(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水素化反応用触媒が、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種の金属、並びに、モリブデン、タングステン、及びレニウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のいずれか一方又は両方を含む固体触媒である請求項1に記載の水素化反応用触媒の再生方法。
前記被毒物質が、ナトリウム、カリウム、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種の金属を含む無機化合物、又は、窒素、硫黄、酸素、及びリンからなる群より選択される少なくとも一種の原子を含む有機化合物である請求項1又は2に記載の水素化反応用触媒の再生方法。
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素化反応用触媒の再生方法により前記水素化反応用触媒を再生し、再生後の水素化反応用触媒の存在下、多価アルコールと水素とを反応させて前記多価アルコールの水素化物を生成させることを特徴とする多価アルコールの水素化物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、グリセリンやエリスリトールを原料とし、これを水素化反応用触媒(担体に担持されたイリジウム及び担体に担持されたレニウムを含む触媒)の存在下で水素と反応させることによって、炭素数3のアルコール類や炭素数4のアルコール類を製造できることを見出している。しかしながら、上記反応において使用される触媒は、上記原料に含まれる硫黄成分等の被毒物質により被毒されて失活し、使用を重ねると目的とする生成物が得られなくなってしまうという問題が生じることが明らかとなった。
【0007】
上記問題に対し、本発明者らが検討を重ねた結果、失活した触媒を焼成炉で高温焼成することにより、上記触媒の触媒活性を回復させることができ、触媒を再生させることができることを見出した。しかしながら、この方法には、主に以下の2つの点で未だ改善の余地があった。即ち、上記方法には、触媒を焼成する工程以外にも、反応器から触媒を取り出す工程、焼成後に反応器に触媒を再充填する工程、水素化反応前に触媒を還元する工程といった煩雑な工程を必要とし、工程数が増えるというデメリットがあった。さらに、上記方法には、触媒の高温焼成を行うことにより、該触媒中の昇華性の酸化レニウムが昇華してしまい、触媒中の金属が減少するというデメリットがあった。このように触媒中の金属が減少すると、活性点が減少するため触媒の性能は完全に回復せず、何度も繰り返し再使用することができなかった。さらに、焼成後には選択性(例えば、グリセリンを使用した場合の1,3−プロパンジオールの選択性)が若干低下するという問題が生じることも明らかとなった。
【0008】
従って、本発明の目的は、多価アルコールと水素との反応に用いられて被毒された水素化反応用触媒を再生させる方法であって、煩雑な工程の増加や触媒中の金属の減少を生じさせることなく、高い選択性を維持しつつ触媒活性を高いレベルにまで回復させることができる水素化反応用触媒の再生方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記再生方法により上記水素化反応用触媒を再生し、再生後の水素化反応用触媒を用いて、優れた生産性で多価アルコールの水素化物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、多価アルコールと水素とを反応させて多価アルコールの水素化物を製造する際に用いられた被毒された水素化反応用触媒を、特定の再生処理に付すことにより、煩雑な工程の増加や触媒中の金属の減少を生じさせることなく、高い選択性を維持しつつ触媒活性を高いレベルにまで回復させることができることを見出した。また、上記方法により再生された水素化反応用触媒の存在下で多価アルコールと水素との反応を行うと、優れた生産性で多価アルコールの水素化物を製造できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、多価アルコールと水素とを反応させて前記多価アルコールの水素化物を製造する際に用いられた、被毒物質により被毒された水素化反応用触媒を再生させる方法であって、
前記水素化反応用触媒を、下記再生処理(1)及び再生処理(2)のいずれか一方又は両方の再生処理に付すことを特徴とする水素化反応用触媒の再生方法を提供する。
再生処理(1):水素化反応用触媒を水及び有機溶剤のいずれか一方又は両方により洗浄する処理
再生処理(2):窒素を含む気体の流通下、水素化反応用触媒を80〜300℃に加熱する処理
【0011】
さらに、前記水素化反応用触媒が、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種の金属、並びに、モリブデン、タングステン、及びレニウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のいずれか一方又は両方を含む固体触媒である前記の水素化反応用触媒の再生方法を提供する。
【0012】
さらに、前記被毒物質が、ナトリウム、カリウム、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種の金属を含む無機化合物、又は、窒素、硫黄、酸素、及びリンからなる群より選択される少なくとも一種の原子を含む有機化合物である前記の水素化反応用触媒の再生方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記の水素化反応用触媒の再生方法により前記水素化反応用触媒を再生し、再生後の水素化反応用触媒の存在下、多価アルコールと水素とを反応させて前記多価アルコールの水素化物を生成させることを特徴とする多価アルコールの水素化物の製造方法を提供する。
【0014】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]多価アルコールと水素とを反応させて前記多価アルコールの水素化物を製造する際に用いられた、被毒物質により被毒された水素化反応用触媒を再生させる方法であって、
前記水素化反応用触媒を、下記再生処理(1)及び再生処理(2)のいずれか一方又は両方の再生処理に付すことを特徴とする水素化反応用触媒の再生方法。
再生処理(1):水素化反応用触媒を水及び有機溶剤のいずれか一方又は両方により洗浄する処理
再生処理(2):窒素を含む気体の流通下、水素化反応用触媒を80〜300℃に加熱する処理
[2]前記水素化反応用触媒が、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種の金属、並びに、モリブデン、タングステン、及びレニウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のいずれか一方又は両方を含む固体触媒である[1]に記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[3]前記水素化反応用触媒が、イリジウムと、レニウムとを少なくとも含む触媒である[1]又は[2]に記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[4]前記水素化反応用触媒が、担体と、担体に担持されたイリジウム及び担体に担持されたレニウムとを少なくとも含む触媒である[1]〜[3]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[5]前記担体が、シリカ(SiO
2)、チタニア(TiO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、マグネシア(MgO)、又はこれら無機酸化物の二種以上の複合体である[4]に記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[6]前記担体が、シリカ(SiO
2)、又はゼオライトである[4]又は[5]に記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[7]前記担体の比表面積が50m
2/g以上、細孔径が1〜100nm、平均粒径が100〜10000μmである[4]〜[6]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[8]前記水素化反応用触媒におけるイリジウムの担体への担持量が、イリジウムと担体の総量(100重量%)に対して、0.01〜50重量%であり、イリジウムとレニウムの割合(モル比、金属換算)[イリジウム/レニウム]が、50/1〜1/6である[4]〜[7]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[9]前記水素化反応用触媒において、レニウムをイリジウムと同じ担体に担持させる方法が、イリジウムを含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後の担体に対して、さらにレニウムを含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後、焼成する方法である[4]〜[8]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[10]前記被毒物質が、ナトリウム、カリウム、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種の金属を含む無機化合物、又は、窒素、硫黄、酸素、及びリンからなる群より選択される少なくとも一種の原子を含む有機化合物である[1]〜[9]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[11]前記再生処理(1)における有機溶剤が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(イソプロパノール)、及びブタノールからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤である[1]〜[10]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[12]前記再生処理(1)における有機溶剤が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(イソプロパノール)、及びブタノールからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤である[1]〜[11]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[13]前記再生処理(1)において水素化反応用触媒を洗浄する方法が、反応器から水素化反応用触媒を取り出すことなく洗浄する方法である[1]〜[12]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[14]前記再生処理(1)における水及び有機溶剤のいずれか一方又は両方(洗浄液と称する)を流通させる際の流通速度が、液空間速度(LHSV)として、0.5〜5.0hr
-1であり、洗浄温度が0〜250℃、総洗浄時間が1〜12時間、洗浄が空気雰囲気下、又は窒素雰囲気下であり、洗浄の回数が1〜10回である[1]〜[13]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[15]前記再生処理(2)が、窒素を含む気体の流通下、水素化反応用触媒を80〜300℃に加熱する処理である[1]〜[14]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[16]前記再生処理(2)における窒素を含む気体が、窒素である[1]〜[15]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[17]前記再生処理(2)における窒素を含む気体の流通速度が、空間速度(SV)として200〜600hr
-1、水素化反応用触媒の総加熱時間が0.5〜48時間、加熱処理の回数が1〜10回である[1]〜[16]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[18]前記多価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールS、及び糖アルコールからなる群より選択される少なくとも1つである[1]〜[17]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[19]前記多価アルコールが、グリセリン、及び/又はエリスリトールである[1]〜[18]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[20]前記多価アルコールの水素化物が、炭素数3の一価のアルコール、炭素数3の二価のアルコール、炭素数4の一価のアルコール、炭素数4の二価のアルコール、及び炭素数4の三価のアルコールからなる群より選択される少なくとも1つである[1]〜[19]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[21]前記多価アルコールの水素化物が、プロパンジオール、ブタンジオール、及びブタントリオールからなる群より選択される少なくとも1つである[1]〜[20]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[22]前記多価アルコールの水素化物の製造方法における多価アルコールと水素との反応が、固体である再生処理後の水素化反応用触媒の存在下、液状の多価アルコールと水素とを反応させる気液固三相系の反応である[1]〜[21]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[23]前記多価アルコールの水素化物の製造方法における多価アルコールと水素との反応において、多価アルコールの濃度(原料液100重量%に対する多価アルコールの含有量)が、5〜100重量%であり、反応温度が50〜200℃であり、反応圧力が、1〜50MPaである[1]〜[22]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法。
[24][1]〜[23]のいずれかに記載の水素化反応用触媒の再生方法により前記水素化反応用触媒を再生し、再生後の水素化反応用触媒の存在下、多価アルコールと水素とを反応させて前記多価アルコールの水素化物を生成させることを特徴とする多価アルコールの水素化物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水素化反応用触媒の再生方法は上記構成を有するため、触媒の高い選択性を維持しつつ触媒活性を高いレベルにまで回復させることができる。また、煩雑な工程の増加を必要としない。さらに、焼成のように非常に高い温度で加熱する必要がないため、酸化・還元等の化学反応を伴わず、触媒中の金属の変化や減少を生じることもない。これにより、硫黄化合物等の被毒物質による触媒被毒の問題を解決することができ、触媒の1000時間以上の連続使用が可能になった。さらに、上記再生方法により水素化反応用触媒を再生し、再生後の触媒の存在下で多価アルコールと水素との反応(多価アルコールの水素化反応)を進行させる方法によると、優れた生産性で多価アルコールの水素化物を製造することができるため、コスト面で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<水素化反応用触媒の再生方法>
本発明の水素化反応用触媒の再生方法(単に「本発明の触媒の再生方法」と称する場合がある)は、多価アルコールと水素とを反応させて上記多価アルコールの水素化物を製造する際に用いられた、被毒物質により被毒された水素化反応用触媒(多価アルコールの水素化反応用触媒)を再生させる方法であって、上記水素化反応用触媒を、下記再生処理(1)及び再生処理(2)のいずれか一方又は両方の再生処理に付すことを特徴とする方法である。
再生処理(1):水素化反応用触媒を水及び有機溶剤のいずれか一方又は両方により洗浄する処理
再生処理(2):窒素を含む気体の流通下、水素化反応用触媒を80〜300℃に加熱する処理
【0017】
[水素化反応用触媒]
本発明の触媒の再生方法において再生させる水素化反応用触媒は、多価アルコールと水素とを反応させて上記多価アルコールの水素化物を製造する際に用いられた、被毒物質により被毒された水素化反応用触媒である。上記水素化反応用触媒としては、上述の多価アルコールと水素との反応(水素化反応)に使用可能な公知乃至慣用の水素化反応用触媒が挙げられ、特に限定されないが、例えば、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種の金属(「金属(1)」と称する場合がある)、並びに、モリブデン、タングステン、及びレニウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属(「金属(2)」と称する場合がある)のいずれか一方又は両方を含む固体触媒などが挙げられる。上記固体触媒においては、通常、上記金属(1)が水素を活性化させる機能を発揮し、上記金属(2)が基質(多価アルコール)を活性化させる機能を発揮する。このような観点から、上記固体触媒としては、特に、金属(1)及び金属(2)を含む固体触媒が好ましい。
【0018】
上記水素化反応用触媒としては、特に、上記水素化反応における反応性と選択性に優れるという点で、金属(1)としてイリジウムと、金属(2)としてレニウムとを少なくとも含む固体触媒が好ましく、より好ましくは担体と、担体に担持されたイリジウム及び担体に担持されたレニウムとを少なくとも含む触媒(固体触媒)である。なお、本明細書においては、上述の担体と、担体に担持されたイリジウム及び担体に担持されたレニウムとを少なくとも含む触媒を、特に「本発明の触媒」と称する場合がある。以下、特に本発明の触媒について具体的に説明するが、本発明の触媒の再生方法における水素化反応用触媒は、本発明の触媒に限定されるものではない。
【0019】
本発明の触媒におけるイリジウム及びレニウムは、それぞれ、担体に担持されていればよく、その形態(状態)は特に限定されない。イリジウム及びレニウムの形態としては、特に限定されないが、それぞれ、例えば、単体、塩、酸化物、水酸化物、錯体などの形態が挙げられる。
【0020】
本発明の触媒における担体としては、触媒の担体として使用される公知乃至慣用の担体を使用することができ、特に限定されないが、例えば、無機酸化物や活性炭等の無機物担体;イオン交換樹脂等の有機物担体などが挙げられる。上記担体としては、中でも、触媒活性に優れる点で、無機酸化物が好ましい。上記無機酸化物としては、例えば、シリカ(SiO
2)、チタニア(TiO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、マグネシア(MgO)、これら無機酸化物の二種以上の複合体(例えば、ゼオライト等)等が挙げられる。上記無機酸化物の中でも、特に、触媒活性に優れる点で、シリカ(SiO
2)、ゼオライトが好ましい。なお、本発明の触媒において担体は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
なお、本発明の触媒においてイリジウム及びレニウムは、同じ担体に担持されていてもよいし、別々の担体に担持されていてもよい。中でも、イリジウム及びレニウムは、同じ担体に担持されていることが好ましい。
【0022】
上記担体の比表面積は、特に限定されないが、イリジウム及びレニウム等の金属を高分散に配置でき、また、上記金属の凝集を抑制することができ、単位重量当たりの触媒活性を向上させることができる点で、50m
2/g以上(例えば、50〜1500m
2/g、好ましくは100〜1000m
2/g)が好ましい。上記担体の比表面積が上記範囲を下回ると、単位重量当たりの触媒活性が低下する傾向がある。
【0023】
上記担体の細孔径は、特に限定されないが、イリジウム及びレニウム等の金属を高分散に配置でき、また、上記金属の凝集を抑制することができ、単位重量当たりの触媒活性を向上させることができる点で、1〜100nmが好ましく、より好ましくは5〜70nmである。
【0024】
上記担体の平均粒径は、特に限定されないが、反応性の点や、連続流通形式で反応を実施する場合の過剰な圧力損失を伴わない点で、100〜10000μmが好ましく、より好ましくは1000〜10000μmである。また、上記担体の形状は、粉末状、粒状、成型(成型体状)などのいずれであってもよく、特に限定されない。
【0025】
イリジウムの担体への担持量は、特に限定されないが、イリジウムと担体の総量(100重量%)に対して、0.01〜50重量%程度が好ましく、より好ましくは0.01〜20重量%程度、さらに好ましくは0.5〜15重量%程度、特に好ましくは1.0〜10重量%程度である。イリジウムの担持量を0.01重量%以上とすることにより、多価アルコールの転化率がより向上する傾向がある。一方、イリジウムの担持量を50重量%以下とすることにより、経済的に有利となる傾向がある。
【0026】
イリジウムの担体への担持方法は、特に限定されず、公知乃至慣用の担持方法によりイリジウムを担体に担持することができる。具体的には、例えば、イリジウムを含有する溶液(例えば、塩化イリジウム酸の水溶液等)を担体に含浸させた後、乾燥させ、次いで焼成する方法等により担持することができる。なお、イリジウムを含有する溶液の濃度や、担体への含浸、及び乾燥処理の施用回数を調整することにより、イリジウムの担持量を制御することができる。また、イリジウムを含有する溶液を含浸させる際の温度、該溶液を含浸させた担体を乾燥させる際の温度は、特に限定されない。
【0027】
レニウムの担体への担持方法は、特に限定されず、公知乃至慣用の担持方法によりレニウムを担体に担持することができる。具体的には、例えば、レニウムを含有する溶液(例えば、過レニウム酸アンモニウムの水溶液等)を担体に含浸させた後、乾燥させ、次いで焼成する方法等により担持することができる。また、レニウムをイリジウムと同じ担体に担持させる場合は、例えば、イリジウムを含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後の担体に対して、さらにレニウムを含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後、焼成する方法等が挙げられる。なお、レニウムを含有する溶液を含浸させる際の温度、該溶液を含浸させた担体を乾燥させる際の温度は特に限定されない。
【0028】
また、担体にイリジウム及びレニウムを担持するその他の方法としては、例えば、イリジウム及びレニウムを含有する溶液を担体に含浸させた後、乾燥させ、次いで焼成する方法等も挙げられる。
【0029】
イリジウムを含有する溶液及びレニウムを含有する溶液(又は、イリジウム及びレニウムを含有する溶液)を含浸させ、乾燥させた後の担体を焼成する際の温度(焼成温度)は、特に限定されないが、例えば、大気中において300〜750℃が好ましく、より好ましくは380〜650℃、さらに好ましくは400〜600℃、特に好ましくは450〜550℃である。また、焼成する際の雰囲気は、上述のように大気中に限定されず、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気等で焼成することもできる。
【0030】
本発明の触媒におけるイリジウムとレニウムの割合(モル比、金属換算)[イリジウム/レニウム]は、特に限定されないが、多価アルコールの転化率の観点で、50/1〜1/6が好ましく、より好ましくは4/1〜1/4、さらに好ましくは3/1〜1/3である。
【0031】
なお、本発明の触媒は、金属成分として、イリジウム及びレニウム以外にも、例えば、白金、ロジウム、コバルト、パラジウム、ニッケル、モリブデン、タングステン、マンガン等を含んでいてもよい。
【0032】
上記水素化反応用触媒(特に、本発明の触媒)の平均粒径は、特に限定されないが、反応性の点や、連続流通形式で反応を実施する場合の過剰な圧力損失を伴わない点で、100〜10000μmが好ましく、より好ましくは1000〜10000μmである。また、上記水素化反応用触媒(特に、本発明の触媒)の形状は、特に限定されないが、例えば、粉末状、粒状、成型(成型体状)などが挙げられる。
【0033】
本発明の触媒の再生方法は、上記水素化反応用触媒(特に、本発明の触媒)が多価アルコールと水素とを反応させて多価アルコールの水素化物を製造する際に用いられた、被毒物質によって被毒された水素化反応用触媒(多価アルコールの還元反応用触媒)であって、その触媒活性が著しく低下しているもの又は失活しているものである場合に、特に効果的である。上記被毒物質としては、水素化反応用触媒を被毒する公知乃至慣用の各種被毒物質が挙げられ、特に限定されないが、例えば、ナトリウム、カリウム、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、及びモリブデンからなる群より選択される少なくとも一種の金属を含む無機化合物;窒素、硫黄、酸素、及びリンからなる群より選択される少なくとも一種の原子を含む有機化合物などが一般的である。中でも、上記水素化反応用触媒が本発明の触媒である場合には、特に、長鎖脂肪酸;金属塩;チオール、チオエーテル、含硫黄芳香族化合物(例えば、チオフェン等)等の含硫黄化合物;アミン等の含窒素化合物等の被毒物質により被毒されやすい。なお、本発明の触媒の再生方法により水素化反応用触媒の触媒活性が効率的に回復する理由は明らかではないが、水素化反応用触媒を被毒する被毒物質が再生処理(1)や再生処理(2)によって意外にも効率的に水素化反応用触媒から脱着するためと推測される。
【0034】
[再生方法]
上述のように、本発明の触媒の再生方法においては、使用後の水素化反応用触媒を、再生処理(1)及び再生処理(2)のいずれか一方又は両方の再生処理に付す。上記再生処理は、例えば、反応器中で多価アルコールと水素とを反応させた後、水素化反応用触媒(使用後)以外の成分(多価アルコール、多価アルコールの水素化物、溶剤等)を反応器から取り出した上で、この反応器内で実施することが、煩雑な工程の増加を防ぐ点で好ましいが、特に限定されない、
【0035】
(再生処理(1))
再生処理(1)は、上述のように、水素化反応用触媒を水及び有機溶剤のいずれか一方又は両方(以下、「洗浄液」と総称する場合がある)により洗浄する処理である。上記有機溶剤(有機溶媒)としては、公知乃至慣用の有機溶剤を使用することができ、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(イソプロパノール)、ブタノール等のアルコール等が挙げられる。中でも、上記有機溶剤としては、アルコールが好ましい。なお、上記洗浄液としては、水及び有機溶剤のいずれか一方のみを使用することもできるし、両方を使用することもできる。また、水と有機溶剤の両方を使用する場合には、両者を混合した混合溶液の形態で使用することもできるし、両者を別々に使用することもできる。また、有機溶剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0036】
再生処理(1)において水素化反応用触媒を洗浄する方法は、特に限定されず、例えば、水素化反応用触媒を入れた反応器中に洗浄液を連続的又は断続的に流通させる方法;反応器中に水素化反応用触媒及び洗浄液を入れて攪拌する方法;反応器から取り出した水素化反応用触媒を洗浄液が入った容器に浸漬する方法等の各種方法が挙げられる。中でも、反応器から水素化反応用触媒を取り出すことなく洗浄する方法を採用することが好ましい。
【0037】
再生処理(1)において使用する洗浄液の量は、洗浄方法等に応じて適宜選択でき、特に限定されない。また、反応器中に洗浄液を流通させる際の流通速度は、適宜設定可能であり、特に限定されないが、例えば、液空間速度(LHSV)として、0.5〜5.0hr
-1が好ましく、より好ましくは1.2〜3.0hr
-1である。洗浄液の液空間速度を上記範囲に制御することにより、より効率的に水素化反応用触媒の触媒活性を回復させることができる傾向がある。
【0038】
再生処理(1)における洗浄温度(例えば、流通させる洗浄液の温度、水素化反応用触媒及び洗浄液を攪拌する際の温度)は、特に限定されないが、0〜250℃が好ましく、より好ましくは20〜200℃、さらに好ましくは50〜160℃である。洗浄温度を上記範囲に制御することにより、より効率的に水素化反応用触媒の触媒活性を回復させることができる傾向がある。なお、洗浄温度は、洗浄の間常に一定(実質的に一定)となるように制御することもできるし、段階的又は連続的に変化するように制御することもできる。
【0039】
再生処理(1)における洗浄時間(例えば、洗浄液を流通させる時間、水素化反応用触媒及び洗浄液を入れて攪拌する時間)は、特に限定されず、適宜設定可能である。例えば、本発明の触媒の再生方法の再生処理(1)における総洗浄時間は、1〜12時間の範囲から適宜選択できる。総洗浄時間を上記範囲に制御することにより、より効率的に水素化反応用触媒の触媒活性を回復させることができる傾向がある。特に、総洗浄時間を長くするほど、触媒の再生効果はより大きくなる傾向がある。
【0040】
再生処理(1)における洗浄の際の圧力は、特に限定されず、上記洗浄は、常圧で行うこともできるし、加圧下又は減圧下で行うこともできる。例えば、洗浄液の沸点以上の温度で洗浄する場合には、加圧下で洗浄を行うことが好ましい。
【0041】
再生処理(1)における洗浄は、例えば、空気雰囲気下、窒素雰囲気下等の各種の雰囲気で実施することができ、特に限定されない。
【0042】
再生をバッチ反応器で行う場合の再生処理(1)における洗浄の回数は、適宜設定可能であり、特に限定されないが、1〜10回が好ましく、より好ましくは1〜3回である。なお、2回以上の洗浄を行う場合、各洗浄の条件は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
再生処理(1)において洗浄後の水素化反応用触媒は、公知乃至慣用の方法(例えば、加熱する方法等)により、乾燥させることもできる。
【0044】
(再生処理(2))
再生処理(2)は、上述のように、窒素を含む気体(「窒素含有気体」と称する場合がある)の流通下、水素化反応用触媒を80〜300℃に加熱する処理である。上記窒素含有気体としては、特に限定されず、例えば、窒素、窒素を含む混合気体(例えば、空気等)が挙げられる。中でも、窒素が好ましい。
【0045】
上記窒素含有気体の流通速度は、特に限定されないが、例えば、空間速度(SV)として、200〜600hr
-1が好ましく、より好ましくは300〜500hr
-1である。窒素含有気体の空間速度を上記範囲に制御することにより、より効率的に水素化反応用触媒の触媒活性を回復させることができる傾向がある。
【0046】
再生処理(2)における水素化反応用触媒の加熱処理の温度は、80〜300℃であればよく、特に限定されないが、120〜200℃が好ましい。加熱処理の温度を80℃以上とすることにより、より効率的に水素化反応用触媒の触媒活性を回復させることができる傾向がある。一方、加熱処理の温度を300℃以下とすることにより、レニウム酸化物等の金属成分の昇華が抑制され、触媒活性の低下がより抑制される傾向がある。なお、加熱処理の温度は、当該加熱処理の間常に一定(実質的に一定)となるように制御することもできるし、段階的又は連続的に変化するように制御することもできる。なお、再生処理(2)における加熱処理の手段は、公知乃至慣用の加熱手段から適宜選択することができる。
【0047】
再生処理(2)における水素化反応用触媒の加熱処理の時間(加熱時間)は、特に限定されず、例えば、水素化反応用触媒の触媒活性の低下度等に応じて適宜設定可能である。例えば、本発明の触媒の再生方法の再生処理(2)における総加熱時間は、例えば、0.5〜48時間の範囲から適宜選択できる。総加熱時間を上記範囲に制御することにより、より効率的に水素化反応用触媒の触媒活性を回復させることができる傾向がある。
【0048】
再生処理(2)における水素化反応用触媒の加熱処理は、一段階で実施することもできるし、二段階以上の多段階に分けて実施することもできる。
【0049】
再生処理(2)における水素化反応用触媒の加熱処理の回数は、特に限定されず、適宜設定可能であり、1〜10回が好ましく、より好ましくは1〜3回である。なお、2回以上の加熱処理を行う場合、各加熱処理の条件は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0050】
本発明の触媒の再生方法においては、再生処理(1)及び再生処理(2)のいずれか一方のみを行ってもよいし、再生処理(1)及び再生処理(2)の両方を行うこともできる。再生処理(1)及び再生処理(2)の両方を行う場合、両再生処理の時間的先後は特に限定されず、適宜組み合わせて実施することができる。
【0051】
本発明の触媒の再生方法により再生された水素化反応用触媒(再生触媒)は、特に限定されないが、多価アルコールと水素との反応により多価アルコールの水素化物を生成させる上記水素化物の製造方法において好ましく使用される。上記再生触媒は、触媒活性が十分に高いレベルにまで回復されているため、上記製造方法によると、多価アルコールの水素化物を優れた生産性で製造することができる。
【0052】
<本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法>
本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法は、上述の本発明の触媒の再生方法により水素化反応用触媒を再生し、再生後の水素化反応用触媒(特に、本発明の触媒)の存在下、多価アルコールと水素とを反応させて多価アルコールの水素化物を生成させることを特徴とする。即ち、本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法は、触媒を再生させる工程(以下、「再生工程」と称する場合がある)と、多価アルコール及び水素を反応させる工程(以下、「反応工程」と称する場合がある)とを、必須の工程として含む方法である。このうち、水素化反応用触媒を再生させる工程(再生工程)は、上述の<水素化反応用触媒の再生方法>の項で説明した方法に従って実施できる。以下、多価アルコールと水素とを反応させる工程(反応工程)について説明する。
【0053】
[水素化反応用触媒]
本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法における上記反応工程で使用される水素化反応用触媒は、上記再生工程にて再生された水素化反応用触媒(特に、本発明の触媒)である。多価アルコールと水素との反応を行う前には、必要に応じて水素化反応用触媒の還元処理を行ってもよい。水素化反応用触媒の還元処理は、公知乃至慣用の方法によって実施することができ、特に限定されないが、例えば、水素等の還元性ガス雰囲気下で加熱する方法等が挙げられる。還元処理の加熱温度、加熱時間、圧力等の条件は、適宜選択可能であり、特に限定されない。
【0054】
[多価アルコール]
本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法の反応工程において原料(反応物)として使用される多価アルコールとしては、分子内に2個以上の水酸基を有する公知乃至慣用の有機化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールS、糖アルコール等が挙げられる。中でも、上記多価アルコールとしては、炭素数3〜6の多価アルコール(特に、分子内に水酸基を3〜6個有する炭素数3〜6の多価アルコール)が好ましく、特に、バイオマスからの誘導が可能である観点で、グリセリン、エリスリトールが好ましい。
【0055】
[多価アルコールの水素化物]
多価アルコールと水素との反応により得られる多価アルコールの水素化物とは、多価アルコールが有する水酸基の少なくとも1個が水素原子で置換された化合物である。例えば、多価アルコールとしてグリセリン(グリセロール)を使用した場合には、その水素化物として、炭素数3の一価のアルコール(プロパノール;1−プロパノール、2−プロパノール)及び炭素数3の二価のアルコール(プロパンジオール;1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール)などが挙げられる。特に、本発明の触媒を使用することにより、プロパンジオール(中でも、ポリウレタンやポリエステル等の原料として使用される1,3−プロパンジオール)を高選択率で生成させることができる傾向がある。一方、例えば、多価アルコールとしてエリスリトールを使用することにより、その水素化物として、炭素数4の一価のアルコール(ブタノール;1−ブタノール、2−ブタノール)、炭素数4の二価のアルコール(ブタンジオール;1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール)、及び炭素数4の三価のアルコール(ブタントリオール;例えば、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール)などが挙げられる。特に、本発明の触媒を使用した場合には、ブタンジオール(例えば、溶剤、不凍液、医薬、燃料等又はこれらの原料として使用される)、及びブタントリオール(例えば、医薬、火薬等又はこれらの原料として使用される)を高選択率で生成させることができる傾向がある。なお、本明細書においては、通常、「多価アルコールの水素化物」といった場合には、多価アルコールの炭素−炭素結合が開裂することで生成する、多価アルコールの炭素数よりも少ない炭素数の化合物は含まれない。
【0056】
[水素]
本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法の反応工程において使用される水素(水素ガス)は、実質的に水素のみの状態で使用することもできるし、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス等により希釈した状態で使用することもできる。また、上記反応(多価アルコールと水素との反応)を経た結果得られる反応混合物から回収した水素(未反応の水素)を再利用することもできる。
【0057】
[反応条件等]
本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法における多価アルコールと水素との反応は、固体である再生処理後の水素化反応用触媒(特に、本発明の触媒)の存在下、気体状の(気化させた)多価アルコールと水素とを反応させる気固二相系の反応であってもよいし、固体である再生処理後の水素化反応用触媒(特に、本発明の触媒)の存在下、液状の多価アルコールと水素とを反応させる気液固三相系の反応であってもよい。特に、多価アルコールが有する炭素−炭素結合の開裂による副生成物の生成を抑制する観点からは、上記反応を気液固三相系で進行させることが好ましい。
【0058】
より具体的には、上記反応は、例えば、多価アルコールを必須成分として含む原料液と水素とを反応器中に封入して、上記水素化反応用触媒の存在下で加熱することによって進行させることができる。
【0059】
上記原料液は、多価アルコール以外にも、例えば、水や有機溶剤等の溶剤を含有していてもよいし、溶剤を実質的に含有していなくてもよい。上記有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などの高極性の有機溶剤などが挙げられる。上記原料液としては、中でも、反応性に優れる点、及び取り扱いや廃棄が容易である点で、溶剤として水を少なくとも含有することが好ましい。
【0060】
上記原料液における多価アルコールの濃度(原料液100重量%に対する多価アルコールの含有量)は、特に限定されないが、5〜100重量%が好ましく、より好ましくは8〜90重量%、さらに好ましくは10〜90重量%、特に好ましくは15〜80重量%である。多価アルコールの濃度を5重量%以上とすることにより、多価アルコールの反応率(転化率)がより向上する傾向がある。
【0061】
上記反応(多価アルコールと水素との反応)においては、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分を共存させてもよい。即ち、上記原料液は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分(例えば、アルコール類等)を含有していてもよい。また、上記原料液には、例えば、多価アルコールの原料に由来する不純物(例えば、長鎖脂肪酸、金属塩、チオールやチオエーテル等の含硫黄化合物、アミン等の含窒素化合物等)が含まれる場合があるが、このような不純物は水素化反応用触媒を被毒するおそれがあるため、公知乃至慣用の方法(例えば、蒸留、吸着、イオン交換、晶析、抽出等)により、可能な限り原料液から除去することが好ましい。
【0062】
上記原料液は、特に限定されないが、多価アルコールと、必要に応じて溶剤、その他の成分を均一に混合することにより得られる。混合には、公知乃至慣用の撹拌機等を使用することができる。
【0063】
上記反応(多価アルコールと水素との反応)に付す水素と多価アルコールの割合は、特に限定されず、採用する反応形式等に応じて適宜設定できる。
【0064】
上記反応(多価アルコールと水素との反応)における反応温度は、特に限定されないが、50〜200℃が好ましく、より好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは70〜130℃である。反応温度を50℃以上とすることにより、多価アルコールの反応率(転化率)がより向上する傾向がある。一方、反応温度を200℃以下とすることにより、多価アルコールの分解(例えば、炭素−炭素結合の開裂等)が抑制され、目的化合物である多価アルコールの水素化物(例えば、グリセリンを使用する場合には、炭素数3のアルコール類;例えば、エリスリトールを使用する場合には、炭素数4のアルコール類)の選択率がより向上する傾向がある。なお、反応温度は、上記反応において常に一定(実質的に一定)となるように制御されていてもよいし、段階的又は連続的に変化するように制御されていてもよい。
【0065】
上記反応(多価アルコールと水素との反応)における反応時間は、特に限定されず、採用する反応形式等に応じて適宜設定できる。
【0066】
上記反応(多価アルコールと水素との反応)における反応圧力(上記反応における水素圧)は、特に限定されないが、1〜50MPaが好ましく、より好ましくは3〜30MPa、さらに好ましくは5〜15MPaである。反応圧力を1MPa以上とすることにより、多価アルコールの反応率(転化率)がより向上する傾向がある。一方、反応圧力が50MPaを超えると、反応器が高度な耐圧性を備える必要があるため、製造コストが高くなる傾向がある。
【0067】
上記反応(多価アルコールと水素との反応)は、回分形式、半回分形式、連続流通形式等の任意の形式により実施することができる。また、所定量の多価アルコールから得られる多価アルコールの水素化物の量を増加させたい場合には、上記反応を実施後の未反応の多価アルコールを分離回収してリサイクルするプロセスを採用してもよい。このリサイクルプロセスを採用すれば、多価アルコールを所定量使用したときの多価アルコールの水素化物の生成量を高めることができる。
【0068】
上記反応(多価アルコールと水素との反応)においては、反応器として公知乃至慣用の反応器を使用することができ、例えば、回分式反応器、流動床反応器、固定床反応器などが使用できる。上記固定床反応器としては、例えば、トリクルベッド反応器を使用できる。トリクルベッド反応器とは、固体触媒が充填された触媒充填層を内部に有し、該触媒充填層に対して液体(上記反応では、原料液)と気体(上記反応では、水素)とを共に、反応器の上方から下向流(気液下向並流)で流通する形式の反応器(固定床連続反応装置)である。
【0069】
本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法においては、上記再生工程と反応工程とを別ラインで実施することもできるし、一連の工程として(インラインで)実施することもできる。
【0070】
本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法は、再生工程及び反応工程以外にも、必要に応じて他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、原料液と水素を反応器に供給する前に、原料液を調製・精製する工程、反応器から排出(流出)された反応混合物(例えば、多価アルコール、水素、及び多価アルコールの水素化物等を含む混合物)を分離・精製する工程等が挙げられる。なお、これらの工程は、上記反応工程とは別ラインで実施してもよいし、一連の工程として(インラインで)実施してもよい。
【0071】
本発明の多価アルコールの水素化物の製造方法により得られた水素化物(多価アルコールの水素化物)は、公知乃至慣用の方法(例えば、蒸留、吸着、イオン交換、晶析、抽出等)により精製することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0073】
製造例1
[Ir−Re触媒の調製]
二酸化ケイ素(SiO
2)(商品名「キャリアクトQ−15」、富士シリシア化学(株)製、細孔径:15nm)を触媒の担体として使用した。上記担体に、イリジウム(Ir)濃度が4.47重量%となるように調製した塩化イリジウム酸(H
2IrCl
6)水溶液を滴下して、上記担体全体を湿潤させた後、該担体を110℃で3時間乾燥させた。そして、このような塩化イリジウム酸水溶液の滴下と乾燥を繰り返して、イリジウムがSiO
2に対して4重量%となるように担持させた。
次に、上記担体(イリジウムを担持させた担体)に、レニウム(Re)濃度が3重量%となるように調製した過レニウム酸アンモニウム(NH
4ReO
4)水溶液の滴下と乾燥を、先の塩化イリジウム酸水溶液の滴下と乾燥と同様に繰り返して、イリジウムとレニウムのモル比が1/2[イリジウム/レニウム]となるようにレニウムを担持させた。その後、乾燥後の担体を、空気雰囲気下(大気中)、500℃、3時間の条件で焼成して、Ir−Re触媒[Ir−ReO
X/SiO
2]を調製した。
【0074】
実施例1
オートクレーブ(反応器)に、製造例1で得たIr−Re触媒14.5gと、硫黄を元素重量ベースで6.4ppm含有するグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応を行った。その後、反応器からグリセリン及びグリセリンの水素化物を含む水溶液を全量抜き取った(使用後のIr−Re触媒は反応器の中である)。次いで、超純水500g(硫黄含有量0.012ppm)を反応器に入れ、常温で10分間攪拌した。洗浄後の水を反応器から取り出し、該水における硫黄含有量を測定すると0.072ppmであり、洗浄前に比べて増加していた。次に、再度超純水(硫黄含有量0.012ppm)500gを反応器に入れ、窒素で加圧しながら120℃で60分間攪拌した。その後、洗浄後の水を反応器から取り出し、該水における硫黄含有量を測定すると0.391ppmであり、常温で洗浄した場合と比べて、さらに硫黄除去量が増加していた。このように、水を使用した洗浄により使用後のIr−Re触媒に吸着された硫黄量が低減可能であることが示唆された。
【0075】
なお、以下の実施例及び比較例におけるグリセリンの反応率(転化率)は、ガスクロマトグラフィー(ガスクロマトグラフ装置:「GC−2014」((株)島津製作所製)、GCカラム:TC−WAX、DB−FFAP、検出器:FID)を用いて算出した。
【0076】
実施例2
オートクレーブ(反応器)に、製造例1で得たIr−Re触媒14.5gと、硫黄を元素重量ベースで0.8ppm含有するグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応(1回目の水素化反応)を行った。その後、反応器からグリセリン及びグリセリンの水素化物を含む水溶液を全量抜き取った(使用後のIr−Re触媒は反応器の中である)。次いで、硫黄含有量が0.08ppm以下のグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応(2回目の水素化反応)を行った。1回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)と2回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)とから、1回目の水素化反応における触媒活性を100%とした場合の2回目の水素化反応における触媒活性を算出した結果、2回目の水素化反応では約51%にまで触媒活性が低下していた。
2回目の水素化反応後のIr−Re触媒を超純水により洗浄する再生処理を行った。具体的には、反応器からIr−Re触媒以外を抜き取った後、反応器に500gの洗浄水(超純水)を入れて常温で10分間攪拌し、次いで、水の全量を抜き取る操作を2回行い、続いて、反応器に500gの洗浄水(超純水)を入れて200℃で60分間攪拌し、次いで、水の全量を抜き取る操作を3回行った。
その後、再生(洗浄)後のIr−Re触媒が入った反応器に、硫黄含有量が0.08ppm以下のグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応(3回目の水素化反応)を行った。3回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)から、3回目の水素化反応における触媒活性を算出したところ、1回目の水素化反応における触媒活性を100%とした場合の3回目の水素化反応における触媒活性は69%にまで回復していた。
【0077】
実施例3
実施例2と同様にして、1回目の水素化反応及び2回目の水素化反応を行った後、洗浄液として水の代わりにイソプロピルアルコール(IPA)を使用したこと以外は実施例2と同様にして触媒の再生処理を行った。
その後、再生(洗浄)後のIr−Re触媒が入った反応器に、硫黄含有量が0.08ppm以下のグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応(3回目の水素化反応)を行った。3回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)から、3回目の水素化反応における触媒活性を算出したところ、1回目の水素化反応における触媒活性を100%とした場合の3回目の水素化反応における触媒活性は85%にまで回復していた。
【0078】
実施例4
イソプロピルアルコールを使用した200℃での洗浄処理の温度を50℃に変更したこと以外は実施例3と同様の操作を行った。
3回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)から、3回目の水素化反応における触媒活性を算出したところ、1回目の水素化反応における触媒活性を100%とした場合の3回目の水素化反応における触媒活性は100%を超えており、触媒活性は完全に回復していた。
【0079】
実施例5
実施例2と同様にして、1回目の水素化反応及び2回目の水素化反応を行った。その後、2回目の水素化反応後のIr−Re触媒に対し、窒素流通下で加熱(乾燥)する再生処理を行った。具体的には、反応器の内温を160℃にして、窒素を毎時160NLの流量で12時間連続して流通させた。
その後、再生(加熱)後のIr−Re触媒が入った反応器に、硫黄含有量が0.08ppm以下のグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応(3回目の水素化反応)を行った。3回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)から、3回目の水素化反応における触媒活性を算出したところ、1回目の水素化反応における触媒活性を100%とした場合の3回目の水素化反応における触媒活性は91%にまで回復していた。
【0080】
実施例6
オートクレーブ(反応器)に、製造例1で得たIr−Re触媒14.5gと、硫黄を元素重量ベースで6.4ppm含有するグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応(1回目の水素化反応)を行った。その後、反応器からグリセリン及びグリセリンの水素化物を含む水溶液を全量抜き取った(使用後のIr−Re触媒は反応器の中である)。次いで、硫黄含有量が0.08ppm以下のグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応(2回目の水素化反応)を行った。1回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)と2回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)とから、1回目の水素化反応における触媒活性を100%とした場合の2回目の水素化反応における触媒活性を算出した結果、2回目の水素化反応では約34%にまで触媒活性が低下していた。
2回目の水素化反応後のIr−Re触媒について、超純水による洗浄処理及び空気の流通下での加熱処理を行った。具体的には、反応器に500gの洗浄水(超純水)を入れて常温で10分間攪拌し、水の全量を抜き取る操作を2回行い、続いて、反応器の内温を200℃にして、空気を毎時150NLの流量で24時間連続して流通させた。
その後、再生(洗浄及び加熱)後のIr−Re触媒が入った反応器に、硫黄含有量が0.08ppm以下のグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応(3回目の水素化反応)を行った。3回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)から、3回目の水素化反応における触媒活性を算出したところ、1回目の水素化反応における触媒活性を100%とした場合の3回目の水素化反応における触媒活性は69%にまで回復していた。
【0081】
比較例1
実施例6と同様にして、1回目の水素化反応及び2回目の水素化反応を行った。その後、反応器からIr−Re触媒を取り出し、焼成炉に入れて500℃で3時間焼成(再焼成)した。次に、焼成後の触媒を再び反応器に充填し、硫黄含有量が0.08ppm以下のグリセリン水溶液(グリセリン濃度:80重量%)500gを仕込み、温度120℃、水素圧力12MPaで6時間攪拌し、グリセリンの水素化反応(3回目の水素化反応)を行った。3回目の水素化反応におけるグリセリンの反応率(転化率)から、3回目の水素化反応における触媒活性を算出したところ、1回目の水素化反応における触媒活性を100%とした場合の3回目の水素化反応における触媒活性は72%であった。
【0082】
実施例2〜6及び比較例1で得られた結果を表1にまとめた。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、本発明の触媒の再生方法(実施例1〜6)により、水素化反応用触媒の触媒活性を効率的に回復させることが可能であることが確認された。本発明の触媒の再生方法では、水素化反応を行った反応器から水素化反応用触媒を取り出すことなく再生させることが可能であるため、煩雑な工程の増加を必要としない。また、焼成のように非常に高い温度で加熱する必要がなく、酸化・還元などの化学反応を伴わないため、触媒金属が変化したり減少するおそれもない。さらに、本発明の触媒の再生方法では、表1に示すように、再生後の触媒を使用した場合にも1,3−プロパンジオール(1,3−PD)の高い選択率が保持されていた。一方、焼成により再生した触媒を使用した場合(比較例1)には、1,3−プロパンジオールの選択率の低下が確認された。
【0085】
なお、表1中の「活性指標」とは、反応時間6時間でのグリセリンの反応率(転化率)(単位:%)を表す。