発現、DNA、または免疫グログロブリンの第1の定常(CH1)領域を欠いている免疫グロブリンの配列を有するcDNAの産物である。ある特定の実施形態において、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖可変領域は、軽鎖を欠いている免疫グロブリンからのものであり、当該免疫グロブリンは、ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマ、アルパカ、ビクーナ、およびグアナコであるが、これらに限定されないようなラクダ科動物のリンパ球または他の細胞から得られる。ある特定の実施形態において、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖可変領域は、軽鎖を欠いている免疫グロブリンからのものであり、当該免疫グロブリンは、ラマのリンパ球または他の細胞から得られる。
【0035】
本発明の具体的な実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、原核生物もしくは真核生物の宿主細胞における発現、DNA、またはcDNAの産物である。ある特定の実施形態において、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖可変領域および/またはFcヘテロ二量体は、サメ、アカエイ、ガンギエイ、ギンザメ、ラットフィッシュ、ゾウギンザメ、およびアイゴであるが、これらに限定されないような軟骨魚類から得られる、軽鎖を欠いている免疫グロブリンからのものである。特定の実施形態において、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖可変領域および/またはFcヘテロ二量体は、軽鎖を欠いている免疫グロブリンからのものであり、当該免疫グロブリンは、サメから得られる。
【0036】
ヘテロ二量体のFc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの免疫グロブリン単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、当該単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリンの第1の定常(CH1)領域、免疫グロブリン軽鎖を欠いており、場合により免疫グロブリンの第2の定常(CH2)領域を欠いており、変種CH3ドメインが、約70℃以上の融解温度(Tm)を有し、当該変種CH3ドメインが、未変性IgG1抗体におけるCH3ドメインに匹敵する安定性を有するヘテロ二量体Fc領域の形成をもたらす単離ヘテロ多量体が、別の態様において提供される。
【0037】
1つの実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域は、野生型Fc領域と比べてCH3ドメインに追加のジスルフィド結合を含まない。代替的な実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域は、野生型Fc領域と比べて変種CH3ドメインに少なくとも1つの追加のジスルフィド結合を含むが、但し、約70℃以上の融解温度(Tm)が追加のジスルフィド結合の不在下のものであることが条件である。別の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域は、野生型Fc領域と比べて変種CH3ドメインに少なくとも1つの追加のジスルフィド結合を含み、変種CH3ドメインは、約77.5℃以上の融解温度(Tm)を有する。
【0038】
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの免疫グロブリン単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、当該単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖、および免疫グロブリンの第1の定常(CH1)ドメインを欠いており、場合により免疫グロブリンの第2の定常(CH2)ドメインを欠いており、変種CH3ドメインが、約70℃以上の融解温度(Tm)を有し、ヘテロ二量体Fc領域が、約90%を超える純度で形成される、またはヘテロ二量体Fc領域が、約95%以上の純度で形成される、またはヘテロ二量体Fc領域が、約98%以上の純度で形成される単離ヘテロ多量体が、1つの実施形態において提供される。
【0039】
ある特定の実施形態において、軽鎖を欠いている、本明細書に記載されている免疫グロブリンは、重鎖の可変ドメイン(V
H)が、4本鎖免疫グロブリンのV
Hと異なる特性を有するようなものである。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されている重鎖免疫グロブリンの可変ドメインは、軟骨魚類からの重鎖免疫グロブリンの場合のように、V
Lに相互作用部位を有さない。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されている重鎖免疫グロブリンの可変ドメインは、V
LまたはC
H1ドメインとの正常な相互作用部位を有さず、これらはいずれも、ラクダ科動物および一部の軟骨魚類からの重鎖免疫グロブリンに存在しない。
【0040】
本明細書に記載されているヘテロ多量体のある特定の実施形態において、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖は、リンカーによりヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している。ある特定の実施形態において、少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物は、ヒンジ領域によりヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している。可変長さのリンカーおよび/またはヒンジ領域が、本明細書において提供されるヘテロ多量体に利用される。当業者は、リンカーおよび/またはヒンジ領域の長さが、抗原結合部位を隔てる距離の決定に参加することを理解することができる。本明細書において提供されるある特定の実施形態において、ヒンジ領域は、0〜50個のアミノ酸を含む。ある特定の実施形態において、ヒンジ領域の配列は、以下である。
GTNEVCKCPKCP。
一実施形態において、ヒンジ領域の配列は、
EPKIPQPQPKPQPQPQPQPKPQPKPEPECTCPKCP
である。
【0041】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体構築物に利用される少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物および/または修飾Fc領域は、G型免疫グロブリン、例えば、クラス2の免疫グロブリン(IgG2)またはクラス3の免疫グロブリン(IgG3)と定義される免疫グロブリンを含む。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体構築物に利用される少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物および/または修飾Fc領域は、免疫グロブリンMまたはIgMを含む。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体構築物に利用される少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物および/または修飾Fc領域は、免疫グロブリンAまたはIgAを含む。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体構築物に利用される少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物および/または修飾Fc領域は、免疫グロブリンDまたはIgDを含む。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体構築物に利用される少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物および/または修飾Fc領域は、免疫グロブリンEまたはIgEを含む。
【0042】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4)、またはIgA(またはIgM、IgD)から誘導されるFc部分を含む。1つの特定の態様によると、ある特定の実施形態は、修飾「IgE誘導Fc部分」(すなわち、IgEから誘導されるFc部分)を含む。
【0043】
ある特定の実施形態において、重鎖の可変ドメインと重鎖のFc部分とを連結しているヒンジは、IgGアイソタイプ(例えばIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4)、またはIgA(またはIgM、IgD、IgE)のヒンジ配列から誘導される。
【0044】
本明細書に記載されているある特定の実施形態において、可変重鎖は、ドメイン抗体(もしくは、ドメイン抗体としての使用に適したアミノ酸配列)、単一ドメイン抗体(もしくは、単一ドメイン抗体としての使用に適したアミノ酸配列)、「dAb」(もしくは、dAbとしての使用に適したアミノ酸配列)、またはナノボディ(本明細書において定義されており、V
HH配列が含まれるが、これらに限定されない)、他の単一可変ドメイン、あるいはこれらのいずれかの任意の適切なフラグメントであり得る。(単一)ドメイン抗体の一般的な記載には、上記に引用された従来技術、ならびにヨーロッパ特許第0 368 684号も参照される。用語「dAb」には、Ward et al.(Nature 1989 Oct.12;341(6242):544−6)、Holt et al.(Trends Biotechnol.,2003,21(11):484−490)、ならびに例えば国際公開第04/068820号、同第06/030220号、同第06/003388号、およびDomantis Ltd.による他の公開特許出願が参照される。幾つかの実施形態において、可変重鎖は単一ドメイン抗体を含む、または単一可変ドメインは、特定の種のサメから誘導され得る(例えば、いわゆる「IgNARドメイン」、例えば国際公開第05/18629号を参照すること)。
【0045】
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、
ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する当該ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種定常ドメインを含み、当該単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリンヘテロ軽鎖を欠いている単離ヘテロ多量体が、本明細書において提供されている。
【0046】
一実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fc領域に匹敵する安定性を有する当該ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種定常領域を含み、当該単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖、および免疫グロブリンの第1の定常(CH1)領域を欠いている、単離ヘテロ多量体が提供される。
【0047】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、定常ドメインの配列類似性を維持する、任意の動物源(例えば、ヒト、ネズミ、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、またはニワトリ)の抗体から誘導されるFc部分または定常ドメインを含む(
図40A〜40B)。ある特定の実施形態において、定常ドメインは、サメ、アカエイ、ガンギエイ、ギンザメ、ラットフィッシュ、ゾウギンザメ、およびアイゴであるが、これらに限定されないような軟骨魚類から誘導される。ある特定の実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマ、アルパカ、ビクーナ、およびグアナコであるが、これらに限定されないようなラクダ科動物の抗体から誘導される定常ドメインを含む。
【0048】
本明細書において提供されるある特定の実施形態による単一ドメイン抗原結合構築物は、当該技術に周知の精製方法を使用して、ラマであるが、これに限定されないようなラクダ科動物の血清から精製することにより得られる。
【0049】
本明細書に提供されるある特定の実施形態において、ヘテロ多量体の免疫グロブリンの可変領域は、骨組み(FW)および相補性決定領域(CDR)、特に4つの骨組みおよび3つの相補性領域を含む。この可変領域は、不在である軽鎖の可変領域が寄与することなく、1つまたは幾つかの抗原結合部位をそれ自体含有し得るという事実によって、特に、4本鎖免疫グロブリンと区別される。
【0050】
また、ヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体Fc領域の形成をもたらす1つ以上のアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約70℃以上の融解温度(Tm)を有する、またはTmが約71℃以上である、またはTmが約74℃以上である単離ヘテロ多量体が、ある特定の実施形態において提供される。別の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域は、約98%以上の純度および約73℃のTmを有する溶液により形成される、またはヘテロ二量体Fc領域は、約90%以上の純度および約75℃のTmにより形成される。
【0051】
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、第1および第2のCH3ドメインポリペプチドを含み、当該第1および第2のCH3ドメインポリペプチドの少なくとも一方が、アミノ酸修飾T350Vを含む、単離ヘテロ多量体が、ある特定の実施形態において提供される。ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸修飾T350Vを含む第1のCH3ドメインポリペプチド、および、またアミノ酸修飾T350Vを含む第2のCH3ドメインポリペプチドを含む、単離ヘテロ多量体が、ある特定の実施形態において提供される。ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、F405およびY407の位置にアミノ酸修飾を含む第1のCH3ドメインポリペプチド、およびT394の位置にアミノ酸修飾を含む第2のCH3ドメインポリペプチドを含む、単離ヘテロ多量体が、ある特定の実施形態において提供される。ある特定の実施形態において、第1のCH3ドメインポリペプチドは、D399およびY407の位置にアミノ酸修飾を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドは、K409およびT411の位置にアミノ酸修飾を含む。ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸修飾L351YおよびY407Aを含む第1のCH3ドメインポリペプチド、ならびにアミノ酸修飾T366AおよびK409Fを含む第2のCH3ドメインポリペプチドを含む、単離ヘテロ多量体が、ある特定の実施形態において提供される。1つの態様において、第1のCH3ドメインポリペプチドまたは第2のCH3ドメインポリペプチドは、T411、D399、S400、F405、N390、またはK392の位置に更なるアミノ酸修飾を含む。T411の位置のアミノ酸修飾は、T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E、またはT411Wから選択される。D399の位置のアミノ酸修飾は、D399R、D399W、D399Y、またはD399Kから選択される。S400の位置のアミノ酸修飾は、S400E、S400D、S400R、またはS400Kから選択される。F405の位置のアミノ酸修飾は、F405I、F405M、F405T、F405S、F405V、またはF405Wから選択される。N390の位置のアミノ酸修飾は、N390R、N390K、またはN390Dから選択される。K392の位置のアミノ酸修飾は、K392V、K392M、K392R、K392L、K392F、またはK392Eから選択される。
【0052】
ある特定の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸修飾T350VおよびL351Yを含む第1のCH3ドメインポリペプチド、ならびにまたアミノ酸修飾T350VおよびL351Yを含む第2のCH3ドメインポリペプチドを含む、単離ヘテロ多量体が提供される。
【0053】
別の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸修飾Y407Aを含む第1のCH3ドメインポリペプチド、ならびにアミノ酸修飾T366AおよびK409Fを含む第2のCH3ドメインポリペプチドを含む、単離ヘテロ多量体が提供される。1つの態様において、第1のCH3ドメインポリペプチドまたは第2のCH3ドメインポリペプチドは、更なるアミノ酸修飾K392E、T411E、D399R、およびS400Rを含む。別の態様において、第1のCH3ドメインポリペプチドは、アミノ酸修飾D399R、S400R、およびY407Aを含み、第2のCH3ドメインポリペプチドは、アミノ酸修飾T366A、K409F、K392E、およびT411Eを含む。更なる実施形態において、変種CH3ドメインは、約74℃以上の融解温度(Tm)を有し、ヘテロ二量体は、約95%以上の純度を有する。
【0054】
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、L351の位置にアミノ酸修飾およびアミノ酸修飾Y407Aを含む第1のCH3ドメインポリペプチドを含み、第2のCH3ドメインポリペプチドが、T366の位置にアミノ酸修飾およびアミノ酸修飾K409Fを含む、単離ヘテロ多量体が、別の実施形態において提供される。1つの態様において、L351の位置のアミノ酸修飾は、L351Y、L351I、L351D、L351R、またはL351Fから選択される。別の態様において、Y407の位置のアミノ酸修飾は、Y407A、Y407V、またはY407Sから選択される。なお別の態様において、T366の位置のアミノ酸修飾は、T366A、T366I、T366L、T366M、T366Y、T366S、T366C、T366V、またはT366Wから選択される。1つの実施形態において、変種CH3ドメインは、約75℃以上の融解温度(Tm)を有し、ヘテロ二量体は、約90%以上の純度を有する。
【0055】
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、F405の位置にアミノ酸修飾、ならびにアミノ酸修飾L351YおよびY407Vを含む第1のCH3ドメインポリペプチドを含み、第2のCH3ドメインポリペプチドが、アミノ酸修飾T394Wを含む、単離ヘテロ多量体が、別の実施形態において提供される。1つの態様において、第1のCH3ドメインポリペプチドまたは第2のCH3ドメインポリペプチドは、K392、T411、T366、L368、またはS400の位置にアミノ酸修飾を含む。F405の位置のアミノ酸修飾は、F405A、F405I、F405M、F405T、F405S、F405V、またはF405Wである。K392の位置のアミノ酸修飾は、K392V、K392M、K392R、K392L、K392F、またはK392Eである。T411の位置のアミノ酸修飾は、T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E、またはT411Wである。S400の位置のアミノ酸修飾は、S400E、S400D、S400R、またはS400Kである。T366の位置のアミノ酸修飾は、T366A、T366I、T366L、T366M、T366Y、T366S、T366C、T366V、またはT366Wである。L368の位置のアミノ酸修飾は、L368D、L368R、L368T、L368M、L368V、L368F、L368S、およびL368Aである。
【0056】
別の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸修飾L351Y、F405A、およびY407Vを含む第1のCH3ドメインポリペプチドを含み、第2のCH3ドメインポリペプチドが、アミノ酸修飾T394Wを含む、単離ヘテロ多量体が提供される。1つの態様において、第2のCH3ドメインポリペプチドは、アミノ酸修飾T366LまたはT366Iを含む。
【0057】
なお別の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸修飾Y349C、F405A、およびY407Vのうちの少なくとも1つを含む第1のCH3ドメインポリペプチドを含み、第2のCH3ドメインポリペプチドが、アミノ酸修飾T366I、K392M、およびT394Wを含む、単離ヘテロ多量体が提供される。
【0058】
ある特定の実施形態において、二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸修飾L351Y、F405A、およびY407Vを含む第1のCH3ドメインポリペプチドを含み、第2のCH3ドメインポリペプチドが、アミノ酸修飾K392MおよびT394W、ならびにT366LおよびT366Iの一方を含む、単離ヘテロ多量体が提供される。
【0059】
別の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸修飾F405AおよびY407Vを含む第1のCH3ドメインポリペプチドを含み、第2のCH3ドメインポリペプチドが、アミノ酸修飾T366LおよびT394Wを含む、単離ヘテロ多量体が提供される。
【0060】
別の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、アミノ酸修飾F405AおよびY407Vを含む第1のCH3ドメインポリペプチドを含み、第2のCH3ドメインポリペプチドが、アミノ酸修飾T366IおよびT394Wを含む、単離ヘテロ多量体が提供される。ヘテロ多量体のある特定の実施形態において、二重特異的抗体または多特異的抗体が提供される。
【0061】
別の実施形態において、本発明のヘテロ多量体と薬学的に許容される担体とを含む組成物が提供される。
【0062】
別の実施形態において、本発明のヘテロ多量体をコードする核酸を含む宿主細胞が提供される。
【0063】
ある特定の実施形態において、ヘテロ多量体による標的結合が、少なくとも1つの他の治療抗体と競合的であるヘテロ多量体が提供される。1つの態様において、治療抗体は、アバゴボマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、アウログラブ、バピネオズマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ブリアキヌマブ、カナキヌマブ、カツマキソマブ、セルトリズマブペゴル、セツキシマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エファリズマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、ルミリキシマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ムロモナブ、ミコグラブ、ナタリズマブ、ニモツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、レスリズマブ、リツキシマブ、テプリズマブ、トシリズマブ/アトリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、Proxinium、Rencarex、ウステキヌマブ、およびザルツムマブからなる群から選択される。
【0064】
本発明のヘテロ多量体の別の実施形態では、癌抗原により特徴付けられる癌を有する患者において癌を治療する方法であって、当該患者に治療有効量のヘテロ多量体を投与することを含む方法が提供される。
【0065】
本発明のヘテロ多量体の別の実施形態では、免疫抗原により特徴付けられる免疫障害を有する患者において免疫障害を治療する方法であって、当該患者に治療有効量のヘテロ多量体を投与することを含む方法が提供される。
【0066】
なお別の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、表1、表6、または表7に列記されている変種から選択される、単離ヘテロ多量体が提供される。
【0067】
ある特定の実施形態において、重鎖免疫グロブリンのクラスに属する修飾抗イディオタイプ抗体を含むヘテロ多量体が提供される。そのような抗イディオタイプは、ヒトまたは動物イディオタイプに対して産生され得る。これらの抗イディオタイプの特性は、これらを、特に糖タンパク質または糖脂質に対するワクチン接種において、炭水化物がエピトープを決定する場合に、イディオタイプワクチンとして使用できることである。
【0068】
本明細書に記載されているヘテロ多量体がクローンされた細胞または生物体であって、当該ヘテロ多量体が、二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む、細胞または生物体が、本明細書において提供される。そのような細胞または生物体は、所望の事前に選択された特異性、または対応する特定のレパートリーを有するヘテロ多量体を産生する目的に使用され得る。これらは、また、それらが発現された細胞の代謝を修飾する目的で産生され得る。一実施形態において、ヘテロ二量体の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含むヘテロ多量体は、植物細胞、特に遺伝子導入植物において産生される。
[本発明1001]
少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物および免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、前記免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域が、2つの単量体Fcポリペプチドを含み、前記単一ドメイン抗原結合構築物が、一方の単量体Fcポリペプチドに結合し、
前記ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fc領域に匹敵する安定性を有する前記ヘテロ二量体Fc領域の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、
前記単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖および免疫グロブリンの第1の定常(CH1)領域を欠いている、単離ヘテロ多量体。
[本発明1002]
一方の単量体Fcポリペプチドに結合している1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む、本発明1001の単離ヘテロ多量体。
[本発明1003]
一方の単量体Fcポリペプチドに結合している1つの単一ドメイン抗原結合構築物と、他方の単量体Fcポリペプチドに結合している第2の単一ドメイン抗原結合構築物とを含む、本発明1001の単離ヘテロ多量体。
[本発明1004]
両方の単一ドメイン抗原結合構築物が同じエピトープに結合する、本発明1003の単離ヘテロ多量体。
[本発明1005]
前記1つの単一ドメイン抗原結合構築物が1つのエピトープに結合し、前記第2の単一ドメイン抗原結合構築物が異なるエピトープに結合する、本発明1003の単離ヘテロ多量体。
[本発明1006]
前記単一ドメイン抗原結合構築物が、単一ドメイン抗体(sdAbまたはVH)、ラクダ科動物のナノボディ(VhH)、軟骨魚類(VNAR)、SH3誘導性フィノマー、およびフィブロネクチン誘導性結合ドメインから選択される、本発明1001〜1005のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1007]
前記単一ドメイン抗原結合構築物がラクダ科動物のナノボディ(VhH)である、本発明1001〜1006のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1008]
前記単一ドメイン抗原結合構築物が、IL2、IFNa−2a/b、IFN−1a/b、IL−21、IL−17a、TNF、IL23、VEGF、およびANG2から選択される1つ以上のサイトカインまたはケモカインに結合する、本発明1001〜1007のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1009]
前記単一ドメイン抗原結合構築物が、EpCam、EGFR、VEGFR、CEA、またはGP100のような1つ以上の腫瘍関連抗原に結合する、本発明1001〜1007のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1010]
前記単一ドメイン抗原結合構築物が、CD16、CD30、CD137、CD22、CD52、CD80、CD23、CD2、CD4、CD40、KIR、CD32b、CD25、LAG3、またはB7−H3のような1つ以上の免疫調節抗原に結合する、本発明1001〜1007のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1011]
前記単一ドメイン抗原結合構築物が、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、クロストリジウム・ディフィシル毒素Bのような1つ以上の細菌性毒素に結合する、本発明1001〜1007のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1012]
前記単一ドメイン抗原結合構築物がEGFR1に結合する、本発明1001〜1007のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1013]
前記単一ドメイン抗原結合構築物がEGFR1突然変異変種EGFRvIIIに結合する、本発明1001〜1007のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1014]
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、前記ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する前記ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3領域を含み、前記単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖を欠いている、単離ヘテロ多量体。
[本発明1015]
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、
前記ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する前記ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種定常ドメインを含み、
前記単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖を欠いている、単離ヘテロ多量体。
[本発明1016]
ヘテロ二量体Fc領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、
前記ヘテロ二量体Fc領域が、未変性ホモ二量体Fc領域に匹敵する安定性を有する前記ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種定常ドメインを含み、前記単離ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖および免疫グロブリンの第1の定常(CH1)領域を欠いている、単離ヘテロ多量体。
[本発明1017]
前記単一ドメイン抗原結合構築物が、ラクダ科動物または軟骨魚類から誘導される、本発明1014〜1016のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1018]
前記ラクダ科動物がラマである、本発明1017の単離ヘテロ多量体。
[本発明1019]
前記ヘテロ二量体Fc領域が、安定性を増加したヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを形成する第1および第2のFcポリペプチドを含み、前記アミノ酸突然変異が、アミノ酸突然変異を含まないCH3ドメインと比較して安定性を増加したヘテロ二量体Fc領域の形成を促進し、前記変種CH3ドメインが、約70℃以上の融解温度(Tm)を有する、本発明1001〜1018のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1020]
前記ヘテロ二量体Fc領域が、野生型Fc領域と比べてCH3ドメインに追加のジスルフィド結合を含まない、本発明1001〜1019のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1021]
前記ヘテロ二量体Fc領域が、野生型Fc領域と比べて前記変種CH3ドメインに追加のジスルフィド結合を含むが、但し、前記CH3ドメインの約70℃を超える前記融解温度(Tm)が前記追加のジスルフィド結合の不在下のものであることを条件とする、本発明1019または1020の単離ヘテロ多量体。
[本発明1022]
前記ヘテロ二量体Fc領域が、約90%を超える純度を有する、本発明1019〜1021のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1023]
前記ヘテロ二量体Fc領域が、約98%以上の純度を有する、本発明1019〜1022のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1024]
前記Tmが約74℃以上である、本発明1019〜1023のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1025]
第1のCH3ドメインポリペプチドが、F405およびY407の位置にアミノ酸修飾を含み、第2のCH3ドメインポリペプチドが、T394の位置にアミノ酸修飾を含む、本発明1019〜1024のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1026]
前記第1のFcポリペプチドが、L351Y、Y405A、およびY407Vから選択される1つ以上のアミノ酸修飾を含み、前記第2のFcポリペプチドが、T366L、T366I、K392L、K392M、およびT394Wから選択される1つ以上のアミノ酸修飾を含む、本発明1019〜1025のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1027]
第1のFcポリペプチドが、D399およびY407の位置にアミノ酸修飾を含み、第2のFcポリペプチドが、K409およびT411の位置にアミノ酸修飾を含む、本発明1019〜1026のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1028]
前記ヘテロ二量体Fc領域が、
野生型CH3ドメインポリペプチドと比較して少なくとも3つのアミノ酸修飾を含む第1の修飾CH3ドメインを含む第1の単量体Fcポリペプチド、および野生型CH3ドメインポリペプチドと比較して少なくとも3つのアミノ酸修飾を含む第2の修飾CH3ドメインを含む第2の単量体Fcポリペプチド、を含み、
前記第1および第2のCH3ドメインの一方が、K392Jにアミノ酸修飾を含み、Jが、L、I、M、または側鎖量がKの側鎖量より大幅にに大きくないアミノ酸から選択され、前記第1および第2の修飾CH3ドメインポリペプチドが、少なくとも約74℃の融解温度(Tm)および少なくとも95%の純度を有するヘテロ二量体CH3ドメインを優先的に形成し、
少なくとも1つのアミノ酸修飾が、前記第1と前記第2のCH3ドメインポリペプチドの間の界面にあるアミノ酸のものではない、本発明1001〜1027のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1029]
少なくとも1つのT350X修飾を含み、Xが、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびその誘導体、または変種から選択される天然または非天然のアミノ酸である、本発明1019〜1028のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1030]
少なくとも1つのT350V修飾を含む、本発明1019〜1029のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1031]
前記第1および第2のFcポリペプチドが、それぞれ、T350V修飾を更に含む、本発明1019〜1030のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1032]
前記修飾CH3ドメインが約77℃以上のTmを有する、本発明1031の単離ヘテロ多量体。
[本発明1033]
少なくとも1つの単量体Fcポリペプチドが、修飾S400Zを含み、Zが、正荷電アミノ酸および負荷電アミノ酸から選択される、本発明1019〜1032のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1034]
前記第1のFcポリペプチドが、S400E、S400D、S400K、およびS400Rから選択されるアミノ酸修飾を含む、本発明1033の単離ヘテロ多量体。
[本発明1035]
前記第1および第2のFcポリペプチドの一方が、S400EおよびS400Rから選択される前記アミノ酸修飾を含み、他方のFcポリペプチドが、N390の位置にアミノ酸修飾を含む、本発明1034の単離ヘテロ多量体。
[本発明1036]
修飾N390Zを含み、Zが、正荷電アミノ酸および負荷電アミノ酸から選択される、本発明1035の単離ヘテロ多量体。
[本発明1037]
前記第2のFcポリペプチドが、アミノ酸修飾N390RまたはN390Kを含む、本発明1035の単離ヘテロ多量体。
[本発明1038]
前記第1のFcポリペプチドが、前記アミノ酸修飾S400Eを含む修飾CH3ドメインポリペプチドであり、前記第2のFcポリペプチドが、前記アミノ酸修飾N390Rを含む修飾CH3ドメインポリペプチドである、本発明1019〜1037のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1039]
一方の前記Fcポリペプチドがアミノ酸修飾Q347Rを含み、他方のFcポリペプチドがアミノ酸修飾K360Eを含む、本発明1001〜1038のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1040]
前記Fcポリペプチドアミノが、T366V、T366I、T366A、T366M、T366L、K409F、T411E、およびT411Dから選択される少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、前記第2のFcポリペプチドが、L351Y、Y407A、Y407I、Y407V、D399R、およびD399Kから選択される少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む、本発明1001〜1039のいずれかの単離ヘテロ多量体、
[本発明1041]
前記ヘテロ二量体Fc領域が、Fcガンマ受容体への選択的結合を促進する非対称アミノ酸修飾を含む変種CH2ドメインを更に含む、本発明1001〜1040のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1042]
前記変種CH2ドメインが、野生型CH2ドメインと比較して、FcガンマIIIa受容体に選択的に結合する、本発明1001〜1041のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1043]
G型免疫グロブリン(IgG)に基づいたFc構築物を含む、本発明1001〜1042のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1044]
前記IgGが、IgG1、IgG2IgG3、およびIgG4のうちの1つである、本発明1043の単離ヘテロ多量体。
[本発明1045]
免疫グロブリンM(IgM)、免疫グロブリンA(IgA)、免疫グロブリンD(IgD)、または免疫グロブリンE(IgE)に基づいたFc構築物を含む、本発明1001〜1044のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1046]
前記ヘテロ多量体が、二重特異的抗体または多特異的抗体である、本発明1001〜1045のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1047]
少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物が、EGFRまたはEGFRvIIIに結合する、本発明1001〜1046のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1048]
前記EGFRまたはEGFRvIII結合構築物が、抗体またはそのフラグメントから誘導される、本発明1047の単離ヘテロ多量体。
[本発明1049]
前記EGFRまたはEGFRvIII結合構築物が、重鎖抗体構築物である、本発明1047の単離ヘテロ多量体。
[本発明1050]
前記重鎖抗体構築物がラクダ科動物の構築物である、本発明1049の単離ヘテロ多量体。
[本発明1051]
前記ラクダ科動物の構築物が、図44に示される配列を含む、本発明1050の単離ヘテロ多量体。
[本発明1052]
本発明1001〜1051のいずれかの単離ヘテロ多量体および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
[本発明1053]
本発明1001〜1051のいずれかの単離ヘテロ多量体をコードする核酸を含む、哺乳類宿主細胞。
[本発明1054]
前記単一ドメイン抗原結合構築物が、少なくとも1つの治療抗体と結合を競合する、本発明1001〜1051のいずれかの単離ヘテロ多量体。
[本発明1055]
前記少なくとも1つの治療抗体が、アバゴボマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、アウログラブ、バピネオズマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ブリアキヌマブ、カナキヌマブ、カツマキソマブ、セルトリズマブペゴル、セツキシマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エファリズマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、ルミリキシマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ムロモナブ、ミコグラブ、ナタリズマブ、ニモツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、レスリズマブ、リツキシマブ、テプリズマブ、トシリズマブ/アトリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、Proxinium(商標)、Rencarex(商標)、ウステキヌマブ、およびザルツムマブからなる群から選択される、本発明1054の単離ヘテロ多量体。
[本発明1056]
癌抗原により特徴付けられる癌を有する患者において癌を治療する方法であって、前記患者に治療有効量の本発明1001〜1051のいずれかの単離ヘテロ多量体を投与することを含む、前記方法。
[本発明1057]
前記癌が、EGFRまたはEFGRvIIIの過剰発現により特徴付けられる、本発明1056の方法。
[本発明1058]
EGFRまたはEFGRvIIIを過剰発現する癌細胞を治療する方法であって、前記細胞を本発明1047〜1051のうちのいずれかにおいて提供される、ある量のヘテロ多量体と接触させることを含む、方法。
[本発明1059]
前記癌細胞が、乳癌細胞、肺癌細胞、肛門癌細胞、および神経膠芽腫のうちの少なくとも1つである、本発明1058の方法。
[本発明1060]
別の治療分子に加えて、前記ヘテロ多量体を投与することを含む、本発明1056〜1059のいずれかの方法。
[本発明1061]
前記治療分子がヘテロ多量体と複合体化している、本発明1060の方法。
[本発明1062]
免疫抗原により特徴付けられる免疫障害を有する患者において免疫障害を治療する方法であって、前記患者に治療有効量の本発明1001〜1051のいずれかの単離ヘテロ多量体を投与することを含む、前記方法。
【発明を実施するための形態】
【0070】
ヘテロ多量体の形成を促進する特定のアミノ酸修飾を含む修飾CH3ドメインを含むヘテロ二量体FC領域の少なくとも1つの単量体に結合している少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む単離ヘテロ多量体であって、当該単離多量体が、免疫グロブリン軽鎖を欠いており、場合により、免疫グロブリンの第1の定常(CH1)領域および免疫グロブリンの第2の定常(CH2)領域を欠いている、単離ヘテロ多量体が、本明細書において提供される。幾つかの実施形態において、修飾CH3ドメインは、ヘテロ二量体の形成を促進する特定のアミノ酸修飾を含む(例えば、表1.1〜1.3を参照すること)。別の実施形態において、修飾CH3ドメインは、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進する特定のアミノ酸修飾を含む(例えば、表4、表6、および表7を参照すること)。安定性は、CH3ドメインの融解温度(Tm)として測定され、増加した安定性は、約70℃以上のTmを意味する。CH3ドメインは、ヘテロ多量体多特異的抗体のFc領域の一部を形成する。ヘテロ二量体Fc領域を含むヘテロ量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、ヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む修飾または変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、表1の列記されている変種から選択される、ヘテロ多量体が、1つの実施形態において本明細書に提供される。第2の実施形態において、ヘテロ二量体Fc領域を含むヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約70℃以上の融解温度(Tm)を有する、ヘテロ多量体が提供される。
【0071】
修飾CH3ドメインを生成するために利用されるアミノ酸修飾には、アミノ酸挿入、欠失、置換、および再編成が含まれるが、これらに限定されない。CH3ドメインの修飾および修飾CH3ドメインは、「CH3修飾」、「修飾CH3ドメイン」、「変種CH3ドメイン」、または「CH3変種」と本明細書において集合的に呼ばれる。ある特定の実施形態において、修飾CH3ドメインは、選択された分子に組み込まれる。したがって、1つの実施形態において、修飾CH3ドメインを組み込むFc領域(本明細書で使用されるとき、「Fc領域」および類似の用語は、CH3ドメインの少なくとも一部を含む任意の重鎖定常領域ドメインを包含する)を含む、免疫グロブリン(例えば、抗体)および他の結合タンパク質のような分子、例えば、ポリペプチドが提供される。修飾CH3ドメイン(例えば、1つ以上のアミノ酸挿入、欠失、置換、または再編成を含むCH3ドメイン)を含むFc領域を含む分子は、本明細書において「Fc変種」、「ヘテロ二量体」、または「ヘテロ多量体」と呼ばれる。本発明のFc変種は、ヘテロ二量体Fc変種または領域を生成するように非対称的に修飾されているCH3ドメインを含む。ヘテロ多量体は、2つの重鎖ポリペプチド、鎖Aおよび鎖Bから構成され、これらは交換可能に使用され得るが、但し、それぞれのFc領域が、1つの鎖Aおよび1つの鎖Bポリペプチドを含むこと、ならびに鎖Aおよび鎖Bの少なくとも一方が、重鎖変種領域を含むことが条件である。アミノ酸修飾は、CH3に非対称様式で導入され、2つの修飾CH3ドメインがFc変種を形成するときにヘテロ二量体をもたらす(例えば、表1を参照すること)。本明細書で使用されるとき、非対称アミノ酸修飾は、1つのポリペプチド(例えば「鎖A」)の特定の位置におけるアミノ酸が、ヘテロ二量体またはFc変種の同じ位置における第2のポリペプチド(例えば、「鎖B」)のアミノ酸と異なる、任意の修飾である。これは、鎖Aおよび鎖Bの2つの異なるアミノ酸に対して、2つのアミノ酸のうちの1つのみの修飾、または両方のアミノ酸の修飾をもたらし得る。変種CH3ドメインが1つ以上の非対称アミノ酸修飾を含むことが、理解される。
【0072】
定義
本記載において、任意の濃度範囲、百分率範囲、比率範囲、または整数範囲は、特に示されない限り、引用された範囲内の任意の整数の値、適切な場合はその分数(例えば、整数の十分の一および百分の一)を含むことが理解されるべきである。本明細書で使用されるとき、「約」は、特に示されない限り、示されている範囲、値、配列、または構造の±10%を意味する。用語「a」および「an」は、本明細書で使用されるとき、特に示されない、または文脈によって決まらない限り、列挙された成分の「1つ以上」を意味することが理解されるべきである。代替案(例えば、「または」)の使用は、代替案のいずれかの1つ、両方、または任意の組み合わせを意味することが理解されるべきである。本明細書で使用されるとき、用語「含まれる」および「含む」は、同義的に使用される。加えて、本明細書に記載されている構造および置換基(例えば、変種CH3ドメイン)の多様な組み合わせから誘導される個別の単一鎖ポリペプチドまたはヘテロ二量体は、まるでそれぞれの単一鎖ポリペプチドまたはヘテロ二量体が個別に記載されているかのように、同じ程度で本出願に開示されていることが理解されるべきである。したがって、個別の単一鎖ポリペプチドまたはヘテロ二量体を形成するために特定の成分を選択することは、本開示の範囲内である。
【0073】
「第1のポリペプチド」は、第2のポリペプチドと会合するべき任意のポリペプチドであり、本明細書において「鎖A]とも呼ばれる。第1および第2のポリペプチドは、「界面」において出会う。「第2のポリペプチド」は、第1のポリペプチドと「界面」を介して会合するべき任意のポリペプチドであり、本明細書において「鎖B]とも呼ばれる。当該第1および第2のポリペプチドの少なくとも一方は、少なくとも1つの重鎖可変ドメインを含む。ある特定の実施形態において、少なくとも1つの重鎖可変ドメインは、重鎖抗体から得られる。幾つかの実施形態において、重鎖抗体は、サメのような軟骨魚類、またはラマのようなラクダ科動物から得られる。「界面」は、第2のポリペプチドの界面における1つ以上の「接触」アミノ酸残基と相互作用する、第1のポリペプチドにおける「接触」アミノ酸残基を含む。本明細書で使用されるとき、界面は、Fc領域のCH3ドメインを含む。幾つかの実施形態において、Fc領域は、ヒトIgG
1抗体などであるが、これに限定されないIgG抗体から誘導される。ある特定の実施形態において、少なくとも1つの重鎖可変ドメインは、リンカーによりCH3ドメインに連結している。
【0074】
本明細書において使用されるとき、「単離」ヘテロ多量体は、天然の細胞培養環境の成分から同定および分離、ならびに/または回収されたヘテロ多量体を意味する。天然環境の汚染成分は、ヘテロ多量体の診断的または治療的使用を妨げる物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質様または非タンパク質様溶質が含まれ得る。
【0075】
本明細書で使用されるとき、「未変性Fcホモ二量体に匹敵する安定性」は、Fcヘテロ二量体が未変性ホモ二量体と類似する安定性を有することを意味する。ある特定の実施形態において、ヘテロ二量体の安定性は、対応する未変性ホモ二量体Fcの±5℃以内である。幾つかの実施形態において、ヘテロ二量体の安定性は、対応する未変性ホモ二量体Fcの±2℃以内である。
【0076】
本明細書に記載されているヘテロ多量体は、一般に、実質的に均質に精製される。句「実質的に均質」、「実質的に均質な形態」、および「実質的な均質性」は、生成物が望ましくないポリペプチドの組み合わせ(例えば、ホモ二量体)由来の副産物を実質的に欠いていることを示すために使用される。純度に関する表現としては、実質的な均質性は、副産物の量が10%を超えない、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは0.5%未満であることを意味し、ここで百分率は重量に基づいている。
【0077】
当業者に理解されている用語は、本明細書において明確に異なって定義されていない限り、それぞれ当該技術において取得された意味を持つ。抗体は、可変領域、ヒンジ領域、および定常ドメインを有することが知られている。免疫グロブリンの構造および機能は、例えば、Harlow et al,Eds.,Antibodies:A Laboratory Manual,Chapter 14(Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor,1988)において概説されている。
【0078】
抗体の「Fabフラグメント」(フラグメント抗原結合とも呼ばれる)は、右鎖の定常ドメイン(CL)および重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)を、軽および重鎖のそれぞれに可変ドメインVLおよびVHを伴って含有する。可変ドメインは、抗原結合に関与する相補性決定ループ(CDR、超可変領域とも呼ばれる)を含む。Fab′フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端への幾つかの残基の付加によって、Fabフラグメントと異なる。
【0079】
「単鎖Fv」又は「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVHおよびVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖に存在する。1つの実施形態において、Fvポリペプチドは、抗原結合のためにscFvを所望の構造に形成することができる、VHとVLのドメインの間にあるポリペプチドリンカーを更に含む。scFvについての概説は、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer−Verlag,New York,pp.269−315(1994)を参照すること。HER2抗体scFVフラグメントは、国際公開第93/16185号、米国特許第5,571,894号、および米国特許第5,587,458号に記載されている。
【0080】
非ヒト(例えば、齧歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小限の配列を含有するキメラ抗体である。大部分の場合において、ヒト化抗体は、受給体の超可変領域における残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類のような非ヒト種(供与体の抗体)の超可変領域の残基に代えられているヒト免疫グロブリン(受給体の抗体)である。幾つかの場合において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)の残基は、対応する非ヒト残基に代えられている。更に、ヒト化抗体は、受給体の抗体または供与体の抗体において見出されない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体性能を更に洗練するために実行される。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインを実質的に全て含み、全てまた実質的に全ての超可変ループが非ヒト免疫グロブリンに対応し、全てまたは実質的に全てのFRがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は、場合により、典型的にはヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分も含む。更なる詳細は、Jones et al.,Nature 321:522−525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323−329(1988)、およびPresta, Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596(1992)を参照すること。
【0081】
ヘテロ多量体
本発明は、少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合(sdAg)構築物および免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域を含むヘテロ多量体であって、当該免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域が、2つの単量体Fcポリペプチドを含み、単一ドメイン抗原結合構築物が、未変性免疫グロブリンホモ二量体Fc領域に匹敵する安定性を有するヘテロ二量体Fc領域の形成を促進するアミノ酸修飾を含む免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域に結合している1つの単量体Fcポリペプチドに結合しており、ならびにIgG軽鎖およびIgG CH1領域を欠いているヘテロ多量体を提供する。ヘテロ多量体は、一価および単一特異性、二価および単一特異性、または二価および二重特異性であり得る。本明細書に記載されているヘテロ二量体Fc領域を含む本明細書に記載されているヘテロ多量体は、野生型IgG1に匹敵する固有の安定性を有し、約85%を超える純度で形成される。
【0082】
1つの実施形態において、ヘテロ多量体は、2つの重鎖を含むヘテロ二量体である。
【0083】
本明細書に記載されているヘテロ多量体は、scFvまたはFabを含む抗体様式と比較して、多機能性の二重特異性抗体の容易な構築および製造を可能にする。本明細書に記載されているヘテロ多量体は、IgG軽鎖を欠いているので、2つの軽鎖を含む二重特異性抗体の作製における固有の「軽鎖ごちゃ混ぜ」問題が回避される。
【0084】
本明細書に記載されているヘテロ多量体は、
a)単一ドメイン抗原結合構築物による抗原の高い親和性結合、
b)構成単一ドメイン抗原結合構築物の良好なヘテロ多量体品質および生物物理学的安定性(凝集の欠如)、
c)チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞発現系における、ならびにscFVおよびFab様式を含む他のヘテロ多量体構築物と比較した製造可能性における高い抗体価
を実証する。
【0085】
これらの特性は、本明細書に記載されているヘテロ多量体が、二重特異性および多機能性治療抗体、ならびに臨床または標的化試薬の開発を含む多様な用途において使用されることを可能にする。
【0086】
1つの実施形態において、単離ヘテロ多量体は、少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物および免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域を含み、当該免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域は、2つの単量体Fcポリペプチドを含み、単一ドメイン抗原結合構築物は、一方の単量体Fcポリペプチドに結合し、ヘテロ二量体Fc領域は、未変性ホモ二量体Fcに匹敵する安定性を有する当該ヘテロ二量体Fc領域の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、当該単離ヘテロ多量体は、免疫グロブリン軽鎖および免疫グロブリンの第1の定常(CH1)領域を欠いている。
【0087】
本明細書に記載されているヘテロ多量体は、ヘテロ二量体Fc領域に結合している1つの単一ドメイン抗原結合構築物のみを有し得ることが考慮される。したがって、1つの実施形態において、単離ヘテロ多量体は、1つの単一ドメイン抗原結合構築物および免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域を含み、当該免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域は、2つの単量体Fcポリペプチドを含み、単一ドメイン抗原結合構築物は、一方の単量体Fcポリペプチドに結合している。
【0088】
本明細書に記載されているヘテロ多量体は、ヘテロ二量体Fc領域に結合している2つの単一ドメイン抗原結合構築物を含み得ることが更に考慮される。別の実施形態において単離ヘテロ多量体は、1つの単一ドメイン抗原結合構築物および免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域を含み、当該免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域は、2つの単量体Fcポリペプチドを含み、1つの単一ドメイン抗原結合構築物は、一方の単量体Fcポリペプチドに結合しており、第2の単一ドメイン抗原結合構築物は、第2の単量体Fcポリペプチドに結合している。
【0089】
単一ドメイン抗原結合構築物
上記に示されているように、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物および免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域を含み、当該免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域は、2つの単量体Fcポリペプチドを含み、単一ドメイン抗原結合構築物は、一方の単量体Fcポリペプチドに結合している。
【0090】
単一ドメイン抗原結合構築物は、標的ポリペプチドに特異的または選択的に結合し得る結合ポリペプチドを含む。用語「特異的結合」は、本明細書で使用されるとき、平衡解離定数K
dにより観察した、抗原に対する抗原結合構築物の高い親和性結合を意味する。K
dは、平衡解離定数であり、k
off/k
onに等しい。k
offは、抗原に複合した抗原結合構築物の解離速度を記載し、k
onは、抗原に対する抗原結合構築物の会合速度を記載する。用語「選択的結合」は、本明細書で使用されるとき、リガンドが1つの標的に別の標的よりも高い親和性を示すように、リガンドが受容体または標的に結合する異なる親和性を意味し、選択的リガンドは、非常に限定された種類の受容体に結合し、一方、非選択的リガンドは、数種類の受容体に結合する。当該技術において知られているように、標的受容体への特異的および選択的結合は、単一ドメイン抗原結合構築物を含む治療薬に、標的を発現する疾患細胞を認識および治療する能力を与えることができる。
【0091】
適切な単一ドメイン抗原結合構築物の例には、単一ドメイン抗体(sdAbまたはV
H)、ラクダ科動物のナノボディ(V
hH)、サメV
NAR、SH3誘導性フィノマー、ならびにアドネクチンおよびDARPin(設計されたアンキリン反復タンパク質)のようなフィブロネクチン誘導性結合ドメインのような、抗体軽鎖を欠くものが含まれる。これらの単一ドメイン抗体結合構築物は、そのサイズおよび構的立体配座に起因して伝統的なFabでは利用できない、代替的または潜在的エピトープに結合する能力のような特性を示している。
【0092】
1つの実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、ドメイン抗体(もしくは、ドメイン抗体としての使用に適したアミノ酸配列)、単一ドメイン抗体(もしくは、単一ドメイン抗体としての使用に適したアミノ酸配列)、「dAb」(もしくは、dAbとしての使用に適したアミノ酸配列)、またはナノボディ(本明細書において定義されており、V
HH配列が含まれるが、これらに限定されない)、他の単一可変ドメイン、あるいはこれらのいずれかの任意の適切なフラグメントから選択される免疫グロブリン重鎖可変領域または可変重鎖である。(単一)ドメイン抗体の一般的な記載には、上記に引用された当該技術、ならびにヨーロッパ特許第0 368 684号も参照される。用語「dAb」には、例えばWard et al.(Nature 1989 Oct.12;341(6242):544−6)、Holt et al.(Trends Biotechnol.,2003,21(11):484−490)、ならびに例えば国際公開第04/068820号、同第06/030220号、同第06/003388号、およびDomantis Ltd.による他の公開特許出願が参照される。幾つかの実施形態において、可変重鎖は単一ドメイン抗体を含む、または単一可変ドメインは、特定の種のサメから誘導され得る(例えば、いわゆる「IgNARドメイン」、例えば国際公開第05/18629号を参照すること)。
【0093】
したがって、1つの実施形態において、単離ヘテロ多量体は、単一ドメイン抗体、ラクダ科動物ナノボディ、サメV
NAR、SH3誘導性フィノマー、ならびにアドネクチンおよびDARPinのようなフィブロネクチン誘導性結合ドメインから選択される単一ドメイン抗原結合構築物を含む。1つの実施形態において、単離ヘテロ多量体は、単一ドメイン抗体、ラクダ科動物ナノボディ、および軟骨魚類V
NARから選択される単一ドメイン抗原結合構築物を含む。1つの実施形態において、単離ヘテロ多量体は、SH3誘導性フィノマーまたはフィブロネクチン誘導性結合ドメインである単一ドメイン抗原結合構築物を含む。1つの実施形態において、フィブロネクチン誘導性結合ドメインは、DARPinまたはアドネクチンである。SH3誘導性フィノマー、アドネクチン、およびDARPinは、当該技術において知られている(例えば、Grabulovski et al.J Biol Chem.(2007)282(5):3196−204;Lipovsek Protein Engineering,Design and Selection(2011)24(1−2):3−9、およびTamaskovic,Methods in Enzymology(2012),503,101−134を参照すること)。
【0094】
1つの実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、単一ドメイン抗体である。単一ドメイン抗体は、単一単量体可変抗体ドメインからなる抗体フラグメントである。ドメイン抗体の適切な例は、当該技術において知られており、例えば、(例えば、Wesolowski et al.Med Microbiol Immunol.(2009),198(3):157−174の
図4、およびBarthelemy et al.J.Biol.Chem.(2008)138,3639−54の
図1Aを参照すること)。
【0095】
1つの実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、ラクダ科動物ナノボディ(V
hH)である。ラクダ科動物ナノボディは、軽鎖および重鎖CH1定常ドメインを欠いているラクダ科動物において見出される重鎖抗体から誘導される抗体フラグメントである。1つの実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、軟骨魚類V
NARである。そのような軟骨魚類V
NARには、サメにおいて見出される重鎖抗体から誘導されるV
NAR抗体フラグメントが含まれる。これらの抗体フラグメントは、また、軽鎖および重鎖CH1定常ドメインを欠いている。既知のラクダ科動物およびサメの単一ドメイン抗原結合構築物の例は、Wesolowski et al,Med Microbiol Immunol(2009)198:157−174の表1において確認される。例えば、膜タンパク質を標的にする単一ドメイン抗原結合構築物には、免疫されたラマからのART2.2、免疫されたラマからのCD16、免疫されたラクダ、免役されたラマからのEGFR、免疫されたラマからのCEA癌免疫療法、ラクダおよびラマからのMUC1腫瘍標的免疫、ならびに免疫されたラクダからのCD105(エンドグリン)が含まれる。分泌タンパク質を標的にする単一ドメイン抗原結合構築物には、免役されたラマおよびアルパカからのTNF、免疫されたヒトコブラクダからのPSA、免役されたラマからのフォン・ヴィルブランド因子、免役されたヒトコブラクダおよびアルパカからのアミロイドAペプチド、免役されたヒトコブラクダからのリゾチーム、免役されたラマからのIgG、ならびに免役されたラマからの血清アルブミンが含まれる。細胞内タンパク質を標的にする単一ドメイン抗原結合構築物には、免疫されていないラマからのBax、免疫されていないラマからのHIF−1、免役された、および免疫されていないラマからのPABPN1が含まれる。
【0096】
本明細書に記載されているヘテロ多量体への使用に適している単一ドメイン抗原結合構築物は、ラクダ科動物(例えば、ラクダ、ラマ、およびアルパカを含む)、ならびにサメのような天然に生じる供給源から得ることができる。単一ドメイン抗原結合構築物は、目的の標的に結合する単一ドメイン抗原結合構築物を選択するため、ファージディスプレーライブラリーのようなライブラリーをスクリーンすることにより得ることもできる。標的特異的単一ドメイン抗原結合構築物を選択するためにそのようなライブラリーをスクリーンする方法は、当該技術において知られている(例えば、Groot et al,in Lab Invest(2006)86:345−56、およびVerheesen et al in Methods Mol Biol(2012)911:81−104を参照すること)。
【0097】
特定の単一ドメイン抗原結合構築物のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列は、当該技術において知られている、または公表されている配列データバンク、例えば、GenBank、SwissProt、または例えばEMBLにおいて利用可能であり、したがって、本明細書に記載されている単一ドメイン抗原結合構築物を含むヘテロ多量体の調製を促進する。
【0098】
標的の選択
上記に示されているように、単一ドメイン抗原結合構築物は、標的抗原に選択的および/または特異的に結合することができる。標的タンパク質は、ヘテロ多量体の意図される使用に基づいて選択される。1つの実施形態において、標的細胞は、癌、感染性疾患、自己免疫性疾患、または炎症性疾患において活性化または増幅される細胞である。1つの実施形態において、ヘテロ多量体がEGFR1に結合する場合、標的細胞は、癌、自己免疫性疾患、または炎症性疾患において活性化または増幅される細胞である。
【0099】
別の実施形態において、標的細胞は、対象が細菌または真菌のような病原性生物による感染に罹患しているときに活性化または増幅されるものである。
【0100】
別の実施形態において、ヘテロ多量体は、Fabのような伝統的な抗原結合部分により典型的に利用可能ではない標的抗原を発現する細胞を、標的にするために使用される。ヘテロ多量体の単一ドメイン抗原結合構築物の性質は、立体配座的遮蔽および立体的閉鎖によりホルモン免疫系から保護されている、例えばCD4のような、例えば高度に保存された残基のような標的に結合すること、ならびにより小さなエピトープにより抗原を標的にすることを可能にする。
【0101】
特定の標的
1つの実施形態において、本発明のヘテロ多量体は、例えばIL2、IFNa−2a/b、IFN−1a/b、IL−21、IL−17a、TNF、IL23、VEGF、またはANG2のような1つ以上のサイトカインまたはケモカインを標的にする。別の実施形態において、本発明のヘテロ多量体は、EpCam、EGFR、VEGFR、CEA、またはGP100のような1つ以上の腫瘍関連抗原を標的にする。別の実施形態において、本発明のヘテロ多量体は、CD16、CD30、CD137、CD22、CD52、CD80、CD23、CD2、CD4、CD40、KIR、CD32b、CD25、LAG3、またはB7−H3のような免疫調節抗原を標的にする。
【0102】
1つの実施形態では、本発明において提供されるヘテロ多量体は、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、クロストリジウム・ディフィシル毒素Bのような1つ以上の細菌性毒素を標的にする。
【0103】
ある特定の実施形態において、本明細書において提供されるヘテロ多量体は、EGFR、IGF1R、ICAM−1、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、クロストリジウム・ディフィシル毒素B、ICAM−1、Bax−タンパク質、CDC50A、およびイプシロンアイソフォームを含むCD3アイソフォームから選択される1つ以上の標的抗原を標的にするのに有用である。ある特定の実施形態では、EGFR、IGF1R、ICAM−1、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、クロストリジウム・ディフィシル毒素B、ICAM−1、Bax−タンパク質、CDC50A、およびイプシロンアイソフォームを含むCD3アイソフォームの1つ以上を標的にする少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む、本明細書に記載されているヘテロ多量体である。ある特定の実施形態では、ラマ重鎖抗体から誘導される少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含み、当該可変重鎖が、EGFR、IGF1R、ICAM−1、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、クロストリジウム・ディフィシル毒素B、ICAM−1、Bax−タンパク質、CDC50A、およびイプシロンアイソフォームを含むCD3アイソフォームの1つ以上を標的にする、本明細書に記載されているヘテロ多量体である。ある特定の実施形態では、EGFR、IGF1R、ICAM−1、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、クロストリジウム・ディフィシル毒素B、ICAM−1、Bax−タンパク質、CDC50A、およびイプシロンアイソフォームを含むCD3アイソフォームの1つ以上を標的にする単一ドメイン抗原結合構築物を含む、多特異的ヘテロ多量体である。ある特定の実施形態では、本明細書に記載されている二重特異的ヘテロ多量体であって、当該ヘテロ多量体が、EGFR、IGF1R、ICAM−1、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、クロストリジウム・ディフィシル毒素B、ICAM−1、Bax−タンパク質、CDC50A、およびイプシロンアイソフォームを含むCD3アイソフォームの1つ以上を標的にするラクダ科動物重鎖抗体から誘導される単一ドメイン抗原結合構築物を含む、二重特異的ヘテロ多量体である。ある特定の実施形態では、本明細書に記載されている二重特異的ヘテロ多量体であって、当該ヘテロ多量体が、EGFR、IGF1R、ICAM−1、クロストリジウム・ディフィシル毒素A、クロストリジウム・ディフィシル毒素B、ICAM−1、Bax−タンパク質、CDC50A、およびイプシロンアイソフォームを含むCD3アイソフォームの1つ以上を標的にするラマ重鎖抗体から誘導される単一ドメイン抗原結合構築物を含む、二重特異的ヘテロ多量体である。
【0104】
1つの実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、標的抗原に対して中和活性を有するものである。用語「中和活性」は、単一ドメイン抗原結合構築物の文脈において本明細書で使用されるとき、標的抗原への同族リガンドの結合を阻止する単一ドメイン抗原結合構築物の能力を意味する。別の実施形態において、単一ドメイン抗原結合構築物は、標的抗原に対して中和活性を有さないものである。1つの実施形態において、ヘテロ多量体は、非中和性であるEFGR単一ドメイン抗原結合構築物を含む。別の実施形態において、ヘテロ多量体は、中和性であるEFGR単一ドメイン抗原結合構築物を含む。中和EFGR単一ドメイン抗原結合構築物の例は、Omidfar et al.(2012)31:1015−1026において見出される。
【0105】
1つの実施形態において、本発明のヘテロ多量体が2つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む場合、両方の単一ドメイン抗原結合構築物は、同じ抗原に結合する。別の実施形態において、本発明のヘテロ多量体が2つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む場合、両方の単一ドメイン抗原結合構築物は、同じエピトープに結合する。別の実施形態において、本発明のヘテロ多量体が2つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む場合、1つの単一ドメイン抗原結合構築物は1つの標的に結合し、第2の単一ドメイン抗原結合構築物は異なる標的に結合する。更に別の実施形態において、本発明のヘテロ多量体が2つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む場合、1つの単一ドメイン抗原結合構築物は1つのエピトープに結合し、第2の単一ドメイン抗原結合構築物は異なるエピトープに結合する。
【0106】
免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域
上に示されているように、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合(sdAg)構築物および免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域を含み、当該免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域は、2つの単量体Fcポリペプチドを含み、単一ドメイン抗原結合構築物は、未変性免疫グロブリンホモ二量体Fc領域に匹敵する安定性を有するヘテロ二量体Fc領域の形成を促進するアミノ酸修飾を含む免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域に結合している1つの単量体Fcポリペプチドに結合しており、ならびにIgG軽鎖およびIgG CH1領域を欠いている。
【0107】
免疫グロブリンヘテロ二量体Fc領域は、以下に更に記載される。本明細書に他の部分に示されているように、1つの実施形態において、修飾CH3ドメインを組み込むFc領域(本明細書で使用されるとき、「Fc領域」および類似の用語は、CH3ドメインの少なくとも一部を含む任意の重鎖定常領域ドメインを包含する)を含む、免疫グロブリン(例えば、抗体)および他の結合タンパク質のような分子、例えば、ポリペプチドが提供される。修飾CH3ドメイン(例えば、1つ以上のアミノ酸挿入、欠失、置換、または再編成を含むCH3ドメイン)を含むFc領域を含む分子は、本明細書において「Fc変種」、「ヘテロ二量体」、「変種Fcヘテロ二量体」、または「ヘテロ多量体」と呼ばれる。本発明のFc変種は、ヘテロ二量体Fc変種または領域を生成するように非対称的に修飾されているCH3ドメインを含む。ヘテロ多量体は、2つの重鎖ポリペプチド、または2つの単量体Fcポリペプチドの鎖Aおよび鎖Bから構成され、これらは交換可能に使用され得るが、但し、それぞれのFc領域が、1つの鎖Aおよび1つの鎖Bポリペプチドを含むこと、ならびに鎖Aおよび鎖Bの少なくとも一方が、重鎖変種領域を含むことが条件である。
【0108】
野生型ホモ二量体からの変種Fcヘテロ二量体の設計は、安定性と特異性の平衡を保つことによるタンパク質操作の文脈における積極的および消極的設計の概念により例示され、突然変異は、ポリペプチドが細胞培養条件下で発現したとき、ホモ二量体形成よりもヘテロ二量体形成を誘導する目的により導入される。消極的設計戦略は、嵩高側鎖を一方の鎖に、小さい側鎖を反対の鎖に導入することにより、例えばGenentechにより開発されたknobs−into−holes戦略により(Ridgway JB,Presta LG,Carter P.‘Knobs−into−holes’engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization.Protein Eng.1996 Jul;9(7):617−21;Atwell S,Ridgway JB,Wells JA,Carter P.Stable heterodimers from remodeling the domain interface of a homodimer using a phage display library.J Mol Biol.270(1):26−35(1997)))、またはホモ二量体形成の反発をもたらす静電気操作により、例えばAmgenにより開発された静電気操縦戦略により(Gunaskekaran K,et al.Enhancing antibody Fc heterodimer formation through electrostatic steering effects:applications to bi−specific molecules and monovalent IgG.JBC 285(25):19637−19646(2010))、ホモ二量体の形成のための好ましくない相互作用を最大化する。これらの2つの例では、消極的設計の非対称点突然変異を野生型CH3ドメインに導入して、ヘテロ二量体形成を導いた。現在まで、消極的設計戦略のみがFcヘテロ二量体の開発に使用されてきた。公表されている結果は、消極的設計手法のみを使用して設計されたヘテロ二量体は、>95%のヘテロ二量体に高い特性をもたらすが、複合体を著しく不安定化することを示す(上記)。これらの消極的設計のヘテロ二量体は、野生型と比較して追加のジスルフィド結合が不在の修飾CH3ドメインの融解温度の69℃以下を有する。以下の表Aを参照すること。
【表1】
*本発明者たちは、本発明のアッセイ系において対照1には>90%の純度を観察したが、文献に以前に報告されたような100%は観察しなかった。
**本発明者たちは、本発明のアッセイ系において対照4では77℃を超えるTmを観察し、この変種のTmは、文献により公表されていなかった。
公表なし−対照3のTmは、公表されておらず、本発明のアッセイ系において試験しなかった。
野生型IgG1の融解温度は、使用したアッセイ系に応じて文献の値が変動したので、81〜83の値として示されており、本発明者たちは、本発明のアッセイ系において81.5℃の値を報告している。
【0109】
消極的設計と対照的に、タンパク質の操作に使用される一般的な概念は積極的設計である。この場合では、アミノ酸修飾が、タンパク質内または間における好ましい相互作用を最大化するために、ポリペプチドに導入される。この戦略は、ホモ二量体への作用を無視しながら、所望のヘテロ二量体を特異的に安定化する多重突然変異を導入したとき、正味の影響が、ホモ二量体よりも所望のヘテロ二量体相互作用へのより良好な特異性であり、したがってより大きなヘテロ二量体特異性となることを想定する。積極的設計戦略は、所望のタンパク質相互作用を最適化するが、まれにしか>90%の特異性を達成しないことが、タンパク質操作の文脈において理解される(Havranek JJ & Harbury PB.Automated design of specificity in molecular recognition.Nat Struct Biol.10(1):45−52(2003);Bolon DN,Grant RA,Baker TA,Sauer RT.Specificity versus stability in computational protein design.Proc Natl Acad Sci USA.6;102(36):12724−9(2005);Huang PS,Love JJ,Mayo SL.A de novo designed protein protein interface Protein Sci.16(12):2770−4(2007))。本開示の前は、積極的設計戦略は、治療抗体製造および開発における安定性と比較して、より多くの注目が特異性に対して向けられていたので、Fcヘテロ二量体を設計するために使用されてこなかった。加えて、有益な積極的設計の突然変異は、予測するのが困難なことがある。追加のジスルフィド結合のような安定性を改善する他の方法論が、Fcヘテロ二量体の安定性を改善するために試みられ、分子に対する改善において限定された成功を収めた。(表Aを参照すること)このことは、全ての操作Fc CH3ドメインジスルフィド結合が溶媒に曝露され、それがジスルフィド結合の短い寿命をもたらし、したがって、特に、操作CH3ドメインが追加のジスルフィド結合なしで70℃未満のTmを有するとき(追加のジスルフィド結合なしで69℃のTMを有する対照4のように(対照2を参照すること)、ヘテロ二量体の長期安定性に対して有意な影響を与えるためであり得る。ジスルフィド結合のような、安定性を改善する他の方法論を本発明のFc変種と共に使用することもできることが考慮されるが、但し、CH3ドメインの固有の安定性(融点として測定した)が、ジスルフィド結合なしで70℃以上であること、特に、CH3ドメインの固有の安定性(融点として測定した)がジスルフィド結合なしで72℃以上であることが条件である。
【0110】
したがって、本発明者たちは、安定性もあり高い特異性もあるヘテロ二量体形成をもたらすFcヘテロ二量体を設計する新規方法を本明細書において開示する。この設計方法は、消極的および積極的設計戦略の両方を、構造および計算モデル誘導タンパク質操作技術と共に組み合わせる。この強力な方法は、本発明者たちが突然変異の新規組み合わせをIgG1 CH3ドメインにおいて設計することを可能にし、標準的な細胞培養条件のみを使用することにより、ヘテロ二量体がホモ二量体と比較して90%を超える純度で形成され、得られたヘテロ二量体が70℃を超える融解温度を有した。例示的な実施形態において、Fc変種ヘテロ二量体は、73℃以上の融解温度および98%を超える純度を有する。他の例示的な実施形態において、Fc変種ヘテロ二量体は、75℃以上の融解温度および90%を超える純度を有する。本明細書に記載されているヘテロ二量体Fc変種のある特定の実施形態において、Fc変種ヘテロ二量体は、77℃以上の融解温度および98%を超える純度を有する。本明細書に記載されているヘテロ二量体Fc変種の幾つかの実施形態において、Fc変種ヘテロ二量体は、78℃以上の融解温度および98%を超える純度を有する。本明細書に記載されているヘテロ二量体Fc変種のある特定の実施形態において、Fc変種ヘテロ二量体は、79℃以上の融解温度および98%を超える純度を有する。本明細書に記載されているヘテロ二量体Fc変種のある特定の実施形態において、Fc変種ヘテロ二量体は、80℃以上の融解温度および98%を超える純度を有する。本明細書に記載されているヘテロ二量体Fc変種のある特定の実施形態において、Fc変種ヘテロ二量体は、81℃以上の融解温度および98%を超える純度を有する。
【0111】
ある特定の実施形態において、少なくとも1つの重鎖可変ドメインおよびヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体が提供され、ここでヘテロ二量体Fc領域は、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインは、約70℃以上の融解温度(Tm)を有する。本明細書で使用されるとき、「増加した安定性」または「安定したヘテロ二量体」は、約70℃以上の融解温度を有する、ヘテロ二量体形成における変種CH3ドメインを意味する。ある特定の実施形態において、「増加した安定性」または「安定したヘテロ二量体」は、約72℃以上の融解温度を有する、ヘテロ二量体形成における変種CH3ドメインを意味する。ある特定の実施形態において、「増加した安定性」または「安定したヘテロ二量体」は、約74℃以上の融解温度を有する、ヘテロ二量体形成における変種CH3ドメインを意味する。ある特定の実施形態において、「増加した安定性」または「安定したヘテロ二量体」は、約75℃以上の融解温度を有する、ヘテロ二量体形成における変種CH3ドメインを意味する。ある特定の実施形態において、「増加した安定性」または「安定したヘテロ二量体」は、約76℃以上の融解温度を有する、ヘテロ二量体形成における変種CH3ドメインを意味する。ある特定の実施形態において、「増加した安定性」または「安定したヘテロ二量体」は、約78℃以上の融解温度を有する、ヘテロ二量体形成における変種CH3ドメインを意味する。ある特定の実施形態において、「増加した安定性」または「安定したヘテロ二量体」は、約79℃以上の融解温度を有する、ヘテロ二量体形成における変種CH3ドメインを意味する。ある特定の実施形態において、「増加した安定性」または「安定したヘテロ二量体」は、約80℃以上の融解温度を有する、ヘテロ二量体形成における変種CH3ドメインを意味する。ある特定の実施形態において、「増加した安定性」または「安定したヘテロ二量体」は、約81℃以上の融解温度を有する、ヘテロ二量体形成における変種CH3ドメインを意味する。加えて、用語「ヘテロ二量体形成を促進する」は、ホモ二量体形成と比較して90%を超えるヘテロ二量体形成をもたらす、CH3ドメインにおけるアミノ酸修飾を本明細書において意味する。
【0112】
更なる実施形態において、この増加した安定性は、追加のジスルフィド結合の不在下のものである。具体的には、増加した安定性は、CH3ドメインにおける追加のジスルフィド結合の不在下のものである。1つの実施形態において、変種CH3ドメインは、野生型CH3ドメインと比較して追加のジスルフィド結合を含まない。代替的な実施形態において、変種CH3は、野生型CH3ドメインと比較して少なくとも1つのジスルフィド結合を含むが、但し、変種CH3がジスルフィド結合の不在下で70℃以上の融点を有することが条件である。1つの実施形態において、変種CH3ドメインは、野生型CH3ドメインと比較して少なくとも1つのジスルフィド結合を含み、変種CH3ドメインは、約77.5℃以上の融点(Tm)を有する。一実施形態において、変種CH3ドメインは、野生型CH3ドメインと比較して少なくとも1つのジスルフィド結合を含み、変種CH3ドメインは、約78℃以上の融点(Tm)を有する。別の実施形態において、変種CH3ドメインは、野生型CH3ドメインと比較して少なくとも1つのジスルフィド結合を含み、変種CH3ドメインは、約78℃を超える、または約78.5℃を超える、または約79℃を超える、または約79.5℃を超える、または約80℃を超える、または約80.5℃を超える、または約81℃を超える、または約81.5℃を超える、または約82℃を超える、または約82.5℃を超える、または約83℃を超える融点(Tm)を有する。
【0113】
1つの実施形態において、変種CH3ドメインは、約 70℃を超える、または約70.5℃を超える、または約71℃を超える、または約71.5℃を超える、また約72℃を超える、または約72.5℃を超える、または約73℃を超える、または約73.5℃を超える、または約74℃を超える、または約74.5℃を超える、または約75℃を超える、または約75.5℃を超える、または約76℃を超える、または約76.5℃を超える、または約77℃を超える、または約77.5℃を超える、または約78℃を超える、または約78.5℃を超える、または約79℃を超える、または約79.5℃を超える、または約80℃を超える、または約80.5℃を超える、または約81℃を超える、または約81.5℃を超える、または約82℃を超える、または約82.5℃を超える、または約83℃を超える融点を有する。別の実施形態において、変種CH3ドメインは、約70℃、または約70.5℃、または約71℃、または約71.5℃、または約72℃、または約72.5℃、または約73℃、または約73.5℃、または約74℃、または約74.5℃、または約75℃、または約75.5℃、または約76℃、または約76.5℃、または約77℃、または約77.5℃、または約78℃、または約78.5℃、または約79℃、または約79.5℃、または約80℃、または約80.5℃、または約81℃の融点を有する。なお別の実施形態において、変種CH3ドメインは、約70℃〜約81℃、または約70.5℃〜約81℃、または約71℃〜約81℃、または約71.5℃〜約81℃、または約72℃〜約81℃、または約72.5℃〜約81℃、または約73℃〜約81℃、または約73.5℃〜約81℃、または約74℃〜約81℃、または約74.5℃〜約81℃、または約75℃〜約81℃、または約75.5℃〜約81℃、または約76℃〜約81℃、または約76.5℃〜約81℃、または約77℃〜約81℃、または約77.5℃〜約81℃、または約78℃〜約81℃、または約78.5℃〜約82℃、または約79℃〜約81℃の融点を有する。なお別の実施形態において、変種CH3ドメインは、約71℃〜約76℃、または約72℃〜約76℃、または約73℃〜約76℃、または約74℃〜約76℃の融解温度を有する。
【0114】
安定性を改善することに加えて、ヘテロ二量体Fc領域は、ヘテロ二量体形成を促進するアミノ酸修飾を含む変種CH3ドメインを含む。ヘテロ二量体形成を促進するこれらのアミノ酸修飾は、ホモ二量体形成と比較したものであることが理解される。このホモ二量体形成と比較したヘテロ二量体形成は、本明細書において「純度」、または「特異性」、または「ヘテロ二量体純度」、または「ヘテロ二量体特異性」とまとめて呼ばれる。ヘテロ二量体純度は、ヘテロ二量体種の選択的精製の前に、標準的な細胞培養条件下で溶液中において形成されるホモ二量体種と比較した、形成された所望のヘテロ二量体の率を意味することが理解される。例えば、ヘテロ二量体純度の90%は、溶液中における90%の二量体種が所望のヘテロ二量体であることを示す。1つの実施形態において、Fc変種ヘテロ二量体は、約90%を超える、または約91%を超える、または約92%を超える、または約93%を超える、または約94%を超える、または約95%を超える、または約96%を超える、または約97%を超える、または約98%を超える、または約99%を超える純度を有する。別の実施形態において、Fc変種ヘテロ二量体は、約90%、または約91%、または約92%、または約93%、または約94%、または約95%、または約96%、または約97%、または約98%、または約99%、または約100%の純度を有する。
【0115】
ある特定の実施形態において、少なくとも1つの重鎖可変ドメインおよびヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約70℃以上の融解温度(Tm)を有し、得られたヘテロ二量体が、90%を超える純度を有する、単離ヘテロ多量体が提供される。1つの態様において、得られたヘテロ二量体は、98%を超える純度を有し、変種CH3ドメインは、約70℃を超える、または約71℃を超える、または約72℃を超える、または約73℃を超える、または約74℃、または約75℃を超える、または約76℃を超える、または約77℃を超える、または約78℃を超える、または約79℃を超える、または約80℃を超える、または約81℃を超える融解温度を有する。更なる態様において、変種CH3ドメインは、70℃以上の融解温度を有し、得られたFc変種ヘテロ二量体は、約90%を超える、または約91%を超える、または約92%を超える、または約93%を超える、または約94%を超える、または約95%を超える、または約96%を超える、または約97%を超える、または約98%を超える、または約99%を超える純度を有する。
【0116】
これらの改善された安定性および純度を有するFc変種を含むヘテロ多量体を設計するため、本発明者たちは、計算設計および実験スクリーニングの繰り返し工程を用いて、積極的および消極的設計戦略の大部分の成功した組み合わせを選択した(
図24を参照すること)。
【0117】
具体的には、初期設計段階において、異なる消極的設計Fc変種ヘテロ二量体を作製し、実施例1〜3に記載されているように、発現および安定性について試験した。初期設計段階には、Fc変種ヘテロ二量体AZ1〜AZ16が含まれた(表1を参照すること)。この消極的設計Fc変種ヘテロ二量体の初期セットでは、これらが低い安定性(例えば、71℃未満のTm)を有すると予想され、90%を超える純度および約68℃以上の融解温度のFc変種ヘテロ二量体が、更なる展開のために選択された。これには、Fc変種ヘテロ二量体AZ6、AZ8、およびAZ15が含まれた。第2の設計段階において、これらの選択されたFc変種ヘテロ二量体を、積極的設計戦略の使用により更に修飾して、安定性と純度の両方を導き出し、続いて詳細な計算および構造分析を行った。選択されたFc変種ヘテロ二量体(AZ6、AZ8、およびAZ15)を、それぞれ、計算法および包括的構造機能分析により分析して、これらFc変種が、IgG1では81℃である野生型Fcホモ二量体よりも低い安定性を有する構造的理由を確認した。Fc変種ヘテロ二量体およびTm値のリストは、表4を参照すること。
【0118】
ある特定の実施形態において、変種CH3ドメインは、AZ1、またはAZ2、またはAZ3、またはAZ4、またはAZ5、またはAZ6、またはAZ7、またはAZ8、またはAZ9、またはAZ10、またはAZ11、またはAZ12、またはAZ13、またはAZ14、またはAZ15、またはAZ16から選択される。選択された実施形態において、変種CH3ドメインは、AZ6、またはAZ8、またはAZ15である。
【0119】
計算ツールおよび構造機能分析には、分子動力学分析(MD)、側鎖/主鎖再詰め込み、知識ベースポテンシャル(KBP)、空洞および(疎水性)詰め込み分析(LJ、CCSD、SASA、dSASA(炭素/全原子))、静電気−GB計算、およびカップリング分析が含まれるが、これらに限定されない。(計算戦略の概要は
図24を参照すること)
【0120】
タンパク質操作手法の一態様は、X線結晶学から誘導されたFc IgGタンパク質の構造情報を、野生型および変種形態のCH3ドメインにおける計算モデル形成およびシミュレーションと組み合わせることに依存した。このことは、本発明者たちが個別のアミノ酸およびこれらの協同作用の潜在的な役割について、新規の構造的および物理化学的洞察を得ることを可能にした。安定性および純度に関する得られた経験的データと共に多数の変種CH3ドメインから得たこれらの構造的および物理化学的洞察は、本発明者たちが、ヘテロ二量体の純度と安定性の関係についての理解を発展させることに役立った。シミュレーションを実施するため、本発明者たちは、完全な信頼性のあるモデルを構築すること、およびIgG1抗体の野生型Fc構造の品質を洗練することから始めた。X線結晶学から誘導されたタンパク質構造は、生理学的条件下での水性媒体におけるタンパク質の特定の特徴に関して詳細が欠如しており、本発明者たちの洗練手順がこの限界について対処した。これらには、多くの場合にループおよび幾つかの残基側鎖のようなタンパク質の柔軟な部分である、タンパク質構造の欠損領域を構築すること、中性および荷電残基のプロトン化状態、ならびにタンパク質と会合する機能的に関連する水分子の電位の配置を評価および定義することが含まれる。
【0121】
分子動力学(MD)アルゴリズムは、タンパク質構造をシミュレートして、水性環境下におけるFcホモ二量体および変種CH3ドメインの固有の動力学的性質を評価する、本発明者たちが使用した1つのツールである。分子動力学シミュレーションは、タンパク質における全ての原子実体とその局所環境との、この場合はFcと周囲水分子を構成する原子との間の相互作用および作用する力から生じる運動によってもたらされる分子の動力学的軌道を追跡する。分子動力学シミュレーションに続いて、多様な態様の軌道を分析して、Fcホモ二量体および変種Fcヘテロ二量体の構造的および動力学的特徴についての洞察を得て、本発明者たちは、これを使用して、分子の純度および安定性の両方を改善する特定のアミノ酸突然変異を同定した。
【0122】
したがって、生成されたMD軌道を、主要成分分析のような方法の使用により研究して、Fc構造における運動の固有の低頻度様式を明らかにした。これは、タンパク質の潜在的な立体配座の準安定状態についての洞察を提供する(
図32を参照すること)。Fc領域の鎖Aと鎖Bの重要なタンパク質間相互作用がCH3ドメインの界面において生じるが、本発明者たちのシミュレーションは、この界面が、CH2ドメインのN末端の互いの「開放」および「閉鎖」に関与する運動においてヒンジとして作用することを示した。CH2ドメインは、
図16から分かるように、この末端でFcgRと相互作用する。したがって、理論に束縛されるものではないが、CH3界面へのアミノ酸突然変異の導入は、FcのN末端での開放/閉鎖運動の大きさおよび性質に、したがって、FcがFcgRとどのように相互作用するかに影響を与えると思われる。実施例4および表5を参照すること。
【0123】
生成されたMD軌道を研究して、柔軟性のプロファイリングおよび環境の分析に基づいてFc構造における特定のアミノ酸残基の位置の突然変異性も決定した。このアルゴリズムは、タンパク質構造および機能に影響を与え得る残基を本発明者たちが同定することを可能にし、変種CH3ドメインの後の設計段階における残基の特徴および突然変異性に対して特有の洞察を提供した。この分析は、本発明者たちが多数のシミュレーションを比較すること、およびプロファイリングの後の外れ値に基づいて突然変異性を評価することも可能にした。
【0124】
生成されたMD軌道を研究して、タンパク質における相関残基運動、およびそれらの間のカップリングの結果としての残基のネットワークの形成も決定した。Fc構造内の残基の動力学的相関およびネットワークを見出すことは、動力学的実体としてタンパク質を理解する、および遠位部位の突然変異の影響についての洞察を発展させる重要なステップである。例えば、実施例6を参照すること
【0125】
したがって、本発明者たちは、突然変異の部位における局所環境に対する突然変異の影響を詳細に研究した。鎖AおよびBのCH3界面における十分に詰め込まれたコアの形成は、安定したFc構造における2つの鎖の自発的対形成にとって重要である。良好な詰め込みは、接触している基の間の好ましい相互作用により結合した相互作用分子パートナーの間の強力な構造相補性の結果である。好ましい相互作用は、溶媒曝露により十分に除去された埋没型疎水性接触、および/または疎水性極性基の間の相補的静電接触の形成のいずれかによりもたらされる。これらの疎水性および親水性接触は、CH3界面における二量体形成の自由エネルギーへのエントロピーおよびエンタルピー的寄与を有する。本発明者たちは、鎖Aと鎖Bの間のCH3界面において正確な詰め込みモデルを作製するために多様なアルゴリズムを用い、続いて多数の関連する物理化学的特性をスコア付けして界面の熱力学的特性を評価する。
【0126】
本発明者たちは、柔軟性主鎖を含む多数のタンパク質詰め込み方法を用いて、計算的にスクリーンした多数の変種のモデル構造を最適化および調製した。詰め込みの後、本発明者たちは、接触密度、衝突スコア、水素結合、疎水性、および静電気を含む多数の用語を評価した。溶媒和モデルの使用は、本発明者たちが、溶媒環境に対してより正確に対処すること、およびタンパク質の特定の位置における突然変異の後と代替的な残基の種類との自由エネルギーの差を対比させることを可能にした。接触密度および衝突スコアは、有効なタンパク質詰め込みの重要な態様である相補性の測度を提供する。これらのスクリーニング手順は、知識ベースポテンシャル、または対毎の残基相互作用エネルギーおよびエントロピー計算に依存するカップリング分析スキームの適用に基づいている。
【0127】
この包括的コンピューター分析は、界面ホットスポット、非対称性の部位、空洞および不十分に詰め込まれた領域、個別の部位の構造動力学、ならびに局所アンフォールディングの部位に関して、野生型と比較したそれぞれのFc変種の差についての詳細な理解をもたらした。これらの記載されている計算分析を組み合わせた結果は、最適化されてなく、かつ、組み合わせにより低い安定性(例えば、68℃のTm)および/または<90%純度の低い特異性の原因であった、特定の残基、配列/構造モチーフ、および空洞を同定した。第2の設計段階において、本発明者たちは、標的積極的設計を使用し、追加の点突然変異によりこれらの仮定に取り組み、上記に記載された方法論および分析を使用してコンピューター操作によりこれらを試験した(
図24を参照すること)。第2の段階におけるそれぞれの標的設計において安定性および純度を改善するように設計されたFc変種ヘテロ二量体(Fc変種ヘテロ二量体AZ17〜AZ101)を、実施例1〜4に記載されているように発現および安定性について実験的に検証した。
【0128】
ある特定の実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、AZ17、またはAZ18、またはAZ19、またはAZ20、またはAZ21、またはAZ22、またはAZ23、またはAZ24、またはAZ25、またはAZ26、またはAZ27、またはAZ28、またはAZ29、またはAZ30、またはAZ21、またはAZ32、またはAZ33、またはAZ34、またはAZ35、またはAZ36、またはAZ37、またはAZ38、またはAZ39、またはAZ40、またはAZ41、またはAZ42、またはAZ43、またはAZ44、またはAZ45、またはAZ46、またはAZ47、またはAZ48、またはAZ49、またはAZ50、またはAZ51、またはAZ52、またはAZ53、またはAZ54、またはAZ55、またはAZ56、またはAZ57、またはAZ58、またはAZ59、またはAZ60、またはAZ61、またはAZ62、またはAZ63、またはAZ64、またはAZ65、またはAZ66、またはAZ67、またはAZ68、またはAZ69、またはAZ70、またはAZ71、またはAZ72、またはAZ73、またはAZ74、またはAZ75、またはAZ76、またはAZ77、またはAZ78、またはAZ79、またはAZ80、またはAZ81、またはAZ82、またはAZ83、またはAZ84、またはAZ85、またはAZ86、またはAZ87、またはAZ88、またはAZ89、またはAZ90、またはAZ91、またはAZ92、またはAZ93、またはAZ94、またはAZ95、またはAZ96、またはAZ97、またはAZ98、またはAZ99、またはAZ100、またはAZ101である、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。例示的な実施形態において、変種CH3ドメインは、AZ17、またはAZ18、またはAZ19、またはAZ20、またはAZ21、またはAZ22、またはAZ23、またはAZ24、またはAZ25、またはAZ26、またはAZ27、またはAZ28、またはAZ29、またはAZ30、またはAZ21、またはAZ32、またはAZ33、またはAZ34、またはAZ38、またはAZ42、またはAZ43、またはAZ44、またはAZ45、またはAZ46、またはAZ47、またはAZ48、またはAZ49、またはAZ50、またはAZ52、またはAZ53、またはAZ54、またはAZ58、またはAZ59、またはAZ60、またはAZ61、またはAZ62、またはAZ63、またはAZ64、またはAZ65、またはAZ66、またはAZ67、またはAZ68、またはAZ69、またはAZ70、またはAZ71、またはAZ72、またはAZ73、またはAZ74、またはAZ75、またはAZ76、またはAZ77、またはAZ78、またはAZ79、またはAZ81、またはAZ82、またはAZ83、またはAZ84、またはAZ85、またはAZ86、またはAZ87、またはAZ88、またはAZ89、またはAZ91、またはAZ92、またはAZ93、またはAZ94、またはAZ95、またはAZ98、またはAZ99、またはAZ100、またはAZ101である。ある特定の実施形態において、変種CH3ドメインは、AZ33またはAZ34である。別の実施形態において、変種CH3ドメインは、AZ70またはAZ90である。
【0129】
例示的な実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチドを含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351Y、F405A、およびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366I、K392M、およびT394Wを含む。別の実施形態において、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351Y、S400E、F405A、およびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366I、N390R、K392M、およびT394Wを含む。
【0130】
計算構造機能分析、標的操作、および実験検証の繰り返し工程を使用して、後に続く設計段階において表1の列記されている残りのFc変種を設計し、90%を超える純度と、70℃を超える溶融温度のCH3ドメインの増加した安定性とを有するヘテロ多量体をもたらした。ある特定の実施形態において、Fc変種は、AZ1〜AZ136から選択されるアミノ酸突然変異を含む。更なる実施形態において、Fc変種は、表4に列記されているFc変種から選択されるアミノ酸突然変異を含む。
【0131】
第1および第2の設計段階では、2つのコア足場が同定され、足場1および足場2であり、追加のアミノ酸修飾が、これらの足場に導入されて、Fc変種ヘテロ二量体の純度および安定性を微調整した。AZ8、AZ17〜62、および表6に列記されている変種を含む足場1の開発についての詳細な記載は、実施例5を参照すること。AZ15、AZ63〜101、および表7に列記されている変種を含む足場2の開発についての詳細な記載は、実施例6を参照すること。
【0132】
足場1のコア突然変異は、L351Y_F405A_Y407V/T394Wを含む。足場1aは、アミノ酸突然変異T366I_K392M_T394W/F405A_Y407Vを含み、足場1bは、アミノ酸突然変異T366L_K392M_T394W/F405A_Y407Vを含む。実施例5を参照すること。
【0133】
ある特定の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチド(本明細書において、鎖Aおよび鎖Bとも呼ばれる)を含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351Y、F405A、およびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T394Wを含む。1つの態様において、ヘテロ多量体は、F405および/またはK392の位置に点突然変異を更に含む。K392の位置のこれらの突然変異には、K392V、K392M、K392R、K392L、K392F、またはK392Eが含まれるが、これらに限定されない。F405の位置のこれらの突然変異には、F405I、F405M、F405S、F405S、F405V、またはF405Wが含まれるが、これらに限定されない。別の態様において、ヘテロ多量体は、T411および/またはS400の位置に点突然変異を更に含む。T411の位置のこれらの突然変異には、T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E、またはT411Wが含まれるが、これらに限定されない。S400の位置のこれらの突然変異には、S400E、S400D、S400R、またはS400Kが含まれるが、これらに限定されない。なお別の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチドを含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351Y、F405A、およびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T394Wを含み、第1および/または第2のポリペプチドは、T366および/またはL368の位置にアミノ酸修飾を更に含む。T366の位置のこれらの突然変異には、T366A、T366I、T366L、T366M、T366Y、T366S、T366C、T366V、またはT366Wが含まれるが、これらに限定されない。例示的な実施形態において、T366の位置のアミノ酸突然変異は、T366Iである。別の例示的な実施形態において、T366の位置のアミノ酸突然変異は、T366Lである。L368の位置の突然変異には、L368D、L368R、L368T、L368M、L368V、L368F、L368S、およびL368Aが含まれるが、これらに限定されない。
【0134】
ある特定の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチド(本明細書において、鎖Aおよび鎖Bとも呼ばれる)を含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351Y、F405A、およびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366LおよびT394Wを含む。別の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチドを含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351Y、F405A、およびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366IおよびT394Wを含む。
【0135】
特定の他の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチド(本明細書において、鎖Aおよび鎖Bとも呼ばれる)を含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351Y、F405A、およびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366L、K392M、およびT394Wを含む。別の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチドを含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351Y、F405A、およびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366I、K392M、およびT394Wを含む。
【0136】
なお別の他の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチド(本明細書において、鎖Aおよび鎖Bとも呼ばれる)を含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾F405AおよびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366L、K392M、およびT394Wを含む。別の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチドを含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾F405AおよびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366I、K392M、およびT394Wを含む。
【0137】
ある特定の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチド(本明細書において、鎖Aおよび鎖Bとも呼ばれる)を含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾F405AおよびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366LおよびT394Wを含む。別の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチドを含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾F405AおよびY407Vを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366IおよびT394Wを含む。
【0138】
例示的な実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含むヘテロ多量体を含み、ヘテロ多量体が、約74℃以上の融解温度(Tm)を有する、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。別の実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ多量体が、少なくとも1つの重鎖可変ドメイン、および増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約74℃以上の融解温度(Tm)を有し、ヘテロ二量体が、約98%以上の純度を有する、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。
【0139】
ある特定の実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約70℃を超える融解温度(Tm)を有し、変種CH3ドメインが、表6から選択される、単離ヘテロ多量体。
【0140】
足場2のコア突然変異は、L351Y_Y407A/T366A_K409Fを含む。足場2aは、アミノ酸修飾L351Y_Y407A/T366V_K409Fを含み、足場2bは、アミノ酸修飾Y407A/T366A_K409Fを含む。実施例6を参照すること。
【0141】
ある特定の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチド(本明細書において、鎖Aおよび鎖Bとも呼ばれる)を含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351YおよびY407Aを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366AおよびK409Fを含む。1つの態様において、ヘテロ多量体は、T366、L351、およびY407の位置に点突然変異を更に含む。T366の位置のこれらの突然変異には、T366I、T366L、T366M、T366Y、T366S、T366C、T366V、またはT366Wが含まれるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、T366の位置の突然変異は、T366Vである。L351の位置の突然変異には、L351I、L351D、L351R、またはL351Fが含まれるが、これらに限定されない。Y407の位置の突然変異には、Y407VまたはY407Sが含まれるが、これらに限定されない。表1のCH3変種AZ63〜AZ70、および表4、および実施例6を参照すること。
【0142】
例示的な実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチド(本明細書において、鎖Aおよび鎖Bとも呼ばれる)を含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351YおよびY407Aを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366VおよびK409Fを含む。
【0143】
例示的な実施形態では、少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物およびヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸修飾を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約75.5℃以上の融解温度(Tm)を有し、ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリンCH1を欠いており、場合により免疫グロブリンCH2領域を欠いている、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。別の実施形態では、少なくとも1つの重鎖可変領域およびヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約75℃以上の融解温度(Tm)を有し、へテロ二量体が、約90%以上の純度を有する、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。
他のある特定の実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチド(本明細書において、鎖Aおよび鎖Bとも呼ばれる)を含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾L351YおよびY407Aを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366AおよびK409Fを含み、変種CH3ドメインは、T411、D399、S400、F405、N390、および/またはK392の位置に1つ以上のアミノ酸修飾を含む。D399の位置のこれらの突然変異には、D399R、D399W、D399Y、またはD399Kが含まれるが、これらに限定されない。T411の位置の突然変異には、T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E、またはT411Wが含まれるが、これらに限定されない。S400の位置の突然変異には、S400E、S400D、S400R、またはS400Kが含まれるが、これらに限定されない。F405の位置の突然変異には、F405I、F405M、F405S、F405S、F405V、またはF405Wが含まれるが、これらに限定されない。N390の位置の突然変異には、N390R、N390K、またはN390Dが含まれるが、これらに限定されない。K392の位置の突然変異には、K392V、K392M、K392R、K392L、K392F、またはK392Eが含まれるが、これらに限定されない。表1のCH3変種AZ71〜101、および表4、および実施例6を参照すること。
【0144】
例示的な実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチド(本明細書において、鎖Aおよび鎖Bとも呼ばれる)を含むヘテロ二量体であり、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾Y407Aを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366AおよびK409Fを含む。1つの態様において、このヘテロ二量体は、アミノ酸修飾K392E、T411E、D399R、およびS400Rを更に含む。更なる実施形態において、ヘテロ多量体は、第1および第2のポリペプチドを含み、第1のポリペプチドは、アミノ酸修飾D399R、S400R、およびY407Aを含み、第2のポリペプチドは、アミノ酸修飾T366A、K409F、K392E、およびT411Eを含む。
例示的な実施形態では、少なくとも1つの重鎖可変領域およびヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約74℃以上の融解温度(Tm)を有し、へテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖およびCH
1ドメインを欠いている、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。別の実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約74℃以上の融解温度(Tm)を有し、ヘテロ二量体が、約95%以上の純度を有し、へテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖およびCH
1ドメインを欠いている、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。
【0145】
ある特定の実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、約70℃を超える融解温度(Tm)を有し、変種CH3ドメインが、表7から選択され、ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖およびCH
1ドメインを欠いている、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。
【0146】
更に、少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物と、改善された安定性および純度を有するFc変種ヘテロ二量体とを含むヘテロ多量体を設計するこの新たな方法は、他のクラスおよびアイソタイプのFc領域に適用され得る。ある特定の実施形態において、Fc領域は、ヒトIgG Fc領域である。更なる実施形態において、ヒトIgG Fc領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fc領域である。幾つかの実施形態において、Fc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、およびIgMからなる群から選択される免疫グロブリンのものである。幾つかの実施形態において、IgGは、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、およびIgG4からなる群から選択されるサブタイプのものである。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表3】
【表4】
Fc領域の定義
【0147】
本明細書に定義されているFc領域は、CH3ドメインまたはそのフラグメントを含み、ヒンジ、CH1、またはCH2を含む1つ以上の付加定常領域ドメインまたはそのフラグメントを追加的に含み得る。FCアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,1991,NIH Publication 91−3242,National Technical Information Service,Springfield,Vaのように、EUインデックスのものであることが理解される。「Kabatにより記載されたEUインデックス」は、ヒトIgG1 Kabat抗体のEUインデックス番号付けを意味する。便宜上、表Bは、ヒトIgG1のCH2およびCH3ドメインの、Kabatにより記載されたEUインデックスに従ったアミノ酸番号付けを提供する。
【表5】
【0148】
ある特定の実施形態において、ヘテロ多量体は、CH2ドメインを含むFc領域を含む。幾つかの実施形態において、CH2ドメインは、変種CH2ドメインである。幾つかの実施形態において、変種CH2ドメインは、第1および/または第2のポリペプチド鎖に非対称アミノ酸置換を含む。幾つかの実施形態において、ヘテロ多量体は、当該ヘテロ多量体の1つの鎖がFc受容体に選択的に結合するように、CH2ドメインに非対称アミノ酸置換を含む。
FcγR選択性
【0149】
1つの態様において、本出願は、ヘテロ二量体Fcに構築される非対称足場の設計を介して、精巧なFcγR選択性プロファイルを達成する分子設計を記載する。この足場は、非対称突然変異がCH2ドメインにおいて多様な新規選択性プロファイルを達成することを可能にする。更に、足場は、多機能性(二、三、四、または五機能性)治療分子を操作する、固有の特徴を有する。ある特定の実施形態において、非対称足場は、分子のより良好な再循環を可能にし、かつその半減期および関連する薬物動態特性を増強させるため、新生児Fc受容体(FcRn)へのpH依存性結合特性が最適化される。
【0150】
非対称足場は、機能的に関連するFcγRI受容体アロタイプへの結合のために最適化され得る。FcγRIは、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、乾癬、および多数の肺疾患のような慢性炎症性障害に関与するマクロファージの顕著なマーカーである。
【0151】
非対称足場は、プロテインA結合のために最適化され得る。プロテインA結合は、多くの場合、抗体分子の分離および精製のために用いられる。突然変異は、治療剤の貯蔵の際の凝集を回避するために非対称足場に導入され得る。
【0152】
したがって、本発明の重鎖可変領域およびFc変種を含むヘテロ多量体は、血清半減期の増加、結合親和性の増加、免疫原性の低減、産生の増加、ADCCもしくはCDC活性の増強もしくは低減、グリコシル化の変化、ならびに/またはジスルフィド結合および修飾結合の特異性が含まれるが、これらに限定されない好ましい特徴を有する抗体をもたらす、1つ以上の追加のアミノ酸残基置換、突然変異、および/または修飾をとりわけ含有し得ることが、特に考慮される。
【0153】
インビボ半減期
本明細書に記載されているヘテロ多量体は、匹敵する分子と比べて、哺乳動物、特にヒトにおけるインビボ半減期(例えば、血清半減期)の増加、インビボ(例えば、血清半減期)および/もしくはインビトロ(例えば、保存寿命)における安定性の増加、ならびに/または融点(Tm)の増加を含む他の変化した特徴を有し得ることが考慮される。1つの実施形態において、本発明のヘテロ多量体は、15日を超える、20日を超える、25日を超える、30日を超える、35日を超える、40日を超える、45日を超える、2か月を超える、3か月を超える、4か月を超える、または5か月を超えるインビボ半減期を有する。別の実施形態において、本発明のヘテロ多量体は、15日を超える、30日を超える、2か月を超える、3か月を超える、6か月を超える、または12か月を超える、または24か月を超える、または36か月を超える、または60か月を超えるインビトロ半減期(例えば、液体または粉末製剤)を有する。
【0154】
また、本発明のヘテロ多量体は、対象に投与されたとき変化した免疫原生を有し得ることも、当業者に理解される。したがって、Fc変種の免疫原生を最小化する変種CH3ドメインは、一般に、治療用途においてより望ましいことが考慮される。
【0155】
変化したエフェクター機能
本発明のヘテロ多量体は、エフェクター機能を変化させる修飾が含まれるが、これに限定されない他の修飾と組み合わされ得る。本発明は、本発明のヘテロ多量体を他のFc修飾と組み合わせて、追加的な、相乗的な、または新規の特性を抗体またはFc融合タンパク質にもたらすことを包含する。そのような修飾は、ヒンジまたはCH2(もしくはCH3であるが、但し、本発明の変種CH3ドメインの安定性および純度特性を否定的に変えないことが条件である)ドメイン、あるいはこれらの組み合わせにおいてであり得る。本発明のヘテロ多量体は、それらが組み合わされる修飾の特性を増強することが考慮される。
【0156】
FcγR結合
ヘテロ多量体の特徴決定の一部として、これらを、野生型IgG1と比較した比として報告される、FcγRIIIA(CD16a)およびFcγRIIB(CD32b)への結合親和性について試験した。(実施例4および表5を参照すること)この場合、活性化および阻害的Fc受容体への結合に対するCH3ドメイン突然変異の影響を評価することが可能であった。1つの実施形態では、ヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、70℃を超える融解温度(Tm)を有し、CD16aへのヘテロ二量体の結合が、野生型ホモ二量体と比較してほぼ同じである、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。ある特定の実施形態において、CD16aへのヘテロ二量体の結合は、野生型ホモ二量体と比較して増加している。代替的な実施形態において、CD16aへのヘテロ二量体の結合は、野生型ホモ二量体と比較して低減している。
【0157】
ある特定の実施形態では、少なくとも1つの単一ドメイン抗原結合構築物およびヘテロ二量体Fc領域を含む単離ヘテロ多量体であって、ヘテロ二量体Fc領域が、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸修飾を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインが、70℃を超える融解温度(Tm)を有し、CD32bへのヘテロ二量体の結合が、野生型ホモ二量体と比較してほぼ同じであり、ヘテロ多量体が、免疫グロブリン軽鎖および免疫グロブリンCH1を欠いており、場合により免疫グロブリンCH2領域を欠いている、単離ヘテロ多量体が本明細書において提供される。ある特定の実施形態において、CD32bへのヘテロ二量体の結合は、野生型ホモ二量体と比較して増加している。代替的な実施形態において、CD32bへのヘテロ二量体の結合は、野生型ホモ二量体と比較して低減している。
【0158】
Fc変種と野生型ホモ二量体の比としてCD16aおよびCD32bへの結合のK
Dを報告する代わりに、K
Dを、CD16aへのFc変種の結合と、CD32bへのFc変種の結合との比として報告できることは、当業者に理解される(データは示されず)。この比は、野生型と比較して変化なし、増加から減少のいずれかであるADCCに対する変種CH3ドメインの突然変異の指標を提供し、下記により詳細に記載される。
【0159】
FcγRへの本発明のヘテロ多量体の親和性および結合特性は、ELISAアッセイ、表面プラズモン共鳴アッセイ、免疫沈降アッセイ(下記の表題「特徴決定および機能アッセイ」のセクションを参照すること)、ならびに間接的結合アッセイ、競合阻害アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、ゲル電気泳動、およびクロマトグラフィー(例えばゲル濾過)のような他の方法が含まれるが、これらに限定されない、Fc−FcγR相互作用、すなわちFcγRへのFc領域の特異的結合を決定する、当該技術に既知のインビトロアッセイ(生化学または免疫学に基づいたアッセイ)の使用により最初に決定される。これらおよび他の方法は、検査される1つ以上の成分上の標識を利用することができる、および/または色原体、蛍光、発光、または同位体標識が含まれるが、これらに限定されない多様な検出方法を用いることができる。結合親和性および動態学の詳細な記載は、抗体−免疫原相互作用に焦点を合わせる、Paul,W.E.,ed.,Fundamental Immunology,4th Ed.,Lippincott−Raven,Philadelphia(1999)において見出され得る。
【0160】
本発明の分子の結合特性は、1つ以上のFcγRメディエーターエフェクター細胞機能を決定するインビトロ機能アッセイ(下記の表題「特徴決定および機能アッセイ」のセクションを参照すること)によっても特徴決定されることが考慮される。ある特定の実施形態において、本発明の分子は、インビボモデル(例えば、本明細書に記載および開示されているもの)において、インビトロに基づいたアッセイと類似した結合特性を有する。しかし、本発明は、所望の表現型をインビトロに基づいたアッセイにおいて示さないが、所望の表現型をインビボで示す本発明の分子を除外しない。
【0161】
本発明は、匹敵する分子と比べて増加した親和性でFcγRIIIA(CD16a)に結合するFc変種を含むヘテロ多量体を包含する。ある特定の実施形態において、本発明のFc変種は、匹敵する分子と比べて、増加した親和性でFcγRIIIAに結合し、変化しない、または低減した結合親和性でFcγRIIB(CD32b)に結合する。なお別の実施形態において、本発明のFc変種は、匹敵する分子と比べて減少したFcγRIIIA/FcγRIIB平衡解離定数(K
D)の比を有する。
【0162】
匹敵する分子と比べて減少した親和性でFcγRIIIA(CD16a)に結合するFc変種を含むヘテロ多量体も、本発明に包含される。ある特定の実施形態において、本発明のFc変種は、匹敵する分子と比べて減少した親和性でFcγRIIIAに結合し、匹敵する分子と比べて変化しない、または増加した結合親和性でFcγRIIBに結合する。
【0163】
1つの実施形態において、ヘテロ多量体は、増加した親和性でFcγRIIIAに結合するFc変種を含む。ある特定の実施形態において、当該Fc変種は、匹敵する分子よりも少なくとも2倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも7倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも30倍、または少なくとも40倍、または少なくとも50倍、または少なくとも60倍、または少なくとも70倍、または少なくとも80倍、または少なくとも90倍、または少なくとも100倍、または少なくとも200倍大きい、FcγRIIIAへの親和性を有する。他の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくともS0%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも150%、または少なくとも200%増加した、FcγRIIIAへの親和性を有する。
【0164】
別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて約2倍〜10倍、または約5倍〜50倍、または約25倍〜250倍、または約100倍〜500倍、または約250倍〜1000倍減少した、Fcリガンド(例えば、FcγR、C1q)の平衡解離定数(K
D)を有する。
【0165】
別の実施形態において、当該Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも2倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも7倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも30倍、または少なくとも40倍、または少なくとも50倍、または少なくとも60倍、または少なくとも70倍、または少なくとも80倍、または少なくとも90倍、または少なくとも100倍、または少なくとも200倍、または少なくとも400倍、または少なくとも600倍低減した、FcγRIIIAの平衡解離定数(K
D)を有する。別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも150%、または少なくとも200%低減した、FcγRIIIAの平衡解離定数(K
D)を有する。
【0166】
1つの実施形態において、Fc変種は、変化しない、または低減した親和性でFcγRIIBに結合する。ある特定の実施形態において、当該Fc変種は、匹敵する分子と比べて変化しない、または少なくとも1倍、もしくは少なくとも3倍、もしくは少なくとも5倍、もしくは少なくとも10倍、もしくは少なくとも20倍、もしくは少なくとも50倍、もしくは少なくとも100倍低減した、FcγRIIBへの親和性を有する。他の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて変化しない、または少なくとも10%、もしくは少なくとも20%、もしくは少なくとも30%、もしくは少なくとも40%、もしくは少なくとも50%、もしくは少なくとも60%、もしくは少なくとも70%、もしくは少なくとも80%、もしくは少なくとも90%、もしくは少なくとも100%、もしくは少なくとも150%、もしくは少なくとも200%低減した、FcγRIIBへの親和性を有する。
【0167】
別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて変化しない、または少なくとも2倍、もしくは少なくとも3倍、もしくは少なくとも5倍、もしくは少なくとも7倍、もしくは少なくとも10倍、もしくは少なくとも20倍、もしくは少なくとも30倍、もしくは少なくとも40倍、もしくは少なくとも50倍、もしくは少なくとも60倍、もしくは少なくとも70倍、もしくは少なくともS0倍、もしくは少なくとも90倍、もしくは少なくとも100倍、もしくは少なくとも200倍増加した、FcγRIIBの平衡解離定数(K
D)を有する。別のある特定の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて変化しない、または少なくとも10%、もしくは少なくとも20%、もしくは少なくとも30%、もしくは少なくとも40%、もしくは少なくとも50%、もしくは少なくとも60%、もしくは少なくとも70%、もしくは少なくとも80%、もしくは少なくとも90%、もしくは少なくとも100%、もしくは少なくとも150%、もしくは少なくとも200%増加した、FcγRIIBの平衡解離定数(K
D)を有する。
【0168】
更に別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて増加した親和性でFcγRIIIAに結合し、匹敵する分子と比べて変化しない、または減少した親和性でFcγRIIBに結合する。ある特定の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも1倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍増加した、FcγRIIIAへの親和性を有する。別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて変化しない、または少なくとも2倍、もしくは少なくとも3倍、もしくは少なくとも5倍、もしくは少なくとも7倍、もしくは少なくとも10倍、もしくは少なくとも20倍、もしくは少なくとも50倍、もしくは少なくとも100倍低減した、FcγRIIBへの親和性を有する。他の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも150%、または少なくとも200%増加した、FcγRIIIAへの親和性を有し、Fc変種は、匹敵する分子と比べて変化しない、または少なくとも10%、もしくは少なくとも20%、もしくは少なくとも30%、もしくは少なくとも40%、もしくは少なくとも50%、もしくは少なくとも60%、もしくは少なくとも70%、もしくは少なくとも80%、もしくは少なくとも90%、もしくは少なくとも100%、もしくは少なくとも150%、もしくは少なくとも200%増加した、FcγRIIBへの親和性を有する。
【0169】
なお別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて減少したFcγRIIIA/FcγRIIB平衡解離定数(K
D)の比を有する。ある特定の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも1倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍減少した、FcγRIIIA/FcγRIIB平衡解離定数(K
D)の比を有する。別のある特定の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも150%、または少なくとも200%減少した、FcγRIIIA/FcγRIIB平衡解離定数(K
D)の比を有する。
【0170】
別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて減少した親和性でFcγRIIIAに結合する。ある特定の実施形態において、当該Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも1倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍低減した、FcγRIIIAへの親和性を有する。他の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも150%、または少なくとも200%減少した、FcγRIIIAへの親和性を有する。
【0171】
さらに別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて、減少した親和性でFcγRIIIAに結合し、変化しない、または増加した親和性でFcγRIIBに結合する。ある特定の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも1倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍低減した、FcγRIIIAへの親和性を有する。別のある特定の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子よりも少なくとも2倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも7倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍大きい、FcγRIIBへの親和性を有する。他の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも150%、または少なくとも200%減少した、FcγRIIIAへの親和性を有し、Fc変種は、匹敵する分子と比べ少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも150%、または少なくとも200%増加した、FcγRIIBへの親和性を有する。
【0172】
更に別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比較して少なくとも1倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍増加した、FcγRIIIAの平衡解離定数(K
D)を有する。ある特定の実施形態において、当該Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも2倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも7倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍減少した、FcγRIIBの平衡解離定数(K
D)を有する。
【0173】
fcγR選択性のためのCH2変異
この複合体におけるFc−FcγRタンパク質間相互作用は、ヘテロ多量体の2つの鎖がFcγR分子の2つの別個の部位と相互作用することを示す。天然のFc分子における2つの重鎖には対称性があるが、1つの鎖の残基の周りの局所FcγR環境は、反対側のFc鎖の同じ残基位置の周囲にあるFcγR残基と異なる。2つの対称関連位置は、FcγR残基の異なる選択肢と相互作用する。
【0174】
FcとFcγRとの会合における非対称性を考慮すると、Fc分子の鎖AおよびBへの同時突然変異は、対称的な方法でFcγRとの相互作用に影響を与えない。ホモ二量体Fc構造のFcの1つの鎖におけるその局所FcγR環境との相互作用を最適化する突然変異を導入すると、第2の鎖における対応する突然変異は、必要なFcγR結合および選択性プロファイルにとって好ましい、好ましくない、または寄与しないものであり得る。
【0175】
構造および計算誘導手法の使用により、非対称突然変異がFcの2つの鎖において操作されて、Fcの両方の鎖に同じ突然変異を導入する伝統的なFc操作戦略の限界を克服する。Fcの2つの鎖が、受容体分子の対応する面への増強された結合のために独立して最適化される場合、受容体間のより良好な結合選択性が達成され得る。
【0176】
例えば、Fcの1つの鎖における特定の位置の突然変異は、積極的設計努力において、特定の残基への選択性を増強するために設計され得、一方、消極的設計努力において、同じ残基位置は、代替的なFcγ受容体の種類の局所環境と好ましくない相互作用するために突然変異され得、このようにして、2つの受容体間のより良好な選択性を達成する。ある特定の実施形態において、異なるFcガンマ受容体と比較して1つのFcガンマ受容体に選択的に結合する(例えば、FcgRIIbの代わりにFcgRIIIaに選択的に結合する)非対称アミノ酸修飾を、CH2ドメインに設計する方法が提供される。他のある特定の実施形態において、ヘテロ二量体の形成を促進するため、CH3ドメインにアミノ酸修飾を含む変種Fcヘテロ二量体のCH2ドメインに非対称アミノ酸修飾を設計する方法が提供される。別の実施形態において、CH2ドメインに非対称アミノ酸修飾を含む変種Fcヘテロ二量体に基づいた、異なるFcガンマ受容体への選択性を設計する方法が提供される。なお別の実施形態において、Fc分子の一面へのFcガンマ受容体の結合を偏らせる非対称アミノ酸修飾を設計する方法が提供される。他のある特定の実施形態において、Fcガンマ受容体を、CH2ドメインに非対称アミノ酸修飾を含む変種Fcヘテロ二量体の一面のみと相互作用するように偏らせる、極性ドライバーを設計する方法が提供される。
【0177】
CH2ドメインにおける突然変異の非対称設計は、Fc分子の一面においてFcγRを認識する目的に合わせて作られ得る。これは、非対称Fc足場の産生面を構成するが、反対面は、設計された選択性プロファイルのない野生型様相互作用の傾向を表し、非産生面と考慮され得る。消極的設計戦略を用いて、突然変異を非産生面に導入し、非対称Fc足場のこちら側でFcγR相互作用を阻止して、それによりFcγ受容体に所望の相互作用の傾向を強いることができる。
【表6】
(↑/−)は、特定の受容体の種類またはそのアロタイプの1つへの増加した、または野生型様結合を示す変種を示す。(×)は、受容体またはサブセットのアロタイプへの注目すべき結合がないことを示す。
【0178】
本明細書において提供されるある特定の実施形態は、Fc領域に融合した結合ドメインを含む融合ポリペプチドに関し、Fc領域は、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含む変種CH3ドメインを含み、変種CH3ドメインは、70℃を超える融解温度(Tm)を有する。変種CH3ドメインを含むヘテロ二量体を含む分子は、当業者に周知の方法により生成され得ることが、特に考慮される。簡潔には、そのような方法には、可変領域を組み合わせること、あるいは所望の特異性を有するドメイン(例えば、ファージディスプレーもしくは発現ライブラリーから単離される、またはヒトもしくは非ヒト抗体から誘導される可変領域、または受容体の結合ドメイン)を変種Fcヘテロ二量体と結合させることが含まれるが、これらに限定されない。あるいは、当業者は、Fc領域(例えば、抗体)を含む分子のFc領域におけるCH3ドメインを修飾することにより、変種Fcヘテロ二量体を生成することができる。
【0179】
「抗体依存性細胞仲介細胞傷害性」または「ADCC」は、特定の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に結合した分泌抗体が、細胞傷害性エフェクター細胞を抗原治癒標的細胞に特異的に結合させ、続いて標的細胞を細胞毒素により死滅させる、細胞傷害性の形態を意味する。標的細胞の表面に向けられた特定の高親和性IgG抗体は、細胞傷害性細胞を「武装し」、そのような死滅にとって絶対に必要である。標的細胞の溶解は細胞外であり、直接的な細胞間接触を必要とし、補体を伴わない。
【0180】
ADCCにより標的細胞の溶解を仲介する任意の特定の抗体の能力を、アッセイすることができる。ADCC活性を評価するため、目的の抗体は、抗原抗体複合体により活性されて標的細胞に細胞溶解をもたらし得る免疫エフェクター細胞との組み合わせにより標的細胞に添加される。細胞溶解は、溶解した細胞からの標識(例えば、放射性基質、蛍光色素、または天然の細胞内タンパク質)の放出により、一般に検出される。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。インビトロADCCアッセイの特定の例は、Wisecarver et al.,1985,79:277;Bruggemann et al.,1987,J Exp Med 166:1351;Wilkinson et al.,2001,J Immunol Methods 258:183;Patel et al.,1995 J Immunol Methods 184:29、および本明細書(下記の表題「特徴決定および機能アッセイ」のセクションを参照すること)に記載されている。あるいは、または追加的には、目的の抗体のADCC活性をインビボにおいて、例えば、Clynes et al.,1998,PNAS USA 95:652に開示されているような動物モデルにおいて評価することができる。
【0181】
本発明は、増強されたCDC機能を有するFc変種を含むヘテロ多量体を更に提供する。1つの実施形態において、Fc変種は増加したCDC活性を有する。1つの実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子よりも少なくとも2倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍大きいCDC活性を有する。別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子よりも少なくとも2倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも7倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍大きい親和性でC1qに結合する。なお別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも150%、または少なくとも200%増加したCDC活性を有する。ある特定の実施形態において、本発明のFc変種は、増加した親和性でC1qに結合し、増強されたCDC活性を有し、少なくとも1つの抗原に特異的に結合する。
【0182】
本発明は、低減したCDC機能を有するFc変種を含むヘテロ多量体も提供する。1つの実施形態において、Fc変種は低減したCDC活性を有する。1つの実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子よりも少なくとも2倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍小さいCDC活性を有する。別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも1倍、または少なくとも3倍、または少なくとも5倍、または少なくとも10倍、または少なくとも20倍、または少なくとも50倍、または少なくとも100倍低減した親和性でC1qに結合する。別の実施形態において、Fc変種は、匹敵する分子と比べて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも150%、または少なくとも200%減少したCDC活性を有する。ある特定の実施形態において、Fc変種は、減少した親和性でC1qに結合し、低減したCDC活性を有し、少なくとも1つの抗原に特異的に結合する。
【0183】
幾つかの実施形態において、Fc変種は、1つ以上の操作されたグリコフォーム、すなわちFc領域を含む分子に共有結合している炭水化物組成物を含む。操作されたグリコフォームは、エフェクター機能を増強または低減することが含まれるが、これらに限定されない多様な目的に有用であり得る。操作されたグリコフォームは、当業者に既知の任意の方法により、例えば、操作もしくは変種発現株の使用により、1つの以上の酵素、例えば、β(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTI11)を用いる同時発現により、Fc領域を含む分子を多様な生物体もしくは多様な生物体の細胞系に発現させることにより、またはFc領域を含む分子を発現させた後に炭水化物を修飾することにより生成され得る。操作されたグリコフォームを生成する方法は、当該技術において知られており、Umana et al,1999,Nat.Biotechnol17:176−180;Davies et al.,20017 Biotechnol Bioeng 74:288−294;Shields et al,2002,J Biol Chem 277:26733−26740;Shinkawa et al.,2003,J Biol Chem 278:3466−3473)米国特許第6,602,684号、米国特許出願第10/277,370号、米国特許出願第10/113,929号、PCT国際公開第00/61739A1号、PCT国際公開第01/292246A1号、PCT国際公開第02/311140A1号、PCT国際公開第02/30954A1号、Potillegent(商標)技術(Biowa,Inc.Princeton,N.J.)、GlycoMAb(商標)グリコシル化操作技術(GLYCART biotechnology AG,Zurich,Switzerland)に記載されているものが含まれるが、これらに限定されない。例えば、国際公開第00061739号、ユーラシア特許第01229125号、米国特許出願第20030115614号、Okazaki et al.,2004,JMB,336:1239−49を参照すること。
【0184】
Fc変種は、可変領域およびヘテロ二量体Fc領域を含む抗体を含み、ヘテロ二量体Fc領域は、増加した安定性を有するヘテロ二量体の形成を促進するアミノ酸突然変異を含むCH3ドメインを含み、変種CH3ドメインは、70℃を超える融解温度(Tm)を有することが考慮される。抗体であるFc変種は、少なくとも1つの抗原に特異的に結合する可変ドメイン、そのフラグメントと、変種CH3ドメインを含むヘテロ多量体Fc領域とを組み合わせることにより、「デノボ」で産生され得る。あるいは、ヘテロ二量体Fc変種は、抗原に結合する抗体を含有するFc領域のCH3ドメインを修飾することにより産生され得る。
【0185】
本発明のヘテロ多量体は、単一特異的、二重特異的、三重特異的であり得る、またはより大きな多特異性を有し得る。多特異的抗体は、所望の標的分子の異なるエピトープに特異的に結合し得る、または標的分子はもとより、異種ポリペプチドもしくは固体支持体材料のような異種エピトープにも特異的に結合し得る。例えば、国際公開公報第94/04690号、同第93/17715号、同第92/08802号、同第91/00360号、および同第92/05793号、Tutt,et al.,1991,J.Immunol.147:60−69、米国特許第4,474,893号、同第4,714,681号、同第4,925,648号、同第5,573,920号、および同第5,601,819号、ならびにKostelny et al.,1992,J.Immunol.148:1547を参照すること)。
【0186】
分子を多機能的に標的にする多様な実施形態は、
図20に示されているこの非対称足場に基づいて設計され得る。
【0187】
二重特異的または多特異的抗体
多特異的ヘテロ多量体は、少なくとも2つの異なる抗原への結合特異性を有する抗体に基づいている。そのような分子は、通常、2つの抗原のみに結合するが(すなわち、二重特異的抗体、BsAb)、三重特異的抗体のような追加の特異性を有する抗体は、本発明に包含される。BsAbの例には、一方の腕が腫瘍細胞抗原に向けられ、他方の腕が細胞傷害性分子に向けられている、または両方の腕が2つの異なる腫瘍細胞抗原に向けられている、または両方の腕が2つの異なる可溶性リガンドに向けられている、または一方の腕が可溶性リガンドに向けられ、他方の腕が細胞表面受容体に向けられている、または両方の腕が、2つの異なる細胞表面受容体に向けられているものが含まれるが、これらに限定されない。二重特異的抗体を作製する方法は、当該技術において知られている。
【0188】
異なる手法に応じて、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体−抗原組み合わせ部位)は、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。融合は、少なくとも一部のヒンジ、CH2、およびCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインによるものであり得る。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNAが、別々の発現ベクターに挿入され、適切な宿主生物体に同時形質移入される。このことは、構築に使用される3つのポリペプチド鎖の等しくない比が最適な収量をもたらす場合、実施形態における3つのポリペプチドフラグメントの相互割合の調整に大きな柔軟性をもたらす。実施例1および表2を参照すること。しかし、等しい比の少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高い収量をもたらす場合、または比が特に有意ではない場合、2つまたは3つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を1つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0189】
二重特異的抗体には、架橋または「ヘテロ複合体」抗体が含まれる。例えば、ヘテロ複合体における一方の抗体は、アビジンに結合することができ、他方はビオチンに結合することができる。そのような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に向けて標的化するために(米国特許第4,676,980号)、ならびにHIV感染を治療するために(国際公開第91/00360号、同第92/200373号、およびヨーロッパ特許第03089号)、提案されている。ヘテロ複合体抗体は、任意の従来の架橋方法を使用して作製され得る。適切な架橋剤は、当該技術において良く知られており、多数の架橋技術と共に米国特許出第4,676,980号に開示されている。
【0190】
変種CH3ドメインを組み込んでいる2価を超える抗体、および得られる本発明のFcヘテロ二量体が考慮される。例えば、三重特異的抗体が調製され得る。例えば、Tutt et al.J.Immunol.147:60(1991)を参照すること。
【0191】
血清半減期
本発明の抗体は、15日を超える、20日を超える、25日を超える、30日を超える、35日を超える、40日を超える、45日を超える、2か月を超える、3か月を超える、4か月を超える、または5か月を超える、哺乳動物(例えば、ヒト)における半減期(例えば、血清半減期)を有するものも包含する。哺乳動物(例えば、ヒト)における本発明の抗体の増加した半減期は、哺乳動物における当該抗体または抗体フラグメントの高い血清力価をもたらし、したがって、当該抗体もしくは抗体フラグメントの投与頻度を低減する、および/または投与される当該抗体もしくは抗体フラグメントの濃度を低減する。増加したインビトロ半減期を有する抗体は、当業者に既知の技術により生成され得る。例えば、増加したインビボ半減期を有する抗体は、FcドメインとFcRn受容体との相互作用に関与することが同定されているアミノ酸残基の修飾(例えば、置換、欠失、または付加)により生成され得る(例えば、国際公開公報第97/34631号、同第04/029207号、米国特許第6,737,056号、および米国特許公開第2003/0190311号を参照すること)。
【0192】
治療抗体
ある特定の実施形態において、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖可変領域および変種CH3ドメインを含む変種Fcヘテロ二量体は、多特異的抗体であり、ヘテロ多量体は、免疫グロブリン軽鎖および免疫グロブリンCH1領域を欠いており、場合により免疫グロブリンCH2領域を欠いており(本明細書において、本発明の抗体と呼ばれる)、本発明の抗体は、目的の抗原に特異的に結合する。特に、本発明の抗体は、二重特異的抗体である。1つの実施形態において、本発明の抗体は、ポリペプチド抗原に特異的に結合する。別の実施形態において、本発明の抗体は、非ポリペプチド抗原に特異的に結合する。なお別の実施形態において、疾患または障害に罹患している哺乳動物への本発明の抗体の投与は、その哺乳動物に治療利益をもたらし得る。
【0193】
ALK受容体(プレイオトロフィン受容体)、プレイオトロフィン、KS1/4汎癌腫抗原;卵巣癌抗原(CA125);前立腺酸性ホスフェート;前立腺特異的抗原(PSA);黒色腫関連抗原p97;黒色腫抗原gp75;高分子量黒色腫抗原(HMW−MAA);前立腺特異的膜抗原;癌胎児性抗原(CEA);多形上皮ムチン抗原;ヒト乳脂肪球抗原;CEA、TAG−72、CO17−1A、GICA19−9、CTA−1、およびLEAのような直腸結腸腫瘍関連抗原;バーキットリンパ腫抗原38.13;CD19;ヒトBリンパ腫抗原CD20;CD33;ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2、およびガングリオシドGM3のような黒色腫特異的抗原;腫瘍特異的移植型細胞表面抗原(TSTA);T抗原、DNA腫瘍ウイルス、およびRNA腫瘍ウイルスのエンベロープ抗原を含むウイルス誘発性腫瘍抗原;結腸のCEA、5T4癌胎児性栄養芽細胞糖タンパク質、および膀胱腫瘍癌胎児性抗原のような癌胎児性抗原−アルファ−フェトプロテイン;ヒト肺癌抗原L6およびL20のような分化抗原;線維肉腫の抗原;ヒト白血病T細胞抗原Gp37;ネオ糖タンパク質;スフィンゴ脂質;EGFR(上皮増殖因子受容体)のような乳癌抗原;NY−BR−16;NY−BR−16およびHER2抗原(p185HER2);多形上皮ムチン(PEM);悪性ヒトリンパ球抗原APO−1;胎児の赤血球において見出されるI抗原のような分化抗原;成人の赤血球において見出される一次内胚葉I抗原;着床前胚;胃腺癌において見出されるI(Ma);乳房上皮において見出される M18、M39;骨髄細胞において見出されるSSEA−1;VEP8;VEP9;Myl;Va4−D5;結腸直腸癌において見出されるD
156−22;TRA−1−85(血液型H);精巣および卵巣癌において見出されるSCP−1;結腸腺癌において見出されるC14;肺腺癌において見出されるF3;胃癌において見出されるAH6;Yハプテン;胚性癌腫細胞において見出されるLey;TL5(血液型A);A431細胞において見出されるEGF受容体;膵癌において見出されるE
1シリーズ(血液型B);胚性癌腫細胞において見出されるFC10.2;胃腺癌抗原;腺癌において見出されるCO−514(血液型Lea);腺癌において見出されるNS−10;CO−43(血液型Leb);A431細胞のEGF受容体において見出されるG49;結腸腺癌において見出されるMH2(血液型ALeb/Ley);結腸癌において見出される 19.9;胃癌ムチン;骨髄細胞において見出されるT
5A
7;黒色腫において見出されるR
24;胚性癌腫において見出される4.2、G
D3、D1.1、OFA−1、G
M2、OFA−2、G
D2、およびM1:22:25:8、ならびに4〜8細胞期の胚において見出されるSSEA−3およびSSEA−4;皮膚T細胞リンパ腫抗原;MART−1抗原;Sialy Tn(STn)抗原;結腸癌抗原NY−CO−45;肺癌抗原NY−LU−12勇者A;腺癌抗原ART1;腫瘍随伴関連脳−精巣癌抗原(癌神経抗原MA2、腫瘍随伴性神経抗原);神経癌腹側抗原2(NOVA2);肝細胞癌抗原遺伝子520;TUMOR−ASSOCIATED ANTIGEN CO−029;腫瘍関連抗原MAGE−C1(癌/精巣抗原CT7)、MAGE−B1(MAGE−XP抗原)、MAGE−B2(DAM6)、MAGE−2、MAGE−4−a、MAGE−4−b、およびMAGE−X2;癌−精巣抗原(NY−EOS−1)、ならびに上記に列記されたポリペプチドの任意のフラグメントが含まれるが、これらに限定されない癌抗原に特異的結合する本発明の抗体も提供される。
【0194】
ある特定の実施形態において、本明細書に記載されるヘテロ多量体は、少なくとも1つの治療抗体の少なくとも1つのドメインと競合する。幾つかの実施形態において、治療抗体は癌標的抗原と結合する。一実施形態において、治療抗体は、アバゴボマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、アウログラブ、バピネオズマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ブリアキヌマブ、カナキヌマブ、カツマキソマブ、セルトリズマブペゴル、セツキシマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エファリズマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、ルミリキシマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ムロモナブ、ミコグラブ、ナタリズマブ、ニモツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、レスリズマブ、リツキシマブ、テプリズマブ、トシリズマブ/アトリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、Proxinium(商標)、Rencarex(商標)、ウステキヌマブ、ザルツムマブ、および任意の他の抗体からなる群から選択され得る。
【0195】
抗体誘導体
本発明の抗体には、修飾されている(すなわち、共有結合のような抗体への任意の種類の分子の共有結合により)誘導体が含まれる。例えば、限定するものではないが、抗体誘導体には、例えば、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロック基による誘導体化、タンパク質分解的切断、細胞リガンドまたは他のタンパク質への結合などにより修飾された抗体が含まれる。多数の化学修飾のいずれも、特定の化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成などが含まれるが、これらに限定されない既知の技術により実施され得る。加えて、誘導体は、1つ以上の非古典的アミノ酸を含有し得る。
【0196】
増加したインビボ半減期を有する抗体またはそのフラグメントは、高分子量ポリエチレングリコール(PEG)のようなポリマー分子を抗体または抗体フラグメントに結合することによって、生成され得る。PEGは、抗体もしくは抗体フラグメントのNもしくはC末端へのPEGの部位特異的複合体化、またはリシン残基に存在するイプシロン−アミノ基のいずれかを介して、多機能性リンカーを用いて、または用いることなく、当該抗体または抗体フラグメントに結合され得る。生物学的活性の最小限の損失をもたらす直鎖または分岐鎖ポリマー誘導体化が、使用される。複合体化の程度は、抗体へのPEG分子の適切な複合体化を確実にするため、SDS−PAGEおよび質量分析により密接にモニターされる。未反応PEGは、例えばサイズ排除またはイオン交換クロマトグラフィーにより、抗体−PEG複合体から分離され得る。
【0197】
更に、抗体は、インビボにおいてより安定した抗体もしくは抗体フラグメントを作製するため、またはインビボにおいてより長い半減期を有するため、アルブミンと複合体化され得る。技術は、当該技術において良く知られており、例えば、国際公開公報第93/15199号、同第93/15200号、および同第01/77137号、ならびにヨーロッパ特許第413,622号を参照すること。本発明は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、融合タンパク質、核酸分子、小分子、模倣剤、合成薬剤、無機分子、および有機分子が含まれるが、これらに限定されない1つ以上の部分に複合体化または融合した抗体またはそのフラグメントの使用を包含する。
【0198】
本発明は、融合タンパク質を生成するための、異種タンパク質またはポリペプチドに(またはそのフラグメントに、例えば、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも50個、少なくとも60個、少なくとも70個、少なくとも80個、少なくとも90個または少なくとも100個のアミノ酸のポリペプチドに)組み換え的に融合または化学的に複合体化した(共有および非共有複合体化の両方を含む)、抗体またはそのフラグメントの使用を包含する。融合は、必ずしも直接的である必要はなく、リンカー配列を介して生じ得る。例えば、抗体は、抗体を特定の細胞表面受容体に特異的な抗体と融合または複合体化させることにより、インビトロまたはインビボのいずれかにおいて、特定の細胞型に対して異種ポリペプチドを標的化するために使用され得る。異種ポリペプチドに融合または複合体化した抗体は、当該技術に既知の方法を使用するインビトロ免疫アッセイおよび精製方法にも使用され得る。例えば、国際公開公報第93/21232号、ヨーロッパ特許第439,095号、Naramura et al.,1994,Immunol.Lett.39:91−99、米国特許第5,474,981号、Gillies et al.,1992,PNAS89:1428−1432、およびFell et al.,1991,J.Immunol.146:2446−2452を参照すること。
【0199】
本発明は、抗体フラグメントに融合または複合体化した異種タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドを含む組成物を更に含む。例えば、異種ポリペプチドは、Fabフラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、F(ab)
2フラグメント、VHドメイン、VLドメイン、VH CDR、VL CDR、またはこれらのフラグメントに融合または複合体化し得る。ポリペプチドを抗体部分に融合または複合体化する方法は、当該技術において良く知られている。例えば、米国特許第5,336,603号、同第5,622,929号、同第5,359,046号、同第5,349,053号、同第5,447,851号、および同第5,112,946号、ヨーロッパ特許第307,434号および同第367,166号、国際公開公報第96/04388号および同第91/06570号、Ashkenazi et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:10535−10539、Zheng et al.,1995,J.Immunol.154:5590−5600、およびVil et al.,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:11337−11341を参照すること。
【0200】
例えば、抗原(例えば、上記)に特異的に結合する抗体の追加の融合タンパク質は、遺伝子シャフリング、モチーフシャフリング、エクソンシャフリング、および/またはコドンシャフリング(集合手に「DNAシャフリング」と呼ばれる)の技術によって生成され得る。DNAシャフリングは、本発明の抗体またはそのフラグメントの活性を変えるために用いることができる(例えば、高い親和性および低い解離速度を有する抗体またはそのフラグメント)。一般に、米国特許第5,605,793号、同第5,811,238号、同第5,830,721号、同第5,834,252号、および同第5,837,458号、ならびにPatten et al.,1997,Curr.Opinion Biotechnol.8:724−33、Harayama,1998,Trends Biotechnol.16(2):76−82、Hansson,etal.,1999,J.Mol.Biol.287:265−76、およびLorenzo and Blasco,1998,Biotechniques24(2):308−313を参照すること。抗体もしくはそのフラグメント、またはコードされた抗体もしくはそのフラグメントは、組み換えの前に、エラー−プローンPCR、ランダムヌクレオチド挿入、または他の方法によるランダム突然変異誘発に付されることより変えられ得る。抗体または抗体フラグメントをコードするポリヌクレオチドの、抗原に特異的に結合する1つ以上の部分は、1つ以上の異種分子の1つ以上の成分、モチーフ、セクション、一部、ドメイン、フラグメントなどと組み合わされ得る。
【0201】
薬剤複合体化
本発明は、治療剤または細胞毒素に複合体化した変種Fcヘテロ二量体またはそのフラグメントを含むヘテロ多量体の使用を更に包含する。
【0202】
抗体またはそのフラグメントは、細胞毒素、例えば細胞増殖抑制もしくは細胞破壊剤、治療剤、または放射性金属イオン、例えばアルファ−放射体のような治療部分と複合体化し得る。細胞毒素または細胞傷害剤には、細胞に有害な任意の薬剤が含まれる。例には、リボヌクレアーゼ、モノメチルアウリスタチンEおよびF、パクリタキセル、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、ピューロマイシン、エピルビシン、およびシクロホスファミド、ならびにこれらの類縁体または相同体が含まれる。治療剤には、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキセート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−フルオロウラシルデカルバジン)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパクロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BCNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびシスジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(旧ダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(旧アクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、ならびに有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)が含まれるが、これらに限定されない。治療部分のより広範囲なリストは、PCT公開公報第03/075957号において見出され得る。
【0203】
抗体をポリペプチド部分に融合または複合体化する方法は、当該技術において知られている。例えば、米国特許第5,336,603号、同第5,622,929号、同第5,359,046号、同第5,349,053号、同第5,447,851号、および同第5,112,946号、ヨーロッパ特許第307,434号、ヨーロッパ特許第367,166号、PCT国際公開公報第96/04388号および同第91/06570号、Ashkenazi et al.,1991,PNAS USA88:10535、Zheng et al.,1995,J.Immunol.154:5590、およびVil et al.,1992,PNAS USA89:11337を参照すること。部分への抗体の融合は、必ずしも直接的である必要はなく、リンカー配列を介して生じ得る。そのようなリンカー分子は、当該技術において一般に知られており、Denardo et al.,1998,Clin Cancer Res 4:2483、Peterson et al.,1999,Bioconjug Chem 10:553、Zimmerman et al.,1999,Nucl Med Biol 26:943、Garnett,2002,Adv Drug Deliv Rev 53:171に記載されている。
【0204】
組み換え発現
ヘテロ多量体、その誘導体、類縁体、またはフラグメント(例えば、本発明の抗体または融合タンパク質)は、ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターの構築を必要とする。ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチドが得られると、ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)を産生するベクターは、当該技術において周知の技術を使用して組み換えDNA技術により産生され得る。したがって、ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)コードヌクレオチド配列を含有するポリヌクレオチドを発現するタンパク質を調製する方法が、本明細書に記載される。当該技術において周知の方法を使用して、ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)コード配列、ならびに適切な転写および翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築することができる。これらの方法には、例えば、インビトロ組み換えDNA技術、合成技術、およびインビボ遺伝子組み換えが含まれる。したがって本発明は、プロモーターに機能的に結合している、本発明のヘテロ多量体をコードするヌクレオチド配列を含む複製可能ベクターを提供する。そのようなベクターは、抗体分子の定常領域(例えば、国際公開公報第86/05807号、国際公開公報第89/01036号、および米国特許第5,122,464号を参照すること、ならびに抗体の可変ドメインをコードするヌクレオチド配列を含み得る、あるいはFc変種を生成するポリペプチドは、完全長抗体鎖(例えば、重もしくは軽鎖)を発現するため、そのようなベクターに、または非抗体誘導ポリペプチドと、少なくとも1つの変種CH3ドメインを組み込むFc領域との融合体を含む完全Fc変種に、クローンされ得る。
【0205】
発現ベクターは、従来の技術により宿主細胞に移動され、次に形質移入細胞は、従来の技術により培養されて、本発明のFc変種を産生する。したがって、本発明は、異種プロモーターに機能的に結合している、本発明のヘテロ多量体をコードするポリヌクレオチドを含有する宿主を含む。二本鎖抗体を含むヘテロ多量体の発現におけるある特定の実施形態において、重と軽の両方の鎖をコードするベクターは、全免疫グロブリン分子の発現のために、宿主細胞において同時発現され得、下記に詳述される。
【0206】
多様な宿主発現ベクター系を利用して、本発明のヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質分子)を発現することができる(例えば、米国特許第5,807,715号を参照すること)。そのような宿主発現系は、目的のコード配列が産生され、続いて精製され得るビヒクルを表すが、適切なヌクレオチドコード配列により形質転換または形質移入されたとき、その場で本発明のヘテロ多量体を発現し得る細胞も表す。これらには、ヘテロ多量体をコードする配列を含有する組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA、もしくはコスミドDNA発現ベクターにより形質転換された細菌(例えば、大腸菌および枯草菌)のような微生物;Fc変種コード配列を含有する組み換え酵母発現ベクターにより形質転換された酵母(例えば、Saccharomyces Pichia(サッカロミセス・ピキア));ヘテロ多量体コード配列を含有する組み換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)により感染された昆虫細胞系;Fc可変コード配列を含有する、組み換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)により感染された、もしくは組み換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)により形質転換された、植物細胞系;または哺乳類細胞のゲノムから誘導されたプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)、もしくは哺乳類ウイルスから誘導されたプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を含有する組み換え発現構築物を持つ哺乳類細胞系(例えば、COS、CHO、BHK、293、NS0、および3T3細胞)が含まれるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、大腸菌のような細菌細胞または真核生物細胞は、組み換え抗体または融合タンパク質分子であるヘテロ多量体の発現に使用される。例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)のような哺乳類細胞は、ヒトサイトメガロウイルスからの主要中間体初期遺伝子プロモーターエレメントのようなベクターと一緒になって、抗体の有効な発現系である(Foecking et al.,1986,Gene 45:101およびCockett et al.,1990,Bio/Technology 8:2)。ある特定の実施形態において、本発明のFc変種(例えば、抗体または融合タンパク質)をコードするヌクレオチド配列の発現は、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、または組織特異的プロモーターにより調節される。
【0207】
細菌系では、多数の発現ベクターが、発現されるヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)に意図される使用に応じて有利に選択され得る。例えば、大量のそのようなタンパク質がFc変種の薬学的組成物の生成のために産生される場合、容易に精製される高レベルの融合タンパク質産物の発現を指示するベクターが、望ましいことがある。そのようなベクターには、lac−Z融合タンパク質が産生されるように、ヘテロ多量体コード配列がlac Zコード領域のフレーム内のベクターと個別に連結され得る大腸菌発現ベクターpUR278(Ruther et al.,1983,EMBO 12:1791)、pINベクター(Inouye & Inouye,1985,Nucleic Acids Res.13:3101−3109;Van Heeke & Schuster,1989,J.Biol.Chem.24:5503−5509)などが含まれるが、これらに限定されない。pGEXベクターも、グルタチオン5−トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として外来ポリペプチドを発現するために使用され得る。一般に、そのような融合タンパク質は、可溶性であり、吸着およびグルタチオンアガロースビーズのマトリックスへの結合により、続いて遊離グルタチオンの存在下での溶出により、溶解細胞から容易に精製され得る。pGEXベクターは、トロンビンまたは第Xa因子プロテアーゼ切断部位を含むように設計され、これにより、クローンされた標的遺伝子産物がGST部分から放出され得る。
【0208】
挿入系では、オートグラファカリフォルニアニュークレア(Autographa californica nuclear)多角体病ウイルス(AcNPV)が、外来遺伝子を発現するために使用される。このウイルスは、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞において増殖する。ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)コード配列は、ウイルスの非必須領域(例えば、ポリヘドリン遺伝子)に個別にクローンされ、AcNPVプロモーター(例えば、ポリヘドリンプロモーター)の制御下に置かれる。
【0209】
哺乳類宿主細胞では、多数のウイルスに基づいた発現系が利用され得る。アデノウイルスが発現ベクターとして使用される場合、目的のヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)コード配列は、アデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例えば後期プロモーター、および三者間リーダー配列に連結され得る。次にこのキメラ遺伝子は、インビトロまたはインビボ組み換えによりアデノウイルスゲノムに挿入され得る。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域E1またはE3)への挿入は、感染された宿主において、生存可能であり、かつヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)を発現することができる組み換えウイルスをもたらす(例えば、Logan & Shenk,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA81:355−359を参照すること)。特定の開始シグナルは、挿入された抗体コード配列の効率的な翻訳のためにも必要であり得る。これらのシグナルには、ATG開始コドンおよび隣接配列が含まれる。さらに、開始コドンは、挿入物全体の翻訳を確実にするため、所望のコード配列のリーディングフレームと位相があっていなければならない。これらの外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方の、多様な由来のものであり得る。発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどを含めることにより増強され得る。(例えば、Bittner et al.,1987,Methods in Enzymol.153:516−544を参照すること)。
【0210】
ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)の発現は、当該技術において癌値の任意のプロモーターまたはエンハンサーエレメントにより制御され得る。ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)をコードする遺伝子の発現を制御するために使用され得る、プロモーターには、SV40初期プロモーター領域 (Bernoist and Chambon,1981,Nature 290:304−310)、ラウス肉腫ウイルスの3′長末端反復に含有されるプロモーター (Yamamoto,et al.,1980,Cell22:787−797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター (Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1441−1445)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brinster et al.,1982,Nature 296:39−42)、テトラサイクリン(Tet)プロモーター(Gossen et al.,1995,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 89:5547−5551);β−ラクタマーゼプロモーター(Villa−Kamaroff et al,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.75:3727−3731)またはtacプロモーター(DeBoer et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:21−25;“Useful proteins from recombinant bacteria”in Scientific American,1980,242:74−94も参照すること)のような原核生物発現ベクター;ノパリンシンセターゼプロモーター領域(Herrera−Estrella et al.,Nature 303:209−213)またはカリフラワーモザイクウイルス35S RNAプロモーター(Gardner et al.,1981,Nucl.Acids Res.9:2871)および光合成酵素リブロース二リン酸カルボキシラーゼのプロモーター(Herrera−Estrella et al.,1984,Nature 310:115−120)を含む植物発現ベクター;Gal4プロモーター、ADC(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモーター、PGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーター、アルカリホスファターゼプロモーターのような酵母または他の真菌からのプロモーターエレメント、ならびに、組織特異性を示し、かつ遺伝子導入動物に利用されている以下の動物転写制御領域:膵腺房細胞において活性なエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al.,1984,Cell 38:639−646;Ornitz et al.,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.50:399−409;MacDonald,1987,Hepatology 7:425−515)、膵ベータ細胞において活性なインスリン遺伝子制御領域(Hanahan,1985,Nature 315:115−122)、リンパ球細胞において活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al.,1984,Cell 38:647−658;Adames et al.,1985,Nature 318:533−538;Alexander et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7:1436−1444)、精巣細胞、乳腺細胞、リンパ球細胞、およびマスト細胞において活性なマウス乳癌ウイルス制御領域(Leder et al.,1986,Cell 45:485−495)、肝臓において活性なアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al.,1987,Genes and Devel.1:268−276)、肝臓において活性なアルファ−フェトプロテイン遺伝子制御領域 (Krumlauf et al.,1985,Mol.Cell.Biol.5:1639−1648;Hammer et al.,1987,Science 235:53−58;肝臓において活性なアルファ1−アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al.,1987,Genes and Devel.1:161−171)、骨髄細胞において活性なベータ−グロビン遺伝子制御領域(Mogram et al.,1985,Nature 315:338−340;Kollias et al.,1986,Cell 46:89−94;脳の希突起神経膠細胞において活性なミエリン塩基性タンパク質制御領域(Readhead et al.,1987,Cell 48:703−712)、骨格筋において活性なミエリン軽鎖2遺伝子制御領域(Sani,1985,Nature 314:283−286)、神経細胞において活性な神経特異的エノラーセ(NSE)(Morelli et al.,1999,Gen.Virol.80:571−83)、神経細胞において活性な脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子制御領域(Tabuchi et al.,1998,Biochem.Biophysic.Res.Com.253:818−823)、星状膠細胞において活性なグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター(Gomes et al.,1999,Braz J Med Biol Res 32(5):619−631;Morelli et al.,1999,Gen.Virol.80:571−83)、および視床下部において活性な性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al.,1986,Science 234:1372−1378)からのプロモーターエレメントが含まれるが、これらに限定されない。
【0211】
本発明のヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)をコードする遺伝子の挿入物を含有する発現ベクターは、3つの一般的な手法の(a)核酸ハイブリッド形成、(b)「マーカー」遺伝子機能の存在または不在、および(c)挿入配列の発現により同定され得る。第1の手法では、発現ベクター中のペプチド、ポリペプチド、タンパク質、または融合タンパク質をコードする遺伝子の存在は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、または融合タンパク質をそれぞれコードする挿入遺伝子と相同的である配列を含むプローブの使用による核酸ハイブリッド形成により検出され得る。第2の手法では、組み換えベクター/宿主系は、ベクター中の抗体または融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の挿入により引き起こされる特定の「マーカー」遺伝子機能(例えば、チミジンキナーゼ活性、抗生物質に対する抵抗、形質転換表現型、バキュロウイルスにおける包埋体の形成など)の存在または不在に基づいて同定および選択され得る。例えば、ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)をコードするヌクレオチド配列が、ベクターのマーカー遺伝子配列内に挿入される場合、抗体または融合タンパク質挿入物をコードする遺伝子を含有する組み換え体は、マーカー遺伝子機能の不在により同定され得る。第3の手法では、組み換え発現ベクターは、組み換え体により発現されている遺伝子産物(例えば、抗体または融合タンパク質)をアッセイすることにより同定され得る。そのようなアッセイは、例えば、インビトロアッセイ系における融合タンパク質の物理的または機能的特性、例えば抗生理活性分子抗体との結合に基づくことができる。
【0212】
加えて、宿主細胞株は、挿入配列の発現を調節する、または望ましい特定の様式で遺伝子産物を修飾およびプロセスするように選択され得る。特定のプロモーターによる発現は、特定のインデューサーの存在により高められ得、このように遺伝子操作融合タンパク質の発現が制御され得る。更に、異なる宿主細胞は、翻訳および後翻訳、ならびに修飾(例えば、タンパク質のグリコシル化、リン酸化)についての特徴および特定の機構を有する。適切な細胞系統または宿主系は、発現された外来性タンパク質の所望の修飾およびプロセシングを確実にするために選択され得る。例えば、細菌系における発現は、非グリコシル化産物を産生し、酵母における発現は、グリコシル化産物を産生する。遺伝子産物の一次転写物の正確なプロセシング(例えば、グリコシル化およびリン酸化)の細胞機構を有する真核宿主細胞が、使用され得る。そのような哺乳類宿主細胞には、CHO、VERY、BHK、Hela、COS、MDCK、293、3T3、WI38、NS0、特に、例えばSK−N−AS、SK−N−FI、SK−N−DZヒト神経芽細胞腫のような神経細胞(Sugimoto et al.,1984,J.Natl.Cancer Inst.73:51−57)、SK−N−SHヒト神経芽細胞腫(Biochim.Biophys. Acta,1982,704:450−460)、Daoyヒト小脳髄芽細胞腫(He et al.,1992,Cancer Res.52:1144−1148)DBTRG−05MG神経膠芽腫細胞(Kruse et al.,1992,In Vitro Cell.Dev.Biol.28A:609−614)、IMR−32ヒト神経芽細胞腫(Cancer Res.,1970,30:2110−2118)、1321N1ヒト星状膠細胞腫(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1977,74:4816)、MOG−G−CCMヒト星状細胞腫(Br.J.Cancer,1984,49:269)、U87MGヒト神経膠芽腫−星状細胞腫(Acta Pathol.Microbiol.Scand.,1968,74:465−486)、A172ヒト神経膠芽腫(Olopade et al.,1992,Cancer Res.52:2523−2529)、C6ラットグリオーマ細胞(Benda et al.,1968,Science 161:370−371)、Neuro−2aマウス神経芽細胞腫(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1970,65:129−136)、NB41A3マウス神経芽細胞腫(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1962,48:1184−1190)、SCPヒツジ脈絡叢(Bolin et al.,1994,J.Virol.Methods 48:211−221)、G355−5、PG−4ネコ正常星状膠細胞(Haapala et al.,1985,J.Virol.53:827−833)、Mpfフェレット脳(Trowbridge et al.,1982,In Vitro 18:952−960)、ならびに、例えばCRL7030およびHs578Bstのような、例えばCTX TNA2ラット正常脳皮質(Radany et al.,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6467−6471)のような正常な細胞系統が含まれるが、これらに限定されない。更に、異なるベクター/発現系は、異なる程度でプロセシング反応を実施し得る。
【0213】
組み換えタンパク質の長期で高収量の産生のためには、安定した発現が多くの場合に好ましい。例えば、本発明のヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)を安定して発現する細胞系統は、操作され得る。ウイルス由来の複製を含有する発現ベクターを使用するよりも、宿主細胞を、適切な発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)および選択可能なマーカーにより制御されたDNAにより形質転換することができる。外来性DNAの導入の後、操作細胞は、濃縮培地において1〜2日間増殖することが可能であり得、次に選択培地に交換される。組み換えプラスミドにおける選択可能なマーカーは、選択に対して抵抗性を付与し、細胞がプラスミドを染色体に安定して組み込み、増殖して、次には細胞系統にクローンおよび展開され得る増殖巣を形成することを可能にする。この方法は、抗原に特異的に結合するヘテロ多量体を発現する細胞系統を操作するために有利に使用され得る。そのような操作細胞系統は、抗原に特異的に結合するヘテロ多量体(例えば、ポリペプチドまたは融合タンパク質)の活性に影響を与える化合物をスクリーンおよび評価することに特に有用であり得る。
【0214】
単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al.,1977,Cell 11:223)、ヒポキサンチン・グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska & Szybalski,1962,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 48:2026)が含まれるが、これらに限定されない多数の選択系を使用することができ、アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al.,1980,Cell 22:817)遺伝子をtk−、hgprt−、またはaprt−細胞にそれぞれ用いることができる。また、代謝拮抗物質抵抗性は、メトトレキセートに対して抵抗性を付与するdhfr(Wigler et al.,1980,Natl.Acad.Sci.USA 77:3567;O′Hare et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1527)、ミコフェノール酸に対して抵抗性を付与するgpt(Mulligan & Berg,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2072)、アミノグリコシドG−418に対して抵抗性を付与するneo(Colberre−Garapin et al.,1981,J.Mol.Biol.150:1)、およびハイグロマイシンに対して抵抗性を付与するhygro(Santerre et al.,1984,Gene 30:147)遺伝子を選択の基礎として使用することができる。
【0215】
精製
本発明のヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)が組み換え発現により産生されると、タンパク質の精製について任意の既知の方法により、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、特にプロテインAの後での特定の抗原への親和性によるアフィニティー、およびサイジングカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差溶解度、またはタンパク質の精製における任意の他の標準的な技術により精製され得る。
【0216】
ヘテロ多量体は、分泌ポリペプチドとして培養培地から一般に回収されるが、分泌シグナルなしで直接産生されたときは、宿主細胞溶解産物から回収され得る。ヘテロ多量体が膜結合している場合、これを適切な洗剤溶液(例えば、トリトンX100)の使用により膜から遊離させることができる。
【0217】
ヘテロ多量体が、ヒト由来以外の組み換え細胞から産生される場合、ヒト由来のタンパク質またはポリペプチドを完全に含有していない。しかし、組み換え細胞タンパク質またはポリペプチドからヘテロ多量体を精製して、ヘテロ多量体として実質的に均質である調製物を得ることが必要である。第1のステップとして、培養培地または溶解産物は、粒状細胞片を除去するため、通常、遠心分離される。
【0218】
抗体定常ドメインを有するヘテロ多量体は、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーにより都合良く精製され得、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技術である。イオン交換カラムによる分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロースのクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)、クロマトフォーカシング、SDS−PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿のようなタンパク質精製の他の技術も、回収されるポリペプチドに応じて利用可能である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの安定性は、使用される免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプによって左右される。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、またはγ4重鎖に基づいている免疫グロブリンFc領域を精製するために使用され得る(Lindmark et al.,J.Immunol.Meth.62:1−13(1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプおよびヒトγ3に推奨されている(Guss et al.,EMBO J.5:15671575(1986))。アフィニティーリガンドが結合しているマトリックスは、ほとんどの場合にアガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御孔ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンのような機械的に安定したマトリックスは、アガロースにより達成され得るより速い流速および短いプロセシング時間を可能にする。イムノアドヘシンをプロテインAまたはGアフィニティーカラムに結合する条件は、Fcドメインの特徴、すなわち、その種およびアイソタイプによって全面的に決まる。一般に、正確なリガンドが選択される場合、効率的な結合が無条件培養液から直接生じる。結合した変種Fcヘテロ二量体は、酸性pH(3.0以上)または弱カオトロピック塩を含有する中性pHの緩衝液のいずれかにより効率的に溶出され得る。アフィニティークロマトグラフィーステップは、純度が>95%の変種Fcヘテロ二量体調製物をもたらし得る。
【0219】
ヘテロ多量体(例えば、抗体または融合タンパク質)の発現レベルは、ベクター増幅により増加され得る(概説には、Bebbington and Hentschel,The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells in DNA cloning,Vol.3.(Academic Press,New York,1987)を参照すること)。例えば、抗体または融合タンパク質を発現するベクター系におけるマーカーが増幅されるとき、宿主細胞の培養物に存在する阻害剤のレベルの増加は、マーカー遺伝子のコピー数を増加する。増幅領域が抗体遺伝子と会合するので、抗体または融合タンパク質の酸性も増加する(Crouse et al.,1983,Mol.Cell.Biol.3:257)。
【0220】
特徴決定および機能アッセイ
本発明のFc変種(例えば、抗体または融合タンパク質)は、多様な方法で特徴決定され得る。1つの実施形態において、変種Fcヘテロ二量体の純度は、SDS−PAGEゲル、ウエスタンブロット、密度測定、または質量分析が含まれるが、これらに限定されない当該技術に周知の技術を使用して評価される。タンパク質安定性は、サイズ排除クロマトグラフィー、紫外可視およびCDスペクトル測定、質量分析、示差光散乱、ベンチトップ安定性アッセイ、他の特徴決定技術と結合した凍結融解、示差走査熱量測定、示差走査蛍光定量、疎水性相互作用クロマトグラフィー、等電点電気泳動、受容体結合アッセイ、またはタンパク質相対発現レベルであるが、これらの限定されない一連の技術を使用して特徴決定され得る。例示的な実施形態において、変種Fcヘテロ二量体の安定性は、示差走査熱量測定または示差走査蛍光定量のような当該技術に周知の技術を使用して野生型CH3ドメインと比較した、変種CH3ドメインの融解温度により評価される。
【0221】
本発明のFc変種は、リガンド(例えば、FcγRIIIA、FcγRIIB、C1q)に特異的に結合する能力についてもアッセイされ得る。そのようなアッセイは、溶液(例えば、Houghten,Bio/Techniques,13:412−421,1992)、ビーズ(Lam,Nature,354:82−84,1991、チップ(Fodor,Nature,364:555−556,1993)、細菌(米国特許第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:1865−1869,1992)、またはファージ(Scott and Smith,Science,249:386−390,1990;Devlin,Science,249:404−406,1990;Cwirla et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:6378−6382,1990、およびFelici,J.Mol.Biol.,222:301−310,1991)において実施され得る。リガンド(例えば、FcγRIIIA、FcγRIIB、C1q、または抗原)に特異的に結合することが同定されている分子は、次にリガンドへの親和性についてアッセイされ得る。
【0222】
本発明のFc変種は、当該技術に既知の任意の方法により、抗原(例えば、癌抗原および他の抗原との交差反応性)、またはリガンド(例えばFcγR)のような分子への特異的結合についてアッセイされ得る。特異的結合および公差反応性を分析するために使用され得るイムノアッセイには、幾つか挙げると、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降素反応、ゲル核酸沈降素反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイのような技術を使用する競合および非競合アッセイ系が含まれるが、これらに限定されない。そのようなアッセイは、日常的であり、当該技術において良く知られている(例えば、Ausubel et al.,eds,1994,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley & Sons,Inc.New Yorkを参照すること)。
【0223】
抗原またはリガンド(例えば、FcγR)のような分子への本発明のFc変種の結合親和性、および相互作用のオフレートは、競合結合アッセイにより決定され得る。競合結合アッセイの一例は、FcγRのような標識リガンド(例えば、3Hまたは125Iを、FcγRのような非標識リガンドの増加量の存在下で目的の分子(例えば、本発明のFc変種)と共にインキュベートすること、および標識リガンドに結合した分子を検出することを含む。リガンドへの本発明の分子の親和性、および結合オフレートは、スキャッチャード分析により飽和データから決定され得る。
【0224】
親和性成熟
当該技術において知られているように、単一ドメイン抗原結合構築物が同定され、標的抗原への親和性が測定されると、必要であれば、その標的抗原への単一ドメイン抗原結合構築物の親和性は、当該技術に既知の方法による親和性成熟により改善され得る。抗体の標的抗原の結晶構造が利用可能な抗原結合ドメインの親和性成熟における1つの例示的な方法が、以下に記載される。抗原抗体複合体の構造がモデル形成のために使用される。分子動力学(MD)を用いて、水性環境におけるWT複合体の無傷の動力学的性質を評価することができる。平均場およびデッドエンド排除方法を柔軟性主鎖と共に使用して、スクリーンされる突然変異体のモデル構造を最適化および調製することができる。詰め込みの後、接触密度、衝突スコア、疎水性、および静電気を含む多数の特徴がスコア付けされる。一般化されたBorn法は、溶媒条件の作用を正確にモデル形成すること、およびタンパク質における特定の位置の突然変異後の、代替残基型との自由エネルギーの差を計算することを可能にする。接触密度および衝突スコアは、有効なタンパク質詰め込みの重要な態様である相補性の測度を提供する。スクリーニング手順は、知識ベースポテンシャル、ならびに対毎の残基相互作用エネルギーおよびエントロピー計算に依存するカップリング分析スキームを用いる。
【0225】
Fc変種の動態パラメーターも、当該技術に既知の任意の表面プラズモン共鳴(SPR)に基づいたアッセイ(例えば、BIAcore動態分析)の使用により決定され得る。SPRに基づいた技術の概説には、Mullet et al.,2000,Methods 22:77−91;Dong et al.,2002,Review in Mol.Biotech.,82:303−23;Fivash et al.,1998,Current Opinion in Biotechnology 9:97−101;Rich et al.,2000,Current Opinion in Biotechnology 11:54−61を参照すること。加えて、米国特許第6,373,577号、同第6,289,286号、同第5,322,798号、同第5,341,215号、同第6,268,125号に記載されているタンパク質間相互作用を測定する任意のSPR器機およびSPRに基づいた方法が、本発明の方法に考慮される。
【0226】
当業者に既知の任意の技術を使用する蛍光標識細胞選別(FACS)は、細胞表面に発現した分子へのFc変種(例えば、FcγRIIIA、FcγRIIB)の結合の特徴決定に使用され得る。流動選別機は、ライブラリー挿入物を含有する大量の個別の細胞を素早く検査することができる(例えば、1時間あたり10〜1億個の細胞)(Shapiro et al.,Practical Flow,Cytometry,1995)。生体細胞を選別および検査するフローサイトメーターは、当該技術において良く知られている。既知のフローサイトメーターは、例えば、米国特許4,347,935号、同第5,464,581号、同第5,483,469号、同第5,602,039号、同第5,643,796号、および同第6,211,477号に記載されている。他の既知のフローサイトメーターは、Becton Dickinson and Companyにより製造されたFACS Vantage(商標)システム、およびUnion Biometricaにより製造されたCOPAS(商標)システムである。
【0227】
本発明のFc変種は、FcγR仲介エフェクター細胞機能を仲介する能力によって特徴決定され得る。アッセイされ得るエフェクター細胞機能の例には、抗体依存性細胞仲介細胞傷害性(ADCC)、食菌作用、オプソニン化、オプソニン化貪食作用、C1q結合、および補体依存性細胞障害性(CDC)が含まれるが、これらに限定されない。エフェクター細胞機能を決定する当業者に既知の任意の細胞に基づいた、または細胞無含有アッセイを使用することができる(エフェクター細胞アッセイには、Perussia et al.,2000,Methods Mol.Biol.121:179−92;Baggiolini et al.,1998 Experientia,44(10):841−8;Lehmann et al.,2000 J.Immunol.Methods,243(1−2):229−42;Brown E J.1994,Methods Cell Biol.,45:147−64;Munn et al.,1990 J.Exp.Med.,172:231−237,Abdul−Majid et al.,2002 Scand.J.Immunol.55:70−81;Ding et al.,1998,Immunity 8:403−411を参照すること)。
【0228】
特に、本発明のFc変種は、当業者に既知の任意の標準的な方法の使用により、エフェクター細胞(例えば、ナチュラルキラー細胞)におけるFcγR仲介ADCC活性についてアッセイされ得る(例えば、Perussia et al.,2000,Methods Mol.Biol.121:179−92を参照すること)。本発明の分子のADCC活性を決定する例示的なアッセイは、標的細胞を[51Cr]Na
2CrO
4(この細胞膜浸透性分子は、細胞質タンパク質に結合するので標識に一般的に使用されており、遅い動態で細胞から自然放出されるが、標的細胞の壊死の後では大量に放出される)により標識すること、標的細胞を本発明のFc変種でオプソニン化すること、オプソニン化された放射標識標的細胞をマイクロタイタープレートにおいて標的細胞とエフェクター細胞の適切な比によりエフェクターと組み合わせること、細胞の混合物を37℃で16〜18時間インキュベートすること、上澄みを収集すること、および放射能を分析することから構成される、51Cr放出アッセイに基づいている。次に、本発明の分子細胞傷害性は、例えば以下の式:溶解%=(実験cpm−標的漏出cpm)/(洗剤溶解cpm−標的漏出cpm)×100%を使用して決定され得る。あるいは、溶解%=(ADCC−AICC)/(最大放出−自然放出)である。特異的溶解は、式:特異的溶解=本発明の分子による溶解%−本発明の分子の不在下での溶解%を使用して計算され得る。グラフは、標的エフェクター細胞比また抗体濃度を変えることにより生成され得る。
【0229】
C1qに結合し、補体依存性細胞障害性(CDC)を仲介するFc変種の能力を特徴決定する方法は、当該技術において良く知られている。例えば、C1q結合を決定するために、C1q結合ELISAを実施することができる。例示的なアッセイには、以下が含まれ得る。アッセイプレートを、ポリペプチド変種または被覆緩衝液中の出発ポリペプチド(対照)により4Cで一晩被覆することができる。次にプレートを洗浄し、ブロックすることができる。洗浄した後、ヒトC1qのアリコートを各ウエルに加え、室温で2時間インキュベートすることができる。更に洗浄した後、100uLのヒツジ抗補体C1qペルオキシダーゼ結合抗体を各ウエルに加え、室温で1時間インキュベートすることができる。再びプレートを緩衝液で洗浄することができ、100ulのOPD(O−フェニレンジアミンジヒドロクロリド(Sigma))含有基質緩衝液を各ウエルに加えることができる。黄色の出現により観察される酸化反応を、30分間進行させ、100ulの4.5NH2 SO4の添加により停止させることができる。次に吸光度を(492〜405)nmで読み取ることができる。
【0230】
補体活性化を評価するために、補体依存性細胞障害性(CDC)アッセイを実施することができる(例えば、Gazzano−Santoro et al.,1996,J.Immunol.Methods 202:163に記載されている)。簡潔には、多様な濃度のFc変種およびヒト補体を緩衝剤により希釈することができる。Fc変種が結合する抗体を発現する細胞を、約1×106細胞/mlの濃度に希釈することができる。Fc変種、希釈ヒト補体、および抗体を発現している細胞の混合物を、平底組織培養96ウエルプレートに加え、37Cおよび5%CO2で2時間インキュベートして、補体仲介細胞溶解を促進することができる。次に50uLのアラマーブルー(Accumed International)を各ウエルに加え、37Cで一晩インキュベートすることができる。吸光度は、530nm nの励起および590nmの発光により96ウエル蛍光光度計を使用して測定される。結果を相対蛍光単位(RFU)により表すことができる。試料濃度を標準曲線から計算することができ、匹敵する分子(すなわち、非修飾または野生型CH3ドメインを有するFc領域を含む分子)と比べた活性率が、目的のFc変種について報告される。
【0231】
補体アッセイは、モルモット、ウサギ、またはヒト血清により実施され得る。標的細胞の補体溶解は、Korzeniewski et al.,1983,Immunol.Methods 64(3):313−20、およびDecker et al.,1988,J.Immunol Methods 115(1):61−9に記載されているように、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)のような細胞内酵素の放出、または標的細胞が標識されるユーロピウム、クロム51、もしくはインジウム111のような細胞内標識の放出をモニターすることによって検出され得る。
【0232】
薬物動態安定性
ある特定の実施形態において、本明細書において提供されるヘテロ多量体は、市販の治療抗体に匹敵する薬物動態(PK)またはインビボ安定性を示す。1つの実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、血清濃度、t1/2、ベータ半減期、および/またはCLに関して既知の治療抗体と類似したPK特性を示す。
【0233】
幾つかの実施形態において、新生児Fc受容体(FcRn)による取り込みのような能動輸送過程も、結合タンパク質の間の抗体の体内分布に対して影響を与える。1つの実施形態において、ヘテロ多量体は、市販の治療抗体と比較して類似した親和性でFcRnに結合する。
【0234】
ヒト化単一ドメイン抗原結合構築物
幾つかの実施形態において、例えば、単一ドメイン抗体結合構築物がラクダ科動物またはサメから得られる場合、本明細書に記載されているヘテロ多量体に使用される前に、単一ドメイン抗原結合構築物をヒト化する必要があり得る。非ヒト抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小限の配列を含有するキメラ抗体である。大部分の場合において、ヒト化抗体は、受給体の超可変領域における残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類のような非ヒト種(供与体の抗体)の超可変領域の残基に代えられているヒト免疫グロブリン(受給体の抗体)である。幾つかの場合において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)の残基は、対応する非ヒト残基に代えられている。更に、ヒト化抗体は、受給体の抗体または供与体の抗体において見出されない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体性能を更に洗練するために実行される。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインを実質的に全て含み、全てまた実質的に全ての超可変ループが非ヒト免疫グロブリンに対応し、全てまたは実質的に全てのFRがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は、場合により、典型的にはヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分も含む。更なる詳細は、Jones et al.,Nature 321:522−525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323−329(1988)、およびPresta, Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596(1992)を参照すること。
【0235】
治療方法
本発明は、本発明の1つ以上のヘテロ多量体(例えば、抗体)を、疾患、障害、または感染に関連する1つ以上の症状を予防、治療、または改善するため、動物、特に哺乳動物、とりわけヒトに投与することを包含する。
【0236】
1つの実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、Fcエフェクター機能活性を介して治療効果を発揮する。1つの実施形態において、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、細胞傷害性薬剤分子に複合体化し、標的細胞へのヘテロ多量体および細胞傷害性薬剤分子の内部移行を介して治療効果を発揮する。
【0237】
1つの実施形態において、ヘテロ多量体は、細菌または真菌のような病原性生物の感染を治療するために使用される。
【0238】
本発明のヘテロ多量体は、エフェクター細胞機能(例えば、ADCC、CDC)の効力の変更が望ましい場合、疾患または障害の治療または予防に特に有用である。ヘテロ多量体およびその組成物は、原発性または転移性の新生物性疾患(すなわち、癌)および感染性疾患の治療または予防に特に有用である。本発明の分子は、当該技術に既知である、または本明細書に記載されている薬学的に許容される組成物により提供される。下記に詳述されるように、本発明の分子は、癌(特に、受動的免疫療法において)、自己免疫性疾患、炎症性障害、または感染性疾患の治療または予防の方法に使用され得る。
【0239】
本発明のヘテロ多量体は、また、癌、自己免疫性疾患、炎症性障害、または感染性疾患の治療または予防のため、当該技術に既知の他の治療剤との組み合わせにより有利に利用され得る。ある特定の実施形態において、本発明のヘテロ多量体は、例えば、分子と相互作用するエフェクター細胞の数を増加するため、および免疫反応を増大するために役立つモノクローナルもしくはキメラ抗体、リンホカイン、または造血成長因子(例えば、IL−2、IL−3、およびIL−7)と組み合わせて使用され得る。本発明のヘテロ多量体は、また、例えば抗癌剤、抗炎症剤、または抗ウイルス剤のような疾患、障害、または感染の治療に使用される1つ以上の薬剤と組み合わせて有利に利用され得る。
【0240】
したがって、本発明は、本発明の1つ以上のヘテロ多量体を投与することによって、癌および関連状態に関する1つ以上の症状を予防、治療、または改善する方法を提供する。任意の作用機構に束縛されることを意図しないが、匹敵する分子より大きな親和性でFcγRIIIAおよび/もしくはFcγRIIAに結合し、匹敵する分子より小さな親和性でFcγRIIBに更に結合する、本発明のヘテロ多量体、ならびに/または当該ヘテロ多量体は、増強されたエフェクター機能、例えば、ADCC、CDC、食菌作用、オプソニン化などを有し、癌細胞の選択的標的化および効率的な破壊をもたらす。
【0241】
本発明は、本発明の1つ以上のヘテロ多量体を、現行の標準的および実験的な化学療法、ホルモン療法、生物学的療法、免疫療法、放射線療法、または外科的手術が含まれるが、これらに限定されない癌の治療または予防のため、当業者に既知の他の療法と組み合わせて投与することを更に含む。幾つかの実施形態において、本発明の分子は、癌の治療および/または予防のため、治療または予防有効量の当業者に既知の1つ以上の抗癌剤、治療抗体、または他の薬剤と組み合わせて投与され得る。本発明のヘテロ多量体と組み合わせて使用され得る投与レジメンおよび療法の例は、当該技術において良く知られており、他において詳細に記載されている(例えば、PCT公開公報第02/070007号および同第03/075957号を参照すること)。
【0242】
本発明の方法および組成物により治療または予防され得る癌および関連障害には、以下が含まれるが、これらに限定されない。白血病 、リンパ腫、多発性骨髄腫、骨および結合組織肉腫、脳腫瘍、乳癌、副腎癌、甲状腺癌、膵癌、下垂体癌、眼癌、膣癌、外陰癌、子宮頸癌、子宮癌、卵巣癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝癌、胆嚢癌、胆管癌、肺癌、精巣癌、前立腺癌、陰茎癌、口腔癌、唾液腺癌咽頭癌、皮膚癌、腎癌、膀胱癌 (そのような疾患の概説には、 Fishman et al.,1985,Medicine,2d Ed.,J.B.Lippincott Co.,Philadelphia and Murphy et al.,1997,Informed Decisions:The Complete Book of Cancer Diagnosis,Treatment,and Recovery,Viking Penguin,Penguin Books U.S.A.,Inc.,United States of Americaを参照すること)。
【0243】
1つの実施形態において、ヘテロ多量体が、EGFR1、EGFR1、または突然変異体EGFR変種III(EGFRvIII)発現細胞に結合する単一ドメイン抗原結合構築物を含む場合、ヘテロ多量体は、EGFR1を過剰発現する癌、またはEGFRvIIIへの結合による治療の抵抗性がある癌細胞の治療に使用され得る。
【0244】
本発明は、抗体が本発明の変種CH3ドメインを組み込むFc領域を含むように、癌および関連障害の治療および/または予防のため、当該技術に既知の任意の抗体を操作することを更に考慮する。
【0245】
ある特定の実施形態において、変種Fcヘテロ二量体を含む本発明の分子(例えば、抗体は、本発明の当該分子の存在下で原発性腫瘍の増殖または転移と比べて、原発性腫瘍の増殖または癌性細胞の転移を少なくとも99%、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも45%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも35%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも20%、または少なくとも10%阻害または低減する。
【0246】
本発明は、対象において炎症性障害に関連する1つ以上の症状を予防、治療、または管理するための、本発明の1つ以上のヘテロ多量体の使用を包含する。任意の作用機構に束縛されることを意図しないが、FcγRIIBへの増強された親和性を有するヘテロ多量体は、活性化受容体の減衰、したがって免疫応答の減衰をもたらし、自己免疫性障害を治療および/または予防するのに治療効力を有する。更に、炎症性障害に関連する、変種Fcヘテロ二量体を含む二重特異性抗体のような1つを超える標的に結合する抗体は、一価の治療よりも相乗的な効果をもたらし得る。
【0247】
本発明は、本発明のヘテロ多量体を、治療または予防有効量の1つ以上の抗炎症剤と組み合わせて投与することを更に包含する。本発明は、自己免疫性疾患に関連する1つ以上の症状を予防、治療、または関する方法であって、当該対象に、本発明のヘテロ多量体を治療または予防有効量の1つ以上の免疫調節剤と組み合わせて投与することを更に含む方法も、提供する。本発明のヘテロ多量体を投与することにより治療され得る自己免疫性障害の例には、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫性疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および精巣炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、CREST症候群、寒冷凝集素症、クローン病、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症−線維筋炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgAニューロパチー、若年性関節、扁平苔癬、エリテマトーデス、メニエール病、混合型結合組織疾患、多発性硬化症、1型または免疫仲介性真性糖尿病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティフ・マン症候群、全身性エリテマトーデス、エリテマトーデス、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、疱疹状皮膚炎血管炎のような血管炎、白斑、およびウェゲナー肉芽腫症が含まれるが、これらに限定されない。炎症性障害の例には、喘息、脳炎、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性障害、敗血症性ショック、肺線維症、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、ならびに慢性ウイルスおよび細菌感染によりもたらされる慢性炎症が含まれるが、これらに限定されない。幾つかの自己免疫性障害は炎症状態と関連し、したがって、自己免疫性障害と炎症性障害と考慮されるものには重複がある。したがって、幾つかの自己免疫性障害は、炎症性障害としても特徴決定され得る。本発明の方法により予防、治療、または管理されうる炎症性障害の例には、喘息、脳炎、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性障害、敗血症性ショック、肺線維症、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、ならびに慢性ウイルスおよび細菌感染によりもたらされる慢性炎症が含まれるが、これらに限定されない。
【0248】
本発明のヘテロ多量体は、炎症性障害を有する動物、特にヒトにより経験される炎症を低減するためにも使用され得る。ある特定の実施形態において、本発明のFcは、当該分子が投与されない動物における炎症と比べて、動物における炎症を少なくとも99%、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも45%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも35%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも20%、少なくとも10%低減する。
【0249】
本発明は、抗体が本発明のFc領域を含むように、自己免疫性疾患または炎症性疾患の治療および/または予防のため、当該技術に既知の任意の抗体を操作することを更に考慮する。
【0250】
本発明は、対象において感染性疾患を治療または予防する方法であって、本発明の治療または予防有効量の1つ以上のヘテロ多量体を投与することを含む方法も包含する。本発明の多量体により治療または予防され得る感染性疾患は、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、およびウイルスが含まれるが、これらに限定されない感染性病原体により引き起こされる。
【0251】
本発明のヘテロ多量体を本発明の方法と一緒に使用して治療または予防され得るウイルス疾患には、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザ、水痘、アデノウイルス、単純ヘルペスI型(HSV−I)、単純ヘルペスII型(HSV−II)、牛疫、ライノウイルス、エコーウイルス、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パピローマウイルス、パポーバウイルス、サイトメガロウイルス、エキノウイルス、アルボウイルス、フンタウイルス、コクサッキーウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、天然痘、エプスタイン・バーウイルス、ヒト免疫不全ウイルスI型(HIV−I)、ヒト免疫不全ウイルスII型(HIV−II)、およびウイルス性髄膜、脳炎、デング熱、または天然痘のようなウイルス疾患の病原体より引き起こされるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0252】
本発明のヘテロ多量体を本発明の方法と一緒に使用して治療または予防され得る、細菌により引き起こされる細菌性疾患には、マイコバクテリア・リケッチア、マイコプラズマ、ナイセリア、S.ニューモニア、ボレリア・ブルグドルフェリ(ライム病)、バチルス・アントラシス(炭疽菌)、破傷風、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、マイコバクテリア、破傷風、百日咳、コレラ、ペスト、ジフテリア、クラミジア、S.アウレウス、およびレジオネラが含まれるが、これらに限定されない。本発明のヘテロ多量体を本発明の方法と一緒に使用して治療または予防され得る、原虫により引き起こされる原虫病には、リーシュマニア、コクジジオア(kokzidioa)、トリパノソーマ、またはマラリアが含まれるが、これらに限定されない。本発明のヘテロ多量体を本発明の方法と一緒に使用して治療または予防され得る、寄生虫により引き起こされる寄生虫病には、クラミジアおよびリケッチアが含まれるが、これらに限定されない。
【0253】
幾つかの実施形態において、本発明のヘテロ多量体は、感染性疾患治療および/または予防のため、治療または予防有効量の当業者に既知の1つ以上の追加の治療剤と組み合わせて投与され得る。本発明は、感染性疾患の治療およびまたは予防のため、抗生物質、抗真菌剤、および抗ウイルス剤が含まれるが、これらに限定されない当該技術に既知の他の分子と組み合わせた本発明の分子の使用を考慮する。
【0254】
本発明は、本発明のヘテロ多量体(例えば、抗体、ポリペプチド)を含む方法および薬学的組成物を提供する。本発明は、本発明の有効量の1つ以上のヘテロ多量体、または本発明の1つ以上のヘテロ多量体を含む薬学的組成物を対象に投与することによる、疾患、状態、または感染に関連する1つ以上の症状を治療、予防、および改善する方法も提供する。1つの態様において、ヘテロ多量体は実質的に精製されている(すなわち、その効果を制限する、または望ましくない副作用を生じる物質を実質的に含まず、これにはホモ二量体および他の細胞材料が含まれる)。ある特定の実施形態において、対象は、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットなど)、ならびに霊長類(例えば、カニクイザルおよびヒト)を含む哺乳動物のような動物である。ある特定の実施形態において、対象はヒトである。なお別のある特定の実施形態において、本発明の抗体は、対象として同じ種からのものである。
【0255】
組成物の投与経路は、治療される状態に応じて決まる。例えば、静脈内注射は、リンパ性癌または転移した腫瘍のような全身性障害の治療に好ましいことがある。投与される組成物の投与量は、過剰な実験を用いることなく、標準的な用量応答研究と併せて当業者により決定され得る。これらの決定を行うために考慮される関連する環境には、治療される状態、投与される組成物の選択肢、個別の患者の年齢、体重、および応答、ならびに患者の症状の重篤度が含まれる。状態に応じて、組成物は、患者に経口、非経口、鼻腔内、膣内、直腸内、舌側、舌下、頬側、頬内、および/または経皮投与され得る。
【0256】
したがって、経口、舌側、舌下、頬側、および頬内投与のために設計された組成物は、過剰な実験を行うことなく、当該技術に周知の方法により、例えば不活性希釈剤または食用担体と共に作製され得る。組成物は、ゼラチンカプセルに封入され得る、または錠剤に圧縮され得る。経口治療投与の目的において、本発明の薬学的組成物には賦形剤が組み込まれ得、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハ剤、チューインガム剤などの剤形で使用され得る。
【0257】
錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、結合剤、受給体、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、および/または風味剤も含有し得る。結合剤の幾つかの例には、微晶質セルロース、トラガカントガム、およびゼラチンが含まれる。賦形剤の例には、デンプンおよびラクトースが含まれる。崩壊剤の幾つかの例には、アルギン酸、トウモロコシデンプンなどが含まれる。潤滑剤の例には、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カリウムが含まれる。滑剤の例は、コロイド二酸化ケイ素である。甘味剤の幾つかの例には、スクロース、サッカリンなどが含まれる。風味剤の例には、ペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ風味などが含まれる。これらの多様な組成物の調製に使用される材料は、薬学的に純粋であり、使用される量で非毒性であるべきである。
【0258】
本発明の薬学的組成物は、例えば静脈内、筋肉内、鞘内、および/または皮下注射のように非経口投与され得る。非経口投与は、本発明の組成物を液剤または懸濁剤に組み込むことにより達成され得る。そのような液剤または懸濁剤は、注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、および/または他の合成溶剤のような滅菌希釈剤も含み得る。非経口製剤は、例えばベンジルアルコールおよび/またはメチルパラベンのような抗菌剤、例えばアスコルビン酸および/または重亜硫酸ナトリウムのような酸化防止剤、ならびにEDTAのようなキレート剤も含み得る。酢酸塩、クエン酸塩、およびリン酸塩のような緩衝液、ならびに塩化ナトリウムおよびデキストロースのような等張性調整用の薬剤も、加えることができる。非経口調合剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ、および/または多回用量バイアルに封入され得る。直腸内投与は、組成物を直腸および/または大腸に投与することを含む。このことは、坐剤および/または浣腸の使用により達成され得る。坐剤製剤は、当該技術に既知の方法により作製され得る。経皮投与には、皮膚を介した組成物の経皮吸収が含まれる。経皮製剤には、パッチ剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、膏薬が含まれる。本発明の組成物は、患者に経鼻投与され得る。本明細書で使用されるとき、経鼻的投与または経鼻投与は、組成物を患者の鼻道および/または鼻腔の粘膜に投与することを含む。
【0259】
本発明の薬学的組成物は、疾患、障害、または感染に関連する1つ以上の症状を予防、治療、または改善するため、本発明の方法に従って使用され得る。本発明の組成物は、滅菌であり、対象への投与に適した剤形であることが考慮される。
【0260】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、内毒素および/または関連する発熱性物質を実質的に含まない発熱物質無含有製剤である。内毒素には、微生物内に留まり、微生物が分解または死亡したときに放出される毒素が含まれる。発熱性物質には、細菌および他の微生物の外膜からの発熱誘発性で熱安定性の物質(糖タンパク質)も含まれる。これらの物質は、両方とも、ヒトに投与されると発熱、低血圧、およびショックを引き起こし得る。潜在的な有害作用に起因して、低量であっても、内毒素を静脈内投与用薬学的薬剤溶液から除去することが有益である。食品医薬局(「FDA」)は、静脈用薬剤用途では1時間に体重1キログラムあたり1用量毎に5内毒素単位(EU)の上限を設定している(The United States Pharmacopeial Convention,Pharmacopeial Forum 26(1):223(2000))。治療タンパク質が、モノクローナル抗体の場合のように、体重1キログラムあたり数百または数千ミリグラムの量で投与されるとき、微量の内毒素であっても除去することが有益である。ある特定の実施形態において、組成物における内毒素および発熱物質のレベルは、10EU/mg未満、または5EU/mg未満、または1EU/mg未満、または0.1EU/mg未満、または0.01EU/mg未満、または0.001EU/mg未満である。
【0261】
本発明は、疾患、障害、または感染に関連する1つ以上の症状を予防、治療、または改善する方法であって、(a)1つ以上のヘテロ多量体を含む予防または治療有効量の組成物の用量を、それを必要とする対象に投与すること、および(b)当該ヘテロ多量体の1つ以上の続く用量を投与して、ヘテロ多量体の血漿レベルを、抗原に連続的に結合する所望のレベル(例えば、約0.1〜約100μg/ml)に維持することを含む当該方法を提供する。ある特定の実施形態において、ヘテロ多量体の血漿濃度は、10μg/ml、15μg/ml、20μg/ml、25μg/ml、30μg/ml、35μg/ml、40μg/ml、45μg/ml、または50μg/mlに維持される。ある特定の実施形態において、投与されるヘテロ多量体の当該有効量は、1用量あたり少なくとも1mg/kg〜8mg/kgである。別のある特定の実施形態において、投与されるヘテロ多量体の当該有効量は、1用量あたり少なくとも4mg/kg〜5mg/kgである。なお別のある特定の実施形態において、投与されるヘテロ多量体の当該有効量は、1用量あたり50mg〜250mgである。更に別のある特定の実施形態において、投与されるFc変種の当該有効量は、1用量あたり100mg〜200mgである。
【0262】
本発明は、ヘテロ多量体が、ヘテロ多量体および/または変種融合タンパク質以外の治療(例えば、予防または治療剤)と組み合わせて使用される、疾患、障害、または感染に関連する1つ以上の症状を予防、治療、または改善するプロトコールも包含する。本発明は、本発明のヘテロ多量体が、現行の標準的および実験的化学療法を含む他の癌療法を強化し、他の癌療法と相乗作用し、他の癌療法の効果を増強し、他の癌療法の許容性を改善し、および/または他の癌療法により引き起こされる副作用を低減するという認識に部分的に基づいている。本発明の併用治療は、追加の効力、追加の治療効果、または相乗効果を有する。本発明の併用治療は、疾患、障害、または感染に関連する1つ以上の症状を予防、治療、もしくは改善するヘテロ多量体と一緒に利用した療法(例えば、予防または治療剤)の低い投与量を可能にして、ならびに/あるいは疾患、障害、または感染を有する対象へのそのような予防または治療剤の低い投与頻度を可能にして、当該対象の生活の質を改善する、および/または予防もしくは治療効果を達成する。更に、本発明の併用治療は、現行の単一薬剤療法および/または現存する併用療法に関連する不要または有害な副作用を低減または開始し、次には治療プロトコールへの患者の服薬順守を改善する。本発明のヘテロ多量体と組み合わせて利用され得る多数の分子は、当該技術において良く知られている。例えば、PCT国際公開公報第02/070007号、同第03/075957号、および米国特許公開第2005/064514号を参照すること。
【0263】
産業上の使用
ヘテロ多量体の単一ドメイン抗原結合構築物およびヘテロ二量体Fc領域の両方の生物物理学的安定性の観点から、本明細書に記載されているヘテロ多量体は、単一ドメイン抗原結合構築物フラグメント(例えば、単離V
hH)それ自体が有用性を有する産業上の用途にも使用され得ることが考慮される(de Marco(2011)Microbial Cell factories 10:44を参照すること)。したがって、1つの実施形態において、本発明のヘテロ多量体は、毒素を同定および解毒するため、免疫検出、精製、およびバイオ分離の試薬として、またはタンパク質凝集および活性調節を研究するツールとして使用されうる。
【0264】
キット
本発明は、疾患、障害、または感染に関連する1つ以上の症状をモニター、診断、予防、治療、または改善する使用のため、検出剤、治療剤、または薬剤と複合体化した抗原に特異的に結合する、FcγRsおよび/またはC1qへの変更された結合親和性、ならびに変更されたADCCおよび/またはCDC活性を有する1つ以上のヘテロ多量体を1つ以上の容器中に含むキットを提供する。
【実施例】
【0265】
下記の実施例は、本発明の実施を例示するために提示される。これらは、本発明の全範囲を限定または定義することを意図しない。
【0266】
実施例1: ヘテロ二量体Fcドメインを有する二価単一特異性抗体の生成。
抗体重鎖をコードする遺伝子は、ヒト/哺乳類発現に最適化されたコドンを使用する遺伝子合成を介して構築した。配列は、既知のHer2/neu結合Abから生成し(Carter P.et al.(1992)Humanization of an anti P185 Her2 antibody for human cancer therapy.Proc Natl Acad Sci 89,4285)、FcはIgG1アイソタイプ(配列番号1)であった。最終遺伝子産物を、哺乳類発現ベクターpTT5(NRC−BRI,Canada)にサブクローンした(Durocher,Y.,Perret,S.& Kamen,A.High−level and high−throughput recombinant protein production by transient transfection of suspension−growing human HEK293−EBNA1 cells.Nucleic acids research 30,E9(2002))。CH3ドメインにおける突然変異は、pTT5テンプレートベクターの部位特異的突然変異誘発を介して導入した。表1および表6、ならびに実施された変種CH3ドメイン突然変異のリストは表7を参照すること。
【0267】
ヘテロ二量体の形成を推定するため、およびホモ二量体とヘテロ二量体の比を決定するために、2つのヘテロ二量体重鎖を、異なるサイズのC末端延長(具体的には、C末端Hisタグを有する鎖A、およびC末端mRFP+StrepタグIIを有する鎖B)により設計した。この分子量の差は、
図25Aに例示されているように、非還元的SDS−PAGEにおいてホモ二量体とヘテロ二量体の差異化を可能にする。
【0268】
HEK293細胞を水性1mg/mLの25kDaポリエチレンイミン(PEI、Polysciences)により、2.5:1のPEI:DNA比で対数増殖期(1.5〜2百万細胞/mL)に形質移入した。(Raymond C.et al.A simplified polyethylenimine−mediated transfection process for large−scale and high−throughput applications.Methods.55(1):44−51(2011))。ヘテロ二量体を形成する最適濃度範囲を決定するため、DNAを、2つの重鎖の3つの別々の比で形質移入した。例えば、これは、5%のGFP、45%のサケ精子DNA、25%の軽鎖、および25%の全重鎖から構成される、2mlの培養物量および形質移入DNAにおいて実施され、ここで、重鎖Aプラスミド(C末端Hisタグを有する)および重鎖Bプラスミド(C末端StrepタグII+RFPを有する)65%/55%/35%または10%/20%/40%により)を3つの異なる相対比(鎖_A(His)/鎖_B(mRFP))の10%/65%、20%/55%、40%/35%で試料採取した(WT_His/WT_mRFPのヘテロ二量体の見掛け発現比の1:1は、DNA比の20%/55%に近いと決定された)。F17血清無含有培地得(Gibco)に形質移入した4〜48時間後、TN1ペプトンを最終濃度0.5%で加える。発現した抗体をSDS−PAGEにより分析して、最適なヘテロ二量体形成に最適な重と軽の鎖の比を決定した(
図25BおよびCを参照すること)。
【0269】
選択されたDNA比、例えば、50%の軽鎖プラスミド、25%の重鎖Aプラスミド、25%の重鎖BのAZ33およびAZ34、5%のGFP、ならびに45%のサケ精子DNAを使用して、上記に記載されたように、150mLの細胞培養物に形質移入した。形質移入された細胞を、5〜6日後に培養培地から採取し、4000rpmで遠心分離して収集し、0.45μmフィルターの使用により清澄化した。純度および融解温度の決定を含む更なるアッセイのために生成された、CH3突然変異を有するそれぞれの抗体のための規模拡大形質移入アッセイに使用される軽および重鎖AおよびBプラスミドの率のリストは、下記の表2を参照すること。
【表7】
【0270】
実施例2: ヘテロ二量体Fcドメインを有する二価単一特異性抗体の精製。
清澄化された培養培地をMabSelect SuRe(GE Healthcare)プロテインAカラムに装填し、10カラム容量のPBS緩衝液によりpH7.2で洗浄した。抗体を10カラム容量のクエン酸緩衝液によりpH3.6で溶出し、プールした画分は、TRISによりpH11で中和された抗体を含有した。タンパク質をEcono−Pac 10DGカラム(Bio−Rad)の使用により最終的に脱塩した。重鎖BのC末端mRFPタグは、抗体をPBSにおいてエンテロキナーゼ(NEB)と1:10,000の比により25℃でインキュベートすることにより除去した。抗体をゲル濾過により混合物から精製した。ゲル濾過では、3.5mgの抗体混合物を1.5mLに濃縮し、流速1mL/分によりAKTA Express FPLCを介してSephadex 200 HiLoad 16/600 200pgカラム(GE Healthcare)に装填した。pH7.4のPBS緩衝液を流速1mL/分で使用した。精製抗体に対応する画分を収集し、約1mg/mLに濃縮し、−80℃で保存した。
【0271】
ホモ二量体と比較したヘテロ二量体の形成を、非還元的SDS−PAGEおよび質量分析の使用によりアッセイした。プロテインA精製抗体に4〜12%勾配のSDS−PAGE、非還元的ゲルを実施して、エンテロキナーゼ(EK)処理前に形成されたヘテロ二量体の率を決定した(
図26を参照すること)。質量分析では、全てのTrap LC/MS(ESI−TOF)実験を、Waters Q−TOF2質量分析機が接続されているAgilent 1100 HPLCシステムにより実施した。5μgのゲル濾過精製抗体を、Protein MicroTrap(1.0×8.0mm)に注入し、1%のアセトニトリルにより8分間、1〜20%のアセトニル/0.1%のギ酸の勾配により2分間洗浄し、次に20〜60%のアセトニル/0.1%のギ酸の勾配により20分間溶出した。溶出物(30〜50μL/分)を、毎秒得たスペクトル(m/z800〜4,000)で分光計に導いた。(
図28を参照すること)それぞれ85%を超えるヘテロ二量体形成を有したAZ12およびAZ14を除いて、90%を超えるヘテロ二量体を有する変種を、更なる分析により選択した。
【0272】
実施例3: 示差走査熱量測定(DSC)の使用によるヘテロ二量体Fcを有する二価単一特異性抗体の安定性の決定。
全てのDSC実験は、GE VP−Capillary器機を使用して実施した。タンパク質は、PBS(pH7.4)に緩衝液を交換し、0.4〜0.5mg/mLに希釈し、0.137mLを試料セルに装填し、1℃/分の走査速度により20〜100℃で測定した。データは、PBS緩衝液バックグラウンドを差し引いて、Originソフトウエア(GE Healthcare)の使用により分析した(
図27を参照すること)。試験した変種および決定した融解温度について、表3を参照すること。70℃以上の融解温度を有する変種、およびそれぞれの変種に特定のTmのリストは、表4を参照すること。
【表8】
【表9-1】
【0273】
実施例4:表面プラズモン共鳴を用いたFCガンマR結合の評価
全ての結合実験は、10mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、および0.05%のTween 20、pH7.4により25℃でBioRad ProteOn XPR36器機を使用して実施した。組み換えHER−2/neu(p185,ErbB−2(eBiosciences,Inc.))は、およそ3000共鳴単位(RU)が停止した残りの活性基により固定化されるまで、10mMのNaOAc(pH4.5)中4.0μg/mLを25μL/分で注入することにより、活性化GLMセンサーチップに捕捉させた。40μg/mLの、変種CH3ドメインを含む精製された抗HER−2/neu抗体は、25μL/分により240秒間注入し(およそ500RUをもたらした)、続いて緩衝液注入により安定したベースラインを確立したとき、Her−2/neuタンパク質を結合することによりセンサーチップに間接的に捕捉された。FcガンマR(CD16a(fアロタイプ)およびCD32b)濃度(6000、2000、667、222、および74.0nM)を、180秒の解離相を伴って60μL/分を120秒間注入して、一連の結合センサグラムを得た。得られたK
D値は、報告された値を3つの個別の実施からの平均として用いる平衡当て嵌めを使用した結合等温線により決定した。比較は、野生型IgG1 Fcドメインと行い、結合は、野生型のkDと変種のkDの比として表す(表5を参照すること)。
【表10-1】
【表10-2】
【0274】
実施例5:Fc_CH3操作を使用するヘテロ多量体−足場1(1aおよび1b)の合理的な設計、ならびにAZ17−62およびAZ133−AZ2438の開発
初期AZ8の安定性および純度を改善するため、上記に記載された構造および計算戦略を用いた。(
図24を参照すること)例えば、AZ8の徹底的な構造機能分析は、野生型ヒトIgG1と比較して、AZ8の導入された突然変異L351Y_V397S_F405A_Y407V/K392V_T394Wのそれぞれについて詳細な理解を提供し、重要なコアヘテロ二量体突然変異が、L351Y_F405A_Y407V/T394Wであり、一方、V397S、K392Vがヘテロ二量体形成に関連性のないことを示した。コア突然変異(L351Y_F405A_Y407V/T394W)は、本明細書において「足場1」突然変異と呼ばれる。分析は、野生型(WT)ホモ二量体形成に関して損失した重要な界面ホットスポットが、WT−F405−K409、Y407−T366の相互作用、ならびにY407−Y407および−F405の詰め込みであることを、更に明らかにした(
図29を参照すること)。このことは、ループ領域D399−S400−D401(
図30を参照すること)およびK370での会合βシートにおいて大きな立体配座の差を示す、詰め込み、空洞、およびMD分析を反映した。これは、鎖間相互作用K409−D399の損失(
図30を参照すること)、およびE357への強力なK370水素結合の弱まりをもたらした(K370は、もはやS364およびE357と直接接触していないが、溶媒に完全に曝露されている)。WT IgG1 CH3ドメインにおいて、これらの領域は、縁で界面と連結し、コア相互作用を嵩高溶媒との競合から保護し、好ましい疎水性のファンデルワールス相互作用の動力学的な発生を増加する。結果は、WTと比較してAZ8の低い埋没表面、および疎水性コアの高い溶媒利用能であった。このことは、WTの安定性と比較してAZ8の低い安定性における最も重要な要因は、a)WT−F405−K409の相互作用およびF405の詰め込みの損失、ならびにb)Y407−Y407およびY407−T366の強力な詰め込み相互作用の損失であったことを示した。
図29を参照すること
【0275】
したがって、本発明者たちは、WTと比較して低いAZ8の安定性の原因である主要な残基/配列モチーフを同定した。AZ8の安定性およびヘテロ二量体特異性を改善するため、続く積極的設計操作努力は、したがって、より「閉鎖した」WT様の立体配座における399−401の位置でループ立体配座を安定化すること(
図30を参照すること)、ならびにT366およびL368の位置における疎水性コアの詰め込みの全体的な僅かな減少(ゆるまり)を補うことに特に焦点を合わせた(
図29を参照すること)。
【0276】
399−401の位置のループ立体配座の安定化を達成するため、記載されている計算手法を使用して、異なる標的設計構想を評価した。具体的には、3つの異なる独立したヘテロ多量体AZ8の選択肢を分析して、安定性を改善するため、同定された主要な領域を最適化した。第1には、K409およびF405Aの位置に近い空洞を、疎水性コアを保護すること、および399−400のループ立体配座を安定化することの両方のために、より良好な疎水性詰め込みについて評価した(
図30を参照すること)。これらには、F405およびK392の位置における追加の点突然変異が含まれるが、これに限定されない。第2には、399−400のループ立体配座を安定化するため、および疎水性コアを保護するために、399−409の位置の静電相互作用を改善する選択肢を評価した。これらには、T411およびS400の位置における追加の点突然変異が含まれるが、これに限定されない。第3には、T366、T394W、およびL368の位置のコア詰め込みにおける空洞を、コア疎水性詰め込みを改善するために評価した(
図29を参照すること)。これらには、T366およびL368の位置における追加の点突然変異が含まれるが、これに限定されない。異なる独立した積極的設計構想を、コンピューターにより試験し、計算ツールを使用した最高ランクの変種(AZ17−AZ62)を、実施例1〜4の記載されたように、発現および安定性について実験的に確認した。70℃以上の融解温度を有するこの設計段階でのヘテロ多量体のリストは、表4を参照すること。
【0277】
ヘテロ多量体AZ33は、足場1が修飾されて、安定性および純度を改善する足場1a突然変異をもたらす、ヘテロ多量体の開発の一例である。このヘテロ多量体は、疎水性コアを保護すること、および399−400のループ立体配座を安定化することの両方のために、392−394−409および366の位置における疎水性詰め込みを改善する目的でAZ8に基づいて設計された。このヘテロ多量体AZ33ヘテロ二量体は、AZ8、K392M、およびT366Iのコア突然変異と異なる2つの追加の点突然変異を有する。突然変異T366I_K392M_T394W/F405A_Y407Vは、本明細書において「足場1a」突然変異と呼ばれる。突然変異K392Mは、疎水性コアを保護し、399−400のループ立体配座を安定化するために、K409およびF405Aの位置に近い空洞における詰め込みを改善するように設計された(
図31を参照すること)。T366Iは、コア疎水性詰め込みを改善するため、およびT394W鎖のホモ二量体の形成を排除するために設計された(
図29を参照すること)。AZ33の実験データは、初期の消極的設計ヘテロ多量体AZ8(Tm68℃)よりも有意に改善された安定性を示し、AZ33は、74℃のTmおよび>98%のヘテロ二量体含有量を有する。(
図25Cを参照すること)
【0278】
ヘテロ多量体ヘテロ二量体の第3の設計段階での足場1突然変異の使用によるヘテロ多量体の開発
AZ33は、初期の出発変種AZ8よりも安定性および特異性(または純度)の有意な改善を提供するが、本発明者たちの分析は、ヘテロ二量体の安定性への更なる改善が、AZ33の実験データおよび上記に記載された設計方法を使用した更なるアミノ酸修飾により実施され得ることを示す。異なる設計構想を、発現および安定性について独立して試験したが、独立した設計構想は、移転可能であり、最も成功したヘテロ二量体は、異なる設計の組み合わせを含有する。具体的には、AZ8の詰め込みの最適化において、K409−F405A−K392に近い空洞における突然変異を、L366T−L368の残基におけるコア詰め込みを最適化する突然変異から独立して評価した。これらの2つの領域366−368および409−405−392は、互いに遠位であり、独立していると考慮される。例えばヘテロ多量体AZ33は、409−405−392における詰め込みが最適化されているが、366−368では最適化されておらず、これは、これらの最適化突然変異が別々に評価されているからである。366−368突然変異の比較は、T366Lが、T366より、また、ヘテロ多量体AZ33の開発に使用された点突然変異であるT366Iより改善された安定性を有することを示唆している。したがって、本発明の実験データは、例えば、T366Iの代わりにT366Lの導入によるAZ33の更なる最適化を直ちに示唆している。したがって、CH3ドメインのアミノ酸修飾T366L_K392M_T394W/F405A_Y407Vは、本明細書において「足場1b」突然変異と呼ばれる。
【0279】
類似の方法により、完全な実験データを分析して、現行のFc変種ヘテロ二量体AZ33を更に改善するために使用できる点突然変異を同定した。これらの同定された突然変異を、上記に記載された計算手法により分析し、ランク付けして、表6に示されているように、AZ33に基づいた追加のFc変種ヘテロ二量体のリストを生じた。
【0280】
実施例6:Fc_CH3操作を使用するヘテロ多量体−足場2(aおよびb)の合理的な設計、ならびにAZ63−101およびAZ2199−AZ2524の開発
初期の消極的設計段階のヘテロ多量体AZ15を安定性および純度について改善するため、上記に記載された構造および計算戦略を用いた(
図24を参照すること)。例えば、ヘテロ多量体AZ15の徹底的な構造機能分析は、野生型(WT)ヒトIgG1と比較して、AZ15の導入された突然変異L351Y_Y407A/E357L_T366A_K409F_T411Nのそれぞれについて詳細な理解を提供し、重要なコアヘテロ二量体突然変異が、L351Y_Y407A/T366A_K409Fであり、一方、E357L、T411Nが、ヘテロ二量体の形成および安定性に直接的な関連性のないことを示した。コア突然変異(L351Y_Y407A/T366A_K409F)は、本明細書において「足場2」突然変異と呼ばれる。分析は、野生型(WT)ホモ二量体形成に関して損失した重要な界面ホットスポットが、塩架橋D399−K409、水素結合Y407−T366、およびY407−Y407の詰め込みであることを、更に明らかにした。下記に提供される本発明者たちの詳細な分析は、独自のヘテロ多量体AZ15の安定性、ならびに改善された安定性を有するヘテロ多量体を達成するために行われた位置およびアミノ酸修飾をどのように改善したかを記載する。
【0281】
足場2を使用したヘテロ多量体の開発および足場2a突然変異の更なる開発
本発明者たちのコンピューター分析は、ヘテロ多量体AZ15の突然変異K409F_T366A_Y407Aの非最適化詰め込み、WT−Y407−Y407相互作用の損失に起因する疎水性コアの全体的に減少した詰め込みを示した。続く操作段階での積極的設計努力は、初期Fc変種AZ15におけるこれらの詰め込み欠陥を補うために点突然変異に焦点を合わせた。標的残基には、T366、L351、およびY407の位置が含まれた。これらの異なる組み合わせを、コンピューターにより試験し、計算ツールを使用した最高ランクの変種(AZ63−AZ70)を、実施例1〜4の記載されたように、発現および安定性について実験的に確認した。
【0282】
Fc変種AZ70は、足場2が修飾されて、安定性および純度を改善する足場2a突然変異をもたらす、ヘテロ多量体の開発の一例である。このヘテロ多量体は、上記に記載されているように、疎水性コアにおけるより良好な詰め込みを達成する目的でAZ15に基づいて設計された。ヘテロ多量体AZ70は、T366が、T366Aの代わりにT366Vに突然変異されたことを除いて、上記に記載されたものと同じ足場2コア突然変異(L351Y_Y407A/T366A_K409F)を有する(
図33)。L351Y突然変異は、366A_409F/407A変種の融解温度を71.5℃から74℃に改善し、366Aから366Vへの追加の変化は、Tmを75.5℃に改善する。(それぞれ71.5℃、74℃、および75.5℃のTmを有する、表4のAZ63、AZ64、およびAZ70を参照すること)コア突然変異(Y407A/T366A_K409F)は、本明細書において「足場2a」突然変異と呼ばれる。Fc変種AZ70の実験データは、初期の消極的設計Fc変種AZ15(Tm71℃)よりも有意に改善された安定性を示し、AZ70は、75.5℃のTmおよび>90%のヘテロ二量体含有量を有する(
図33および27)。
【0283】
足場2を使用したヘテロ多量体の開発および足場2b突然変異の更なる開発
分子動力学シミュレーション(MD)および詰め込み分析は、ループ399−400の好ましいより「開放された」立体配座を示し、これは、WT塩架橋K409−D399の損失に起因する可能性があった。このことは、不十分なD399をもたらし、次にはK392との相互作用を補うので好ましく、ループのより「開放された」立体配座を誘導した。このより「開放された」ループ立体配座は、コアCH3ドメイン界面残基の全体的に減少した詰め込み、および高い溶媒利用能をもたらし、次には有意に不安定化されたヘテロ二量体複合体をもたらす。したがって、標的積極的設計努力の1つは、D399−K409塩架橋およびK409の詰め込み相互作用の損失を補う追加の点突然変異によって、このループをより「閉鎖された」WT様立体配座に連結することであった。標的残基には、T411、D399、S400、F405、N390、K392、およびこれらの組み合わせの位置が含まれた。異なる詰め込み、疎水性および静電気積極的操作戦略を、上記の位置に関してコンピューターにより試験し、計算ツールの使用により決定された最高ランクのヘテロ多量体(AZ71−AZ101)を、実施例1〜4に記載されているように、発現および安定性について実験的に確認した。
ヘテロ多量体AZ94は、足場2が修飾されて、安定性および純度を改善する、追加の点突然変異を伴う足場2bをもたらす、Fc変種の開発の一例である。このFc変種は、上記に記載されたように、ループ399−400をより「閉鎖された」WT様立体配座に連結し、D399−K409塩架橋の損失を補う目的でAZ15に基づいて設計された。FC変種AZ94は、足場2への4つの追加の点突然変異(L351Y_Y407A/T366A_K409F)を有し、L351Yを野生型L351に戻して、このFC変種のコア突然変異として(Y407A/T366A_K409F)を残す。コア突然変異Y407A/T366A_K409Fは、本明細書において「足場2b」突然変異と呼ばれる。AZ94の4つの追加の点突然変異は、K392E_T411E/D399R_S400Rである。突然変異T411E/D399Rは操作されて、追加の塩架橋を形成し、K409/D399相互作用の損失を補った(
図34)。加えて、この塩架橋は、両方の潜在的なホモ二量体において電荷間相互作用を避けることにより、ホモ二量体形成を防止するように設計された。追加の突然変異K392E/S400Rは、別の塩架橋を形成し、したがって、399_400ループをより「閉鎖された」WT様立体配座に更に連結することが意図された(
図34)。AZ94の実験データは、初期の消極的設計Fc変種AZ15(Tm71℃、純度>91%)よりも改善された安定性および純度を示し、Fc変種AZ94は、74℃のTmおよび>95%のヘテロ二量体含有量または純度を有する。
【0284】
ヘテロ二量体の第3の設計段階での足場2突然変異の使用によるヘテロ多量体の開発
両方のFc変種AZ70およびAZ94は、初期の消極的設計Fc変種AZ15より安定性および純度に有意な改善をもたらすが、本発明者たちの分析およびAZ70とAZ94の比較は、FC変種ヘテロ二量体の安定性への更なる改善が更なるアミノ酸修飾により実施され得ることを直接的に示している。例えば、Fc変種AZ70およびAZ94は、初期変種AZ15の2つの別個の非最適化領域を標的にするように設計されており、これは、399−401の位置のループ立体配座を安定化するために、疎水性コアの詰め込みを改善すること、ならびに追加の塩架橋および水素結合をもたらすコア界面残基の外側に突然変異を起こすことによって実施した。Fc変種AZ70およびAZ94の追加の点突然変異は、互いに遠位であり、したがって独立しており、2aおよび2b突然変異を含む同じ足場2コア突然変異の周辺を設計した他のFc変種に移転され得る。具体的には、AZ70は、最適化コア突然変異L351Y_Y407A/T366A_K409Fのみを有するが、追加の塩架橋を有さず、一方、AZ94は、4つの追加の静電突然変異(K392E_T411E/D399R_S400R)を含むが、疎水性コア界面に1つ少ない突然変異(Y407A/T366A_K409F)を有する。これらの足場2b突然変異は、AZ70よりも安定性が少ないが(例えば、AZ94と同等のコア突然変異を有し、72℃のTmを有するAZ63を参照すること)、K392E_T411E/D399R_S400R突然変異の付加により補われる。本発明の実験安定性および純度データは、疎水性コアを最適化するAZ70の突然変異と、AZ94の静電突然変異とを組み合わせることによって、Fc変種を含むヘテロ二量体の安定性および純度を更に改善するはずであることを示す。類似の方法により、足場2Fc変種(AZ63−101)の完全な実験データを分析して、Fc変種ヘテロ二量体AZ70およびAZ94を更に改善することに使用できる点突然変異を同定した。これらの同定された突然変異を、上記に記載された計算手法により更に分析し、ランク付けして、表7に示されているように、AZ70およびAZ94に基づいた追加のFc変種ヘテロ二量体のリストを生じた。
【0285】
実施例7:FcgR結合に対するヘテロ二量体CH3の作用
FcgRによるヘテロ二量体Fc活性の原型例として、本発明者たちは、ヘテロ二量体Fc領域A:K409D_K392D/B:D399K_D356K(対照1(
図35のhet 1))およびA:Y349C_T366S_L368A_Y407V/B:S354C_T366W(対照4(
図35のhet 2))を有する2つの変種抗体を、FcgR結合について実施例4に記載されているSPRアッセイにおいて、Her2結合Fab腕を用いて試験した。
図35に示されているように、本発明者たちは、両方のヘテロ二量体Fc領域が、野生型IgG1 Fc領域と同じ相対強度で異なるFcガンマ受容体に結合するが、全体的に、ヘテロ二量体Fc領域が、それぞれのFcgRに野生型抗体より僅かに良好に結合したことを観察する。このことは、FcのCH3界面における突然変異が、本発明者たちの分子動力学シミュレーションおよび分析により観察されたように、CH2ドメイン全体にわたってFcガンマ受容体へのFc領域の結合強度に影響を与え得ることを示す。
【0286】
実施例8:FcgR結合に対するヘテロ二量体FcのCH2における非対称突然変異の作用
Fc領域のCH2ドメインにおける267の位置のセリンの、アスパラギン酸への突然変異(S267D)は、CH2ドメインの2つの鎖にホモ二量体的方法で導入されたとき、FcガンマIIbF、IIbY、およびIIaR受容体への結合を増強することが知られている。この突然変異は、
図36Aに提示されたデータが示すように、この突然変異がホモ二量体CH2 Fcに導入されたときに比べて結合強度における改善のほぼ半分を得るため、ヘテロ二量体Fc分子のCH2ドメインの1つのみに導入され得る。一方、Fcのホモ二量体CH2ドメインにおけるE269K突然変異は、FcgRへのFc領域の結合を防止する。本発明者たちは、FcのCH2ドメインの2つ鎖の一方に、これらの好ましいおよび好ましくない突然変異の非対称導入により、Fcg受容体へのFc領域の結合強度の増強された操作についてのスキームを提示する。ヘテロ二量体FcにおけるCH2鎖の1つへの非対称的な方法によるE269K突然変異の導入は、提示される面においてFcgRの結合を阻止し、Fcの他の面が通常の方法でFcgRと相互作用することを放置する、極性ドライバーとして作用する。この実験の結果を
図36Aに表す。独立した方法によりFcの両方の鎖を介して結合強度を選択的に変える機会は、FcとFcg受容体の結合強度および選択性を操作する機会の増加を提供する。したがって、CH2ドメインにおける突然変異のそのような非対称設計は、特定の結合モデルを好み、または避けて、選択性を導入する大きな機会を提供する、積極的および消極的設計戦略の導入を可能にする。
【0287】
続く実験において、本発明者たちは、FcガンマIIIaFおよびIIIaV受容体への増加した結合強度を示し、同時にFcガンマIIaR、IIbF、およびIIbY受容体への弱い結合を示し続ける、塩基Fc突然変異体S239D_D265S_I332E_S298Aの選択性プロファイルを変更した。これは、
図36Bに示されている結合プロファイルにおいて示されている。鎖Aに非対称突然変異E269Kを導入し、鎖BにおいてI332E突然変異を開始することにより、IIaおよびIIb受容体結合を更に弱め、FcをIIIa受容体結合に対してより特異的にする、新規FcgR結合プリファイルを生成することができた。
【0288】
図36Cに示されている別の例では、非対称突然変異が、CH2ドメインに突然変異S239D/K326E/A330L/I332E/S298Aを伴うホモ二量体Fcと比べて強調される。野生型IgG1 Fcと比べて、この変種は、IIIa受容体への増加した結合を示すが、IIaおよびIIb受容体にも野生型Fcよりわずかに強く結合する。これらの突然変異の非対称的な方法による導入A:S239D/K326E/A330L/I332EおよびB:S298Aは、IIIa結合を低減しながら、IIa/IIb受容体結合も増加し、その過程において選択性がゆるまる。このヘテロ二量体変種への非対称E269K突然変異を導入する、すなわち、A:S239D/K326E/A330L/I332E/E269KおよびB:S298Aにより、IIa/IIb結合を低減して、野生型レベルに戻すことができる。このことは、FcのCH2ドメインにおける非対称突然変異の使用が、改善されたFcガンマR選択性を設計する有意な機会をもたらし得るという事実を強調している。
【0289】
実施例に用いられる試薬は、市販されている、または市販の器機、方法を使用して調製され得る、または当該技術に既知の試薬であり得る。前述の実施例は、本発明の多様な態様および本発明の方法の実施を例示する。実施例は、本発明の多くの実施形態の網羅的な記載を提供することを意図しない。したがって、前述の発明は、理解を明確にする目的で例示および例により幾らか詳細に記載されてきたが、当業者は、多くの変更および修正を、添付の特許請求の範囲の精神および範囲を逸脱することなく実施できることを容易に理解する。
【0290】
実施例9:SPRにより決定されるFcRn結合
FcRnへの結合は、2つの異なる方向においてSPRにより決定した。
1.固定化されたFcRnに対するヘテロ二量体変種の流れ:この実験では、高密度表面のおよそ5000RUを、標準的なNHS/EDCカップリングの使用により作製した。100nMのWTおよび各変種を、MES pH6処理緩衝液により600秒の解離で50uL分により120秒間、三重に注入した。
2.間接的に捕捉されたヘテロ二量体変種に対するFcRnの流れ:このSPR実験において、ヤギ抗ヒトIgG表面を使用して、抗体を間接的に捕捉し(それぞれ、およそ400RU)、続いて3倍のFcRn希釈系列を注入した(高濃度の6000nM)。処理緩衝液は、10mMのMES/150mMのNaCl/3.4mMのEDTA/0.05のTween20、pH6であった。ヤギポリクローナル表面へのFcRnの有意な結合はなかった。全ての変種は、WTセンサグラムと類似したものを示す。下記に表8は、流動FcRn(2)による間接的固定化により決定されたKdを示す。
【表11】
【0291】
実施例10: 例示的なヘテロ多量体の調製
1つの単一ドメイン抗原結合構築物を含む以下のヘテロ多量体を調製した。
1. v1323、一価抗EGFR抗体(EG2)であり、EGFR結合ドメインは、鎖Aにおけるラクダ科動物V
hHであり、Fc領域は、鎖Aに突然変異T350V_L351Y_F405A_Y407V、および鎖BにT350V_T366L_K392L_T394Wを有するヘテロ二量体である。
この構築物を以下のように調製し、発現させた。
【0292】
抗体重鎖およびFc領域をコードする遺伝子は、ヒト/哺乳類発現に最適化されたコドンを使用する遺伝子合成を介して構築した。抗EGFR sdAbをコードするsdAb配列は、既知のEGFR結合抗体EG2から生成した(Bell et al.(2010)Differential tumor−targeting abilities of three single−domain antibody formats.Cancer Letters 289:81)。
【0293】
最終遺伝子産物を、哺乳類発現ベクターpTT5(NRC−BRI,Canada)にサブクローンし、CHO細胞において発現させた(Durocher,Y.,Perret,S.& Kamen,A.High−level and high−throughput recombinant protein production by transient transfection of suspension−growing CHO cells.Nucleic acids research 30,E9(2002))。
【0294】
CHO細胞を水性1mg/mLの25kDaポリエチレンイミン(PEI、Polysciences)により、2.5:1のPEI:DNA比で対数増殖期(1.5〜2百万細胞/mL)に形質移入した。(Raymond C.et al.A simplified polyethylenimine−mediated transfection process for large−scale and high−throughput applications.Methods.55(1):44−51(2011))。DNAを、ヘテロ二量体形成を可能にする鎖A(CHA)と鎖B(CHB)の最適なDNA比(例えば、CHA/CHB比=50:50)で形質移入した形質移入された細胞を、5〜6日後に培養培地から採取し、4000rpmで遠心分離して収集し、0.45μmフィルターの使用により清澄化した。
【0295】
実施例11:例示的なヘテロ多量体の精製および特徴決定
実施例1に記載されたヘテロ多量体を、下記に記載されたようにプロテインAクロマトグラフィーにより発現させ、精製した。
【0296】
プロテインA精製
清澄化された培養培地をMabSelect SuRe(GE Healthcare)プロテインAカラムに装填し、10カラム容量のPBS緩衝液によりpH7.2で洗浄した。抗体を10カラム容量のクエン酸緩衝液によりpH3.6で溶出し、プールした画分は、TRISによりpH11で中和された抗体を含有した。
【0297】
プロテインA精製後のヘテロ二量体純度のUPLC−SEC分析
v1323の純度は、下記に記載されている標準的条件下でUPLC−SECを使用して決定した。
カラム:Waters BEH200 SEC、1.7μmの粒子、4.6×150mm
溶媒:25mMのNaPO4、150mMのNaCl、pH7.00@23.4℃、20.00mS/cm@23.4℃
流速:0.4ml/分、約4280psi
温度: 30℃
試料:v1323 120607−KB
3回の注入(注入1回あたり約2μg)
【0298】
図41および42は、プロテインA精製後の例示的なヘテロ多量体のSDS−PAGEおよびUPLC−SEC分析の結果をそれぞれ描写している。
図41は、プロテインA精製後の相対純度を例示し、V1323が、検出可能な汚染種を含有しなかったこと、およびSECによる追加の精製を必要としなかったことを示す。
図42は、例えば、1323がプロテインA精製後に>97%のヘテロ二量体純度であることを例示して、
図41の観察を支持するUPLC−SEC分析を含有する。
表9は、V1323の精製手順および収量のまとめを提供する。
【表12】
【0299】
実施例12:ヘテロ多量体はEGFR−ED結合ドメイン特性を維持する
EGFRの細胞外ドメイン(ED)に結合するEGFR結合ドメインを含むv1323の能力を、BIO−RADからのProteOn XPR36システムの使用により表面プラズモン共鳴(SPR)により試験した。
【0300】
およそ3000RUの抗ヒトIgG 25ug/mlを、標準的なアミンカップリングの使用によりGLCチップに固定化した。例示的なSDACを、およそ700RUの捕捉レベルで抗ヒトIgG固定化チップに捕捉した。組み換えヒトEGFR−EDを、処理緩衝液で希釈し、50μl/分の流速で2分間注入し、続いて更に4分間解離させた。センサグラムを、1:1のラングミュア結合モデルに包括的に当て嵌めた。全ての実験は室温で実施した。
【0301】
v1323のSPR曲線を
図43に示す。結果は、v1323が、3〜4.5nMの低いナノモル範囲で高い親和性によりEGFR−EDに結合することを示す。
【0302】
実施例13:A549、BxPc3、およびU87細胞に結合するV1323の能力
細胞の表面に発現させたEGFRに結合するv1323の能力は、下記に記載される蛍光細胞結合アッセイによりA549、BxPc3、およびU87細胞を使用して試験した。
【0303】
例示的な二重特異的SDACの、A549、BxPc3、およびU87細胞の表面への結合は、フローサイトメトリーにより決定した。細胞をPBSで洗浄し、DMEMに1×105細胞/100μlで懸濁した。100μlの細胞懸濁液を、それぞれのマイクロ遠心分離管に加え、続いて10μl/管の抗体変種を加えた。管を回転機により4℃で2時間インキュベートした。マイクロ遠心分離管を2000RPMにより室温で2分間遠心分離し、細胞ペレットを500μlの培地で洗浄した。それぞれの細胞ペレットを、培地で2μg/試料に希釈された100μlの蛍光標識二次抗体に再懸濁した。次に試料を回転機により4℃で1時間インキュベートした。インキュベートした後、細胞を2000RPMにより2分間遠心分離し、培地で洗浄した。細胞を500μlの培地に再懸濁し、5μlのヨウ化プロピジウム(PI)を含有する管で濾過し、製造会社の使用説明書に従ってBD LSRIIフローサイトメーターにより分析した。
【0304】
この実験の結果は、v1323が、試験した細胞に結合できることを示した(データ示されず)。
【0305】
本明細書に記述された全ての公報、特許、および特許出願は、まるでそれぞれ個別の公報、特許、および特許出願が特定的および個別に参照として組み込まれるように示されているかのように、同じ程度で、参照として本明細書に組み込まれる。