特許第6351586号(P6351586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351586
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びその加硫成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 11/00 20060101AFI20180625BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20180625BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20180625BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20180625BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   C08L11/00
   C08L7/00
   C08L9/00
   C08K5/11
   C08K5/06
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-521460(P2015-521460)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2014064777
(87)【国際公開番号】WO2014196544
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2017年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-116849(P2013-116849)
(32)【優先日】2013年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】牧野 健太
(72)【発明者】
【氏名】小林 直紀
(72)【発明者】
【氏名】阿部 靖
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/035109(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103102545(CN,A)
【文献】 国際公開第2012/063548(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103073765(CN,A)
【文献】 特開平02−158639(JP,A)
【文献】 特開平09−151272(JP,A)
【文献】 特開2009−029994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレンゴム10〜90質量%と、天然ゴム又はイソプレンゴム10〜90質量%からなるゴム成分100質量部に対して、
下記化学式(I)で表される構造のアジピン酸系可塑剤を3〜30質量部含有するゴム組成物。
(上記化学式(I)において、R,Rは、炭素数の合計が1〜20の整数であるアルキル基、又はアルキル基が1以上のエーテル結合で結ばれ、かつ炭素数の合計が1以上20以下の整数であるエーテルを示す。)
【請求項2】
前記クロロプレンゴムは、メルカプタン変性クロロプレンゴム、キサントゲン変性クロロプレンゴム及び硫黄変性クロロプレンゴムから選ばれる少なくとも1種のクロロプレンゴムである請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記アジピン酸系可塑剤は、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ビス(2−ブトキシエチル)及びアジピン酸ビス[2−(2−ブトキシエトキシ)エチル]から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
更に、前記ゴム成分100質量部あたり、下記化学式(II)で表される構造のグリコールエーテル系可塑剤を0.1〜10質量部含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
(上記化学式(II)において、Rは、炭素数の合計が1〜20の整数であるアルキル基、又はアルキル基が1以上のエーテル結合で結ばれ、かつ炭素数の合計が1〜20の整数であるエーテルを示す。)
【請求項5】
前記グリコールエーテル系可塑剤は、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル及びジエチレングリコールモノ(2−エチルヘキシル)エーテルから選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム組成物を加硫成形して得た加硫成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びこのゴム組成物を加硫成形した加硫成形体に関する。より詳しくは、クロロプレンゴムに、天然ゴム又はイソプレンゴムを配合したブレンドゴム組成物及びその加硫形成体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴムは、耐熱性、耐候性、耐オゾン性及び耐薬品性などに優れており、一般的な工業用ゴム製品、自動車用部品及び接着剤などの幅広い分野で使用されている。一方、クロロプレンゴムは、用途によっては低温環境下でのゴム特性が不足する場合がある。そこで、従来、低温特性を改善するため、比較的低温特性に優れる天然ゴムをクロロプレンゴムに混合して用いることについて、検討がなされている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、クロロプレンゴムと天然ゴムとからなるブレンドゴムに、硫黄系加硫剤及びチウラム系化合物を添加することにより、低温でのゴム特性に加えて、貯蔵安定性や加工安全性を向上させたゴム組成物が提案されている。また、特許文献2には、天然ゴムとクロロプレンゴムと硫黄と亜鉛華と、天然ゴムは加硫するがクロロプレンゴムは加硫しない加硫促進剤とを含むゴム組成物が開示されている。この特許文献2に記載のゴム組成物では、通常の加硫促進剤と、天然ゴムに対しては有効であるがクロロプレンゴムには効果の少ない加硫促進剤とを併用することにより、減衰特性と低温特性とのバランス改善を図っている。
【0004】
更に、特許文献3には、加硫成形体の機械的強度向上を目的として、クロロプレンゴムと天然ゴムとのブレンドゴムに、スチレンとブタジエンとの共重合体を特定量配合したクロロプレンゴム組成物が提案されている。特許文献3のクロロプレンゴム組成物では、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体がクロロプレンゴムと天然ゴムの相容化剤となり、クロロプレンゴム中に天然ゴムを微分散させた状態でこれらを共加硫させることができるため、幅広い温度範囲に亘って圧縮永久ひずみが良好で、機械的強度にも優れた加硫物が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−172046号公報
【特許文献2】特開平11−153169号公報
【特許文献3】特開2012−111899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した特許文献3に記載のゴム組成物は、クロロプレンゴムと天然ゴムの混合比が、質量比で、60:40〜95:5の範囲から外れると、スチレンとブタジエンとのブロック共重合体が相溶化剤として十分に機能しないという問題がある。このため、相容化剤としてスチレンとブタジエンのブロック共重合体を用いずに、クロロプレンゴムと天然ゴムの混合比を任意に設定可能で、機械的強度及び低温特性に優れた加硫成形体が得られるゴム組成物が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、相容化剤としてスチレンとブタジエンのブロック共重合体を用いなくても、クロロプレンゴム本来の機械的強度を保持し、低温特性にも優れた加硫形成体が得られるゴム組成物及び加硫形成体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゴム組成物は、クロロプレンゴム10〜90質量%と、天然ゴム又はイソプレンゴム10〜90質量%からなるゴム成分100質量部に対して、下記化学式(I)で表される構造のアジピン酸系可塑剤を3〜30質量部含有するものである。
【0009】
【化1】
【0010】
上記化学式(I)において、R,Rは、炭素数の合計が1〜20の整数であるアルキル基、又はアルキル基が1以上のエーテル結合で結ばれ、かつ炭素数の合計が1以上20以下の整数であるエーテルを示す。
【0011】
前記クロロプレンゴムとしては、例えば、メルカプタン変性クロロプレンゴム、キサントゲン変性クロロプレンゴム及び硫黄変性クロロプレンゴムから選ばれる少なくとも1種のクロロプレンゴムを用いることができる。
また、前記アジピン酸系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ビス(2−ブトキシエチル)及びアジピン酸ビス[2−(2−ブトキシエトキシ)エチル]から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることができる。
一方、本発明に係るクロロプレンゴムは、更に、前記ゴム成分100質量部あたり、下記化学式(II)で表される構造のグリコールエーテル系可塑剤を0.1〜10質量部含有していてもよい。
【0012】
【化2】
【0013】
上記化学式(II)において、Rは、炭素数の合計が1〜20の整数であるアルキル基、又はアルキル基が1以上のエーテル結合で結ばれ、かつ炭素数の合計が1〜20の整数であるエーテルを示す。
【0014】
前記グリコールエーテル系可塑剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル及びジエチレングリコールモノ(2−エチルヘキシル)エーテルから選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることができる。
【0015】
本発明に係る加硫成形体は、前述したゴム組成物を加硫成形して得たものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、相容化剤としてスチレンとブタジエンのブロック共重合体を用いなくても、低温でのゴム特性に優れると共に機械的強度にも優れた加硫成形体を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るゴム組成物について説明する。本実施形態のゴム組成物は、クロロプレンゴム10〜90質量%と、天然ゴム又はイソプレンゴム10〜90質量%とからなるゴム成分100質量部に対して、特定構造のアジピン酸系可塑剤を3〜30質量部含有する。
【0019】
[クロロプレンゴム]
クロロプレンゴムは、2−クロロ−1,3−ブタジエンを含む原料単量体を、分子量を調整しながら重合したものである。本実施形態のゴム組成物に用いるクロロプレンゴムは、2−クロロ−1,3−ブタジエンを単独で重合したものでもよく、また、2−クロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能な1種以上の他の単量体と共重合したものでもよい。
【0020】
クロロプレンと共重合可能な単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸のエステル類や、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸のエステル類や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート類や、1−クロロ−1,3−ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン及びアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0021】
本実施形態のゴム組成物には、特に、2−クロロ−1,3−ブタジエンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとを共重合したクロロプレンゴムが好ましく、2,3−ジクロロブタジエン単位を5〜20質量%含有するクロロプレンゴムがより好ましい。このようなクロロプレンゴムを用いると、耐熱性だけでなく、低温域から高温域に亘る幅広い温度範囲において、更にゴム特性に優れた加硫成形体を得ることができる。
【0022】
一方、クロロプレンゴムは、その結晶化速度に応じて、結晶化速度が遅いタイプ、結晶化速度が中庸であるタイプ及び結晶化速度が速いタイプなどに分類することもできる。本実施形態のゴム組成物は、前述した各タイプのクロロプレンゴムのいずれを用いてもよく、用途などに応じて適宜選択して使用することができる。
【0023】
クロロプレンゴムは、例えば、硫黄変性クロロプレンゴムと非硫黄変性クロロプレンゴムとに分類することができる。硫黄変性クロロプレンゴムは、2−クロロ−1,3−ブタジエンを主成分とする原料単量体と硫黄とを共重合し、得られた共重合体をチウラムジスルフィドで可塑化して、所定のムーニー粘度に調整したものである。
【0024】
また、非硫黄変性クロロプレンゴムとしては、一般に、メルカプタン変性クロロプレンゴム及びキサントゲン変性クロロプレンゴムが知られている。ここで、メルカプタン変性クロロプレンゴムは、分子量調整剤にn−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン及びオクチルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類を使用して重合したものであり、キサントゲン変性クロロプレンゴムは、分子量調整剤にアルキルキサントゲン化合物を使用して重合したものである。
【0025】
本実施形態のゴム組成物は、前述した分類の制約は受けず、いずれの種類のクロロプレンも使用することができる。また、クロロプレンゴムは、1種類のみを使用してもよいが、種類が異なる複数のクロロプレンゴムを組み合わせて使用することもでき、その場合の混合比は特に限定されるものではなく、目的や用途に応じて適宜設定することができる。
【0026】
[天然ゴム又はイソプレンゴム]
本実施形態のゴム組成物には、公知の天然ゴム又はイソプレンゴムを使用することができ、その産地、種類及び構造は特に限定されない。また、天然ゴム及びイソプレンゴムは、1種類のみを使用してもよいが、産地や構造などが異なる複数の天然ゴム又はイソプレンゴムを、目的や用途に応じて任意の比率で混合して使用することもできる。
【0027】
[クロロプレンゴムと天然ゴム又はイソプレンゴムの混合比]
本実施形態のゴム組成物のゴム成分は、クロロプレンゴムと天然ゴム又はイソプレンゴムである。ゴム成分のクロロプレン含有率が10質量%未満の場合、即ち天然ゴム又はイソプレンゴムの含有率が90質量%よりも多いと、加硫成形体の耐熱性や耐候性が不足する。一方、クロロプレンゴムに天然ゴム又はイソプレンゴムを混合すると、加硫成形体の低温特性を向上させることができるが、ゴム成分のクロロプレン含有率が90質量%を超える場合、即ち天然ゴム又はイソプレンゴムの含有率が10質量%未満のときは、加硫成形体の低温特性が不足する。
【0028】
よって、ゴム成分のクロロプレン含有率は10〜90質量%とする。なお、ゴム成分の天然ゴム又はイソプレンゴムの含有率は10〜90質量%であり、クロロプレンゴムと天然ゴム又はイソプレンゴムの混合比は、質量比で、クロロプレンゴム:天然ゴム又はイソプレンゴム=10:90〜90:10である。また、前述した加硫成形体の特性向上の観点から、クロロプレンゴムと天然ゴム又はイソプレンゴムの混合比は、質量比で、クロロプレンゴム:天然ゴム又はイソプレンゴム=35:65〜85:15とすることが好ましく、クロロプレンゴム:天然ゴム又はイソプレンゴム=60:40〜80:20とすることがより好ましい。
【0029】
[アジピン酸系可塑剤]
本実施形態のゴム組成物に用いられるアジピン酸系可塑剤は、下記化学式(I)で表される化学構造を有する。なお、下記化学式(I)において、R,Rは、炭素数の合計が1〜20の整数であるアルキル基、又はアルキル基が1以上のエーテル結合で結ばれ、かつ炭素数の合計が1以上20以下の整数であるエーテルを示す。
【0030】
【化3】
【0031】
本実施形態のゴム組成物は、上記化学式(I)で表されるアジピン酸系可塑剤を、ゴム成分100質量部に対して3〜30質量部含有する。アジピン酸系可塑剤の配合量が、ゴム成分100質量部あたり3質量部未満の場合、クロロプレンゴムに天然ゴムやイソプレンゴムが安定して分散されず、これらのゴムの微分散状態が不安定となり、加硫成形体の機械的強度が低下する。また、アジピン酸系可塑剤の配合量が、ゴム成分100質量部あたり30質量部を超えると、可塑剤量が過剰となり、ブリードアウトによる外観不良の原因となる。
【0032】
上記化学式(I)で表されるアジピン酸系可塑剤の配合量は、加硫成形体の機械的強度向上の観点から、ゴム成分100質量部あたり5質量部以上であることが好ましく、また、可塑剤のブリードアウト発生抑制の観点から、ゴム成分100質量部あたり20質量部以下であることが好ましい。
【0033】
本実施形態のゴム組成物に用いられるアジピン酸系可塑剤は、上記化学式(I)で表される構造のものであればよく、その種類などは特に限定されるものではない。各種アジピン酸系可塑剤の中でも、加硫成形体としたときの引張り強度と破断伸びのバランスの観点から、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ビス(2−ブトキシエチル)、アジピン酸ビス[2−(2−ブトキシエトキシ)エチル]が好ましい。これらのアジピン酸系可塑剤は、1種類を単独で用いることができるが、複数を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
[グリコールエーテル系可塑剤]
本実施形態のゴム組成物には、前述した各成分に加えて、更に、下記化学式(II)で表される構造のグリコールエーテル系可塑剤を配合することもできる。なお、下記化学式(II)において、Rは、炭素数の合計が1〜20の整数であるアルキル基、又はアルキル基が1以上のエーテル結合で結ばれ、かつ炭素数の合計が1〜20の整数であるエーテルを示す。
【0035】
【化4】
【0036】
上記化学式(II)で表される構造のグリコールエーテル系可塑剤を配合する場合は、ゴム成分100質量部あたり、0.1〜10質量部とすることが好ましい。これにより、加硫成形体の機械的強度を更に向上させることができる。なお、グリコールエーテル系可塑剤の配合量が、ゴム成分100質量部あたり、0.1質量部未満又は10質量部を超えると、加硫成形体の機械的強度を向上させる効果が不十分となる。
【0037】
本実施形態のゴム組成物に配合されるグリコールエーテル系可塑剤は、上記化学式(II)で表される構造のものであればよく、その種類などは特に限定されるものではない。各種グリコールエーテル系可塑剤の中でも、加硫成形体としたときの機械的強度向上の観点から、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル及びジエチレングリコールモノ(2−エチルヘキシル)エーテルが好ましい。これらのグリコールエーテル系可塑剤は、1種類を単独で用いることができるが、複数を組み合わせて用いることもできる。
【0038】
[加硫剤]
本実施形態のゴム組成物には、加硫剤が添加されていてもよい。本実施形態のゴム組成物に添加可能な加硫剤としては、硫黄、ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、バリウム、ゲルマニウム、チタニウム、錫、ジルコニウム、アンチモン、バナジウム、ビスマス、モリブデン、タングステン、テルル、セレン、鉄、ニッケル、コバルト及びオスミウムなどの金属単体、又はこれらの金属の酸化物や水酸化物などが挙げられる。これらの加硫剤の中でも、特に加硫効果が高いことから、硫黄、酸化カルシウム、酸化亜鉛、二酸化アンチモン、三酸化アンチモン、酸化マグネシウムが好ましい。なお、加硫剤は、1種を単独で使用してもよいが、2種以上を併用してもよい。
【0039】
[その他の副原料]
本実施形態のゴム組成物には、前述した各成分の他に、加硫促進剤、充填剤又は補強剤、可塑剤、加工助剤や滑剤、老化防止剤、シランカップリング剤などのゴム製品の製造で通常用いられる各種副原料が添加されていてもよい。
【0040】
<加硫促進剤>
本実施形態のゴム組成物に配合される加硫促進剤は、特に限定されるものではないが、例えばチオウレア系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤及びグアニジン系加硫促進剤などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0041】
<充填剤又は補強剤>
充填剤や補強剤は、ゴムの硬さを調整したり機械強度を向上させるために添加するものであり、その種類などは特に限定されるものではないが、例えばカーボンブラック、シリカ、クレー、タルク及び炭酸カルシウムが挙げられる。また、これらの充填剤及び補強剤の配合量も、特に限定されるものではなく、ゴム組成物やその加硫成形体に要求される物性に応じて適宜設定することができる。
【0042】
なお、充填剤又は補強剤の配合量は、加工性と加硫成形体の機械的強度のバランスの観点から、通常は、ゴム成分100質量部あたり15〜200質量部である。充填剤又は補強剤の配合量が、ゴム成分100質量部あたり15質量部未満の場合、加硫成形体の強度が不足することがある。また、ゴム成分100質量部あたり200質量部を超えて充填剤又は補強剤を配合すると、加工性が急激に劣化する虞がある。
【0043】
<その他の可塑剤>
本実施形態のゴム組成物には、前述したアジピン酸系可塑剤及びグリコールエーテル系可塑剤以外の可塑剤が配合されていてもよい。本実施形態のゴム組成物に添加されるその他の可塑剤は、クロロプレンゴムと相溶性のあるものであれば特に限定されるものではなく、例えば菜種油、アマニ油、ヒマシ油、ヤシ油などの植物油、フタレート系可塑剤、DUP(フタル酸ジウンデシル)、DOS(セバシン酸ジオクチル)、DOA(アジピン酸ジオクチル)、エステル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤、チオエーテル系可塑剤、アロマ系オイル、ナフテン系オイル、潤滑油、プロセスオイル、パラフィン、流動パラフィン、ワセリン、石油アスファルトなどの石油系可塑剤が挙げられる。
【0044】
これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、その他の可塑剤の配合量は、ゴム組成物やその加硫成形体に要求される物性に応じて適宜設定することができるが、加工性更なる向上の観点から、ゴム成分100質量部あたり5〜50質量部とすることが好ましい。
【0045】
<加工助剤、滑剤>
加工助剤や滑剤は、ゴム組成物を混練したり加硫成形したりする際に、ロールや成形金型、押出機のスクリューなどから剥離しやすくして、加工特性や表面滑性を向上させるために添加される。加工助剤や滑剤の具体例としては、ステアリン酸などの脂肪酸系加工助剤、ポリエチレンなどのパラフィン系加工助剤、脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0046】
<老化防止剤>
本実施形態のゴム組成物には、耐熱性を向上させる目的で、老化防止剤を配合することができる。通常のゴム組成物に使用されている老化防止剤には、ラジカルを捕捉して自動酸化を防止する一次老化防止剤と、ハイドロパーオキサイドを無害化する二次老化防止剤とがあり、本実施形態のゴム組成物には、そのいずれも用いることができる。
【0047】
ここで、一次老化防止剤の具体例としては、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、アクリレート系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、カルバミン酸金属塩、ワックスなどが挙げられる。また、二次次老化防止剤の具体例としては、リン系老化防止剤、硫黄系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤などが挙げられる。これらの老化防止剤は、単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0048】
<シランカップリング剤>
本実施形態のゴム組成物には、クロロプレンゴムや天然ゴムと充填剤や補強剤との接着性を高め、加硫形成体の機械的強度を向上させるために、充填剤や補強剤と併せて、シランカップリング剤が添加されていてもよい。シランカップリング剤は、ゴム組成物を混練する際に添加してもよいが、予め充填剤又や補強剤をシランカップリング剤で表面処理しておき、この充填剤や補強剤を副原料として添加する際に、併せて添加される形式を採用することもできる。
【0049】
[製造方法]
本実施形態のゴム組成物を製造する際は、通常のゴム組成物の製造方法を適用することができる。具体的には、本実施形態のゴム組成物は、クロロプレンゴムと、天然ゴム又はイソプレンゴムと、アジピン酸系可塑剤と、必要に応じて、グリコールエーテル系可塑剤、加硫剤、その他の副原料を、所定量計量して混合することにより製造することができる。その際の混合方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ニーダー、オープンロール、バンバリーミキサー及び押出機などの公知の混練装置を用いて、加硫温度以下の温度で混練すればよい。
【0050】
本実施形態のゴム組成物は、クロロプレンゴムと天然ゴム又はイソプレンゴムとのブレンドゴムに、特定構造のアジピン酸系可塑剤を特定量添加しているため、低温でのゴム特性に優れると共に、機械的強度にも優れ、工業的に有用な種々の加硫成形体を得ることができる。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る加硫成形体について説明する。本実施形態の加硫成形体は、前述した第1の実施形態のゴム組成物を、目的に応じた形状に加硫成形したものである。その際の加硫成形方法は、特に限定されるものではなく、ゴム組成物を成形中又は成形した後に、例えばプレス加硫、インジェクション加硫、直接釜加硫、間接釜加硫、直接蒸気連続加硫、常圧連続加硫又は連続加硫プレスなどの公知の方法により加硫すればよい。
【0052】
加硫温度も、特に限定されるものではなく、ゴム組成物の組成や加硫剤の種類によって適宜設定することができる。通常は、生産性及び加工安全性の観点から、加硫温度は、140〜190℃とすることが好ましく、150〜180℃とすることがより好ましい。ここで、「加工安全性」とは、スコーチタイムにより評価される加工特性であり、不良発生率に大きく影響する。具体的には、スコーチタイムが短いと、高温での成形中に未加硫ゴム成分が加硫されて成形不良が発生する頻度が高くなる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、成分組成を変えて実施例及び比較例のゴム組成物を作製し、加硫成形体としたときの特性を評価した。
【0054】
[ゴム組成物の作製]
クロロプレンゴム、天然ゴム又はイソプレンゴム及びアジピン酸系可塑剤と、一部の実施例ではグリコールエーテル系可塑剤を加え、更に、補強剤のカーボンブラック、加工助剤のステアリン酸、老化防止剤を所定の比率で配合して、加圧式型ニーダー試験機で混練した。ニーダー試験機で得られた混練物に、所定比率で加硫剤の硫黄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム及び加硫促進剤のエチレンチオウレアを更に加えて、直径8インチの2本オープンロールを用いて40℃で混練し、厚さ2.3mmのゴム組成物シートを作製した。
【0055】
その際、クロロプレンゴムには、メルカプタン変性クロロプレンゴム、キサントゲン変性クロロプレンゴム及び硫黄変性クロロプレンゴムを使用した。また、天然ゴムには、標準マレーシアゴムを使用し、イソプレンゴムは市販品を使用した。更に、アジピン酸系可塑剤とグリコールエーテル系可塑剤は、市販品を用いた。加硫剤には硫黄、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムを使用し、加硫促進剤にはエチレンチオウレアを用いた。カーボンブラックはN−762、加工助剤はステアリン酸を用いた。老化防止剤は、N−フェニル−1−ナフチルアミンと、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンを用いた。
【0056】
[評価]
前述した方法で作製した実施例及び比較例の各ゴム組成物シートを、160℃の温度で、5分間、圧力0.8MPaの条件でプレス加硫し、厚さ2.0mmの加硫成形体シートを作製した。この成形体シートから、試験片を切り出し、以下に示す方法で、引張り強度、破断伸び、デュロメーター硬さ及び脆化温度を測定した。
【0057】
<引張り強度、破断伸び>
引張り強度及び破断伸びは、機械的強度の指標となる値であり、JIS K6251に準拠して測定した。具体的には、加硫成形体シートからダンベル状3号形試験片を切り出し、全自動ゴム引張り試験機(島津製作所社製 AGS‐H)を用いて、23℃の温度条件下で、引張り速度500mm/分の条件で測定した。その結果、引張り強度が15MPa以上、破断伸びが450%以上の値を示したものを合格とした。
【0058】
<デュロメーター硬さ>
デュロメーター硬さは、JIS K6253−3に準拠し、23℃の温度条件下で、加硫成形体シートを3枚重ねた状態で測定した。測定には、硬度計(アスカーゴム硬度計A型)を使用した。その結果、デュロメーター硬さが40〜70ポイントであったものを合格とした。
【0059】
<脆化温度>
脆化温度は、低温特性の指標となる値であり、JIS K6261に準拠して測定した。具体的には、脆化温度は、一定温度の試験槽に入れた片持ばりの短冊状試験片に、所定の打撃を与えて、その破壊個数を各温度で測定し、その値を所定計算式に代入して算出した。その結果、脆化温度が−40℃以下であったものを合格とした。
【0060】
実施例及び比較例のゴム組成物の配合及びその評価結果を、下記表1〜6にまとめて示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
上記表1に示すように、比較例1のゴム組成物は、アジピン酸系可塑剤の添加量が少なかったため、実施例1〜4のゴム組成物に比べて、加硫成形体の機械的強度が劣っていた。また、比較例2は、アジピン酸系可塑剤の添加量が多いため、ブリードアウトによる外観不良が発生した。また、上記表2,3に示すように、比較例3〜6のゴム組成物は、可塑剤が上記化学式(I)に示す構造のアジピン酸系可塑剤ではないため、実施例2,5〜14のゴム組成物に比べて、加硫成形体の機械的強度が劣っていた。
【0068】
上記表4に示すように、ゴム成分がクロロプレンゴムのみで、天然ゴムやイソプレンゴムを混合していない比較例8〜10のゴム組成物は、ゴム成分がクロロプレンゴムと天然ゴムの混合ゴムである実施例2,15〜19のゴム組成物に比べて、低温特性(脆化温度)が劣っていた。また、ゴム成分が天然ゴムのみで、クロロプレンゴムを混合していない比較例7のゴム組成物は、実施例2,15〜19のゴム組成物に比べて、機械的強度(引張強度)が劣っていた。
【0069】
一方、上記表5,6に示すように、特定構造のアジピン酸系可塑剤とグリコールエーテル系可塑剤とを併用した実施例20〜31のゴム組成物は、アジピン酸系可塑剤のみを添加した実施例2のゴム組成物に比べて、加硫成形体としたときの破断伸びが向上していた。
【0070】
以上の結果から、クロロプレンゴムと天然ゴム又はイソプレンゴムとのブレンドゴムに、特定のアジピン酸系可塑剤を特定量配合して加硫成形することにより、機械的強度と低温特性に優れる加硫成形体が得られることが確認された。