特許第6351710号(P6351710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6351710電気又はハイブリッド車両のバッテリの温度を管理する方法
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  • 特許6351710-電気又はハイブリッド車両のバッテリの温度を管理する方法 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351710
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】電気又はハイブリッド車両のバッテリの温度を管理する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/633 20140101AFI20180625BHJP
   B60K 11/02 20060101ALI20180625BHJP
   B60K 1/04 20060101ALI20180625BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20180625BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20180625BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20180625BHJP
   H01M 10/617 20140101ALI20180625BHJP
【FI】
   H01M10/633ZHV
   B60K11/02
   B60K1/04 Z
   H01M10/625
   H01M10/613
   H01M10/615
   H01M10/617
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-511113(P2016-511113)
(86)(22)【出願日】2014年4月24日
(65)【公表番号】特表2016-524783(P2016-524783A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】FR2014050996
(87)【国際公開番号】WO2014177793
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2017年4月20日
(31)【優先権主張番号】1354015
(32)【優先日】2013年4月30日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マルシャル, カロリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ルクルヴール, フィリップ
【審査官】 小池 堂夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−145213(JP,A)
【文献】 特開2001−258172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52−10/667
B60K 1/04
B60K 11/02
B60W 10/26
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気又はハイブリッド車両のバッテリの温度を管理する方法であって、
‐ 前記バッテリの冷却又は加熱の開始温度の値(Ts)をメモリに記録するステップ
を含み、
前記方法は、前記バッテリの充電状態の予め定められたシーケンス中の2つの連続する値(SOC(i)、SOC(i−x))に対して、
‐ 前記バッテリの温度の実際の勾配の値((dT/dSOC)_real)を前記バッテリの温度の基準勾配((dT/dSOC)_target)と比較する比較ステップと、
‐ 前記比較ステップの結果に基づいて、
・ 前記バッテリの冷却又は加熱の開始温度の値(Ts)、又は
・ 前記バッテリの冷却手段又は加熱手段の伝達パワーの値
を修正するステップと、
‐ 前記バッテリの充電状態の前記予め定められたシーケンス中の、後続する2つの連続する値(SOC(i−x)、SOC(i−2x))に対して、修正された開始温度の値(Ts)又は修正された伝達パワーの値を適用するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
初期化ステップを更に含み、前記初期化ステップにおいて、最初の基準勾配(dT/dSOC)_targetの値が、前記車両に搭載されたマップの中に予め記憶される、又は下記式で決められる、請求項1に記載の方法。


式中、
‐ Tmaximum_before_deratingは、前記バッテリの最高使用温度であって、放電又は回生制動のパワーの許容限度に対応しており、前記最高使用温度を超えると利用可能なパワーが低下する。
‐ Tinitialは、前記初期化ステップの実行時の前記バッテリの温度である。
‐ SOCinitialは、前記初期化ステップの実行時の前記バッテリの充電状態である。
‐ SOCend_of_dischargeは、放電の終了又は前記バッテリによって利用可能な最小充電状態に対応する前記バッテリの充電状態である。
【請求項3】
充電状態の値(SOC(i))について基準勾配の値(dT/dSOC)(i)_targetを、下記式によって定めることを含むステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。


式中、
‐ Tmaximum_before_deratingは、前記バッテリの最高使用温度であって、放電又は回生制動のパワーの許容限度に対応しており、前記最高使用温度を超えると利用可能なパワーが低下する。
‐ TSOC(i)は、充電状態SOC(i)において測定された前記バッテリの温度の値である。
‐ SOCend_of_dischargeは、放電の終了又は前記バッテリによって利用可能な最小充電状態に対応する前記バッテリの充電状態である。
【請求項4】
前記比較ステップは、前記バッテリの充電状態の前記予め定められたシーケンス中の、前記2つの連続する値(SOC(i)、SOC(i−x))の間における、前記実際の勾配(dT/dSOC)_realと前記基準勾配(dT/dSOC)_targetとの間の差の絶対値Eの計算を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
運転タイプすなわち運転者の運転の仕方を判定するステップを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
‐ E>0の場合、前記運転タイプは、荒いと判定され、
‐ E<0の場合、前記運転タイプは、正常又は穏やかであると判定される、
請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記運転タイプが荒い場合、
前記バッテリの充電状態の予め定められたシーケンス中の、2つの連続する値(SOC(i)、SOC(i−x))に対して記録された前記開始温度の値(Ts)を低下させ、
前記バッテリの充電状態の前記予め定められたシーケンス中の、後続する2つの連続する値(SOC(i−x)、SOC(i−2x))に対して、前記開始温度の低下させた値(Ts)を適用するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記開始温度の低下させた値(Tnew client trigger threshold)は、下記式によって計算される、請求項7に記載の方法。


式中、項Kpは、一定の項である。
old client trigger thresholdは、低下させる前の前記開始温度の値である。
【請求項9】
前記バッテリの冷却が遅れて開始されるように、録された閾値温度の値Told trigger thresholdを上昇させるステップを含む、請求項4から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
コンピュータでプログラムが実行されるとき、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法の各ステップが実行されるためのプログラムコード命令を含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車両、詳細には、再充電可能な電気又はハイブリッド車両(プラグインハイブリッド電気車両PHEV)用のバッテリの熱調節の分野に関し、バッテリは、通常は従来の電気ネットワークに接続された様々なタイプの充電ポイントで外部エネルギー源に接続することによって、充電可能である。
【背景技術】
【0002】
このタイプの車両にとって、バッテリの性能は、その使用温度に対して非常に敏感である。バッテリの使用温度は、外部温度に依存するだけでなく、例えば、運転者の運転などの他のパラメータにも依存する。
【0003】
低温では、バッテリは弱い。換言すると、充電フェーズの間、前記バッテリの充電時間が長く、充電するエネルギーが少ない。そして、放電フェーズの間、バッテリの自律性が低く、前記バッテリの性能が低下する(この場合、バッテリは、回生制動時に、特に低いパワー吸収能力を示す)。
【0004】
高温では、バッテリは、低温時と比べて改善された性能を示す(充電時間の改善、貯蔵エネルギーの増加、エネルギー回収の改善)が、寿命にとってよくなく、寿命が短くなる。
【0005】
それ故、最適な動作ゾーンでバッテリを使用することができるためには、熱の移動、すなわち、バッテリの熱特性を管理することが重要である。
【0006】
バッテリの熱特性を管理するために、現行の従来技術の解決法は、冷却/加熱の開始と終了のための、時間的に一定の温度閾値を用いることからなる。例えば、冷却は、28℃より高いバッテリの温度に基づいて開始されることができ、この冷却は、バッテリの温度が15℃に達するとすぐに終了することができる。
【0007】
文献US6624615もまた知られており、電気車両のバッテリの温度を管理する方法を開示し、本方法では、バッテリを冷却することが必要か、加熱することが必要かを判定することを可能にする温度閾値が、その充電状態とともに変化する。この解決法の問題は、閾値が時間的に一定である、すなわち、運転の仕方とは独立であるということである。その結果、閾値は、運転者が穏やかな運転の仕方を採用する場合には、過剰消費をもたらし、運転者が荒い運転の仕方を採用する場合には、過熱をもたらし得る。
【発明の概要】
【0008】
より正確には、本発明は、第一に、電気又はハイブリッド車両のバッテリの温度を管理する方法に関し、
‐ バッテリの冷却又は加熱の開始温度の値(Ts)をメモリ内に記録するステップ
を含む。
【0009】
本方法は、バッテリの充電状態の予め定められたシーケンス中の、2つの連続する値(SOC(i)、SOC(i−x))について、
‐ バッテリ温度の実際の勾配((dT/dSOC)_real)の値をバッテリ温度の基準勾配((dT/dSOC)_target)と比較するステップと、
‐ 比較のステップの結果に応じて、
・ バッテリの冷却又は加熱の開始温度の値(Ts)、又は
・ バッテリを冷却又は加熱する手段の伝達パワーの値
を修正するステップと、
を含むことと、
‐ バッテリの充電状態の予め定められたシーケンス中の、後続する2つの連続する値(SOC(i−x)、SOC(i−2x))に対して、修正された開始温度の値(Ts)又は修正された伝達パワーの値を適用することを含むステップ
を含むことにおいて、本質的に特徴付けられる。
【0010】
一つの実施形態において、初期化のステップが更に提供され、本ステップにおいて、最初の基準勾配(dT/dSOC)_targetの値が、車両に搭載されたマップに事前に格納されるか、又は以下のように決められる。


ここで、
‐ Tmaximum_before_derating それを超えると利用可能なパワーが減少する、放電又は回生制動のパワーの許容可能な限度に対応する、バッテリの使用最高温度、
‐ Tinitial 初期化のステップの実行時のバッテリの温度、
‐ SOCinitial 初期化のステップの実行時のバッテリの充電状態、及び
‐ SOCend_of_discharge 放電の終了又はバッテリによって利用可能な最小充電状態に対応するバッテリの充電状態。
【0011】
一つの実施形態において、充電状態の値(SOC(i))に対して、以下の式によって与えられる、基準勾配の値(dT/dSOC)(i)_targetを定めることを含むステップが提供される。


ここで、
‐ Tmaximum_before_derating それを超えると利用可能なパワーが減少する、放電又は回生制動のパワーの許容可能な限度に対応する、バッテリの使用最高温度、
‐ TSOC(i) 充電状態SOC(i)において測定されたバッテリ温度の値、
‐ SOCend_of_discharge 放電の終了又はバッテリによって利用可能な最小充電状態に対応するバッテリの充電状態。
【0012】
一つの実施形態において、比較のステップは、バッテリの充電状態の予め定められたシーケンス中の、前記連続する値(SOC(i)、SOC(i−x))の間での、勾配(dT/dSOC)_realと基準勾配(dT/dSOC)_targetの間の絶対値での差Eの計算を含む。
【0013】
一つの実施形態において、運転タイプすなわち運転者の運転の仕方を判定することを含むステップが提供される。
【0014】
一つの実施形態において、
‐ E>0の場合、運転タイプは、荒いと見なされ、
‐ E<0の場合、運転タイプは、正常又は穏やかであると見なされる。
【0015】
一つの実施形態において、運転タイプが荒いと見なされる場合、
バッテリの充電状態の予め定められたシーケンス中の、2つの連続する値(SOC(i)、SOC(i−x))について記録された開始閾値温度の値(Ts)を低下させること、及び
バッテリの充電状態の予め定められたシーケンス中の、後続する2つの連続する値(SOC(i−x)、SOC(i−2x))に対して、低下した開始温度の値(Ts)を適用すること
を含むステップが提供される。
【0016】
一つの実施形態において、低下した開始温度の値(Tnew client trigger threshold)は、以下の式に従って計算される。


ここで、項Kpは、一定の項であり、
old client trigger thresholdは、低下前の開始温度の値である。
【0017】
一つの実施形態において、記録される閾値温度の値Told trigger thresholdを上昇させて、バッテリの冷却の開始を遅らせることを含むステップが、提供される。
【0018】
本発明はまた、本発明による方法のステップの実行のためのプログラムコード命令を含むコンピュータプログラムに関し、前記プログラムは、コンピュータ上で実行される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の更なる特徴及び利点が、以下の説明を読むと、より明らかになるであろう。以下の説明は、単一の図を参照して、非限定的及び例示的な例によってなされる。
図1】バッテリの充電状態に依存した、バッテリの温度の変化並びに目標勾配と実際の勾配の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
簡潔さのため、「自動車両」という言葉は、任意の電気自動車両又はハイブリッド自動車両を意味する。
【0021】
各自動車両は、少なくとも一つのバッテリを含み、以後、「一つの(une)」又は「その(la)」バッテリとする。
【0022】
各自動車両は、バッテリを冷却又は加熱するための手段を含み、以後、「熱システム」とする。
【0023】
バッテリの充電状態SOCは、通常、充電の百分率で表され、100%は、能力の最大まで充電されたバッテリに対応し、0%は、放電されたバッテリに対応する。
【0024】
本明細書で提示される自動車両のバッテリの温度の管理において、
‐ 熱システムによるバッテリの冷却又は加熱が開始される温度Ts、又は
‐ 熱システムによって、例えば、通気の流れ又は温度によって伝達されるパワー
を調整することが、目指される。
【0025】
開始閾値温度Tsが、メモリ内に記録される。バッテリの実際の温度が、この閾値温度Tsを横切るときに、バッテリの冷却又は加熱が開始される。
【0026】
これらの開始温度の値Ts又は伝達パワーの値を最適化し、その結果、バッテリの動作と寿命を最適化するために、基準勾配又は目標勾配(dT/dSOC)_targetを参照して、以下に記載されるステップが、提供され、基準勾配の値は、可変であり、好ましくは車両に搭載されたメモリ内に記録される。ここで、
Tは、バッテリの温度であり、
dTは、バッテリの温度の変化であり、
SOCは、バッテリの充電の状態であり、
dSOCは、バッテリの充電の状態の変化である。
【0027】
初期化
本方法の初期化時において、例えば、車両が始動されるときに、基準勾配の値(dT/dSOC)_targetが、マップとして前もって車両に搭載されて提供されうる。その値は、様々なパラメータ、例えば、外部温度、車両の使用国、地形、初期化時のバッテリの温度と充電状態、等に依存しうる。
【0028】
最初の基準勾配(dT/dSOC)_targetは、以下の方法で初期化時に決めることもできる。


ここで、
‐ Tmaximum_before_derating それを超えると利用可能なパワーが減少する、放電(及び/又は回生制動)の許容可能な限度に対応する、バッテリの使用最高温度、
‐ Tinitial 初期化のステップの実行時のバッテリの温度、
‐ SOCinitial 初期化のステップの実行時のバッテリの充電状態、
‐ SOCend_of_discharge 放電の終了に対応するバッテリの充電状態(バッテリによって使用可能な最小の充電の状態)。
【0029】
単一の図において、最初の目標勾配は、最初の温度の測定点Tinitialと最大温度Tmaximum_before_deratingを結ぶ線である。
【0030】
動作
動作中、バッテリの温度Tが測定され、バッテリの温度の変化dTが、その充電状態の変化dSOCに基づいて確定される。実際の勾配(dT/dSOC)_realが、そのとき、確定される。
【0031】
バッテリの温度は、通常、バッテリの中に組込まれた少なくとも一つのセンサのアセンブリによって測定される。バッテリの充電状態SOCは、当業者に既知の手段によって、常に知られている。
【0032】
実際の勾配が基準勾配よりも大きいことが検出されるとすぐに、バッテリが冷却されてもよい。
【0033】
開始温度の値又は加熱/冷却手段によって伝達されるパワーの値が、以下に記載のように修正される、中間ステップが、実行されてもよい。
【0034】
既定の充電状態の値SOCのシーケンスが、定められる:SOC(i)、SOC(i−x)、SOC(i−2x)、…、SOC(i−Nx);xは、好ましくは一定である、ステップの値を定め、Nは自然数を定める。
【0035】
例えば、ステップxは、5%から15%の間であり、この場合には、10%である。バッテリの温度は、各ステップでの最小値、すなわち、既定のシーケンスの各値SOC(i)の最小値で、又は連続的に測定される。
【0036】
初期化時に、上記の式(1)を参照のこと:
SOC(i)=SOCinitialは、100%以下であり、本事例では、単一の図において50%である。
【0037】
最大で、Nの値は、
SOC(i−Nx)=SOCend_of_discharge、例えば0%、となるように選択される。
【0038】
動作中、所定の充電状態の値SOC(i)、少なくとも、シーケンス、SOC(i)、SOC(i−x)、SOC(i−2x)、…、SOC(i−Nx)の各値について、バッテリ温度の値T(i)が、メモリ内に記録される。
【0039】
ステップxの、直接に連続する2つの充電状態の値:[SOC(i);SOC(i−x)]、[SOC(i−x);SOC(i−2x)]、等が、サイクルCを定義する。
【0040】
その後、SOC(i)とSOC(i−x)の間の所定のサイクルC(i;i−x)について、
実際の温度差
dT_real=T(i−x)−T(i)
を計算し、実際の充電状態の差
dSOC_real=SOC(i−x)−SOC(i)
を計算することが可能である。
【0041】
実際の勾配(dT/dSOC)_real=dT_real/dSOC_realが、その後、コンピュータによって計算され得る。
【0042】
コンピュータのおかげで、その後、下記のように、勾配(dT/dSOC)_realを基準勾配(dT/dSOC)_targetと比較し、運転タイプを判定することが可能である。
【0043】
その後、充電状態の所定の値SOC(i)について、基準勾配の値(dT/dSOC)_targetが、インデックス(i)によってインデックス付けられ、(dT/dSOC)(i)_targetと書かれることができ、その値は、式(1)を参照して、以下の式によって与えられる。

【0044】
基準勾配の値(dT/dSOC)(i)_targetは、SOC(i)からSOC(i−x)の間の所定のサイクルC(i;i−x)の任意の瞬間で、好ましくはサイクルの開始において、計算されることができる。
【0045】
基準勾配の値(dT/dSOC)(i)_targetは可変であり、各サイクルで計算され、実際の状況に最も近い運転タイプを判定することが可能になる。
【0046】
単一の図において、実際の勾配である「実際の勾配[40%;50%]」が、測定温度が最初の温度Tinitialである充電状態50%から、測定温度が温度T_40%である充電状態40%の間の破線で示される。
【0047】
同様に、実際の勾配である「実際の勾配[30%;40%]」が、測定温度が最初の温度T_30%である充電状態30%から、測定温度が温度T_40%である充電状態40%の間の破線で示される。
【0048】
目標勾配である「目標勾配[30%;40%]」が、最初の温度T_40%の測定点と最大温度Tmaximum_before_deratingを結ぶ線で示される。
【0049】
運転タイプの判定
初期化後の最初のサイクルを除く可能性はあるが、好ましくは各サイクルで、運転タイプ又は運転者の運転の仕方を判定することからなる学習のステップが提供される。
【0050】
勾配(dT/dSOC)_realを、同じサイクルの基準勾配(dT/dSOC)_targetと比較するステップが、初期化後に、少なくとも一つのサイクルについて、好ましくは各サイクルで、実行される。
【0051】
本事例では、比較のステップは、勾配(dT/dSOC)_realと、同じサイクルの基準勾配(dT/dSOC)_targetの間の、絶対値での差Eの計算を含む。読みやすさの改善のために、インデックス(i)を無視し、差Eを、以下のように書くことができる。
E=ABS[(dT/dSOC)_real]−ABS[(dT/dSOC)_target]
ABSは、絶対値である。
【0052】
Eの数学的符号に応じて、運転タイプ又は運転者の運転の仕方を判定することができる。本事例では、
‐ E>0の場合、運転タイプは、荒いと見なされ、
‐ E<0の場合、運転タイプは、正常又は穏やかであると見なされる。
【0053】
荒い運転
荒い運転の場合には、以下の2つの構成のうちの少なくとも一つが提供されうる。
【0054】
第一の構成では、バッテリを冷却するための手段のパワーが、調節される。この第一の構成では、レギュレータは、PIDであってもよい。
【0055】
第二の構成では、バッテリの加熱/冷却が開始される閾値温度が、調節される。
【0056】
この第二の構成では、開始閾値温度の値が、次のサイクルに対して、通常、下げられ、バッテリの冷却が、早く開始される。
【0057】
例えば、所定のサイクルC(i;i−x)に対して記録された開始閾値温度の値が、1℃から5℃の間のある値だけ、通常は2℃又は3℃だけ下げられ、次のサイクルC(i−x;i−2x)に対して記録され用いられる新しい開始閾値温度の値が得られる。開始閾値温度の値が下げられる値が、メモリ内に記録されることができ、この値は、一定であってもよいし、又は可変であって、ある数のパラメータに依存してもよい。
【0058】
この第二の構成において、レギュレータは、以下のように動作し得る。
【0059】
バッテリの目標温度の変化を決定する式が、以下のように定義される。


ここで、
‐ Ttargetは、目標勾配に対応するバッテリの目標温度であり、すなわち、所定のサイクルC(i;i−x)に対する、目標勾配の温度T(i−x)の値である。単一の図を参照のこと。
‐ Φexternalは、バッテリと周囲の空気の間で交換されるパワーを指す。
‐ hS(Tcoolant−Ttarget)は、冷却システムと関連付けられる対流項を指す。バッテリの温度T_targetが、冷却が開始される閾値温度より低い場合、すなわち、バッテリの冷却が作用していない場合、この項はゼロである。
‐ Tcoolantは、冷却システムの冷却流体の温度を指す。
‐ RItheoreticalは、バッテリ内での理論的な熱の発生に関する項を指す。
‐ MCpは、バッテリの慣性項を指す。
【0060】
実際の条件において、バッテリの温度を決定する式は、以下の通りである。


ここで、式(1)と比べて、
‐ Trealは、測定温度であり、
‐ RIrealは、バッテリ内での実際の熱の発生に関する項である。
【0061】
(目標行動と比べた運転者の行動の荒さに対応する)項ΔRIRIreal−RItheoreticalが、項hS・(Told trigger threshold−Tnew client trigger threshold)によって相殺されると仮定して、式(1)と式(2)を結び付けて、次式を示すことができる。


ここで
‐ Tnew client trigger thresholdは、所定のサイクルにおける閾値温度Tsの値であり、
‐ Told trigger thresholdは、前のサイクルにおける閾値温度Tsの値である。
【0062】
以前に


によって定義された項Eを式(3)の中に導入することによって、次式を導くことができる。

【0063】
開始閾値温度Tsの調整は、冷却の流れを変えないと仮定して、対流係数hが一定であると考えることができる。これらの条件の下で、式(4)は、以下のように書かれる。

【0064】
項Kpは、レギュレータを調節することを可能にする定数の項を指す。
【0065】
単一の図において、目標温度「Ttarget_30%」は、30%の充電状態における目標勾配「目標勾配[30%;40%]」の値を示す。同様に、目標温度「Ttarget_40%」は、40%の充電状態における、目標勾配「目標勾配[40%;50%]」、本事例では「最初の目標勾配」、の値である。
【0066】
穏やかな運転
正常な又は穏やかな運転の場合、バッテリの冷却が開始される閾値温度Told trigger thresholdを調整することと調和した構成が、提供される。
【0067】
この構成では、記録される閾値温度Told trigger thresholdの値が上げられ、バッテリの冷却が遅く開始される。例えば、閾値温度の値が、1℃から5℃の間のある値だけ、通常は2℃だけ、上げられ、新しい閾値温度Tnew client trigger thresholdが得られる。このように修正された閾値温度の値Tnew client trigger thresholdが、次のサイクルで用いられる。
【0068】
運転タイプが判定されると、レギュレータは、
バッテリの冷却又は加熱が開始される温度、又は
バッテリを冷却又は加熱するための手段によって、例えば通気の流れ又は温度によって、伝達されるパワー、を制御又は調節することを可能にする。
【0069】
所定のサイクルC(i;i−x)について決定された開始温度Ts又は伝達パワーの値が、次のサイクルC(i−x;i−2x)に適用される。
【0070】
自動車両が動作している間、前記車両のモータが停止されるまで、学習のステップが、繰り返し各サイクルで実行されることができる。
【0071】
基準勾配(dT/dSOC)_targetが、各サイクルで計算されるので、自動車両のバッテリの温度の管理が、各運転者に対して、及び前記運転者の運転条件に対して適合される。
【0072】
本発明のおかげで、バッテリの冷却が開始される閾値を修正し、運転者の実際の運転行動に適合させることが可能になる。
【0073】
式(1)と式(2)は最大値Tmaximum_before_deratingを参照することに、気づくであろう。あるいは、最大温度Tmaxとして、差のある温度であって、その値が予め決められ、Tmaximum_before_deratingに対して一定である温度を選択することができる。
例えば、Tmax=Tmaximum_before_derating−T_secure
ここで、T_secure=1°C又は2°C
【0074】
最後に、回生制動システムは省略されうるということが、わかるであろう。
図1