特許第6351639号(P6351639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エンドマグネティクス リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許6351639-リンパ節検出のための低浸透圧溶液 図000006
  • 特許6351639-リンパ節検出のための低浸透圧溶液 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351639
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】リンパ節検出のための低浸透圧溶液
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/08 20060101AFI20180625BHJP
   A61K 41/00 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20180625BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20180625BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   A61K49/08
   A61K41/00
   A61K9/10
   A61K47/10
   A61K47/02
   A61P35/00
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-562299(P2015-562299)
(86)(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公表番号】特表2016-512221(P2016-512221A)
(43)【公表日】2016年4月25日
(86)【国際出願番号】GB2014050698
(87)【国際公開番号】WO2014140543
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年2月1日
(31)【優先権主張番号】61/775,780
(32)【優先日】2013年3月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515013498
【氏名又は名称】エンドマグネティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ショークロス, アンドリュー ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス−カバヤル, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン, マーク
(72)【発明者】
【氏名】ターナー, ロブ
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−079781(JP,A)
【文献】 特表2009−540844(JP,A)
【文献】 INTERNATIONAL JOURNAL OF PHARMACEUTICS,2007年,VOL.331,P.197-203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00−49/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用注射のための低浸透圧懸濁物であって、
約13mg/mL〜約200mg/mLの超常磁性粒子;および
塩から選択される浸透圧調節物質、
を含み、80mOsm〜160mOsmの重量オスモル濃度を有する、低浸透圧懸濁物。
【請求項2】
医療用注射のための低浸透圧懸濁物であって、
約13mg/mL〜約200mg/mLの超常磁性粒子;および
グリコールから選択される浸透圧調節物質、
を含み、80mOsm〜128mOsmの重量オスモル濃度を有する、低浸透圧懸濁物。
【請求項3】
前記超常磁性粒子は、酸化鉄粒子である、請求項1または2に記載の低浸透圧懸濁物。
【請求項4】
約13mg/ml〜約56mg/mlの超常磁性粒子を含む、請求項1または2に記載の低浸透圧懸濁物。
【請求項5】
賦形剤をさらに含む、請求項1または2に記載の低浸透圧懸濁物。
【請求項6】
前記超常磁性粒子は被覆されている、請求項1または2に記載の低浸透圧懸濁物。
【請求項7】
前記被覆はデキストランを含む、請求項6に記載の低浸透圧懸濁物。
【請求項8】
前記無機塩は、塩化ナトリウムである、請求項1に記載の低浸透圧懸濁物。
【請求項9】
前記懸濁物は、センチネルリンパ節の検出のために使用され、約0.05%〜約0.3% w/vの前記無機塩を含む請求項1に記載の低浸透圧懸濁物。
【請求項10】
前記グリコールは、プロピレングリコールである、請求項に記載の低浸透圧懸濁物。
【請求項11】
前記懸濁物は、磁性温熱療法処置のために使用され、約20mg/ml〜200mg/mlの前記超常磁性粒子を含む、請求項1または2に記載の低浸透圧懸濁物。
【請求項12】
患者においてリンパ節を位置決定するための請求項1または2に記載の低浸透圧懸濁物であって、該低浸透圧懸濁物が該患者に注射されること、およびリンパ節に捕捉された前記超常磁性粒子の位置を検出することによって、該リンパ節の位置が検出されることを特徴とする、低浸透圧懸濁物。
【請求項13】
患者においてリンパ節を位置決定するための、超常磁性粒子を含む請求項1または2に記載の低浸透圧懸濁物であって、該低浸透圧懸濁物が該患者に注射されること、および該超常磁性粒子の位置を検出することによって、注射の5分以内に該リンパ節が検出されることであって、ここで、該検出は、該検出に基づいて該リンパ節に対する医療手順を即時開始するために十分である、ことを特徴とする、低浸透圧懸濁物。
【請求項14】
磁性温熱療法を使用して患者を処置するための請求項1または2に記載の低浸透圧懸濁物であって、該低浸透圧懸濁物が該患者に注射されること、および該患者が交流磁場に曝されることを特徴とする、低浸透圧懸濁物。
【請求項15】
前記無機塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、酢酸カリウム、および酢酸ナトリウムからなる群より選択される、請求項1に記載の低浸透圧懸濁物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2013年3月11日に出願した米国仮特許出願第61/775,780号に対して優先権を主張する。米国仮特許出願第61/775,780号の内容全体は、本明細書に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般に、医療診断の分野、ならびに外科的切除のために組織を位置決定するための診断法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
約125万の新たな乳癌症例が毎年診断されている。これら症例のうちの大部分において、腫瘍を除去する手術、およびセンチネルリンパ節を切除およびこれらを組織学的に検査して、上記癌が身体の他の部位に既に拡がっているか否かを決定することは、切迫して必要である。上記センチネルリンパ節は、上記腫瘍からのリンパ液排出を受ける最初のリンパ節である。センチネルリンパ節がこのようによばれているのは、拡がった任意の癌を臨床医に信頼性高く注意喚起することが理由である。センチネルリンパ節生検は、現在、乳癌手術におけるケアの標準である。
【0004】
手術中にセンチネルリンパ節を位置決定することは困難である。センチネルリンパ節を位置決定するための一方法は、乳房におけるリンパ系へと濃青色色素を注射することである。その後、上記色素は、乳房リンパ系全体に分散し、外科医は、あらゆる着色したリンパ節を除去する。この方法は、誤りがちであると認識されている。
【0005】
改善された方法は、放射性色素をリンパ節へと注射することを含む。類似の様式で、上記色素はリンパ系を通じて排出され、次いで、外科医は、センチネルリンパ節を位置決定する一助とするために放射線検出器を使用する。しかし、放射性同位体の使用は、他の点については間葉的な手術である外科医に加えて、核医学の放射線医の時間および資源を割り当てる必要があるので、重大で、かつ高価な物流負荷をもたらす。さらに、多くの患者は、放射性の注射を受容したがらない。これら要因は、センチネルリンパ節を位置決定するために放射性同位体を使用することへの重大な障壁になり得る。
【0006】
さらに改善された方法は、磁性粒子の懸濁物をリンパ節へと注射し、上記磁性粒子がリンパ系を通って排出されるのを待つことを含んだ。その後、上記粒子は、磁力計を使用して検出され、このことからリンパ系の位置が明らかにされる。US2011/0133730を参照のこと。先行技術の溶液(例えば、Sienna+(登録商標))は、約30mOsm/kgという非常に低い重量オスモル濃度を有する。Sienna+(登録商標)は、約25.5〜29.5mg/mLの鉄濃度を有する、カルボキシデキストラン中に被覆された磁赤鉄鉱ナノ粒子の水溶液である。Sienna+(登録商標)注射物中の上記磁性粒子がリンパ系を通って正確なリンパ節検出を確実にするに十分に排出されるは約30分かかり、このことは、手術手順中に重大かつ犠牲の大きな中断時間を潜在的に引き起こし得る。その結果、気の短い医師は、あまりにも早く、すなわち、上気磁性粒子がリンパ系を通って十分に排出される前に、リンパ節を検出しようと企て得る。このことは、不完全なリンパ節検出を生じ得る。
【0007】
従って、より効率的な手順を可能にする組成物が必要である。
本発明は、この必要性に対処する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0133730号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、医療用注射のための低浸透圧懸濁物に関する。一実施形態において、上記組成物は、約13mg/mL〜約200mg/mLの磁性粒子、および約0.01% w/v〜約0.6% w/vの無機塩(例えば、塩化ナトリウム)もしくは約0.5% w/v〜約1.5 w/vのグリコールのいずれかの浸透圧調節物質を含む。
【0010】
上記低浸透圧懸濁物の実施形態は、以下の特徴のうちの1またはそれより多くを含み得る:
【0011】
上記磁性粒子は、酸化鉄粒子(例えば、超常磁性酸化鉄粒子(例えば、磁赤鉄鉱))であり得る。
【0012】
上記磁性粒子は、例えばデキストラン(例えば、カルボキシデキストラン)で被覆され得る。
【0013】
上記懸濁物は、約13mg/mLの磁性粒子、約28mg/mLの磁性粒子、56mg/mLの磁性粒子、100mg/mLの磁性粒子、140mg/mLの磁性粒子もしくは約200mg/mLの磁性粒子を有し得る。
【0014】
上記懸濁物は、約80mOsm/kg〜約160mOsm/kgの重量オスモル濃度を有し得る。
【0015】
上記懸濁物は、賦形剤を含み得る。
【0016】
上記無機塩は、約0.01% w/v〜約0.6% w/v、約0.05% w/v〜0.3% w/v、約0.1% w/v〜0.3% w/v、約0.6% w/v未満もしくは約0.3% w/v未満の量で存在し得る。
【0017】
本発明はまた、患者(例えば、ヒト)においてリンパ節を位置決定する方法を提供する。上記方法は、低浸透圧懸濁物を提供する工程;上記低浸透圧懸濁物を上記患者に注射する工程;上記磁性粒子がリンパ節の中に捕捉されるまで待つ工程;および上記磁性粒子の位置を検出することによって、上記リンパ節の位置を検出する工程、を包含する。
【0018】
上記方法は、以下の特徴のうちの1つまたはそれより多くを含み得る:
【0019】
上記方法は、0.2mLの低浸透圧懸濁物、0.4mLの低浸透圧懸濁物、もしくは0.8mLの低浸透圧懸濁物を上記患者に注射する工程を包含し得る。
【0020】
上記検出する工程は、磁力計を使用して行われ得る。
【0021】
本発明はまた、患者(例えば、ヒト)においてリンパ節を迅速に位置決定する方法を提供する。上記方法は、磁性粒子を含む低浸透圧懸濁物を提供する工程;上記低浸透圧懸濁物を上記患者に注射する工程;上記磁性粒子の位置を検出することによって、注射の10分以内、もしくはほんの5分以内にリンパ節を検出する工程であって、上記検出する工程は、上記検出に基づいて、上記リンパ節に対して医療的手順を即時開始するために十分である、工程、を包含する。
【0022】
本発明はまた、磁性温熱療法を使用して患者を処置する方法を提供し、上記方法は、上記低浸透圧懸濁物を提供する工程;上記低浸透圧懸濁物を上記患者に注射する工程;および上記患者を交流磁場に曝す工程、を包含する。
特定の実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
医療用注射のための低浸透圧懸濁物であって、
約13mg/mL〜約200mg/mLの磁性粒子;および
約0.01% w/v〜約0.6% w/vの無機塩もしくは約0.5% w/v〜約1.5% w/vのグリコールのいずれかから選択される浸透圧調節物質、
を含む、低浸透圧懸濁物。
(項目2)
前記磁性粒子は、酸化鉄である、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目3)
前記酸化鉄の粒子は、超常磁性である、項目2に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目4)
約13mg/mLの磁性粒子を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目5)
約26mg/mLの磁性粒子を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目6)
約52mg/mLの磁性粒子を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目7)
前記低浸透圧懸濁物は、約80mOsm/kg〜約160mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目8)
賦形剤をさらに含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目9)
前記磁性粒子は被覆されている、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目10)
前記被覆はデキストランを含む、項目9に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目11)
前記無機塩は、塩化ナトリウムである、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目12)
前記懸濁物は、センチネルリンパ節の検出のために使用され、約0.05%〜約0.3% w/vの前記無機塩を含む。項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目13)
前記懸濁物は、センチネルリンパ節の検出のために使用され、約0.1%〜0.3 w/vの前記無機塩を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目14)
前記懸濁物は、センチネルリンパ節の検出のために使用され、約0.6% w/v未満のもしくは約0.6% w/vに等しい前記無機塩を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目15)
前記懸濁物は、センチネルリンパ節の検出のために使用され、約0.3% w/v未満のもしくは約0.3% w/vに等しい前記無機塩を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目16)
前記グリコールは、プロピレングリコールである、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目17)
前記懸濁物は、磁性温熱療法処置のために使用され、約20mg/ml〜200mg/mlの前記磁性粒子を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目18)
前記懸濁物は、磁性温熱療法処置のために使用され、約58mg/ml〜140mg/mlの前記磁性粒子を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目19)
前記懸濁物は、磁性温熱療法処置のために使用され、約56mg/ml〜140mg/mlの前記磁性粒子を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目20)
前記懸濁物は、磁性温熱療法処置のために使用され、約100mg/ml〜140mg/mlの前記磁性粒子を含む、項目1に記載の低浸透圧懸濁物。
(項目21)
患者においてリンパ節を位置決定する方法であって、該方法は、
項目1に記載の低浸透圧懸濁物を提供する工程;
該低浸透圧懸濁物を該患者に注射する工程;
該磁性粒子がリンパ節に捕捉されるまで待つ工程;および
該磁性粒子の位置を検出することによって、該リンパ節の位置を検出する工程、
を包含する、方法。
(項目22)
0.2mLの低浸透圧懸濁物を注射する工程を包含する、項目21に記載の方法。
(項目23)
0.4mLの低浸透圧懸濁物を注射する工程を包含する、項目21に記載の方法。
(項目24)
0.8mLの低浸透圧懸濁物を注射する工程を包含する、項目21に記載の方法。
(項目25)
検出する工程は、磁力計を使用して行われる、項目21に記載の方法。
(項目26)
患者においてリンパ節を位置決定する方法であって、該方法は、
磁性粒子を含む低浸透圧懸濁物を提供する工程;
該低浸透圧懸濁物を該患者に注射する工程;および
該磁性粒子の位置を検出することによって、注射の10分以内にリンパ節を検出する工程であって、該検出は、該検出に基づいて該リンパ節に対する医療手順を即時開始するために十分である、工程
を包含する、方法。
(項目27)
前記磁性粒子の位置を検出することによって、注射の5分以内にリンパ節を検出する工程を包含する、項目26に記載の方法。
(項目28)
磁性温熱療法を使用して、患者を処置する方法であって、該方法は、
項目1に記載の低浸透圧懸濁物を提供する工程;
該低浸透圧懸濁物を該患者に注射する工程;および
該患者を交流磁場に曝す工程、
を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図面は、必ずしも縮尺を合わせてあるわけではなく、代わりに、例証となる原則が一般に強調される。図面は、全ての局面で例証であるとみなされ、本発明を限定することは意図されず、本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0024】
図1】種々の塩ベースの低浸透圧溶液についての、リンパ腺でのSentiMag(登録商標)磁力計測定値(絶対単位)。0〜2時間の平均±SEM(n=3)として表された結果。
【0025】
図2】種々の塩ベースおよび非塩ベースの低浸透圧溶液についての、リンパ節でのSentiMag(登録商標)磁力計測定値(絶対単位)。0〜120分間の平均±SEM(n=3)として表された結果。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(詳細な説明)
本発明は、一部、患者においてリンパ節を迅速に検出するために有用な組成物の知見に関する。これら組成物は、低浸透圧溶液中の磁性粒子の懸濁物を含む。上記低浸透圧溶液の重量オスモル濃度は、注射後のリンパ系を通じた上記磁性粒子の迅速な排出もしくは輸送を容易にし、それによって、最初の注射とリンパ節検出との間の中断時間を短縮する。注射部位に隣接するリンパ節は、最初の注射のほんの5〜15分後に強く検出され得、それは、現在の方法より少なくとも50%素早く、それによって、より効率的な術前検査を可能にする。さらに、本発明の低浸透圧溶液は、多用途溶媒であり、等張性もしくは高張性の溶液よりも広い範囲の賦形剤とともに使用され得る。さらに、リンパ節への迅速な移動は、注射部位での残余の痕跡(すなわち、針痕(tattooing))を軽減し得る。
【0027】
本発明の意味の中の低浸透圧溶液は、約80mOsm〜約160mOsmの重量オスモル濃度を有する水溶液である。等張溶液は、約300mOsmの重量オスモル濃度を有し、高浸透圧溶液は、350mOsmより大きな重量オスモル濃度を有する。
【0028】
好ましい実施形態において、無機塩(例えば、塩化ナトリウム)もしくはグリコール(例えば、プロピレングリコール)は、低浸透圧溶液を作るために使用される。約0.01% w/v〜約0.6% w/vの塩を有する無機塩溶液(例えば、塩化ナトリウム)は、本発明での使用に適した低浸透圧溶液を生じる。約0.5% w/v〜約1.5% w/vのグリコールを有するグリコール溶液(例えば、プロピレングリコール)は、本発明での使用に適した低浸透圧溶液を生じる。
【0029】
低浸透圧溶液は、適切な無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、酢酸カリウム、および酢酸ナトリウムのような一価および二価の塩が挙げられる)を使用して作製され得る。
【0030】
低浸透圧溶液は、適切なグリコール(例えば、短鎖の、直鎖状もしくは分枝状のアルキルグリコール(例えば、プロピレングリコール)が挙げられる)を使用して作製され得る。
【0031】
上記磁性粒子は、適切な磁性材料および1種もしくはそれより多くの被覆から構成され得る。いくつかの実施形態において、上記磁性粒子は、酸化鉄(例えば、磁鉄鉱および/もしくは磁赤鉄鉱)を含む。その磁性コアは、毒性を低減するか、上記粒子の凝集を予妨するか、もしくは身体における残留時間を改変するために、生体適合性被覆によって取り囲まれ得る。適切な被覆としては、例えば、デキストラン、カルボキシデキストラン、他の糖、アルブミン、ポリエチレングリコール(PEG)、生体適合性ポリマー、PEG化デンプン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリグルコースソルビトールカルボキシメチルエーテルおよびキトサンが挙げられる。他の被覆材料としては、金属(例えば、金、PEG化コロイド状金ナノ粒子、銀)、炭素、シリカ、シリコーン、アミノシランおよびセラミックが挙げられる。超常磁性挙動を示すために、上記粒子の磁性コアは、上記材料および構造に依存して、ある特定の直径(代表的には、3〜25nmの範囲にある)未満であるべきである。
【0032】
磁性粒子はまた、これらが特定の組織もしくは細胞タイプ(例えば、癌細胞)を位置決定するか、またはそれら領域に治療を与えるために特定の生物学的系を標的とすることを可能にするように官能化され得る。官能化は、例えば、抗体、酵素もしくはタンパク質を含むバイオベクター(biovector)を付着させるかもしくはこれで被覆することによって、達成される。
【0033】
一実施形態において、酸化鉄は、その低毒性が原因で磁性コアとして使用されるが、超常磁性コアを形成し得る他の材料もまた、受容可能である。上記コア材料は、磁気によって整列され得る(magnetically ordered)べきである。それは、コバルト、鉄、もしくはニッケルのような金属、金属合金、希土類および遷移金属合金、アルミニウム、バリウム、ビスマス、セリウム、クロム、コバルト、銅、ジスプロシウム、エルビウム、ユーロピウム、ガドリニウム、ホルミウム、鉄、ランタン、ルテチウム、マンガン、モリブデン、ネオジム、ニッケル、ニオブ、パラジウム、白金、プラセオジム、プロメチウム、サマリウム、ストロンチウム、テルビウム、ツリウム、チタン、バナジウム、イッテルビウム、およびイットリウムを含むMタイプもしくはスピネル型のフェライト、またはこれらの混合物であり得る。上記コアはまた、鉄(II)塩と別の金属塩との組み合わせを酸化させることによって形成され得る。有益な金属塩としては、アルミニウム、バリウム、ビスマス、セリウム、クロム、コバルト、銅、ジスプロシウム、エルビウム、ユーロピウム、ガドリニウム、ホルミウム、鉄、ランタン、ルテチウム、マンガン、モリブデン、ネオジム、ニッケル、ニオブ、パラジウム、白金、プラセオジム、プロメチウム、サマリウム、ストロンチウム、テルビウム、ツリウム、チタン、バナジウム、イッテルビウム、およびイットリウムの塩が挙げられる。
【0034】
上記低浸透圧溶液の重量オスモル濃度は、広い範囲の賦形剤との組み合わせを可能にし、多様な製剤選択肢をもたらすというさらなる利点を有する。本発明の低浸透圧溶液で使用され得る適切な賦形剤としては、例えば、以下が挙げられる:
・共溶媒(例えば、エタノール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、PEG400、グリセロール、ベンジルアルコール、およびこれらの組み合わせ);
・油(例えば、脂質、流動パラフィン、胡麻油、PEG植物性油、およびこれらの組み合わせ);界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシル40ヒマシ油、ポリソルベート20、ポリソルベート80、およびこれらの組み合わせ);
・リポソーム(例えば、レシチン、卵レシチン、ホスファチジルグリセロール、リン脂質、卵リン脂質、およびこれらの組み合わせ);
・炭水化物(例えば、デキストロース);
・アミノ酸もしくはアミノ酸混合物(例えば、Aminosyn(登録商標)II、Travasol(登録商標)、およびHepatAmine(登録商標));
・増粘剤/安定化剤(例えば、カルボキシメチルセルロース);ならびに
・注射に適した緩衝剤。
賦形剤が溶液の重量オスモル濃度を増大させる場合、無機塩および/もしくはグリコールの量は、上記低浸透圧溶液の合計重量オスモル濃度が約80mOsm〜約160mOsmの間であるように調節され得る。
【0035】
本発明の組成物は、ヒトもしくは任意の他の哺乳動物(例えば、ブタ)においてリンパ節を検出するために使用され得る。例えば、磁性粒子を含む低浸透圧溶液は、乳癌患者に注射され得る。上記溶液中の磁性粒子は、次いで、上記患者におけるセンチネルリンパ節の位置を明らかにするために、SentiMag(登録商標)(Endomagnetics;Cambridge, U.K.)のような磁力計を使用して検出される。
【0036】
上記低浸透圧溶液のさらなる適用は、上記溶液が組織を加熱する目的で身体に投与される磁性温熱療法にある。この適用において、ナノ粒子の濃度は、20〜200mg/mlの間であり、より好ましくは、100〜140mg/mlの間である。
【0037】
本発明の低浸透圧組成物は、容器(例えば、バイアルもしくはシリンジ)、および上記組成物を投与するための説明を含むキットの一部として、使用準備ができた状態で供給され得る。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
2mlのSienna+(登録商標)(Endomagnetics;Cambridge, U.K.)を使用するヒト患者での治験は、腋窩リンパ節におけるゆっくりとした取り込みとともに、30分後に不十分な外部シグナルを与えることを示した。Sienna+(登録商標)は、非常に低浸透圧性であり、重量オスモル濃度は、約30mOsm/kgである。Sienna+(登録商標)を間質組織へと注射した場合、周りの細胞は上記注射から水を迅速に吸収して、浸透圧を維持すると推測された。これは、Sienna+(登録商標)のより濃縮した塊を残すと同時に、間質圧を低下させ、リンパ系への輸送を効果的に低下させる。体積の増大は間質圧を増大させ、それによって、リンパ系による取り込み速度を増大させると考えられる。しかし、体積の大きな増大は、上記患者にとって不快であると判明し得る。さらに、センチネルリンパ節生検(例えば、腸、黒色腫、いくつかの頭頸部がん)のためのいくつかの潜在的適用は、注射体積の増大を許容しない。重量オスモル濃度が増大した溶液は、より迅速な応答を提供すると仮定した。なぜなら間質液の流体の体積および圧力は、維持される(等張)か、またはさらには増大され(高張性注射に関しては、そこで周りの細胞が水を排出する)、従って、リンパ節への流れを増大させるからである。
【0039】
(方法)
ブタ乳房を、インビボリンパ節モデルとして使用した。上記溶液を鼠径第3乳頭(3rd inguinal papillar)へ直接注射した後、ブタにおける超常磁性酸化鉄粒子の生体分布に対するカルボキシデキストラン被覆磁赤鉄鉱ナノ粒子溶液の濃度および体積の効果を評価するために調査を行った。上記磁赤鉄鉱コアは、直径約5nmを有し、上記カルボキシデキストラン被覆は、粒子直径を約60〜70nmへと増大させた。この研究の目的は、0.3% w/v、0.6% w/v、および0.9% w/vの塩化ナトリウムで調製した磁赤鉄鉱ナノ粒子溶液の注射後に、ブタリンパ節における超常磁性酸化鉄粒子の生体分布を評価することであった。上記粒子のリンパ節生体分布に対する張度の影響を、SentiMag(登録商標)磁性プローブの使用によって評価した。
【0040】
注射前に、アザペロンおよびケタミンの筋肉内併用でブタを鎮静化させ、続いて、静脈内チオペンタールナトリウムで全身麻酔した。投与前に、投与領域を洗浄し、境界線を画定した。
【0041】
全ての注射を、鼠径第3乳頭の基部に直接行った。各ブタには、左乳頭および右乳頭で異なる注射を与えた。試験溶液の各々を、異なるブタ(n=3)の3個の乳頭に注射した。表1は、試験した製剤を示す。表1において、「システム」の列は、図1中の曲線に相当する。
【表1】
【0042】
カルボキシデキストラン被覆磁赤鉄鉱ナノ粒子溶液を、水において調製した。NaClを、上記磁赤鉄鉱溶液に適切な濃度になるように添加した。例えば、予め希釈した磁赤鉄鉱ナノ粒子溶液に0.3mgのNaClを添加することによって0.3%塩 磁性粒子懸濁物を作った。Sienna+(登録商標)(約26mg/mL 磁赤鉄鉱、0.4mL 用量;システムg)をコントロールとして供した。
【0043】
表2に詳述されるように、SentiMag(登録商標)デバイスを使用して、各ブタにつき複数回の読み取りを行った。72時間の読み取りの後、乳頭およびリンパ節の部位を、組織学的分析のために全ての動物から取り出した。図1の結果は、リンパ節で得られた測定値の平均(n=3)である。
【表2】
【0044】
(結果)
0.3% w/v 食塩水(saline solution)中のSienna+(登録商標)(図1、システムa)は、0.6%食塩水および0.9%食塩水の両方と同程度に効果的であると見出された(図1、それぞれ、システムbおよびc)。これは、驚くべきことであった。なぜなら0.3% w/v 溶液は、0.6% w/v(270sOsm、ほぼ等張性)および0.9% w/v(384mOsm、高張性)と比較して、低張性(156mOsm)であるからである。0.3% w/v 溶液に関するこのような強い結果は、予測外である。上記低張度は、0.6%溶液および0.9%溶液と比較して、使用され得る製剤添加剤(賦形剤)の範囲を拡げると考えられる。
【0045】
具体的には、張度の増大は、リンパ系を通る鉄粒子の有意にさらに迅速な輸送を生じる。注射の5分後には、Sienna+(登録商標)への0.3%、0.6%および0.9%の塩の添加(図1、それぞれ、システムa、bおよびc)は、コントロールであるSienna+(登録商標)(図1、システムg)と比較して、リンパ腺において測定されるシグナルの5倍の増大を生じる。結果として、処置している医師は、手順を開始する前に5〜15分待つ必要があるのみであり、これは、Sienna+(登録商標)のみと比較して、待つ時間を少なくとも50%低減する。
【0046】
さらに、30分の時点で、Sienna+(登録商標)に0.3% w/v、0.6% w/v、もしくは0.9% w/vの塩化ナトリウム(図1、それぞれ、システムa、bおよびc)を添加する影響は、鉄の濃度を倍加することに等しい(図1、システムf)。結論として、張度を増大させると、注射1回あたりに使用される鉄の合計がより少ない必要があり、それによって、コストおよび副作用が低減される。
【0047】
従って、<0.6% NaCl溶液およびより好ましくは、<0.3% NaCl溶液という低浸透圧性は、等張性溶液(例えば、0.6% NaCl)と同じく、もしくは低張性溶液(例えば、0.9% NaCl)とさえも同じく、リンパ節への迅速な輸送を提供するが、上記溶液中にこのような多量の塩が含まれる必要はない。
【0048】
0.05% w/v NaClを含む、より低張性の溶液は、Sienna+(登録商標)と比較して有意な改善を示さなかった。従って、張度の利益に関する「トリガーポイント」は、約80mOsm〜約156mOsmの間のどこかにある。従って、0.05%〜0.3% NaCl溶液もしくは好ましくは0.1%〜0.3% NaCl溶液、またはより好ましくは、0.2%〜0.3% NaCl溶液は、迅速な取り込みおよび賦形剤としての多用途性の両方を示す。
【0049】
(実施例2)
代替の溶質を含む低浸透圧溶液を調査するために、類似のインビボでのブタ研究に着手した。全ての注射を、鼠径第3乳頭の基部に直接行った。各ブタには、左乳頭および右乳頭に異なる注射を与えた。各試験溶液を、異なるブタ(n=3)の3個の乳頭へと注射した。表3は、試験した製剤を示す。表3において、「システム」の列は、図2の曲線に相当する。
【表3】
【0050】
システム6、0.3% NaClを含むSienna+(登録商標)をコントロールとして供した。表4に詳述されるように、SentiMag(登録商標)デバイスを使用して、各ブタについて複数回の読み取りを行った。図2の結果は、リンパ節で得られた測定値の平均(n=3)である。
【表4】
【0051】
図2に示されるように、システム6(Sienna+0.3% NaCl、コントロール)は、リンパ腺への最速の送達を生じた。従って、塩は、送達の最良の増強因子のようである。0.5% ポリエチレングリコール(システム5)はまた、有効なようであり、注射の5〜15分以内にリンパ腺への迅速な送達を生じる。よって、いくつかの実施形態において、グリコールは、磁性粒子を含む低浸透圧溶液を作るために溶質として使用され得る。
【0052】
ポリソルベート製剤(システム3)およびグリセロール製剤(システム7)は、その張度がNaClコントロール(システム6)の張度と等しいにもかかわらず、最初の2時間にわたって最も機能が低い製剤であった。このことは、ポリソルベートおよびグリセロールがリンパ腺への送達を阻害する可能性があることを示す。同様に、ヒアルロン酸(MW 108,000ダルトン)の添加は、0.3% NaClと併用した場合、送達を遅らせるようである。
【0053】
上記溶液の投与方法が、上記溶液が投与される特定の身体部位に依存することは、注意すべきである。センチネルリンパ節生検のために、上記注射は、間質、皮下、皮内もしくは筋肉内の注射であり得る。磁性温熱療法のために、上記溶液は、これら注射方法のうちのいずれかによって、または組織の領域、体腔もしくは脈管へのカテーテルもしくは注入を介して、投与され得る。
【0054】
工程の順序もしくはある種の活動を行うための順序が、本発明が依然として機能できることを条件として重要ではないことは、理解されるべきである。さらに、2もしくはそれより多くの工程もしくは活動は、同時に行われてもよい。
【0055】
値の範囲もしくは列挙が提供される場合、その値の範囲もしくは列挙の上限と下限との間にある各数値は、各値が本明細書で具体的に列挙されるかのように、個々に企図され、本発明の中に包含される。さらに、所定の範囲の上限と下限との間にあり、上限および下限を含むより小さな範囲は、本発明の中で企図され、包含される。例示的値もしくは範囲の列挙は、所定の範囲の上限と下限の間にあって上限および加減を含む他の数値もしくは範囲の放棄ではない。
図1
図2