(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351612
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】ドライブベルトおよびドライブベルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16G 5/16 20060101AFI20180625BHJP
【FI】
F16G5/16 F
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-543537(P2015-543537)
(86)(22)【出願日】2013年11月20日
(65)【公表番号】特表2015-535576(P2015-535576A)
(43)【公表日】2015年12月14日
(86)【国際出願番号】IB2013003097
(87)【国際公開番号】WO2014080288
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2016年11月18日
(31)【優先権主張番号】1039905
(32)【優先日】2012年11月20日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー ウーレンブロック
(72)【発明者】
【氏名】ニコラウス ハウトマン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ゲーナー
(72)【発明者】
【氏名】ユリアン ヴァイス
(72)【発明者】
【氏名】カイ フォン ガルニエ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヴェアツ
【審査官】
岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−248043(JP,A)
【文献】
特開昭61−048635(JP,A)
【文献】
特開昭61−103033(JP,A)
【文献】
特開昭61−027333(JP,A)
【文献】
特開2008−051326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの回転プーリ(100a、100b)間で動力を伝達するドライブベルトであって、エンドレスな細長い形状の前記ドライブベルト(1)は、
前記ドライブベルト(1)に沿って張力を伝達する張力要素(10)と、
前記2つの回転プーリ(100a、100b)上で前記張力要素(10)を支持するための多数の支持要素(20、30)と、を具備し、各支持要素(20、30)は回転プーリ(100a、100b)との摩擦接触を維持するための接触面(54a、54b)を有し、各支持要素(20、30)は前記ドライブベルト(1)の長手方向に前記張力要素(10)に対して固定され、前記張力要素(10)は前記ドライブベルト(1)の長手方向に延びている少なくとも1本の巻線(41)を有するワイヤ(40)を具備しており、
前記ワイヤ(40)は留めていない端を有し、前記ワイヤ(40)は多数の巻線(41)を有し、前記ドライブベルト(1)は前記ワイヤ(40)を支持要素(20、30)に接続する接着剤(60)をさらに具備し、
前記支持要素(20、30)は、前記接着剤(60)に接触している装着面(70a、70b)を有し、該装着面(70a、70b)には起伏部(75a、75b)がそれぞれ設けられており、該起伏部(75a、75b)は、前記ドライブベルト(1)の周方向に延びている多数の凹部(71)を具備しており、一方の起伏部(75a)の凹部が他方の起伏部(75b)の突起に面するように、前記起伏部(75a、75b)は互いに相補形であることを特徴とする、ドライブベルト。
【請求項2】
凹部(71)は周方向に前記装着面(70a、70b)の全体に及んでいる、請求項1に記載のドライブベルト。
【請求項3】
前記巻線(41)の数は、前記凹部(71)の数よりも0.5未満の比率で少ない、請求項1または2に記載のドライブベルト。
【請求項4】
前記装着面(70a、70b)は、角柱形の突起(72a)によって隔てられている2つの隣り合う凹部(71a、71b)を具備する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のドライブベルト。
【請求項5】
前記突起(72a)は頂角(α)が最大で80度である、請求項4に記載のドライブベルト。
【請求項6】
前記突起(72a)は底辺の幅(W)が0.3〜3mmである、請求項4または5に記載のドライブベルト。
【請求項7】
前記装着面(70a、70b)は第1突起(72a)と第2突起(72b)とを具備しており、前記突起はそれぞれ頂部(72a’、72b’)を有し、前記ワイヤ(40)の直径が前記2つの頂部(72a’、72b’)間の距離に少なくとも等しく、前記直径は前記距離よりも大きい、請求項1〜6のいずれか一項に記載のドライブベルト。
【請求項8】
前記張力要素(10)は1本のワイヤ(40)からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のドライブベルト。
【請求項9】
前記巻線(41)の数は少なくとも3である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のドライブベルト。
【請求項10】
前記巻線(41)は単層または多層で配置されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載のドライブベルト。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のドライブベルトの製造方法であって、
連続した外周を有する取付装置(200)を提供するステップと、
多数の支持要素(20、30)を提供するステップと、
前記支持要素を前記連続した外周に沿って連続的に配置しながら、前記取付装置(200)に前記支持要素(20、30)を取り付けるステップと、
留めていない端を有するワイヤ(40)を提供するステップと、
前記取付装置(200)の前記連続した外周の周りに前記ワイヤ(40)をコイル状に巻くステップであって、前記コイル状ワイヤ(40)は多数の巻線(41)を有する、前記コイル状に巻くステップと、
接着剤(60)を提供するステップと、
前記支持要素(20、30)、前記ワイヤ(40)、またはその両方のいずれかに、前記接着剤(60)を塗布するステップと、
を具備しており、
前記連続した外周に沿って位置付けられている一連の凹部(222a、222b)を具備する取付装置(200)が提供され、前記取付装置(200)に前記支持要素(20、30)を取り付ける前記ステップは、前記凹部(222a、222b)のうちの1つに各支持要素(200)の少なくとも下部分(20)を位置付けるステップを具備することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に従うドライブベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
上述のドライブベルトは、一般にドライブラインの2本のシャフト間で駆動力を伝達するために使用される。ドライブベルトは、異なるシャフトにそれぞれ設けられている1対のプーリに巻き付けられる。第1プーリとドライブベルトとの摩擦接触により、第1プーリの回転運動がドライブベルトの並進運動に変換される。ドライブベルトと第2プーリとの摩擦接触により、ドライブベルトの並進運動はさらに第2プーリの回転運動に変換される。こうして、第2プーリはドライブベルトを介して第1プーリによって駆動される。
【0003】
上述のドライブベルトの一般に周知の用途は、スクーターなどの二輪車の無段変速機である。このような変速機では、各プーリは1対のプーリ・シーブを具備し、各シーブは、ドライブベルトの側面に接触するための傾斜した内向きフランクを有する。2つのシーブの互いに対する距離により、ドライブベルトはプーリに沿って大径または小径で走行する。駆動プーリまたは従動プーリのプーリ・シーブ間の距離を変えることにより、2つのプーリ間の変速比は、一定の制限を受けるものの、自由に選ぶことができる。
【0004】
一般に、スクーターでは、多数の張力繊維が埋め込まれたエラストマーリングまたはゴムリングを具備する張力要素を有するドライブベルトが適用される。リングには、1対のプーリ上で張力要素を支持するための多数の支持要素が取り付けられており、各支持要素は1対のプーリ・シーブとの摩擦接触を維持するための1対の接触面を有する。各支持要素はゴムリングの外面に設けられている切欠きの内部に位置付けられて、各支持要素はそれによりドライブベルトの長手方向にリングに対して固定される。
【0005】
前段落に述べるドライブベルトは特開2006−207793号公報に開示されている。
【0006】
周知のドライブベルトはドライ運転し、引っ張ることによって負荷がかかる。プルベルトは、2本のドライブシャフトの間の比較的大きな距離に架け渡すことができる。しかし、プッシュベルトと比べて、プルベルトのエネルギー効率は比較的低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、無段変速機とともに使用するためのコスト効果的なドライ運転プルベルトを提供することであり、プルベルトは改善されたエネルギー効率を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、請求項1によるドライブベルトによって達成される。
【0009】
本発明によるドライブベルトにおいて、ワイヤを具備する張力要素は、接着剤によって、支持要素に直接接着される。その結果、ドライブベルトには、周知のドライブベルトに存在するもののようなエラストマーまたはゴム搬送体が存在しない。周知のドライブベルトにあるような搬送体はかなり容量のある要素であり、ドライブベルトの運転中、継続的に変形される必要があり、そのため大幅なエネルギー損の源となる。このことから、本発明によるドライブベルトでは、ドライブベルトの運転中の張力要素の変形によるエネルギー損は、周知のドライブベルトと比較して大幅に低下する。そのため、本発明によるドライブベルトは改善されたエネルギー効率を呈する。これがひいてはベルトを具備する車両のエネルギー効率の改善にもなる。また、ベルトのコスト効果は材料コストの削減により改善される。
【0010】
支持要素が接着剤と接触する装着面を有することに関し、支持要素とワイヤとの間の装着面積を増やすために、装着面に起伏部を設けることができる。
【0011】
起伏部は、ドライブベルトの周方向に延びている多数の凹部を具備することができる。このように、支持要素とワイヤとの間の装着面積は比較的大きくなる。
【0012】
凹部は周方向に装着面全体に及ぶことができる。それにより、支持要素とワイヤとの間の装着面積は、ワイヤを曲げなくても最大限に増やされる。これにより、比較的硬いワイヤを使用しやすくなる。
【0013】
巻線の数は凹部の数よりも少なくすることができる。それにより、1本のワイヤが複数の凹部に及ぶことができ、支持要素とワイヤとの間の装着面積が比較的大きくなる。好適な実施形態では、巻線の数は凹部の数よりも、0.5未満の比率、好ましくは0.2〜0.4の範囲の比率で少ない。
【0014】
好適な実施形態では、装着面は、角柱形を有する突起によって隔てられている2つの隣り合う凹部を具備する。したがって、ワイヤと支持要素との間に得ることができる接触面のサイズおよび接着力を大幅に増大させることができる。
【0015】
好ましくは、角柱状突起は、頂角が最大で80度、より好ましくは30度から60度である。
【0016】
角柱突起は底辺の幅が0.3〜3mm、より好ましくは0.5〜0.8mmであることが好ましい。
【0017】
装着面は第1突起と第2突起とを具備することができ、前記突起はそれぞれ頂部を具備し、ワイヤの直径が2つの頂部間の距離に少なくとも等しい。ワイヤはそれにより複数の頂部に及ぶことができるので、ワイヤと支持要素との間の固定度を強化する。好ましくは、前記直径を前記距離よりも大きくして、頂部全体がワイヤに圧入できるようにする。
【0018】
装着面は第1部分と第2部分とを具備することができ、第2部分は第1部分に対向してその間にワイヤを位置付け、ワイヤは第1部分および第2部分のそれぞれに装着する。それにより支持要素ごとの接着力を倍増させることができる。
【0019】
装着面の第1部分が凹部を具備するとともに、第2表面部分は前記凹部に対向する突起を具備することができる。さらに、突起によりワイヤを凹部に押し込むことができ、それにより支持要素とワイヤとの間の装着面積が増大する。
【0020】
巻線は単層または多層で設けることができる。多層の巻線を有するワイヤを具備するドライブベルトは著しく強くなる。また、張力要素全体に対する、ワイヤの留めていない端の脆弱化の影響が低減する。
【0021】
本発明はさらに、本発明によるドライブベルトの製造方法に関する。
【0022】
本発明の上記および他の側面、特徴および利点を、図面を参照して1つ以上の好適な実施形態の以下の説明によりさらに説明する。図面において、同じ参照符号は同じかまたは同様な部品を示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】無段変速機の1対のプーリに取り付けられているドライブベルトを斜視図で模式的に示す。
【
図2】最新技術水準によるドライブベルトの一部を斜視図で模式的に示す。
【
図3】本発明によるドライブベルトの一部を斜視図で模式的に示す。
【
図4】本発明によるドライブベルトの支持要素の下部材および上部材を斜視図で模式的に示す。
【
図5】本発明によるドライブベルトの支持要素を斜視図で模式的に示す。
【
図6】本発明によるドライブベルトの横断面積を模式的に示す。
【
図7】本発明によるドライブベルトの製造で使用される取付装置を斜視図で模式的に示す。
【
図8】本発明によるドライブベルトの支持要素の多数の下部材を取り付けた、
図7の取付装置の部分を斜視図で模式的に示す。
【
図9】本発明による支持要素の下部材を斜視図で模式的に示しており、多数のワイヤの部分が下部材に配置されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、第1プーリ100aと第2プーリ100bとを具備する無段変速機2を示す。各プーリ100a、100bはドライブシャフト200a、200bに取り付けられている。2つのプーリ100a、100b上に走行しているのがドライブベルト1である。
【0025】
各プーリ100a、100bは1対のプーリ・シーブ101a、101bを具備する。各プーリ・シーブ101a、101bは、他方のプーリ・シーブ101a、101bの接触面102に対向する傾斜接触面102を有する。各プーリ100a、100b内で、2つのプーリ・シーブ101a、101bの接触面102間の距離を変えることができるように、プーリ・シーブ101a、101bは各ドライブシャフト200a、200bの軸方向に互いに対して可動である。
【0026】
2つのプーリ・シーブ101a、101bの接触面102はプーリ100a、100bの径方向外側方向に互いに逸れていることから、2つのプーリ・シーブ101a、101bを互いに近づけると、ドライブベルト1を径方向外側に促して、より大きな直径で走行し続ける。その逆も同様に、2つのプーリ・シーブ101a、101bを互いから遠ざけると、ドライブベルト1を径方向内側に移動させて、より小さな直径で走行し続ける。
【0027】
ドライブベルト1は細長く、エンドレスであり、そのため実質的に環状部材であり、ドライブシャフト200a、200bの両方に巻き付けられる。各プーリ100a、100bで、ドライブベルト1は2つのプーリ・シーブ101a、101b間に収められる。ドライブベルト1は、ドライブシャフト200a、200bの軸方向に対向する側面に、プーリ100a、100bのそれぞれとの摩擦接触を維持するための1対の接触面を具備し、ドライブベルト1の各接触面はプーリ・シーブ101a、101bの接触面102に接触している。
【0028】
第1プーリ100aは駆動プーリであることから、第2プーリ100bはドライブベルト1を介して第1プーリ100aによって駆動される。第1プーリ100aと第2プーリ100bとの変速比は、プーリ100a、100bのそれぞれでドライブベルト1が走行する半径を変えることによって変えることができる。
【0029】
以下において、ドライブベルトの環形の接線方向は、ドライブベルトの周方向ともいう。環形の軸方向でもあるドライブシャフトの軸方向は、軸方向ともいう。環形に対する径方向は、径方向ともいう。前記周方向、軸方向および径方向は、ドライブベルト全体に関して使用するだけでなく、個々の部材としての張力要素または支持要素に関しても使用する。
【0030】
図2は、最新技術水準によるドライブベルト300を示す。ドライブベルト300は、エラストマーまたはゴムリング形の搬送体301を具備する張力要素301、302を具備する。搬送体301には、周方向に延びている多数の張力繊維302が内部に埋め込まれている。搬送体301には、プラスチック材料で作られた多数の支持要素303が取り付けられている。
【0031】
各支持要素303は実質的に板形であり、ドライブベルト300の周方向に面して配置されている。向い合せの軸方向に対向する側面に、支持要素303は、プーリ・シーブの接触面と接触するための接触面304a、304bを具備する。2つの接触面304a、304bは、2つの接触面304a、304bが1対のプーリ・シーブの傾斜接触面に適合するように、互いに傾斜した位置を取る。その中心で、支持要素303は、搬送体301を支持要素303に貫通させるスリット305を具備する。
【0032】
その径方向に外向きおよび内向きの表面に、搬送体301には一連の横向きの切欠き306が設けられている。隣り合う切欠きは搬送体材料の隆条307a、307bで隔てられている。各支持要素303は切欠き306内まで延び、支持要素303が、前記切欠き306に隣接する1対の隆条307a、307bによって、ドライブベルト300の周方向に張力要素301、302に対して固定されるようになっている。
【0033】
周知のドライブベルトの支持要素303は、切欠き306の位置に射出成形された一体部材として形成されており、この部材が切欠き306に隣接する1対の隆条307a、307bと前記部材との間の形態拘束によってのみ搬送体301に装着されていることに留意する。
【0034】
図3は、本発明によるドライブベルト1を示す。ドライブベルト1は多数の支持要素50を具備し、各支持要素50は、支持要素50の中心にスリット55を残しつつ、ともに組み立てられて支持要素50の全体を形成する下部材20と上部材30とを具備する。ドライブベルト1は、各支持要素50のスリット55を貫通している張力要素10を具備する。ドライブベルト1は、各支持要素50のスリット55に設けられている接着剤60をさらに具備し、接着剤60は各支持要素50を張力要素10に接続する。
【0035】
張力要素10は、ドライブベルト1の周方向に延びている多数の巻線41を有するワイヤ40を具備する。
図3では、各巻線41の一部のみを示している。全体としての巻線41はそれぞれドライブベルト1の全周に沿って延びており、第2巻線41bに隣接する第1巻線41aの端部がその第2巻線41bの端部に接続されている。
図3に図示する巻線41の異なる部分も互いに接続されて、1本のワイヤ40を形成するか、または複数のワイヤの部分を形成するようにすることができる。支持要素50のスリット55を通過するすべての巻線41は、スリット55の全幅を実質的に埋めるように横並びに位置付けられている。支持要素50を通過する巻線41は、スリット55に設けられている接着剤60によりその支持要素50に接続される。
【0036】
接着剤60は、巻線41によって利用可能に残されたスリット55の空間全体を埋めるように、
図3に模式的に図示されている。しかし、本発明の範囲内において、接着剤60は必ずしも前記空間の全体を埋める必要はないことに留意する。また、張力要素10に対する支持要素50の固定の部分は、接着剤60ではなく、巻線41と支持要素50との摩擦から得ることも可能である。
【0037】
図3は、単層の巻線41のみを示す。本発明の範囲内において、張力要素10は多層を具備することもでき、各層は異なる径方向の位置で延びる。層の数とは別に、張力要素10の径方向の中央平面は全体として、ドライブベルト1の中立軸の高さに位置付けると好ましい。
【0038】
各支持要素50は、1対のプーリ・シーブの接触面に接触するための1対の接触面54a、54bを具備する。支持要素50の接触面54a、54bは、ドライブベルト1の向かい合う軸方向に対向する下部材20の表面として形成されている。最新技術水準と同様に、支持要素50の接触面54a、54bは、2つの接触面54a、54bが1対のプーリ・シーブの傾斜接触面に適合するように、互いに対して傾斜位置を取る。支持要素50の2つの接触面54a、54bはドライブベルト1の中立軸に対して対称または実質的に対称に位置付けて、支持要素50に傾動モーメントが全く及ばないように、またはわずかな傾動モーメントしか及ばないようにするのが好ましい。
【0039】
最新技術水準と同様に、ドライブベルト1の中立軸の下に径方向に延びている支持要素は、隣り合う支持要素50a、50bを互いに対して傾動させやすくして、ドライブベルト1を曲げられるようにテーパリングすることもできる。伸長させた構成では、隣り合う支持要素50a、50bは互いに対して約0.1mmの距離に位置付けられている。
【0040】
ワイヤまたはスレッド40は1本以上のアラミド繊維を具備することができ、ワイヤ40はさらに紡糸でもよく、または織り構造を有してもよい。ワイヤ40の直径は0.3〜1.8mm程度にすることができ、直径は約0.9mmにするのが好ましい。このようなワイヤは例えば、直径が約12μmの多数の繊維から織ることができる。炭素繊維またはグラスファイバーなどの他の材料も使用することができ、場合によってはスチールワイヤも使用できる。また、複数のワイヤを使用することもできる。
【0041】
各コイル状ワイヤは、留めていない端を有することに留意する。これら留めていない端の脆弱化の影響を軽減するために、巻線の数は少なくとも3であることが好ましい。
【0042】
図4は、支持要素の下部材20および上部材30を組み立てていない位置でより詳細に示す。下部材20は、横ベース部分22とベース部分22から上に延びている1対のアーム23a、23bとを有する略U字形の要素である。上部材30は、中央ステム部分32とステム部分32から側方に延びている1対のアーム33a、33bとを有する略T字形の要素である。2つのアーム23a、23bの間に位置付けられて、下部材20は上部材30のステム部分32を収容するための中央空間24を具備する。
【0043】
アーム23a、23bのそれぞれの凹部として形成されて、下部材20は収容空間21a、21bを具備する。アーム33a、33bのそれぞれから垂下して、上部材30は固定用脚部31a、31bを具備する。収容空間21a、21bは、上部材30のステム部分32が下部材20の中央空間24に収容されるときに、固定用脚部31a、31bのそれぞれが下部材20の対応する収容空間21a、21bに収容されるように形成されている。
【0044】
固定用脚部31a、31bおよび対応する収容空間21a、21bの形状は、上部材30が下部材20の上に置かれたときに、上部材30が下部材20に対してドライブベルト1の軸方向および周方向に固定されるように、互いに適合される。相互の固定をサポートするために、上部材30は、各固定用脚部31a、31bの端部に、収容空間21a、21bの底面に当接することになる当接面34a、34bを具備し、例えば超音波溶接によって前記底面に接続できるようにする。また、固定用脚部31a、31bおよび収容空間21a、21bの形状は、上部材30を下部材20に接続できるようにともに接着されるように相互に適応させることができる。
【0045】
上部材30は、ステム部分32の下端に、支持要素50が組み立てられるとスリット55の上面を形成する表面70bを具備する。下部材は、中央空間24に面するベース部分22の側に、支持要素50が組み立てられるとスリット55の底面を形成する表面70aを具備する。2つの表面70a、70bのそれぞれを本明細書において装着面ともいう。
【0046】
各装着面70a、70bには、支持要素50と張力要素10との間の装着面積を拡大するために、起伏部75a、75bが設けられている。
図3に図示する実施形態では、起伏部75a、75bはそれぞれドライブベルトの周方向に延びている多数の凹部を有するリブ面として形成されており、各凹部が前記方向に装着面70a、70bの全体に及んでいる。
【0047】
図5は、
図4の下部材20および上部材30を組み立てた位置で示しており、下部材20および上部材30はこのように完全な支持要素50を形成する。図示する実施形態では、一方の起伏部75a、75bの凹部が他方の起伏部75a、75bの突起に面するように、上部材30上の起伏部75bは下部材20上の起伏部75aの相補形である。2つの起伏部75a、75bはともに一定の高さの起伏付きスリット55を形成する。
【0048】
図6は、本発明によるドライブベルトの支持要素の横断面図の一部を示す。この部分は、支持要素のスリット55、スリット55の底面を形成する支持要素の下部材の装着面の起伏部75a、スリット55の上面を形成する支持要素の上部材の装着面の起伏部75b、およびスリット55を貫通している多数の巻線41a、41bを示す。
【0049】
各起伏部75a、75bは多数の凹部71を具備する。各対の凹部71a、71bは突起72aで隔てられている。突起72aは三角柱形であり、したがって
図6に図示するように三角形の横断面を有する。突起72aはそのフランク間の角度として測定される頂角αを有し、
図6に図示する実施形態における角度は約65度である。突起の頂部72a’自体は角を丸められているため、頂部72a’は巻線41と支持要素との間の装着面積として機能する。突起72aは突起72aの輪郭を成す2つの凹部71a、71b間の距離として測定される底辺の幅Wを有する。
【0050】
2つの隣り合う突起72a、72bの各頂部72a’、72b’間の距離は巻線41aの直径よりも小さいため、スリット55内の巻線41aの一部が両突起72a、72bに接触した状態になっている。このことが巻線41aと支持要素との間の強固な結合を促す。
図6では、前記直径と前記距離との比率は約0.5である。前記比率は、本発明によるドライブベルトが備える一定数の巻線と、ドライブベルトの横方向にみられる支持要素の起伏部に設けられている凹部の数との比率に等しい。
【0051】
巻線41aは2つの突起72a、72bによって輪郭を成す凹部71aに収容され、したがって巻線41aは前記2つの突起72a、72bの両方のフランクの一部を具備する支持要素との装着面積を有する。このことが巻線41aと支持要素との間の強固な結合を促す。強固な結合は、巻線41aが前記凹部71aに面する突起72cによって前記凹部71aに圧入されることからさらに促され、この突起72cは向かい合う起伏部70bに存在する。
【0052】
図6では、接着剤が示されていないことに留意する。しかし、原則として、接着剤は、それが巻線41aを装着面70a、70b、または隣り合う巻線41bに装着することのできるすべての場所に存在することができる。
【0053】
以下に、本発明によるドライブベルトの製造方法を
図7〜
図9を参照して説明する。
【0054】
図7は、取付ドラム210と、取付ドラム210に取り付けられている1対のポジショニングリング220a、220bとを具備する取付装置200を示す。
【0055】
取付ドラム210は実質的に円盤形であり、円筒形の外面211を具備する。ポジショニングリング220a、220bはそれぞれ取付ドラム210の周りに嵌められて、各ポジショニングリング220a、220bは外面211の縁に位置付けられている。1対のポジショニングリング220a、220bの間に、取付装置200は、取付ドラム210の全周に延びている環状取付空間221を具備する。取付空間221に面する側に、各ポジショニングリング220a、220bには一連の収容空間222a、222bが設けられている。
図7は、前記収容空間222a、222bに位置付けられた多数の下部材20をさらに示す。
【0056】
図8は、前記多数の下部材20を位置付けた
図7の取付装置200の部分をさらに詳細に示す。各下部材20は、取付ドラム210の外面211にそのベース部分22を載置し、そのアーム23a、23bのそれぞれが、ポジショニングリング220a、220bに設けられている1対の向かい合う収容空間222a、222bに少なくとも一部が収容された状態で、取付空間221に位置付けられている。各ポジショニングリング220a、220b内の収容空間222a、222bの相互の距離は、本発明によるドライブベルトの多数の下部材20の相互の距離に適合されて、収容空間222a、222bに収容される一連の前記部材の下部材20がこのようなドライブベルトと同じ相互の位置を取るようにされている。
【0057】
本発明によるドライブベルトの製造方法において、
図4に図示するような、そのそれぞれが下部材20および上部材30を具備する多数の支持要素50とともに、
図7および
図8に図示する取付装置が提供される。異なる下部材20が取付ドラム210の全周に沿って連続的に位置付けられる。また、ワイヤが提供され、これはさらに取付ドラム210上の下部材20のアセンブリの周りにコイル状に巻かれる。コイル状に巻くステップの後、支持要素50を形成するためなど、ドラムに位置付けられた下部材20のそれぞれに上部材30を取り付ける。
【0058】
支持要素を組み立てる際、上部材30の固定用脚部31a、31bを対応する下部材20の収容空間21a、21bに挿入する。収容空間21a、21bに接着剤を設けて、上部材30を下部材20に物理的に接続するようにすることもできる。上部材30および下部材20は超音波溶接で接続することもでき、当接面34a、34bが前記収容空間21a、21bの底面に溶接される。
【0059】
好ましくは、ワイヤ40は
図9に図示するようにコイル状に巻き、
図9では多数の巻線41を横並びに配置し、巻線41が互いに接触して2つのアーム23a、23bの間に下部材20のベース部分22の全体に及んでいるところを示している。本発明の範囲内において、ワイヤ40の直径および2つのアーム23a、23b間の距離は、この効果を得ることができるように互いに適応させることができる。
【0060】
接着剤は、ワイヤ40、上部材および下部材20、30、またはワイヤ40と上部材および下部材20、30との両方に塗布することができる。接着剤は、コイル状に巻くステップの前または後のいずれでも塗布することができる。使用する接着剤の種類により、製造方法は、接着剤を塗布した後に、接着剤を硬化するステップもさらに具備することができる。
【0061】
ドライブベルトが完成した後、ポジショニングリング220a、220bのいずれか一方を取付ドラムから取り外して、その後、完成したドライブベルトを取付ドラム210から横滑りさせることができるように、取付装置200を分解することによって、ドライブベルトを取付装置200から取り外すことができる。
【0062】
本発明は上述した例示的な実施形態に制限されず、添付の請求項に規定される本発明の保護範囲内でいくつかの変型および変更が可能なことは、当業者には明らかなはずである。異なる従属請求項に一定の特徴を列挙しているとしても、本発明はこれらの特徴を共通して具備する実施形態にも関係する。また、請求項における参照符号はその請求項の範囲を制限すると解釈するべきではない。