特許第6351679号(P6351679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6351679第VIII因子とその誘導体の製造及び精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351679
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】第VIII因子とその誘導体の製造及び精製方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20180625BHJP
   C07K 14/755 20060101ALI20180625BHJP
   C07K 1/36 20060101ALI20180625BHJP
   C07K 1/34 20060101ALI20180625BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20180625BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20180625BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20180625BHJP
【FI】
   C12P21/02 C
   C07K14/755
   C07K1/36
   C07K1/34
   C07K1/22
   !C12N5/10
   !C12N15/12
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-194303(P2016-194303)
(22)【出願日】2016年9月30日
(62)【分割の表示】特願2014-80467(P2014-80467)の分割
【原出願日】2007年2月23日
(65)【公開番号】特開2016-220701(P2016-220701A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2016年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ソン インヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム フンテク
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンワン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨンクック
(72)【発明者】
【氏名】リュー ジョンイル
(72)【発明者】
【氏名】キム デキ
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−113879(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0147436(US,A1)
【文献】 特開平07−079774(JP,A)
【文献】 New Perspectives in Hemophilia Treatment,Hematology,米国,2005年,pp. 429-435
【文献】 Scientific Discussion of EMEA,2004年,pp. 1/13 - 13/13
【文献】 J. Ferment. Bioeng.,1990年,Vol. 70, No. 3,pp. 199-209
【文献】 Stabilization of basic fibroblast growth factor with dextran sulfate,FEBS Lett.,1992年,Vol. 306,pp. 243-246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/02
C07K 14/755
C12N 15/09
C12N 15/12
MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養培地中において、dBN(64−53)をコードするcDNAを含有する発現DNAベクターで形質転換された哺乳類宿主細胞からdBN(64−53)を生産し、前記dBN(64−53)を固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する方法であって、
(a)前記哺乳類宿主細胞を、100mg/L〜1g/Lの20〜5000kDaの平均分子量を有する硫酸デキストランが補充された培養培地で培養することにより、細胞培養過程から放出されたプロテアーゼのdBN(64−53)−切断活性を低減する工程、
(b)限外ろ過を通して前記dBN(64−53)を含有する前記培養培地を濃縮する工程、及び
(c)前記dBN(64−53)、イオン交換クロマトグラフィーを用いず免疫親和性クロマトグラフィーにより前記濃縮された培養培地から精製することにより、95%よりも高い純度の単一鎖dBN(64−53)を得る工程、
を含方法。
【請求項2】
前記培養培地が動物性タンパク質を含まない培地である、請求項記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳類宿主細胞がCHO、BHK又はCOS細胞である、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
第VIII因子は血液凝固と関連する血漿糖タンパク質である。その機能の欠陥又は異常は血友病Aと呼ばれる深刻な遺伝性疾患を招く(Eaton, D. et al., 1986, Biochemistry 25:505-512; Toole, J.J. et al., 1984, Nature 312:342-347; Vehar, G.A. et al., 1984, Nature 312:337-342)。今まで、血友病Aの唯一の治療はヒトの血液又は組み換え供給源から製造された第VIII因子の静脈内投与であった。安全性の理由により、組み換え第VIII因子が血漿由来第VIII因子より好まれる。しかし、第VIII因子の発現水準は同一の発現システムで他の分子より100〜1000倍程度低いため(Lynch C.M., 1993, Human Gene Therapy 4:259-272)、組み換え第VIII因子の生成はその需要を充足できなかった。
【0002】
様々な試みが、第VIII因子の補助因子活性度にいずれの機能も持たないことが知られているB−ドメインを除去することで、第VIII因子の改善された発現を達成した(Eaton et al., 1986, Biochemistry 25:8343-8347; Burke, R.L. et al., 1986, J. Biol. Chem., 261:12574-12578; Toole, J.J. et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83:5939-5942; Fay et al., 1986, Biochem. Biophys. Acta, 871:268-278)。米国特許第5,661,008号及び国際公開第91/09122号には、血漿第VIII因子の最も短い形態と類似した第VIII因子のB−ドメイン欠失形を提示した。米国特許第5,112,950号及び米国特許第7,041,635号には、単一鎖形態のB−ドメイン欠失第VIII因子分子が提示されている。
【0003】
哺乳類細胞発現のための選択として、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞発現システムが第VIII因子を含む多数の治療タンパク質の生産に使用されていた(Chu, L et al., 2001, Curr. Opin. Biotehnol. 12:180-187)。CHO細胞株の特徴は明らかにされている。CHO細胞株は血清含有培地又は無血清培地に適合した、固定依存的な方法又は懸濁方法で成長することができ、特に、ヒトの糖鎖付加パターンとほぼ同一のタンパク質の翻訳後変更を支援することができる(Brooks S.A., 2004, Mol. Biotechnol., 28:241-255; Jenkins, N., et al., 1996, Nat. Biotechnol., 14:975-981; Chen, Z., et al., 2000, Biotechnol. Lett., 22:837-941; Mols, J., et al., 2005, 41:83-91)。大概は、動物由来ウイルス又はプリオンの伝染に係る安全性を解決してより容易な精製のために、治療タンパク質を生産するCHO細胞を動物由来無タンパク質培地で培養した(Chu, L., et al., 2001, Curr. Opin. Biotechnol., 12:180-187)。しかし、前記培養培地から血清の除去は血清補充物のうち天然的に含有されたプロテアーゼ抑制剤も除去し、前記生産過程中に細胞生存率を維持することが困難となる(Mols, J., et al., 2005, 41:83-91; Sandberg, H., et al., 2006, Biotechnol Bioeng., 95:961-971)。
【0004】
減少した生存率及びストレスが多い環境は、死んだ細胞から分泌されたり放出されるプロテアーゼの生産を増加させると見られており、これは前記治療タンパク質を攻撃して不均質性(heterogeneity)を誘発し得る。治療タンパク質の内部切断により誘発された不均質性は大きな問題となり得るが、その理由は切断されたタンパク質が不活性となり、生産及び精製過程中に“ロット間(lot to lot)”同一性を維持することが困難となるためである。従って、生産中に比較的低い水準のプロテアーゼを維持しプロテアーゼ活性を防止することが重要である。
【0005】
培養中にCHO細胞株から放出されたプロテアーゼにより誘発されるこのようなタンパク質分解を防止するためのいくつかの成功した努力が報告されているが、CHO細胞株から生産された全ての治療タンパク質に適用できる普遍的な抑制剤は未だに発見されていない。Satoh MらはCHO細胞から放出されたシステイン及びセリンプロテアーゼの存在を報告している。Chotteauら(Chotteau, V., et al., 2001, in Animal cell technology: from target to market, Kluwer Academic publishers, pp. 287-292)はCHO細胞培養培地からの未確認細胞外の金属依存性プロテアーゼが切断された第VIII因子のタンパク質分解に寄与することを明らかにした。国際公開第90/02175号には、CHO細胞培養物からの一部のセリン又はシステインプロテアーゼが抑制剤ペプチドにより遮断され、前記抑制剤は第VIII因子の生産性を増加させることが記載されている。欧州特許公開第0306968号は、アプロチニンを培養培地に添加することで、CHO細胞培地で第VIII因子の発現を3倍まで増加したことを記述している。
【0006】
米国特許第5,851,800号で、発明者らはメタロプロテアーゼ及びキモトリプシンの抑制剤が細胞培養物で第VIII因子生産に対する有害影響を減少させることができることを開示した。Sandberg Hらは、細胞培養物でCHO細胞により放出された2種類のタンパク質分解活性の特性を明らかにした。一つはメタロプロテアーゼが起源であり、もう一つはセリンプロテアーゼが起源であった。専らメタロプロテアーゼのみが第VIII因子活性に対して強い悪影響を与えることが分かった。しかし、EDTA及び1,10−o−フェナントロリンのようなメタロプロテアーゼの抑制剤がSangberg Hらにより提示されたように、第VIII因子切断を遮断することができたとしても、これら抑制剤は我々の実験から判断すると、細胞毒性効果によりCHO細胞培養培地に直接添加することができない。
【0007】
前記言及した全てのプロテアーゼ抑制剤及びアプロチニン、ベスタチン、ロイペプチン、E−64及びペプスタチンAのようなセリン、システイン、アスパラギン酸及びアミノペプチダーゼに対する抑制剤を含有する、商業的に得ることができるプロテアーゼ・カクテルを単一鎖第VIII因子誘導体(米国特許第7,041,635号に開示)培養物に適用したが、それらは全て、培養途中にCHO細胞培養物から放出されたプロテアーゼによる切断から第VIII因子誘導体を保護するのに有効ではないことを発見した。
【0008】
米国特許第6,300,100号には、ヘパリンのような硫酸化多糖類が培養培地に存在するプロテアーゼによる切断から無傷の組織因子経路抑制剤(TFPI)を保護することが提示されている。更に、米国特許第5,112,950号は、無血清培地で第VIII因子に対するフォン・ヴィレブランド因子の安定化効果を代替する硫酸化デキストランを提示する。しかし、我々の知っている限りでは、第VIII因子分子と関連してプロテアーゼに対する硫酸デキストランの抑制効果に関する報告は存在しない。
【0009】
本発明は、CHO細胞培養中に生産されたプロテアーゼからの第VIII因子又はその誘導体の切断に対する硫酸デキストランの保護効果を立証することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,661,008号
【特許文献2】国際公開第91/09122号
【特許文献3】米国特許第5,112,950号
【特許文献4】米国特許第7,041,635号
【特許文献5】国際公開第90/02175号
【特許文献6】欧州特許公開第0306968号
【特許文献7】米国特許第5,851,800号
【特許文献8】米国特許第7,041,635号
【特許文献9】米国特許第6,300,100号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Eaton, D. et al., 1986, Biochemistry 25:505-512; Toole, J.J. et al., 1984, Nature 312:342-347; Vehar, G.A. et al., 1984, Nature 312:337-342
【非特許文献2】Lynch C.M., 1993, Human Gene Therapy 4:259-272
【非特許文献3】Eaton et al., 1986, Biochemistry 25:8343-8347
【非特許文献4】Burke, R.L. et al., 1986, J. Biol. Chem., 261:12574-12578
【非特許文献5】Toole, J.J. et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83:5939-5942
【非特許文献6】Fay et al., 1986, Biochem. Biophys. Acta, 871:268-278
【非特許文献7】Chu, L et al., 2001, Curr. Opin. Biotehnol. 12:180-187
【非特許文献8】Brooks S.A., 2004, Mol. Biotechnol., 28:241-255
【非特許文献9】Jenkins, N., et al., 1996, Nat. Biotechnol., 14:975-981
【非特許文献10】Chen, Z., et al., 2000, Biotechnol. Lett., 22:837-941
【非特許文献11】Mols, J., et al., 2005, 41:83-91
【非特許文献12】Chu, L., et al., 2001, Curr. Opin. Biotechnol., 12:180-187
【非特許文献13】Mols, J., et al., 2005, 41:83-91
【非特許文献14】Sandberg, H., et al., 2006, Biotechnol Bioeng., 95:961-971
【非特許文献15】Chotteau, V., et al., 2001, in Animal cell technology: from target to market, Kluwer Academic publishers, pp. 287-292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一様態において、硫酸デキストランが補充された無血清培地に適用された哺乳類宿主細胞株で第VIII因子又はその誘導体の生産方法を提供する。培養培地に硫酸デキストランを添加すると、CHO細胞培養培地が起源である(a)いくつかのプロテアーゼの第VIII因子−切断機能が有効に減少されたり遮断され、同時に前記生産された第VIII因子分子の均質性が増加する。
本発明の別の様態において、単クローン抗体依存精製方法を使用して硫酸デキストラン含有培地から第VIII因子分子を効率的に精製する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、哺乳類宿主細胞培養中に放出されるプロテアーゼによる切断から米国特許第7,041,635号に開示された単一鎖第VIII因子誘導体を保護することができる有効抑制剤及び前記生産された第VIII因子誘導体の均質性を増加させることに関する。また、本発明は、前記プロテアーゼ抑制剤の添加による影響なく前記第VIII因子を精製する方法に関する。
【0014】
前記哺乳類宿主細胞は、組み換え第VIII因子を発現できる任意の動物細胞であり得、好ましくは目的とする形質転換細胞を容易に分離させることができる動物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、BHK細胞、又はCOS細胞、より好ましくはCHO細胞である。
【0015】
先行特許である米国特許第6,300,100号には、いくつかのプロテアーゼに対する標的タンパク質に対する硫酸化多糖類の保護効果に対して記述されており、ここで標的タンパク質は組織因子経路抑制剤(TFPI)であった。従って、前記硫酸化多糖類が標的分子−第VIII因子を保護できるかの試験を行った。本発明は、硫酸デキストランのみが培養過程中に培養培地に添加されるとき、第VIII因子切断に対して非常に強い保護効果を有することを立証した。
【0016】
硫酸デキストランを細菌発酵又は化学合成から得ることができる。硫酸デキストランの分子量は20乃至5,000kDaの分子量で異なり得、好ましくは50乃至2,000kDaである。
【0017】
硫酸デキストランの硫黄含量はまた、その供給源物質によって異なり得る。硫酸デキストランの硫黄含量に関係なく、前記硫酸デキストランが細胞培養過程から放出されたプロテアーゼによる切断から第VIII因子を保護することができれば、本発明に使用することができる。硫酸デキストランの硫黄含量は好ましくは、硫酸化多糖類の5乃至20質量%、より好ましくは17質量%を超過する範囲である。
【0018】
成長培地に添加される硫酸デキストランの量は第VIII因子の発現水準及びその宿主細胞株によって調節することができ、本発明の好ましい実施様態に制限されない。
【0019】
本発明の好ましい実施様態において、第VIII因子分子は、米国特許第7,041,635号に提示されているdBN(64−53)(以下、I2GdBNと呼ぶ)と命名された第VIII因子誘導体のうち一つである。前記第VIII因子誘導体はB−ドメインの一部及びA3のN−末端部分に内部欠失を有し、その融合部位に新しいN−グリコシル化認識配列を有するようにデザインされた。米国特許第7,041,635号の実施例6に開示された方法のように、前記I2GdBNを安定に発現するCHO細胞株を製造し、これを商業的に立証できる無血清培地に適用させた。以下、前記クローンを“#39クローン”と表示し、実施例に言及された全ての細胞は前記CHO細胞株(#39)を称する。
【0020】
本発明はまた親和性クロマトグラフィーを使用して、硫酸デキストランが補充された培養培地から哺乳類宿主細胞で発現された第VIII因子又は誘導体を精製する方法に関する。前記親和性クロマトグラフィーは、アガロース又はセファロースのような固相支持体に結合された親和性分子を含有する親和性カラムを含む。前記親和性分子は、単クローン性又は多クローン性の抗第VIII因子に対して高い親和性を有するペプチドであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】無傷の第VIII因子の切断の保護に対する相異の硫酸化多糖類の比較効果を表す。
図2】B−ドメインが欠失された第VIII因子、I2GdBNの断片化に対する硫酸デキストランの分子量及び濃度効果を表す。
図3】I2GdBNの断片化に対する硫酸塩、デキストラン及び硫酸デキストランの効果を表す。
図4】本発明の実施様態によるかん流培養でI2GdBNの断片化に対する硫酸デキストランの効果を表す。
図5】本発明の実施様態による免疫親和性クロマトグラフィーからの溶出分画のクマシーブリリアントブルーR250−染色されたSDS−PAGEゲルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を下記実施例により更に例示するが、当分野の熟練者により理解されるように、他の第VIII因子分子及び別の細胞株に適用することができる。従って、下記の実施例を本発明の範囲を制限するものと解釈されてはならない。
【0023】
ヘパリン、低分子量のヘパリン(〜3kDa及び4〜6kDa)、デルマタン硫酸、デキストラン(500kDa)、硫酸ナトリウム、硫酸デキストリン(500kDa、10kDa、8kDa)をシグマ社から購入した。デキストランは、ロイコノストック・メセンテロイデス、菌株B512から由来した。相異する分子量の硫酸デキストランを制限された加水分解及び分別化により生成させた。硫酸群を温和な条件下で硫酸によるエステル化により添加した。前記硫酸デキストランは約17%の硫黄を含有した。
(http://www.sigmaaldrich.com/sigmaaldrich/product_information_sheet/d6001pis.pdf)
【0024】
#39CHO細胞株の塗抹
I2GdBNをコードするDNA断片を持つ前述した#39クローンを無血清培地(Cambrex社から購入したProCHO5培地)で培養した。解凍後、2度の継代培養時、4×105細胞を6−ウェルプレートの各ウェルに分株した。
【0025】
ウエスタンブロット分析
発現された第VIII因子を含有する培養培地を7.5%SDS−PAGEゲルに適用し、PVDF膜にブロッティングした。ブロッティングされた膜を本発明の発明者らにより生成された#26−1と称するA2ドメイン−特異抗体で精査した。セイヨウワサビペルオキシダーゼと結合された2次マウスIgGを使用して前記ブロット上の第VIII因子−抗体複合体を視覚化した。
【実施例】
【0026】
実施例1
I2GdBNの断片化に対する多様な硫酸化多糖類の保護効果の比較
高分子量の硫酸デキストラン(約500kDa)、ヘパリン、2種類の低分子量ヘパリン(〜3kDa及び4〜6kDa)、及びデルマタン硫酸をシグマ社から購入し、水に再懸濁してフィルター殺菌した。細胞を先で言及したように分株して24時間後に、培地を新しいものと換え、5種類の硫酸化多糖類を各ウェルに各々25mg/L、50mg/L、100mg/L、又は200mg/Lの最終濃度で添加した。48時間培養した後、培養上澄液を除去し、ウエスタンブロット分析を通して分析した。図1に示したように、その他の特許で記述したTFPIを有効に保護する3種のヘパリンの保護効果はほとんどなかった。しかし、硫酸デキストランは濃度−依存的方式で効率的に第VIII因子の切断を保護した。添加剤がない培養培地中の第VIII因子(41%;図1−(D)でレーン1)及びヘパリン又はデルマタン硫酸がある培養培地中の第VIII因子(52%〜67%;図1−(D)でレーン3〜6)に比べて硫酸デキストランを含む培地内には92%を超える第VIII因子(図1−(D)でレーン2)が完全に残っていた。これは全ての硫酸化多糖類が全ての標的タンパク質を保護することができず、いくつかの硫酸化多糖類の保護効果は標的タンパク質に非常に特異的であることを示している。
【0027】
実施例2
I2GdBNの切断に対する硫酸デキストランの分子量の効果
より少ない分子量の硫酸デキストランを適用して前記切断を保護することができれば、より少ない分子量の硫酸デキストランをそのサイズの差に根拠して第VIII因子からより容易に分離することができる。従って、より少ない分子量の硫酸デキストランが細胞培養中に発現されたI2GdBNの切断を保護することができるかを調べるために、同一含量の硫黄を有し、同一の供給源から起源する8kDa、10kDa及び500kDaの硫酸デキストランを100mg/L、200mg/L、400mg/L、及び1000mg/Lの多様な濃度で前記培地に加えた。硫酸デキストランを添加して72時間後、培養培地を収穫し、ウエスタンブロット分析により分析した。図2に示されるように、低分子量の硫酸デキストランの量を増加させて(図2でレーン1〜レーン8)、細胞培養培地に添加したが、I2GdBN切断に対する効率的な保護効果が全く観察されなかった。500kDaの硫酸デキストラン(レーン9〜レーン12)のみが単一鎖I2GdBNの断片化を保護することが分かった。
【0028】
実施例3
硫酸化デキストランのみが切断を保護することができる。
硫酸デキストランの別途の官能基が切断抑制効果を有するかを調べるために、等モル量のデキストラン(500kDa)、硫酸ナトリウム及び硫酸デキストラン(500kDa)を培養培地に加えた。細胞を前記のように分株した。分株24時間後、250mg/L乃至1000mg/L範囲の様々な濃度の硫酸デキストラン(500kDa)及びデキストラン(500kDa)又は71g/L乃至384g/L範囲の様々な濃度の硫酸ナトリウムを前記培地に加えた。添加48時間後、培地を各々のウェルから回収し、ウエスタンブロット分析により分析した。図3に示したように、500kDaの硫酸デキストラン(レーン5〜レーン7)のみがI2GdBNの切断に対して保護効果を示した。デキストラン単独(レーン2〜レーン4)や硫酸ナトリウム(レーン8〜レーン10)は全てCHO培養途中に放出されたプロテアーゼのプロテアーゼ活性を抑制できないことが分かった。
デキストランや硫酸ナトリウムのみを含む培養培地のフラグメンテーションパターンは添加剤がない培養培地(対照群、レーン1)の場合と類似していた。
【0029】
実施例4
懸濁培養に対する硫酸デキストランの適用
硫酸デキストラン(500kDa)をかん流培養システムに適用した。1本のバイアルの細胞を解凍し、T75フラスコで細胞数を増大させ、T125フラスコで更に増大させた。T125フラスコ中の細胞を250mL、1L及び3Lスピナーフラスコに連続的に移し、100rpmの回転速度で5%のCO2/空気混合物下に37℃で磁気攪拌器プレート上で懸濁培養状態で培養させた。3Lスピナーフラスコの中で幾何級数的に成長する細胞を回収し、5Lの可動範囲を有する7.5L生物反応器に接種した。硫酸デキストラン(500kDa)を前記生物反応器中の無血清培地に200mg/Lの濃度で加えた。
培養かん流の間、細胞生存率が92.7%以上で維持され、培養過程の間、ウエスタンブロットでの各バンドの密度測定分析より判断したとき、第VIII因子の断片は5%未満で検出された。6日、12日及び18日目に回収した培養培地の例示的なウエスタンブロットを図4に示す。
【0030】
実施例5
免疫親和性クロマトグラフィーによる培養培地からI2GdBNの精製
硫酸デキストランの強い陰電荷特長により、硫酸デキストランが補充された培養培地で分泌された第VIII因子を精製するのにイオン交換クロマトグラフィーを適用することができない。したがって、実施例4で精製された培養培地を接線流限外ろ過により濃縮させ、平行緩衝剤(20mMのTris−HCl[pH7.0]、400mM NaCl、5mLCaCl2、3mM EDTA)であらかじめ平衡化させた免疫親和性カラムに加えた。免疫親和性カラムを第VIII因子重鎖のA2部位を認識する単クローン抗第VIII因子をCNBr−活性化されたセファロースに結合させることで製造した。第VIII因子−結合された免疫親和性カラムを2.5層体積の平衡緩衝剤及び2.5層体積の洗浄緩衝剤(20mMのTris−HCl[pH7.0]、400mM NaCl、5mLCaCl2、3mM EDTA、10%エチレングリコール)で洗浄した。40〜60%範囲の濃度でエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤を使用して段階的勾配溶出で溶出を行った。12個の溶出分画中9個(図5でE1〜E9に相当する溶出分画1〜9番)をサンプリングし、7.5%のSDS−PAGEに適用し、クマシーブリリアントブルーR250染料で染色した。図5で例示したように、前記培養培地の単一段階の精製のみでも95%を超過する非常に純粋な単一鎖第VIII因子を提供した。
【0031】
本発明は、また、以下の態様であり得る。
〔1〕 培養培地中にFVIII又はFVIII誘導体をコードするcDNAを含有する発現DNAベクターで形質転換された哺乳類宿主細胞から組み換え第VIII因子を生産し、前記第VIII因子を固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する方法であって、(a)前記哺乳類宿主細胞を硫酸デキストランが補充された培養培地で培養し、
(b)限外ろ過を通して前記第VIII因子を含有する培養培地を濃縮し、
(c)前記第VIII因子を免疫学的方法により前記濃縮された培養培地から精製すること
を含む方法。
〔2〕 前記硫酸デキストランの平均分子量が20乃至5,000kDaである、〔1〕記載の方法。
〔3〕 前記培養培地中の前記硫酸化多糖類の量が10mg/L乃至2g/Lである、〔1〕記載の方法。
〔4〕 前記培養培地が動物性タンパク質を含まない培地である、〔1〕記載の方法。
〔5〕 前記哺乳類宿主細胞がCHO、BHK及びCOS細胞である、〔1〕記載の方法。
〔6〕 前記免疫学的方法が免疫沈降又は免疫親和性クロマトグラフィーである、〔1〕記載の方法。
〔7〕 前記クロマトグラフィーが、
(a)抗第VIII因子特異抗体が結合されたアガロース及びセファロースを含む固相支持体で充填されたカラム、及び
(b)前記抗体が結合された固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤
を含む、〔6〕記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5